妄想日和 01

※導入は多少真面目に書いてますが、後半からたぶん適当になります。


人物紹介
・リク
主人公。サイズフェチ(縮小願望、特に相手男)。ふとした拍子に妄想してしまう。大学生。

・ヒロ
リクの幼馴染。妄想再現マシンを作る。本名はヒロト。大学生。




 夏。扇風機の風を浴びつつアイスを頬張る。じたじたとしていて暑い。
 そんな暑さの中、俺は少し前に見た光景を思い出していた。


 幼馴染で友人のヒロと飯を食いにいったときの話だ。注文を済ませ少ししたくらいだろうか、少しチャラめの男子がやってきて、近くの席に座った。歳は俺達と同じか、少しだけ幼いくらいだろうか。軽装で足元は薄めのサンダル。注文を済ませるとやることがないのか、スマホを弄りながらサンダルを履いた足を組み、ブラブラと揺らし始めた。
 俺はドキッとした。もし小さくなってあの揺らされているサンダルの中にいたら、なすがままにされて楽しそうだ……と。というのも、俺はサイズフェチというフェチである。特に、小さくなってカッコイイ系の男にアレコレされたい、というニッチなフェチだ。10年くらい前に目覚めてから、つい妄想をしてしまうのだ。


 そうやって思い出に浸っていると、ヒロから連絡が来た。暇かどうか聞いてきたので、暇だと返すと、見せたいものがあるから家に来てほしいと送られてきた。アイツが俺を家に呼ぶなんて珍しいな、と思いつつ俺はヒロの家に向かった。

 「来たね。早速だけどこれを被って欲しい」
 到着早々、俺はヒロから帽子のようなものを手渡された。
 「帽子か?」
 「見た目はね。少し試したいことがあるから、椅子に座ってこの前ご飯を食べに行った時の事を思い浮かべて」
 言われた通りに椅子に座り、思い浮かべる。ヒロが何を試したいのかは不明だが、付き合うことにした。
 少しすると、視界がぼやけてきた。それに、眠い。意識がぼんやりしている、とでも言えばいいのか……?
 薄れ行く意識の中、ヒロの「楽しんできてね」という声が最後に聞こえた。



 「う、うーん……」
 段々とぼんやりとしていた意識が戻り、目を開ける。そして、驚愕した。
 目の前には、トラックよりも巨大な、サンダルを履いた足と思われる物体が存在していた。
 周りを見渡すと、椅子やテーブルの脚がビルのようにあちらこちらに存在している。雰囲気から、これは思い浮かべてと言われた、飯を食いにいった時の店だろうとわかった。つまり、この巨大な足は、俺が妄想していたあの……?
 はやる気持ちを抑え、巨大な足にゆっくりと近づき、観察してみる。1mくらいはありそうなサンダルの上に、更に大きな足が鎮座している。歩いて汗をかいているのか、酸っぱい臭いが漂ってくる。時折、指と指をこするように上下させている。指の間にたまっている臭いが出てくるためか、より臭いがきつくなる

 俺は覚悟を決めて、右のサンダルに手をかけ、よじ登った。薄型のサンダルでなかったら、登ることさえ出来なかったかもしれない。
 「す、すっげぇ……」
 俺は思わず感嘆の声を漏らした。眼前に広がる、五本の指。そのどれもが意思を持った生物のように動き、ガシガシという音を響かせながら擦れ合い、刺激臭を醸し出す。あのちょいチャラい系男子の足から、こんな臭いがするのか……

 少しすると、指の動きが止まり、体に強い重力がかかった。あまりの力に俺はサンダルの地面に叩きつけられた。
 うつ伏せの状態から顔だけを上げて周りの様子を伺う。正面には指が少し持ち上がった状態で存在しており、横を見ると風景が少しずつ流れていくのが見えた。つまり、足が持ち上げられているのだ。

 数秒もすると体にかかる力も弱まり、どうにか動けるようになった。足を軽く組んでいるのか、小指側に向かって少し地面が傾いている。
 俺は落ちないように四つん這いになり、小指のほうへと向かった。そこから下を見下ろすと、さっきまでいた床が随分と遠くに見えた。20mは軽くあるだろう。この高さから見ると、巨大な生命体にしか見えなかった足も、見慣れた姿に見える。すぐ側にある肌色の怪物と同じとは、到底思えなかった。

 上から見る絶景に満足して元いた場所に戻ろうとした際、大きな揺れに襲われた。俺は転がされ、壁に体を打ち付けた。
 サンダルに壁……?と不思議に思い後ろを振り替えると、壁ではなくサンダルの紐だった。後少しずれていたら、数十mの高さから落ちていたかもしれない。
 その恐怖に体を震わせつつ、改めて周りを見渡すと、巨大な足があるべき場所に存在していなかった。そこには指の形をした汗染みだけが残されていた。上を見ると、サンダルの紐に指先が引っかけられている。今、俺の立っている地面は、あの男子の指先だけで支えられている。その証拠に、動かしたばかりのサンダルはまだ少し揺れており、指が擦れ合うとそのわずかな動きがサンダルに伝わり、より揺れが大きくなる。

 時折揺れるサンダルの上、俺はより汗染みが多そうな親指部分へと歩き出した。指があった部分は黒く変色しており、汗が残っているのか上を歩くとびちゃっという音がする。履いている靴下がその汗をダイレクトに吸い、ぐちゃぐちゃになる。
 俺は靴下を途中で脱ぎ捨て、更に進む。親指部分に近づくにつれ、汗染みはより黒く、大きくなっていった。

 親指部分にたどり着いた俺は、その大きさに息を飲んだ。2m四方はありそうかというその汗染みは、指にかかる体重で少しへこんでおり、黒く変色したその部分にたまる汗は、さながら池の水のようだった。なんとなく興味の沸いた俺は、その「池」に顔を近づけ、臭いを嗅いだ。
 ……くっせぇ!直感でそう感じた。鼻が曲がるというのは、こういうことをいうのかもしれない。汗とサンダルの臭いが混ざり合ったそれは、俺が小さくなっているせいもあるかもしれないが、今まで生きてきた中で一番酷い臭いだった。あまりの悪臭に俺は興奮し、そしてこの「水」を飲んでみたい、という好奇心が沸いた。変態としか思われないだろうが、既に俺の理性は飛びかけていた。

 男子の指先で支えられた、男子のサンダルの上で、男子の汗染みにたまった汗を、四つん這いになって飲む俺……さながら、砂漠のオアシスを見つけたラクダのようだった。狂ったように汗を飲む俺。夢にまで見た空間での「水」は、俺の体内へと染み渡っていった。
 
 不意に大きな揺れに襲われ、俺は現実へと戻された。シーソーのように前後が上下に揺れ、俺はなすすべもなく前後に転がされる。きっと、暇になった男子が指に引っ掻けたサンダルをブラブラさせ始めたのだろう。まるで天変地異のようなこの状況も、彼の無意識な足の動きによって引き起こされているに過ぎない。
 以前遊園地で乗ったバイキングというアトラクションを思い出したが、このアトラクションでの船は男子のサンダルだし、アームはサンダルの紐で、エネルギーは右足だ。ただし、このアトラクションにはシートベルトはない。

 数分にも数十分にも感じられた天変地異が終わり、一息ついたのも束の間、巨大な足が突っ込んできたのである。サンダルを引っ掻けるのではなく履こうとしているのであろう。
 突き飛ばされる!……と覚悟していたが、指が持ち上がった状態であったため、衝突は回避する事ができた。なんとかサンダルと指の間から抜け出そうとしたものの、無情にも抱えきれないほどの大きさの指が落ちてきた。
 「グエェ!」
 巨大な親指の下敷きにされ、仰向けの状態で潰された俺は、絞り出すように声をあげた。サンダル自体はまだ床から離れているため体重はほぼかかっていないのだろうが、それでも俺の動きを封じるには十分すぎる重さだった。

 少しするとこの男子の癖なのか、指と指とを擦り始めた。だが先程と違うのは、指の下には俺がいるということ。上に乗っていた親指が離れていったかと思えば、ガシッという音を立てて他の指と擦れ、俺の元に落ちてくる。その度に俺は潰れた蛙のような声を発した。
 何度も何度もされるうちに俺は親指の汗に絡め取られ張り付き、サンダルの汗染みへと叩きつけられるようになった。指が擦れ合う音とサンダルに叩きつけられる音がリズミカルに繰り返された。

 急に、リズミカルな音が止まり、親指が持ち上げられたままになった。
 何が起きたのかとクラクラした頭で考えていると、足の指とは違う、肌色の柱が近づいてきた。
 これは……手の指?
 そう考えていると、肌色の柱は親指から俺を拭うようにスライドさせた後、弾いた。吹き飛ばされた、といったほうが実際の感覚には近かったが。親指に張り付いたゴミを不快に思った男子が、それを取り除いたのだ。
 ゴミとなった俺は、サンダルから飛び出し、そのまま落下していく。段々とサンダルが遠ざかっていき、その後、強烈な痛みと共に床に叩きつけられた。

 意識が朦朧とする中、男子が足を組むのをやめ、サンダルを履いた足をこちらに向かって下ろしてくるのが見えた。このままでは踏み潰されてしまいそうだが、痛みのせいで体が動きそうにない。
 見えていた空がテーブルからサンダルへと変わった。「空」が、段々と落ちてくる。サンダルには彼に踏まれたゴミが歩行により潰され、へばりついていた。それは、俺の末路を示していた。
 押し込められた空気が俺に容赦なく襲いかかる。その時はもう、すぐそこまで迫っていた。


 轟音。そして地響き。それを最後に俺の意識は途絶えた。



 気がつくと俺は、ヒロの家にいた。椅子に座り、帽子を被っている。
 「僕の作った『妄想再現マシン』、どうだった?」
 ヒロが、得意気な顔で俺に話しかけてくる。
 「さっきのは、夢なのか……」
 「一応ね。意識は飛ばしてるから、結構リアルだと思うよ?五感も飛ばしてるし」
 そういって、ヒロはマシンの説明を始めたのだった……

つづく?