蒸れたハイカットスニーカーって、良いよね。

人物紹介
・リク
主人公。サイズフェチ(縮小願望、特に相手男)。ふとした拍子に妄想してしまう。大学生。

・ヒロ
リクの幼馴染。妄想再現マシンを作る。本名はヒロト。大学生。



 「なぁヒロ、思うんだけどさ」
 「うん」
 「夏場靴履くと蒸れるよな。特にハイカットとか」
 「そりゃね。僕も講義室とかでは脱ぐことあるし」
 ヒロの部屋で、そんなことを話す俺とヒロ。8月ともなると試験が終わった科目から授業が無くなっていくので、試験さえなんとかなれば案外暇な時期である。
 「お前でも靴脱ぐのか。あんま脱がなそうなイメージだったんだけど」
 「だって蒸れると不快だし……だた脱いで横に足置くだけだけどね」
 実際、ヒロは靴をぶらつかせたり、蹴飛ばしたりはしない。普通に履いている、といった感じだ。
 「なるほどね……で、再現してほしい妄想があるんだけどさ」
 「流れ的に蒸れた足関連?まぁ軽く話してみて」
 促されるまま、妄想の元となる体験を話し始める。あれは、1ヶ月くらい前のこと……


 ある授業に出ていた俺は、同じ班となった人と会話をしていた。数名の学生で班を組み、共同で課題に取り組むといった感じの授業であるが、課題の話し合いが終わると大抵雑談タイムに入る。
 その時の話題は夏場のスポーツ実技科目ってしんどいというもので、この授業の前のコマが体育だという男子学生が、運動後の蒸れた足で靴を履くから余計に蒸れてしんどいと話していた。
 話を聞いてその男子の足元が気になった俺は、落としたペンを拾うフリをして机の下を覗いてみた。白のハイカットスニーカーを履いた足が揺れている。靴紐は細めで、穴には通されているものの、結ぶのがダルいのか上の方は適当にまとめられていた。側面には通気のためと思われる小さな穴が2つ空いている。確かに、運動後にこれを履くとかなり蒸れるだろう。
 その後も、何度か物を落とすフリをして覗いてみた。今日は随分物落とすね、と笑われたが気にしない。
 靴はいつの間にか脱がれており、それぞれの横に今まで内包されていた足が置かれている。蒸れをなくすためか、時々爪先を上下に動かしている。その時に見える靴下の裏は、指の形に薄汚れていた。
 あの足の裏にのしかかられたり、蒸れた靴の中に入ってみたい……そんな妄想が頭に浮かぶのだった。


 「という感じ」
 「なるほど。じゃあ準備するから、これ被って椅子に座って」
 そうしてまた、俺は妄想の世界へとダイブしていくのであった……



 地面の感触。そして聞こえる話し声。目を開けると、ビルのように乱立する学生達の脚が見ることが出来た。すぐ目の前には、巨大な白い物体が見える。あの男子の履いていたハイカットスニーカーだ。
 よく見ると土汚れだろうか、薄く茶色に色づいた部分も見える。形からして、左足だろうか。靴紐は細めで、穴には通されているものの、結ぶのが面倒くさいのか上の方はごちゃっとまとめられている。靴と七分丈のズボンの間からは、ほんのりと小麦色に染まった脚が見える。
 だが、確認できるのは左足だけで、右足の姿が見えない。そういえば俺のいる場所は、他と比べてなんだか暗い気がする。そう思い上を見上げると、ゆらゆらと揺れる右足の姿が目に飛び込んできた。暗いのは、右足の影に入っていたからだったのだ。頭上に掲げられた靴裏は、少し磨り減っているようで、グラウンドを歩いているときに付着したのであろう砂が張り付いている。
 いつ落下してくるかも分からない靴の下にいるのは危ないので、俺は後ろへと下がる。こんな巨大なものが落ちてきたら、ひとたまりもない。

 影から出て少し経ったとき、組まれていた脚が戻され、すぐそばに左足が滑り込んできた。あまりの迫力に腰を抜かす。更に、横には右足が降ろされ、その影響で揺れが起こる。定期的に爪先だけを上下させているためか、足が床に着く度に規則的な振動や音が響く。
 足の動きが止まったかと思うと、白いスニーカーソックスを履いた足が靴の中から現れ、靴の隣に置かれた。靴と足を合わせると4つの巨大な物体が眼前に鎮座している。さながら、白い壁のようだ。脱がれた靴はタンの部分が反り、かなりゆる履きされていたんだなということがわかる。

 俺は靴から出された足へと向かうことにした。右足は少し遠いので、左足へと向かう。スポーツメーカーのロゴが入ったスニソは甲の部分がメッシュになっており、少し土汚れが見える。足を蒸れを解消するためか指を上下させており、ムワっとした空気と酸っぱい臭いが漂ってくる。スニソの裏は足の形に黒くなっており、親指の部分は他よりも黒く、存在感を示していた。
 臭いをもっと嗅ぎたくなった俺は、左足へと更に近づいた。目と鼻の先で、圧倒的な質量を持った物体が動いている。その度に空気を切り裂くような音が響き、先程よりも強い熱気と臭気が俺を襲う。
 その光景をボーッと見ていると足が少し動き、俺の頭上には指の形に黒く変色した爪先が掲げられていた。爪先はそのまま降ろされ、俺は汗と土で汚れた足裏に踏みつけられた。かなり、重い。蒸れた指先にのし掛かられ、汗が出る。そして、何よりも臭いが酷い。なにせ臭いの元が顔にのし掛かっているのだ。空気を吸えば、様々なものがブレンドされたキツい臭いが、ダイレクトに入ってくる。出ようにも上から押さえつけられ、じたばたとその場で暴れることしか出来ない。
 だが、暴れた効果が無いわけでもなかった。足の裏がくすぐったかったのか、のし掛かっていた足がどけられたのだ。汗をだらだらと流しながら、若干熱気と臭気が残る空気を取り込む。この大きさでは、普通サイズの人間の些細な動きにすら翻弄され、それに勝つことはできない。アクションを起こすことで、相手が動いてくれることを待つしかないのだ。

 足裏の牢獄から解放された俺は、目の前に聳える白色のオブジェへと向かう。ただのスニーカーに過ぎないのだろうが、家よりも大きなそれは、俺にとってはオブジェのようなものだった。すぐそばまで寄ると、もはや靴というよりも聳え立つ白色の壁にしか思えなかった。垂れ下がった靴紐が、これが靴であることということをわずかに主張していた。
 相変わらず爪先を上下させている左足を横目に、俺は靴紐を掴んで登り始めた。彼にとっては細い紐だろうが、俺の体を支える分には充分な太さだった。平べったい紐と違って握り込める分、細い紐のほうがありがたい。
 やがて、紐が通されている穴の近くまで辿り着いた。すぐ近くには脱がれた時の勢いで反り返ったタンが存在し、そのそばには紐がくちゃくちゃにまとめられていた。タンが反っているため靴の入口が空いており、ここまで熱気が漂ってくる。足の甲部分に行くには、今掴んでいる靴紐から靴紐がまとめられている場所へと飛び移らないといけないらしい。

 俺は意を決して、そこへと跳躍した。着地は出来たものの、しっかりした足場では無かったためそのまま靴紐に絡め取られる。靴紐の中でもがく俺は、さながら蜘蛛の巣に捕らわれた虫になったようだった。
 なんとか靴紐から抜け出した俺は、斜面を転がり落ちないよう慎重に降りていった。タンは若干沈み込んでおり、その間には靴紐が通っている。気を付けて歩かないと足を引っ掻けて転びそうだ。足元からは、沈み込んだタンと両サイドの隙間から、熱気が漂ってくる。小さな俺の体重では、タンが沈み込むことはなかった。この大きさでは、靴にすら影響を与えられないのだ。
 でこぼことした坂を下り、爪先へと到着する。地面は固い素材で出来ており、今まで歩いてきた部分よりも安定感があった。振り返ると、小さくなったからこそ見られる光景が広がっていた。波打つ地面とその上に通された靴紐、その先には反り返ったタンが存在感を放ち、靴紐が縦横無尽に走っている。更にその先には、塔のような2本の脚が合流しているのが見えた。

 絶景に満足した俺は、再び斜面を登り始める。このサイズでは、通された靴紐を乗り越えるのも一苦労だ。
 靴紐がまとめられた部分まで戻ると、今度はこの靴の中に入ってみたいという衝動に駆られた。靴の中に入るなんて経験、普通では出来ないからだ。それに、サンダルやクロックスには入ったけれども、靴の中にはまだ入ったことがない。
 ごちゃごちゃとした靴紐の先が靴の中に垂れていることを発見した俺は、それをつたって降りていく。降りるにつれ段々と蒸し暑くなっていき、臭いも強くなってくる。一緒に履かれていたからのだろうか、掴んでいる靴紐も汗でじっとりとしている。小さなビルくらいの高さから降りているだけあり、慎重に降りていると中々着かない。まだ、3mくらいの高さはありそうだ。周りを囲う少し波打った壁は、それがサッカー男子の力によって簡単に変形してしまうことを如実に示していた。

 「おぉ……」
 ようやく地面へと着地し、辺りを見渡した俺は、その光景に息を飲んだ。上を見上げると歪んだ楕円形に切り取られた空が見え、周囲の壁は絶壁と呼ぶに相応しい。所々シワになっているが、それでもこの壁を登るのはほぼ不可能に近いだろう。
 爪先部分のほうを見ると、タンが沈み込んだ部分から僅かに光が差し込むものの、靴自体が机の下ということもあり、薄暗い。少し先ならまだ見えるのだが、先端の方はここからではよく見えない。
 熱気と臭気が漂う中、俺は先端の方へ向かって歩き始める。臭いが更にキツくなり、地面も黒っぽく汚れた部分が増えてくる。足の裏からは、先程までここに巨大な足があったことをを示すように、熱が伝わってくる。歩いていて実感するのは、この空間の広さだ。俺の部屋と比べてもかなり広い。天井は先に進むにつれ低くなっていくが、俺にとっては充分な高さである。
 中間を越えた辺りから、地面が削れている箇所が出てきた。削れている部分の周囲は黒ずんでおり、普段からかなりの力で踏まれ、汗を吸収しているかがよくわかる。横には2つの通気穴が見える。だが、この空間を埋め尽くすほどの足の蒸れを解消するのは流石に無理だろう。俺が通ることすら厳しい大きさなのだから。

 更に進み、ようやく先端部分を見ることが出来た。指の形をした黒ずみがあり、そのどれもが俺よりも大きい。親指の辺りは削れ、綻んでいる。隅には靴下の毛玉だろうか、サッカーボールほどの大きさのやや灰色の物体が落ちていた。なんとなくそれが気になった俺は、その物体へと近づき、手に取ってみる。予想よりも重く、湿っていた。汗を吸っているからだろう。事実、臭いを嗅いでみると刺激臭がした。色にムラがあることから、元は白かったのだろうと想像出来た。どのくらい前からあるのかは分からないが、何度も何度も踏みつけられ汗を吸い、変色したのだと思われる。
 熟成された毛玉を地面へと置き、親指が置かれているであろう部分へと近づく。削られた床だったものは、その部分を囲うようにして張り付いていた。まるでよじった紐のようなそれは、汗を吸った証である黒ずんだ色をしていた。わずかに汗が貯まっており、それを掬い口へと含む。少しベトついたそれは、サッカー男子のエキスが濃縮された、酸味の強い味がした。

 靴の中を満喫した俺は、このサウナのような空間から出ようと踵の方へと戻ってきた。だが、上を見上げた俺は、絶望感に襲われることとなった。この空間の主である白い塊が、こちらへと近づいてくるのが見えたのだ。
 空は黒ずんだ足裏に覆われ、囲うように聳え立っていた壁は、いとも容易く圧倒的な質量を持つその物体に屈服し、変形した。壁を潰しながら降りてくる怪物に、俺は悲鳴を上げ、出来るだけ遠くに逃げようと先端部分へと走り出した。怪物がどこかに接触する度、空間が揺さぶられる。足を取られそうになりながらも、俺は必死に逃げた。
 程無くして地響きがした。怪物が地面へと降り立ったのだ。振り返ると、白と灰色の混ざった雪崩が、信じられないスピードでこちらへと向かってきていた。先端まではまだ距離があるというのに、着実に雪崩が俺へと迫ってきていることが、背後から発せられる熱気と轟音、地響きが伝えていた。
 ようやく3分の2を過ぎたという辺りで、俺は雪崩の中へと飲み込まれた。眼前に広がる黒ずんだ天井、響く轟音、放たれる強烈な刺激臭、凄まじい重圧、口から入り込んでくる汗……五感全てを、支配されていた。

 結局のところ、怪物や雪崩はサッカー男子の左足にしか過ぎないし、この空間も足を内包する履き込まれた靴にしか過ぎないのだが。靴を履くという何気ない行動は、小人の五感を支配するには十分だった。

 鳴り響いていた轟音が止み、ほんの少しだけ楽になる。ただでさえ薄暗かった空間に足があるせいで、視界はほぼ役に立たない。最早、自分がどこを向いているのかさえ判断することは出来なかった。
 この空間を支配するサッカー男子の足は、哀れな小人の体力を容赦なく奪っていく。動かなくても、ただそこにあるだけで、熱気と臭気、重圧が体を苛む。
 俺にとってこのサッカー男子は、絶対的な力を持った神のごとき存在であった。

 意識が朦朧としてくる。蒸れた靴の中で蒸れた足に踏みつけにされたまま、段々と感覚が失われていった……



 目を覚ますと、ヒロの部屋だった。
 俺は恍惚とした表情を浮かべ、先程の体験を思い出すのだった……

つづく?