それでは後半、行ってみよー!!


ねこびとシリーズ 【怒られた!】落ち着いて考えたらやっぱり自分が悪い編(後半)


ー早送りパート(またか)ー

連隊を乗せて走ってきた列車は高架に差し掛かり、高らかにガタゴトと音を立て駆け抜けようとした。
が、列車は急ブレーキをかけ、ひたすら耳障りな高い金属音を辺りに響かせた。
なぜならば、白くて、ふわっと薄い岩のような塊が線路に横たわっていたからだ。巨メイドのパンツ!それが白い塊の正体だった。列車は止まり切れずパンツの中へ突っ込む。
強い衝撃が列車全体を襲ったが、なんとか転覆はしなかった。しかし列車は脱線してしまい、これ以上進めない。

「連隊下車!一中隊先頭!急ぎ接敵、攻撃せよ!」
「いてて…。なんなんですかこの人混みは!」

逃げてくる人人人で、道はごった返していた。これでは兵隊どころか、せっかく苦労して列車に積んできた装甲車も進めない。これはまずい。

「軍隊が通ります!道をあけて下さい!軍隊が通りますよっ!」

第一中隊の中隊長が喉を枯らして、強行突破しようとする。しかしそれでも進まない。

「今さら軍隊が出てきて、どうなるって言うんだニャ!万年負け続けなのに!!そっちこそ道をあけるニャ!」

民衆の心ない…いや、切羽詰まってるからこその、キツい言葉が飛んでくる。将校たち、言い返しそうになるが、そこはやはりしっかりしていた。グッと堪える。戦うべき相手は、民衆ではない。

「連隊長より全連隊将兵へ。最善を尽くしてはいないが、我らは正しい。どんなに厳しいことを言われようがされようが、我らのすべきことはただひとつ。外なる敵から小市民を、街を、故郷を、国を守ることである!そのためにはひたすら耐えろ。ならぬ堪忍、するが堪忍だ。今は耐えるときだ!」

罵声を浴びながら連隊は進む。口を真一文字に結び声を殺して軍容粛々と、進んでいく。大きな連隊旗が風にバタバタと細かく靡きながらも堂々たる威容をしていて、まるで兵隊たちの心境を映したようだった。

「あっ、おーい!おーーい!!君たちはどこの部隊かね!?」

と、軍刀をガチャガチャ言わせ、一人駆けてくる将校が…いや、正確には将校ではなかった。

「アッ、厨尉どの」
「作者だ」
「僕たちは第二十五連隊だけど?」
「よかった…連隊長殿は…?」

息も絶え絶え、兵隊達に尋ねる。なんでこの人、こんな慌ててんだろう。筋書き通りに進んでるんじゃないの?

「はぁ…。あっちにおられるであります」
「ありが…ありがとう…」

またガチャガチャ走っていく。厨尉どのがあんなに青ざめるなんて?まあいっか。また軍容粛々と、兵隊たちは進軍していった。


「連隊長どのーっ!連隊長ドノーッ!!」

巨メイドのパンツを屋根にした連隊本部に、作者が飛び込む。

「厨尉か!お前留守隊はどうした」
「そのっ…その報告に参りました…。留守隊はっ…留守隊は…!」

ぜえぜえ、はあはあ言いながら、汗を拭い、顔をぐっとあげて叫んだ。

「二十五連隊留守隊はっ…壊滅しましたっ!!」
「なっ…!?」
「なん…だと…」
「街より先に…連隊駐屯地を奇襲され…。なにしろ消灯後で…歩哨をひとりひとり始末していったらしく、応戦する暇もなく…訳もわからず」
「貴様、作者だろ!奇襲とか、そういうこと想定できて当然だろうが!何をしていた!!」
「はい…我々は、昼メシのおごりをかけて、オセロで白熱しておりました…。しかし、全く今回の襲撃は、突然のことで…はい…申し訳ありません…」
「この馬鹿者が!一人のこのこと留守隊を見捨ててよく来れたものだ!」
「いえ…留守隊残余は…連隊駐屯地の防空壕に留守隊本部を置き…。僕は一人、伝令兼将校斥候として」
「うるさい!とにかく、巨人を倒すぞ!お前のせいで早送りパートが長くなる」
「申し訳ありません…」




ーということで、早送りパートおわりー



この時、先行していた第二十五連隊第一中隊は、巨メイドと交戦状態に入った。結果は猛烈なる機関銃戦を展開するもなんら損害は与えられず、逆に返り討ちに遭うといういつものパターンであった。
しかしひとつ、いつもと違うことがあった。それは彼女が残酷描写を用いて第一中隊に襲いかかったことである。

『いっぴーき、にひーき♪』
「え…?え…!?」

巨メイドは兵隊たちを指先で丁寧に潰していく。押し潰された兵隊の口腔内から赤いものが飛び出る。
それはおびただしいの量の血液であったり、はらわたであったり、或いはこの世のものとは思えない断末魔で、その場の兵隊たちを恐慌至らしめるには十分なものであった。
彼女は第一中隊を血祭りに上げると、わざと残した最後の一匹に顔を近づけて、ニッコリと笑いかけた。

『みんなに伝えてきなよ。私がこんなひどいことをしてるよー、って。こらしめにきなよー、出来るものならね、ってさ』

うずくまった兵隊は動かなかった。いや、動けなかった。恐怖のあまり、見開いた目からはとめどなく涙があふれ、耳はなくなったと勘違いするぐらい倒し、ガクガクと遠目から見てもはっきりわかるほど震え、ひたすらなにかを繰り返しつぶやいていた。

『ねえ?きいてた?みんなに伝えてきなよ、って言ったんだよ?』

やはり反応はない。

『…悪い子だね。悪い子は、お仕置きしなくちゃね』

哀れな兵隊をつまみあげると、頭と胴体を、ひと息にちぎった。声は、上がらなかった。

『汚れちゃった。でもまあ、いっか。これからまた汚れるんだし…いい仕事しなくちゃね♪』

巨メイドは周辺にあった適当な建物で手についた血をこすりつけ、ズーン、ズーン…と足音を響かせ、連隊主力へと迫る。


「おい、おい…ウソだろ…」
「残酷描写だ…おぞましい…」

高架から、将校たちが双眼鏡を使い遠目で巨メイドの動向を観測していた。初の残酷描写。連隊本部が浮き足立つ様子がありありと伺えた。

「このシリーズ残酷描写なんか許されないぞ、厨尉」
「文句はあいつに言ってくださいよ…こっちきます、なんとかしないと僕らマズイですよ…!」
「うろたえるな、くっつくな!既に師団司令部と飛行連隊本部に打電してある!」
「そんなたって…。あの超重爆落としてる相手ですよ」
「師団司令部より入電文ですッ!」
「なに、よこせ!」

連隊長が駆け寄って電文を通信手より乱暴にひったくると、極めてまじめな顔を近づけて文章を読み始める。将校たちも電文を覗こうと連隊長の右や左、後ろから首を出す。


「えーと、なになに…。『発第四師団参謀長 宛第二十五連隊 敵巨人残酷描写ヲ以テ襲撃セルモノトノ報二際シ先程迄師団幕僚一同ニテ作戦会議ヲ行ヒ攻撃要領ヲ作成、完成スルニ至レリ。依テ第二十五連隊二攻撃命令ヲ下ス。第二十五連隊ハ敵巨人二対シ糜爛剤(びらんざい)ヲ以テ攻撃、敵ヲ撃破セヨ 以上』…?」
「糜爛剤なんて…!そんなバカなことを…!!」
「毒ガス…!化学兵器使用命令とは!!」

将校団はどよめき、電文を持ったまま、連隊長は座り込んでしまった。

「びらんざいってなんですか?」
「毒ガスの一種で、皮膚や呼吸器を激しくただれさせる効果を持つという恐ろしい兵器だ…」
「今、散布したら小市民たちにまで被害が及ぶ…。しかも更におぞましい兵器を使用するなど。そんなこと…」
「連隊長殿、毒を以て毒を制す、という言葉もあります。そして『ルイサイト』の効果も試せます。早速避難誘導、護衛、化学攻撃隊に連隊を分派し、防備を整えた上で毒ガス攻撃をしましょう!」
「なにを言う!残酷描写を残酷描写で対抗してどうするんだよ!そんなことしたら破滅だぞ!」
「じゃあどうしろって言うんだ!黙って俺たちは惨たらしく殺されろって言うのか!!」

惨死、更に毒ガス攻撃命令という恐怖を前に、内紛を起こす連隊本部。
連隊長は頭を抱えて考え込み、大隊長や中隊長だけでなく、厨尉みたいな部隊の指揮権が無い将校相当官までもが口を出し、会議は収拾がつかなくなった。



会議が収拾がつかなくなっている間、部隊は奮戦していた。
様々な大砲が様々な方向から射撃し、巨メイドを撹乱していたのだ。しかも、砲弾を一発撃つごとに陣地変換するという新たな戦法を生み出し「少しの時間稼ぎ」に成功していた。

しかし。

「それ!もう一発!ドタマに当ててやるニャ!!」
「隊長殿、もう弾が…ありません…。それに陣地変換も…もうヘトヘトでムリです…。なんせ弾運びも、大砲引っ張るのも人力なんですもの…せめてトラックがあれば…」

最初は景気よく、どんどん撃ち出していた大砲は一門、また一門と砲手と一緒に沈黙していき、ついには全部の大砲が戦闘不能となってしまった。

『ふふっ…どうしたのかなー?もう諦めちゃったのかなー?うふふ。いいのよ別に。だって、私が襲いやすいからね!!!』

ひとつひとつしらみつぶしに大砲を見つけ、血祭りに上げていく。
ある一門は、それより遥かに大きな足で何度も踏みつけられ、指示を出していた砲手共々完全に潰された。更にぐりぐりと踏みにじり、元がなんであったかわからなくなるほどズタボロに蹂躙した。
またある一門は、指一本動かせないほど疲れきった兵隊ごと握り潰されたあと、こねくり回され、おぞましい金属片と肉片の混じった団子にされてしまった。

『…くくっ…あーっはっはっはっは!!!すっごくたのしいわ!!ゾクゾクしちゃう!!』

あとに残るは、第二中隊と第三中隊の一部、連隊本部と数台の装甲車のみ。大砲は、大隊砲と呼ばれるおもちゃみたいな砲が二つ三つ。望みは、なかった。

「もうあとは僕たちだけだよ。どうしよう…」
「中隊長達まだケンカ中かな」
「ちょっとのぞいてこようよ、トイレに行きたいってウソついてさ」
「じゃあ、僕行ってくる」

倒れた荷車やダンボール、はたまたビール瓶のケースでできた陣地から一人の兵隊が飛び出る。

「おい、ひたき。どこ行くんだ」
「ちょっとトイレに行ってきます」






ー早送りパートその二(おいおい…)ー




「失礼します、中隊長…」

パンツで出来た連隊本部は相変わらずの怒号と、険悪な雰囲気が支配していた。

「だからそんなことは無理だって言ってるじゃないか!」
「口径七十五耗(ミリ)の連隊砲が効かないなら、そうするしかないじゃないか!なら、お前が外行って戦ってくるか!!」
「今こうしてる間にも、小市民は虐げられ、部隊が蹂躙され、貴重な時間が失われている!即刻糜爛剤を使用するべきである!」
「ちょっとちょっと、作者の意見も少しは…」
「刺突爆雷や梱包爆薬を使用し、裂帛の士気を以てさえすれば、撃破は可能だ!」
「以前その戦法で突撃をしてみてどうだった!自殺行為そのものだったろうが!精神主義で作戦を語るのはやめてもらいたい!!」
「あのー…中隊長…」
「この腰抜けめ!そんなに毒ガスに頼りたいか!」
「なに!?青二才の初級将校風情に何がわかるか!!」
「頭でっかちばかりの陸大組に何がわかる!」

「あっ、ダメだ…聞いてないや」

ひたきは諦めて、とぼとぼと連隊本部を跡にした。と、顔にポツリ、ポツリと当たるもの。雨が降りはじめた。

「…やだなあ、まだ夜は寒いのに。風邪引いちゃうよ」

「…い、おーい、何やってんだよ、早くしろよ」
「あっ、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。巨人が来るよ、早く戻ってきてよ。で、中隊長殿たちはどうだった?」
「まだケンカ中。で、あの人が来るんでしょ?とにかく戻ろう」



雨足がザーザーと強くなった頃、ひたき達は陣地へ戻ってきた。冷たい、冷たい雨が陣地へ、兵隊達に落ちる。

不意に、ガラガラ、ぐしゃあ、バキバキ、という音。雨ともやでよく見えないが、巨メイドが足で無雑作に家を蹴散らしているらしい。いや、どちらかと言えば「どかしている」と表現するのが良いだろう。

もやの中の、巨大な影は、大きな足音と共に、だんだんはっきりと姿を現し始めた。そして、顔がわかるぐらいまでの距離になると、巨メイドもこちらを見つけたようだった。

『うふふ…いたいた。君たちはどうやって遊んでほしい?それともまじめにやってほしい?私はまじめにやりたいなー。まじめにぎゃくさつ!!』

もやを引き裂くようにして完全に姿を見せた巨メイド、嗜虐の笑みを見せて嗤う。第二中隊、震え上がる。

「ひええ、怖いよ!」
「バカ!逃げるニャ!逃げたら銃殺だぞ!」
「やです!どっちもやです!」
「や?紅蓮の?」
「いまを変えるのは戦う覚悟だって」
「もう超絶美女の巨人に喰われるならいいかな」
「お前らこんな状況なのにのんきだな」
「どっちかと言えば僕らが駆逐されちゃうよ。一匹残らず」
「あーあ、こんな時に一匹で一個旅団分の戦力になる味方がいればなあ」
「この時代にまだ兵長はないよ、伍長勤務上等卒ならあるけど」
「いい加減にしないと削ぐぞお前ら」
「芋食いませんか芋」
「パァン!」
「死ぬ寸前まで走らせるぞ」

震え上がったはずなのに、巨メイドを放ったらかしでワイワイし始める第二中隊。下士官までその騒ぎに参加して完全に戦いを忘れていた。

『…君たち、私のこと無視するなんていい度胸じゃない』

放置された巨メイド、どすん、とわざと大きな足音を立てて、陣地へ近づく。
うわわわわ、兵隊たちは慌てて小銃を構える。冷たく無表情のつもりだろうが、プルプルと怒りが滲み出ていた。

「あ、居たんだっけ、忘れてた」
『居たんだっけ、じゃないわよ!君たちまじめにやってくれない!!?』

第二中隊は、他の中隊たちとは違った。巨メイドを完全に自分たちのペースに巻き込み、殺伐とした空気や緊張感をどこかへ吹き飛ばしてしまった。

「まじめに、って…。メイドさん、ざんこくびょうしゃ?だっけ、それがまじめなの?そんな怖いのがまじめなの?なんでまじめにしなきゃいけないの?」

ふと、ひたきがくりくりとした目で問う。まったくめでたいことに何も考えて居ない目だが、無垢でまっすぐな目である。巨メイド、ぐっ…と口をつぐむ。

「みんなをいじめるのが楽しいの?そんなの楽しいの?ひどいことするのダメだと思うんだけど…。どうしたの?いつものメイドさんじゃないよ。こんなことするなんて、間違ってるよ」

話を聞いていた兵隊や下士官たちが、銃口を下げ始める。そうだ、もともと『破壊系がほのぼのする』と言う「スタンス」だったはず。

「そうだそうだ!残酷なのはいけないんだぞ」
「約束を守らないなんて、ダメな奴だ」
「いーけないんだー、いけないんだー!」

第二中隊の全力攻撃…もとい全力口撃が始まる。道理に向かう刃なし。
巨メイド、口撃を受けているうちに身体をわななかせ、みるみるうちに肩を怒らせる。
そして、中隊をキッと睨み、声を張り上げて思いの丈をぶちまけた。

『なんで!?なんでダメなの!!?いじめるのが楽しくてなにが悪いの!?ダメなの!?仕事の気晴らしにここで遊んで!なにがダメなの!?私、頑張ってるのに!悪いところ直して、みんなの見本にならなきゃって、いつも神経張り詰めてるのを我慢して!くじけそうなのをみんなわかってくれない!!その上ここで気晴らしがダメなんて言われたら!私、くじけちゃうわよ…!もう頑張れないよ…私…わたしっ…』

膝をつき、涙を流し、大声で泣き始めた巨メイド。中隊の面々は何が起こったのかさっぱり、と言う顔をしていたがなんだか可哀想に思えてきたらしく、集まって会議をし始めた。

「なに泣かせてるんだよ」
「え、ぼ、僕はなにも…。ただ思ったこと聞いただけだよ…」
「いーけないんだーいけないんだー」
「調子に乗って煽ってたの僕たちなんだから全員でなんとかしようよ」
「でもなにすんの?巨人ってなにして喜ぶの?」
「日本シリーズで優しょ」
「とりあえずわからないから連隊長殿に聞こうよ」
「…ケンカ中だとやだな」
「みんなで行こう、そうしよう」




…その頃の連隊本部。


「ならば!我々将校団が爆薬を身体に巻きつけ!肉弾攻撃して敵を撃破するのだ!」
「自殺攻撃なんて!狂ってるのか!!」
「おとなしく野戦重砲や飛行連隊の到着を待ちましょう」
「まってらんないよそんなの!!」

将校団のケンカはまだ続いていた。船頭多くして船山に登るとはこのこと。何も決まっていなかった。誰もが正しいことをしようと、本気で思ってるが故の事であった。それがこの対立の大きな原因ではあったが。

「連隊長殿、この青二才どもに毒ガス使用の必要性を説いて下さい」
「連隊長殿!化学兵器使用などあってはならないことであります!」

連隊長殿、連隊長殿!大勢が詰め寄り、大声で意見を進言する。じっと動かない連隊長。

と、ポツリ。連隊長の頭に滴るものが。ただの雨水。雨に打たれたパンツから染みてきたのだ。連隊長、バッと頭を上げ、ついに将校団に命令を下した。

「我が二十五連隊は、通常戦力を以って敵巨人に相対し、之を撃滅する」
「連隊長殿、それはつまり」
「毒ガスは、使わない…?」

「…そうだ。お前たちは『破壊系がほのぼのする』という大前提を忘れてはいまいか?巨人がそれを忘れていても、我輩たちがそれを忘れてはいかん。野蛮な事を、同じく野蛮で返していたらどうしようもない」

静まり返った連隊本部。

「しかも何故か我々は、いくら真面目にやってもどこかで間が抜けているらしい。我輩の上を、天井を見てくれ。下着ではないか。我々は下着の中で大喧嘩をしていたのだ。滑稽だと思わんか」
「…むむ、確かに仰る通りであります」
「これでいいのだ。これでこそ我々だ。巨人に殺意を剥き出しにして憎むなど、我々らしくない。作戦会議はこれまでだ。いつも通り、砲と戦車によって巨人を痛撃し、重砲や飛行機の到着まで拘引するものとする。我輩が先頭となって指揮を執る。我に続け!」

連隊長、サーベルを抜いて本部を飛び出る。将校団も続いて外へ飛び出た。剣の光閃くは、雲間にきらめく稲妻か!

「うわっ!」
「いてっ!」
「おっとっと」
「あぶない!」

第二中隊と将校団が「タイミング」悪く出口、入り口で入り乱れる。頭や身体をぶつけ合い、兵隊も将校もバタバタと倒れ、皆はたちまち泥まみれになった。

「バカものめ!走ってくるものがあるか!」
「将校殿も飛び出てくることないのに」
「あー、びしゃびしゃだ。作戦書とかは無事だったけどな」
「そんなことより、報告であります。メイドさ…巨人が泣き出しました。なんかかわいそうです。誰もわかってくれないとかなんとか」
「泣き出した?だからなんだよ」
「泣きゃいいとでも思ってるのか」
「知らんがな…。泣いて済むなら軍隊は要らないよ」

厳しい訓練を受けた将校たち。兵隊たちに接するように、巨メイドに対しても厳しかった。

「…しかし、どうしようもなく悪い奴だったら泣き出しはしないだろう。きっとなにかあったのだろう。話だけ聞いてやろう。話だけな」


ー早送りパートその二おわりー








「確かに、泣いているな」
「メソメソと、情けない」
「今まで散々邪智暴虐を尽くしてきたヤツが、泣いただの辛いだので許されると思っているのか」

冷たい雨の中、まだ泣き続ける巨メイドを目の前にしても将校たちの意見は厳しいものだった。

「まあ、待て。始めからそう否定から入るべきではない。そこの巨人よ。我輩は家猫帝国陸軍大佐第二十五連隊連隊長のシャムである!泣き崩れたわけを聞かせてもらおうか」

連隊長、サーベルを前にしてどっしり構える。巨メイド、キッと連隊長を睨み、一瞬の沈黙のあと、口を開いた。

『私の、私の気持ちなんてわかるもんかああああああ!!!』

咆哮にも似た怒鳴り声。そして、振り下ろされる拳。連隊長は哀れ、その拳の下になり、潰されてしまった。

「れ、連隊長どのー!!」

一斉に、潰されたシャム連隊長に駆け寄る将兵。あーあ、ぺらぺらでまるでお菓子の最中だ。でも幸い、残酷描写じゃなかった。なんとかなる。

「貴様ッ、こっちが事情を聴いてやろうと思ったのにこの暴戻か!」
「あー、面倒くせえヤツだな」
「こりゃだいぶこじらせてますね。重症です」
「カール大尉殿、攻撃しましょう。破壊筒はタップリありますし、今なら刺突爆雷や破甲爆雷でイチコロです」
「…そうだな、攻撃開始ッ。喇叭手、突撃喇叭を吹け。これより総攻撃に入る。将校抜刀!下士官兵は着剣の上実包装填ッ」

最初からそうすれば良かったんだッ。ギラリ、と何本もの軍刀が光る。それに続いて兵隊たちが鉄砲をガチャガチャと言わせ、弾を込め、銃剣をバチンバチンとはめる。

喇叭手が大きく息を吸い、「出てくる敵は皆々殺せ」と鳴る突撃喇叭を高らかに吹く。


擲弾筒がくぐもった発砲音を上げ、機関銃が猛烈な火を吐く。そして、大きく上がった鬨の声とともに兵隊たちが堰を切ったように巨メイドに押し寄せる。攻撃!攻撃せよ!攻撃戦だ!!


『あっ!ヒドい…!どうせ私なんて怪獣みたいにしか見てないんでしょ!みんなキライッ!!』
「キライだろうがなんだろうが、こっちは堪忍袋の緒が切れたんだ!神妙にしろ」
『みんなころす!殺す!』

巨メイドが、一糸まとわぬ巨躯を立ち上げ連隊を迎え撃つ。突撃してきた一陣をその白い素足の下に葬り去る。第二陣、素足に登攀し、まさに屍を踏み越えて、破甲爆雷を膝頭に炸裂させんと這い上がる。

『気色悪いわね!登ってこないでくれる!!?』

細くしなやかな、兵隊たちにとっては自分たちの身体より大きな指が襲いかかり、脚より払い落とされる。
打ちのめされ、更に地面に叩き落とされる兵隊。恐怖の叫びに生々しい落下音、慟哭、血だまり。水風船が破裂するようにひどいことになった兵隊が続出する。
登攀する兵隊たちを援護する為、頭や腕に擲弾筒や機関銃の弾が集中する。阻止砲火。ああ、もううっとおしいわね…!

『私を怒らせないでくれる!?そんなゴミどもはお掃除よーーーッッ!!!』

ずんずん、と擲弾筒分隊を踏みつけながら機関銃隊に近づく。糸引くべっこう飴みたいな曳光弾が幾筋も身体に伸びる。が、そのべっこう飴は巨体に跳ね返って、うっすらと消えるだけだった。
どしーん!と怒りに任せて機関銃を踏みつける。
が、機関銃が黙らない。いつの間にか地面を掘り下げた陣地を作って、踏まれても平気なようにしていたのだった!ははは、どうだ。

『なら、こうするだけよ!!』

巨大なお尻が降ってくる。その衝撃は凄まじいものがあったが、それでも陣地は崩れない。ドヤ顔の兵隊たち。それに対して巨メイド、鼻で冷たく笑うと、腰を前後に振り始める。すごごご、と地面が抉れ、秘部から愛液が流れ出し、陣地は土砂とと愛液で満たされて跡形も無くなってしまった。

『はーっ…はーっ…ざまあみなさい!少し頭使った程度で私に勝てるわけないじゃない!』

少しご満悦な巨メイド。と、13mm機銃を積んだ重装甲車が駆けつけてきた。一個小隊分、六挺の機銃が火を噴き、秘部に撃ち込まれる。
それに合わせて肉弾粉と砕くとも、爆弾を抱えし勇士達が股深くへと突進する!

『あぁん…っ!ヘンタイ!そんなえっちなこねこ達は私の一部にしてやるわーーーッッ!!』

巨大な手が、兵隊達を地面ごと鷲掴みにして秘部に擦り付ける。ぐしゃぐしゃ、じゃりじゃり。性感と、怒り。鼻息が、荒くなる。
愛液で塊となった泥の中から、突き出る戎衣の手足と破壊筒がまるで卒塔婆を思わせた。その卒塔婆も極太の手指に砕かれ、寂として声もなかった。

「予備隊続け、突撃にぃーーっ!!前へぇぇぇぇ!!!」

万歳、バンザイと言う声とともに、連隊旗が雄々しくひらめき、銃剣がまばゆく煌めく。我が一軍の勝敗は、吶喊最後の数分時!
突撃喇叭が、怒りの大声が、喊声が、足を踏みつけた時の衝撃音が、地より轟く発砲音が響き渡り、硝煙と土煙が街を覆い尽くす。戦争!戦争!これは戦争だ!
ニャマト魂の権化、二十五連隊は将兵等しく弾丸となって敵撃摧せんとす!
対する巨メイド、ぶるんと大きな胸を右に左に揺らし、さらさらと流れる髪を大河の狂瀾のごとく振り乱し、まさにその身体を以って武器と成しねこびと達を潰滅せんと暴戻を尽くす!




「みんな待って!僕、メイドさんとお話したいニャ!!」




全員の目が、叫び声の元へ向く。声の主は、ひたき。今、いいところなのに…。

「なんだよひたき、こんな時に」
「総攻撃中に、二等卒ごときが横槍入れるようなことをするべきではない」

ひたき、びくびく、もごもごしながらも切り返す。

「だって…。みんな怒ってるように見えるから…。あんまり怒るのは良くないんじゃないかな…。やさしくしてあげようよ…」
「ドジばっかのお前が言っても説得力がないぞ」
「まあまあ君、そう言っても始まらないぞ。ひたき君、さあやれ今やれそこでやれ。早くするのだ。ハリーハリー!」
「厨尉殿、ありがとう…」

テキトーに言ったのに礼言われちゃった。それはともかく、ひたきは巨メイドの前に立つ。

「メイドさん!聞こえる!?僕だよ!ひたきだよ!!」

巨メイド、ひたきを見つめる。涙で赤い目、濡れた頬。そして、興奮で紅潮した肌。今にもまた怒りそう。
ひたきは大きな声を張り上げる。

「さっき、頑張ってるけど誰もほめてくれないって言ってたよね?実は僕も失敗続きで怒られてばっかなんだ。だけど、頑張ってるんだよ!僕と同じようにきっと、メイドさんも頑張ってると思うよ!」

きょとん、と連隊全員は顔を見合わせる。破壊活動を頑張ってる、とはどういうことなのか?と勘違いをしているようだった。
巨メイド、尚もひたきをジッと見て動かない。

「僕には、なかよしのみんなが居るから、くじけそうになっても、もっと頑張れるんだ!メイドさんに、なかよしの友だちはいる?いないなら、僕と一緒に頑張ろう?おやすみの時に、一緒に遊んだりしよう?だから、ひどい事はしないで、今から仲直りしようよ!」

巨メイド、突如目からボロボロと涙を流し、すすり泣きを始めてしまった。手で顔をぬぐってもぬぐっても、涙は止まらない。たかがこねこちゃん、と思っていた兵隊に励まされるとは!自分はなんと浅はかだったのか…。
ざわざわし始める二十五連隊。

『ぐすっ…ありがとう…ありがとう…』
「大丈夫だよ!さあ、みんなも仲直り…」
「納得いかんの術」
「そんなことで残酷描写を以って殺戮を行ったことは許されることではニャい!国民の命が、仲直り程度で戻るものニャのか!」

武器を持った兵隊や将校たちが、殺気立った様子でひたきを責め始める。なんだそりゃあ!お前と巨人が失敗続きなのは自分たちには関係ない。
しかもなんでお前が勝手に許してるんだ。甘えるな、自分が悪いんだろうが!そして、度が過ぎたことにはきっちりお灸を据えなくては!!
連隊の皆は今にも剣先、銃口を向けそうだ。ひたきがオロオロし始めたその時。

「…納得いかなくても、それで上手くまとまるなら、納得しなくてはならぬ時もある」

ペラペラになっていた連隊長、ようよう起き上がり連隊全員を諭し始めた。

「怒りと言う一時の感情に身を任せ、停戦と言う収拾を、つかなくさせるべきではない。自らの不利益を、もっと大きな利益に変えなくてはならない。お前たちの、我輩の不利益は一時もので、平和と言うものに比べるならば小さきもの。その一時の怒りに執着するあまり、どちらかが滅ぶまで戦い続けなければならない事態を招くとしたらどうするか!無理にでも納得しなければならない。ならぬ堪忍、するが堪忍。どうか、堪えてくれまいか…」


辺りはしん、と静まる。一度は潰された連隊長殿の言葉である…上が暴力に耐えて、気持ちを堪えたのだ。自分たちが同じように堪えなくてどうする。


「…むむ。わかりました…今日はこれにてやめにしましょう。全連隊ッ、脱剣!実包抽出!巨人と共に復旧作業を開始する」
「メイドさん、戦争しなくて済んだよ!やったね!」

なんだか気が抜けてしまったみんなだったが、まあいいや。怒ってると、疲れる。


「連隊長殿、厨尉。巨人によって惨死させられた兵たちや小市民の遺骸や、補償などはどういたしましょう…。この一件は連隊、ひいては軍に対しての評価に非常に影響致します…」

連隊本部附の少佐が渋い顔で話しかけてくる。

「厨尉、なんとかしろ」
「む、無責任な…。でもなんとかします」
「できるものか!お前は神ではないだろう」

作者、のらりくらりと少佐に言葉を返す。



「だって最初に、成分表示としてご都合主義って言ったじゃないですか。しかもそれを言ったら、話が終わらない上に我が連隊は二回ぐらい全滅してます。僕ら不死身か、ゾンビになってしまいます。更に本気で答えるなら、前回前前回の時点で、我が国は全軍を用い、あらゆる手段を以ってメイドさんを倒そうとするでしょう。化学兵器はもちろん、更になりふり構わない方法で…。だからこれでいいのだ!」


(無理やりおしまい)