本当は前半と後半だけにするつもりだったの……でも話のつじつま合わなくって、仕方なくしっかり色々書いたらながーーーーーくなって、それでしょうがなくわりかしどうでもいいとこを切って、一話分に仕立てて、それで……。

え?子供のよーに泣きじゃくるなって?とりあえず、今回は非エロです。
それだけ。エロシーンはどうした!!って人は戻るといいですよ。多分読んだ時間返せ!ってなると思います。ハイ。だって僕得ですもの……それでも読むぞって人はこのままどうぞ。とても嬉しいです。感涙です。感極まって泣きます。
え?だから泣くなって?

とにかく、中編(どうでもいい編)です。どうぞ。






【続き】


巨メイドは陸軍少将モチニャガ憲兵司令官の罠に落ち、底なし沼と化した干潟に首まで埋めていた。かろうじて顔は出ているが、最早時間の問題。万事休す。あーあ、涙が出ちゃうわ……まだ死にたくないっ!



「勝利の美酒とはよく言ったもの。さあ、派手にパーティーといきましょうか」


腕を組んだモチニャガ少将が、ゴキゲンそうにピカピカ光るサーベルに膝をぶつけ、ぶらぶらさせて嘯く。彼の乗ってきたフェートンの高級自動車の近くには今や白いテーブル掛けが敷かれた机がいくつも置かれ、その上にはサンドイッチやお菓子だけでなく、お酒にジュースまで置かれて、宴の会場と化していた。巨メイドの最期が見える、最高の祝宴場だった。

「モチニャガ君、よくやった。これで我々『猫道派』の覇権も現実のものとなった。君に陸軍三長官のひとつ、参謀総長の座を保障しよう」

左胸にたくさんの勲章をつけた立派なヒゲをたくわえた老猫の将軍や、いかつい顔をした将校がサーベルをガチャガチャ言わせぞろぞろと集まってきた。彼らはモチニャガ少将に呼ばれ、巨メイドの最期を見届けるべくやってきたのだった。モチニャガ少将は立ち上がると、将軍たちの方へ向き直り長靴のカカトをかつんと合わせ、うやうやしくお辞儀をしてみせる。


「誠に恐悦至極に存じます!早速祝宴を始めようではございませんか。既に準備は整っております。さあ、乾杯を致しましょう。巨人の死に!そして我らの陸軍に!!」

ご満悦な笑みでうなづいた将軍たちが準備されたグラスに手を伸ばし、今まさに祝杯を挙げようしたとき。


「なにが乾杯だ、わざとデパートや高層ビルディングを破壊させておいて。さすがは『猫道派』。断固巨人排撃、人間は自分たちのみと説いて回るだけにある!貴様らは自己中心的な我が道を往くつもりか」


我らが二十五連隊、シャム大佐の上司の、第四師団長や、肩からキンキラ光る、正式には飾緒という参謀モールをぶら下げた参謀将校たちがやってきた。こちらはどの猫たちも切れ者で抜け目がなく、冷徹な雰囲気をどことなく醸し出していた。

「『抑制派』の者どもか。残念だったな。巨人に対しての怒りと不満が溜まっている昨今の事情を鑑みれば、我々に組閣大命が下ることは間違いないだろうな。巨人や異種族と共存し『大猫和共栄圏』を建設するなどと言うその主張こそ、『抑制』するべきだ!」

ため息をして顔をしかめる参謀たち。師団長が参謀たちの意見を代弁して、さっそく噛み付くように一喝する。

「何をぬかしておる!お前たちは唯我独尊を貫くのか!?自分たちだけが唯一の人間だと考えているような愚か者め。巨人とは言え、わずかな良心があるのを忘れたか。残酷描写のあと、街の修繕及び復興を行ったのを。それに彼女が居なくなっては、我々がこの『アップローダー』に存在する意味をなくしてしまうではないか。ええ?」

怒って顔を真っ赤にする猫道派の将軍たち。モチニャガ少将が、前に出てくるとウンザリした表情を浮かべて反論する。

「お言葉ですが、いつも念仏のように。まったく聞き飽きました。その問題でしたら巨人の世界にボクらが武力で用いて先制的かつ積極的な防衛戦争を展開すれば良いのです。そうすれば『アップローダー』にも存在が可能というものです」

将軍たちが喧嘩しはじめて、ギャーギャー言い始める。将軍は偉い為に、上の偉い人が叱って喧嘩を止める、などという事が出来るはずもなかった。




……こりゃあ、好都合だ。

茂みの中で、クリクリとした丸い眼鏡の兵隊、フクローが密かに偵察している。口喧嘩が激しくなるのを見届けてから、軍団に戻ってくる。

「やあやあ、そちらの作戦は決まった?将軍の方はずーっと喧嘩してるよ。待ってたら日が暮れそうで、しばらくは安全だ」
「それはいい知らせだな。作戦はいま煮詰めてるよ。そういや、巨人はどうなってるんだ?」

あっ、と声を上げて二等卒軍団は巨メイドに目をやる。忘れてた。あー、ものすごく悲しそうな眼をしてる。いっつもイジワルそうな笑顔をして、怒ったりなんだりする顔が、悲しみに暮れているのははじめてだった。泣いてたのは知ってるけど。

「誰か元気づけてやれよ」
「ヤダよ、こわいよ」
「じゃあ行ったやつには五円」
「俺が」
「俺が」
「俺が」
「よしお願いします」
「お前ら謀ったニャ!?」
「とにかく行ってらっしゃーい!」
「クソッ、家猫帝國に栄光あれ!お前ら五円だぞ、忘れるニャよ!?」

ぬかるむ干潟を慎重に歩き、イジワルそうな二等卒が巨メイドの近くにやってくる。わーっ、デカい。ジロリと睨みつけてくる。わーっ、怖い。

『何の用?わたしを笑いにきたのかしら』
「まあまあ、落ち着いて。俺らはお前を助けにきたんだ。ナイショだぞ。一応打ち合わせを一回だけするぞ、よく聞けよ」

巨メイド、キョトンとした顔を一瞬だけ見せるとすぐに何事もなかったかのように表情を戻した。ワラにもすがる思いで耳を傾ける。

「まず泥を爆薬でぶっ飛ばす。そうしたら、腕が泥から抜けるはずだ。上手くいけば。そこに綱?わかんないけど引っ張るなにかを渡すから、それを掴んでくれ!とりあえずハデにやるからよろしく、死ぬなよ!まあ死ぬわけないか」
『えっなにそれ、打ち合わせになってない』
「よろしく!憲兵にバレちゃう」

ジロリと白い眼を、脱兎のごとく逃げる二等卒の背中に向ける。そのとても小さな背中が遠ざかって見えなくなるとポツリとつぶやく。

『ひょっとしたら、わたしって、助かる?ウフフ……ウフフフフ』


……


ラムネを飲みながらゆっくりと帰ってきたひたきが二等卒軍団によって非難を轟々と受けているところに、連絡を受けた連隊長にカール中隊長、木銃軍曹ら留守隊の面々が、大砲が繋がったトラックや自動車、黄色い帯が入った特徴的な迷彩の、キャタピラで走る重装甲車に乗ってやってきた。
大砲はいつもの連隊砲だけでなく、連隊の倉庫で埃まみれになっていた二八式加農砲、愛称「ニャンパチカノン」まで持ってきていた。本気で助ける気で来たのだ!
将校たちはしばらくフクローと救出作戦の最後の煮詰めを行い始める。その間に機材の積み下ろしや準備を行う古参兵たち。

「ひたき、お前ってやつは……連隊に繋がったらまず最初に所属と官姓名を名乗るんだよ。『大変です、連隊長に繋いでください』じゃないよ……」
「ごめんなさい」
「『申し訳なくあります』、だっ」
「とにかく、全員集合ッ。作戦の全容を伝える」

連隊長の、久しぶりの号令。ビシッと全員が整列する。それを見届けたあと、二等卒軍団の作戦案を発展させた救出作戦書をがさがさ言わせて広げる。

「まず、爆薬を巨人の周りに設置する。そして野砲の発煙弾を射撃ののち爆薬を起爆する。そこに水陸両用車で鎖を巨人へ渡す。で、掴んだら鎖を接続してある装甲車、自動車及び人力で引っ張りあげる。将校准士官は自動車の指揮に当たれ。下士官は爆薬を設置後兵卒の指揮。兵卒は力を振り絞り鎖を引け!迅速な行動がモノを言う。焦らず自らの職分を全うせよ!作戦開始!」

留守隊の将兵たちはテキパキと爆薬の導火線、装甲車に鎖を繋いだりしたり救出作戦準備を進めていく。ひたきはぼーっとその様子を見つめている。

「みんな……」

ぐしぐしと目を袖で拭うと作業に加わった。


……


「よし、準備完了!歩兵砲中隊はどうか!?」
「カール大尉殿、こちらも布陣完了です。倉庫でホコリかぶってたニャンパチカノンもいつだって撃てます」
「工兵小隊から伝令、準備完了とのことであります」
「よし。連隊長殿、始めましょう」
「これで君も我輩も反逆者だな」
「地獄の一丁目までもお伴させていただきます」
「よろしい、では始めよう!連隊砲、加農砲射撃用意ッ」

砲手たちがグッと身構え、射撃の衝撃に備える。もうオンボロとは言え、いつもの連隊砲より大きな、口径10cmの加農砲を撃つのだ。油断していると吹き飛ばされてしまう。

「撃てっ!」

決意の大号令、今下された!大轟音とともに砲弾は唸り、巨メイドへと向かう!その刹那、爆薬が炸裂し大きな炎を上げる。少し早かった!と思う間もなく、発煙弾が着弾する。着弾とともに水陸両用車はエンジン全開、全速で駈け出す。
早くも砲弾はモクモクと煙を上げ、辺り一面は真っ白になった。これでもう何も見えないはず。


……


「加農砲の発砲音だぞ?誰が勝手に撃ったんだ?」

アレだけ喧嘩していた将軍たちが、怪訝な顔をして巨メイドの方を見やる。しかし煙が立ち込めていて、よく見えない。

「ボクが発砲許可を出してあります。嬲り殺しだけじゃ、飽きたらなかったんですね」
「いつもながら反吐が出る趣味をしているな」
「巨人と情を交わしたいなどと言う醜悪な輩も居るようですし、そんな事を言われると愉快ですね」

また、不毛な口論が始まる。どちらも正しいと思っているが故の議論、引っ込みがつくはずもなかった。


……


「おーい!ゲホゲホ……おおーーい!!ゲッホゲッホ……鎖持ってきたぞ、ウゥ……掴めーーーっっ!!」

真っ白な煙の中で、水陸両用車のハッチから頭を出して叫ぶ木銃軍曹。涙が浮かぶ目で辺りを見渡すが、何も見えない。爆破孔が大きくぽっかりと開いてはいるが……。

「……もしかしてこれって、腕が取れちゃったとかじゃないか?」

突如、上から巨大な手が降ってきて、水陸両用車ごとがっしりと鎖を掴む。メキメキという金属音が響き、車体が悲鳴を上げる。ついでに軍曹も悲鳴を上げる。わあああああ!!お化けっっ!!!

『そんなワケないわよ……こんな程度で取れるとでも思ったのかしら……?』

巨メイドの上体が、泥まみれのススだらけだけど、出てる!出てるよ!!あと鎖!鎖の方持って!!!

「本部!本部!巨人の上体露出!!牽引開始求む!牽引せよ!!」

軍曹が無線機にがなり立てる。本部にいる連隊長や無線手が飛び上がって無線機に取り付く。

「了解、了解!」

無線手が慌てて同じ言葉を繰り返す。連隊長は本部を飛び出してカール中隊長に怒鳴る。怒鳴ると言うよりかは、わめき立てると表現がピッタリだった。

「引け、引けーっ!!巨人が鎖を掴んだぞーーッッ!!!」

連隊長が叫び終わった瞬間、凄まじい勢いで重装甲車が引きずられ、鎖を掴んでいた兵隊がぶっ飛ばされる。うわわわわわ!

「引っ張るニャ!ああっ!!前に!前に!」

口調が乱れるほど慌てた中隊長の号令で装甲車のエンジンがあわてて唸りを上げるが、焼け石に水。キャタピラは空転して地面を深くえぐり、エンジンの焼ける匂いがあたりにたちこめる。トラックもブレーキをかけ続けるのが精いっぱい。

「こらっ、鎖を持て!引っ張れ!掴め!!」

吹き飛んだ兵隊たちがようやく逃げ回る鎖を掴んで、引っ張る。全員が歯を食いしばり、毛が逆立つほど力んで、ようやく力が拮抗した。

「よーし!引け!オーエス、オーエス!」
「巨人と綱引きかよ……っっ!!」
「うぎぎぎ……喋るな、舌噛むぞ!!」

兵隊たちが加わったおかげで、トラックと装甲車が前にちょっとずつ進む。よし、よし!こっちが引っ張り上げてるぞ!!


……


「副官殿!妙な無線を傍受しました」

巨人攻撃命令を出していたとは言え、憲兵隊は念の為にありとあらゆる無線、無電、電話を盗聴していた。副官が無線手より受信機を受け取って耳をすませる。

「『水陸両用車は……戻り、巨人牽引……せよ』」
「これは二十五連隊の……?伝令っ!憲兵司令官閣下へこの傍受した無線を急いで知らせろ!分隊はこれより、巨人幇助(ほうじょ)の部隊を検挙しに急行する。この場で弾薬を込めっ」

副官の号令を受けた憲兵たちは拳銃とカービン銃の弾を込めると、駆け足で二十五連隊の方へと向かっていく。


……


一方、こちらはなんとか戻ってきた手形つきの水陸両用車と、工兵隊が加わったことにより引き揚げの速度は増していた。腰のあたりまで出てきた。もう少し!

「なにをしてるか貴様ら!!これはどういうことだ!!」

中隊長が後ろを振り返ると、銃を構える憲兵達がいた。副官が肩を怒らせつつも、緊張に引きつった顔をしてカール中隊長に近づく。

「これは反乱だぞ……!巨人を助ける行為など、狂っているのか!!国賊め!!」
「少佐殿、黙って見過ごしてはいただけませんか……!あなた達がやっている事は」
「問答無用!撃ち方用意っ」

カービン銃の槓桿(こうかん)をガチャガチャ言わせ、安全装置を外す憲兵隊。そして、ピタリと狙いを兵隊たちにつける。あとは射撃開始の命令を待つだけ。

「少佐殿!」
「くどい!反乱は許されざる行為である!撃……」

号令をかける前の一瞬、煙を引いて飛んできた鉄の塊があった。手榴弾だ!副官と中隊長が言い合いに夢中になってる間に、連隊長がコッソリ近づいて投げつけたのだ!

「うわっ、手榴弾だ!!」

憲兵隊は武器をほっぽり投げて蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。そして轟音が鳴り響く。

「あっ、こら!手榴弾を使うなんて卑怯な!」

立ち込める爆煙にむせながら怒る副官はそれだけを叫ぶと、中隊長と連隊長に取り囲まれ強烈なネコパンチをお見舞いされて失神してしまった。憲兵は手榴弾が爆発したあと恐る恐る戻って来る。爆発で銃が壊れてしまっていて、これでは使えない。

「くそっ!逮捕!逮捕だ!!」

腰につけた手錠を取り出して中隊長と連隊長を捕まえようとする。二人は必死に抵抗するが、数が多過ぎた。連隊長は縄で縛られ、中隊長も取り押さえられた。

「中隊長殿!?」

爆発音に駆けつけた木銃軍曹が驚きの声を上げる。と、憲兵を見ると耳を後ろに倒し、威嚇の姿勢を取る。

「作業を続けろ!我々に構うな!」
「引き揚げ作業を即刻中止せよ!でないと銃殺刑だぞ!」
「中隊長殿に何をしよるか貴様ら!」

軍曹は憲兵たちに飛び掛ると三、四人はたちまちノックダウンする。そして中隊長を組み伏せていた憲兵を突き飛ばし、連隊長の綱を銃剣で断ち切る。

「くそッ……よくも!」

よろよろと副官が立ち上がると、拳銃を取り出し、連隊長に狙いをすませる。

「連隊長殿!」
「なにっ!!?クソッ」

銃声が鳴り響いた。が、銃弾は誰にも当たらなかった。大きな揺れで狙いが外れたのだ。大きな揺れ?


『はあああ……うーーーんっ……』


巨メイドが、底無し干潟から脱け出し、大地を踏みしめて大きく伸びをした時の揺れだったのだ!滴る泥水が、滝のように二十五連隊の兵隊たちに降りかかる。


「出ましたっ!巨人が出ましたっ!!」



泥から脱出した巨メイドは、大きな伸びをし終わったあと自らの肩を抱いてうずくまる。震える巨体。

「メイドさん……?大丈夫……?」
「おいおい、またなんか起きんのか?」

ゆらり、立ち上がるとギロリと眼下の兵隊たちを睨みつける。怒った、冷たい目。睨まれた兵隊たちは立ちすくんで、狼狽えるばかり。えっ、ニャンで怒ってるの……?


『後悔させてやる。わたしを怒らせたんだから。絶滅させたって構わないわ……!』


えーーーーっ!?僕らは関係ニャイってば!顔を見合わせて、ようやく鉄砲を……あっ、今日休みだったんだ。二等卒軍団は鉄砲持ってきてない。駆けつけてきた下士官と古参兵は慌てつつも鉄砲を構えて、反撃に備える。

「くそ、くそっ!巨人がニャンだ!くらえ!」

副官が無謀にも拳銃で巨メイドに発砲する。しかし効かないのは周知の通り。巨メイドはジロリと副官を見つめると、腕を伸ばしヒョイとつまみ上げて海に放り投げる。副官はキレイに二回、三回水を切って遠くに落っこちた。鼻で軽く笑い、再び視線を二十五連隊の面々に向ける。

『でもその前にちょっと待ってね。泥まみれじゃサマにならないから……あーもう早くシャワー浴びたいわ……』

巨メイドはずしゃり、ずしゃりと水浸しの足音で近くの水門まで行くと、服を脱いで水浴びを始めた。本当に怒ってるのかなコレ……。
唖然としているとさっさと水浴びを済ませて、ボロボロになった服を水に浸けてから、裸の巨メイドはゆっくりと振り返る。足元には、いつもの兵隊たち。鋭いオンナの目で見くだす。

『あなたたちは絶滅させたりはしないわ。未来永劫、わたしの調度品としてだいじに、だぁいじに使ってあげる……ウフ、ウフフ……』

エエエエ!?ニャンデ!僕らニャンデ!?完全にとばっちりの二十五連隊を見てニヤリ、とだけ笑いかけると悠々と跨いでどこかへと……あっ、あっちは将軍たちがいる方だ。仕返ししに行くつもりだ。


……


『はぁい、こねこちゃんのお偉いさん?』


将軍たちが、大きな大きな黒い影が覆い被さってきたのに気がつき、口論を止めて大きな声がする方に振り返ると、ギョッとなった。裸の巨人が、冷たい笑みを浮かべて、見下ろしていたからだ。
重たそうな、大きく張りのある乳房。見ているだけで押し潰されそうなぐらい自己主張をしている。優雅な曲線を描く腰部のくびれは、その下へと続く臀部と股間の女性としての豊かさをさらに強調する。
それらが逆光により暗く将軍たちに影指して、まるで研ぎ澄まされた恐ろしい凶器のようにそびえ立っていたのだった。そこへ、伝令がようやくモチニャガ少将にさっきのことを伝えに来たが、自分がやって来た所の状況に唖然として棒立ちになる。

「こ、これはどういうことだニャ、モチニャガ君!」
「い、命だけはたすけてくれ!!」
「巨人よ!我々と手を取り、帝國とともに覇権を確立しようではないか」
「美しい、なんと美しいのだ。目の前で見れば、また妖艶ではないか……」
「は、はやく逃げるニャ!!」

将軍たちは口々に勝手なことを言い出すが、巨メイド奇襲にほとんどが腰を抜かして立てなくなってしまった。這いずって逃げ出す。綺麗な軍服や勲章が、泥で汚れる。もう威厳はどこにもなかった。



「クッ……シャム大佐……二十五連隊のヤツらは、全員処刑だ……!!」


モチニャガ少将は悔しさのあまり、拳を爪が食い込んで血が出るほど握り締める。

『その前に、あなたたちを全員処刑よ。首をちぎってあげる。いや、その前にお腹をさばいて内臓を食らい尽くしてあげるわ。すっごく痛いよ?うん、痛いんだよそれはね……っ。そして。モチニャガ……と言ったかしら?あなたはタダでは済ませないって約束したわよね。さっ、この間の軍艦と同じくズタズタに解剖してあげるわ』

ズン、ズンと足音を響かせて一歩、一歩と近づく。あと一歩、と言うところで巨メイドの足が爆発に包まれた。地雷!用意周到にも罠を張り巡らせていたのだ!
爆煙の中、モチニャガ少将は吹き飛びそうになった軍帽を深くかぶり直すと、肩を怒らせつかつかと自動車の方へ向かう。

「……とにかく一度退散するしか……!先輩方、任務がございますのでここらで失礼します」
「逃げるのか!敵前逃亡は」
「配置変換です。それにもう逃げられる訳、ないじゃあありませんか。最も、逃げる必要なんてございませんが。では失敬」

幌付きのフェートン型自動車に乗り込むと、将軍たちを置き去りにして颯爽と走り去っていった。

「副官は?ノブント少佐はどうした」
「巨人が出る前に二十五連隊の方へ行かれましたが……」
「……そうか。わかった。一度『猫ノ内』のビル群の陰に停めろ。考える時間が欲しい」
「かしこまりました」


『いったあぁぁぁいい!小癪な真似してくれるじゃない!!』

もうもうと立ち込める煙を苦痛の叫びが吹き飛ばす。地雷は巨メイドの足に痣が出来るほどの威力であった。しかしそれでめげる彼女ではなかった。キッ、と目を鋭くして辺りを見渡す。モチニャガ少将は、もういない。

『お偉いさん?アイツはどこへ行ったかおしえて?そうすれば食べるのを最後にしてあげる。どこへ逃げたのかしら?』

震えるながら参謀将校が走り去った方角を指差す。顔面蒼白、カタカタ震えながら巨メイドを見上げる。あはは、おもしろい。そんなにわたしがこわいんだ。そうよね。これからあなたたちを絶滅してあげるんだから。どうわめこうがどう抵抗しようが絶対壊し尽くしてやる。ウフ、ウフフフフフ……。

『フフフ、ありがとう……』

怒りの足音を響かせながら、巨メイドは将軍の目の前より立ち去った。腰が抜けてた猫はキュゥ、と気絶して地面にぱったりと倒れてしまった。




続くッ!



ヒャッハー!!暴れちゃうぞーーッッ!!!!