妄想日和02

人物紹介
・リク
主人公。サイズフェチ(縮小願望、特に相手男)。ふとした拍子に妄想してしまう。大学生。

・ヒロ
リクの幼馴染。妄想再現マシンを作る。本名はヒロト。大学生。

・ソウタ
リクやヒロと同じ学科の男子学生。運動サークルに所属している。外側白、中敷き黒のクロックス。

・ショウ
リクやヒロと同じ学科の男子学生。運動サークルに所属している。上がオレンジ、下が灰色のクロックス。


 妄想再現マシン。ヒロが作ったこの装置は、強くイメージした光景を再現し、それを体験することができるという代物だった。あくまで再現であるため肉体的な影響はほぼないとのこと。
 詳しいメカニズムも説明してくれたのだが、落単スレスレ低空飛行の俺の頭では理解できなかった。


 「他になにか再現したい妄想はあるかい?」
 「サイズフェチかなぁ、やっぱ」
 「だろうね」
 ヒロは俺のこの嗜好を、理解はしてくれている。残念ながら共感を得られたことはないが。

 「ある程度前もって僕に伝えてくれれば、再現もしやすいと思うよ」
 「そうだな……」
 俺はヒロに促されるまま、今日の出来事を思い出し始めた。


 大学での講義中のこと。夏の暑さと内容のつまらなさとが相まって、大半の学生が講義を聞き流しスマホを弄っていた。
 俺もその一人だったが、スマホを弄るのにも飽きて周りを何気なく眺めた。そして、左斜め前の男子二人組に目が止まった。ソウタとショウだ。
 彼らとは同じ学科で、たまに会話をする。運動系のサークルに入っていて、結構忙しいのだとか。
 夏の暑さもあり、彼らはどちらもスポTにハーフパンツ、そしてクロックスというかなりの軽装だった。
 時折クロックスから足を出して、足をカーペットの床におくこともあれば、クロックスをあちこちに蹴飛ばしたり、上に足を乗せて潰したり、後ろの部分を突いて上下に動かしたりと、様々なことをしていた。

 それを見た俺は、小さくなってこの二人の動きに巻き込まれたら、すげぇだろうなぁ……と内心悶々としていた。


 といった内容をヒロに伝えると、苦笑しつつマシンを俺にセットし始めた。
 「リクさ、もしかしてサンダルフェチなんじゃないの?」
 「俺は多分なんでもいけるんじゃないか?ほら、夏と言えばサンダルじゃん」
 ヒロは、俺の返答に対して、納得したかどうかイマイチ分からない反応をし、装置のスイッチを押した。

 
 そして俺は、また妄想の世界へとダイブしていくのだった……



 足の裏が、フカフカとした柔らかい地面に立っていることを俺に伝える。
 前回のこともあり、俺は最初から靴下を履かず裸足である。

 目を開けると目の前には何もなく、左右にそれぞれのものと思われる巨大なクロックスと、そこから塔のように伸びる脚が存在していた。今俺は、二人の丁度真ん中にいるのだろう。
 俺はまず、ソウタの白いクロックスへと向かうことにした。側面にも穴が空いているタイプで、通気性が良さそうだ。といっても、普通の靴と比べればの話だが。

 ソウタの足元に近づいたとき、突如として目の前に肌色の塊が落ちてきた。
 俺はその衝撃で尻餅をついた。どうやら、ソウタがクロックスを脱ぎ、そのまま床に足を降ろしたようだ。形から左足だろうと推察できた。
 床の感触が気持ちいいのか、指先を地面に擦るように動かしている。
 上を見上げると、うっすらと毛の生えた肌色のビルが、ハーフパンツに吸い込まれるようにそびえ立っていた。実際には左脚に過ぎないのだが。

 立ち上がり、再びクロックスを目指す。流石に足を登るのはキツいので、素直に回り道をする。踵付近まで来ると、クロックスの姿を確認する事ができた。
 左は足がなくなったことで、さながら洞窟のような存在感を放っており、右には右足が垂直に立っていた。本来あるはずの右足の踵止めは、何故か無くなっていた。
 あのクロックスに突き刺さる肌色の壁をもっと近くで見たい……そう思った俺は、ソウタの右足へと歩を進めた。

 「でっけぇ……」
 ソウタの右足のそばまでやって来た俺は、そう声を漏らした。ほぼ垂直でクロックスへと突き刺さっている、高さ20m超の肌色の壁。俺からすれば、車を何台もまとめてスクラップに出来そうなほどだが、これはソウタの右足の裏なのだ。
 時折、指を支えにして、足全体を反らしたり、伸ばしたりしている。その度に、風が俺へと吹いてくる。ソウタが足を逆側に反らした時には、俺の頭上スレスレを圧倒的な質量の物体が掠め、そのまま頭上へと居座った。正直、すごく怖かった……
 動かしている様子を頭が吹き飛ばされないよう気を付けながら覗くと、力がかかっている部分は白く色が変わり、シワが出来ていた。小人の視線では、どこか幻想的な光景に見えた。

 不意に肌色の壁が上に持ち上がり、右に少しずれたかと思うと、またもやクロックスへと突き刺さった。その衝撃で、クロックスの左側が一瞬浮く。親指だけが端に当たったために動いたのだろう。
 ソウタが片足を少し動かしただけで、目の前のトラックのようなクロックスが動く。ソウタと自分の圧倒的な力の差に興奮した俺は、入口が出来たクロックスへと登ろうとした。……のだが、かなり高い。俺の胸くらいの高さがある。
 そこで、クロックスへとジャンプし上半身を乗せると、脚をバタバタさせなんとか登ろうとした。
 いけるかどうかかなり怪しいラインだったがどうにか登ることに成功し、ぜぇぜぇと息を切らしながら立ち上がった。
 辺りを見渡すと、右にはソウタの右足がそびえ立っており、前を見ると洞窟のように暗い空間が存在していた。机の下にあるためか薄暗いが、歩けなくは無さそうだ。
 足元には凹凸が広がっている。ソウタにとっては気持ちのいい模様も、俺のサイズからすると段差だ。変な体勢で踏むと足を痛めるかもしれない。
 俺は足元に注意しつつ、洞窟の中へと歩いていった。

 天井がある辺りまで来ると、内部の方から熱気が漂い始めた。空気穴があり、空調が効いている室内といえども、長時間足を入れていると蒸れるのだろう。だからこそ、時たま脱いでは足を動かしているのだろう。
 その熱気に誘われるように、奥へ、奥へと進んでいく。この巨大な空間にソウタの足が収まるのかと思うと、少しドキドキした。

 もうそろそろ先端に着こうかというとき、地響きと共に地面が傾いた。転げ落ちないように踏ん張りながら、ちらっと後ろを振り向くと、踵の部分にソウタの右足が突き刺さっていた。そのせいで爪先部分が浮き、踵部分へと傾いていたのだ。
 急に傾きが収まり、俺は地面へと倒れ込む。体勢を整える暇もなく再び地面が傾き、体勢を崩したままの俺はそのまま踵の方へと転がっていった。

 ようやく止まったかと思い辺りを見渡すと、肌色の物体が俺を挟み込んでいた。どうやら、ソウタの右足の親指と人差し指の間に挟まっているようだった。
 ソウタも何かが挟まっていることに気が付いたようで、左右の壁が俺を締め付けてくる。全力を振り絞って抜け出そうとしたが、左右の壁はびくともしなかった。俺の全力は、ソウタの足の指にも敵わなかった。

 そうしているうちに、足が地面から離れた。足が地面につかないというのはかなり不安で、思わず足をじたばたさせる。何回かソウタの指に当たったが、全く気にしていないようだった。というより、気付かれていないのかもしれない。
 そのままソウタの右足は、いつの間にかもう1つのクロックスの踵部分に突き刺さっていた左足へと近づいていき、絡ませるようにして左足の甲の上に置かれた、
 斜めに置かれたため、俺がいる2本の指の間からは、すぐそばに左足の指が見えた。足の臭いが辺りに充満しており、思わず咳き込む。興奮しない訳でもないが、流石にこの臭いをずっと嗅がされるのは辛い。
 そう思っていると、重い音と共に、俺を挟んでいる右足が前後に動き始めた。動きから察するに、右足で左足をポリポリと掻いているのだろう。
 そんなソウタの行為に巻き込まれた俺は、自分という存在のちっぽけさを感じていた。世界が、ソウタに支配されていた。

 足の甲を掻くのに満足したのか、今度は足首を掻き始めた。先程とは違い、今度は上下へと動かされる。
 巨大な突起のような踝や、すらりと伸びるアキレス腱から、これが紛れもなくソウタの足であると再認識させられる。
 肌が擦れ合う度に振動が起こり、それと同時に発せられる摩擦音が、俺を苛んだ。

 やがて上下運動も収まり、俺はようやく休むことができるようになった。といっても、相変わらず左右からはソウタの指が俺を抑え込んでいる。
 遥か上からは、ショウと会話をするソウタの声が聞こえる。一人の小人を無意識に支配している巨人の声は、能天気で明るいものだった。

 不意に、振動と共に俺を挟み込んでいるソウタの右足が動き出す。向かっている先は、右足のクロックスのようだった。
 足首が動く。どうやらこのままクロックスを履くようだ。相変わらず両側の壁はびくともしない。洞窟の中に入り、先端に向かって進んでいく。そして、急に止まった。どうやら、履かれてしまったらしい。
 それだけなら良かったのだが、あろうことか両側の壁が俺を更に締め始めた。あまりの力に体が軋む。渾身の力を振り絞って暴れると、抑え込まれる力が少し緩んだ。かと思えば、再び力が込められ、痛みに言葉にならない声をあげる。
 そんな最中、外の世界から声が聞こえてきた。
 『なんか、俺の右足の指の間に虫が挟まってるっぽくて、締めると暴れて気持ちいいわ』
 『うわひっでぇ、お前のくっせぇ足の指で虐めてやるなよ』
 『緩急つけてやるといい感じに動いてくれるし』
 『Sだなー、虫の気持ちも考えてやれよー』
 『生憎、ソウタ様は虫けらの気持ちなんてわかりませーん』
 ソウタとショウの会話だ。どうやら、ソウタは俺のことを虫だと思っているらしい。言葉通り、2本の指が、一切の遠慮なく、緩急をつけて俺を苦しめる。何度も何度も繰り返されるうちに、俺は暴れるのを諦めていった。抵抗しても、ソウタの指には敵わないどころか、指の痒みをとるくらいの効果しかないと痛感させられたからだ。

 『なんか暴れる力弱まってきたなー』
 『そりゃそうだろ……まだ生きてるだけすげぇわ』
 『はーザッコ、じゃあもう用済みだし潰そ』
 そうソウタが言葉を放つと、俺はようやく指の間の牢獄から解放された。が、間髪入れずに親指にのし掛かられ、一瞬物凄い力が掛けられた。
 「ガハッ……」
 奇跡的に骨折はしなかったものの、全身が軋むように痛い。かなりの力で圧されたからか、そのまま親指に張り付いてしまう。
 ソウタはそれを嫌がったのか、クロックスが先端を下に傾き、ほぼ垂直になった。俺を支えているのは、汗ばんだソウタの親指だけだ。
 浮遊感の後、凄まじい振動が俺を襲う。俺を振り落とそうと、床に足をトントンとしているのだろう。足が床を突く度に、轟音と強烈な振動が起こる。

 何度か繰り返された後、俺は振り落とされ、先端に開いた空気穴から地面へと叩きつけられた。
 直後、俺のすぐ後ろに隕石のように何かが落ち、俺は衝撃で吹き飛ばされた。ソウタが、右足を降り降ろしたようだった。
 『コビトとかいねぇかなー、いたら俺が飼ってやるのに』
 『お前に飼われたら、命が幾つあっても足りなさそうだわ……』
 上から降ってくる呑気な会話を聞きながら、俺は体の痛みが和らぐまで、虫けらのように地面に倒れ込んでいた。


 数分も経つと、歩けるくらいには回復していた。さっきもそうだが、この妄想再現の中では、俺の耐久力が少し上がっているらしい。ここまで骨が折れていないのは、現実ではあり得ないだろう。そのお陰で、色々な状況を堪能できそうだが。
 そんな考えをしつつ、今度はショウの足元へと向かった。ソウタの足元から向かっているせいもあり、結構な距離があった。

 ようやく辿り着くとそこには、オレンジとグレーで彩られたクロックスをゆる履きしているショウの足があった。ショウとソウタは身長が同じくらいというのもあり、足の大きさも同じくらいのようだ。どちらかというと、ショウの足のほうが色白な感じがする。
 もう少し近付いてみると、そこかしこに土埃が付いているのが見えた。また、踵止めは外れてはいなかったものの、何度も踏まれているのかくたびれ、本来の機能を果たしているのかどうか怪しい。今も、ショウの足の下で潰されている。全体的に、ソウタのものよりも履き慣らされているように見えた。

 少しすると足がむれたのか、右足を左足に絡めて外気に晒し始めた。右足があったクロックスは、今は空いている。
 これはチャンスだとばかりに右のクロックスに向かう。……が、ソウタのものよりも踵部分が高く、登れそうにない。2mくらいはありそうだ。底の部分は下駄の歯を何本も並べたような感じになっていて、結構厚い。
 俺は踵部分から登ることを諦め、底が薄くなっている先端部分の空気穴から入ることにした。

 なんとか中に入ることが出来た俺が真っ先に感じたのは、やはり少し蒸し暑いということだった。そして、土埃がそこかしこに付いている。
 汗も吸っているのか、汗と土の臭いが混ざった、なんとも言えない臭いが鼻を突く。最近、洗ってないのか……?
 なだらかな坂を登り、踵部分を目指す。外から見た通り、結構傾斜があった。

 踵部分に着き、辺りを見渡す。右側にはショウの両足があり、絡まったそれはまるでオブジェのようだった。足元には潰されて癖のついた踵止めがあり、これも土埃が付着していた。
 充分に堪能し、ここから出ようと傾斜に差し掛かった辺りで、ショウの右足が戻ってきた。履くのかと思いきや、踵部分に爪先を乗せると、クロックスを傾けた。
 俺はその揺れに足を取られ、クロックスの中でコケた。そのまま、傾斜の辺りで前後に転がされる。
 空気穴から左足の様子もチラッと見えたが、どうやら左足と右足を交互に動かしてクロックスをパタパタと上下させているようだった。何回もされるせいで、若干気持ち悪くなってきた……

 揺れが収まり、再び歩き出そうとしたのも束の間、今度は天井が俺の方へと沈み込んできた。
 天井の空気穴からは、ショウの足の裏が見えた。ショウが、クロックスを踏んでいるのだ。クロックスの上で足を動かしているのか、天井が波打つ。頑丈な洞窟も、ショウからすればただの履物なのだ。
 幸い、完全には潰されなかったため、隙間に入りショウが足をどけるのを待った。土の臭いと汗の臭い、そして足の臭いと熱気に悶えながら、耐え続けた。

 ようやく天井が高くなり、立ち上がって歩き始める。
 もうすぐで出られそうだ。……そう思った次の瞬間には、俺は体に強い衝撃を受け、宙を飛んでいた。
 「ガハァッ……!」
 そのまま先端の壁に打ち付けられ、地面に倒れ込む。すぐ横から、ムワっとした空気が感じられる。見ると、ショウの足があった、指がわきわきと動き、臭いが広がる。
 どうやら、俺はクロックスを履こうとしたショウの右足に突き飛ばされたみたいだ。ショウはただ足を入れただけかもしれないが、俺からしてみれば交通事故だ。

 わきわきと動く巨大な指、醸し出される酸っぱい臭い、そして熱気……
 それらを見て、感じた俺は、この空間を作り出すショウの指を、もっと感じたいと思った。
 指の間に光る汗。舌を這わせ、舐めとりたい。
 そう思った時には、既に実行に移していた。外から声が聞こえる。
 『おっ、俺の指の間にもなんかいるっぽい』
 『まじ?どうすんの?潰す?』
 『なんかくすぐったい。綺麗にしてくれてんのかな?』
 『その虫変態かよ、男の指の間を掃除するとか』
 ショウとソウタの会話だ。俺が足の指の間を舐めているのを感じ取っているらしい。虫みたいな大きさの俺の行動を、巨大なショウが感じてくれている。それが嬉しかった。
 そうしていると、親指と人差し指の間がガバッと開いた。
 『虫クン、今度はこっち』
 その言葉に従い、指定された場所に舌を這わせる。さっきよりも熱気も、臭いも強く、頭がくらくらする。汗は、濃厚な味がした。
 『ふふ、偉いぞー。この虫クン、お持ち帰りしちゃおうかな?』
 『虫って日本語わかるのかよ……まぁ、勝手にすれば』

 ショウのエキスを存分に味わい、休憩していると、周りが騒がしくなった。講義が終わったのだろう。
 少しすると重力がかかり、浮遊感の後、天井や壁、ショウの指にぶつかる。ショウが歩き始めたのだ。
 規則的な周期で訪れる一連の動作になんとか耐えていたが、ついには耐えきれず、先端の空気穴から放り出されてしまった。コンクリで出来た廊下に、仰向きに叩きつけられる。視界には、ショウの薄汚れたクロックスが、俺を跨いでいく様子が見えた。

 ボーッとして、段々と意識が遠退いていく。
 最後に見た光景は、ダルそうな顔をしたソウタが、俺に向かって足を踏み降ろしてくる姿だった……



 気がつくと、ヒロの部屋だった。
 今回の再現は、俺にとっては結構刺激的だった。ソウタにコビトとして飼われたらどうなるのか……また、ショウにあのままお持ち帰りされたらどうなっていたのか……今思い出してもドキドキする。
 「楽しそうだったね、リク」
 「お前やっぱ天才、この装置使わせてくれてありがとう」
 「それほどでも。今回、リンク機能を試してみたから、後々楽しいことになるかもね」

 ヒロのその言葉を俺が理解するのは、もう少し後のことだった。

つづく?