Crush Portrait
【あらすじ】某提督に贈った短編です。

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金剛型高速戦艦3盤艦、榛名です。

トラック泊地にて秘書艦を務めています。



最近、その、提督の様子が、なんだかおかしいのです。

連日に渡る深海棲艦の奇襲を受けてでしょうか、明らかに、疲れきっているような様子を呈していました。

私も、もう何年も秘書艦を務めていますがここまで酷くやつれているのは初めてです。

「提督…、お体の具合は、いかがなのでしょうか?」

「……ああ、心配をかけてすまない。私は、……大丈夫だ」

提督は、やはり元気のない声で答えました。

そしてゆっくりと体を持ち上げるように立ち上がり、そのまま部屋を出ていかれてしまいました。



一人になった提督執務室。聞こえる音はたまに外から吹かれる風の音だけです。

何か提督を元気にさせる手段はないものでしょうか……。

そんなことを考えていると、電源がつけっぱなしのままの提督のパソコンの画面が目に入りました。

もちろん、他人のパソコンを盗み見るなんて御法度です。

ですが、普段ものすごく几帳面な提督が、無防備な状態で席を外してしまうだなんて、とても珍しいことだったんです。

それくらい状態がひどいのかも……、そう考えると、居ても立ってもいられません。

私は、この中に何かヒントがないか、無意識に覗き込んでしまいました。



とは言ってみたものの、画面には何やら難しい文字列が並ぶばかり。

よく考えてみれば当たり前のことでした。提督は仕事中なのですから。

画面下のツールバーには…、起動したままのアプリケーションがちらほら。

これらも仕事で使うものなのでしょうか。安易に触ってしまうのは危ない気がします。

「あら……?」

ふと私が見つけたのは、他のものとは明らかに風貌の違うアイコン。

可愛い女の子の顔が模られたそれを見て、私の手は無意識にマウスへと伸びていました。

微かに震える右手を支えながら、人差し指をカチッっと動かしました。

「……」

アプリが開かれると、そこには一枚の画像のようなものと、それを取り囲むようにして広げられている設定画面。

画面の中の街には火柱のようなものが無数に立ち、幾つもの足跡で穴ぼこだらけになっていました。

「どうしてこんな絵が……」

また右手が不意に動いてしまいました。カーソルを画面に合わせ、絵が映し出される角度を変えていきます。

すると、画面に映し出されたのは、あまりにも見慣れた……、いや、私自身が見るのは、そこまでないのかもしれません。

「!……」

その中に映っていたのは、紛れもなく私の姿でした。

それも、何十倍以上にも大きくなった姿で。

屈託のない笑顔を浮かばせながら、眼下に敷き詰められたビル群を圧し潰して。

画面の中の私は、まるで怪獣のように街を破壊していました。



そうか、もしかして、これかもしれない。

提督を元に戻す方法。今の私なら……。

散らかった画面を元の状態に戻し、机の上を整えてから私は執務室を後にしました。


次の日、私は提督に休暇届を出して一日の休みを取りました。

提督の浮かない顔は相変わらずでしたが、快く許可をしていただけました。

休みとはいうものの、朝起きてからやる事は変わりません。

朝ごはんを食べて、顔を洗って、いつもの服装に着替えをして。

そして思い出したかのように、軽く化粧をして。

忘れないように携帯電話も懐にしまって、いよいよ準備完了。

そして指を交互に重ね合わせ、目を閉じ、じっと祈り始めます。

「二百倍……、地方都市……、転送………」

そうして、私の体は光の渦に包まれて消えていきました。



数秒経った後、降り立ったのはとある地方都市の真ん中。

中心部に不揃いな高さの建築物が立ち並び、外郭には低層の住宅街が広がっています。

そんな街の様子を、私は文字通り見下ろしていました。

しかし、どこか高い場所の展望台に居た訳ではありません。私の足はきちんと地に着いています。

私の身長は300mを超えていました。

ほとんどの建築物は私の膝下以下。踏み潰すにはもってこいです。

そして、私の足元には……

「くすっ、やっぱり脆いのには変わりがないんですね」

黒光りするブーツで踏み締められた地面。

私の足は既に何棟もの建物を踏み潰してしまっていました。

無残に飛び散った瓦礫、引きちぎられた電線、砕かれたアスファルトの数々……。

ただ足を着けただけのはずなのに、この壊れっぷり。

そんな惨状になっている足元を、取り出した携帯電話のカメラでパシャリ。



この街では、もう私は怪獣になっていました。

私から逃げようとする車の波が、目に留まります。

「うふっ、じゃあまずは、ここからね」

自慢の編み上げブーツを高々と持ち上げ、車列に思いっきり踏みつけてやります。


ズガッシャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ…………………………


私の一踏みで、途端に世界が変わってしまいました。

踏み下ろした地面から大量の白煙が上がり、足元がすっかり隠れてしまっています。

霧が晴れた後、私は私自身の足で踏み潰した街の様子を見ることになります。

そこに広がっていたのは、硬いブーツの底によって潰された幾数台もの乗用車、振動で窓ガラスに無数の亀裂が生じたビル、そして潰された人間の死体。

「あははっ、面白いですね。私のたった一撃で、これですか」

目下に広がる瓦礫の数々を、ワインレッドのブーツと一緒にパチリ。

動くものが無くなった町の一角に響き渡るシャッターの音は、どこか不自然でしょうか。



変わり果てゆく街を写真に収めながら、私は次々と立ち並ぶビル群に襲い掛かります。

素直に真上から押し潰すのも良い、あるいは斜め方向から徐々に力を加えていき、ミシッと割れるような音が聞こえたら、そのまま一気に踏み潰す。

街中に住んでいる人間の存在なんて、小さすぎてほとんど見えませんでした。

だから、私がわざわざ慈悲をかけてあげる理由もありません。崩した瓦礫ごと、まとめて粉砕します。

踏み潰し甲斐の無い住宅地は無数の足跡で埋め尽くしてやります。

特にこれといった高層マンションも無い、同じような大きさの家々並ぶ郊外部。

一つ一つの家に、暖かい家庭が築き上げられているのでしょう。それを強大な力で踏み潰すことの、爽快感たるや。

広大な土地を持つ住宅地へランダムに足を振り下ろさせ、茶色くくっきりとした足跡を残して。

粗方踏み潰し終えると、携帯電話を持った右手を空へと翳し、自分の体と足元の街が写るように一枚パチリ。

そして今度は、左手でピースの形を作り、唇の口角を上げて、もう一枚。




私が街を壊し続けるのは、私の快楽の為だけではありません。

もちろん、絶対的な破壊神となった体で立ち並ぶビル群を踏み潰していくのは、とても気持ちが良いです。

でも、本当の目的は、そうじゃない。

平和な街を破壊して、その写真をいっぱい撮って、提督の癒しにしてあげたい…。

カメラロールの履歴には、自分が"やってきた"記録が鮮明に映し出されています。

作り話の世界じゃない、本物の写真が、ここにある。

私の写真を見て、提督はきっと元気を取り戻してくれるだろう。

そんなことを考えると、もっともっと、踏み潰したくなっちゃう。

そう、全ては、提督のために……。


「ふふっ、待っていてくださいね……提督♪」


街には未だ無事なままの建物が残っています。まだまだ、お楽しみはこれから……。




(おわり)