6月某日



梅雨の時期であるこの季節が私は嫌いだった。

今日は朝から強い雨が降っていて、登校中に傘を差して歩いていたが下半身はずぶ濡れ。

最初こそ傘があるししっかり差せば問題ないだろうと甘く見ていたが徐々に濡れていき、段々と歩くのが嫌になっていた。

「なぜ人類はもっと雨に対抗できるお手軽な道具を発明できなかったんだろう…。」

そんなぼやきをしながら、私は通うべき学校の中へと入って、傘入れに傘をしまう。

そして、下駄箱で履き替えようとローファーを脱いだ瞬間、あるモノに気が付いた。

そう、すのこの上に小さな人間たちがいたのだった。

小人に関しては日常茶飯事であり、虫みたいな存在なので別に驚くことはない。

ただ、この時の私は雨に濡れて苛立っていた。

どうして人間である私が必死に雨に濡れながら外を歩き、人間の住処にこびりつくしか能がない害虫にも似た小人たちはこの鬱陶しさを感じずに生きているんだろうか。

「…不公平だ。」

私はそう思うとびしょ濡れの靴下を脱ぐ。

濡れた繊維が足に触れる度に不快な感触がして気持ち悪いが脱いでしまえば何ともない。

自慢ではないが足の綺麗さには自信があった。

特に魚の目も無い足裏、整った足指。

あ、爪、長くなってきてるからそろそろ切った方が良いかも。

そんな事を考えつつ座り込みながらわざとらしく小人たちに足裏を向ける。

小人たちは見つかったと分かった瞬間から逃げようとしていたが走っても走ってもすのこの上からは出ていなかった。

「私の足を舐めて。でないと潰すよ?」

能がない小人といっても言葉は通じるので声をかけてみる。

すると小人たちは一斉にUターンをして私の足裏に走っていき、舐めだした。

こそばゆい感触が私の足裏から伝わってくる。

女の子の、それもこんなに綺麗な足を舐めさせてあげてるのだからきっと小人たちも嬉しいだろう。

私は一旦そう思う事にした。

まあ、脅してるからというのもあるだろうけど。

小人たちが私の足裏に夢中になっているのを確認すると、私は考えた事を実行に移すために脱いだ靴下を持ち上げる。

靴下はまるで水に浸けた雑巾かのようになっており、少し匂いを嗅いでみると何とも言えない臭いがする。

これは今日は履かないでおこうかな…。

でも乾かす必要はあるのでまずは絞らないとね。

私は小人たちが舐めている足の上に靴下を持っていった。

すると靴下からぽつん、ぽつん、と水滴が落ちていく。

その水滴は丁度、私の足裏の真ん中辺りを舐めていた小人に直撃していた。

小人はしばらく水滴の落ちた場所で暴れていたが少しするとピクリとも動かなくなった。

他の小人たちがそのざまを見た直後、慌てて私から逃げ出す。

「あっはは、舐めないと潰すとは言ったけど何もしない訳じゃないんだよね〜。」

「私がこんなにも雨に濡れちゃったんだから君たちも雨に濡れないと不公平だよね?」

「だから”私の雨”に濡れたら見逃してあげる。」

私は靴下を絞り込むと少量の水がすのこにかかる。

そして、そのまま逃げようとする小人たちに向けて”私の雨”をじっくりと近付けていった。

当然先ほど書いたように小人たちがいくら走ってもすのこの上から抜け出せないので足の遅い小人から”私の雨”に降られていく。

すると小人はすのこの下へと流されていき、その後はよく見えなかった。

そうして、すのこの上の小人たちをあっという間に全員流してしまった。

「…これで公平だね。約束通り見逃してあげる。」

まだ生きているかも分からない小人たちにそう告げた。

私は想像する。

自分よりもはるかに巨大な女子高生の雨に濡れた靴下、それもかなり臭い靴下から滝のような水に襲われて溺れ死ぬ。

一体どんな気分で死んでいくのだろうか。

でも私は人間であり、小人ではないのできっと理解できないのだろう。

「ま、ちょっと気分は晴れたかな。」

外からは強い雨の音が鳴り響いていた。







放課後



私は帰ろうと下駄箱を開けるとふと今朝の事を思い出す。

…確か、このすのこだったかな。

すのこを持ち上げるとそこには動かなくなった小人たちがうじゃうじゃと水溜りの中にいた。

「うわっ、キモっ。」

自分でやったことだろ。とすぐに思い直したがそれでもつい声が出てしまった。

「…まあ、せめて弔ってあげようか。」

害虫でしかない小人にここまで気遣ってあげられるなんて私はとても優しいなと自惚れる。

ポチャッ

私は足を上げると上履きの底で水溜りを踏みつけた。

丁寧に床と擦り合わせる。

そうすると小人たちの面影は消えて水溜りだけが残っていた。

「…証拠隠滅、とも言うかもだけど。」

今朝と同じように外からは未だに強い雨の音が鳴り響いていた。

また濡れなきゃいけないのかと思うと私は憂鬱な気分になっていった。