※このSSは「小さいノゾミと大きなユメ」の二次創作SSです。原作の最終盤のネタバレを含んでいます。また、オリキャラ要素も含まれているので苦手な方は注意。

「ノゾミお姉さん大変です!!」

耳が裂けるかと思えるほどの声でナエがノゾミという少女を呼ぶ。

正直、大声は止めてほしいのだが…。

「そんなに慌ててどうしたのナエちゃん?」

ノゾミと呼ばれた少女は私には気付かずナエに聞き返す。

「これを……いや、この人を見てほしいんです!」

ナエはそう言うとポケットから”何か”を取り出し、彼女に見せつける。

「えっ!?これって……」

ノゾミという少女もさすがに驚いているようだ。

だって、私は………







時は遡り、約1時間前。

私は神社の境内で目を覚ました。

…それも、とてつもなく巨大な木の葉の上で。

最初は何もかもを疑った。
この世界が大きすぎるのであって私が普通なんだと思い込みたかった。

だが、首を痛いほど上げなければ見えない神社の屋根、鈴、木製の階段など全てが私の方が小さいのだと言わんがばかりに規格外の大きさをしていた。

…はて、どうしてこうなったのだろうか?

しばらく唖然としてから記憶を辿っていこうとした。

しかし、その瞬間、



ズシィィィン……ズシィィィン……



地震かと思うほどの振動と轟音が鳴り響いた。

一体何が起こったんだ?と音の鳴った方へ振り返る。

あれは…!

その先には巨大な巫女服を纏った少女がこちらの方へと歩いてきていた。

巨大な神社には巨大な巫女、この世界では私が小さいのだと改めて認識した。

綺麗な黒色をした長めの髪に丸の髪飾りがこっちからみて顔の右側に二本、顔は柔らかくどこか優しそうな表情をしている。

その右手には大きさに見合ったホウキがあった。

神社、巫女、ホウキ。
この三つが揃えば彼女が行うことはただ一つ。

「さて、今日も朝のお掃除を始めましょう!」

まだ距離はあるというのにも関わらず、鼓膜が破れそうなほどの音量で巫女はハッキリとそう言った。

今から掃除するということは私があの巨大なホウキで掃かれてしまうかもしれないということだ。

そうなってはホウキにミンチにされるか運良くミンチを免れても木の葉と一緒にゴミ扱いを受けるだけだ。

いや、待てよ?

もしかすると気付いてもらえるのではないかと一瞬思い付いた。

だが、それは巫女に近付く必要があり、とてもリスクが高い。

ズシィィィン……ズシィィィン……

そんなことを考えてる内に巫女はホウキで掃きながら徐々に近付いていっている。

足元をそこまで気にしていないのか巨大な黒塗りの下駄で木の葉を踏み、石ころを蹴飛ばしている。

私よりも大きな木の葉ですら彼女の目に止まらないのだ。やっぱり気付いてもらうのはダメだろう。

となると今すぐ逃げるしかない。
しかし、どこへ?

巫女とは反対側に階段、登って建物内に入れるかと言われると無理なくらい高さがある。

階段をよく見ても入り込めそうな隙間すらない。

なら階段から視線を横にずらそう。

…あった!

神社の軒下、それも巫女が這いずってやっと入れそうなぐらいの大きさだった。

ズシィィィィィン……ズシィィィィィン……

まずい、大分近付いてきている。

私は巫女との距離を確認すると同時に軒下まで行こうと走り出した。

何十秒かは走っているが中々軒下までは辿り着かない。

その間に段々とホウキを掃く音と巫女の足音が大きくなっていく。

後ろを見ている暇はない。ただひたすら走らなければ……!

そう思った瞬間



ドスゥゥゥン!!



凄まじい衝撃波が私に襲いかかった。

軽く吹き飛ばされたが何とか尻もちをつく程度で済んだ。

前を向くとそこには漆黒色の艷やかな物体とその上には真っ白な布が覆い被さっていた。

おそらく巫女の下駄と足袋だ。

危なかった…。あと少しでも位置がズレていたら間違いなく踏み潰されてただろう。

肝心の巫女はというと色っぽい声を出しながら大きく伸びをしていた。

何分も手を動かし続けていたから一旦止めたのだろうか?

何にせよ今がチャンスだ!

私は体勢を立て直すと再び軒下へ向かって走り出した。



「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

ここまで来れば大丈夫だろう。

私はすっかり息を切らしていたが、安心感が出た事により自然と身体の力が抜けていた。

さて、これからどうするべきか…。

軒下はほとんど真っ暗だが出口の光は見えている。

戻るのは危険なのでひとまず反対側の出口に向かって歩くことにした。







明かりが大分近付いてきた。

やっと外に出られると思い、走ることにした。

太陽の光に照らされると周りの景色がよく見えるようになった。

そこには私よりも背の高い植物が無数に生えていた。
…どうやら神社の裏側はあまり手入れされてないようだ。

他に何かないかと見回してみる。

すると無数にある植物よりも大きく目立つ存在がいた。

全体的に紺色で若干の膨らみがありつつも引き締まった曲線、丸い頭にそこそこの大きさのクチバシ、そして黒点の目…

…目?

まずい、巨大な鳥と目が合ってしまった。

バサァ……パシッ!

すぐに逃げようとしたが既に遅く、私は巨大なクチバシに捕らえられてしまった。

普通の人間である巫女にすら追い付かれたのだ。人間より素早い鳥から至近距離で逃げられるはずもなかった…。

バサッ……バサァ……

私を捕らえた鳥はすぐに飛び出し、大空を翔けていく。

いいなぁ……一度空を自由に飛んでみたかったんだぁ……。

と、死を覚悟した私は現実逃避のような事を考えていた。

このまま雛鳥のエサとして一生を終えるんだろうか……ホウキに掃かれて死ぬよりはマシかもしれないな……

そんな事を考えながら全てを諦めた私はとりあえず目を閉じることにした。







「……鳥さん、どうしたんですか?」

…何か子供らしい声が聞こえてきた…。

「えっ?渡したい物があるんですか?」

…きっと幻聴だろう…。

「”この間頼まれてたヤツ”って言われても…」

…とうとう幻聴まで聞こえてきたのは現実逃避しすぎているなと我ながら思った。

「分かりました。それじゃあ受け取っておきます。」

その幻聴が聴こえた瞬間、眩しい光に包まれてどこか柔らかい場所に落とされた。

…ああ、今から餌付けされるんだな。

「これって…………ええぇーー!?」

幻聴にしては大きすぎる声に驚いて思わず目を開けてしまう。

するとそこには巨大な…といっても巫女よりははるかに小さな…少女が驚いた顔でこっちを見ていた。

「ワタシたちより小さなこびと……!?」

「…あれ、私、今から死ぬんじゃないの?」

「死ぬどころか助けられてますけど!?」

この少女とは圧倒的な大きさの差がないからなんとか会話できそうだ。

「えっと……ここはどこ?」

「ワタシの手のひらの上ですが…」

そう言われて自分が落とされた場所を触ってみると子供の手らしい、何ともぷにぷにした感触が伝わってきた。

「ちょっ…くすぐったいですって…」

「あっ…ごめんなさい。でも”助けられた”ってどういう…?」

「そこの鳥さんにワタシたちと同じようなこびとがいないか探してきてほしいって頼んでいたんです。」

「…えーっと…」

同じようなこびと…?
鳥さんに頼んだ…?

「つまり、私の他にもこびとがいてあなたも大きいけどこびとで…」

「ワタシ、動物とお話ができるんです。なんでなのかは自分でもよく分かっていないんですが…」

なるほど?

「あー……まあとりあえずノゾミお姉さんの所に帰ってから整理しましょう」

「自己紹介が遅れましたね。ワタシは中野苗と言います。」

苗…なえ…ナエ…。

「あなたは?」

「私……私は……」

そういえばどうしてこびとになったのか考えるのをすっかり忘れていた。

「思い…出せない……」

「あぁー……やっぱりですか……」

そんなハズレを引いたかのような顔をしなくても…。

「とりあえず鳥さん、ありがとうございました。」

ナエが鳥にお礼を言うとまた大空へと飛び立って行った。

「さて、帰りましょうかタッピー。」

そう言うとナエは彼女より少し大きなハムスターに乗っかる。
このハムスターがタッピーということだろうか。

「あなたはとりあえずここに居て下さい。」

私はナエのポケットにやや乱雑に突っ込まれた。

ポケットの中はナエ自身の体温で温められているからか、意外と居心地が良かった。







「というわけでワタシはこの人をノゾミお姉さんに見せに帰ってきたんです。」

「私たちですら小さいこびとのはずなのにまさかそれを上回るこびとがいたなんて…。」

ノゾミという制服姿のツインテールの少女は興味津々に私を見つめる。

「う〜ん、やっぱり揃いも揃って記憶喪失かぁ」

「こうなってきますとこれから会うこびともみんな記憶が無いと考えた方が良いですね…」

「あの…ということはお二人も…?」

「そう。みんな記憶喪失。」

「ノゾミお姉さん、でも記憶の手がかりぐらいはあるんじゃないですか?」

「ナエちゃん、どういう意味?」

「ノゾミお姉さんは確かそのリュックに色々入ってたって聞きましたが」

「あ!そうか。ならあなたもその和服の中に何か手がかりがあるんじゃ…!」

言われてみればずっと何かを持っていたような気がしてきて私は服の中を探し出す…

「えっと…多分これかな?」

すると出てきたのは硬そうな角材だった。

「「…えっ?」」

「…ナニコレ、つまようじ?」

「ノゾミお姉さん…ワタシたちサイズのつまようじなんてあるわけないじゃないですか。」

彼女たちにとってはつまようじみたく見えるみたいだ。
だけどこれは…

「思い出せない…思い出せないけど何かすごく大切なモノだったような…」

「…うーん、そんな大事なモノには見えないけど…」

「きっとノゾミお姉さんが夜な夜な見つめてはニヤニヤしてる手鏡みたいなモノですよ。多分」

「なっ!?何故ソレを知ってるのよ!?」

「タッピーからノゾミお姉さんの気に入らない所ワースト3として聞きました。」

「タッピーそういうところ嫌がってたの!?あと残り2つは何!?」

「秘密です。」

「…とりあえずこの角材はしまっておきますね。」

「…それにしてもあなた、一体どのぐらいの大きさなのよ?」

「ナエちゃん、ちょっと床に下ろしてくれる?」

ナエはコクリと頷くと私を置いた。
すると

ドン!

ノゾミのローファーが私のすぐ横に降ろされた。
思わず身構えてしまう。

「あ。ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだけど…」

「とりあえず、私のローファーと比べてみたいから寝てもらっても良いかな?」

言われたとおりに寝転がってみる。

ノゾミを見上げると黒光りするローファーや黒ストッキング、…パンツも見えるが言わないでおこう…その他制服を通りすぎると私を見下ろすノゾミの顔が見える。

綺麗な黒色をしたツインテールの髪に丸の髪飾りがこっちからみて顔の左側に二本、表情は柔らかいが少しキツそうな感じである。

…ん?

「えっと、私のローファーが大体2cmくらいだと思うからその4分の3、1.5cmくらい?」

「…あっ!」

「?……どうかした?」

「私、あなたにそっくりの巫女に遭遇した!」

「!?…それってもしかして…!」

「大きい方のノゾミお姉さん…ですよね?」

「詳しく聞かせてくれる?」







「やっぱりあの神社、絶対に私たちと関係あるんじゃ…!」

「とはいえ、前行った時は収穫ゼロでしたよ?」

「それに、その時のことを考えると危険過ぎます。せめてユメお姉さんに頼んで連れて行って貰った方が…」

「そうなんだけど、ユメには内緒にしておきたいことも出来たし」

「ノゾミお姉さん、まさかこの人のことを隠すつもりですか?」

「考えてみてナエちゃん、私たちがあのひきこもニートに命の危険を感じた時が何回あった?」

「それはまあ…そこそこありましたが…」

「私たちのサイズですら命の危機なのにこの人をユメと会わせたら…」

「うっかり踏み潰しちゃうかも…!」

「だからこれはせっかくの手掛かりを失う可能性もあり得るのよ!」

「あの…ユメさんって?」

「このドールハウスと部屋の主で私たちの協力者…みたいなものかしら。まあひきこもニートなんだけど…」

「ほらあそこ…」

ノゾミが指すところを見ると大きないびきをかいて寝ている巨大な女性の姿があった。あれがユメなのだろう。

「…お酒ぇ♡」

「変な寝言は言ってるけどまだ起きてないみたいだから、今のうちに色々話しておかないと…」







2人の話を聞いて大体の事は分かった。

私たちこびとは記憶喪失になっていること。
ナエは動物と会話が出来るが何故かネコだけは会話ができずにこびとを襲ってくること。
ユメ…大久保由芽は社会復帰に協力してくれる代わりとしてノゾミたちに力を貸していること。
ノゾミ…小岩望実は以前は1人でサバイバルをしていたこと。
ノゾミと瓜二つの女子高生がいてその人も”小岩望実”と名乗っていたこと。

そして、私が遭遇した神社の巫女はその”小岩望実”かもしれないということ。

「まずは神社に行くために色々準備しておかないとね」

「とはいえ、これはまたネコさんに襲われるパターンでは?」

「ふっふっふ、ナエちゃん、今回は私に良い考えがあるの!」







「大久保さーん、宅配便っすー!」

「ひゃっ!ひゃい!!」

「じゃあここにサインお願いするっす!」

「い、いつもありぎゃとうございまひゅっ!」

「あはは、どういたしましてっす」

ユメはいつも通り対人がニガテと…

「…ふぅ……」

「なぁ、ノゾちゃん?」

「なによ」

「どうして急にレモンなんて欲しくなったん?」

「そ、それは…」

まずい、神社に行くと言ったら絶対にあの人の事を説明しなきゃいけなくなる…!

なんとか誤魔化さなきゃ…!

「そ、そう!レモンはビタミンが豊富だから健康に良いのよ!」

「アンタは生活が色々と乱れてるからたまにはしっかりとした物を食いなさいよ!」

「ノ…ノゾちゃん……!ノゾちゃんがそこまでウチの事を考えてくれてるなんて……!」

ふっ、チョロい。

「半玉くらいはこっちに寄越してくれれば私もナエちゃんも十分な量になるから」

「わ、分かったで!」

そう言うとユメはキッチンでレモンを真っ二つにし、それを私の目の前に置く。

試しに持ってみるとかなり重いが私一人でもなんとか持てそう。
これならナエちゃんと一緒に持って歩くことができる。







「タッピーにこれをくくり付けて…これで良し!」

ナエのポケットから顔を出してる私はノゾミが着々と神社突入の準備を進めているのを見守った。

「なんか…何もできなくてすみません…」

「別に良いよ。その大きさじゃあ私たちよりも非力なのは間違いないだろうし。」

「それよりもナエちゃん、作戦は理解できてるよね?」

「もちろん、バッチリです。」

「よーし!それじゃあ神社に向かって…」

「「ゴー!!」」




そう言うと2人はタッピーに乗っかり、走り出した。

顔に当たる風が心地よく、程よいスピードで走ってくれているみたいだ。



しばらく進むとタッピーが急に立ち止まった。

「やっぱり来たわね…!」

先を見ると大きな黒ネコが行く手を阻んでいた。

「ナエちゃん、作戦開始よ!」

「はい!」

2人はタッピーから降りるとタッピーに括りつけていた物をせーので持ち上げた。
そしてそれを掲げつつ黒ネコへと息を合わせて近付いていく。

「ネコちゃんは……レモンの香りが苦手……!」

すると黒ネコは徐々に後ずさり、やがて遠くへ逃げて行った。

「…やった!」

「上手くいきましたね…。」

「ところでノゾミお姉さん、どうしてネコさんがレモンの香りを嫌がるということを知ったんですか?」

「それは…ユメのパソコンからネコちゃんの弱点を調べたからよ!この身体で操作するの大変だったんだから!」

「ほほー、ワタシ、ノゾミお姉さんのこと少し見直しました!」

「見直すってことは今まであんまり信頼されてなかったの!?」

そんなやり取りをしつつ二人はレモンを再びタッピーに括り付けて神社を目指す。

「この調子なら前に行った時よりも快適に進めそうね!」

「あ、ノゾミお姉さん、それフラグ」

ナエが何か言いかけたと同時にまたしてもタッピーが立ち止まる。

「…あれ?これなんかデジャヴ…?」

「ほら、やっぱりー!!」

周囲を見てみるとネコ、ネコ、ネコ。
私たちは完全に囲まれてしまっていた。

「さ、さっきみたいにレモンを持ちながら歩けば…!」

「移動はできてもネコさんたちにずっと囲まれたままですね」

「じゃ、じゃあレモンを持ってできる限りダッシュ!」

「あの重さじゃ無理があります!」

「えーっと…タッピーに囮になってもらうとかは…」

「タッピーがそれはもう嫌だって」

「…あの…」

見てられなくなって私はつい声を出す。

「なんとか包囲を抜けられる方法があるかもしれません。」







私の名前は小岩望実って言います。

高校2年生で裏山の神社で巫女さんもやってたりします。

今日は珍しく学校が午前中で終わったのでその帰りに神社の様子を見にきました。

「…おや?」

その道中、黄色い物が落ちていることに気が付きました。

私はそれをひょいと持ち上げます。

「どうしてこんな所にレモンが…?」

私が把握している限りでは近くにレモンが実るような所は無かったはずですが…

ここに落ちてるままだとネコさんが間違って食べちゃうかもしれません。

ネコさんにとってレモンは毒です。
ネコさんはレモンの匂いが苦手ですが、絶対に食べてしまわないという保証もありません。

「…これは処分しておきましょうか。」

私はレモンを持ったまま神社へ向かうことにしました。






「…なるほど、確かにそれならこのピンチから脱出できそうね」

「でもその方法だとレモンが置き去りに…」

「できれば帰りまで活躍してもらいたかったけど仕方ない…!」

二人はレモンから果肉を千切って両手に持ちました。
すると、一匹のネコに向かって走り出します。

「ええーい、ちょっとかわいそうだけど許して!」

二人は果肉を更に千切った後、それをネコの目を狙って投げた。

「…よし!」

果肉を投げられたネコは目に掛かったレモンの果汁に驚いて隙を見せた。

「ナエちゃん!タッピー!急いで駆け抜けるわよ!」

「言われなくても分かってます!」

そそくさと走り続ける二人と一匹。
なんとか包囲は抜けられたが…

「ぎゃあああ!やっぱり追いかけてくるー!」

ネコ一匹は良くても他のネコが逃げるのを許さない。

「このままじゃみんなネコちゃんのハンバーグになっちゃう!!」

「あ、私は大きさ的にそぼろになっちゃうかも…」

「ハンバーグかそぼろかなんて今はどうでもいいですー!」

このままでは埒が明かない。

「…えっ、タッピーどうしたの?」

「…分かりました。」

「ノゾミお姉さん!タッピーが後でナッツをくれるならまた囮になってあげても良いですって!」

「!」

「その前に…」

ずっとナエのポケットの中にいた私は急にナエの手に掴まれる。

「ノゾミお姉さん!パス!」

「えっ…!?きゃ…キャッチ!」

私はそのまま投げられてノゾミの手で掴み直された。ノゾミの手はちょっと艷やかで暖かさがあった。

「ワタシはタッピーと一緒にネコさんたちを引き付けます!」

私がナエの方を見るとまるで着ぐるみを着ているかのような姿でタッピーと一体になっていた。

「結局食べられてません!?」

「あぁー…やっぱ同じこと思うよねー…」

「二人とも!神社の調査は任せましたよ!」

ナエがそう言うとタッピーはネコたちに向かって突っ込んで行った。

「とりあえずあなたはポケットに入れて…っと」

ノゾミは走りながらも私をスカートのポケットに入れた。ナエのポケットとは正反対で風通しが良いのか、若干の涼しさがあった。

「…見えてきた!」

私はポケットから顔を出すと確かに巨大な神社が見えてきた。

「この神社で目が覚めたのよね?」

「はい。間違いありません!」

「それじゃあさっそく再調査しますか!」







「とは言っても…やっぱりごく普通の神社よね…」

ある程度は見回ったが手掛かりらしい手掛かりも無くただ時間が過ぎていく。

「あと見ていない所となると…」

「あの神社の中…ぐらいですね…」

「…あっ!」

ノゾミは何かに気が付くと私を取り出して見せ付ける。

「…この破れ目、私は無理でもあなたなら通れそうじゃない?」

そこには多少壊れて穴になっている隙間のある引き戸があった。

「…中に入ってみますね」

「中に何があるか報告よろしくね」

「はい!」

そう返事をして私は神社の中へと歩いた。

中は薄暗くて見えづらいがかすかに何かがあるのを感じ取った…!

「…あれは一体…?」

暗さに目が慣れてくると私が向いた方向には大きな縄とその縄に囲まれるようにこびと…それもノゾミやナエと近い大きさの…がたくさん居た。

ここにはたくさんのこびとが住んでいたとでも言うのか…?

いや、もしかして縄の外に出られないのか…?

よく見てみるとこびとたちは何かを諦めているかのような顔をしている。
中には弱ったかのような様子のこびともいた。
どう考えても故意にここに留まっているようには見えなかった。

…とりあえずノゾミに報告しなければ…

そう思った瞬間、

ゴゴォォォォォ!!

引き戸が動いて、辺りが眩しいくらいに照らされる。

「……!?」

そこには大きい方のノゾミが立っていた。







「…まだかな」

私はあの人を神社の中へ入れた後、ずっと帰りを待っていた。

「…!」

…誰かこっちに来る…!!

「…あれって、大きい方の私…?」

私に似た容姿だからか優しそうな雰囲気の子ではあるけど見つかったら何をされるか分かったもんじゃない!

「ごめん!後で迎えに行くから!」

そう言うと私はひとまず見つからないように隠れることにした。

あれ、もしかして大きい方の私は…

「お、お邪魔します。」

そんな私とは少し違う声色の声が聞こえると大きい方の私はさっきまで私がいた引き戸をゆっくりと開けていた。

「中に入るつもり…!?」

あの人は大丈夫だろうか…。心配になるが私が見つかってしまうリスクには勝てなかった。







「お、お邪魔します。」

学校帰りに神社まで着いた私は様子を確認するために中へと続く引き戸を開けました。
ここからは足元に気を付けなければいけません。

「…あれ?」

中が外からの光を吸って床が明るく照らしだされます。
そこには埃のような大きさのこびとさんがいました。

私はしゃがんでこびとさんを潰してしまわないように慎重に右手の二本の指で摘み上げます。

そしてもう一つの手のひらにこびとさんを降ろします。

「こんなに小さいこびとさんなんていたでしょうか…?」

こびとさんは何か喋っていますがあまりにも小さすぎてよく聞こえません。

「ご、ごめんなさい。私はこびとさんに危害を加えるつもりはないんです。」

さすがにここまで大きさが違うと暴れ出しても抑えられると思いますが念の為、敵意が無い事を伝えました。

するとこびとさんも理解してくれたのか喋るのをやめました。







私は大きい方のノゾミに捕まってしまった。
幸い、潰されることは避けられたが大きさに差がありすぎて一方的な会話しかできない。

「…うーん、ここまで小さいこびとさんは初めてです…。」

彼女から見ても私の小ささは特別なようだ。
大きい方のノゾミはしばらく考え込んだあと、口を開いた。

「こびとさん、もしかして何か持っていたりしませんか?」

ひょっとするとこの角材のことを言っているのだろうか?
そう思い、硬そうな角材を取り出す。

「これは…!」

すると大きい方のノゾミは何か心当たりがあるのか歩き出した。

ノゾミの動きが止まると私は何かの台の上に降ろされ、角材を取り上げられた。

「ちょっとお借りしますね!」

辺りを見回すとそこには私にとって大きな木製の人形とそれに繋がっている複雜そうな作りの何かが置かれてあった。

ノゾミは角材をそれに合わせようとする。

「…やっぱり!」

ノゾミが何かすると人形は小気味良い音を出しながら動きだした。
これは一体…?

「あっ…不思議そうな顔をしてますね。」

「これは絡繰り人形と言って、ここにあるものは江戸時代からあるらしいんです。」

「そして、あなたがどうしてそんな大きさでこの人形の部品を持っていたのかが分かりました。」

…!

「多分ですがあなたはこの人形に宿っていた神様で、部品が取れてしまってその部品からこびとさんになったんだと思います。」

「それも部品の大きさに合わせた小ささで。」

「元々、こびとさんはモノに宿る小さな神様なんです。それが力が弱くなったことでこびとさんとして一部の人に見えてしまうようになったんです。」

つまり、小さい方のノゾミとナエが私よりも大きいのは宿っているモノが私のそれよりも大きいからだろうか…?

そう考えていると…何故か身体の力が入らなくなり…立っていられなくなった。

「あっ!」

「小さいモノから生まれたこびとさんだから力が弱まるのが早いんだ!」

「どうしよう…鏡は置いてきてしまったし…」

「こうなったらイチかバチか私自身の神通力で…っ!」

一体…何をするつもりなんだろうか…。

「このままではあなたは消滅してしまいます…。だから、あなたには本来の姿に戻ってもらいます。」

本来の姿…あの人形に宿る神様ということだろうか…?

そんなことを思っている内にノゾミは何か力を込めて祈祷を始めた。

「…お願い!元の姿に戻って…!」

ノゾミの声が聞こえてくると同時に暖かい光に包まれる。

そして、次々に記憶が戻っていく…。







私は由緒正しい人形師の元で生まれた。
最初はたくさんの人に見せられ続けていたがどういうわけか段々と人に見られる機会は減っていき、各地を転々として様々な人々に所有されてきた。
そして、神社に奉納される事で長い間神社の中で大切に仕舞われていたのだった。

ある日、大きい方のノゾミが私を取り出して運んでいた時だった。

「……!」

ノゾミは何もないところで転んで私を盛大に落としたのだ。

「痛たたた…あっ人形が…!」

私の部品が飛び散り、ノゾミは何とか私を直そうと部品を組み立てていた。

だが、一つだけ部品が見つからずノゾミは困り果てていた。

段々と薄れていく私の意識の中でノゾミは仕方ないと諦めていたような気がする。

こうして私はこびとになり、記憶を失っていたのだった。







「やった…のかな…?」

私はこびとさんを元の絡繰り人形の神様に戻しました。

元はと言えば私のせいであんなに小さなこびとさんになってしまったのかもしれません。

人形に意識を集中します。

すると微かにですが何かしらの力を感じました。

「多分、成功しましたね…。」

私はホッとしました。
しかし、こんな事を目の前にすると他のこびとさん達にももうあまり時間は残されていないのかもしれません。

「一刻もはやくこびとさん達を元の姿に戻さないと…!」

私はネコさん達にもお願いしてこびとさん達を境内に集めてくるように言いました。







「…はぁ…」

「…ノゾミお姉さん?」

あの後、ナエちゃん達と合流して再び引き戸で待っていたり大きな声を上げてあの人を呼んでみたりしたけど、いつまで経っても帰ってこなかった。

せめて引き戸が開いていれば私たちも入れたんだけど大きい私はご丁寧にも引き戸を閉めてしまった。

途方に暮れて私たちはなんとかドールハウスへと帰ってきたのだった。

「ノゾミお姉さん、もしかして落ち込んでます?」

「そりゃあ…せっかくの手掛かりが行方不明になっちゃったんだから…」

「嘘。それだけではないですよね?」

「…本当は”私のせいで大切な仲間を失ってしまったー”とか”あの時私も神社の中へと突撃するべきだったー”とか思ってますよね?」

「…なっ!?」

「図星ですね。ノゾミお姉さんは分かりやすいです。」

「…そうよ。あの人は私のせいでいなくなっちゃったのよ…。」

「もしかしたら案外元気に過ごしているかもしれませんよ?他のこびとと出会った可能性だってありますし。」

「何より、そんなに落ち込むなんてノゾミお姉さんらしくないです。」

私らしくないか…ナエちゃんも中々言うようになってきたな。元々辛辣なところがあるけども。

「そうか…それもそうね。」

「あの人はきっと生きて帰ってきて私たちに手がかりをくれる!そう神様にでも祈っておきましょう!」

「それでこそノゾミお姉さんです!」

こうして私は神様に祈り出した。

…まあ神様が本当にいるのかどうか分からないんだけど。







もちろんノゾミ達が手がかりを得る事はないのだが、真実を知る時は徐々に近付いてきているのであった。

おわり