(広報課より)
今回は微エロ(当省調べ)です。「賢者タイム」時推奨。




♪万朶の桜か、襟の色…

中隊の分列は新緑萌ゆる、林の中を歩いていた。清流は、冷涼な水音を奏でているが、陽気に光り輝いている。皆、ご機嫌に歌をうたっている。そう、今日は遠足である!

「中隊長さ…殿、射撃大会もやるんでありますか」
「そうだ。優秀な成績をおさめたものには、賞状と射撃章、賞品を贈る」
「賞品?わー!!なになになに!!?」

分列を崩して新兵、カール中隊長に走り寄る。たちまち人だかり。

「バカバカバカ!分列を崩すものがどこにいるかッ。列に復帰せんと、営倉(牢屋のこと)行きだぞ」

パパパッ、と列が元に戻る。中隊長、ため息をつく。

「…まさか、巨人は出てこないよな」




【ねこびとしりーず 中隊、遠足…?】



―早送りパート―

遠足、と名が付いているが山中行軍であり、射撃演習であり、新兵への戦時における、高射砲(飛行機を狙って撃つ大砲)陣地の説明でもある。

「ここが、陣地だ。いざと言うときにはここに高射砲を据えつけるのだ」

崖っぷちに構築された、陣地。まだ高射砲は据えつけられておらず、そここに草や花がボーボーと生えていた。陣地の上には木の枝が伸びている。戦時には切り落とす、らしい。

「わー、まるで巨人の足跡みたいですね」
「こちらのほうが先だ。しかし。ひたき、なかなかお前は鋭いな。足跡を利用してのタコツボ(少人数用の塹壕・陣地)は有効な手段だろう。さあ次の場所へ向かうぞ。各員、小隊長から麻酔弾を受け取れ」
「ますい?」
「おおきなクマが出る。襲われたらひとたまりもないぞ」

ヒャァ、おそろしい。しかしそんなひたきに構わず中隊は移動を開始する。吊り橋を越え、林を抜け、開けた野原に出る。小川がちょろちょろと流れ、色とりどりの花畑が、中隊の目の前に広がる。丘の一個向こうには、的らしき円が描かれた、白い布のようなものが貼られている。

「中隊、四列縦隊ッ。ここが射撃場だ。順番に四人ずつ呼ぶから、呼ばれたものから射撃位置につき、的を狙え」

中隊長、観測台に立って記録用紙と鉛筆を構える。軍曹などの下士官は、判定のため、的のすぐ下まで駆ける。準備万端。

「よーし。第一列、前へ」



ターン、ターン、と銃声が響く。

「お前はどうだった?俺は二回やって30点だったよ(50点満点、なお中心のちいさな黒点を撃ちぬくと10点、その他適宜点数)」
「おいらは、10点だったニャァ…ぐすん」
「次は僕の番だ」

ひたき、意気揚々と鉄砲を担いで位置につく。

「おい、それじゃ担ぎ方があべこべだぞ。まあいい。落ち着いて、よく狙って撃つんだぞ」

ずどん、と一発。弾はよそへ飛んでいき、下士官の帽子を撃ち抜いた。ひええ、危ねぇ!と言う悲鳴が上がる。気にせず、連発するひたき。ガチャガチャ、パーン!ガチャガチャ!なかなか当たらず、ムキになる。それ、そこだ。ああ、外れたァ。

「馬鹿者め。そんな乱暴に小銃を扱って、当たると思うかッ」

カール中隊長、画板でばん、とひたきの頭を叩く。痛てえ。悲鳴が上がる。

「二回目の測定まで、誰もいないところで練習しとけ。わかったな!」
「はッ、わかったであります」



―早送りパート終わり―



「射撃大会も大変だ。叩く事無いのに…。これも立派な兵隊になるためだ。でも喉渇いたなあ」

ひたきは大きな、川へやってきた。激流だが、冷たくて美味しそうな水だ。手ですくって飲む。とてものどかで、壮大な味がする。

「うわーっ、美味しいや。水筒に入れておこう…おや?」

水筒に手を伸ばす。ふ、と視線を上げる。わ!あるものを見つけてびっくりする。的の円みたいなものがたくさんついてる布が、岩や木に掛かっている。でっかい!こちら側の崖から一直線だ。

「ははあ。さてはここも練習場ニャンだな。そうと分かれば、早速練習だ」

さささっ、と崖に登り、鉄砲に弾を込める。

「よーし。まず第一球ッ」

ターンと、撃ち出す。円の真ん中に、弾が当たる。あたった!喜びの声を上げる。もう一回ッ。的から逸れた。ありゃ。でもコツがわかれば。銃声高らかに上がる。その内、百発百中出来るようになった。
調子に乗ってもう一回。うーん、いやもう少しやろうかな。



「…うーん、自分一人でやり過ぎたかなあ。穴だらけだニャァ…」

的は黒ごまを散らしたように、小さな穴がたくさん空いていた。

「まあ、いっか。あんぱん食べよ。この腕前、あとで中隊長びっくりするぞ」

あーん。パンを食べようと口を開いた瞬間。

がさがさ、バキバキバキッ!と言う木をかき分け、枝を折る音。熊!?あたふたとあんぱんを口に詰め込むと、伏せて鉄砲を構える。対岸だ。ドキドキ。胸が高鳴り、息が荒くなる。

『うーん、山って、きもちいー♪空気はおいしいし、水浴びできるし…ってあら?あなたはこねこちゃんの…』

ひゃっ、巨人だ。口にはあんぱん。叫べない。一瞬巨大メイドだとわからなかった。なんたって、裸ん坊だったし、髪は水に濡れていたからだ。
すごく、すっごくえっちな身体からは滝のように、ばしゃばしゃと水が滴っている。一方ひたきは、滝のように汗が流れていた。巨メイドは、ひたきより足元の「的」に視線を落とす。表情が変わる。

『あー!ちょっと、わたしの下着が穴だらけじゃない、なによこれぇッ!!』

巨メイド、しゃがみこんで穴だらけの布切れと成り果てた、下着に手を伸ばす。ひたき、的と思っていたもの。それは巨メイドの水玉のパンツと、ブラジャー。蜂の巣にしていた。あわわ、ここは、鬼のふんどしの洗い場だったんだあ。ガタガタ震えるひたき。ぷにぷにしてそうな秘部が丸見えだが、気に留める余裕もなかった。
巨メイドが、ギ、ギ、ギ、と顔を上げて、ひたきを睨む。表情に、怒りが宿る。

『これやったの、キミ?ねえ…?こんなのにしちゃったのは…』

ひたき、もごもご何かを言って首を振るが、あんぱんが口に入っていて何を言っているかわからない。しかし、何かを言った程度で許してくれなさそうであった。
巨メイド、はらり、とパンツを足元に落とす。にやーっ、と笑う。口角こそつり上がっているが、目は笑っていなかった。

『はは、あははは…。あはは…手足ちぎってから、頭もいであげるよ…。痛いそうだよね、それは。うん、すっごく痛いんだよそれは。えへへっ、えへへへへ!』

「むがーっ、もごもごもごっ!」

「モンスターなんかー」の音楽でもかかりそうな、空気。ひたき、必死の形相で逃げ出す。巨メイド、笑っては居ながらも鬼のような形相で追っかける。まさに、おにごっこ。

こわい!こわい!こわい!

林の中を駆ける。いじわるに顔をはたいてくる木の枝も、岩を飛び越えた際、足に走る痛みも、肺が破れそうなぐらい苦しくても、気にせず駆けた。助けて、みんな!


呑気に点数自慢をしている中隊が異常に気づいたのは、小さなひたきと、怒りの巨メイドが木々をなぎ倒しながら巨体を現してからであった。怒りで我を忘れてる!

「うわーっ!出たァ!」
「なんて立派な、からだ(裸を見て)」
「バカっ、ひたき。お前は何をやったんだ!連れてくんな!」
「ふがっ、もごもごもご!エフンエフン」
「くっ、奇襲だ!戦闘準備、ラッパを鳴らせ!各隊長は麾下の部隊掌握に努めろ!」

完全に虚を突かれた。巨メイドは中隊の中に紛れたひたきを探して、兵隊たちを鷲掴みにして捕まえる。そして、目を細めて兵隊たちから不届きもの(ひたき)を探す。

『こいつじゃないわ。こいつでもない!もーっ、紛らわしいのよ!!』

ぽーんと、遠くへほっぽり投げる。あれーっ。兵隊たちは山の向こうまで飛んで、消えてしまった。まとめてぶっ潰す!ずしん、ぐりぐり。ずしん。裸足で兵隊たちを踏みにじる。ぺしゃんこになる。もはや赤いシミになるものも出た。
巨メイド、四つん這いになり、ひたきを探す。兵が密集したところにずごごご、と身体を突き進めてすり潰す。緑の大地一転、茶色の地面が現れる。が、ひたきは見つからない。

『どこよ!出てきなさぁーぃ!!』

巨メイドの咆哮。崖崩れが起きるほどの大声量。ふっくらとしていながらも締まったお尻を尻目に、後ろをこっそり逃げるひたき。と、あるものを見つける。賞品のカンヅメ。棚からボタモチとは、この事だ。誰も見てない。ひたき、カンヅメを雑嚢に詰め込む。完全なるネコババ。
巨メイドは、ふとカール中隊長ら将校団を見つける。ニッ、と笑う。こわい。

『こねこちゃんの隊長さんじゃない…。部下がやらかした責任取りなさいよね』
「街を散々破壊し、このあいだ栄えある我が連隊を弄んだ者が何を言うかッ。征伐してくれる。抜刀、将校団かかれッ」

サーベルを抜き連れて、将校の抜刀隊が突撃する。死する覚悟で進むべし!

『どえむなこねこちゃんたち。いいわ。わたしが悦ばせてあげる』



「うへーっ、すごい勇気だニャァ」

ひたきは、木のてっぺんから様子をうかがう。将校たちは果敢に攻撃するが、効果は薄く、一人、また一人と潰されたり食べられたりしていき、最後はカール中隊長だけになってしまった。中隊長、すでに息も絶え絶えである。

『さあ、あなたはバラバラにしてあげるね』

「まずいニャ、中隊長殿が危ニャイ」

なにかないか、ニャニかニャイか。雑嚢を開いてみると、さっきネコババしたカンヅメがごろごろ出てくる。無我夢中でカンヅメを開け、頬張る。落ち着け、おちつけ!自分に言い聞かせる。

『ほらほら、ちぎっちゃうぞー』
「なにを!軍人は屍を野ざらしにする覚悟はいつでも出来ている。さあひと思いにやってしまえ」
『ふーん、えらいね。じゃ、いっくよー♪』

「あっ!これは」

麻酔弾。雑嚢に入れっぱだった。これだ。くしゃっ、と弾を込める。シャカ、バシャッ。鉄砲のボルト部分を動かす音も極めてゆっくりだが、機敏だった。
巨メイドの指先が、プレス機のような巨大な爪が遂に、中隊長にあてがわれる。バラバラにされちゃう。落ち着け、落ち着け。狙いをつける。


山中に、響きわたるもの。それはこだまとなって、しばらく止まなかった。そして、また響きわたる。


巨メイドがふらっ、と上体を揺らす。 目を細める。立ち上がろうとする。急に眠く…。もはや眠気の限界、細くも大きな身体が、ずっどーん、と崩れる。
巨メイドは、寝息を立ててすやすやと眠ってしまった。響き渡ったものは、ひたきの鉄砲の銃声であった。駆け寄るひたき。

「中隊長殿、傷は浅いでありま…」
「来るな、お前は来るなッ」
「それはあんまりであります」
「しかしなぜ、巨人は怒ってわが中隊を襲撃したのだろうか」
「理由は、巨人の下着が誰か(と書いて自分)によってズタボロにされたのを、中隊がやったと勘違いしたからではありませんか?川原で僕は見たんであります。下着を直せば、怒りはおさまるのでは」
「なにッ、わかった。縫工兵ッ、集合せよ!」

中隊縫工兵が下着に群がる。小さな修繕。直った!よーく見なきゃ気がつかないだろ。大事なのは、誠意。




巨メイドが寝てる間に中隊は、連隊駐屯地にささっと帰ってきた。

「ひたき、お前がいなければ中隊は全滅だった。賞状と射撃章をやろう」
「ありがとうございます、てへへ」

ひたき、敬礼を嬉しそうにする。

「あとカンヅ…あれ?中隊行李ッ、カンヅメがないぞ。どこやった」
「自分が全部食べたであります」


【作戦、成功?】