学校からの帰り道、元気なく丸められた背中を夕日が照らす。
頭の両サイドから伸びる長いツインテールもどこか寂しそうに揺れている。

「はぁ…先輩達とお茶したかったです…」

 ここ一週間はずっと部活の先輩達と部室でだらだら過ごしたり、放課後喫茶店

に繰り出したりしていた。
本当は今日も先輩達と楽しく過ごしたかったのだが、徐々に蓄積されつつある一

つの欲求があずにゃんの体から溢れ出しそうになっていたため一人渋々帰路に就
いたのだ。
 体がぶるるっと震える。回数が確実に増えている。

「うう。元に戻ってしまいそうです」

 ゾワゾワする体を抱きしめながら、ようやく自宅に辿り着いた。地球で生活す
るための重要な拠点であり、実際にはあずにゃん一人しか暮らしていない。
靴を脱ぐのも面倒で、土足のままずかずかと家に入っていく。ソファーの上にカ
バンとギターを少々乱暴に置くと、絨毯の上で姿勢を正し目を閉じる。ツインテ
ールが少し揺れた。




 ゆっくりと目を開ける。もうそこは夕方の薄暗い室内では無く、見渡す限りの
地平線。青の上にへばりつくように緑が広がり、その上に茶色や灰色がトッピン
グされている。

「ふぅぅ…。やっと開放されたです。地球は狭くて息が詰まりそうでした」

 開放感に満たされる体をぐっと伸ばした後、地面を観察するためにしゃがみ込
んだ。
両手を地面に着け、地面にこびり付く薄灰色の部分に顔を近付ける。
 あずにゃんのしなやかな指を持つ両手が、街や山脈を押し潰しながら大地に食
い込む。鼻先が触れそうなほど地面に接近すると、ようやく小さな小さな街並み
が確認できる。

「ふむふむ。文化レベルは地球と同じくらいです」

 舐めるように街を見下ろす巨大な瞳。突如現れた街を覆いつくすほどの少女の
顔に街は混乱に陥っていたが、あずにゃんからはその様子はもちろん確認できな
かった。
 ほこりの様な戦闘機が飛び交い、あずにゃんの顔に次々とミサイルを撃ち込む
が痛みを感じるどころか痒みも無い。
 鼻の下では1mmもしないような建物が呼吸の度吹き飛ばされ、空中に巻き上げ
られた後鼻の穴に吸い込まれたりしていた。

「今からこの惑星は私のモノです。遊んでやるから感謝するです」

 ふんと鼻を鳴らす。一際大きな鼻息で街の大部分が消し飛び、大きすぎる声は
衝撃波となりビルをなぎ倒し人間を粉砕する。

「まったく。相変わらずの弱っちさです。こんなのが繁殖できてるなんて信じら
れないです」

 呆れながら立ち上がり、壊滅寸前の街にローファーを翳すと一瞥もせずに振り
下ろしぐしゃぐしゃと周りの山ごと踏みにじった。




 あずにゃんの脱いだローファーが大陸に転がる。足のサイズは23kmほどなので
、それに合った大きさの靴だ。雲をつき抜け聳える姿はどの山脈よりも雄大だっ
た。
 制服に靴下姿になったあずにゃんが大地に座り込む。スカートを押さえる事も
せず、真っ白なパンツを微生物達に見せ付けながら小振りなお尻を地面にめり込
ませた。
 わざと街のある場所を選び、その上に座るようにした。あずにゃんの太ももと
パンツが世界を包み込み、大気を圧縮しながら落ちてくる。
 街に吹き荒れるむんむんとした生暖かい臭気が次第に濃くなってくる。街の中
心部を覆ってもまだ余るくらい巨大なあずにゃんの恥丘。白い布に包まれた柔ら
かい部分が、文明の象徴である強固な高層ビル群をまとめて磨り潰し地下深くま
でめり込んだ。

「ん?今何かお尻の下で押し潰してしまったようです」

 白々しく自分の股下で廃墟と化した街を見下ろすあずにゃん。腰を左右に捻る
と街はお尻で完全に磨り潰されてしまい、原形が分からなくなってしまう。

「さて、今日は体育があったせいで汗をかいたです。べたべたして不快だから綺
麗にしてもらうです」

 座ったまま黒いソックスを適当に脱ぎ捨てる。あずにゃんの汗を1日吸収し、臭
気を帯びた靴下が轟音を立てて山とそれを囲む森を押し潰す。
 靴下の脱ぎ去り、露になったあずにゃんの足。白く細いしなやかな両足は1日過
ごしてきたため汗にまみれていた。
 熱がこもっていたのか、あずにゃんの足からは薄く湯気が立ち上り、雲を形成
している。

「逃げる時間を与えてやるです。指の間までしっかり洗うです」

 あずにゃんの素足が街のすぐ数百m上空まで下ろされる。塵のような建物の間に
張り巡らされた糸より細い道路。その上を必死に逃げる人間達は悲しいほどに遅
く、23kmサイズのあずにゃんの足の下から逃げられた者は圧倒的に少なかった。
 周りの建物を壊さないようにそっと足を下ろす。何かを踏んだ感触は無かった
。大きな建物でも数mmしかなく、あずにゃんの足の裏に触れたとたん脆くも崩れ
去った。何万もの生物を押し潰しながら街にあずにゃんの素足がめり込む。
 優しく踏んだつもりだが、圧縮された空気が足の左右に逃げ周りのビルや車、
人間が巻き上げられ地面に叩き付けられ粉砕された。

「早く汗を落とすです。じゃないと惑星ごと押し潰してしまうです」

 足の指をわきわきと動かすあずにゃん。爪の上に1区画くらい乗せられそうなほ
ど巨大な指が動くたびに強烈な地響きが起こっていた。
 この我侭な侵略者に従うしかなく、街ではあずにゃんの足に向かっての放水が
行われていた。しかし指先だけで街のどのビルよりも巨大であるため、作業は困
難を極めた。
 加えて汗の臭いである。あずにゃんの足の周りは体温で暖められた熟した汗の
臭いが吹き荒れ、空気が濁って感じられた。
 その臭いは小人達の生命をも脅かす程の破壊力であり、対策をしていなければ
脳を殴りつけられる臭いにすぐさま気絶してしまうだろう。
 暫く足元を眺め、微生物達の必死の仕事振りを観察していたあずにゃん。水を
巻いて汗を落としているようだが、濡れた感覚も全く無いし、足裏にこびり付く
ビルや家の残骸で若干不快だった。

「むー。私の足を洗うことすら出来ないんですか。微生物はいくら集まっても微
生物です」

 あずにゃんの素足がいきなり持ち上がる。作業をしていたヘリは肌にぶつかり
粉々になり、消防車などは持ち上がる時の振動で起こった地割れに飲み込まれて
いった。
 街の残骸があずにゃんの足の裏からぽろぽろと落下する。街にくっきりと残さ
れたあずにゃんの足型。

「がっかりです。折角潰さずにチャンスを与えたのに本当におバカです」

 立ち上がり軽蔑の目線で街を見下ろすあずにゃん。その目が閉じられたかと思
うと、元からその場に居なかったかのように消滅してしまう。
 静まり返る街。残されたのは超巨大な足跡と若干の臭気。穴だらけの大陸。安
堵する生き残った人間達。そんな彼らを街ごと、いや大陸ごと覆う影。
 
「また来るです。忘れないように足跡をつけておくです。次はしっかり洗っても
らうです」

 惑星に玉乗りするように立つあずにゃん。手にはしっかり靴下とローファーを
持ち、右足を持ち上げている。
 指先だけで国を押し潰せる大きさだ。そんな足が一際大きな大陸の上に下ろさ
れる。大陸は柔らかく、ぐにゃっとした感触だった。足にこびり付いた汗の臭い
が大陸に付着する。

「これでいいです。私の汗の臭いでマーキングです」

 足が持ち上げられると、そこには宇宙からでもはっきり見えるほどのあずにゃ
んの足跡が刻印されていた。そして今度こそあずにゃんはこの惑星を去った。彼
女が今までに訪れた惑星の中では一番被害の少ない惑星であった。




「あずにゃ~~~ん、なでなで~~」
「にゃああああ!やめるです!唯先輩!」

 いつも通り唯にべたべたされながら部室へ向かうあずにゃん。階段を登ろうと
すると見知った顔が柱の影から手招きしている。

「唯先輩、先に行ってて下さいです」

 名残惜しそうに先に行ってるからね~と階段を登っていく唯。柱に隠れるよう
にあずにゃんを呼ぶ人物へ近寄る。
 
「どうしたんですか?和先輩」

 言い出しにくそうに赤縁メガネの向こうで視線をうろうろさせる和ちゃん。そ
わそわしながらも言葉を搾り出す。

「あのね、梓ちゃん。もしよければまた1つや2つ欲しいんだけど……」
「もう壊しちゃったんですか!?つい先日大き目の都市あげたじゃないですか」

 ぷんぷんとツインテールを揺らすあずにゃん。既に和ちゃんには1つの惑星分に
匹敵する街をプレゼントしている。しかし和ちゃんの都市をねだるペースは加速
し、縮小転送をするためには集中力がいる為、正直あずにゃんは疲れていた。

「もー。仕方ないです。和先輩には縮小転送デバイスを貸してあげるです」
「本当!?ありがとう梓ちゃん!」

 いつもはクールな和ちゃんが感情を高ぶらせ、あずにゃんにぎゅっと抱きつく
。ぐえぇと死にかけのゴキのように痙攣する。

「はぁはぁ。でも地球で使わないで下さいね。唯先輩達に迷惑がかからないよう
にするです」

 ごそごそとポケットを探り、質素な指輪を取り出すと和ちゃんに手渡す。

「大丈夫よ、安心して。もう梓ちゃんにねだったりしないわ」

 キラキラと輝く笑顔で指輪をはめると、踵を返しさっさと立ち去ってしまう和
ちゃん。その後姿に少々呆れ、あずにゃんは階段を登り先輩達が待つ部室へ向か
った。




 夕暮れを背に、一人下校する和ちゃん。少し俯きながら足早に歩く。足も若干
内股気味になり、時々ぴくりと体が疼く。

「凄いわ、この指輪……」

 制服のスカートに包まれた太ももを粘着質な液体が一筋滴る。先ほどから敏感
な部分とパンツの間でプチプチと潰れる感触。大型のトラックは暫く抵抗してい
たみたいだが、少し歩いている間に例に漏れずスクラップと化した。
 もっと大きいもの、高層ビルを見かけるたびに転送したくなる衝動に駆られる
が、ぐっと堪えて家路を急いだ。



 おわり