ガタンゴトン…

朝の満員列車。ぎゅうぎゅうに詰め込まれた乗客たちは手すりや吊り革を掴み、なんとか自分のポジションを確保していた。
しかし、そんな満員電車の中で何も掴めずに居場所を確保できない小柄な男が一人いた。

「ぐうう…」

その男はY大学という名も無き大学の3年生の21歳。身長は150cmしかない。人の波に押し流され、手すりに届く場所を確保できない。当然その身長でははるか頭上の吊り革には手が届かない。満員電車の中で何の頼る場所もなく人の壁に挟まれて苦しんでいた。

ぷしゅーーーー

人の乗り降りの激しい駅に着いたようだ。しかしそのY大生の目的地ではないので彼は降りるわけにはいかない。多くの乗客が降りようとするが彼はその流れに逆らい、なんとか車内に残る。

そして乗客が降りた分だけ新たな乗客が乗ってくる。
どやどやと新たに入ってくる乗客の波に再び小柄なY大生は流される。

ぷしゅーーーー

すべての乗客が乗り終わった結果、Y大生は乗客にドア側まで押し流されドアを背にして立つ状態になった。なにも掴む場所がないよりはドアを背もたれにして立っていた方が楽なので彼はほっと一息ついた。

一息ついて目の前を見ると彼の目の前には背の高い女子高生が立っていた。
制服から察するにこの女子高生はK女子高の学生である。レベルの低いY大学の近くにあるが、K女子高は名門で、日本最高峰のT大学に何人も現役合格をさせている高校だ。都内屈指の名門女子高である。
Y大生も目の前の女子高生がK女子高の生徒だと当然気付く。

このK女子高生は身長180cmはあろうかという長身である。小柄なY大生から見たら、K女子高生の胸がちょうど目線と同じ高さにある。そのくらいの身長差があるのだ。持っているエナメルバッ繍からこのK女子高生はバレー部に所属しているようである。
さらにこの女子高生はスカートの丈がひざ上20cmはあろうかというという短さである。ハイソックスこそ履いているものの、ひざより上は目のやり場に困るようなみずみずしい太ももがその存在を主張している。K女子高は進学校特有の校則の緩さで服装に関しては生活指導がほとんど行われない。そのため、生徒たちは服装に関しては自分の好きなように制服を着崩している。

今、Y大生の目の前にK女子高生はがそびえたっている状況である。Y大学生の目の前にはちょうどK女子高生の膨らんだ胸がある。何も考えずに視線を上げると目の前に女子高生の胸があるので決まりが悪く、なんとなく視線を落とす。そうするとK女子高生の太ももがY大生の目線に飛び込んでくる。電車の振動に耐えるべく、K女子高生の太ももは部活で鍛えた筋肉がうっすら浮き出ている。

そんなK女子高生のすべすべの太ももに浮かぶ筋肉に驚きながらも女子高生の生脚を凝視するのも良くないので、Y大生はさらに下に目線を落とす。
結局Y大生は目線を落とした結果、K女子高生の靴を目線に入れるしかなくなった。

K女子高生の靴のサイズは28cmである。身長が180cm近くあることを考えれば妥当であろう。しかし、身長150cm、靴のサイズは23cmしかないY大生にはK女子高生の履く28cmのローファーがとても大きく見えた。

「(最近の女子高生は靴も大きいんだなぁ。しかもこの子はK女子高の生徒。Y大学の俺なんかよりも頭も良いんだなぁ…。これだけ体格も良ければ力でもこの子に勝てないだろうし、俺は頭でも力でも目の前のK女子高生に勝てないんだな…。)」

Y大生は男なのに目の前のK女子高生に学力どころか力でも負けているのだと感じながら目の前のK女子高生の靴を眺める。
靴より上はK女子高生の太もも、そして胸があるので視線を上げることができない。Y大生はただただ靴を眺めて駅に着くのを待つ。居心地は悪いがY大生は壁にもたれることができるのでバランスを崩さずに済み、普段の人の波にもまれる通学よりは一応安全である。

一方K女子高生は目の前のY大生のことなど眼中にないようでスマホをとりだし、スマホでゲームを始めた。



しばらく平和な時間が続いた。Y大生はK女子高生の足元をぼんやりとながめ、K女子高生はスマホゲームに夢中になっていた。お互い一切目線を合わせることなく、電車に乗っていた。



しかし、電車が急カーブにさしかかった。すると、ゲームをしていたK女子高生がよろけてしまった。

「きゃっ!」

そう言って、Y大生の方めがけてK女子高生はバランスを崩してつっこんできた。
K女子高生の悲鳴に気付き目線を上げると、Y大生の目の前にはK女子高生の大きな胸があった。そして、その胸はY大生めがけてつっこんできた。

「うわっ!」

Y大生はK女子高生の胸に突進された結果、頭を胸に押され、そのまま後頭部を後ろの電車の壁に打ち付けた。

「いたたた…」

そう言いながらY大生は後頭部をさする。

「だ、大丈夫…?ごめんね!」

突進してきたK女子高生は謝る。しかしため口である。どうやら身長150cmのY大生を見て年下だと勘違いしたようだ。

「はい。大丈夫です。」

思わずY大生は敬語で答えてしまう。女の子に衝突されて心配されただけでも恥ずかしいのに、年下だと思われたことにさらに恥ずかしい思いをしたY大生は気が動転して年下の女子高生に敬語で返事をしてしまったのである。

そんなやりとりの直後、さらに電車は揺れる。
これ以上目の前の男の子(実際は年上のY大生)にダメージを与えてはいけないと思ったK女子高生は両手を突き出し、Y大生を人の波から守るような体勢をとる。いわゆる壁ドンである。(しかも両手で。)その結果、K女子高はさらにY大生に密着することになったが、Y大生はK女子高生によって確実に守られる体勢になった。

「(う…!あ…!女子高生に守られてる!?)」

自分の置かれた状況の恥ずかしさに気付いたY大生は赤面する。
しかし、今、K女子高生に壁ドンを辞めてくれと言っても、K女子高生が壁から手を離すと、支えを失ったK女子高生の身体が人の波に押されY大学生に突進してくるだけである。
このままの状態でY大生は耐えるしかない。

「ごめんね。さっきぶつけた頭痛くない?」

K女子高生がY大生を真下に見下ろしながら尋ねる。

「はい。大丈夫です。」

年下と勘違いされていること、さらに女子高生に守られているという状況に赤面しながらY大生は答える。

「僕。学校はどこ?」

K女子高生は世間話のつもりで尋ねる。
Y大生は反射的にこたえる。

「Y大学です。」

しばらく沈黙がはしる。




「ああ!Y大付属中の子ね!?」

K女子高生が言う。
Y大学は確かに小学校から大学まである私立大学である。

「は、はい。そうです。」

Y大生はひきつりながら答える。身長150cmで童顔であり、高校生や中学生に間違えられることはしばしばあったがこの状況で中学生と間違えられると訂正するのが逆に恥ずかしい。

「だったら私と同じ駅だね。反対側のドアだからお姉さんと一緒に降りようか!」

K女子高生が屈託のない笑みでY大生を見下ろしながらいう。目の前の男の子を守ってあげるお姉さんとしての笑みである。

「は、はい。」

ここまで来たらもう年下であると貫くしかない。Y大生はK女子高生を見上げながら答える。


ぷしゅーーーーーーーー


そうこうしているうちに目的の駅についたようだ。

「あ。ついたね。じゃあ僕はお姉さんの手にしっかりつかまっててね。」

そう言ってK女子高生はY大生の手を掴んで人の波をかき分けて出口側のドアに向かって歩く。大きなK女子高生の手がY大生の小さな手をつかみぐいぐい引っ張る。おそらく小柄なY大生ではこれほどのスピードで人の波をかきわけることは不可能だろう。圧倒的な体格とパワーがあってこそ為せる業である。

こうしてK女子高生のリードもあって、いつもより苦労することなくY大生は電車から降りることができた。駅のホームに降り、そろそろ手を離してくれるかと思いきや、K女子高生は手を離さずぐいぐい歩く。
不安な顔でY女子高生を見上げているとその視線に気づいたのか、Y女子高生は振り返りながら
「改札までは人が多いから手つないであげるね。」
という。

身長180cm近いK女子高生の足は一歩が大きく、Y大生は小走りになりながらなんとかついていく。
そして普段とは比べ物にならない速さで改札まで到達した。

「ふう。ここまでくればきみも一人で学校まで行けるよね。とりあえずさっきは頭に突っ込んでごめんね!お詫びに今度会ったらまた君を人ごみから守ってあげるね。じゃあお姉さんは君と別方向だから!」
そう言ってK女子高生は颯爽とK女子高の方に向かって歩いて行った。

Y大生は己の小ささに恥ずかしさを感じながらY大学のキャンパスのほうに向かってとぼとぼと歩きだした。