本格的な寒さが訪れた12月上旬。
部活が終わり、部室で友達とだらだら話した後、帰宅しようと駅に向かって歩いていた。三年生が引退し、部室は二年生が独占して使えるため、つい部室でだらだら過ごしてしまう。外に出ると日は暮れており、あまりの寒さに遅くまでだらだらしていたことを少し後悔していた。
駅のホームに降りると見慣れた人から声をかけられた。
「あ。お兄ちゃん。」
ホームには妹の葵がいた。葵は中2にして身長186cmの長身だ。俺は高2なのに159cmしかないので、端から見たら完全に姉と弟だ。昔はお兄ちゃんっ子で、よく甘えてきたものだが俺の身長を抜かして以降、俺を兄というよりも弟扱いしたがる。現に俺は葵に力ではかなわない。葵が小学生のころにケンカでぼこぼこにされたこともある。
「あ。お兄ちゃん。」
「おう。葵も部活帰りか?」
「うん。」
「お前生脚で寒くないの?」
「全然寒くないよ~。もしかしてお兄ちゃん生脚に興奮してるの?(笑)」
「そ、そんなわけないだろ。」
最近葵はこういうからかい方をしてくることが多くなった。彼女いない歴=年齢の俺はこの手の冗談はどう対応していいのか分からず赤面してしまう。こういう反応をすればするほど葵はさらにからかいたくなるらしく、俺は見た目だけでなく精神年齢でも葵に完全に負けているのを感じる。
しばらく葵と雑談していると電車がやってきた。この時間は帰宅ラッシュと重なるので満員電車であることが多い。今日も満員のようである。
「うわ~。満員電車だ。。。最悪~。」
「まあしょうがない。これを逃すと次は15分後だからなぁ。」
しかたなく俺たちは満員電車に乗った。
乗り込むが、つり革は全部埋まっており俺はつかまるものはない。葵はつり革のぶら下がっている棒の方をつかんでいるようだ。そして、俺の目の前には葵の胸があるという立ち位置になってしまった。さすがにまずいと思ったが満員電車なので身動きがとれない。
そして、大きく電車が揺れた。
「うわっ」
俺は葵の胸にダイブしてしまった。
「きゃっ」
「うわっ。ごめん!」
葵から慌てて離れようとするが、電車が揺れるのでうまくバランスがとれない。
「もう。お兄ちゃん可愛いなぁ(笑)。私につかまっていいよ。」
「す、すまん。」
俺は赤面しながら妹の腕につかまった。
さらに妹は何も掴んでいない方の手を俺の肩に回してきた。
「ふふふ。これなら電車が揺れてもお兄ちゃん大丈夫でしょ。」
俺は恥ずかしくて何も言えなかった。
葵に抱かれているので葵との距離が近い。俺の目の前には葵の黒髪が垂れている。シャンプーの良い臭いが漂ってくる。
しかも葵の胸に俺の顔が当たる。このままだと気持ちよすぎてどうにかなってしまいそうだ。
「お兄ちゃん可愛い…。」葵がぼそっと呟くのが聞こえた。
耳元で葵が囁く。
「お兄ちゃん、葵の生脚だぞ~。」
そういうと葵は俺に自分の長くて白い脚を押し当ててきた。俺は興奮しそうになるのをなんとか抑えた。
「おいおい。電車の中だぞ。」
そう言うと葵はつまらなさそうに「はーい。」とだけ言うと何もちょっかいは出すことなく俺を支えてくれていた。
その後俺は葵に包まれた気持ち良さで立ったままうとうとしていた。
気がつくと電車は目的駅についた。
「お兄ちゃん。降りるよ。」
この一言で俺は我に返った。
満員電車の中、人をかきわけてドアまで進もうとするが小柄な俺は人の壁に阻まれてなかなか進めない。悪戦苦闘していると急に俺の腕がぐいっとひっぱられた。
「お兄ちゃん、何してるの。早く出ようよ。」
俺の腕を引っ張ったのは葵だった。
葵が人をかきわけ、それに俺がひっぱられる形でなんとか電車から降りた。
そして寒い中を急ぎ足で家に向かっていた。葵の脚が長いので俺は軽く小走りになってしまう。
「あ。お兄ちゃんごめんね(笑)」
そう言うと葵は歩くペースを俺に合わせてきた。なんだか兄として情けなくなった。