拝啓。サンタさんへ。

 この一年、うつほはとてもとてもいい子にしていました。さとり様の言いつけは
守りましたし、核融合もいっぱいして、山の神様にとても沢山誉められました。

 なので、クリスマスプレゼントには――

「今度こそ地上を地獄にできる圧倒的な、誰にも負けない力を下さい」

  幻想郷のドラえもん……もとい、今宵はサンタの八雲紫。気抜けすると共に、
吐き出した息が唇でため息になってついつい漏れる。

「確かにいい子だけど最後の一文がぜんぜんいい子じゃない件について」

 どうしたものやらと困り果てる八雲紫の隣で、すーすーと寝息を立てるのは霊烏
路空。核融合の能力を扱える地獄のカラス。端的に言うとごーすいデンジャーな妖
怪。いわば生きる水爆なのだが、果たしてそんなものにこれ以上危険な能力を授け
ていいものかどうか。

「あれでいいんじゃないですか? 勇者よ、もうお前はこれ以上強くならない的な
メッセージを残して立ち去れば」

 八雲紫の式神、八雲藍がものすごく適当な提案をする。もとよりクリスマスにサ
ンタごっこをやるなど、彼女はあまり乗り気ではないようだ。

「んや、それも可哀相よねぇ……こういう純粋で危険な子って扱いに困るわぁ」

 暫し八雲紫は妖怪の賢者たる頭脳を働かせ、考え込む。出した結果は。

「藍の意見を採用。手紙の一番下に書き加えておいて。靴下の中には他の人と一緒
で縮小都市を入れておきましょう。これで最強ごっこしてもらうのが一番いいわ」

「はい、紫様」

 縮小都市。正確には、巨大化した八雲紫が掬い取ってきた本物の都市。東京、大
阪、ソウル、平壌、上海、ニューヨーク、ラクーンシティ、学園都市etc……在庫
は豊富だ。紫はちょいちょい歴史を修正することがあるのだが、その際に出る並行
世界を元の時間軸に統合するにはそれを破壊しつくさなければならない。紫の実力

を持ってすれば、そんなことをしなくても境界をゴニョゴニョしてやればすぐに戻
せるのだが……そこは彼女も日本の妖怪。モッタイナイ魂があらぬところで発動し、
結果統合前の世界から都市をいくつかネコババするに至る。

 藍は胸元から小さな小瓶を取り出した。彼女が指をパチンと一打ちすると小瓶は
消え去り、縮小都市だけが彼女の手の中に残る。崩れないようにそっと、靴下の底
に都市を置くと。

「ふふ……メリークリスマス、よい夢を」

 たいして何も働いていない八雲紫がなんだか誇らしげに言い、ウィンクを残して
その場を去った。



 翌朝、とはいっても地底に朝など無いのだが……。目を覚ました空は……なんと
クリスマスのことなど綺麗さっぱり忘れていた!

 とりあえず足が寒いと思った空は、たまたま――もちろんそれは彼女が設置し、
紫からのプレゼントが入っているのだが――ベットに掛かっている靴下に手を伸ば
す。

 さて、靴下の中に入れられたプレゼント、即ち街は阿鼻叫喚の騒ぎに見舞われる
ことと相成った。八雲紫の下で管理されている縮小都市の人間たちは、自分たちが
小さいことを知っている。あるいは、自分たちよりも遥かに大きい少女がいるのだ
ということを認知している。故に、靴下の口から覗いたそれが巨大な少女の足の指
だということが嫌でも分かってしまった。

 頼む、待ってくれ!! 履かないでくれ! 俺たちは、私たちはあなたへのプレ
ゼントとしてこの中に入れられたんだ! せめてもう少し時間を……!!

 口々に人が叫ぶ。けれど、3000分の1にまで縮められた人間の声が靴下を透過で
きるはずもなく、彼らの悲鳴は柔らかな布地の中へ吸いこまれるように消えてし
まった。

 鳥の足だ。ある者はそう思った。平均よりも、縦に長くすらっとしたその足がそ
の全容の半分を露にしていた。

 さて、その足の持ち主はというと、まさか自分が今履こうとしている靴下の中に
1万人近い人間が逃げ惑っていようなどとは到底思わない。何のことも無い、た
だ、靴下に足を通すだけだ。故に一切迷いが無い、躊躇も、情けも。

 断頭の刃の如く無慈悲に、無感情に、そして無意識に。蔑むでも嘲るでもなく、
本当にただ踏み潰される。

 天に向かって突き立つ牙のような尖塔、摩天楼の一角が彼女の指に触れた。けれ
ど指は何の苦も無く3000分の1のちっぽけなビルを破砕し、押しつぶしてしまう。
それも、数本まとめて。粉塵を吹き上げて地面に沈み込むそれは、人々を恐怖のど
ん底に叩き落すに十分たる映像であった。あの中にはきっと逃げられなかった同士
が沢山詰まっていたに違いない。それをあんなに簡単に押しつぶして……。

 けれどあのファーストコンタクトで、きっと気づいてもらえる。これで、この僅
かな犠牲で助かる。そんな淡い希望を人々は抱いていた。気づかれたら気づかれた
でいじめ抜かれて挙句潰されるかもしれないが、もしかするとこの巨大娘が優しい
心の持ち主である可能性も捨てきれない。

 だが、そんな希望ごと、彼女の足は踏み潰してしまった。摩天楼を破砕した指は
そのまま奥へと滑り込み、続く他の指が大地を飲み込むように押しつぶして進み、
そしてその先導に轢かれなかった町には足の裏が迫る。

「うにゅ!?」

 ここに来て空はなんとなく違和感を覚えた。足の指の間に高層ビルが何本も纏
まって挟まれば、それは何も感じぬなどということは無い。むしろ足裏は敏感なほ
うに入る彼女にとってその刺激は何とも言えぬこそばゆい快感となって全身を駆け
巡った。

 思わず足の指をぎゅーっとやると、足の指の間に入っていたビルが爆薬で発破さ
れたかのように弾け飛び、黒い煙に成り果てる。

「っ……!! なんだろう、すんごく気持ちいい……」

 靴下をほとんど履きかけた足を床に降ろす。そして、恐る恐る、けれど期待に満
ちて彼女は靴下を引っ張った。

 今度は足の裏にちくちくとくすぐったい感触。ひゃぅ! と彼女は小さな悲鳴を
上げ、それでも中身を確認しようとは思わなかった。

 生き物ではない。なら、いいじゃない。気持ちいいんだし。

 刹那的な想い。そうと分かってはいるけれど、足の裏を刺激するこの絶妙な感触
は、その正体が何であれもっと味わっていたいと思えるほど魅力的で、中毒性を帯
びていた。

 ゆっくりと足を下ろすと、ぱちぱちと何かが弾ける感触。それは、炭酸入りのお
菓子を食べるような感覚と似ていた。足の裏で、とことん味わうのだ。その炭酸が
果てるまで。

 足の裏が降ろされた場所は住宅街だった。重みをかけられた住宅は、もちろんそ
れに耐えられずに崩壊する。だが、高層建築とは違って、柱が折れればその柱に
よって押さえられていた梁が力を受け、シーソーの原理で力を逃がそうと持ち上が
るのだ。結果、ぐしゃぐしゃに潰された屋根を突き破って木材が跳ね上がる。これ
が感触の正体だった。

 もちろん中にいる人間はそれに巻き込まれる。跳ね上げられた木材に運悪く捕
まった暁には、空の足の裏に押し付けられ、圧死することになるのだが……。そち
らのほうは感じることすらできない。

 土踏まずの下は、お葬式のような空気に包まれていた。それはそうだ。今まで自
分たちの仲間が次々に潰されていくのを目にしていながら正常な精神状態でいるこ
となど不可能だった。頭を次々と落としていく処刑台を眺めている感覚。そして一
番最後に、逃れようの無い自分の番がやってくる。その恐怖たるや、想像するに余
りあるだろう。

 もしこれがブーツであれば助かったかもしれない。けれど残念ながらこれは靴
下。布は可変だ。

 空が靴下をぐいと持ち上げると、靴下はその足の裏の形をぴっちりと写し取っ
た。もちろん多少の空間はできるものの……それでも空が床に足をつけると力がか
かり、布地のほうから土踏まずのほうにぶつかっていくことになった。

「うにゅうっ!?」

 びっくーん! と跳ね上がる空。全部終わったと、そう思っていたところからの
不意打ちだったためその衝撃はきっと先の踏みつぶしよりも遥かに大きかったのだ
ろう。

 もしかするとまだ残ってるかもしれないな、と思って念入りに足を床にこすりつ
け確かめる。

 けれど、今度は本当に終わりらしい。残念に思うのと同時に、忘れかけていた疑
問がぽっと浮かび上がってくる。

「そういえば、これはなんだったんだろう……」

 もしかするとお菓子でも踏んじゃったかな? だったら、悪いことをしてしまっ
たなと空は思う。それは靴下の中に残る粉っぽい感触から得た感想であった。実際
はその中に詰まっているのはお菓子の残骸などではなく、1万人が泣き笑い暮らし
た町なのだが。

「うにゅ? おかしいなぁ、なんにもない」

 空が靴下を脱いでひっくり返すと、その残骸は一切なくなっていた。破壊された
ことによって並行世界が「無かったこと」になり、もとの世界の時間軸に統合され
たらしい。

「気のせいだったのかなぁ……?」

 けれどあの感触は本物だ。

 とりあえずは何に納得したのか分からないが、そう納得し、空は立ち上がる。

 その時になって、枕元に一つのメモを見つけたのは。

「ん……? 勇者よ、お前はもうこれ以上強くならん……? 代わりに縮小都市を
置いていくから、これで満足するしかねぇ!」

 ドラクエ、とか、チームサティスファクション!! とか意味の分からない単語
が空の頭を過ぎったが、それはおいておくことにして。

「縮小都市、かぁ……」

 今靴下の中にあったのは、もしかするとそれだったのかもしれないと空は思う。

 縮小……小さくすること。

 都市……人がいっぱい住んでいる町のこと。

 エピソード記憶はてんでダメな空が、その膨大な意味記憶の中から言葉の意図を
探し出し繋ぎ合わせる。

「だったら……私は沢山の人を踏み潰して気持ちよくなっちゃってた、ってことな
のかなぁ?」

 けれど、ものそれ自体は存在していない。何とも煮え切らない感覚だけれど、も
しそうならば悪いことをしてしまった。

 と思うと同時に。なんだか、そうと知らずに踏み潰していた時には無かった興奮
が湧きあがるのを感じた。

 そして持った一つの感想を、誰にとも無く空は呟く。

 ――また踏み潰したいなぁ……。



 おしまい。













 お話はこれでおしまいですが……。

 ちょっとしたお知らせとプレゼントがあります。
 作者の言い訳とかマジメンドクセーと思ったら下までスクロールして下さい
 

 ご無沙汰しております、レヴァリエです。今日は掲示板じゃなくてこっちでこっそりご挨拶。
 最近思うのです。サイズフェチで書きたいもの大体全部書いたな~と。
 サイズフェチ以外のもので書きたいものが増えちゃったな~と。
 別に妄想はいくらでもあるけど形にするとなると他に書きたい東方SSがあるな~と。
 ようするに、自分の意思だけでは早苗さんとこいしちゃんと天子ちゃんしかかけなくなってきてるわけです。
 でも活動停止とかアレだし……帰ってきたくなったときかえって来れないし……けど帰ってきても早苗さんだし
 というループに入ってしまってですね。

 それともう一つ。こっちは1万字程度で収まっていますが他所ではSSとか言いながら2万字~5万字くらい書いてしまう癖がありまして。
 登場人物の気持ちの移り変わりとか、それに必要なフラグとかイベントとかを書いていると5万くらいになっちゃうというか……
 話を短くまとめる練習をしたい!





 ってなわけで。


 

 リク募集再開します。
 私のコレジャナイ感溢れるSSを受け取るがいい、受け取ってください、気に触らなければ受け取ってくださいオネガイシマス


●リクエスト募集要項●
スレッド「レヴァリエへのメッセージや(ry」にて募集
募集内容は

1回の募集につきお一人様1つまで
東方キャラ1名orカプ1つ
シチュエーション1~2

です。
5000字前後の、本当の意味でのSSとして書かせていただきます。

●採用は抽選制で●
 今回のリクはココまで的な旨の書き込みを私が行います。その時のIDに出た数字によって抽選します
 詳しくは

 IDに出た数字を左から順に並べて数値として扱います

 募集開始から募集終了までの間に書き込まれたリクエストに1、2、3……と通し番号をつけます
 リクエストの数=n

 n<IDに出た数字の場合
 IDに出た数字をnで割って出た余りに適合する番号のものを採用 余り0なら番号の一番大きいものを採用

 n>IDに出た数字の場合
 そのまま数字通りの番号を採用
 
 IDに出た数字が0の場合
 番号の一番若いものを採用


 IDに数字が無い場合
 末尾のアルファベットを32進数扱いで計算

 それでも末尾がWXYZだった場合は後ろから2番目のものを使用

●当選された場合●
 書きます。5000字くらいで

●落選された場合●
 次回募集時に再度書き込みをお願いします。忘れるので。



何か質問とか突っ込みどころがあればスレのほうでお願いします。ではでは、レヴァリエでした。