舞との再会直後。
叔母さんが俺に向かって言った一言が地獄の始まりだった。

「じゃあ私は買い物に行ってくるから、恭平君、舞とお留守番しててね~。あ。冷蔵庫にあるもの適当に食べていいわよ。」

「はい。分かりました。いってらっしゃ~い。」



俺と舞の二人で留守番することになった。
小腹がすいてた俺は冷蔵庫の中を覗いてみた。冷蔵庫の奥の方にプリンが一個あった。

「お。プリンあるじゃん。」

プリンを取り出し、食いはじめる。美味しい。たぶんいいプリンなんだろう。
あっという間にプリンを食べ終わった。

「ふう。美味しかった。」

食べ終わり、プリンのカップを捨てようとしたとき、舞がリビングに現れた。

「あれ?恭平君何食べてるの?」

「ああ。冷蔵庫にあったプリンだよ。」

「え?プリン?ちょっと見せて。」

そう言って舞は空になったプリンのカップの裏側を見た。

「恭平君!これ私のプリンだよ!」

「え?でも叔母さんは冷蔵庫の中のは何でも食っていいって言ったよ?」

「カップの裏見た?私の名前書いてあるじゃん!」

カップの裏を俺の目の前に突き出す。確かに「Mai」と書いてある。だが、プリンを食う時にいちいち裏面なんて見るだろうか。舞に怒られるのは少し不満だ。

「でも、裏面なんていちいち見ないだろ?もう少し分かりやすいところに名前書いてれば気付いただろうけど。」

不満を言うが、舞は不機嫌な顔で俺を見下ろしている。迫力がある。

「何それ。私が悪いって言いたいの?」

ぶすっとしながら舞が言う。明らかに怒っている。
だが、ここでビビってしまっては男としてあまりに情けない。11歳の女の子にびびって男子高校生が謝るわけにはいかない。

「俺も悪かったけど、舞にも落ち度はあるんじゃない?」

思いきって強気で言ってみた。その瞬間舞の顔いろが変わった。
舞は突然長い腕で俺の胸倉をつかんだ。俺の足が宙に浮く。

「ぐえ。苦しい。舞、離せ。」

おれはじたばたと暴れる。

「確認せずに食べる恭平君が悪いんでしょ?反省するまで許さないから。」

舞は左手で俺の胸倉をつかんだまま右手を大きく振りかぶった。嫌な予感がした。まさか殴られるのか。腕相撲で見せつけられたあの腕力で殴られたらどうなってしまうのか。恐怖で足が震える。

次の瞬間。舞は思いっきり俺に向かってビンタをした。

バチーーーーーーーーーーン!!!

「いてええええええ。」


俺は地面に落ちる。あまりの痛みにそのまま床にうずくまってしまう。
舞は倒れた俺の首に脚をまきつけてきた。舞は生脚にミニスカートをはいているようだ。さすがの長身。長い美脚がミニスカートによく似合っている。そんなことを思うが、苦しい状況でもそんなくだらないことに目が行ってしまう自分が情けない。

「恭平君が謝るまで、脚を外さないからね。」

本来なら柔らかくて気持ちいであろう舞の生脚は俺をぎゅうぎゅうと締め付けてくる。あまりの苦しさに舞の脚をタップする。

「タップしてもだ~め。ごめんなさいって言うまで外さないよ(笑)」

舞は半笑いで俺に話しかける。明らかに舞はこの状況を楽しんでいる。かつては兄のように慕っていた男の子を力で圧倒していることがうれしいようだ。俺は男としてのプライドもなにもかも捨てて舞に謝ろうとしたが、締め付けが強すぎて声が出ない。

「ぐ。。。か。。。ご………なさい…。」

なんとか声を絞り出すが言葉になっていない。

「え?何?聞こえないよ?」

舞が聞き返す。同時に脚の締め付けがゆるくなった。締め付けがきつすぎてしゃべれないということが分かったようだ。

「ごめん…なさ…い…。」

なんとかしゃべることができた。

「ふーん。本当に反省してるの?(笑)」

完全に笑いながら俺に問いかける。相変わらず舞は自分がパワーで俺を圧倒していることがうれしくてたまらないという表情をしている。

「反省…して…ます…。」

俺は必死で声をふりしぼる。

「じゃあ反省してる証拠見せてよ。」

舞は脚をゆるめて、俺のほほをぺちぺちと軽く叩きながら言った。反省している証拠?具体的に何をすればいいのだろうか。全く見当がつかない。
俺が何をしていいのか分からず、ぐったりと仰向けでうなだれていると、

「土下座に決まってるじゃん。早く土下座しなさいよ。」

そう言って舞は座りながら俺の顔を軽く脚で踏みつけてくる。
俺は慌てて
「すいませんでした。」
と土下座をしながら言った。

「本当に許してほしい?」
舞は立ち上がりながら俺に聞いた。

「はい。本当にすいませんでした。」
俺はひたすらに謝る。

「ふ~ん。本当に反省してるのかな~。」

俺の頭を足でぐりぐりと床に押しつけながら舞が聞いてきた。

「反省してます。」
必死で許しを乞う。

「なんか信用できないな~。私のこと好き?好きなら許してあげる。」

舞が足で頭を踏みつけながら言う。好きという以外に選択肢はないだろう。

「好きです。」

「じゃあ私にキスできる?」

「できます。」

条件反射のように答えてしまった。
舞は俺を踏むのをやめた。

「じゃあ恭平君立ってよ。私にキスしてくれたら許してあげる。」

俺の手をつかんで俺をものすごい力でひっぱり立ち上がらせる。
舞は目をつぶって黙って直立している。キスをすれば許してくれるのだ。キスをするしかない。そう思って俺は舞の唇にキスをしようとする。

しかし、届かない。どんなに背伸びをしても届かない。当然と言えば当然だろう。身長差は40cm近くあるのだ。
俺がじたばたしてると、

「恭平君何してるの?もしかして届かないの?」
と舞が聞いてきた。にやにやと意地悪そうな顔をしている。俺が舞の唇に届かないことが分かったうえでの発言だろう。

「11歳の女の子の唇に届かないの?男子高校生が?恭平君ってそんなにちびだったの?しょうがないなぁ。じゃあ、『舞さんかがんでください』って言ったらかがんであげる。」
相変わらずにやにやしながら屈辱的なことを言ってくる。

しかし、拒んだら俺はまた脚で首を絞められるだろう。黙って従うしかない。

「舞さんかがんでください。」

屈辱的な一言を言った。
舞は膝を曲げてかがんでくれた。しかし、キスするには相変わらず高すぎる。

「もう少しかがんでください。」

俺はさらに屈辱的なことを言った。

「えー。まだ届かないの?本当おちびちゃんだね(笑)」

舞はさらにかがんだ。自分より6歳も年下の女の子におちびちゃんと呼ばれることに屈辱を感じたが、現に舞の方が圧倒的に背が高い以上何も言えない。かがんでくれたおかげで、背伸びをしたらなんとか唇に届きそうだ。背伸びをし、舞の唇にキスをした。


「よくできました。」
俺の頭をなでながら言った。

「もう今度から私に口答えしちゃだめよ。わかった?おちびちゃん?」

そう言って舞は俺の額に軽くでこピンした。痛かったがでこピンくらいで痛がるのはあまりに情けないので涙目で耐えた。

「すいませんでした。」

俺と舞の上下関係が確立された瞬間だった。