晴天の空に、雲を蹴散らしてブーツが突き立った。反動を受けて舞い上がった地殻が、天頂で翻り尾を引いて降り注ぐ。
「今回はいきなりこんなサイズなのね」
 地殻の嵐を消しとばして、声が駆ける。天を貫く柱のような革のロングブーツを上にたどれば、世界のどんな霊峰よりも荘厳なスカートが聳え、そして大気に霞む遥か彼方に声の主を見とめることができた。まだ幼その残る、十代半ばの少女。空に溶け込む蒼い長髪をジェット気流にたなびかせ、やや気の強そうな紅の瞳で雑多な小人の街を見下ろしていた。
 少女の名、比那名居天子。天人の少女である。空色のスカートに、極彩飾の宝玉を裾に綴ったエプロン。艶やかな髪にそっと被さる上品な帽子にはチャームポイントの桃が2つ、幅広のつばの上にちょこんと乗っている。お嬢様然とした服をまとった細身の体は、地平線に堂々とそびえ立っていた。彼女の大きさ、実に人間の一万倍。霊峰富士が30センチの砂山に見える大きさである。
「ふふ……こんな大きさなら、山だって踏みつぶせちゃうわね」
 天子は大地に深々と突き刺さったブーツの踵を上げた。高層ビルすら遥かに凌駕するヒールが地の底から浮かび上がるその様はまさに地殻変動そのもの。あっという間に上空500メートルにまで持ち上がった大地の牙は、次の獲物を品定めするようにゆっくりと降りてくる。天子がつま先をくいっと動かすと、ヒールの着弾点は1キロメートル近くずれて、まだどうにか原型を保っていた隣街を貫いた。地鳴りと共に巻き上がる土煙の中に、人間たちはどのくらい混ざっていたのだろう。ビルの谷間を流れていく爆煙を冷ややかに見下して、天子は想像を巡らせる。きっと必死で逃げていたであろう彼らが、どんなビルよりも太く高いヒールに理不尽に押しつぶされるその様子を。あるいは衝撃に耐えかねて崩れ落ちたビルの残骸に押し流される様を。
「あぁ、私、大きくなったんだなぁ……」
 しみじみと呟く天子。この世に、私よりも大きいものなんてない。私よりも強いものなんてない。そんな開放感を、控えめな胸いっぱいに味わう。
 そんな天子を、さらに巨大な手が掻っ攫ったのは数秒後のことである。
「わぁ〜! 天子さん、お人形さんみたいです!!」
「っ〜〜〜!?」
 もはや音と呼べるかすらわからない衝撃波を鼓膜に受け、天子は思わず耳を覆う。だが一応、人間の1万倍もの体躯を持つ彼女はどうにかその衝撃波を音として感じ取った。聞き覚えのある声、そう。これは。
「えへへ〜。今年は私の番です!」
 東風谷早苗。守矢神社の巫女にして、天子の良き友人である。少なくとも今に限っては対等の関係ではなさそうだ。なにせ早苗は天子の10倍、つまり人間の10万倍もの体躯を誇る超巨大娘となっていたのだから。街を押しつぶして寝そべるその体は首都近郊を150キロメートル近くにわたって更地と化し、たわわな胸は富士山がいくつ収まるかわからないほどのクレーターを穿つ。天子を、そして街を覗き込む琥珀色の瞳はまるで月のよう。天球を覆い尽くし闇夜を作り出したその中で、これからすることへの期待に爛々と輝いている。やや落ち着いた印象を持つ美麗な顔、その輪郭を縁取って流れ落ちるのは彼女の髪。翡翠のような見事な緑色で、その一本一本が大木のようだった。房ともなればまさに荒ぶる龍のようで、街をなぎ払いうねるようにしてそこにある全てと置き換わってしまう。
「さ、早苗……! ちょ、放しなさい!」
 1万倍サイズの天子が、早苗の手の中でじたばたともがく。その度に降られる巨大な脚から、へばりついていた岩盤が剥がれ落ちて流星を降らせた。先ほどまで、ヒールだけで街を蹂躙していた超巨大娘が、まるで小動物だ。
「やです〜! 去年は散々でしたから、今度は私が好き放題するんですよ〜」
 早苗はべーっと舌を出して天子の要求を断ると、その下でそのまま天子の体をぺろりと舐めた。街をいくつも仕舞い込めるスカートがめくれ上がり、天を分ける柱のような真っ白な脚が露わになる。その付け根に舌を押し込むと、可愛らしい喘ぎ声が世界を揺らした。
「あらあら天子さん、口では拒んでも……ってやつですか。そんな嘘をつく悪いお口はこうしちゃいます!」
 早苗は天子を持っていない左手の方を使って街を削り取り、そして自分の舌先にまぶした。細かな砂のように見えるその一つ一つが高層ビルなどとはにわかには信じがたい。
「っ……!」
 天子は早苗が何をするつもりなのかおよそ分かったらしく、口をつぐんで精一杯首を横に振った。だがそんな抵抗も虚しく、天子の頭は早苗の人差し指と薬指に挟まれて固定されてしまう。そして完全に逃げられなくなった天子の口に、熱く柔らかい早苗の舌がぐいと押し付けられる。天子の唇は最初はそれを拒んだが、それも長続きはしなかった。圧倒的な質量に負けて、天子の顎はいよいよ早苗の舌先を受け入れてしまう。
「ごっ……!! ほっ!! んー!! んーんーっ!!」
 口内に押し込まれる早苗の巨大すぎる舌。もはや唯一自由に動かせる自分の舌をつかって最後の抵抗を試みるも、天子の舌は侵入してきた早苗の舌先にくっついていた高層ビルをぷちぷちと押しつぶすに留まった。
 ビルが小さな天子の舌で潰されてしまう感触を感じ取った早苗は、高まる興奮にさらに舌を押し込んでいく。早苗からすると本当に舌の先っぽしか入っていないような状態であるが、しかし天子の方は湖のような瞳に涙を湛え、ミチミチと顎を押し広げて侵入してくる舌を追い返すので必死だった。
「ふぅ、天子さん可愛いです〜」
 早苗が満足して、しゅぽん、と舌を仕舞う。結局1万倍巨大娘である天子の抵抗は何の意味もなさず、早苗の気がすむまで玩具にされてしまったということだ。
「ぜぇー、はぁー、ぜぇ……後で覚えてなさい」
 天子は口内に残った高層ビルを嚙み潰し、顔を真っ赤に染めて吠えた。
「天子さんに同じことをされるなら本望ですよ?」
 対する早苗はいつも通り。何食わぬ顔でまた舌を出した。その際に天子がびくっと肩をすくめたのを見てにんまりと笑う。そう、今の自分は1万倍の巨人である天子を舌先ひとつで好きにできる。早苗の中にじわりじわりと嗜虐的な優越感が広がっていく。
 早苗は再び天子を足元からべろりと舐め上げた。すべすべの太ももが、とても舌に心地いい。
「っ……ぁっ!」
 早苗が天子の股の間に舌を通すと、やはり甘い喘ぎ声が漏れる。なんだかんだでまんざらではないらしい。それを確かめるために早苗は天子の股に通した舌をぐいと引いた。
「ひぅっ!!」
 暖かくざらついた舌が、唾液でべっとりと湿った下着越しに天子の秘所を激しくこする。高層ビルを何十本飲み込んでも感じることのないであろう天子の女性器はその一撃で愛液を吐き出してしまった。おそらく、ダムの1つや2つ満たせるほどの量だ。だが、そんな大洪水も全て、早苗の舌の上で治まってしまう。
「ふふ、天子さんのじゅーす、美味しいです……」
「ばっ!! このっ、変態! 変態変態!!」
 天子が街をまるごと踏みつぶせるほどのブーツで早苗の舌を踏みつけるも、早苗は涼しい顔。舌を伝って衝撃が地面へと逃れ、そして街が、山が盛大に崩落する。天子ですらこの世界にとっては破滅をもたらす超巨大娘なはずなのに、早苗が大きすぎるのだ。
「変態でもいいですよ〜。だって天子さん可愛いんですもん!」
 早苗は完全にうつ伏せになって顎を地面につけ、そして今度は天子の脚をぱくりと咥え込んだ。ふん、と鼻息を軽くふきかければオーロラのようなスカートが盛大に翻り、真っ白な脚が陽光を浴びて眩しく輝く。そんな天子の美脚を、早苗は麺か何かをすするようにチュルチュルと吸い込んだ。
「ひやっ!! めっ、早苗、だめぇっ!!」
 吸引力に負けて、天子のブーツが早苗の口内で脱げる。それに次いで、お気に入りの下着も。手どころか舌すら使わずに、天子はあっという間に下半身に纏う全てを剥ぎ取られてしまった。慌てて脚を動かしてそれを取り戻そうとするも。
「ごっくん」
 早苗のかわいらしくもあまりに巨大な喉仏が動き、そしてブーツも下着も胃袋の中。もはや取り返すのは不可能。いくらエッチなことをするためと言えど普通ブーツとか飲み込むかなぁ、と天子は思いつつも、それを口にする前に早苗の舌が天子の股間を襲った。
「っ!!」
 内腿全体で感じる早苗の舌。そのこそばゆい感触に、秘所を直接舐められる刺激が重なる。あまりの快感に助けを求めるように伸ばした手は、2000メートル級の山脈を掴み、そしてその山頂を握り潰してしまった。
「あっ、あぁっ、ストップ、止まって……! わた、わたし……ひぅっ! おかしくなっちゃ……ひゃぁう!!」
 だらしなく開かれた口から垂れたよだれが、山の麓にあった街を爆撃して湖を作る。振り乱した髪は荒れ狂い、森を薙ぎ街をすり潰し、あるいは引き裂いた。しかし、どれほど壊しても天子の体を巡る快感はどうすることもできず。
「っだめえぇっ! いくううううっ!!」
 天地を揺るがす大咆哮で全てをなぎ払って、天子は果てた。



後日。
「っは、はぁ……っ」
 ちゅっ、くちゅっ。街をすり潰しながら淫らな音を轟かせているのはかの緑髪の巫女、早苗。熱い吐息で高空に雲を紡ぎ、愛液で湖を穿ち。何千万人もの人間が見上げる中で股を開き胸を丸出しにして羞らいひとつなく自慰にふけっている。その大きさ、実に人間の10万倍。最近のお気に入りのサイズなのだとか。
「天子さん、天子さんっ……あっ……」
 細い声で呼ぶ、友の名前。今はここにいないが、いや、いないからこそ彼女は天子をオカズにして行為に及んでいたようである。
「なぁに? 早苗」
 そんな彼女に、背後から声がかけられた。びくり、と肩をすくめる早苗。別に今更、現場を見られてバツが悪いとかそういうのではない。ただ、早苗には借りがあるだけのことだった。
「て、天子さん……あの、その……」
「覚えてなさい、って言ったわよね?」
 振り向くまでもなく、早苗の超巨大な体を、さらに大きな手が掻っ攫う。
「ひゃぁっ!! や、優しくしてください〜っ!!」
 東風谷早苗、10万倍。比那名居天子、100万倍。幸せな悲鳴が、大空に轟き渡った。