カール中隊が、巨メイドと接敵してから何日か過ぎた。カール中隊の大半は、ぺしゃんこになって軍の病院行きとなっていた。
溺れかけたものの九死に一生を得たカール中隊長、ため息をつく。

「なにしろあっというまでした。私はなにも出来ず…無念」
「カール大尉、きみが落ち込むことはないさ。剣を振るって立ち向かったのだろう?立派な傷痍軍人だ」
「はッ…好意、謝するにあまりあり、であります、連隊長殿」
「そうしょげるな。話は変わるが、最近どうだ。新兵の教練は大変だろ」
「はッ、何もわからぬ連中でありますからな」

窓から、営庭を見る。無事だった第二中隊の兵隊たちが、鉄砲を担いで走り込みをしている。
ひたきがビリケツで、鬼のような軍曹が木銃で突っつきながら急がせている。

「もっと、私がしっかりしていればなあ…中隊の皆に申し訳がたたない」

突如けたたましく鳴り響くサイレン。反省も、哲学する時間もなかった。カール中隊長、連隊本部を飛び出す。

「中隊集合ッ!非常呼集」




【ねこたちの戦争 工場防衛戦】



―あはっ。きょうはどうしようかな?

メイドは白昼堂々、圧倒的な姿を現した。
街の中心部で、周囲のものを肩や手足でなぎ倒し、貫き、更にお尻でプニッ、と街の時計塔を突き崩しながら巨大化したのだった。
家、自動車、逃げ遅れたねこ人など、様々なものを微笑みながら踏みつけていく。全て、彼女の靴の下に消えた。

『ふふーん。まちをこわすのって、ほーんと刺激的。わたしゾクゾクしちゃうもの…。今日も、工場かなあ?ビルがあるところもいいかなあ?またわたしのひとりえっち、みんなに見てもらおうかな…』

巨大メイド、手を胸を擦るようにして動かす。ドキドキしてる。えへへ。
警官隊は、あたふたするばかりで、どうすることもできない。せめて機関短銃があればなあ。全員、強くそう思う。

「至急、至急。巨人、工場街区中心部ニ現出セリ。侵攻方向ハ、化学兵器工場方面。近隣師団及ビ航空軍ノ派遣ヲ要請スル」
「現在、第二十五連隊急行中。到着迄対処サレタシ」

「本部、本部。第七街区送電線及ビ電話線切断、分遣隊連絡途絶」
「本部。続イテ第二報、分遣隊壊滅」
「本部、第二特警隊到着セリ。コレヨリ指揮下ニ入ル」
「本部、本部!巨人、公然猥褻罪ニヨリ検挙…ブッ」
「本部、警視廳七号、反撃ヲ受ケ圧壊」
「本部。飛来セル巨大下着(ぱんつ)ヲ拾得セリ。一ヶ月間、保管サレタシ」
「本部!巨人、ビルディングヘ接近…猥褻行為開始セリ」
「本部、面割写真(ぐへへ)撮影ノ為、一時接近スル」
「六機、ズルイゾ、命令ニ従ヘ」
「六機、撮影後、現像写真ヲ要求ス」
「…。(鼻血とよだれを拭う音がする)」
「…。(ん…あっ…気持ち…いいッ!こねこちゃんごときの…ッ!建物でぇっ!…角いいのッ!!と言う声が響いて聞こえる)」
「こちら本部。おまえら飯抜きだニャン!!」

無電がびゅんびゅんと飛び交う。警官隊はもはや阻止力足り得なかった。彼らの得物はサーベルと少しのピストル、古めかしいパトカーなのだ。
不意にみしっ、と言う、音。ビルにひびが入り、たちまち崩れ去る。巨大メイドの体重(とりわけ「角おなにー」)に耐えられなかったのだ。
あっ、と不満げな声を小さく上げる。むー。ほっぺたを軽くふくらませる。ゆっくりと振り向く。後ろには、ねこの警官隊(スケベたち)。にまー、と笑う。粉々になったビルを尻目に腰に手を当てて、仁王立ちになる。改めて見上げると、圧倒される。

『…えっち』

短くそれだけを言うと、巨大メイドはぶわっ、と警官隊の上にのしかかった。いや、飛びついた、という表現が正しいであろう。
逃げる間も無く、轟音とともに巨躯の下敷きとなった。どすんどすん。更に念入りに、身体を打ちつけて、潰す。ぷるぷると、おっぱいや鈍く光る黒タイツに包まれた脚が揺れる。
おっぱいが、深い穴を穿つ。そこにあたった警官は地獄だった。いや、天国かもわからない。
ふと、顔の目の前には、残ったひとりの警官。腰が抜けてしまったようだ。巨メイド、ゆっくりと舌を出す。ペロリ。その警官は舌にくっつき、情熱的な熱さの、口の中に入った。
ゴロゴロと舌先で転がされ、そして飲み込まれた。彼は何があったかわからないまま細い喉元を通り、豊かな下乳の辺りの位置にある、胃の中に収まった。

『えへへー。みなごろしー!』

ず、ずん、と立ち上がる。見事なドヤ顔。たとえ無残にいきものを殺したとしても、罪悪感のかけらもないようだった。

『こねこちゃん、わたしの身体にまだこびりついてる…うふふ。わたしがそんなに魅力的なのね』

とは言いつつも、ペーパークラフトと化した警官をパンパンと、ゴミを払うように叩き落とす。
胸にくっついた警官は、「ぱいずり」をして、紙屑のようにくしゃくしゃにした。もはやこうなっては、元がなんであったかわからない。
脱ぎ捨てたパンツのことなんかすっかり忘れて彼女は暴れ続ける。ふりふりフリルのスカートは、電柱や、小さなビルを巻き込んでなぎ倒した。
それより小さな建物やねこ人は黒く、輝く靴に踏みつぶされた。
楽しく破壊の限りを尽くしながらも、巨大メイドはある所へまっすぐ進撃していた。彼女の目標、化学兵器工場、高濃度マタタビ!



「連隊、只今到着ッ」
「歩兵砲中隊、布陣用意!第ニ歩兵中隊は先行!」

幸か不幸か、ねこ連隊は到着した。工場正門前に、連隊本部がパパッと設営される。カール中隊、進軍ラッパ高らかに、リベンジを誓う!
ずん、ずん。足音が近づく。ザッ、ザッと規則正しくカール中隊(残余)、街の広場で巨メイドの目の前に立ちふさがる。迎撃。

『また来てあげたよ、こねこちゃん…。えへっ。ずいぶん残ったんだね。今度はぁ…、おんなのこのヒミツ、教えてあげようかな?』

スカートをたくし上げ、くぱぁ、と秘部を押し広げる。とろりとしたものが、地面に滴り落ちる。カール中隊長を溺死寸前にまでいたらしめた、愛液である。

『どう?こんな形してるんだよ?中にね、【直接的すぎて不許可】を挿れて、きもちよくなるんだよ?えへへっ。でもあなたたちもいれてあげる。きもちいいよきっと…はぁん…』

ずしん、とおしりを降ろして、見せつけるように股を開く。うりうりと、腰を振る。むわんと雌の、匂い。
しかし、カール中隊長は怯まなかった。陸大出は、やはり違う。

「それが、なんだ!こんどはコテンパンにしてやる。軽機前へ!こら、軽機関銃のことだ。小銃班、急所を狙え。軽機、なぜ伏せている。この高さでは対空射撃だ。一人こっちに来い。…そうだ、二脚を持つのだ。もう一人来い!射手の背中を支えろ。じゃないとひっくり返っちゃうぞ。まだ撃つなよ!よし。撃ち方よーいッ…撃て!」

巨大メイド、おとなしく待ってくれた。意外と良い人なのかもしれない。いや、圧倒的強者の余裕か。とかく、機関銃と鉄砲が、火を吹く。
狙うは、巨メイドの、秘部。前回のでたらめな撃ち方とは違い、正確な射撃であった。たちまちオレンジ色の光を引いて、秘部に吸い込まれる。

『きゃん!あっ、ふっ、ふふふふふ…』

ちくちく、と秘部に刺激が伝わる。性感、と言うよりはくすぐったいようだ。やはり、効果が薄い。

「もとより小銃射撃で倒せるなどとは思ってないぞ。よし、後退しろ。このまま後ろに下がるんだ」
「逃げるんでありますかニャ」
「ニャを付けるなといったろう、ひたき。これも戦術のひとつだ」
『ふうん、なにかの作戦?』

しまった。声が大きかった。巨大メイドは、遠くに工場と歩兵砲がいくつか据えつけてあるのを見つけた。

『みーつけた。なに?おんなのこに大砲撃つの?』
「カール大尉の馬鹿者め。歩兵砲、一斉射撃。信号弾上げろ。第二中隊に撤収命令だ」

連隊長の号令一下、信号弾と一緒に大砲までどんどんと、撃ち出される。歩兵砲一斉に火蓋を切れば、必中の弾丸一弾また一弾と命中、猛烈なる爆炎が上がる!
どさくさにまぎれて逃げる第二中隊。

「わぁ、すごい!」
「やれやれ死ぬかと思った。味方にやられては、せつない」

「撃ち方、待て!」

煙がもうもうと、立ち込める。やった、たおした!膺懲の鉄槌、残虐厚顔無恥の敵に下りたり!



にゅっ。



勝ったと思ったら、白い手が煙をかき分け出てくる。次いで、端正な、きれいな顔。涼しい表情。四つん這いで、巨大メイドは姿を現した。命中弾、効果ナシ!

「おお、すげぇ。歩兵砲が効かないぞ」
「ねこ連隊は最後の一兵卒まで戦うぞ」
「連隊長殿、撤退もお考えください!いまの連隊の装備では」

巨メイドが立ち上がり、ずんずん、迫ってくる。連隊本部の方へ、やってくる。連隊長、サーベルを抜く。

「軍人の勇ましさを見せてやる。全員着剣、突撃だ!」
「あっ、連隊長殿!行ってしまわれた。こうなったら最後だ、ものども続け!連隊長殿に遅れるな!!」

突撃ラッパ鳴り渡る!連隊本部の将校団、第一、第三中隊が突撃、肉弾攻撃を仕掛ける!
が、巨メイド、それをまたいで工場へと進んでいく。まったくの無視。

「あれ、あれれぇ。もどれもどれ、Uターンだ。回れ右ッ」

巨メイド、正門前の連隊本部天幕を踏み潰し、工場内にまんまと進入した。
配管をお腹や脚でねじ曲げ、無骨なトタンの建屋を踏み潰し、工場を無理やり進む。そして高濃度マタタビの詰まっている貯蔵タンクの目の前に立つと、がしっと掴む。

「しまったぁ、最初から敵はあれが目的か」
『ちょっと、おもたいわね…。うーん、うーん。ふぅ。せーの、よっこらせっくす!』

すぽーん、とまるで大きなカブが抜けるが如く、貯蔵タンクは街へ飛んでいく。もうこうなっては見上げるしかない。連隊からあーあー、と言う声が上がる。
ドカーン!と、とても大きな爆発。ブワッ、と舞う飛沫。

「あー、作戦失敗だあ…うっ…ゲホゲホっ…ごろにゃん…」
「ごろ…くッ、防毒面の装備を、怠るとは…我ら帝国軍、将校の…名折れだ…にゃーん」
「…我が第二十五連隊ッ、万歳…すんすん、ぺろぺろ」

ニーニー、ニャーニャー。猫の本能そのものが呼び覚まされる。いつも堅苦しい言葉を話す将校らでさえ、マタタビに酔ってしまった。
サーベルもほっぽり投げて、地面をなめるヤツもいた。全員が、猫そのものと化したのだ。

『かっ、かわいいー!!ちょっ、かわいい!かわいいよこれ!』

落ち着けメイドさん、悶える二十五連隊の猫たちを見て、また彼女も悶えていた。
ぞくぞく。またとろりと、滴り落ちる。いじめたい。一歩、一歩。踏み出す。

『さあ…私とあそぼ…ふふっ』

はち切れんばかりに横に張ったブラウスの、ぷち、ぷち、とボタンを外す音。もはや猫たちは、その音を聞いては居なかった。


第二十五連隊は、淫らな慰みものとなり、全滅した。




【作戦失敗(と書いて、おしまい、と読む)】