これは俺が中一で葵が小四のときの話だ。
俺は当時身長147cm、一方で葵は172cmだった。
当時思春期の俺は妹より背が低いのが恥ずかしかった。しかし、葵は当時からお兄ちゃんっ子で、どんなときでも俺の後ろをついてくるような子だったので四六時中葵と俺の身長差を周りの人に見せつけられているようだった。
しかも葵は兄よりも背が高いのがうれしいらしく、やたらと家にある身長計で俺の身長を測りたがる。そして俺の身長を測った後は必ず自分の身長を測らせる。
「ねえねえ。お兄ちゃん身長いくつ~?」
「この間お前が測ったときに147cmだったろ。あれと同じだよ。」
俺はまたかと思いながら答えた。
「え~?でもあれから一週間経ったし伸びたかもしれないじゃん!また測ろうよ~。」
「一週間で伸びるわけないだろ。」
「いいからいいから。測るよ。」
そういうと葵は俺の腕を引っ張りながら身長計のもとへ歩きだす。こうなると葵はもう止められない。葵の方が力は当然に強いので俺はただただ引っ張られるだけである。抵抗しようと踏ん張るが、葵にぐいぐい引っ張られる。抵抗していることすら気づいていないようである。
「はい。ここに立って!」
そう言うと葵は俺の両肩に手を置いて身長計の代の上にぐいっと俺を押して乗せる。
「じゃあ測るね~。」
俺の身長を測る瞬間の妹はいつも満面の笑みだ。満面の笑みで屈みながら俺の頭の上に表示された数字を言う。
「えーっと147cmだ。なんだ~。全然伸びないね~。」
「当たり前だろ。一週間で伸びるわけないだろ。」
「じゃあ次は私の身長測って~。」
「お前もこの間測ったばっかりじゃないか。」
そう言って俺は立ち去ろうとするが、妹は俺の首根っこをぐっとつかむと、
「いいから測ってよ。お兄ちゃん。言うこと聞かないと葵怒るよ。」
と言いながら俺をつかんだ腕をぐいっと持ち上げた。じたばたと抵抗するが俺はつま先立ちになってしまう。
「ぐえええ。分かったから、手を離せ。」
悔しいがこれ以上痛い目にあいたくないので、葵の言うことを聞くことにする。
「わかればいいのよ。お兄ちゃん。」
可愛い声で満面の笑みで葵は俺を解放した。葵の身長を測るには当然俺はバーに手が届かない。俺は椅子を持ってきてその上にのぼって測る。
「えーっと。172.2cmだ。」
「え!本当!0.2cm伸びた~!ほら、お兄ちゃん。ちゃんと一週間で身長は伸びるんだよ。」
俺は葵の成長に恐怖すら感じながら、
「すごいなお前。」
としか言えなかった。

俺は一回だけ身長測定を拒否しようとしたことがある。
その日は妹が何度測ろうとしても俺は妹が手を離したすきに身長計から逃げ出し続けたのだ。
何回目かのときに妹はついに怒り、顔を真っ赤にしながら俺を追いかけてきた。自分より25cmもでかいやつが顔を真っ赤にしながら追いかけてくるから相当な迫力だった。
全力で俺は逃げようとしたが、脚の長さが違いすぎたのか、すぐに腕を掴まれてしまった。
「離せよ!」
と俺は腕を振り回したが、葵の手は全く俺の腕を離さない。それどころか握力が強くてどんどん痛くなってくる。葵の顔を見るとにやにやしながら俺を見下ろしていた。まだまだ余裕があるらしい。
葵の方が俺よりも明らかに力が強いことに恐怖を感じながらも俺は必死で抵抗した。
「じたばたしないでよね!」
葵はそういうと俺の腹にひざでけりをいれた。
「ごふっ」
俺は思わずうずくまった。体全体のバランスからすると決して葵の脚は太いわけではないが、147cmの俺にしてみたら172cmの葵の脚の太さは俺の脚の倍はあるように見えた。
しばらくうずくまっていると葵は俺の上にのしかかり俺の腹に全体重をかけながらマウントポジションをとった。当時俺の体重は40kg、葵の体重は68kgだった。めちゃくちゃ苦しい。
「お兄ちゃん。なんで言うこと聞いてくれないの?」
と俺の上に乗りながら葵は聞いてきた。
俺は苦しくて答えられない。
「お兄ちゃんは私より弱いんだから言うこと聞かないとだめでしょ!」
といいながら俺の耳をひっぱる。
「ぐええええええ。ごめんなさいごめんなさい。」
俺は必死で謝った。
「次言うこと聞かなかったら本気で殴るからね。」
俺は葵の強さに恐怖し、それ以来必ず言うことを聞くことを誓ったのだった。
中学生を越えたあたりからはさすがに暴力をふるわなくなったが、この日の事を思い出すとたまに今でも恐怖がよぎる。