「あー、なんか近づいてくるなぁ…、あ、俺の好きなイチゴ…」

ぷちっ

地面から上空を眺めていた蟻は一瞬にして地面と同化した。

「」内は私が勝手に想像した内容である。
さて、一人称が私であるが、私は男である。
先日就職活動を終えたばかりの大学生なのだが、その影響で
一人称が私になってしまったのだ。
不景気な昨今、公務員に内定した私は運が良いのかもしれないが、
残念ながら大学生活は全く充実しておらず、
休み時間の今もこうやってタバコを吸いながら通りすがる女子を見て妄想している

恋をすると女性は美しくなる…と言うが、普段キャンパスを歩いている顔も良いと思う。
すなわちそれは真顔であり、若干しかめっ面に寄っている顔がSっ気を妄想させる。

「そこ座ろー。」

また若い女子学生がやってきた。
多分1年生だろう。友達と一緒にベンチに腰かけてランチタイム。
ホットパンツに黒タイツという、この季節によく見られる格好であるが、
お尻はピチピチであり、座ると桃の形が見える。
その、お尻とベンチの間に挟まりたいのだがそれは小さな虫だけが味わえる幸福だ。
私は、寒そうに地面を歩く蟻を拾い、女子学生の後ろからさりげなくベンチに落とし、
後ろのベンチに腰かけた。

ふわっ

蟻を観察しようとしたら突然、蟻が舞い上がった。
風は吹いていない。
もしや…?

私は靴紐を直すふりをして身を屈めた。
臭う…。

可愛らしい顔の持ち主から出たとは想像に難い、いやしたくない臭いだ。
私はその臭いを思いっきり鼻で吸ったが、蟻は全身で受け止めたわけだ。
そして、10センチはとんだ。0.5センチ程度の蟻からすればすごい距離だ。
だが、きっと温かい風を浴びることができて蟻も幸せだったろう。