縮小師 第一部 1章

日本人の寿命は世代を追うごとに長くなっている。
信長の時代は50才、ヒミコの時代は30才と言うのが普通だったと記す文献もある。
だがそのヒミコの没年例は70才ぐらいとなっている。
何故彼女は長生きできたのか。
彼女は呪術を使っていたようだが、その中に、人を小さくする術もあったと近年の研究で報告されている。
そしてその術を使う人々の末裔が現代にもいると推測され、人は彼女らのことを、「縮小師」と呼ぶことにした。



キーンコーンカーンコーン
終業のベルが鳴る。

先生「よし、では今日の授業はここまで。」

授業が終わり、駄弁るもの、帰りの支度をする者、部活に行くものがいる。

慎太郎「よっしゃー!中山、ゲーセン行こうぜ!」
中山「悪い、今日は塾だ。」
慎太郎「えーーー!!!」

勢いよくゲーセンに誘っている少年は新藤慎太郎。ニックネームは「しんしん」。
学校終わりにゲーセンに行くのが日課だが何故か成績はトップクラス。
一方の中山は週3で塾に通っているが成績は下位。

中山「お前と違って頭が悪いからな。今度赤点取ったら親にバイトやめろって言われてるんだ。」
慎太郎「ならしかたねえーな。頑張れよー。」
中山「おう。」

楓「あー、日直めんどくさいなぁー。」
美奈「楓—。早く帰ろうよー。」
楓「日直だから戸締りしなきゃいけないの。ちょっと待ってー。」
梓「新しいプリクラ出たんだよ。早くしないと間に合わないよー。」
楓「そうだった!…あ、臼井さん」
臼井「えっ?」
楓「臼井さん、悪いけど戸締りしておいてくれない?どうせ待ってる人とかいないでしょ?」
臼井「…まぁ。」
楓「じゃあお願い!お願いしたから!よろしくね!じゃ。」
臼井「…」

楓、美奈、梓は今時のJKという感じの女の子。
無責任な所も若々しい。
一方の臼井さん。彼女は名字の通り存在が薄い。

臼井「(何で断れないんだろう。)」

よくあることである。臼井は黒板を消し、戸締りを始める。

慎太郎「手伝うよ。」
臼井「え。」
慎太郎「ごめんな、悪気はないと思うんだ。迷惑してるとは思うけど。今度、あいつらにも押しつけてやれよ。」
臼井「は、はぁ…。」
慎太郎「あ、ひょっとして男と話すの、苦手…?はは。」
臼井「い、いえ、そんなことは。」
慎太郎「まぁ、そういうことだ。これで終わりだな。じゃぁな!」
臼井「…」

臼井はこの日、初めて慎太郎と話した。
慎太郎もたまたまだろう。今日手伝ったのは。
しかしその優しさに、臼井の心は少し動いた。

臼井「(新藤君、優しいし勉強もできるし羨ましいな。でも、私みたいな影の薄い、暗い女となんて話していいのかなぁ。)」

臼井はとぼとぼと、今日も1人で帰っていた。

老婆「お前さん、チエコかい?」
臼井「え?あたしですか?」
老婆「そうじゃよ!チエコじゃろう?」
臼井「いえ、人違いだと思いますが…」
老婆「違ってなどおらん!やっと後継ぎを見つけた…おおチエコ!」
臼井「(こういう人とは関わらない方が…)」

臼井は無視して帰ろうとした。

老婆「おいチエコ!年寄りを無視するのか!?」
臼井「(そう言われると困るな。)…何ですか?私はチエコじゃなく、久美子ですが。」
老婆「間違いない。お主、恋をしておるじゃろう!」
臼井「いきなり何を。」
老婆「いいやわかる。婆にはわかるんじゃすべて!恋をしている。じゃが自分にコンプレックスがあるから仲良くなれる自信がない!」
臼井「お婆さん、申し訳ないのですが」
老婆「黙って聞け!周りの目が気になるのならば、周りが見られないようにすればええ!」
臼井「あのー。」
老婆「ほれ、あそこを見ろ。」
臼井「え?あ…。」

臼井のはるか眼の先には慎太郎が歩いていた。ケータイをいじっていて前は見ていない。

老婆「あのこわっぱじゃろ。お主が想いを寄せるのは。」
臼井「違います!」
老婆「あの男を独占したいのならば、あの男と目を合わせ、強く念じるのじゃ。」
臼井「…」
老婆「やってみるか?」
臼井「はぁ…。それでお婆さんの気が済むのなら。」

慎太郎が近づいてきて、臼井に気づいた。

慎太郎「あ、臼井。」
臼井「し、新藤君…。」
老婆「早く目を合わせるのじゃ!」
慎太郎「じゃ。」
臼井「あ、待って!」
慎太郎「え?」

慎太郎が振り返った。臼井と目が合う。臼井は念じた。

臼井「(新藤君を、独り占めしたい!)」
老婆「キエー!」
臼井「え、何ですかそのポーズ!?」

老婆は臼井に向かって何か念じている。

老婆「わしの役目はこれまでじゃ…。じゃあなチエコ。」
臼井「じゃあなって!え!消えた!?」

老婆はフッと消えた。

臼井「どうなってるの…?あ、あれ?新藤君も消えてる…?」
慎太郎「おーい」

臼井は足下から小さな声を聞いた。
おそるおそる足下を見る。

慎太郎「どうなってんだよこれ…。」
臼井「う、嘘…。」

そこには、身長がおよそ1cmに縮んだ慎太郎がいた。




慎太郎「何これ?夢?体が、小さくなって…。」
久美子「(何よこれ。どうなってんのよ)」
慎太郎「おい臼井!何したんだよ俺に!」
久美子「え、わ、わかんない!」
慎太郎「わかんないじゃないだろう!なんか俺に向かって念じてたじゃないか!」
久美子「それは…」
慎太郎「元に戻してくれよ!」
ネズミ「チューチュー!」
慎太郎「うわあ!」

道路わきからネズミが現れた。その大きさは慎太郎の2倍ほどもある。

慎太郎「く、来るな!」
久美子「(新藤君が危ない!?)」

久美子もネズミは苦手だったが、放っておくと慎太郎が危なそうだったので、思いっきり蹴とばす。

ドムッ!

ネズミは勢いよく吹っ飛び、電柱にぶつかって止まった。

久美子「よかった…。」

しかし、それを見ていた慎太郎は思った。
自分より2倍以上は大きいであろうネズミが、女子高生の一蹴りで完全に伸びてしまった。
つまり、ネズミより小さな自分が蹴りを喰らえばただでは済まない。
もし久美子の機嫌を損ねるようなことがあれば、自分もあぁなるかもしれない。

久美子も思った。あんなに簡単に蹴とばせたネズミにすら慎太郎は怯えていた。
つまり、今の慎太郎を好きなように出来てしまうのではないかと。

久美子「新藤君。」

久美子は慎太郎を見下ろす。

慎太郎「な、何だよ…。」
久美子「その大きさだと危ないわ。しばらく私が面倒を見てあげる。」
慎太郎「いや、いいよ!」
久美子「そう?」

久美子は気絶しているネズミを木の棒でこちらまで寄せ、チョンと突いた。

ネズミ「ちゅ…」

ネズミは目を覚ました。

慎太郎「おい、何やってんだ!目を覚ましたぞ!」
ネズミ「ちゅー!」

興奮したネズミは慎太郎に襲いかかった!

慎太郎「うわああああああ!」
ネズミ「ちゅ…」
慎太郎「…あ?」
久美子「大丈夫よ。」

ネズミが慎太郎に触れる一歩手前で、久美子がネズミの体を踏みつけていた。
慎太郎の目の前で、ネズミが久美子のローファーの下敷きになりじたばたしている。

久美子「わかったでしょ?私がいなきゃ危険がいっぱい。」
慎太郎「くそ…っ」
久美子「それにね、」

ドスン!

慎太郎「うわっ!」

久美子はネズミを踏んでいたのとは違う方の足をあげ、慎太郎の前に踏み下ろした。
砂埃が宙に舞った。
ネズミを踏んでいた方の足に体重がかかったため、ネズミは重さに耐え切れず失神していた。

久美子「私の言うことは絶対なの。わかった?」
慎太郎「は、はい。」

慎太郎はそう答えるしかなかった。




久美子「さ、ここが私の部屋よ。」
慎太郎「…」
久美子「無言?」
慎太郎「どう反応すりゃあいいんだよ。」
久美子「綺麗だね、とか、女の子らしいね、とかあるでしょう?」
慎太郎「まぁ、シックな感じでいいんじゃないか。」
久美子「それ、女の子に言う言葉—?」
慎太郎「(うぜえ…。)」
久美子「まぁいいわ。今から新藤君の家を作ってあげるね。」

久美子は折り紙で箱のようなものを2つ作った。

慎太郎「(何故二つ…。)」
久美子「どーん!」

久美子は右のこぶしで片方の箱をぐしゃりと潰した。

久美子「逃げようとしたらこうなるからね。」
慎太郎「はい…。」

何の罰ゲームだよと慎太郎は思った。
クラスのそれほど仲良くもない女に突然体を小さくされ連れ去られ。
あげく、命の危機にまでさらされている。
そんなことを考えていると、久美子はいつの間にかスカートや上着を脱いでいた。

慎太郎「おい、何やってんだ?」
久美子「え?制服着たままだとまずいから脱いでるの。」
慎太郎「いや、そうじゃなくて…」
久美子「まさか、あたしの下着姿を見て興奮してるの?嬉しい。」
慎太郎「(うぜえー…。しかし意外とスレンダーでいい体形してるな。)」
久美子「そうだ…。」

久美子は何かを思いついたようだ。
にやりと口で笑い、慎太郎を入れている折り紙の箱の上に座った。
座ったと言っても、蹲踞の姿勢を取り軽くお尻を置いただけ。
折り紙の箱の1辺は5cmもない。椅子のような感覚でいたら当然潰してしまう。

慎太郎「お、おい、何やってんだよ!」
久美子「新藤君、何が見えるー?」
慎太郎「なにって…」

大きなお尻で光はさえぎられていたが、折り紙の透かして側面からかすかに光が入ってくる。久美子のはいているドット柄のパンツが、さながらプラネタリウムのように見えた。

久美子「恥ずかしいならいいのよ。ねぇ新藤君、下の名前で呼んでいい?」
慎太郎「何をいきなり。付き合ってもいないのにか!?」
久美子「どうすれば付き合ってくれるの?」
慎太郎「付き合わねえよ!」
久美子「あたしね、男女がお互いに恥じらいなく過ごしていたら付き合ってるとみなしていいと思うの。」
慎太郎「…はぁ???」
久美子「だ、か…らっ」

久美子は下っ腹に力を入れた。
パンツが盛り下がる。

プゥゥ!!!!

慎太郎「うぁっ!ガハッ!何しやがる!」
久美子「彼氏の前じゃおならは我慢しないって決めてるの。」
慎太郎「だからってこんな密閉空間で…ゴホッ臭い…。」
久美子「慎太郎って呼んでいい?あたしのことは久美ちゃんって呼んで欲しい。」
慎太郎「何を勝手に話を進めてんだよ!」

ブゥゥ…ン

慎太郎「おげええええ!」
久美子「あたしこんな恥ずかしいことしてるんだよ?いいでしょ?」

いい、悪いよりも密閉された空間の中で放屁を浴びせられ、慎太郎は酸欠状態に陥っていた。ここはとりあえず、はい。と頷かないと命が危ない。

久美子「どうしても無理なのなら…。」

久美子は少しずつ、小さな折り紙ハウスに体重をかけていく。

慎太郎「わ、わかった!それでいい!それでいいからやめろ!」
久美子「やったぁ♪じゃあ、よろしくね、慎太郎。」
慎太郎「…」
久美子「慎太郎?」
慎太郎「はい、…久美ちゃん。」

久美子は満足そうにお尻をどけた。



楓「このプリすごいね、目でっか。」
梓「プリクラ詐欺だね。」
美奈「あれぇー?」
楓「どうしたの?間抜けな声出して。」
美奈「いや、いつもいるしんしんが今日はいないもんだから。」
梓「あら、ほんと。」

慎太郎はいつも、近所のゲーセンに入り浸っている。

楓「まぁそんな日もあるんじゃないの。」

3人は特に気にも留めず、帰宅した。



久美子「お待たせー」

久美子は風呂と夕飯のために居間に下りていた。
その間、慎太郎は放置していた。

久美子「ン…?」

折り紙ハウスの中を見ると、内部の紙を少しはがしたような跡がある。
これは慎太郎が紙を破って抜け出そうとした跡だ。
勿論、久美子はそれに気づいた。

久美子「慎太郎、これはどういうこと?」
慎太郎「見てわかるだろ。逃げだそうとしたんだよ!」
久美子「どうして?」
慎太郎「こんな生活耐えられるわけ無いだろう!なんで俺がこんな所に閉じ込められなきゃならないんだ!」
久美子「あたしのこと、嫌いなの?」
慎太郎「今日、嫌いになった!」
久美子「そう。」

久美子は暗い表情で慎太郎を足元に置いた。
そして、右足をあげ、慎太郎の真上で止めた。

慎太郎「おい、何を…。」
久美子「あたしのこと、嫌いなんでしょ。」

久美子は慎太郎の上に右足を降ろした。
ミシッ…ミシミシ…体重を少しずつ小さな慎太郎にかける

慎太郎「ガハッ…おい、やめろ!潰れる…うぐっ」
久美子「あたしのこと嫌いっていうんだもん」
慎太郎「う、嘘だよ!好き!好きだ!」
久美子「本当?」
慎太郎「本当だよ!」
久美子「じゃあ、証明して見せて。」
慎太郎「え、どうやって…。」
久美子「好きな女の足なら、舐められるでしょ?」

久美子は慎太郎に足を突き付けた。
風呂上りではあるものの脚先にはすでに汗がにじみ出ている。
かきたての汗を、慎太郎はむせながらも舐める。
まるで酢の物を口に大量に含んでいるかのようである。

慎太郎「ぐふっ。げほっ…」
久美子「どう?酸っぱい?」
慎太郎「いや、おいしいよ…。」
久美子「無理はしてほしくないの。しんどくなったら行って。」
慎太郎「じゃあ、しんどい。」
久美子「やっぱりね。酸っぱいものを舐めたら喉が乾かない?」
慎太郎「乾くよ。」
久美子「ちょっと待ってて。」

久美子は下へ降りて行った。
慎太郎は全身の力が抜けた。

慎太郎「(あの女め…元の大きさに戻ったら覚えてろよ。)」

しばらくして、久美子が戻ってきた。手には紙コップを持っていた。

久美子「はい、どうぞ。」

久美子は紙コップを慎太郎の前に置いた。

慎太郎「でかくて飲めないよ。」
久美子「わかってる。」

久美子は慎太郎をつまみあげると、紙コップの上に持ってきた。
慎太郎は下を見た。そこには湯気が立っている黄色の液体があった。
鼻の穴をふさぐような臭いに、慎太郎はぎょっとした。

慎太郎「おい、これ、なんだよ!…まさか!」
久美子「うふふ、色と臭いじゃわからない?」
慎太郎「これは、おしっ…」

ドボン!

慎太郎が言いかけた瞬間、久美子は手を話した。慎太郎は紙コップの中に落とされた。

慎太郎「ガハッ!これはっ…!うぶっ!」
久美子「飲んで飲んで〜♪」

尿の深さは10cmにも満たないが、慎太郎からすれば10mあるかないかの深さだ。
そして慎太郎はカナヅチであった。

久美子「えらく暴れてるけど、そんなにおいしいの?」

慎太郎からすれば大きなお風呂に落とされたような感じだった。
ただ違うのは、臭いが凄まじいということ。
硫化物の臭いは女性のイメージをぶち壊すぐらいの悪臭であった。

慎太郎「おぼっ!おぼれっ!がっ…」
久美子「あ、ひょっとしてカナヅチ!?」

久美子は割りばしで慎太郎をつまみあげた。

慎太郎「はぁ…はぁ…死ぬかと思ったじゃねえか…。」
久美子「はは、ごめんね〜」

久美子は割りばしでつまんだ慎太郎を見た。
改めて小ささを感じる。
箸でつまんで口に入れるご飯よりはるかに小さい。
豆粒のようなもの。見ていると、口に入れたくなってきた。

久美子「汚れちゃったね。綺麗にしようか。」

そう言うと、久美子は慎太郎を口の中に入れた。
久美子は舌で慎太郎の全身を強く舐めた。
慎太郎は舌のザラザラを全身で感じた。
洗濯機の中に入っているような感触で、服も脱げた。
そして敏感な所も舌で舐められる。

久美子「おしっこって苦いわね…。ン…?」

舌でしごかれた慎太郎は射精してしまった。

久美子「んふふ…」

違う味の液体が舌に触れて久美子も気づいたようであった。
慎太郎は自分が情けなくて泣けてきた。
久美子は口から慎太郎を出した。

久美子「慎太郎、気持ちよかったんだぁ?」
慎太郎「うるせぇ。」
久美子「ふふ、嬉しいな。服は後で水洗いするね。」
慎太郎「俺もシャワー浴びたいんだけど。ねばねばする(それに唾液が臭い)」
久美子「分かった。後で洗面台で洗おうね。」



夜が更けていった。
明日も学校である。
久美子は寝ることにした。
慎太郎も、折り紙ハウスで眠る。
明日こそ、元の大きさに戻れるよう祈りながら。


続く。