ん……んんっ……。

 はれっ!?
 ここ……どこ?
 なんか無駄にだだっ広いんだけど……。
 それに何なんだろう、この……建物? 四角かったり、妙に丸みがあったり、建物……にしてはどれもこれもデザインがシンプル過ぎるんだけど……。
 この地面も木の板みたいなんだけど、綺麗だけど異様に大きい木目模様が、どこまでもどこまでも拡がってるような気がしてなんだか不気味。
 私、なんでこんなところにいるんだろう?

 思い出せ、私。え~っと……。
 確か私、リディア先生に呼び出されて、先生の研究室に来たんだよなぁ~?
 そんで来て早々、いきなり先生に紅茶を薦められて、それがあんまりにも良い香りで美味しそうだったからついいただいちゃって、それから……えぇ~っと……あれ?
 なんでだろう? そこから先が思い出せない。
 紅茶を飲んで、それからうぅ~んと…………あっ!
 そうだ! なんか急に目の前がぽやんぽやんしてきて、ほんでもってすぅ~っごく良い気持ちになっちゃったりなんかして、それから……はっ! もしかして寝ちゃった!?
 うっわぁ~、だとしたら私、すっごくまずいことしたんじゃ……。



「アイコちゃん?」



 へっ!? 何この声……リディア先生?
 でも、なんだろう? なんかすごく違和感がある。
 確かにこの優しげな声色はリディア先生のものだと思うんだけど……なんていうかやまびこみたいに全体に響き渡る声っていうか……。

「おはよう。随分、気持ちよさそうに眠っていたわね」

「先生!? どっ、どどどっ、どこにいるんですか!?」

「さあ……どこでしょう? うふふっ……」

 教えてくれないの!?
 おかしいよ、絶対いるはずなのに……。
 姿は見えないのに声は聞こえる……いや……むしろ聞こえ過ぎる。
 先生の声が聞こえる度に空気を震わすような振動が全身に伝わってくる。

「あらあら。まさか本気で気付かないの? あなたって案外、視野が狭いのね。目はそんなに大きいのに」

 ぐさっ。このさらりと心を抉るきついお言葉……間違いなくリディア先生だ。
 てか、おっきい! おっきすぎ! 耳栓使ったって絶対防げっこないよ、こんなでかい声!
 それに、なんだか上の方から聞こえてくるような……。

「どこ!? どこにいるんですかぁっ!? いい加減教えてくださいよ! リディアせんせぇーっ!!」

「フゥーッ」

「おわわわわっ!」

 目の前のコップみたいな形をした銀色の建物に向かって思いっきり叫ぶ私。
 その時、私の真後ろからいきなり強烈な風が吹き付けてきた。
 て、この風なに!? さっきまで風なんて全然吹いてなかったじゃん! しかもなんかこの風、お花みたいな良い香りが

「あうっ!」

 とか言ってる間に風にくるくる巻かれながら目の前の壁に背中から思いっきりドーン!って叩きつけられた私。すっごく痛い。
 そんでそのままその場に崩れ落ちました。はい。

「あぁ~いたたたたぁ~…………あえ?」

 何、あれ?
 壁に叩きつけられた痛みも忘れて、両手と両膝をつけたまま……ん~っと……あれだよ、あれ。なんて言うんだっけ?

 OTZ

 ↑これこれ、こんな感じ。こんな赤ちゃんのハイハイみたいなポーズで上を見上げた私(うん、我ながらわかりやすい説明だね!)。
 その時、私が目にしたもの。それは……。



「やれやれ、やっと気づいたのね。どう? 小さくなった気分は?」



 え?


























 ええええええええええええええええええええええっ!!?? おっきいいいいいいいいいいいいいっ!!

「へえっ!? ち、ちょ、ちょいちょいちょい! なっ、なな、なんで先生、巨大化してるんですかーっ!?」

「はぁ? 今、言ったじゃない。私が大きくなったんじゃなくて、あなたが小さくなったのよ。ほら」

 "ドンっ!"

 ひぎゃっ! 私の目の前に突然、巨大な銀色の柱のようなものが振ってきた。
 いや、よく見てみると柱ってよりは分厚い銀の板って感じかな? ていうか……

「嘘……。ひょっとしてこれ、スプーン?」

 信じられない。それはとてつもなく巨大なスプーンだった。
 おまけに私、この形には見覚えがある。
 特にこれといった装飾が施されていないシンプルな柄。
 全体的に角(かど)がなくて、むしろ丸みを帯びてるみたいな感じの優しいフォルム。
 ちょうど私の胸の高さと同じくらい大きい楕円形のふくらみが、まるで銀色の大きな卵に見えてくる。
 で、その銀色の卵はしっとりと濡れていて、さっき私が飲んだ紅茶と同じ香りを漂わせていた。
 てことは、まさかこれ……。

「あの……もしかしてこれ、私がさっき使った……」

「ええ。さっきまであなたが紅茶を飲む際に使っていたスプーンよ」

 そうだ。これ、さっきまで私が紅茶を飲んでるときに使ってたスプーンだ。
 とってもピカピカで綺麗な銀色で、まるで鏡みたい。私の顔が映ってるし。
 長さは私の身長の2~3倍はあって、重量感もたっぷり。
 その巨大な銀の柱を、先生のそれ以上に太い、だけどとっても綺麗で巨大な3本の指(親指、人差し指、中指かな?)ががっちりと支えていた。
 これがもし私に倒れてきたらと思うと……。

 とか思ってる最中だった。先生がスプーンから指を離したのは。

「うわああああ!! ちょっとタンマーーー!!」

 あわわっ、倒れる倒れる!
 慌てて逃げる私。偶然なのか、それとも狙ってるのか、支えを失ったスプーンはちょうど、私がいる場所を目掛けて倒れかかってきた。

 "ガシャーン!!"

 なんとか倒れてきたスプーンを避けた私。
 だけど銀色の柱は地面に叩きつけられた途端に"ぐわんぐわん"と大きな音を立てながら跳ねまわって暴れ始めた。

 "ブオン!"

「あうっ!」

 巨大なスプーンの柄が、まるでホームランバッターのフルスイングみたいな感じで私の後ろを掠めた。
 間一髪で直撃は免れたけど、スプーンが起こした強い風圧には耐えられなくって、私はバランスを崩して派手に転んじゃった。

「あらあら、大丈夫? たかがスプーンが倒れてきただけなのに、随分大げさな子ね」

 先生がくすくす笑ってる。その笑い声が、空から大音量で響いてきた。
 いたた……。ちょっと擦り向いちゃった。そりゃあ先生にとってはたかがスプーンなんでしょうけど……。

「……ふぇ? ぅうわああああぁぁぁーーー!!」

 な、なんか私、いきなり宙に浮いてんですけどおぉぉーーー!?
 てか飛んでる! 私、今、空飛んでるうぅぅーーー!!

「ぎゃああああああ! 遠い遠い遠い! 地面がどんどん遠くなってくよおおおぉぉー!! うわあああぁーん!!」

 うわぁーん! 地面が遠いぃーっ!
 てか、なんなのこのとんでもない力で襟元を"グオーッ!"と引っ張られてるような感覚!?
 "グッ"とか"グイッ"とかじゃないよ! "グウォーッ!"だよ! そんな感覚!
 へっ!? あぁーっも、なんでわかんないのっ!? わかってよ、バーカ!!

「うわぁぁぁ! いやぁぁぁ! おかあさぁぁぁん!!」

 てかこれじゃ逆バンジーじゃん! なにこれ魔法!?
 なんで私こんな仰向け状態のままクレーンゲームみたいに吊るされて……え?

 "クレーンゲームみたい"?

「あ……あの~、先生。ひょっとしてなんですけど……。もしかして私のことつまみ上げてたりなんか……してます?」

「え? えぇ。確かにあなたのこと摘んでるけど、それが何?」

「何と言いましょうか、そのぉ、今になって気付いたとでも言いましょうか、そのぉ…………下ろしてもらえないでしょうk「イヤ」

 即答。どうやら私を地面に返してくれる気はさらさらないみたいです。
 うにゅうぅ~……さっきまで私が立っていた机の上(という名の地面)がすっごく恋しいよぉ~……。

「それにしても……へぇ~。今、気付いたんだ~。ふ~ん。……あなた、頭大丈夫?」

 ぐさっ。

「どういう意味っすか」

「馬鹿にしてるのよ。こういう状況なら普通、真っ先に気付くと思うんだけど?」

 ぐさぐさっ。

「あぁ~……そっか。脳ごと小さくなったから余計おバカになっちゃったのね、きっと」

 ぐさぐさぐさっ。うぅ~、相変わらず言い方がストレートすぎるよ、リディアせんせぇ~……。
 そりゃ確かに私、馬鹿だけどさぁ~……うぅ~……。

「いや、そもそもこの状況が普通じゃないんすけど! てかあんまりバカバカ言わないでくださいよ!」

「あら、口答えする気? この前、私のテストで3点取って、連続赤点記録を更新したおバカさんはどこの誰だったかしら? ほ~らほ~ら」

「わっ、わっ、うわっ!」

 ゆ、揺らさないでぇぇぇ!

 私のせいいっぱいの抗議も空しく、巨大なリディア先生は私を摘まんだまま、その巨大な指で私のことを前に後ろにあっちこっちふりふりさせ始めた。
 リディア先生にしてみればたったそれだけの動きなんだけど、でも背中から制服を摘まれて宙ぶらりんな状態の私からしてみたらもうたまったもんじゃないよ!
 だってもうめちゃくちゃ揺れてんだもん!
 ものすごいスピードでお尻の方から"グオーッ!"
 かと思ったら今度はもう超ハンパないスピードで前の方へ"ビューッ!"って行ったりとかさぁ!
 もう何て言うの!? ジェットコースター状態!? あっ、いや! どっちかって言うと空中ブランコ……あ!
 そう、あれ! そういや『アルプスの少女ハイジ』ってアニメで超長いブランコ出てくるじゃん! あれ絶対怖いよ! だってこれ私今めっちゃ怖いもん!
 はぁっ!? 言ってる事がめちゃめちゃ過ぎて全然分かんない!? もっと分かりやすく説明しろったってだったらあんたもいっぺんこれ体験してみなさいよバーーーカ!!

「きゃあああ! うわあああ! やめてとめてやめてとめてやめてとめて……!」

「う~ん……なんだか楽しそうね。これじゃお仕置きになってないかしら?」

 はいっ!? いきなり何言ってんの、この天然毒舌エルフ女は!?

「どこをどう見たら楽しそうに見えるんですかっ!? お願いだから早く離してくださ……うわあああ! めっ、目がまわるううう!!」

「やれやれ、小さくなっても相変わらずうるさい子ね。何? そんなに離してほしいの?」

「離して! いや、離してくださいお願いします! お願いですから早くは~な~し~てぇ~~~!」

「はいはい、わかったわよ。ほら」

「え゛っ゛……?」



 "ポーイ"



「離すってそういう意味いいいーーー!!??」

 凄い! 飛んでる! 今わたし空飛んでるよ! あいきゃんふらぁーーーい!
 ってばかあ! ただ投げられただけじゃん!
 ちょっとこれ死ぬ! マジで死んじゃうって! いやああああああ!!

「おわあああ! 死ぬ死ぬ死んじゃう! 助けて! 誰か助けてえええ!!」

 放物線を描きながら上へ上へと飛んでいたのも、もう過去の話。私の体は徐々に下の方に落ち始めていた。
 このままじゃ地面に……地面に叩きつけられちゃうよお!
 確かに降ろしてほしいとは言ったけど、だからって放り投げるなんてあんまりだよお!
 やだよぉ……。私、まだ死にたくないよぉ……。お願いだから、誰か助けてぇ~……。



「"シーテ・シュトゥープ"」

「あうっ!」



「…………はぇ? 浮いてる?」

 体ごと床に叩きつけられるまであと少しってところで突然、私の体が空中で"ぴたっ"と止まって動かなくなっちゃった。
 まるで見えない何かにくっついちゃったみたいに、頭から前のめりに落ちちゃいそうなポーズのまま、私は宙に浮いていた。
 これは……確か、物の動きをとめちゃう魔法だ。
 そっか、リディア先生が魔法を使ったんだ。だから私、動かなくなっちゃったんだ。



 "ズシン……ズシィン……"



 ……何、この地響き? なんか一定の間隔で聞こえてくるんだけど?



 "ズシィン……ズシィーン……!"



 あの~……なんか徐々に振動大きくなってきてないでしょうか? 気のせい?



 "ズシィーン! ズシイィーン!"



 いや、絶対気のせいじゃない! だんだんこっちに近づいてきてる!!
 さっきから床はビリビリ震えてるし、それにだんだん振動が爆発音みたいな感じになってきてるし!
 おまけに後ろを向いて確認しようにも、こっちは魔法で動き封じられてて振り向くことすらできないんですけど!
 まぁ、あいにく宙に浮いたままの状態だから直接的なダメージはないんだけど……。
 で、でもなんか急に辺りが薄暗くなってきたような……。



 "ゴゴゴゴゴ……"



 うぅっ……後ろでなんかとてつもなく大きな何かが落ちてくるような気配が……。
 きっと山みたいに巨大な先生の体が空を覆ってるんだろうなぁ……。
 だって、なんだかさっきより暗くなってきてんだもん……。
 あんまり信じたくはないけど、これは絶対に……。



 "ゴオーーーッ"



「ひっ!? ……へ? これって……」

 突然、私の目の前に何かとっても大きなものが現れた。ちょうど私の目の前で止まった。
 床を横切りながら私の目の前に現れたもの。それはペールオレンジ……よりはほんの気持ち白っぽい、白人さんの肌の色をした、とっても大きな手のひらだった。きっとリディア先生のだ。
 これが人間の手だなんてすぐには信じられ……あ、ごめん。私、今、嘘ついた。そういや先生、エルフだっけ。てかエルフにも指紋ってあるんだなぁ~、って今はそんなこたぁどうだっていいんだよ。
 私が言いたいのはここまで小さくなっちゃうと、普通の手のひらも全然違うものに見えちゃうんだな~ってこと。
 巨大なだけあって、たくさんのしわとか指紋とかが深く刻み込まれてるその姿には何とも言えない迫力があって、ちょっと怖い。
 でもそれ以上に……そのぉ……なんて言えばいいのかな? とっても綺麗な手だな~って思っちゃったんだよね。
 特に、緩やかなカーブを描きながら折れ曲がった姿が、まるで天に向かって伸びていってるかのような錯覚を覚える5本の太くて……細長い指。
 "太くて細長い"って我ながら変な表現だなぁ~とは思うんだけど、でも他に良い言い方が思いつかないんだよ!
 確かに私から見ればどれもこれも丸太みたいにぶっといし、特に親指の迫力なんてほんと半端ないんだけど、指の1本1本がどこまでも、どこまでぇ~~~も長く伸びてるような感じがして、それが妙に印象に残っちゃうんだよ、これが。
 そう! これぞまさに"圧倒的存在感"って感じ!
 それに先生の白い肌には瑞々しい輝きがあって、巨大になってても、肌のきめ細やかな美しさが損なわれてるようなことはなかったな。
 あの色、あの形。そしてあの芸術的なフォルムが生み出す美しさに私は思わず息を飲んでしまうのであった"パチン"。

「ごくり……へっ?」

 息を飲んでる最中に突然、耳に届いた指を鳴らす音。
 と同時に宙に浮きっぱなしだった私の体が再び落下し始めた。先生が魔法を解いたんだ。

「ぷぎゅ」

 で、そのまま私は先生の大きくて美しい手のひらに顔面から落っこちた。
 先生の手のひらはすっごく柔らかくって、おまけに弾力もあるもんだから、クッションとしては最高級品だった。
 おかげさまで怪我は一切なし。
 私はうつぶせ状態のまま、先生の手のひらに全身を埋めていた。

(動いた。どうやら怪我はしてないようね)

 あ、なんか良い匂い……。
 それに地面全体がスベスベしていて、思わず頬ずりしたくなっちゃうような感触……。
 こんなに巨大で、おまけに指紋もしわもあるはずなのに……。
 良いなぁ~……。もうずっとこうしてたい……。

「……ねぇ。いつまでそうしてるつもり? 見たところ、どこも怪我はしていないみたいだけど……」

 おわっちょ、やっば! うっとりしてる場合じゃなかった!
 明らかに不機嫌そうなリディア先生の声を聞いて、私はすぐに体を起こしてリディア先生の方へと振り向いた。
 けど、次の瞬間……。

「おわっちゃちゃちゃ! たっ、立ってられない!」

 急に足場がグラグラし出したと思ったら、今度は下に押しつけられるようなG(ジー)が体全体にかかってきた!
 当然、立っていられるわけもなくって、私は先生の巨大な手のひらの床に思いっきり尻もちをついちゃった。
 それから床全体が空飛ぶじゅうたんみたいに上昇しているかのような感覚が……いや、実際に上昇していたんだよね。
 だってリディア先生、私を手のひらに乗せたことを確認すると、曲げていた膝を伸ばしながらゆっくりと立ち上がったんだもん!
 私を乗せた左手が上昇するたび、私は巨人と化したリディア先生の大きな体を下から上にかけてまざまざと見せつけられることになった。

 ぴっちりした茶色のロングスカートにくっきりと表れる、柱のような脚が生み出す魅惑の脚線美。
 セクシーな二本の柱にどっしりと支えられた腰は、スカートを圧迫せんばかりにパンパンに膨らんでて、丸みがあって、もう今にも爆発するんじゃないかってほどの大ボリューム!
 で、お腹周りはほぼ露出されてて、お腹にはまるでクレーターみたいに大きくて堀の深い不思議な穴が。
 これは……おへそか。相当綺麗な形してるなぁ……。ここまで来ると、もう芸術作品だね……ごくり。
 ちなみにお腹そのものはお尻の迫力のせいなのか、巨大な割には幾分か細く見える気がした。いや、実際相当細いんだろうな。だってくびれあるし。
 谷のようにくびれたウエストラインはただでさえ大きいヒップラインをより際立たせているのに一役買っていて、先生がいかにセクシーで女性として恵まれたボディーの持ち主なのかを嫌ってほど教えてくれてる。
 そのスタイルの良さには思わず嫉妬しちゃいそう……てか、もうしてる。羨ましい。羨まし過ぎる。恵まれ過ぎにもほどがあるっしょ。ぶっちゃけ私の体と交換してほしいよ。ほら、私、よく寸胴とか貧乳とか言われて馬鹿にされるからさ。幼児体型とか、挙句の果てには男の娘疑惑まで出たりなんかして……あれ? 雨かな? なんで急に目が濡れてきてるんだろ……ぐしゅっ。ええい、くじけるなアイコ。次行こう、次。

 で、破壊力抜群の下半身ゾーンを通過すると、今度はこれまたデンジャーな危険区域"ダイナマイトおっぱいゾーン"が目の前に、って言ってるそばからこれかい! うぅぅ……何これ? 嫌がらせ?
 黄色の大きな襟がついた茶色のトップスに覆い隠された二つの大きなふくらみはもうマジではちきれんばかりにまんまるでムッチムチ!
 今にもトップスを弾き飛ばすんじゃないかってくらいぱっつんぱっつんに膨らんだその姿はまさに気球レベルの巨乳、いや巨大乳! 特盛り!
 おまけにそれが2個もついてるってんだから、その破壊力ったらもうハンパないよね! 挟まれたら圧死確実だろうしさ!
 ……え? 何? むしろ挟まりたいって!? この変態! 死ね! くたばれ! くたばっちまえ!!

 まぁとにかく脚! お尻! おへそにおっぱい!
 それにシンプルな割にはそこかしこにエッチな雰囲気が漂っている妙に露出度の高いエスニックな衣装とか、天女みたいに上半身にふんわりまとわれたオレンジ色の羽衣などなどもう、何から何までケタ外れにおっきい!
 私は今、そんなとてつもなく巨大なにんげ、じゃなかった。エルフの手のひらに乗っけれてるわけですよ、みなさん!

 ……はぁ。これ、もしかしなくても相当危ない状況なんじゃ……。

「あっ、止まった」

 リディア先生の手のひらの上昇が止まったところで、とうとう私は巨大なリディア先生の顔と真正面から対面する羽目になっちゃった。

 リディア先生。一言で言えば色白で整った顔立ちをした、綺麗なエルフのお姉さんなんだけど、目元とか口元とかにはどことなく幼さを感じさせる部分も残ってる、見た目にも若い先生だ。
 高くて筋の通った鼻に、シャープな輪郭。
 つやつやに光ってて肩まで伸びた緑色のロングヘアー。
 髪からぴょこんと飛び出したエルフ特有の尖った耳が空に向かってツンと突き出してて、頭のてっぺんには先生のトレードマークとも言える黄色いリボンのついた四角い帽子が乗ってる。
 で当たり前だけど、この顔がまたすっごく大きいんだよね…………ん?

 あぁっ! ちっ、ちがうちがう! ちがうんだよ! 別に私、先生の顔が大きいって言ってるわけじゃないんだよ!
 む、むむむしろ小顔だし、た、ただ小顔だけど大きい小顔だなぁ~って思っただけで、わーーーっわーーーっ!
 あぁーーーもうっ! 何言ってんだよわたしぃーっ!!

「アイコちゃん?」

「ほぇあっ!? ふぁっ、ふぁいーーーっ!! なな、なっなっなっ、な、なんでごじゃりみゃしょ○@☆#%っ!?」

「ん……? 今、なんて言ったの? よく聞こえなかったんだけど」

「へっ!? あっあっあっ、あのその……え、えーっとですね、あのあのあのっ!!」

「……さっきから何をそんなに慌ててるの? 変な子ねぇ」

 あう、そ、そんなこと言われたってぇ……。
 小首をちょこんと傾げる先生の宝石みたいに綺麗で巨大な紫の瞳が、まるで私のことを縛り付けるような光線を放ってる……ような気がする……。
 うぅぅ……怖い……。
 ただ見つめられてるだけなのに何なの、この何とも言えない強烈なプレッシャーは……。
 先生、美人だから余計に緊張するし、そのせいなのかなんかすっごいドキドキしてきたし、おまけに体の震えは止まんないし、ていうか相変わらず先生の声がびりびり響いてくるし……。

「ふ~ん。どうやらよっぽど私のことが怖いみたいね、ふふっ。ど~お? 巨大な先生の手のひらに乗せられた気分は?」

 手のひらの私に囁きかけるように話しかけるリディア先生。
 まだちょっぴり幼さが残る顔立ちに浮かび上がる、穏やかで優しい微笑み。
 基本的には物静かで優しい先生だし、巨人になってもそこはいつも通りに見えるんだけど……。

「あ……あの~、ちょっといいですか?」

「何?」

「ひぃっ!」

 ちがう! 先生、怒ってる!
 私が声をかけた途端、先生の笑顔が"しゅっ"と消えた。
 代わりに浮かび上がってきたのは、まるで氷の刃を突きつけるみたいな冷たい目つきで私のことを睨みつける、怒りのこもった無表情だった。やっぱり怖い!
 そのあまりの恐さに、私はまともに先生の顔を見返すことができなくなっちゃった……。

「うっ……うぅぅ……ぐすっ……」

「何? 何か聞きたいことがあるんじゃないの? 何もしないから、遠慮なく言ってごらんなさい。ほら、そんな泣いてないで」

 言いながら、リディア先生は大きな人差し指で私の頬を器用に撫で始めた。
 リディア先生の指は私の体よりも一回りも二回りも太くって、私が両手を広げて抱きしめたって腕が半分も行かないくらいの太さがある。当然、私の身長なんかより遥かに高い、いや、長いわけで……。
 そんな柱みたいな指で、先生は私の頬に流れる涙を優しく拭ってくれた。
 その好意を、私は素直に受け入れた。ていうか受け入れるしかなかった。

「ご……ごめんなさいっ。なっ、な、なんていうかそのっ、きゅ、急に緊張してきちゃって……そ、それで……」

 先生の指が離れた瞬間になんとか声を絞り出した私だったけど、今の私にはこれだけ返すので精いっぱいだった。

「そうでしょうね。あなたにとって、今の私は雲をつくような巨人になってるでしょうからね。あなたが緊張するのも無理はないわ。そうでしょ?」

 無言で頷く私。

「それで? あなたは私に何を聞きたいの? 例えば……どうして自分は小さくされたのか、とか?」

 あ、やっぱり先生が小さくしたんだ。

「はい。あの、やっぱり……この前のテストで私が」

「その通り」

 最後まで言い切る前にリディア先生に遮られた、私の言葉。

「あなた、この前のライフスタイルのテスト、何点だった?」

「……3点……」

「あのテスト、何点満点だったかしら?」

「ひ……100点満点、でした……」

「立派な赤点よね。これで何度目かしら?」

「よ……よん……4度目……です……」

「……はあ」

 反対の手でおでこを押さえながら、あきれ顔で大きな溜め息をつくリディア先生。
 と同時にほのかに薔薇の香りが漂うそよ風が私の肌をくすぐった。あの時の突風と同じ匂いだ。

「あなた、本当にやる気あるの? もう呆れるのを通り越して頭が痛いわ」

「あ、あの……すいません……」

「別に謝ってほしいわけじゃないんだけど」

 くぅっ、我ながら情けない。
 先生に言葉で突き放されて、私は唸り声をあげながら落ち込むことしかできなかった。
 いくらリディア先生が優しい先生だって言ったって、4回も続けて赤点取ってたら、いくらなんでもそりゃ怒るよね。
 てことは私が小さくされたのも……。

「さすがにもう察しがついているみたいね。えぇ、そう。アイコちゃんには今からお仕置きを受けてもらいます」

「むぅっ……」

 やっぱりそっか……。
 でも正直、もうこの時点で既にお仕置きの域を超えてる気がするんだけど……。

「じゃあさっき、私に紅茶を薦めたのも、私を小さくするために」

「と、思うでしょ?」

「……え?」

「でも、はずれ。あれは単に眠らせただけよ」

「……へ?」

「あなたには……魔法で小さくなってもらいました~♪」

「…………。はぁっ!? ちょっと待って! だったらなんでいちいち私のこと眠らせたんすか!?」

「えっ? そうねぇ……そっちの方がビックリすると思ったから? おかげでなかなか良い驚きっぷりだったし、先生も演出にこだわった甲斐があったってものだわ、ふふっ♪」

 なにそれ!? 予想だにしなかった答えをこれまでにないくらい楽しそうな表情で"あっけらか~ん☆"と教えてくれたリディア先生に、私は呆気にとられちゃった!
 だってそうじゃん! だったら初めっから魔法で私のこと小さくしちゃえば、それで済む話じゃんか!
 それをあんた、いくらビックリさせたいからって、たったそれだけの理由で睡眠薬入りの紅茶飲ませるだなんてそんなの寝起きドッキリの仕掛け人でもやんないよっ!
 そう言ってリディア先生を問い詰めると、先生からはこんな答えが返ってきた。

「そうね、確かに薬で小さくすることもできるんだけど……それだと時間経過で自然と元の大きさに戻っちゃうから、お仕置きには向いてないのよね」

「いや、知りませんよ。てか、むしろ私にはそっちの方が好都合なんですけど」

「なんであなたの都合に合わせないといけないの? だいたいあなた」

「……あぅっ!」

「今の立場……わかってる?」

 先生の人差し指が、私の胸をものすごい勢いで小突いてきた。
 指で小突くって言ったって、小さくなった私にとっては大きな木の柱で神社の鐘を鳴らすのと同じようなもんだ。
 当然、私は派手にふっ飛ばされたわけで……。

「ただでさえ赤点続きなのに、その上あなた、日を追うごとにどんどん点数が悪くなってるわよね。これはいったいどういうことなのかしら?」

「かはぁっ! ぅぐぅ……それは……」

 うっ、ああっ!
 ゆ、ゆびが……先生の指が……そのままのしかかってきた! 凄い力……。
 む、胸があっ……く、苦しいぃっ……。

「簡単よ。それはね、あなたが怠けてるから。こうなってくると、もうあなたの普段の態度に問題があるとしか思えないわ。ちがいますか? 怠け者のアイコちゃん」

「ぐっ、くくくっ……!」

 ちがう! 私、ちゃんと勉強してるもん! 特にこの前なんてすっごい頑張ったんだよ!
 なのに……ちくしょぉっ……い、言い返して……言い返してやりたいっ!
 やりたいのに……だめ……む、むねっ、からだが、押さえ、つけ、られてて、声が、出せない……。

「ほらほら、たかだか指一本よ? ちょっとは押し返してみたらどうなの? ねぇ?」

 うぐぅっ……さ、さっきか、ら、やって、るよっ! けど……ぐうぅっ!
 お、押し、っ、て、も…………ぐぐっ…………びっ、びく、とも……し、な、い、いぃっ……お、おも、い……。

「へぇ~、指一本押し返せないんだ? なんて無様なのかしら。頭もなければ、力もない。あなた、本当に何もないのね。ひょっとして、生きてる価値もないんじゃない?」

 っ……!!
 ひどい! 何も、そこまで言わなくたって!

「あら? もしかして泣いちゃった? 図星を突かれたのがよっぽどショックだったのね。かわいそうに」

 そう言って、リディア先生はやっと私を押しつぶすのをやめてくれた。私から離れてくリディア先生の大きな指……。
 だけど私は仰向けのまま、空高くそびえるリディア先生の顔を恨めしそうに眺めながら寝そべるだけだった。
 冷たい口調で私を見下し嘲り笑うリディア先生の目には怪しい光が宿っていて、まるで汚いものでも見下しているかのような、侮辱的で恐ろしい目をしていた。
 起きられないし、起きられない。怖くて、悔しくて、情けなくて……。泣いても泣いても、次から次へと涙が溢れだして止まらなかった。
 ぜぇぜぇ息を切らせながら、先生の手のひらの上で寝そべったまんま、私はただひたすら泣き続けた。

「ふん。いつまで泣いてるのよ? あなたが悪いんでしょ? そんなに泣くくらいだったら、もっと勉強すればいいだけの話じゃない。ちがう?」

「ぐすっ、えぐぅ……で、でも私っ! これでもちゃんと勉強して「言い訳しないで!」

 上半身を起こして泣き叫びながら言い返した途端、リディア先生の人差し指の爪裏部分がクレーン車の鉄球みたいに私を弾き飛ばした。
 要はデコピンなんだけど、リディア先生の指が私の体を完全に覆い隠すくらい大きいことを考えれば、それこそ私にとってはクレーン車の鉄球で殴られてるようなもんだった。
 当然、その破壊力もデコピンどころじゃなくって、私は再び先生の手のひらで仰向けにされる羽目に……。

「うぐっ……ぅっ……」

「どうやらまったく反省してないみたいね。あ~あ、せっかくお情けで制服だけは残しておいてあげたのに……。これならお薬で小さくしてあげた方がよかったかしら?」

 え? あ、そういえば私、制服のままだ。じゃあ先生、多少は私のことを気遣って……。

「うがっ!」

 とか考えてるうちにまた先生の指がのしかかってきた! しかも、さっきより力が強い……。

「ふふっ、苦しい? 苦しいでしょう? でも許してあげない! あなたが心の底から反省するまで、たっぷりお仕置きしてあげるからね……ほら、起きなさい!」

「いやあっ!」

 指が離れたと思った瞬間、今度は鉄板みたいに分厚い二枚の爪が私の制服を挟み込んで身動きをとれなくする。
 そのまま私は先生の人差し指と親指に制服ごと引っ張られる形で無理矢理体を起こされた。

「あぐぁっ! あ"っ"、あ"あ"っ"……」

 太さだけで私の上半身と同じくらいある二本の指が、ミシミシと私の体を締め付ける。

「さぁっ、許しを請いなさい! それともこのまま握りつぶしちゃおうかしら!? ほらっ! ほらほらっ!」

「そっ、そりゃぁあがでんをどっだごどはわるいとおもってまずげどっ、あ"あ"あ"あ"っ"! う"き"や"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 細くて綺麗な先生の指先も、巨大になればとんでもない怪力を持った怪獣に変身する。
 そのあまりの怪力は私に抵抗することすら許してくれなくて、私は目をむき出しにしながら激痛に耐えるしかなかった。

「ふ~ん……あくまでしらを切るつもりなのね。まぁ、いいわ。時間はたっぷりあることだし」



 "ぎゅっ"



「うぐぅっ……」

「死にたくなるまで」



 "ぎゅぎゅっ"



「あっ、あくっ……」

「いじめてあげる」



 "ぎゅうううう……"



「かはぁっ! はぁっ……!」

「言っておくけど、こんなのはまだほんの序の口よ。生きて帰れると思わないでね、虫けらさん」



 "めきょ"



「んがぁ