~ここまでの流れ~
黒幕は先生らしい!




2人、無言で廊下を歩いた。
不思議と誰にも会わない。
元山に話しかけたいが、何故か話しかけられない。
重圧の様なものを感じる。
ちょっと湿度が上がってきた気がした。
いや、上がっている。激しい動きの後で布団にくるまっていたんだから汗もかいている。
窓を開けた。
ふわりと、風が吹いてきた。
だが気持ちよくはない。涼しい爽やかな風ではなく、生温かい気持ち悪い風。
…風?
この風はどこから吹いているのだろうか。
山から?海から?いや、そうではない。
見えないのだ。窓から外を見る。
暗いから見えないのではなく、学校の外が暗い壁で覆われているような。

元山「何してんのよ」
才人「え。あぁ、すまん」

元山が口を開いた。
この際だ。聴きたいことがある。
元山は能力について教えてくれたが、何故彼女がそれを知っているのかを教えてはくれなかった。
そしてなぜ、先生がこのように、生徒たちに殺し合いをさせ、先生自身も俺たちを殺そうとしたのか。

才人「なぁ」

話しかけようとした時に、口が白くて細い手でふさがれた。

元山「むやみに音を立てない。」

ここは、職員室の前。普段なら教師たちがいる部屋。

才人「いるのか?」
元山「えぇ。」

ドアは開いていた。
そして、西上先生が出てきた。

西上「元山さん。才人くん。」
才人「先生…」
西上「…」

西上は何かを考えるような顔をしていた。
あれ、てか今下の名前で呼んだ?いつもは行永くんなのに。

元山「才人、覚悟は良い?」
才人「え。あぁ。」

何故下の名前?少々戸惑うが身構える。

西上「やるしかないのね…」

元山が突っ込んだ。
さすがのダッシュ力、地面をノーモーションで蹴ると一瞬で西上の懐にたどり着いた。
そのまま鳩尾に一撃。

西上「うっ…」

西上はよろけた。
更に追加で蹴りを腹に入れる。

職員室の中に吹っ飛んで机にぶつかった。
周りには教科書が散乱する。

才人「やったのか?」
元山「いいえ。」

西上は教科書の山から出てくるとスカートを破った。

西上「動きづらいわね、これ。」

ちょ、パンモロですか!
ピンクかよ!教師でピンクって良いのかそれ。
しかも生足である。勤務中はストッキングぐらいはいてください!

西上「それよりあなた、ふふ…そうか…。」

西上は不敵な笑みを浮かべた。

才人「なぁ、やっぱ先生も殺しちゃうの?」
元山「その予定。」

殺すだけならさっき懐に入り込んだ時に小さくすればよかったのではないか?

西上「できないのね」
才人「へ?」
西上「ならば…」
才人「うわっち!」

小さくされたのは俺だった。これは西上の能力だ。

元山「あぁ、もうめんどくさい!」

元山は俺を蹴りあげると右手でつかみ、一目散に逃げ出した。

才人「なんだなんだ、なんなんだ?」
元山「まく!」
才人「はぁ!?」
西上「逃がすもんですか!」

西上も猛スピードで追いかけてきた。彼女もまた、脚力強化できるのである。

西上「追いついたわよ。」
元山「私としたことが…急ぎすぎたかしら…。あんた、頭から刃を出しなさい!」
才人「え、何をいきな…」
元山「早く出せ!」
才人「うへぇ!」

元山が強く握ってきたので大慌てで刃を出す。
握られた感触が少し気もち良かったのは内緒だ。

元山「食らえ!」
才人「うそぉー!!!」

元山は俺を西上めがけて投げた。投げナイフだ。
確かに刃が刺さればダメージを与えられそうだが、俺首の骨折れるんじゃないか!?

パシッ!

西上は鮮やかに受け止めた。

西上「あら。手間が省けたわね。」
元山「しまった!」
才人「お前バカだろ!」
元山「あ、ダメ、力が抜ける…」
西上「才人くん、ちょっと話があるから行くわよ。」
才人「え、ちょ、え。」

元山はその場で倒れこんでしまい、俺は西上に図書館にまで連れて行かれた。



図書館についた。
長机の1つに西上は腰かけ、机上に俺を下ろす。
今、全身がふるえている。

才人「…」
西上「そんなに震えなくても大丈夫。あなた、ひょっとして何も知らない?」
才人「な、何もとは?」
西上「そうね…。まずこの変な能力について」
才人「あぁ、なんかちょっとは元山から聞きました。」
西上「そう。これね、簡単に言うと人間の本能なのよね。」
才人「本能?」
西上「えぇ。日本人って元々戦闘民族でしょ?あの血が残っているの。男は戦い、女は逃げる。わかる?」
才人「あぁ…。あ?でもだからって何でこんな能力が使えるんです?」
西上「それはね、ここがそう言う場所だから。」
才人「そうだそれだ!ここってどこなんですか!?」
西上「…やっぱり知らないのね。」
才人「先生は知ってるの?」
西上「えぇ。それを教える前に。私はあなたの味方よ。だからその右手のカッター、しまって。」
才人「ん?あ。」

知らず知らずのうちに右手、いや右腕全体から無数のカッターが出ていた。これも防衛本能なのだろうか。
カッターを体内にしまう。

西上「で、ここがどこかだけど…」

ドン!ドン!

才人「な、なんだ!?」
西上「もう来たの…」

図書室のドアを叩く音。
そして無理やりドアはこじ開けられた。

元山「才人、大丈夫!?」
才人「え、あぁ、無事だけど」
元山「西上!あんた、才人に変なこと吹きこんでないでしょうね!?」
西上「変なこと吹きこんでるのはあなたでしょう!ねぇ、まさかここがあんな所だなんてねぇ才人くん。」
才人「えっ、いや」
元山「あんた…ダメよ才人!そいつの言うことは信じちゃダメ!」
才人「え、いやあの」
西上「でも辻褄は合うじゃない。さっきの話、ね。」

あ、そうか。これ、話を聞いたことにして、元山の反応を窺った方がいいのか?
先生も俺の味方だとは言った。だがそれならさっさと元の大きさに戻せばいいはず。
でもそれをしない。まだどちらが俺の味方かわからない。
今までの流れからすれば先生が敵だけど、さっきから元山の反応も気になる。

才人「ま、まぁ、合います。ね…。」
元山「…!」
西上「ですって。どうやら才人くんはあたしの味方みたいよ」
元山「…」
才人「なぁ元山、お前の目的は何なんだ?何でこんなことになってるんだ?」
元山「はぁ…」

元山は嘆息を1つ。

元山「あんたは、才能のある人、才人。私の力の源になるはずの男。でも、経験が足りない。だからここで経験を積ませて、強くしてから吸収する。」
才人「え?」

何を言っているかわからない。

元山「いいわ。今の状態でもそこそこだろうし。」

ドフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

才人「うげぁ!」
西上「きゃっ!」

突然、外から爆音と突風が吹いてきた。窓ガラスは割れて壁に思いっきり叩きつけられる。

西上「…こんな力が…」
元山「人間のオナラって結構強いんですよ?肛門括約筋は人間の筋肉の中でもかなり強い力を持ってますし。ガスを抑えるためにね。」
才人「な、なんだ今の…くさっ!」
元山「聞いてなかったの?あたしのオナラ。」
才人「はぁ!?」

いや、おかしい。風が来たのは窓の方向。俺たちと窓を結ぶ直線は俺たちと元山を結ぶ直線と90度の角をなしている。
どうやったらそんな屁が出せるのか。

元山「あ、ひょっとしてあたし騙された?」
西上「そうね、脳を半分置いてきたら馬鹿になるわよね。」
才人「え?どういうこと?」
西上「つまり…」
元山「ここは学校、それは間違いない。ただし学校のサイズは縮小されている。そしてその学校は私のスカートの中にある。
私が体育座りをして、スカートの中に収めているの。」
才人「え?え?え?ええええええええ!?いや待て、じゃあお前誰だよ!」
元山「元のサイズの私の分身とでも言えばいいかしらね。ただ、体の能力は半分こしてるからちょっとバカになって運動音痴になってるけど。」
才人「あれで運動音痴なのかよ…。」
元山「ま、それはどうでもいいわ。行永才人。
あなたの様な才能のある人間を体内に取り込めば私はもっと強くなれるの。学校だけじゃない。
この国、いいえ、もしかしたら惑星全体を縮小して支配することもできるかもしれない。だから、
あなたは私に食べられなさい!」

そう言って元山は急接近してきた。
俺に手が伸びるが、それを西上先生が阻止する。

西上「ダメに決まってるでしょそんなのは!」

西上先生は元山の野望を知っていた。いや、気付いたと言った方が正しい。
だから生徒総出で止めようとしたのだ。勿論生徒全員が言うことを聞いたわけでは無かったが。

元山「あなたじゃ私には勝てないわよ。」
西上「さっき私に追い付かれたのは誰だっけ?」
元山「ふん…」

元山がにやりとすると

ぶぶぶぶっぶぶぶぶ!!!

またマシンガンのような屁が窓から吹いてきた。

西上「うげっ!くさっ!げほげほっ!」
元山「はぁっ!」

元山が素早く蹴りを入れる。先生が吹っ飛んだ。

才人「いや、てか揺れてるぞなんか!」

床が、いや建物全体が揺れている気がする。というか床が傾いている…?

元山「乙女のおなら二発も耐えられないの…?もろい校舎ねえ。」

元山は俺を掴むと、ポケットに入れて西上の方に歩み出した。

元山「あれ?いな…」

バキっ!!!

今度は元山が吹っ飛んだ。後頭部に上段回し蹴り。
先生のパンツ、脱げそうで脱げない。

西上「はぁ、はぁ、やってくれるじゃないの!」

西上は元山を小さくしようとした。

ブッ!!!

だが再び、元山(大)の放屁で阻まれる。

西上「くっ…思ったより面倒ね…。あっ…?」

小さくされたのは西上の方だった。

西上「く、何で…?」
元山「本体の方から少しパワーをこちらに回したから。言ったでしょ、あなたじゃ私に勝てないって。」
西上「ぐうう…」

西上は今、10センチくらいだろうか、いつもよりは大きめだ。
やはり強い能力者を小さくするのには骨が折れるのだろう。

元山「出番よ。」
才人「え、俺!?」
元山「ええ。あなたがとどめを刺しなさい。」
才人「何言ってんだ!お前が悪いんじゃないか!」

刃を作って元山に刺す。
だが今の俺も10センチ程度。軽い切り傷程度にしかならない。

元山「あんた、殺すとまずいから優しくしてあげてるけど、ちょっとぐらい痛い目を見た方がいいのかしら?」

そう言うと元山は自分のパンツの中に前から俺を押しこんだ。

才人「こ、こらやめろ!」

逆さに入れられ、俺は足だけがパンツの上から出ている状態である。

元山「いいから、舐めなさい。」

元山のパンツ内はすごい湿気と匂いだった。
ひとことで言うと酸っぱかった。粘性のある液体が皮膚に付着している。
毛が胸の周りにまとわりつく。

元山「んっ…あっ…上手じゃない…」

仕方なしに舐めると元山は徐々に喘ぎだす。
そして湿度がさらに上がってきた。

元山「あはっ…あ、そこ…くすぐった…あははっ…」
西上「呑気にしてるんじゃないわよ!」

西上は地面を蹴ると、その勢いで元山の腹にタックルした。

元山「ちょっと、いいところなんだから邪魔しないでください。」

元山は西上をひょいとつまみあげるとはいていたローファーを脱ぎ、そこに入れた。

西上「ちょっと、何する気!?」
元山「あなたは靴の中敷きにでもなっててください。」

そう言って元山はローファーを履きなおした。
臭いなんて想像したくない。あの運動量の後だから相当のものがあるはず。
元山は体育ずわりになって自慰(?)を楽しんでいた。



数分たった。

元山「窒息されても困るし、解放。」

俺たち2人はようやく解放された。
そして俺は1cmにまで縮められる。

才人「え、ちょっとおい!」
元山「飲み込みやすいようにね。」
才人「お前、正気かよ!」
元山「おしゃべりしてる暇はないわ!さぁ、その女をやりなさい!」

西上先生はぐったりしていた、というか足の重みで腕が折れているようにも見える。

才人「待てよ、この体格差じゃ無理だろ…」
元山「刃で心臓をひとさしぐらいはできるでしょ?経験値、たんまりもらえるわよ。クスクス。」
才人「くそ…」

どうすればいい?
元山は何かよくわからんが、俺を飲みこんだら強くなるらしい。
だから俺を殺しはしない。問題は西上先生。
でも自分で手を下さず、俺にやらせるってことは要は俺に戦闘経験を積ませたいんだろう。
ならば、俺が何もしなければ解決…?

元山「あ、そうそう。何もしないなら何もしないで良いけど、ここからは一生出られないから、そこは覚えておいてね。」

そうだった。ここは元山のスカートの中。元山はもとの体に戻って動きたい放題だろうが俺たちはそもそも縮小している。
そして縮小世界の中でさらに縮小しているんだ。

元山「トイレ行ってくるからその間にやっておきなさい。」

そう言って元山は倒れている本棚の陰で用を足し始めた。
いや、傾いてるから本棚の隙間をつたって尿が流れてくるんですが。。。

西上「才人くん。」
才人「あ、はい。」
西上「1つだけ、元山さんを倒す方法があるわ…。」
才人「え、どうするんです!?」
西上「あなた、刃以外の金属は作ったことある?」
才人「え、スプーンやフォークですか?無いですが…」
西上「違うわ。あなたの能力は金属練成。でも、何でそんなことが出来るか分かる?」
才人「え、何でです?」
西上「物質は何もないところからは現れない。でも、人間の血液には鉄分がある。
それを、大気の色んな物質と合わせて刃にしているのよ。」
才人「そうだったの!?」
西上「でね、あなたの体全身を、固く金属でコーティングすれば、私の蹴りで銃弾のようにあいつを貫ける。」
才人「な、なるほど!」

さっきのナイフ投げの応用か。でも、これならいける、行けそうだ。

西上「本当は、本体にブチ込もうと思ってたんだけどね」
才人「あ、だから俺を元の大きさに戻さなかったんですね」
元山「あら、何を話しているの?」
西上「才人くん!」
才人「はい。」
元山「ん?」
西上「食らえ!」

俺は素早く全身を金属にした。そしてそれを、西上先生が蹴る!
俺という弾丸は元山の右太ももを貫いた。

元山「あっ…!!!」

どさり。元山が倒れる。
俺は壁にぶつかって地面に落ちる。そして金属化を解除。
すぐに先生の方に駆け寄ろうとした…が、先生の方から寄ってきた。

才人「とりあえず成功ですか?」
西上「本当は一発で決めたかったんだけど…とにかく、今のうちに逃げるわよ!」
元山「逃がすもんですかっ…」

ブブブウウウ!

また強烈な一発が襲いかかってきた。
臭い。
そして、今の衝撃で学校が崩れ始めた。

才人「ちょ、これまずいっすよ!」
西上「逃げるわ!」

崩れる学校を置いて、俺たちは窓から外へ脱出した。