俺の家族は長身一家として有名だった。俺が大学入学時の家族の身長は
父204cm
母190cm
俺・たかし208cm
妹・ゆい(高一)196cm
妹・はるな(小五)175cm
というものだった。父と母は有名なバレー選手で、結婚を発表した時にはマスコミが日本一の長身夫婦として大々的に報道したらしい。今は二人とも現役は引退したものの、日本各地を飛び回りながら後進の指導を熱心にしている。

俺も両親譲りの長身を生かし、バレーをしていた。俺のバレー人生は順風満帆で中学、高校では日本一になることもできた。さらに高校時代には一つ年下の可愛い彼女もでき(可愛いと言っても身長195cmはあるが、俺から見たら小さくて可愛い彼女だ)幸せの絶頂だった。そして、とうとうオリンピック日本代表選手の候補として注目されるほどにまでなった大学一年生の夏に、俺は縮小病にかかってしまった。

俺は最先端の縮小病治療を受けられるという海外の大学病院に入院した。どのくらい縮小するかは個人差が大きく、手のひらサイズになることもあり得ると医者に言われ、恐怖に震えながら入院生活を過ごしていたが、秋頃には142cmで落ちついた。もともとの身長が高かったせいか最先端の治療のおかげか分からないが日常生活に支障がでるほど極端に小さくならずに済んだ。とはいえ、142cmではバレーの選手としては背が低すぎる。俺はバレーを引退せざるをえなくなってしまった。

そして今日、ようやく退院して帰国。今日も両親は地方で仕事らしく、俺は一人で飛行機に乗り、日本に到着後はタクシーで帰宅した。こう書くと薄情な親のように見えるが、両親は有名なアスリートだったので、各地から仕事が舞い込み、多忙なのである。入院中は海外までわざわざ何度もお見舞いに来てくれた。

いよいよドアの前に立った。縮小前にくらべてかなりドアが大きく感じられる。当然といえば当然だが、縮小してしまったという事実を改めて突き付けられているような気がして少し気分が重くなる。

インターホンを押す。確か一番下の妹のはるなが家にいるはずだ。

「はい。どちらさまですか。」

インターホンからはるなの声が聞こえる。

「俺だよ。兄ちゃんだよ。帰ったぞ~。」

「え!?お兄ちゃん?今ドアあけるね!」

はるなの元気そうな声が聞こえた。どたどたどたとドアの向こうから音がする。相変わらず元気なやつだ。確かはるなは身長175cmだったはず。あれほど可愛がってやっていたはるなが俺より大きいってのは想像できないなぁ。

ガチャリ

鍵の開く音がし、ドアが開けられた。

「わあ。お兄ちゃん!!久しぶり!病気治ったんだね!!!」

そこにははるなが満面の笑みで俺を見下ろしながら立っていた。俺の目線はちょうどはるなの胸くらいだろうか。

「ああ。病気は治ったよ。身長は縮んじゃったけどね。。。」

「うーん。でも、小さいお兄ちゃん可愛いよ!」

はるなは俺の頭を大きな手でなでながら言った。はるななりに慰めてくれているのだろうが逆にへこんでしまった。末っ子で散々可愛がってやったはるなに頭をなでられながら「可愛い」と言われる日がくるとはな。

「ははは。ありがとう。」

はるなの気遣いに一応礼を言う。

「うん。お兄ちゃん元気出してね。あ。荷物はそのスーツケースだけ?」

「ん?ああ。そうだよ。」

「じゃあスーツケースはお兄ちゃんの部屋に運んどくね。」

はるなは俺に手を差し出した。スーツケースを渡せという意味だろう。

「いや。いいよ重いし。自分で運ぶよ。」

このスーツケースは本当に重いのだ。俺が両手でやっともてるかどうかという重さだ。自分より大きいとはいえさすがに妹に持たせるわけにはいかない。

「いいからいいから。お兄ちゃんは小さくなって力が弱くなってるだろうから、重いものは持ってあげるよ。」

はるなは久々に見た兄の小ささに自分に弟ができたかのような気持ちになっていた。昔から弟がほしいと思っていたはるなは小さくなった兄が可愛らしくてしょうがないのだ。スーツケースをはるなにもたせまいとする兄の姿は小さな弟が無理をして姉の代わりに重たいものをもってくれようとしている姿と重なり、はるなはついつい微笑ましい気持ちになってしまう。

一方俺は小さいとか力が弱いとかストレートな表現に少しむっとしてしまった。

「大丈夫だって。このくらい自分で運べるさ。」

そう言って俺は22cmの自分の靴を脱ぎ、26cmのはるなのものと思われる靴の横にならべた。足の大きさでも圧倒的に負けてしまったようだ。。。そんなことを一瞬思った後、スーツケースを持ち上げて家に上がろうとした。

俺は玄関にある段差を上がるために足をあげたが、自分が縮んだことを忘れて、昔の感覚のまま足をあげてしまった。そうなると当然段差を上がりきれるわけがなく、スーツケースを持ち上げていたことも相まってバランスを崩してしまった。

「うわ!」

「きゃっ!」

俺はバランスを崩し、はるなのふくらみかけの胸へダイブ。妹は軽々と俺を受け止めた。こうして妹に抱きついてみるとやはりはるなはでかい…。こんなでかいやつと昔は遊んでやっていたのか。。。そんなことを思っていると

「もー。やっぱり危ないじゃん。私が運ぶから大丈夫だって。」

妹が俺の肩に手を置きながら少々不機嫌そうに言った。

「でも…」

俺が反論しようとすると

「大丈夫大丈夫。可愛いお兄ちゃんのためだもん。スーツケースくらい持つよ。」

そう言ってはるなは俺のスーツケースを片手で持った。

「軽い軽い。これくらいなら私で大丈夫だよ!」

はるなは俺のスーツケースを持って、二階にある俺の部屋に運んでくれた。175cmのはるな相手でこの力の差である。196cmのゆいとの力の差は恐ろしいほどあるだろう。。妹との力の差に怯えつつもなんとか兄としての威厳を守ろうと俺は誓った。