「あっ!君は電車のときのY大付属中の子じゃん!」

とある日の夕方、身長150cmの男子Y大生に向かって、180cmはあろうかという制服姿の背の高い女子高生が話しかける。どうやらK女子高校に通う女子高生のようである。

「ん??あっ!」

Y大生は急に話しかけてきたK女子高生が一瞬何者なのか分からなかったが、すぐに思い出した。数日前、電車に乗っていた際に急カーブでよろけてぶつかってきたK女子高生である。150cmしかないY大生のことを中学生だと勘違いしたK女子高生は、Y大生が人の波に押しつぶされないように満員電車の人の波から守ってくれたのであった。

「あのときぶつけた頭は痛くない?大丈夫だった?」

相変わらずY大生のことを年下だと勘違いしたままK女子高生は話しかける。

「は、はい。大丈夫です。」

いまさら自分が年上だと名乗るのも恥ずかしいのでY大生は敬語で返事をしてやりすごそうとする。

「本当?だったらよかった~。あのとき、スマホのゲームに夢中になってて君のことに気づかなくてさ。それで何も考えずに君の方によろけちゃったんだよね。あれから反省して満員電車ではスマホゲームをしないようにしてるんだ。」

「そ、そうなんですか…。僕、本当に大丈夫なんで…。あまり気にしないでください。」

女子高生の視界に入らないほど、自分の背が低いのだと暗に言われているようでY大生は赤面する。Y大生は恥ずかしさからK女子高生とは目線を合わせられず、この場から逃げたい気持ちである。
一方で、Y大生の赤面する真の理由を知らないK女子高生は、赤面しながらもじもじとしているY大生に思わず母性本能をくすぐられる。
可愛い弟か妹が欲しいと以前から感じていた一人っ子のK女子高生にとって、目の前にいるもじもじした小さなY大生はまさに理想のような弟である。Y大生を中学生だと勘違いしているK女子高生は、なんとかしてY大生と仲良くなりたいと思った。

「ねえ。この後暇?この間のお詫びにお姉さんが晩御飯おごってあげるよ?」

Y大生を見下ろしながらK女子高生が尋ねる。
もちろん、Y大生はこれ以上K女子高生と関わって恥をかくのは嫌なので誘いを断りたい。大学生が女子高生にご飯をおごってもらうなんていう情けない真似はしたくないという気持ちもある。

「いや…。そんな。いいですよ。本当、僕怪我とかしてないですし。」

「いいからいいから。暇なんでしょ?まあご飯って言ってもそこにあるマックになるけどさ。遠慮しないで行こうよ。」

そう言ってK女子高生はY大生の手を掴み、近くのマックへ向かって歩き出す。180cm近いK女子高生の力に150cmのY大生が抗えるわけがなく、Y大生は半ば力づくでマックへと連れて行かれる。
K女子高生はY大生の手を掴みながら、その手の小ささに再び母性本能をくすぐられ、胸がキュンとなる。

こうして無理やりに近い形で二人はマックに入った。

「ねえ。何食べる?好きなの選んでいいよ?」

「じゃあ、チーズバーガーセットお願いします。あ、お手洗い行っていいですか?」

「OK~。じゃあ私も同じやつ頼もうっと。先に二階の席に座っとくからね。」

そう言ってK女子高生はてきぱきと注文を済ませる。その間、Y大生は慌ただしく店の中にあるトイレに行った。少しでもK女子高生との会話の時間を減らすためにトイレに逃げたとも言える。

注文を終えてK女子高生は座席のある二階に向かおうとするが、Y大生のパスケースが床に落ちているのに気がつく。Y大生が慌ててトイレに行った際に落としたようだ。

「これってあの子のパスケース?」

そう言ってK女子高生はパスケースを拾い、二階に向かう。
座席を探すが、人が多く空いているテーブル席はない。仕方ないのでカウンター席に座る。
座席を見つけ、暇になったK女子高生はなんとなくY大生のパスケースを眺める。どうやらパスケースの中には定期券が入っているようである。
定期券に書かれた駅名が目に入る。

「へぇ。あの子って結構近くから通ってるんだ。」

そう独り言を言いながらK女子高生はパスケースをなんとなくながめている。すると、パスケースの中からカードが落ちてきた。

「ん?何か落ちてきた。これって学生証か。って…!?え!?!??!!?」

Y大生の持っていたパスケースを見たK女子高生は驚いた。そこにはY大学法文学部3年生と書かれていたからである。
それまでY大生のことを中学生だと勘違いしていたK女子高生は唖然とする。

「あの子…。もしかして大学生だったの…?」

混乱しながらも記憶を整理すると確かに思い当たる節はある。学校はどこかと尋ねた際に彼はY大と答えていた。K女子高生はY大生の小柄で幼い見た目から勝手にY大付属中だと思っていたが、それは誤解だったようである。

「げーっ。私めっちゃ失礼なことしてたじゃん…。」

K女子高生は自分のやってきたことの失礼さに冷や汗が出る。しかし、Y大生は年下扱いをされても一切自分が年上だと名乗らなかった。それどころか、ご飯をおごると言ったときも黙って手を引かれてついてきていた。

もしかしたら、Y大生は年下扱いされることもまんざらではないと感じているのではないか。年下の女子高生に甘えるのが恥ずかしいだけで、きっかけさえ与えてあげれば、年下扱いしてあげたほうが喜んでくれるのではないか。
K女子高生の頭にはそんな考えがよぎる。

「これは真意を聞いてみないとね…。」

そうこうしているとY大生がトイレを済ませ、K女子高生を探している姿が目に入った。

「あ!こっちこっち!」

K女子高生は笑顔でY大生に向かって手を振り、自分の座っている場所を教える。可愛い笑顔で自分に向かって手を振るK女子高生のしぐさに、Y大生は少し照れながらK女子高生の方へ小走りで向かう。

「可愛いなぁ…。」

K女子高生はぼそっとつぶやく。
Y大生が年上と分かった現在でも、照れながら自分の方に近づいてくるY大生の姿はとても年上に見えない。

「カウンターしか空いてなかったんだ。はい、君のチーズバーガーセット。」

そう言って、K女子高生はチーズバーガーセットを差し出す。

「あ、ありがとうございます。」

Y大生はK女子高生の隣のカウンター席に座り、K女子高生を見上げながらお礼を言う。
二人で並んで同じ高さのカウンター席に座っても目線はK女子高生のほうが高いのである。30cm近く身長が高いので当然といえば当然であるが、座ったときでも己の小ささが強調されているようで、Y大生は軽くため息をつきうつむいてしまう。
しかし、うつむいた視線の先にはK女子高生のスカート、そしてスカートから延びる長い脚があった。現役女子高生の生脚が視界に入ったことで、さきほどの情けない気持ちは吹き飛ぶ。ついつい鼻の下を伸ばしながらさらに視線を下ろすと、K女子高生の履いているローファーは完全に床に着いていることに気付く。一方でY大生の足は宙に浮いている。Y大生は自分とK女子高生の足の長さの違いに劣等感を感じ、再びため息をつく。

「ねえ。ちょっといい?」

K女子高生の脚に夢中になっていたY大生は突然話しかけられてびっくりする。もしかして生脚を凝視していたことがばれたのではないかと少し冷や汗が出る。
K女子高生はY大生が自分の脚に夢中になっていることには気付いていた。しかし、Y大生のそんな下心さえも可愛いと思うほどY大生の可愛さにメロメロになっていた。脚を眺めていたことを指摘してY大生の困った顔も見たいが、今はそれよりもなぜ年上だということを黙っていたのかを聞かねばならない。

「これ、落ちてたんだけど、君、大学生だったの?」

K女子大生は落ちていたパスケースと学生証をY大生に差し出しながら言った。
突然のことにY大生は驚く。K女子高生に学生証を見られてしまったのである。言い訳のしようがない。年上であることがばれてしまった恥ずかしさからY大生は顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる。言い訳を言おうとするが何も思い浮かばない。
二人の間に沈黙が走る。
沈黙を破ったのはK女子高生であった。

「なんで年上って黙ってたの?」

K女子高生は座ったままY大生を見下ろして尋ねる。
Y大生はしどろもどろになりながらも答える。

「えっと…。電車で会ったときに年下だと思われてたみたいで…。それを訂正するのが恥ずかしくて…。」

Y大生は素直な気持ちを答えた。
するとK女子高生はY大生の肩を抱いて自分の方に抱き寄せる。そしてY大生に目線を合わせるように顔の高さを下げて、至近距離でY大生のことを見つめる。
急に顔を近づけてきたことにY大生は驚く。

「え?な…なんでしょうか…。」

K女子高生の髪から漂う良い匂いに包まれて、少しドキドキしながらY大生は尋ねる。
一方、Y大生とは違った意味でK女子高生もドキドキしていた。薄い肩、細い首、きめ細かい肌、Y大生を近くで見れば見るほど、あまりの可愛らしさにK女子高生の心には母性本能とは少し違った独占欲がむらむらと湧いてくる。

「まあ、年下のふりしてたのは変な理由じゃなさそうだし、私をだましてたことは許してあげるよ。でも、今さら君のことを年上だとは見れないし、何より君可愛すぎて年上に見えないんだよねぇ。だから、君のことは今まで通り年下の子って感じで扱うけど、それでいい?」

K女子高生がY大生を至近距離で見つめながら一気にまくしたてる。
今まで年上であることを黙っていたY大生に反論の余地はない。

「はい。それでいいです…。」

Y大生はそう答えるしかなかった。

「やったぁ!私のほうが年下だけど、遠慮せずに甘えていいからね!君みたいに可愛い子なら大歓迎だよ!」

そう言って、K女子高生はY大生の肩を抱いた手をぐいっと引き寄せて頬ずりをする。

「こ、ここマックの中ですよ…。」

「あはは。ごめんごめん。うれしくてついつい。」

Y大生の言葉にハッとしたK女子高生は照れながらY大生を解放する。
腕の中から解放されてY大生はホッと安心する。しかし、K女子高生の発言にY大生は再び緊張することになる。

「ところでさ、さっき私の脚をにやにやしながら見てたでしょ。」

Y大生はドキッとする。確かに先ほど座席に座った時にK女子高生の長い脚をいやらしい目で見ていた。そのいやらしい目線がK女子高生にバレていたようである。Y大生は何も言えずにおろおろする。

「別に見るのは良いけど、勝手に触ったりしないでね。もし触ったら蹴り飛ばすからね。」

K女子高生は不機嫌そうな声で言う。年下とはいえ自分よりも30cm近く大きな女の子に怒られ、その迫力に圧倒されてしまう。

「はい…。すいません。」

Y大生はただ謝るしかない。

「なーんてね。嘘だよん。私全然怒ってないよ。むしろ私の方が君のすべすべなお肌を触りたいくらい。君の方から私に触るのは全然OK!それに私が君のこと蹴ったら大怪我させちゃうかもしれないもんね。そんな酷いことしないよ。」

完全にK女子高生に遊ばれている。
Y大生は肉体だけでなく、精神的にも完全にK女子高生に負けていると感じた。

「あはは…。」

女子高生に手のひらで転がされている現状にY大生は力なく笑う。
一方で、Y大生で遊んでいるK女子高生はY大生の反応が可愛くてしょうがないようで、満面の笑みである。

「君、いちいち反応が可愛いんだもん。そんなんじゃ悪い女の子に遊ばれちゃうよ?」

そう言いながらK女子高生はY大生の頭をなでる。
二人の関係性はこうして決まったのである。