「愛ちゃ~ん。。。」

たかしは完全に愛の虜になっていた。以前のたかしなら愛にここまでデレデレすることはなかったであろう。たかしの心境の変化の原因は身長が逆転してしまったことにあるのかは誰にも分からない。しかし、今たかしは現に愛にデレデレと甘えている。ベッドにあおむけになった愛の胸元に顔をうずめるようにしてたかしは愛の上に乗っているのである。

たかしの顔は愛の胸元にあるにも関わらず、もちろんたかしの足先は愛の足先には届いていない。それほどまでに二人には圧倒的な身長差があった。愛はこのように腑抜けになってしまったたかしを優しく抱きしめている。あたかも母親がわが子に対して抱くような慈愛の気持ちをたかしに対して抱いていたのかもしれない。

「たかし~。可愛すぎるよ~。」

そう言って愛はたかしをぎゅっと抱きしめた。愛はいつのまにかたかしのことを呼び捨てで呼んでいた。昔ならありえなかったことである。しかし、愛はたかしのことを完全に守ってあげる対象、母性の対象と認識していた。
身長195cmの愛が142cmのたかしを抱きしめるのは容易なことである。小さな子供を抱きしめるかのように愛はたかしの胴に軽々と手を回し、また、愛はその長い脚もたかしの短い脚にからませた。もはやはたかしは自力では愛から逃れることはできない。しかし、たかしにはそれがむしろ快感であった。

2人はひたすらいちゃついた。正確にはたかしが甘えて愛はひたすらそれを慈愛の心と圧倒的身長差で包みこんだと言うべきであろう。
いずれにしても2人は信頼と愛情で結ばれていた。
しかしそんな二人にも別れの時がきた。

「あっ。こんな時間。そろそろ晶子とかお母さんが帰ってきちゃうよ。」

愛がたかしをだきしめながらそう言った。晶子とは愛の中学三年生の妹である。長身の愛に似て晶子は身長198cmもあり姉よりも背が高いのだ。なお、今日は愛の家族が誰もいないことを前提でたかしは遊びに来ている。愛の家族に見つかるとあいさつやらなんやらで面倒なことになる。

「う。。。本当だ。。。もう少し愛といちゃいちゃしたいけど、そろそろ帰らなきゃいけないか。。。」

そう言ってたかしは立ち上がった。いつ母親や晶子が帰ってくるか分からないので愛も急いでたかしを玄関に追いやる。

玄関でたかしは急いで22cmの自分の靴を履く。玄関にあるどの靴よりも圧倒的に小さな靴だ。たかしの横には愛の29cmの大きなブーツが鎮座している。たかしがこのブーツを履いたら一歩も歩けずにずぽっと足が抜けてしまうであろう。

「じゃあな。いろいろありがとう。」

そう言ってたかしは愛の返事を聞く前に愛の家を出ようとした。どうせ夜はLINEで愛と通話できるのだからそんなに玄関でだらだら話す必要はないとたかしは考えたからである。
しかし、愛はたかしの腕をがっちりと掴みたかしが帰るのを引きとめた。

「ねえ。お別れのキスしてよ。」

愛はそういって立ったまま黙って目をつぶった。
立ったままキスをしてくれということだろう。しかし、当然身長142cmのたかしはどんなに背伸びをしても身長195cmの愛の顔まで唇が届くわけがない。
届かないことが分かったうえで愛は意地悪をしているのである。

たかしは一応背伸びしてみるが愛の唇にはまったく届かないことが分かった。
だが、届かないと素直に言うのは悔しい。
そこでたかしは愛の大きな手をとり、自分の口元まで持っていくと手の甲にキスをした。

「え!?」

予想外の行動に愛はびっくりして目を開けた。

「だって口まで届かないんだもん。これでいいだろ?」

たかしは顔を少し赤くしながら言った。

「うふふ。ありがとう。」

愛はそう言うと手をたかしの両肩にのせ、腰を大きく曲げてたかしの顔の高さまで顔を下げてたかしに軽くキスをした。
彼女に大きくかがんでもらってのキスに少し恥ずかしさを感じながら

「じゃあな。」

と言って、たかしは急いで帰っていった。

手の甲にキスするなんて可愛いな~。今度は足の甲にキスさせてみようかな。なんてね。

愛は心の中でそう思いながらたかしを見送った。

そそくさとたかしは愛の家を出て、自分の家に向かった。しかし、愛の家から出ていくたかしの姿を目撃した者がいた。たまたま帰宅していた晶子である。
晶子は縮小する前にたかしに出会ったことがあり、たかしが縮小病にかかったことは知っていたが縮小した姿を見たのは初めてであった。

こんなに小さくなった男の人とお姉ちゃんは今でも付き合ってるの?なんで?こんな小さな男とお姉ちゃんじゃ絶対に釣り合わないよ。

そう思って晶子はたかしの後を尾行した。そして、人目が少ない路地に入ったところでたかしに声をかけた。

「たかしさんですか?」

たかしは振り返った。ふりかえるとそこには愛の妹の晶子がいた。身長198cmの晶子は愛よりも細いとはいえ身長は高いので威圧感はそれなりにある。制服姿なので学校帰りなのであろう。

「ああ。そうだよ。晶子ちゃん?久しぶりだね。どうしたの?」

たかしが晶子を見上げながら話しかけた。

「たかしさんは今もお姉ちゃんと付き合ってるんですか?」

「ん?まあ、付き合ってるけど。。」

たかしは突然の質問に戸惑うが、晶子を見上げながら答えた。

「私、たかしさんみたいな小さな人がお姉ちゃんと付き合うのっておかしいと思うんです。」

晶子はそう言うと、財布を取りだした。

「あっ。それ俺の財布じゃん。」

「そうなんです。慌てて家から出て行ったからうちの前に落としてたんですよ。」

晶子はにっこりとほほ笑みながら答えた。

「私はあまりにも弱い人とお姉ちゃんが付き合ってほしくないんです。だから、この財布を3分以内に私から取り返せたらお姉ちゃんと付き合うのを認めてあげます。もしも取り返せなかったら、お姉ちゃんと別れて下さい。というかお姉ちゃんに近づいた瞬間にたかしさんのことをぼこぼこにしますね。」

「え。。。」

たかしは反論しようとしたが、晶子は話し続けた。

「じゃあ始めますね。よーい。スタート!」

そう言うと晶子は財布を高く持ち上げた。198cmの愛が高々と鍵を揚げたのである。おそらく250cmは軽く超えている。

たかしはぴょんぴょんと飛んで晶子が持っている財布を掴もうとするが全く届かない。晶子の頭にすら手はとどいていない。

「たかしさん。頑張ってくださいよ。お姉ちゃんと付き合いたいんじゃないんですか?全然届いてないですよ?私の頭にすら届いてないじゃないですか。ほらっ!ほらっ!頑張って!」
晶子はたかしのことをにこにこと見下ろしながら応援しているが全くたかしは届かない。

「ほら~。ここまで下ろしたら届くんじゃないですか?」
晶子は財布を持っている手をたかしの頭の少し上くらいまで下ろした。
たかしは頭上の財布をつかもうと手を延ばすがギリギリのところで晶子が上に持ち上げてしまう。たかしの腕の長さではわずかに届かない高さまで持ち上げるのである。

たかしは再びぴょんぴょん飛んで財布をとろうとするがわずかに届かない高さまで晶子が財布を持ち上げてしまう。

しばらくたかしは財布を取り返そうとしたが全く届かず、ついにたかしはバテてて座りこんでしまった。

「ぜぇぜぇ。。。もう。。。返してくれ。。。」

たかしは苦しそうに晶子に頼んだ。

「え~。じゃあお姉ちゃんと別れて下さいね?別れてくれたら財布返してあげますよ。」

晶子が微笑みながら残酷なことを言う。

「それは…嫌だ…。」

たかしは息を切らしながら答えた。

「財布は返してほしいけどお姉ちゃんとは別れたくないなんて、そんなわがまま通じるわけないじゃないですか~。お姉ちゃんと付き合いたいなら財布を自力で取りにきてくださいよ。」

にこっと財布をたかしの目の前に差し出しながら言う。たかしはその財布を掴もうとするが晶子は当然再び届かない高さに持ち上げてしまう。

必死で彼女の妹から財布を取り戻そうとしているのに、全くかなわない。そして早く取り返さないと彼女に会えなくなる。そんな状況にたかしの気持ちは追い込まれすぎて涙が出てきてしまった。彼女の妹に泣かされるという最高に格好悪い状況だったがたかしは涙を止められなかった。

泣きだしたたかしを見て晶子が慌てだした。

「え?嘘?泣いてるんですか?え?え?私やりすぎちゃいました?」

晶子はおろおろしながら財布をたかしに渡した。

「本当すいません!今までの全部冗談ですよ!私がお姉ちゃんとたかしさんの恋愛に口を突っ込む権利があるわけないじゃないですか。落とした財布を普通に渡すのもつまらないんでちょっとからかっただけですよ。」

「なんだ…。そう…なんだ…。うう。うわーーん。」

急に安心したせいで、今まで我慢していた感情が一気にあふれ出てたかしはその場にへたりこんで号泣してしまった。

「はわわわ~。泣かないでください~。私が悪かったです~。」

地面にへたりこんだまま泣かせるのはさすがにまずいと思い、晶子は近くのベンチまでたかしの肩を抱いて連れて行き、ベンチに座らせた。晶子はたかしの横に座りたかしをぎゅっと抱きしめた。たかしは晶子の胸に顔を埋めながら泣いている。晶子はたかしが泣きやむまでたかしを抱きしめて頭をなで、背中をさすり続けたのであった。