肌を撫でる心地良い夜風に、あなたは目をさましました。窓を閉め忘れたのかな? 眠い目をこすりこすり、あなたは体を起こします。風邪を引いては大変ですから。
 けれど、重い瞼を開いてみれば、そこはあなたの部屋ではありませんでした。
 夜の草原。月の光に照らされた、蒼い世界。遠く広がる柔らかな草の絨毯。風が奏でる草のささやきが、とっても心地いい。
 現実離れした美しい景色に、思わずため息がこぼれ出ます。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込めば、香しい草のかおりで心が満たされるようです。
「こんばんは。うぅん、おはようかな?」
 ふいに、声がかかりました。メゾソプラノの落ち着いた美声。それはささやくような声で、けれどとても大きな声でした。体の芯に響くような、大きな声。どうしてか、怖くはありませんでした。
 声のしたほうを見ると、そこには白い壁がありました。月明かりに照らされて艶やかに輝く、白く丸みを帯びた壁。それが何なのか、あなたはすぐにわかりました。とても大きな少女の太ももです。立ち上がって少女に向き直ってみれば、その少女は地面に座り込んでいました。その横たわった太ももですら、少し離れているはずのあなたの視界を覆ってしまうほどの、大きな少女。
 つま先から腿の半ばまでは長い編み上げブーツで覆われていますが、それとは対照的に少女の服装はとても薄着でした。腰に巻かれたパレオが柔らかそうな太ももにかかり、申し訳程度に下着を隠しています。新雪のゲレンデのようなすべらかなお腹。そしてその上に張り出した、小山のような二つの乳房。がっしりと下半分を支える堅牢な胸当てから、いまにもこぼれ出てしまいそうです。
 広大な背中を流れ落ちる白銀の滝は彼女の髪の毛。月の光を捉えて光の粉を降り撒くその艶やかな滝を分けて、天使のような翼が背中から生えています。呼吸に伴ってほんのわずか身じろぎするそれは、どうやら本物みたいです。なんだか触ってもいないのに、とても温かいような感じがしました。
 首が痛くなるほど見上げてようやく、あなたを肩越しに見下ろす大きな瞳と目が合います。蒼い光彩はサファイアのレリーフのよう。美麗な二重瞼の眼差しはとても優しく、純粋で無垢な印象を受けます。スッと通る高い鼻。白磁の肌に花の唇。絵に描いたような美少女でした。
 あなたと目があったことに気付くと、その巨大な少女は可愛らしく首をかしげてあなたに笑いかけました。高空を吹き抜ける風に、白銀の髪がさらりと舞って光の粉を振り撒きます。
「ごめんね、寝てたのに。満月の夜になると私の魔力が他の世界に干渉して、共鳴した人をこっちに呼び寄せちゃうみたいなんだ」
 少女は言いながら、あなたのほうに向き直りました。持ち上がることすら信じられないような巨大な脚が地響きを立てて大地を離れ、あなたの頭上を嵐を巻き起こして通り過ぎます。そのあまりのスケールに、自分のほうが動いているのではないかと錯覚を受けるほど。まるで橋の下を高速で潜り抜けるようでした。次いで、大きな揺れがあなたを激しく揺さぶります。どうやら彼女の脚が地についたようでした。
 どうにか体を持ち直すと、まずあなたは目のやり場に困りました。少女はあなたを股の間に収めているのです。開かれた太ももが作り出す真っ白な回廊のその先には、巨大な彼女の巨大な下着。目をそらそうにも、この大きさではやはり首が痛くなるほど見上げなければお腹すら見えません。
 けれど、下着をあけっぴろげに見せびらかしている当の本人はまるで気にしていないのか、太ももの間のあなたを覗き込んで続けます。
「今からあなたを元の世界に送り返すね。大丈夫、痛くはないよ。こっちで寝れば元の世界で目が覚めるから」
 少女の宝石みたいな瞳が、妖しく輝きました。夜空を背負って陰になっているはずなのに、それ自体が光を放っているようです。その視線に射抜かれると、まるで全身を流れる血液が氷水に置き換わったみたいでした。寒くはないし、怖くもない。涼しいような、心地良さ。はっきりとしていたはずの意識が、急激に薄れていきます。けれどそんな中で、あなたはふと思いました。帰りたくないと。
「あなたも……帰りたくないの……?」
 少女の、やや戸惑ったような声。どうやら、あなたの思いは知らずのうちに声になってこぼれ出ていたようです。寝覚めのような意識から、急激に引き戻される感覚。
「どうして? あっちの世界で、何か辛いことでもあった?」
 心配そうにあなたを覗き込む少女。別にそういうわけではないといえばないし、中らずとも遠からずと言えないわけでもない。言われてみれば程度ではありましたが、取り立てて否定するほどでもないのであなたは頷きました。
「他の世界は大変なんだね……。前に来た人も、辛くて帰りたくないって言ってた。でも、寝ない人間さんはいないから帰りたくないっていうのは無理なんだよね……」
 少女は困った様子で、眉をハの字にゆがめて難しそうに唸りました。まるで大地が鳴動しているかのような揺れが、彼女のお腹から太ももへ、そしてその間にいるあなたへ伝わります。
「わかった。じゃあ私があなたを癒してあげる!」
 曇った困り顔から一転、ぱぁっと花の咲くような笑顔で彼女は言いました。銀色の月明かりに縁どられた優しい笑み。その可愛らしさは、人間ならだれでも魅了してしまうようでした。だから、彼女がその巨大な手をあなたに差し伸べても、あまり恐怖は感じませんでした。
 目の前に下ろされる大きな大きな指。その太さだけで、1メートル以上もあります。乗って、ということなのでしょうが、とてもとても乗れたものではありません。長く伸びた爪に乗っかって、指の指紋を足がかりにどうにか登ろうとするのですが、なにせ女の子の指先です。丸みを帯びていて思うように行きません。そんなあなたを見かねて、彼女は手をぐいと地面に押し付けました。めきめき、と地面が啼いて、家ですら握り潰せてしまいそうな手のひらが地面に沈み込みます。
 それでようやく指の股から乗っかることができた手のひらは、まるで雪原のようでした。手のひらの窪みや親指の作る盛り上がり、それら全てがなだらかな丘のようです。
 そして持ち上がる、彼女の手。急な上昇であなたは柔らかい手のひらに押し付けられました。ほんの一瞬で数十メートルも上昇したせいか、耳がきーんとします。
「私はクレア。白龍のクレア」
 少女は手を顔の前まで持ち上げて、手のひらの上のあなたに名乗りました。ものすごい音圧、言葉とともに漏れ出る息にあなたは手の上をごろごろと転がります。激しく天地が逆転し、手のひらから落ちてしまうのではないかと慌てて踏ん張り起き上がります。けれど、実際はほんの数メートル転がっただけでした。手のひらの中央の窪みからすら出ていません。普段数字で感じるスケールとは全く違いました。むしろ、普段あなたが感じているスケールで、彼女はあなたを見ていることでしょう。手の上でころころと転がるあなたを、優しげな笑みを浮かべて見守っています。
「可愛い……。向こうの世界の人間さんはあんまり強くないんだね。守ってあげないと、すぐに死んじゃいそう。夜はこわーい魔物がいっぱいいるんだから」
 若干上のものが下を見下すような雰囲気もありましたが、しかし悪気はないようでした。クレアと名乗ったその少女の表情は、むしろその儚さを愛でているかのようです。
「大丈夫。眠くなるまで私があなたを守ってあげるから。……安心して」
 クレアは宥めるように、あなたに囁きます。
「そうだ、私があなたのお姉ちゃんになってあげるよ」
 クレアは真ん丸な目を細め、屈託のない笑みで言いました。あまりに唐突なその言葉に、あなたは思わず首をかしげます。
「龍や人は寂しいと死んじゃうんだって、私の友達が言ってたの。だから、あなたが一人で寂しくないように、今だけお姉ちゃんになってあげる」
 わかったようなわからないような。思うに、出会ってから今までのクレアの言動を見るに、彼女はとても純真無垢。ですからきっと、冗談めかして言われた言葉を本気にしてしまっているのでしょう。けれど、お姉ちゃんという響きは少し魅力的でした。ですからあなたは別段断ることもなく、それを受け入れました。
「うん、それじゃあ今から私がお姉ちゃんね」
 まるでおままごとを楽しむ少女のように、クレアは言いました。そしてあなたを乗せた手のひらを口元へと運んでいきます。車や電車ですら飲み込めてしまいそうな唇。あなたの目の前で、クレアは小さく舌なめずりをして唇を湿らせました。視界いっぱいに広がった桜色の色めかしい唇、鮮やかな舌先がちろりと舐めて潤ったそれに夜空の星々が映ります。とても瑞々しい、華の唇。それがどんどん迫ってきて、視界を覆いつくします。自分が動いているのか、唇が迫ってきているのかわからなくなったあたりで、あなたはクレアの柔らかな唇にぎゅっと抱きしめられました。唾液で湿った唇は最初はひんやりと冷たく、少しすると温もりが伝わってきます。それは高空を吹き抜ける夜風で冷えた体に染み入るようで、あなたは強い安心感を覚えます。
 クレアは唇であなたを確かめているようでした。繊細で弾力に富んだ瑞々しい唇はあなたを押しつぶすことなく、もぞもぞと身じろぎします。こんなに大きいのに、その唇には一切荒れていなくて、激しく擦れたはずなのにまったく痛くはありませんでした。ふと思い立って、あなたはその唇を抱き返してみようとしました。押し付けられて広がった両手を、力いっぱい内側へ押してみます。すると、簡単に手が沈み込む感触が得られました。唇の弾力に勝ったわけではなく、上唇と下唇の間に手が入り込んだようです。慌てて抜こうとしたのですが、クレアはどうやらそれを見逃すつもりはなかったようです。緩かった唇がピタッと閉じられ、腕を抜こうにもびくともしません。やわらかでしっとりした唇にぎゅっと締め付けられ、なんだか血圧測定を思い出します。自分と、そしてクレアの脈動がドクドクと腕から伝わって来ます。
 彼女はそれだけでは飽き足らず、唇に咥えこんだあなたの腕をさらに引きずり込みたがりました。舌を丸めて、頬をわずかに締める。ただそれだけの動きで、あなたはぐいと引っ張られます。ちゅるちゅる、ちゅううぅ、と空気の逃げる音。上半身全部が持っていかれそうなほど強烈な吸引でした。クレアの唇はこの体躯にしては薄く、あなたは手の先に彼女の歯を感じました。まるで磨かれた宝石のような手触り。とても皇かで、指先だけでわかる重厚感。この歯であれば人間なんて簡単に噛みつぶせてしまうでしょう。いえ、噛む必要もないかもしれません。
 ほとんど肩まで唇に咥えこまれたあなたの両腕に、暖かく湿ったクレアの舌先が絡みつきます。その何とも言えない柔らかくざらついた感覚にあなたは思わず笑い声を漏らしました。くすぐったいのです。同時に、とても気持ちがいい。
 あなたが笑ったのが嬉しかったのでしょうか。クレアはあなたの腕にその暖かな舌を何度も絡めてきました。そうしているうちに、あなたはだんだん変な気分になっていきます。巨大な舌に腕全体を舐められるなどという経験なんてありませんし、なによりその舌の動きがなんだかエロティックなのです。こんな幼げな顔をしていながら、このクレアという少女は意外と遊び上手なのかも、と思ってしまいます。
「ふふっ、どうぉ? 気持ちよかった?」
 クレアがあなたを解放する頃には、あなたの腕は彼女の唾液ですっかりふやけてしまっていました。クレアの唇と吐息ですっかりのぼせたあなたは、彼女の手のひらの上に手足を投げ出して大の字に寝ころびます。宝石をちりばめたような満天の星空を背景にして、得意げに微笑むクレア。あなたと目があうと、クレアはいたずらっぽくべーっと舌を出してウインクをしました。
「ねぇ、もっとしてあげよっか?」
 無邪気に、なんの含みもなくクレアは切り出しました。
「服、脱いで。……? 遠慮しなくていいんだよ? 私はあなたのお姉ちゃんなんだから。……そう、いい子。もっともっと、私に甘えていいんだからね」
 あなたがやや戸惑っているのを見ると、クレアはそう言って優しく微笑みました。月の光に照らされた柔らかな笑みに、心のつっかえ棒が外れたようでした。それは理性だったり、羞恥心であったり、いずれもこの少女の前では無力と思えるくだらない見栄でした。
 服を脱ぐと、夜の冷気がひんやりと身に沁みます。吹き付ける風と土のかおり、遠く聞こえる虫の声。なんとなく、露天風呂に入る前のような感じ。
 クレアの舌先が、あなたを捉えました。足のほうから、体を覆うように上へと接触面が広がっていきます。彼女の舌は口から出ている部分だけで、あなたの体を完全に覆いつくしてしまうことができました。龍の舌は人間のものより長いのでしょう、まだまだ伸びしろは有りそうです。
 暖かく、唾液で湿った舌が、あなたの体を下から上へと一舐め。全身を舐められるその感触におもわず身震いします。何にもたとえようのない感触。柔らかで暖かい肉の布団に全身を攫われるこの感じは、今まで経験した何にも似つかず、また今まで経験した何よりも気持ちのいいことでした。
 クレアは手のひらの上の小さなあなたを、味わうようにペロペロと嘗め回します。舌の半ばから、舌の先まで使って、こすりつけるように。そうしているうちに、クレアの舌は気化熱を奪われてひんやりと、水分を失ってべったりと張り付くようになります。そうして粘着テープのようになった彼女の舌が、あなたを手のひらの上から引き剥がしました。背中の支えを突然失ったので落ちるかと身を強張らせますが、その心配は無用だったようです。クレアは舌の表側であなたを舐めていたのですから、引っぺがされてもそこはクレアの舌の上ですね。
 くすり、とクレアの鼻息が笑うのが体で感じられます。なんとなく、これから自分がどうされるのか分かりました。クレアの舌が、口の中に引っ込んでいきます。勿論あなたを乗せたまま。歯にぶつかるかな、と思って頭を下げましたが、しかしクレアの口はそんなに小さくはありませんでした。振り返ってみると、口の中からは楕円に切り取られた夜の世界がずいぶん明るく見えました。
 クレアはあなたの意志を確認しているようでした。優しく開かれた口が、嫌だったら出てもいいんだよ、と言葉なしに語っています。でも、出たところで足場がなければどうしようもないあたりは思考から抜け落ちているようでした。もしかすると、こちらの世界の人間は当たり前のように空を飛ぶのかもしれません。
 あなたがクレアの舌をぎゅっと抱きしめると、月明かりが淵を飾る楕円の窓はゆっくりと閉じ、闇の帳が下ろされました。
 闇に目が慣れると、そこが口内空間にもかかわらずあなたにとっては十分すぎるほどの余裕があることが分かりました。魔法でしょうか、空間自体が不思議な薄ぼんやりとした明りに満ちているのです。喉へと連なる口蓋は、トンネルを想起させました。軽自動車程度なら、飴玉みたいに弄ぶことだってできるでしょう。整然と並ぶ美しい歯列、その白い歯ですら大きいものであなたの身長ほどもあります。何から何まで、信じられないほどの大きさでした。
 ぽつり。あなたは体に暖かい雨を感じます。クレアの口蓋から流れ落ちた唾液でした。別にクレアはあなたを食べようとしているわけではないのでしょうが、しかしそれとは無関係に、反射として消化の第一段階が始まったようです。もしこの巨大な少女が誤ってあなたを飲み込んだら、彼女の意志など一切なくとも反射的に溶かされて栄養になってしまうのでしょう。そう思うとぞっとする反面、しかしなんだかそれも悪くないように思えました。
 けれど、とりあえず今はクレアを信じてされるがままにするしかありません。彼女の巨大な舌が持ち上がり、口蓋にあなたを押し付けます。背中で感じる、つるつるした口蓋。潰れないように、潰さないように、クレアの舌は優しくやさしくあなたを撫でます。どこが気持ちいいとかそういうことは知らないようですが、全身を包み込むように舐めるその舌使いはあなたの理性をとろけさせるには十分すぎました。
 クレアは飴玉でも転がしているつもりなのでしょうが、しかし彼女の舌が感じたのは甘味ではなく微かな苦みとなりました。クレアはその味を不思議に感じたのでしょう、あなたは夜の明りの中、クレアの手のひらの上にぺっと吐き出されました。彼女の体内の温度に火照った体、涼しい夜風が心地いいです。
「人間さんってこんな味だったっけ……?」
 唇に、巨木のような指を当てて首をかしげるクレア。もごもごと口を動かして、微かな残滓を追いかけているようです。けれど、量はほんのわずかですから、既に薄まって味など感じられないでしょう。
 しかし、あなたは彼女のその言葉にすこし違和感を覚えました。恐る恐る、あなたはクレアにその味とやらを尋ねてみます。
「うーん、人間さんはね、噛むと鉄みたいなおいしい味が……あ、大丈夫だよ! あなたは噛まない、大丈夫だって。私がかじるのは悪い人だけ!」
 慌てて釈明するクレア。やはりこの少女は時折人を食べるようです。背筋にぞーっと悪寒が走りました。もしかしたら、間違って食べられていたかもしれません。
「大丈夫だって……それに、食べちゃった人もだいたいはバハムートちゃんが元通りにしてくれるし……」
 ちょっと拗ね気味に、ぼそぼそと大きな独り言を漏らすクレア。その表情はやはりどうにも人食い巨大娘には見えない優しそうな少女のもの。やっぱり信じても大丈夫そうだと安心したあなたは、そこで自分の体が冷え切っていることに気が付きました。唾液が気化熱を奪いとても寒いです。
 どうやらクレアも、あなたが寒そうにしていることに気が付いたようでした。
「寒い? それじゃあ、お姉ちゃんが温めてあげる」
 ちょっと怖がらせてしまったけど、ここで挽回! と言わんばかりに目を輝かせ、そして何の恥じらいもなくクレアはあなたを大きな胸の谷間に押し込みました。車だろうが電車だろうがぺしゃんこにできてしまうであろう凶器のような胸。家にのしかかれば、両の乳房で一軒ずつ家を押しつぶせてしまうような巨大な丘の間、その付け根付近に。
 全身を包み込む柔らかな脂肪。クレアの豊満な胸は、腕などを一切使わずともあなたを優しく抱きしめることができました。全身を乳肉で挟まれる。何とも言えないその弾力と柔らかさはどんなベッドよりも素晴らしく、心地のいいものでした。
 ドォン、ドォンと伝わる振動は彼女の心臓の鼓動。胸骨から柔らかな脂肪へ、そしてあなたの背中へと伝わる生命の律動。こんなに巨大でありながら、その鼓動はなんとなく可愛らしいく、愛おしい。
 とても温かく、なんだか満たされるような気分。
「どうぉ? あったかいでしょう? ここに一番近いから、心が繋がってるみたいな感じがするね」
 クレアは左の胸に手を当てて、うっとりと呟きました。寄せられた胸があなたを押しつぶしそうになりますが、あぶないところで彼女の手は胸を離れました。
 なるほど、確かにこうしているとなんとなく彼女と繋がっているように思えます。このあまりにも大きな少女、身じろぎをするだけであなたを擦り潰せてしまう少女の胸の谷間にいるというのに、なんだかとても安心します。
 谷間から見上げる空に、傾きかけた月。夜半の眠気が安心に乗じてあなたにのしかかります。けれど、このままこうして眠りにおちてしまうのも悪くないなと思いました。
「いいんだよ、眠っても。……大丈夫、また会えるよ。辛くなったら、寝る前に私のことを思い出して。またお姉ちゃんが癒してあげる。だから今は、安心していいんだよ」
 体に直接響く優しい声。深く、ふかく、あなたの意識は眠りへと落ちていきます。
「そう。……おやすみなさい」