音というのは、奏者の心をありのままに映し出す。それは鏡と言うよりも、壊れやす
くおぼろげな水面と喩えるほうがいいかもしれない。心の中に波が立てば、音も同じよ
うに動揺する。明るい気持ちで音を奏でれば、その音自体が不思議なきらめきを持つ。

 だから、きっとあなたにも分かる。今弓を弾き弦を鳴らす少女の心情が。

 それは憂鬱。

 真っ黒な、憂鬱だった。

 重苦しくて、粘りつく闇のような。閉塞感に満たされた、けれどどこまで行っても壁
すらない孤独感。足元に何も無い不安、身体さえ解けて消えてしまう虚無感。

「はぁ……」

 少女は弓を弾くその手を止め、小さく息を漏らした。憂鬱の黒に塗りつぶされたその
衣装に、蜂蜜色のショートヘアが眩しく見える。

「私の欲しい音はこんなんじゃないのに……」

 彼女の名前は、ルナサ、プリズムリバー。騒霊、つまりはポルターガイストの少女で
あり、また幻想郷きってのヴァイオリニストでもある。

 だが、その幻想郷のトッププレイヤーは今まさにスランプの只中にいた。

 もっと上手く、もっと美しい音を。そう思ううちに至った結論は、今の音を脱却せざ
るを得ないという、彼女らしからぬ結論だった。

 けれど、音の立ち上がりを変えても、ビブラートを変えてみても、音質を変えようと、
一向にだめなのだ。耳で聞こえる物理的な音とはまた別なところに根ざした何か
が、変わろうとするルナサをしきりに阻む。

 そうして試行錯誤を重ねれば重ねるほど、深みにはまっていく。今となってはもとの
音から脱却するどころか、その音の性質をさらに深めてしまったようにさえ思える。

「……今日は、おしまい」

 ヴァイオリンをクロスで丁寧に拭き、ケースに仕舞うと、練習室を後にした。 彼女
の革靴のカツカツという足音が去った後、楽器庫も兼ねている練習室の楽器たちの間か
ら、二人の少女がヒョコと顔を出した。 

 片方は青みを帯びた銀髪のゆるふわショート。彼女の妹で、プリズムリバー家の次女
にあたるメルラン。

 もう片方は栗色のショート。プリズムリバー家三女のリリカ。

 姉であるルナサの異変に気がつき、物陰からその練習姿を覗き見ていたのだ。

 肩を落として去る姉の後姿に、姉妹が何を思ったかは想像に難くは無い。ただし問題
はその手段だった。存在そのものが鬱の属性を持つルナサに元気を出せなどと言うの
は、雪女に「もっと熱くなれよ!!」と説き伏せることとほぼ同義である。

「もう、ずっとあんな感じなんですよ……」

 そうして対策に手をこまねいて既に一週間。いい加減自分たちでどうにかするには手
に余る問題と判断した次女、メルランは賢者の知恵を借りることにした。

「ふ~ん、なるほど。音楽によって生じた問題を音楽で解決しようとしたらそうもなる
わ」

 何も無い空間から声がし、そしてそれに次いで空間が裂ける。周囲のものを押し広げ
るように歪めて、声の主は異空の中からぬっとあらわれた。

 妖怪の大賢者、八雲紫である。

「まぁ、私に任せておきなさいな」





「で、どうしてこうなったかな……」

 足元に所狭しと並び立つビル街を見下ろして、ルナサは蜂蜜色の金髪をかきあげて
困ったように言った。もうそのうちの幾つかはルナサの黒のストラップシューズに粉々
に踏み砕かれている。

 林立するビルの中に鎮座する自身の足が少し身じろぎしただけで、足元は大惨事に見
舞われていることがルナサにも分かった。

「いや、ほら。元気出してもらおうとおもって、ね? ねっ!!」

 ゆるふわメルランがルナサの背中をバシバシと叩く。その衝撃は彼女の身体を伝っ
て、バランスを取ろうとした足を動かし結果的に周囲のビルを倒壊させるに至った。

「この世界では、姉さんはとっても強くて、美しくて、もう、あれだよ! 辛抱たま
らーん! って感じだよ、私からすると」

「……よく分からないわ」

「だからさ、私たちは姉さんに元気を取り戻してもらいたくってね。姉さんはちょっと
真面目すぎるから……たまには精一杯暴れて、仕事のこと忘れよ?」

 リリカがメルランの説明の補足……というかまるで説明になっていないメルランの代
わりに説明をした。

「暴れていいの?」

 ルナサがやや当惑気味にリリカに尋ねる。それはそうだ、今こうして立っているだけ
で一体何人踏み潰してしまったのやら、想像もつかない。

「いいのいいの! 後始末は紫さんがやってくれるから、ほら!」

 リリカがルナサの背中をぐいと押すと、少しばかりの抵抗をその手に感じた。まだ、
足元を逃げ惑う小さな人々を踏み潰すことに戸惑いを感じているらしい。

 けれど、その力に、言葉に後押しされたルナサは一歩を踏み出した。

 迷いの中で踏み出されたその一歩は、降ろす場所も分からぬまま。故あって、彼女は
すこしふらつくように一歩前に歩み出た。

 結局のところ、ビルを6本ほどまとめてその足の下に敷き潰し、轟音と爆煙をあげて
ルナサの靴は地に着いた。その信じられないほどの衝撃音に、ルナサはビクと肩をすく
める。

 けれど。

 けれどなんだろうか、この心の中に沸き起こる感情は。

 硬い靴の底から、足の裏を伝わるこそばゆい破壊の衝撃。それが神経を遡り脳へと至
ると、ルナサは何ともいえない感情に囚われた。

 沢山の人が踏み潰された。それは憂鬱で、悲しむべきことだと思う。

 けれど、それが自分のたった一歩で生み出されたという滑稽さ。

 そして彼ら、足元を逃げ惑う人間たちの生殺与奪の一切がこの足にかかっているのだ
という実感。

 困ったように妹たちを振り返ると、二人とも楽しそうに頷いている。メルランが楽し
そうなのはデフォルトだが。

「えっと……じゃぁもう一歩」

 恐る恐る、ルナサは反対側、左足を持ち上げる。いくつものビルを跨いで、白い太股
を人間たちに見せつけ、ルナサは歩きはじめた。

 拍はアンダンテ。歩くような速さで。

 音はフォルテシモ。とても強く、激しく。

 そしてマエストーソ。荘厳に。

 ずしいぃん、ずしいいぃん!! こだまと煙の余韻を残して、ルナサの白い足が規則
正しくビートを、そして破壊を刻む。

 そして数歩歩いて振り返ると、整然と並んだ町並みに、破壊の楽譜がぽっかりと黒い
音符のように穿たれていた。地割れを伴うその巨大な足跡は、ルナサに自身の力を認識
させるに十分であった。

「すごい……」

 おもわず言葉として漏れる思い。それは白い雲となって彼女の唇を離れたゆたう。
あぁ、私、こんなに大きくなっちゃったんだ……。その想いが切々と、胸の底からこみ
上げてくる。

「そーそー! すごいんだよ、姉さんは!! もうね、なんかね、ザ・女神!! みた
いな!!」

 どっしんどっしんと飛び跳ねて、メルランが騒ぎ立てる。躁の音担当なだけあって、
常にテンションMAX有頂天。もちろん彼女の白いモフモフブーツの下ではテンション
MAXどころではない騒ぎが起こっているのだが。

「いいよ、姉さん。その調子」

 リリカの翻訳。

「……べ、べつにそんな、女神なんていうほどわたしは綺麗じゃないし」

 顔を赤らめ、ルナサはぷいとそっぽを向いた。肌が白い分、紅潮がとても顕著で、そ
れはまさに頬紅いらず。内心ではとても嬉しいらしいことが丸見えだ。

 もじもじと動かす足が、小さな雑居ビルをその下に巻き込み、粉末になるまでこね回
す。

「あはは、姉さん可愛い~!! ほらほら、その綺麗な姿、真っ白な足、もっと見せ付
けちゃいなYO!!」

 どっしいいぃぃん!! メルランがルナサの懐に飛び込み、黒のミドルスカートを
バッとめくりあげる。どんな帆船の帆よりも大きな布が一瞬で翻り、そしてそれによっ
て起こされた嵐がビルの窓を叩き割って駆け抜けた。目に見える突風とはまさにこのこ
と。

 けれど、嵐はむしろ大気中ではなく、ルナサの中で起こっていたようだ。

「ちょ……なにやって……」

 恥ずかしさのあまり、今にも沸騰しそう、という表現が似合いそうだった。頭から湯
気が立ち上るのが、容易に想像できる。

 彼女はメルランにスカートの一端をつままれたまま、その場にへなへなとへたり込ん
でしまった。

 一見柔らかそうに見えるルナサの白い太股が、ビルに触れる。するとそれに触れた瞬
間、ビルはまるで爆発するようにその形を歪めて弾け飛ぶのだ。ルナサの肌に食い込む
暇すらない。なにせ、ゆっくりに見えるがこれは自由落下だ。

 どっすうううぅん!!

 地鳴りを上げ、そしてスカートの孕んだ風を一気に解き放ち、ルナサの黒い下着に覆
われた尻がいくつものビルを破砕してその場に鎮座する。

「いいじゃない、大きくなった時点で下からは丸見えだよ? ほらほら~!」

 メルランはそんなのも意に介さず、自分のスカートをひらひらとめくって見せた。水
玉模様のパンツが、そして太股が眩しい。けど、こうも見せびらかしてしまうとありが
たみが減ってしまう。

「あとお姉さん、そのままだと大事なところが小人さんのビルに……」

「ひうっ!?」

 リリカの助言をさえぎって、ルナサは悲鳴を上げた。そうだ、いま自分が尻に敷いて
いるのは人間たちの町なのだ。股間に当たる感触は、折れたビルの残骸か、低層の雑居
ビルか。

 ぎゅーっと股を閉じ擦り合わせ、その間にあるもの全てを粉々に砕き圧縮する。それ
を見ていたメルランとリリカは、若干ルナサの股の間にある町をうらやましく思った。
私たちもあの太股ですりすりされたいなぁ、と。

 だが、人間には大腿三角というものがあって、つまりそこはどんなに股を絞めても決
して埋まることの無い空間なのである。

 かといって、ここにいる人々に制裁を加えないわけには行かない。いや、むしろここ
にいる人々こそ、なのだ。

 私のパンツ見た奴は、一人残らず潰す。今ルナサの頭の中にあることといえば、ただ
それだけだった。故に彼女は、妹二人にですら想像し得ない方法でそれをやってのけ
た。

 それ即ち。

 女の子座りをさらに崩し、そしてその黒の下着に覆われた股間を大地に擦り付けると
いう、なんともダイナミックな手法。

「ひゃうっ!!」

 本末転倒だが、羞恥心のあまり頭のこんがらがったルナサにはそれしか選択肢が残っ
ていなかったのだと思う。

 わけの分からないままビルを、最も大切なところですり潰し、結果快感が彼女の身体
を駆け巡って脳に帰ってきた。

 突如として姉の取った大胆不敵な行動に、妹二人は驚愕とも感心ともつかない表情を
浮かべて呆然とする。

「ね……姉さんがそんなえっちな娘だったなんて……もう、私は……私は……!!」

 プルプルと震えるメルランに、ルナサははっと我に帰った。波のように襲い掛かる恥
ずかしさ。妹の前で、私はなんてことを……!!

 きっと、もうだめだ。

 もう以前のような関係には戻れまい。

 妹たちは私のことを――。

「私はもう辛抱たまらなくなっちゃったよお姉ちゃん!!」

「は――!?」

 がばぁっ!! 超音速、空気の壁を突き破る速度で覆いかぶさる妹、メルラン。あま
りに突然のことで、ルナサは一切の抵抗すら許されず、こんもりと突き出た低い丘を枕
にして倒れこんだ。

「あ、メルポだけずるい!! 私もがばぁっ!!」

 その上に、さらにリリカが圧し掛かり、総勢一億数千トンに上る体重で大地が割れ、
そして沈み込む。それはまるで、柔らかなベッド。

「え? ちょ……なんで? 普通そんな……」

 妹たちの重みに耐え、さらに混乱を極めるルナサ。そんなルナサを他所に。

「さぁ、お姉ちゃん!! 今こそ私と!! 私たちと一線を越えるときだよ!!」

 テンションマックスなメルラン。

 とにかく、これは止めなければやばいことになる……! ルナサは直感的にそう感じ
た。感じたけれど、二人に圧し掛かられてはどうすることも出来ない。

「女の子同士、それも姉妹同士!! 二重の禁断って、すっごく興奮するよね、お姉
ちゃん!!」

「し、しまい? にじゅう……っ!! だめ、ぜったいに、ダメぇっ!! 姉妹でそう
いうのはありません!」

 ばたばたと手足を動かす度に、ビルが、街が押しつぶされ、すり潰され、吹き飛ばさ
れて宙を舞う。

「なんだぁ、だめなのかぁ~」

 と、意外や意外。メルランは町を区画ごと押しつぶして手を地面につき、リリカを背
中にのっけたまま、んしょっ、と起き上がった。

「それじゃ、一線を越えない程度にならしてもいいってことだよね?」

 メルランの後ろから、リリカがひょこと顔を顔を覗かせ、ルナサに伺った。

「いいってことだよね?」

「あ……あう……超えなくてもだめっ!!」

 頬を真っ赤に染めて、両手を精一杯ぶんぶんと振って精一杯の抵抗をするルナサ。そ
の腕の末端部は当然の如く音速を超え、快音を放つソニックブームを妹たちにバシバシ
とぶつける。

「あはは、姉さんったら可愛いっ。もう、冗談だよ、冗談!」

 そんな衝撃波を物ともしないメルランは、へらへらと笑いながら起き上がった。リリ
カを背中に背負ったまま、よっこらしょっと立ち上がる。山を丸まるひとつ持ち上げる
ようなものだが、彼女は姉妹の中で一番の力持ち。軽々とそれをやってのけた。

「……冗談に見えないっ!」

 ルナサは自分の体の形に窪んだ地面からどうにか抜け出し、そして服についた町の破
片を払い落とした。黒い服からして見て取りづらいが、彼女がそれをぱたぱたとはたく
と、自動車だったものや住宅だったものの瓦礫がばらばらと降り注ぎ降り積もる。

「もう、なんか凄く身の危険を感じる……これだけ大きくなったのに身の危険を感じ
る。ちょっと暫く一人になりたいわ。10分くらいでいいから」

 はぁ~っ。胸の中に溜まった疲れを締め出すような、そんな苦しげなため息をつい
て、ルナサはシッシと手を振った。

「え? あ……うん。わかった、じゃぁちょっと離れてるよ」

 意外や意外、メルランはあっさりとそれを了承した。さすがにやりすぎたと思ったの
だろうか。名残惜しそうにルナサを見つめながら数歩後ずさると、リリカを背負ったま
まずんずんと歩いて標高2000mほどの山の陰に消えた。

「覗いたりしちゃだめだからね~っ!!」

ルナサの声がそれを追いかける。文字通り、その膨大な距離を音が駆けて追うのだがメ
ルランの歩行速度は音より速く、その声が届いたかどうかはよく分からない。

「……覗いたりしちゃだめだから、ね?」

 念を押すように、繰り返し、独り言のように追って呟く。

 きっと、大丈夫。いくらあの二人とはいえ、怒られてちょっとは反省しただろう。そ
れにあの大きさだ。山の陰から顔を覗かせてもすぐに分かる。

「……足音、なし。呼吸音、なし」

 さらに念には念を入れて確認する。別に特別耳がいいわけではないが、どうやら気配
は無い。視線も、足元の人間たちのものだけ……だとおもう。

「うん、大丈夫……だよね」

恥ずかしげに周囲を見回すと、ルナサはおもむろに足を持ち上げた。

「えっと……どう? 怖い?」

 誰に、ともなくルナサは足元を逃げ惑う人間たちを見下ろして、はにかみ混じりに問
う。もちろん返事は無い。精一杯叫び声を上げながら、少しでもルナサから距離をとろ
うと全力で走る者、ただ途方にくれて泣き叫ぶ者。阿鼻叫喚の地獄がそこにあるだけ。

 それが逆に、ルナサを嗜虐的な快楽へと引き込んでいく。

 先ほどまで固く結ばれていた桜色の唇の端が微かに緩んだ。こんな姿は、妹たちには
見せられない、見せたくない。だからこそ、彼女らがいない今、精一杯これを楽しんで
やろう。

「ふふ……怖いんだ。ただの女の子が足をちょっと持ち上げただけでこの騒ぎなんて
……。それじゃぁ、私がこの街の中に足を下ろしたらどうなっちゃうのかな~?」

 さらに足を持ち上げ、ハイソックスに覆われた脹脛を色っぽく撫ぜる。どんな建物よ
りも大きく、しかし華奢で美しいその足を下る彼女の手。それはやて踝へと至り、スト
ラップシューズの踵に掛かった。

 この巨人は靴を脱ぐつもりだ。その動作を見上げていた者は、それを知ることが出来
た。それを知ることこそ出来たが、その脱いだ靴がどこに行くかは分からない。ただ、
巨人の一挙一動に目を奪われ、叫び声を上げて逃げ惑うことしか出来ないのだ。

 そんな彼らの様子に、ルナサはふと手を止めた。何のためらいも無く靴を脱ぎ捨てる
つもりだったのだが、地上の狂いぶりを見るにそれはどうやらもったいない。

「そっか、私がこの靴をどこに置くか心配でしょうがないんだね。どうしようか?」

 落ち着いたトーンで、しかし愉しげに、心底愉しげにルナサは紡ぐ。装った平静の下
から、残酷さと無邪気さがじわりと湧き出た声と、微かな笑み。

 蜂蜜色の髪を揺らしてルナサは可愛く首をかしげた。その動きで、彼女のつま先にぶ
ら下がった靴がぐわんぐわんと揺れて突風を巻き起こす。ストラップのみに吊り下げら
れるようにしてルナサのつま先に留まるそれは、鐘楼の鐘の如く前後に激しく揺れ動
き、何時落ちるか分からない。

「10秒あげるよ。精一杯逃げてみて?」

 ゆらゆらと揺れる靴をつま先で弄び、ルナサは嘲るような笑みを浮かべた。どうせ逃
げられるわけも無い、そんな思いを含ませた笑みだ。

 それでも、足元の人間たちはその与えられた10秒に持てる限りの全てを賭けて走る。
はるか高みからそれを見下ろすルナサには、それが大変滑稽に見えた。だって、どこに
靴が落ちるかも分からないのだから。

「10秒」

 きっかりのカウントだった。逃げ惑う人間たちからすればあまりに短い10秒だった
が、ルナサのテンポ感は間違いない。タイムリミットだ。

 ルナサはくいっとつま先を強く持ち上げた。慣性に従って靴はつま先を浮き、そして
足から離れる。

「精一杯逃げた人、残念だったね」

 靴はルナサの足の直下には落ちず、その一足分先の市街地を押しつぶしてそこに鎮座
した。衝突の瞬間の衝撃はその物体の重さよりもはるかに大きく、もとより乗っかった
だけで破壊されてしまうような脆い建造物がそれに耐えるはずがない。

 結果、ひたすら他人よりも早く、必死に逃げた人間はルナサの靴の下敷きとなった。
その努力を、彼らのすがった希望というものを押しつぶしてしまった。それがいかに残
酷なことかは、ルナサも分かっていた。だからこそ、この身に駆け巡る興奮は本物だっ
た。

 ルナサの靴の後方にいた人々は逆に、絶望の底から救い出されその場に崩れ落ちて安
堵する。絶対に間に合わないと思った、もう助からないかと思った。そんな状況からの
まさかの逆転に、そして全てを賭けた先の十秒の疲れに膝を折る。

 が、次の瞬間彼らの意識は闇に解けた。

「ふふ、足上げてるの疲れちゃった」

 ずぅん!! ルナサが、無慈悲にもそこに足を下ろしたのだった。白煙が舞い上が
り、白のハイソックスに覆われた足が、町ごと人々を押しつぶして靴下の裏のシミへと
変える。それはもう、冗談か何かのようにあっさりと。

「ひゃぅっ! くすぐったぁい……!」

 という、ただそれだけの感想をルナサに与え、数百人の命がその足の下に散る。きっ
と、自分たちが死んだことにすら気づく暇すらなかったろう。

 一方のルナサは、予想外の快感に貫かれ、その整った顔立ちにうっとりとした恍惚の
表情を浮かべているところであった。靴で町を踏み潰したときとは全く違った、こそば
ゆい感触。砂地を歩いているかのような、けれどもっとくすぐったい感触。そしてその
一足の元に沢山の人間を踏み殺してしまったのだと言う優越感。いろいろなものが入り
混じって、彼女の心をとろけさせる。

「気持ちいい……」

 桜色の唇から、ささやくように言葉が漏れる。残酷な快楽。

 底の硬い靴を脱ぎ絨毯に上がったとき、何ともいえない心地よさを感じるのと同じよ
うに、30メートルほど沈み込みルナサの足を迎え入れる大地はとても柔らかな感触を与
える。

 もう、靴なんて要らなかった。ふくらはぎをきゅっと締め付け形をよく見せるハイ
ソックスも、鬱陶しく思える。そんなものは無くても、ルナサの足は傷つかないし、ル
ナサの脚は美しい。拘束を振りほどいて、精一杯この快感を味わいたい。ルナサは躊躇
無く靴を脱ぎ捨て、靴下を引っ張り下ろす。その過程で何度も足を踏み変え、その度に
彼女の足元に並ぶ町がその足の形に抉られていく。

 靴下を脱ぎ終えると、それに覆われていた脚の間を風が撫ぜて心地よかった。

 そしてなにより、靴下を履いている状態であんなに気持ちよかったのだ。裸足で踏み
出せば一体どれほどの快感が得られることだろう。

 期待に頬が高潮し、呼吸も少し浅く早くなる。

 まずは、右足から。そっと持ち上げると、その裏に無残にへばりついていた瓦礫がバ
ラバラと散り落ちた。そうして足の裏が綺麗になると、ルナサはいよいよ脚を踏み降ろ
す。

 場所は、マンションなどが多い住宅街。10階建てのマンションでさえ彼女の指にも満
たないが、その小ささ、繊細さがかえってルナサの足を刺激するのだ。

「ひゃん! やっぱり気持ちいいよ……」

 研ぎ澄まされた感覚の得る、敏感な刺激。見た目には小さくても、触れてみると意外
とそのものの形というのは分かったりするもので、自分の足の下で何が潰れているのか
が大体分かった。まずは四角い屋根を持つ高めの建造物たちが先んじて潰され、次に
様々な形の屋根が足の裏にぶつかって崩落していくのが確かに分かる。そして最後に、
本当に小さな、けれども独特な感触ではっきりそれと分かるもの……崩落に巻き込まれ
なかった人間たちがぷちぷちと潰れる。

 足の指の間に残された建物は意外にしぶとくまだその原形を保っていた。こと親指と
人差し指の間に収まっているのは集合住宅だ。細長い形状が幸いしてか綺麗にそのまま
収まっている。

 持ち上げられたりするだろうか。興味本位に、ルナサは足の指をきゅっと握った。す
るとその家は一瞬ルナサの足指を受け止めたかのように見えたものの、彼女がその微か
な抵抗を感じたと同時に砂糖細工のように崩れてしまった。

「ふふっ、残念。脆いね。ちょっとくすぐったいだけ」

 彼女が握っていた足の指から力を抜くと、一枚岩に圧搾され、指の谷間を模った瓦礫
がズドンと落ちて地面に突き刺さる。ルナサにとってはとても小さな砂利粒みたいなも
のだが、それでも人間からすれば10メートル超の巨岩だ。

 尤も、その巨岩の落下を受ける人間は彼女の足元には既におらず、人も建物も入り混
じった瓦礫の荒野がただそこにあるだけだった。

 そんな惨状を他所に、一歩。もう一歩。ずしん、ずしぃん! 轟音を上げ、町を蹴立
ててルナサが歩む。



 さて、必死に逃げ惑う人間たちの中に、同じように逃げ惑うものがいた。ただしその
歩幅は実に人間の20倍、身長30メートルの巨人である。ドシンドシンと地響きを上げ、
黒々とした人ごみを踏み潰し、車を鉄板へと変え、小さな家を踏み越え踏み潰し、ア
パートを蹴り崩し。なるべく最短距離をとって、彼女らは走る。

「やっぱり無茶だよ、いくらちょっと大きいからって、足元は危ないって! 姉さんは
私たちの50倍の大きさがあるんだよ!?」

 ずがん! 膝にも満たない高さの低層住宅を踏み潰す茶色のローファー。その持ち主
は、先刻山の向こうへと姿を消したはずのリリカ・プリズムリバー。

「あはははは、あっははははははははは!!」

 朦々と煙を立てて疾走する白いファーブーツ。そちらの持ち主は、やはりメルラン。
何が面白いのか、吹っ切れているのか。狂ったように哄笑し、爆煙を上げて爆ぜる住宅
を精一杯蹴り壊しながら、全力で直線距離を駆ける。スカートを翻し、眩い太股でコン
クリートの海を裂くその様はまさに破壊の化身。

 だが、人間をまとめて数十人踏み潰せてしまう彼女たちですら、今のルナサから見た
ら人間とそんなに変わらない小人に過ぎない。おそらく認知すらされていない。なにせ
身長1500メートル余りのルナサにしてみればたった3センチ。それも人間というのは上
から見ると投影面積がかなり小さく、実際はその3センチという数字以上に小さく見え
るのだ。

 もちろん30メートルもある巨人が走りまわっているのだから、彼女らの通った後には
無残に壊れた家が並ぶことになろうが、それも些細。まるでつめで引っかいた後のよう
にしか見えまい。

 そしてそんな傷跡ごと、ルナサの素足は町を踏み潰してしまう。足跡の形に全て均さ
れてそれでおしまい。そう、たとえそれが彼女の妹であろうと。

 ずっがしゃあああぁぁん!!

 巨人であるはずの彼女達からしても耐え難い衝撃音が耳を貫き、その奥にある三半規
管を直撃する。そうして失われた平衡感覚に容赦なく襲い掛かる地震。

「きゃああぁぁぁっ!!」

 体の制御を失ったのはリリカ。片側3車線の国道をめいっぱい全部使って盛大に倒れ
こんだ。もちろんそこを走っていた車やトラック、人間などを全てその体の下に押しつ
ぶし、さらにスライディングすることで、その胸で次々に車を轢き潰しすり潰す。この
大きさともなると慣性は大きく、摩擦力だけではそう簡単には止まってくれない。次々
に電柱や標識をバキバキと破壊し、ようやっと止まったと思った時には既に300メート
ルは滑っていて、めくれたアスファルトの下に生々しい地面の傷が口をあけていた。

 フッ、と辺りが暗くなる。300メートルのスライディング。それが意味するところ
は、ルナサから見て30センチの移動。リリカが自分の足で走った分を加算すれば、それ
は丁度彼女の一歩に近い距離になる。真っ直ぐ走れていたのならば、踏まれることも無
いと思うが、音の壁に三半規管を叩かれていてはその保証も無い。

 見上げれば、姉の巨大な足の裏が見える。あまりにそれが大きすぎて距離感が狂い、
果たして本当に自分がその足の下にいるのか、それとも助かる位置にいるのかの見当が
つかない。

 結局のところ、ルナサの足はリリカの直ぐ横に踏み下ろされた。直撃を避けられたの
は、単に運がよかったからだろう。ルナサにこちらの姿はおそらく見えていない。私
だって人間から見ればこんなに大きいのに、とリリカは思う。

 その足が踏み下ろされる様を間近に、全身を駆け巡る戦慄を覚えた。白く美しい姉の
足が、10階建てのマンションをいくつもまとめて、それも何の苦も無く踏み潰す。その
マンション一つ一つが、リリカと同じ大きさなのだ。崩れ落ち、足の下に圧搾されるそ
の姿に自分を重ね、震え上がる。

 だがそうしてその大破壊を見ていられたのもほんの僅か。ルナサの足が地面に接触す
ると、それに遅れて爆風が巻き起こりリリカを跳ね飛ばした。身長30メートルの巨大娘
がいとも簡単に宙を舞い、町を薙ぎ払う衝撃波に遅れて追い討ちをかける。ことリリカ
の影になった建物は爆轟の影響を受けないため、背中からもろにマンションに突っ込み
倒壊させるに至った。

「いっててて……くそぅ、やっぱりメルランの提案に乗ったのが間違いだった!!」

 提案。即ち、ルナサが自分たちのことを気にかけて大暴れできないならば小さくなっ
てついていこう、と。姉さんのパンツも見れて一石二鳥だと。

 正確にはメルランの提案に乗ったのはリリカではなく、仕掛け人である紫とも言える
のだが、それを拒絶しなかった自身の軽率さに腹が立つ。

 受身を取れずに突っ込んだため全身がひどく軋む。その上で、転んだ際に足をくじい
たらしく足首から下の感覚がおかしい。もうめちゃくちゃだ。

「あっははははははは! あーっはっははは、ひー、ひーっ、あーっはっは」

 ずだだだだだだ、とメルランが爆笑しながらリリカの前まで駆け寄ってくる。ちょっ
と怖い。もはや笑いたくて笑っているのではなく笑いをとめようとして、わけも無く笑
いがこみ上げてくるあの現象に見舞われているのだと思われる。笑ってはいけないと思
えば思うほど笑えてしまうアレに。

 涙をぬぐって、何かを喋ろうとしたらしいが、どうにもその瞬間にまた笑いがこみ上
げてきて、いよいよ呼吸困難の様相を呈してきた。白のふわふわしたファーブーツで駐
車場に転がっている廃車たちをズンズンと踏み潰し、止まらない爆笑となんとか戦って
いるらしい。が、それも全て無駄に終わっている。

「何が言いたいのか、ジェスチャーで」

飽きれ返ったリリカに、メルランは苦しそうに爆笑しながら、先ほどルナサが通り過ぎ
ていった方向を指差した。





 足元には、マスクメロンのように複雑に入り組んだ道路、そしてそれの間に分けられ
た区画。画一然とした機能美に踏み入り、数区画まとめて自分の足跡に変える。それは
物理的な刺激とともに、圧倒的な高揚感を伴うものだった。

「……誰も、見てないよね?」

 ルナサは頬を紅潮させ、吐息も荒く呟いた。体が火照り、疼いているのが遠めに見て
も、誰からでもわかる。

 最初は、パンツを見られるのは恥ずかしいと思った。けれどこうして歩いているうち
に、そんな直ぐに消えてしまう泡のような命のことなどどうでもよくなった。いや、ど
うでもいい、というほどでもないか。人間たちは、ルナサに快楽を与えるだけの道具と
化した、が正しいかもしれない。

 ともかく、旅の恥はかき捨てというし。今ここにいる人々は自分の今後には関係な
い。ならば、ちょっとくらい恥ずかしいことをしてもいいんじゃないだろうか。

 ルナサは先ほど人間の町に股間をすりつけて破壊してしまった時のことを思い描い
た。なんともいえない、今までに感じたことの無い繊細で絶妙な感触。それをもう一度
味わいたいと、そう思った。

 けれど、人間の町というのは必要なところに必要なものが集まって出来ているのであ
り、このベッドタウンにおいてルナサが求めるものは背後にあるのだった。即ち今さっ
き自分が踏み潰してきた場所こそが丁度よさそうなのである。

 振り向いてみれば、あちこちに黒々とした穴を開けてしまったものの、まだまだ使用
には耐え得るように思える。

「う~ん、ここでいいかな?」

やや高めのマンションが林立する駅前の地区を選んで、ルナサはそのマンション郡を跨
いで立つ。そこに、自分よりもずっと小さな妹たちがいることなど知らずに。

 もちろん、ルナサの視力は悪くない。見ようとすれば、見えるのである。だが今の彼
女にとって、自分よりもはるかに小さな者たちにする配慮など一切無かった。それに、
今二人がいる場所は既にスカートの傘の下。気づくにしてももはや手遅れ。

 快楽に狩られるルナサは、ゆっくりと腰を落していった。





「あっは、あっはっははははは、あの、あ、しゃべれた、ふふ、あははは! こりゃも
うだめかもわからんね、あーっはっは!!」

 スカートの作り出す闇に覆われた街の中で、メルランがどうにか切れ切れ言葉を紡い
だ。かろうじて生きていた太陽光発電だかなんだかの灯りがぽつぽつと点灯して、カー
テンに覆われてしまった町をうっすらと照らし出す。もちろん、じきにそれも無くな
る。それを観測するものすら、この小さな巨大娘たちでさえおそらくは。

「う……メルラン、あんた精一杯叫びなさいよ! あんたの声ならなんとか届くで
しょ!! 仮にも私たちは身長30メートルの巨人なのよ! 頑張れば何とかなるよ!」

「あっはっは、姉さんからみれば身長3センチのコビトだもの、あーっはっは、そんな
ものが、ひー、ふー、叫んだところでぎゃーっはっは、あーっは、現状私がこんなにう
るさく笑い転げてるのにぜんぜんダメだもの!」

 メルランはリリカの手を握って立ち上がらせようとした。気づいてもらうのが無理な
のだったらせめて逃げ出そう、と。さすがにいくら厚さ1000倍のスカートでも、身の丈
30倍の自分たちならめくりあげて脱出することぐらい出来るだろう。

「いだだだ、ちょっと、あちこち傷めてるんだからもうちょっと優しく……」

「あっははは、もしかして歩けない?」

「無理!」

 白煙を滝のように流して瓦礫の中から起き上がったリリカは、メルランの支えが無け
ればまたそこに崩れ落ちてしまいそうな不安定さを呈している。これはもうだめかもし
れんね。

 恐怖に中てられたか、また爆笑するメルラン。そんな状態でどうにかリリカを背負っ
たまではいいが、こんなめちゃくちゃな呼吸ではとてもじゃないが走れない。腹筋だっ
て既に限界が近いのに、いったいこの体で何百メートル走らなければいけないのか。そ
う考えるとまた笑けてくる。

 そうしているうちに、ずずうううぅぅん、と言う重い地響きと衝撃が駆け抜けた。そ
れとほぼ同時に発されたのであろうルナサの喘ぎ声が彼女の身体を駆け下り、やや遅れ
て耳をつんざく。

 やった、どうやら直撃は避けたらしい。これならなんとか脱出できるかも。そんな淡
い希望を、巨大な妹たちよりもはるかに巨大な姉は何の意図も無く、至極簡単に打ち砕
いた。

「んっ、んん……」

 ルナサが、快感に喘ぎ小さく声を漏らす。そしてそのまま腰を動かし、残されたマン
ションをずりずりと磨り潰しにかかる。ルナサにとってはほんの十センチ弱の動きであ
るが、それはつまり100メートル以上。その動きが致命的だった。おぼつかない足取り
の上に、ルナサの股間が巻き起こす振動に耐えかねメルランが前のめりに倒れる。つま
り彼女に背負われていたリリカも同じ運命を共にすることになる。

 黒の下着に覆われた股間が迫り、いよいよ二人は覚悟を決めた。……メルランは相変
わらず大爆笑しているが多分決めたと思う。

 そして全てが真っ黒に――







「……ということがあってね~! もう、笑っちゃうでしょ?」

瓦礫の街の中で。今にも頭から湯気を出しそうなルナサに話を聞かせているのは、ルナ
サに押し潰されたはずのメルランだった。

 オチが読める人には読めたかもしれない。二人がルナサに押し潰されるその直前に、
八雲紫がスキマを開いて二人を転送したのだった。このオチが読めた人は生存フラグ破
壊によりルナサに磨り潰されます。

「うぅ、まさか妹たちを、そんなところで潰してしまいそうになっていただなんて
……」

 恥ずかしさと申し訳なさで、頭が一杯で、ルナサは今にも泣き出しそうであった。も
ちろん、自分に内緒で足元をうろついていた妹たちにも非はあるのだが。

「あ~あ、泣かないでよ。姉さんに元気になってほしくてこっちに連れてきたのに……
なんか、ごめん」

瓦礫に腰掛けたリリカが、申し訳なさそうに詫びる。

「うん、まぁ……そりゃ楽しかったけどさ」

ルナサはそんなリリカをフォローするように、感想を述べた。実際楽しかったというの
は本当のことだし。

「けどね、私はここまでしてもらわなくっても大丈夫、っていうのはあったかな」

ルナサの言葉に、二人はしょんぼりと肩を落して、残念そうに、申し訳なさそうに目配
せする。

「ごめんなさい」

 メルランが、珍しく神妙な顔でルナサに頭を下げた。けれどルナサは。

「別に謝る必要もないかな」

メルランの手を取って引っ張り、リリカの元に歩み寄る。

「私はね、あなた達がそうやって私のことを気遣ってくれるだけで嬉しいの。だから
……ありがとう。けど、あまり無茶はしないで」

 リリカとメルラン、二人をそっと抱きしめてルナサはそっと囁いた。

「姉さん! やっぱり姉さんは姉さんだねっ! 最高だよ!」

メルランがルナサとリリカをまとめて抱き返し。

「むー、むーむー!」

リリカは二人の胸にうずもれて何もいえなかった。

「帰ろう、私たちの家へ」

 黄昏に沈む廃墟の中。仲良く手を繋ぎ、肩を貸し、歩き出す。長く伸びた三つの影法
師が楽しそうに談笑しながら去っていき、そしていつの間にか瓦礫の町も、少女たちも
幻想へと消えていた。