人類と怪獣との戦いが終わり、そこから月日が流れた現代。
怪獣の魂を手にして怪獣に変身できる女の子が現れるようになった。
怪獣娘と呼ばれる存在である。

街の平和を守る者、逆に侵略のような何かを行う者など。
様々な怪獣娘が生活をしている。

そんな怪獣娘の1人であるゴモラにひとつの依頼が飛び込んできた。


「宣伝活動用の撮影に協力してほしい?」


どうやら大怪獣ファイト向けの宣伝活動らしい。

大怪獣ファイトとは、怪獣娘同士の格闘技である。
エンタメのひとつとして世間に広まっており、
彼女も期待の新人として注目されている。
それの宣伝のために撮影を行いたいという依頼のようだ。


「いいんじゃない?
 宣伝大事だもんね。」


あっさりと依頼を受ける彼女。
ノリのよさは彼女の長所のひとつである。

勢いのままに日程の調整や撮影時の説明会などなど。
準備もノリよく進んでいく。

そして、あっという間に撮影当日。
準備運動を終えた彼女は目隠しをつけた。
この後の準備にもつながるらしい。
あとはそのまま大人しく待っているだけでよいとのことだ。

撮影本番を間近に控えているが、彼女は落ち着いていた。
それもそのはず、彼女はこういった舞台に慣れているのだ。
大怪獣ファイトも撮影されながら行われるし、
さらにはトークショーを行ったこともある。
経験は充分だ。

むしろ落ち着きすぎてしまい、そのまま眠ってしまった。

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「……あっ、いつの間にか準備終わったんだ。
 いけないいけない。」


耳元で鳴る小さなブザー音で目を覚ました彼女。
撮影準備完了の合図の音だ。
いつの間にか目隠しは外してもらっていたらしい。

周囲は真っ暗である。
ただし、目隠しをしていたことで暗いところでも少しは見えるようになっている。
このための準備だったのだ。


「……それにしても、地中に潜る経験って滅多に無いよね。
 自分から潜ろうとは普通思わないし。」


彼女は今、地中に居た。
前後、左右、上下全てを土に埋め尽くされているのだ。

といっても、あくまでこれは撮影。
息ができない、身動きが取れないなどの身の危険は一切ない。


「合図があったから、あとは好きなタイミングで動けばいいんだよね。
 上がどうなっているのかまだ見ていないから楽しみだなぁ。
 それじゃあ、早速……」


ザザッ、ザザッ……

怪獣の手で上にある土をかき分けていく彼女。
簡単に掘れるほど土は柔らかく、どんどん上方向の空間が広がっていく。
自分より上側にある土を掘る経験は珍しいかもしれない。

30秒ほど掘り進めると、石の板のようなものが爪がひっかかった。
地上に着いた証である。


「これを壊して地上に出ればいいんだよね。
 そーれっ!」


ドゴォォン!

右のこぶしを勢いよく突き上げた彼女。
そのパンチで石の板のようなものは簡単に砕け散り、
こぶし大の穴があいてしまった。

バキバキバキバキッ……

彼女はその穴に両手を入れると
穴の周囲を引きずりおろすように崩していき、その穴をどんどん広げていく。


「よい、しょっと……」


ゴゴゴゴゴゴ…… ずずぅぅん……

大きくなった穴から両腕を出すと
彼女はゆっくりとその体を地上へと出していき
ついに地上に立つ。

怪獣娘登場の瞬間である。


「ふう、ちゃんと出られてひと安心。
 それにしても、周りはこんな感じなんだ。
 よくできてるね?」


仁王立ちで周囲を見渡す彼女。

地上に広がっているのはとある都市だった。
ただし、彼女の今の身長は80メートル前後ということになっている。
そのため、彼女からすれば
都市のミニチュアが周囲に広がっているように見えている。

さきほど彼女が突き破った石の板というのは道路である。
怪獣娘のパワーと彼女の大きさがあわさることにより
アスファルトを固まったカラメルのように簡単に砕いてしまうのだ。


「よーし、実物見たらやる気出てきたよ。
 鍛錬も兼ねてやっちゃおうか。」


どがぁぁん!

足元にあった数階建ての建物を突然蹴りつけた彼女。
怪獣の足は人間のものよりも重く、さらには爪もとがっている。
そして怪獣パワーを持つ彼女の一撃は
建物の外壁を簡単に粉々にして、中までしっかり抉ってみせたのだ。


「簡単に壊れるのは当然だと思うけど、案外手ごたえがあるね。
 ミニチュアなのにすごい技術なんじゃない?」


今回の撮影の目的は怪獣娘の圧倒的なパワーを見せつけることである。
大怪獣ファイトでもある程度の力強さが分かるが、
どうしても相手との強弱にしか目がいかない人が少なくない。

そこで今回は街を破壊するというシーンを撮影することで
怪獣娘という存在の力強さを分かってもらおうという趣旨なのである。
怪獣娘が怪獣になりきるという逆転の発想だ。

ちなみに、この都市がどのように準備されたのか、
どのように彼女が先ほどの地下に移動されたかを彼女は知らない。
少なくとも、彼女はここを精巧なつくりの撮影スタジオだと思っているようだ。


「でもおかげで、私も楽しめそう!」


ずしぃぃん! どしぃぃん!

彼女はいよいよ本格的に足元の街を襲撃し始める。

足元の建物を踏みつぶしたり蹴り倒していったり、
そこに何があろうとその建物を粉々に破壊してしまう。

道路を踏みつければ自動車たちを一瞬でぺちゃんこにしながら
大きな足跡を刻んで沈めていく。

彼女が通り過ぎた直後も今度は太い尻尾が一帯をなぎ払う。
踏みつけなかったところにあった建物はなぎ倒され、
既に破壊された建物も追い打ちをかけられて瓦礫さえない更地と化してしまう。

彼女が今居るのは中心地から少し離れたエリア。
高層ビルといえる建物は無いものの、
10階建て近くのオフィスビルやマンションなどはいくつもある。
他にも百貨店や商店街など、それなりに施設が揃っている。


「ふふん、腰くらいの建物だって崩せちゃうもんね!」


ずがががっ! ずしゃぁぁっ!

10階建てともなれば彼女の腰付近の高さまであるが、
そんな建物にもお構いなく太い脚と大きな足でなぎ倒していく。
建物は傾き、根元から折れ、そのまま地上へと叩きつけられれば
瓦礫となって道路を埋め尽くす。

彼女が道路沿いに建物を蹴散らしながら街を進んでいると、
目の前に広場のある敷地が現れる。

数階建てのいくつかの建物。
何重にもカプセル型に線が引かれてぐるぐると1周できるような形が描かれた広場。
学校である。


「学校といえば、授業中に怪獣や宇宙人が襲ってきて授業がなくればいいのに~って
 想像する人が居るってよく聞くし……実際にやってあげようか?」


ずどぉぉん! がしゃぁぁん!

最初の1歩でグラウンドに踏み入れて大きな足跡を刻んで
一面に地割れを広げていく。
次の1歩で校舎に足を下ろせば校舎を簡単に踏み抜いてみせる。

どしぃぃん! どすぅぅん!

そのまま彼女が何度か踏みつけていけば
校舎はひとつ残らず踏みつぶされて瓦礫となり、
体育館もひと踏みでぺちゃんこになって足跡の一部になってしまった。


「いやー、でも本当にこうやって学校襲われたら嬉しくないと思うよ?
 今は撮影だから堪忍してね?」


苦笑いしながら振り返ってみると
そこには学校の敷地にはいくつかの怪獣の足跡と瓦礫だけが残っていた。

さらに後ろを見れば、
彼女の通ったところがくっきりと分かるほどに建物がなくなっており、
煙があちこちで立ちのぼっている。


「よし、このあたりはこのくらいにして、
 次は向こうに行けばいいんだよね。」


ずしぃぃん…… どしぃぃん……

地響き起こしながら彼女は真っすぐに街の中心地へと向かっていく。
事前の説明でそのエリアで暴れてほしいという指示を受けているためだ。

中心地へと近づくほどに彼女の周りの建物が高くなっていく。


「わぁ……この大きさで改めて感じるけど、
 高層ビルが多すぎて窮屈だねぇ……」


大通りを進んでいき、あっという間に中心地エリアに着いた彼女。

彼女の周辺には彼女の身長と変わらない大きさのビルだけでなく、
彼女よりも高いビルが数多く建ち並んでいる。

顔の横にまで建物がある状態、窮屈なのも無理はない。


「でもこっちの方が鍛錬のやりがいがありそうだし
 なにより派手になりそう!」


どかぁぁん! ずどぉぉん!

言い終わるとすぐに両腕を振り回して建物に襲い掛かる彼女。
平手で外壁を叩き割って中身を抉りとってその上層部ごと崩していったり、
パンチをお見舞いすることでビルに大きな穴を貫通させてみせたり。

さらには追い打ちをかけるように両手でビルを捕まえると、
そのまま力ずくでビル全体を傾かせてしまい、勢いよく倒してしまったのだ。


「いいじゃん、とっても楽しい!
 どんどんやっちゃうよー?」


ずがぁぁん! どごぉぉん!

今度は少し重心を下げながらあごを引いて大通り沿いの建物たちをにらむと、
彼女はそのまま突進を仕掛け始める。

頭のツノを使ってビルに大穴をあけていき、
さらには突進の勢いのままに全身で体当たりをお見舞いすることで
高層ビルたちを粉々にしていく彼女。
その勢いは彼女より大きな建物でさえも止めることができず、
次の建物、また次の建物とどんどん破壊を繰り返していく。

当の本人は瓦礫を全身で浴びる感触を無邪気に楽しんでいる様子だ。

彼女の突進がようやく止まったとき、
大通り沿いの建物数百メートル分がひとつ残らず瓦礫と化して
建物がなくなっていた。


「これはなかなか、楽しいというかゾクゾクするよ。
 っと、この建物はもしかして……?」


突進を終えて一息つきながらふと足元を見た彼女。
他の建物同様に大型施設であることには間違いない。
しかし、その建物の端からは線路が出ていることを彼女は見逃さなかった。

建物の横に立つとゆっくり屈んで中を覗く彼女。
そこには何本かの線路の先に4つほどのホームと停まっている電車たちがあった。


「やっぱり電車の駅だよね。
 上から見ることがあんまりないから新鮮かも。」


再び立ち上がって改めて見下ろす彼女。
脚の付け根ほどの高さの駅の建物を観察している。

が、観察する時間は10秒ほどで終わってしまった。


「まあ駅であることには変わりないし、
 大事な施設って襲われがちだからね?」


がしゃぁぁん!

彼女の右足が容赦なく駅の建物を踏み抜いてしまった。
上層部の商業施設はもちろん、駅のホームにまで彼女の足が突き刺さり、
ホームや電車、線路を一瞬で踏み抜いてしまった。

ずどぉぉん! どしぃぃん!

それだけにとどまらず、踏み入れて何度も踏みつける彼女。
駅のホームは上からは見えないが、
それらををひとつ残らず踏みつぶすほどの勢いで踏み荒らしていく。

駅のホームでは天井から怪獣の足と瓦礫が降り注ぎ、
次はどこに怪獣の足が降ってくるか、
そもそもまた踏みつけられるのかが分からないという恐怖の時間が流れていく。
とはいえその時間は長く続かなかった。
何故ならば、彼女が全て踏みつぶしてしまったからだ。


「足元はよく見えなかったけど、結構踏みごたえあって楽しかったね。
 でも、まだまだ。
 このあたりをもっともっと襲っちゃうよ!」


ずしぃぃん! どごぉぉん!

ここからも彼女の大暴れの勢いはしばらく止まることがなかった。

両腕を振り回せばビルを叩き割ったり押し倒したり
あるいは握りつぶされたりで崩れ去ってしまう。

蹴とばせば根元から建物が抉られることで
建物は支えを失いそのまま倒されてしまう。

彼女が自慢の尻尾を全身で振り回せば、
彼女の周囲にあるビルの中層部に力いっぱいに尻尾が叩きつけられてしまい
勢いよくへし折れてしまう。

再び彼女が突進を始めれば、
通路上の建物はひとつ残らずなぎ倒されてしまい
彼女が通り過ぎたところは土煙の上がる瓦礫広場と化してしまう。
そんな広場があっという間に数百メートル以上に広がっていった。

彼女の大暴れにより、たった数分で中心地は壊滅状態となっていた。
彼女より大きな建物はひとつ残らず破壊されてしまい、
線路や道路なども瓦礫や足跡まみれになっていて
無事なところは全く見当たらないほどだ。


「思ったより早くこのあたりがめちゃくちゃになっちゃったね。
 っと、この音は……」


彼女の耳元でブザー音が小さく鳴った。
撮影終了まであとわずかの知らせである。

今居るエリアを全滅させるか、
別の何かをひとつ襲う程度の時間しか残っていないということだ。

周囲を見渡す彼女。
たしかに損傷はしているものの崩れずに残っている建物はまばらにある。
それをひとつひとつ襲うのはなかなか面倒なものだ。


「……あっ、いい建物があるじゃん。
 最後はあれを仕留めちゃおうっと。」


ずしぃぃん、どしぃぃん……

やや小走りで中心地から離れる彼女。
彼女の進行方向の先にあったのはお城であった。

いわゆる日本で見るタイプのお城であり、今は観光施設として人がやってくる。
高さは彼女の胸元に届かないほどではあるが、一般的にはやや大型のようだ。


「時間もあんまりないし、最後はとっておきを見せてあげる!」


ずどぉぉん……

お城まであと100メートルのところに着いた瞬間、力強く大地を蹴りつけた。
ジャンプをしたのだ。

体が空に舞い始めると、そのまま空中で前回りをする彼女。
そして尻尾を力いっぱい伸ばす。


「必殺! メガトンテール!」


どごぉぉぉぉん!!

全身を使って勢いをつけた彼女の尻尾。
それがお城の真上から叩きつけられると、お城はひとたまりもなく
真っ二つに裂かれるように屋根から地面まで一気に叩きつぶされてしまった。
あまりの威力に
尻尾が地面に叩きつけられた余波で下側の石垣も粉々になってしまい、
運よく直撃をまぬがれた城の側面の外壁も地面の支えを失い倒れてしまった。

たった一撃でお城を陥落させたのだった。


「うーん?
 普段より体が浮かなくてちょっと焦っちゃったけど……
 ちゃんと一撃で壊せたから、まあいっか。」


すると再び彼女の耳元でブザー音が小さく鳴った。
撮影終了の知らせである。

それを耳にすると、
彼女は全てを出し切ったかのように仰向けで大の字で寝転がった。


「いっぱい体動かして鍛錬になったし、撮影もたぶん上手くいったでしょ。
 ただ、慣れないことをしたから眠くなっちゃった……」


後片付けは勝手にやってくれると聞いている。
準備のときと同様に任せておけばいいだろう。

そう思った瞬間、彼女は眠りについてしまったのだった。

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後日、無事に動画が完成し宣伝活動として使われるようになった。
怪獣娘の力強さを再認識できたということで評価は悪くないらしい。

一方のゴモラも彼女は撮影自体も楽しめたようで、
他の仲間の怪獣娘に宣伝している。


「あの撮影現場、本当に怪獣になったような気持ちになれてすごかったよ!
 技術面は企業秘密って言われちゃったけど、
 依頼が来たら絶対受けた方がいいと思う!」


彼女は今でも精巧な撮影スタジオだと思っている。
世の中には知らない方が幸せなこともあるかもしれない。

あるいは、怪獣娘ならば知ってしまった方がより幸せになるのかもしれないが。

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おしまい。