迷い家。どこにもなく、どこにでもある特異な空間。そんな迷い家にもやはり冬は来る。落葉し終え
た木々の枝には雪が積もり、時折吹き抜ける風は枝を揺らしてぼとぼとと雪を落としていく。粉雪が
はらはらと舞いおりて、薄氷の池を覆ってた。
 うっすらと曇った窓ガラスから、暖かそうな室内の様子がうかがえた。腰のあたりまである蒼い髪が
特徴的な少女と、金髪のお姉さんが炬燵に足を突っ込んで将棋を打っている。
「このシリーズには巨大化が足りない。そして尻が足りない」
がたっ! 突然立ち上がる紫。炬燵の上の将棋盤がひっくり返り、そこに並べてあった駒がじゃらじゃ
らと零れ落ちた。
「はぁ? 何いきなりメタ発言してんのよ」
将棋を指していた相手、比那名居天子が怪訝そうに尋ねる。手にはたった今打とうとしていた金将。
持ち駒を見るに、いいところまで詰めていたらしい。
「やっとリク消化したからそのスキマにちょっとやりたいことをやっておきたいな~って」
将棋盤を戻し、そして元通りに駒を並べて行く紫。彼女ほどの頭脳の持ち主となると、それぐらいは
容易いようだ。
「そんなこと考えながら指してたわけ? 道理でいつもより弱いと思ったわ……」
「ごめんなさいね、やりたいことも決まったし今から本気だすわ」
今更本気を出したところで勝敗なんてもうついたようなもの……と天子は思っていた。だがしかし、将
棋と言うゲームが生まれた時からその歩みを見守ってきた大賢者は格が違った。天子の駒を次々と
奪い、あっという間に形勢を逆転。それから10分もしないうちに勝利してしまったのだった。
「あ~! 悔しい! あれなら絶対勝てると思ったのに」
天子は後ろにばたりと倒れ込み、そして頭に手をやった。炬燵に長時間入っていたせいか頭に血が
上って熱くなっている。
「ってことで、天子ちゃん。ちょっと行って来て頂戴」
「ちょ、どういう事よ。意味が分からないんですけ」
ど……。そう言おうとした時には、天子の体は既にスキマの中に落ちていた。





「……ちょっと、紫。ものっすごく寒いんですけど。なんでよりにもよって超がつくほどのミニスカートな
のよ!」
比那名居天子は、寒さに耐えかねて紫に愚痴った。なんでも、紫が”今回はお尻を使うからやっぱり
ミニじゃないと”などと言って強引に穿きかえさせたらしい。
「はいはい、今回は短く済ませるからさっさと場所を探して巨大化してちょうだい」
紫は寒さでぴったりとくっついてくる天子の髪を撫でて、そして引きはがした。当の紫は厚手のコート
にマフラーにと、完全武装なのだが。
「うぅ……分かったわよ。いってくるわ」
天子自身、大きくなること自体は嫌ではなかった。むしろ、楽しみであった。最後に巨大化したのは、
早苗さんの現代入りの時だったので相当前になるのだが……。紫を離れて、そして駅前のバス乗り
場を歩く。この寒さの中で半そでミニスカートと言う服装に好奇の視線や、特にお尻のあたりに嫌らし
い視線を感じた。天子は、スカートが風か何かでめくれあがっちゃってるんじゃないだろうか、などと
心配になったが、よく考えたらこれから皆に見せ付けることになる下着だったことに気がついた。
「ここらへんでいいかしらね」
彼女が立ち止ったのは、島式の停留所。バスが1台止まっていて、既に乗客が中に何人か乗ってい
るのが覗えた。寒さにかじかむ手を、息で温める。はぁ~っ。白い煙が手の間から洩れ、そして消え
ていく。せっかくだし最後には、この息ひとつで街が吹き飛ぶぐらい大きくなってやろう。天子はそう
思った。
「でもまぁ最初は……」
大きくなぁれ、少しだけ。目を閉じてそう念じる。今日の現代入りは特別だった。紫から、能力の境界
を操ってもらって”物体の大きさを好きに変えることが出来る程度の能力”を得ているのだ。ぐ……ぐ
ぐぐ……。自分の体が、変化しているのが分かる。がたん! 背後で、停留所の椅子が倒れた音が
した。彼女の巨大化した足がぶつかったのだろう。
 目を開けると、バスの天井が見えた。車体の高さは、天子の腰のあたりまでしかない。
「7メートル、ってところかしらね?」
天子は周囲を見回して自分の大きさを概算する。人間の4倍前後と言ったところだろうか。あちこち
から悲鳴が聞こえる。すぐ近くで聞こえた悲鳴に見降ろせば、足下でスーツを着たおじさんが腰を抜
かしてすっ転んでいた。
「あ、おじさん私のパンツ見たでしょ」
天子が、にっこりと笑ってそのおじさんを跨ぐように仁王立ちになると、サラリーマン風のそのおじさん
はおじさんとは思えない俊敏さで立ち上がり一目散に駆けだした。
「別に、もっと見てくれてもいいんですよ?」
くすくす。天子はその慌てた様子があまりにも面白かったため後を追うことにした。すっと足を出せば
その歩幅は人間の4倍。追いつくことは容易だった。ブーツが踏み出すたびに、小さな地鳴りを伴っ
て敷かれたタイルにひびが入る。
 駅前は騒然となった。突然、ミニスカートの巨大少女が出現したのだからそれはそうもなる。その大
きさはたったの7メートル、されど7メートル。少女は一人のサラリーマン風の男を追いかけていた。
それも、わざとゆっくり歩いてその後ろをつけていく。
「たたた、助けてくれぇ!!」
その男が、コンビニに逃げ込もうとしたため、天子はその男を横ざまに蹴っ飛ばした。4メートル近い
長さの足が生み出すキックは、それこそ自動車事故に相当するものがあった。男はその衝撃で思
いっきり吹き飛び、ぼろ雑巾みたいに転がった。
「あ、動かなくなっちゃった」
と、天子は自分の足に何かが組み付いてきたのを感じた。見降ろしてみればそこには、いかにも屈
強そうで正義感の強そうな男。足の甲に乗っかり、ブーツから出ている脛に向かってパンチやハイ
キックを次々に繰り出している。が、まるで何も感じない。
「あのね~、女の子の足に許可もなく触るなんて失礼よ」
ブン! 天子は足を振り上げた。足の上に乗っかっていたその男は文字通り打ち上げられ、電車の
橋桁に頭をぶつけて落っこちてきた。当然、もうぴくりとも動くことは無い。
「クスッ……弱いわねぇ、たった7メートルの女の子にも勝てない訳?」
ドMとドSは表裏一体。天子はその裏の顔であるドSな表情を浮かべ、動かなくなった男をさらに踏み
つけた。その足は、人間の上半身をほぼ覆い尽くせるほどの大きさ。メリメリ……バキバキ。靴の下
で人体が潰れていく感触。4倍と言う事は、その体重は4の3条倍。おおまかに計算しても2.5トンにな
る。その体重をかけられ、足でぐりぐりされたのでは人間の体など到底待たない。
「あれ……? あんだけいた人がどこかに消えちゃった」
天子は、下半身だけになった人間の死体を放置し、わざと歩きまわって見せた。ずしっ、ずしっ。重た
い足音が駅前の静寂にこだまする。
「もうちょっと大きくなっちゃおうかな~」
天子はぐいっと伸びをする。すると、彼女の体が再び膨れ上がり、コンビニその他駅前の建物の中に
逃げ込んでいた人間達を震え上がらせた。
「う~ん、これで25メートルぐらい?」
彼女は電車の高架に腰かけた。ぐしゃっ……。何かがお尻の下で潰れる感触。きっと電車だろう。ア
ルミニウム製の車体はいとも簡単に少女の尻の下で潰れてしまった。
 高架の下にあるコンビニの中に逃げ込んだ人々は震え上がっていた。20倍近い少女の巨大な両足
が、丁寧にもきっちり揃えられているのがガラス張りの壁面から見える。つまり、少女はこの上にある
高架に腰かけているのだ。いつ潰れてもおかしくない。けれど、逃げようにも店の入り口は巨大な
ブーツが塞いでしまっている!
「さて、店の中の皆さんに問題です」
巨大な体に相応しい巨大な声が、店の天井を震わせて降ってくる。
「私は今全体重をかけているわけではありません。私が全体重をかけてこの高架に座った時、はたし
て貴方達はどうなるでしょうか」
嘲笑うような笑みが漏れ聞こえてくる。いよいよ店内はパニックとなった。泣き喚くもの、一心に祈りを
ささげるもの、ただ茫然と立ち尽くすもの。みしみし、めきめき……コンクリートの立てる悲鳴がだんだ
んと大きくなり、答えが近付いてくる。
「正解は……」
天子はそこで、尻に重心を置いた。するとその瞬間、高架はまるで砂でできた作りものみたいに呆気
なく崩れ、天子は予想以上の手応えのなさに思いっきり尻もちをつく結果になった。
 ズドオオォォン! 彼女の尻は高架をぶち抜き、そしてその下にあったコンビニの屋根に圧し掛かり
……何の抵抗も感じることなく押しつぶした。
「はい、ご覧のとおりで~す」
もちろん、当事者たちは生きてなどいない訳だが。今頃天子の尻にへばりついて赤いシミになってい
ると思われる。
「さて、今日はお気に入りの下着だしもっと見せびらかしに行っちゃおうかな~」
ずん、ずん。両膝を立て、そして手をついて立ち上がろうとした。その時に無作為についた手が、なに
やら脆いものをバキバキと押しつぶしたのを感じた。どうやらたまたまそこにあった自動車を直撃し、
天井を潰してしまったらしい。
「あら、ごめんなさい。けど、まだまだ私は小さい方なんだよ」
天子はその車を掴みあげようとした。しかしまだ、片手で掴むには若干大きすぎる。大きくなぁれ。心
の中で念じると、天子の体は今の2倍、50メートルにまで巨大化した。その過程で、彼女が座っていた
駅は完全にお尻の下に敷き潰され、そして立てていた膝でさえ道路を挟んだ向かいのマンションより
も高くなった。巨大化した足が、マンションの入り口に突っ込み、そしてその壁をなんなく突き崩す。
「うん、これぐらいなら楽に持てるね」
彼女にとって10センチ前後になった車を持ち上げ、そして両手で雑巾を絞る様にねじった。車はまる
で飴細工のようにぐにゃりと変形し、そして投げ捨てられた先で火を吹いて燃え上がった。
「さて、精一杯暴れるわよ~!」
ずずず……。地響きを立てて立ち上がった少女。その少女の膝に届く建物はそれなりにあったが、腰
まで届くようなものは辺りを見回しても存在しなかった。
 ずしん! まずは最初の一歩で、手前にあった4階建てのマンションを踏み潰す。どぉん、と言う衝
撃音と共に天子のブーツは屋上を突き破り、そして1階まで貫通する。高さ12メートル。足をあげれば
普通に踏みつぶせてしまうほど、天子は十分に大きくなっていた。50メートルの巨大娘は小さいよう
で大きい。そのまま、もう一歩踏み出す。今度は3階建て。同じようにして足をあげ、膝にも満たない
小さなアパートの中央に踏み入れる。アパートはそれによって二分されただけに留まったが、あえて
天子は深追いはしなかった。あとでこの都市ごと、いや、この国全体ごと潰してやるつもりだった
から。
 足を高くあげ、お気に入りの桃色の下着を見せびらかすように歩く天子。その足元では、彼女の膝
にも及ばないマンションやアパートが次々に踏みつぶされて白煙黒煙色々巻き上げ崩れていく。
「えい!」
ズドオォン! ブーツの下で家が潰れていく感触が何とも言えず心地よい。
「ん?」
一台の車が、こちらに向かって走ってきた。気でも狂ったのだろうか。それとも爆弾でも積んであっ
て、自爆特攻ということなのか。天子は道幅をいっぱいに覆ってしまうほどの足の踵を浮かせあえて
その車を待った。そして、その車が天子の踵を通り過ぎようとしたところで、思いっきり踏みつけた。
「ふふ……通り抜けられるとでもおもった?」
残酷な笑みを浮かべ、ぐりぐりと車を踏みにじる天子。彼女が足をあげたその足跡の中には、かつて
それが何であったかも分からない鉄塊があった。
 暫く天子は50メートルのままで住宅街踏みつぶしを楽しんでいたのだが、膝まであるような高さのも
のも多く足を高く持ち上げるのに疲れてきた。
「そろそろ大きさを変えよう」
天子は大きくなぁれ、と念じながら伸びをする。全身を貫く快感に似た何か。ずずず……ガラガラ。彼
女は彼女の足が道路をはみ出し、両側にあった建物を巻き込んで巨大化する音を聞いた。
「160メートル。大体100倍ね」
そして足元の建物を蹴散らし踏み潰しながら、自分が通ってきた道を振り返った。今の自分からすれ
ば、小さな足跡が、住宅街を踏み荒らしてあちこちに点在している。中には崩れ去らずに中心を踏み
ぬかれているのみのものもあった。
「50メートルで結構大きくなったつもりだったけど、やっぱり巨大娘ってのはこれぐらいじゃないとね」
一歩踏み出す。足の下にマンションが収まってしまう大きさ。それどころかそれに隣接する建物でさ
えも振動と爆風に被害を受ける。砂煙が舞い上がり、住宅街を逃げ道を探して渦巻く。その様子はど
ことなく、爆薬による発破に似ていた。だが、発破なんかとは比べ物にならない破壊力を彼女はもっ
ていた。なにせその足の下に敷かれたものは崩れるどころか粉々に粉砕され、圧搾されて巨大な足
跡の底にまで沈下させられるのだ。50メートルの時は若干崩す行為に近かったが、今の彼女は完全
に踏みつぶすことが出来る。そう、足首にも満たない小さな住宅や、ふくらはぎにすら届かない5階建
てのマンションなどを何の苦もなく。
 彼女は来た道を戻った。さっきとは歩幅が全く違うため、戻るのは一瞬。踏み潰す場所も、その分
ずれる。故に来た道を戻ったはずなのに被害はそれ以上に拡大したように思えた。駅前につくと、自
分がつけた小さな小さな足跡がついていた。それを見て思わずふっと噴き出す。7メートルの巨人が
つけた足跡はあまりに小さかった。けれど、人間はそんな小さな少女にですら敵わないのだ。
「あ、電車!」
25メートルに巨大化した時だったか。あの電車を尻の下に敷いたのは。4両目と5両目が半分ぐらい
づつ犠牲となっているが、その他の部分は無事である。その時はまだ、手に取るにも大きいもので
あったが、今はその電車があることに最適な大きさになっていた。
「う~ん、さいきんやってなかったし……やっちゃおうかな」
もじもじ。股間に手をやり、そして顔を赤らめ恥じらう天子。別に小人に見られることは何ともないの
だけど。彼女は思案する。紫のことだから、きっと今のこの状態を何らかの形で記録しているのは間
違いない。覗かれてるだけならまだいいのだが、記録に残るとなると若干の躊躇と羞恥心が生まれ
るのである。
「え~と、どうしようか……やっぱり恥ずかしいことはやめておこうかなぁ……ですって」
そんな彼女を地上から見上げていた妖怪が呟いた。淡い紫色の髪に、ハート形の髪飾り。どことなく
幼稚園児っぽさを感じさせる服装ながら、大人びて落ち着いた顔立ち。そしてスリッパ。胸元には、彼
女の能力の所以たる第三の目。幻想郷の旧地獄管理者にして地霊殿の主、古明地さとり。心を読む
程度の能力を持った妖怪、人呼んで小五ロリとかネタばれクイーンとか。
「あらあら、天子ちゃんったら……。大丈夫よ、記録は個人的に楽しむだけだから」
 その隣には、八雲紫。古明地姉妹に事前のあいさつに行ったら、それがどんなものかを見てみたい
と妹の方が言うので2人とも連れてきた次第であった。
「ふふ~ん。もぅ、無意識の欲求に逆らうとストレスがたまるよ~?」
 八雲紫の右隣、もう一人少女がいた。古明地こいし。さとりと同じ血を分けているはずなのだが、の
色は淡いライム。天子のものにも似た黒い帽子に、さとりの服の色を反転させたような服装。胸元に
は閉じた第三の瞳。無意識を操る程度の能力を持つ少女だった。
「そうよね、こいしちゃん。やっちゃっていいわよ」
紫が、彼女に許可を降ろした。さっきから、天子の無意識を操ってみたくてみたくて仕方が無かったら
しい。
「えっへへ~。じゃぁ、いくよ? 本能『イドの開放』っと!」
こいしが、その能力を発動したその瞬間。身長160メートルの巨大娘がよろめいた。無敵とすら思える
巨大娘にも精神攻撃は通用するらしい。
「――っ!!」
天子は、心の中に何者かが侵入してきたことに気がついた。慌てて気を集め、それが何者なのかを
探ろうとした。だが、心の中に張り巡らせた気の糸はその何れも侵入者を捉えるには至らなかった。
ならばせめて締め出せないか……そう思った瞬間には心の中に入ってきた何者かは既にどこかへ
行ってしまっていた。けれど、それと同時に天子は突き上げるように沸き上がってくる性欲を感じ、そ
んなことはどうでもよくなっていた。
「……うん、もう我慢できないや。やっちゃお」
ロングスカートのようにめくりあげる手間が無いのも手伝って、するするとパンツを降ろす天子。こい
しの潜入ミッションはどうやら成功したらしい。
「ふぅ……危ない危ない。まさか気付かれるなんて思わなかったよ~」
 こいしはニコニコと笑って天子を見上げる。桃色のパンツがゆっくりと降りてくるところであった。とそ
んな様子を面白そうに見上げているこいしの真上に……ずっしん! パンツから足を抜く、そのため
に脱ぎ捨てられたブーツが降って来た。
「うわ、危なっ!」
3人はぎりぎりの所でそのブーツを回避し、そして200メートルほど離れた場所にある郵便局の屋上に
再び集まった。低いところから巨大娘を観賞するのは危険である。
 その頃には、天子は対象となった哀れな電車を持ち上げてしゃぶっているところであった。一両一
億円以上する列車の車体が、少女の紅色の唇の間に挟まれ出し入れされている。そろそろ良いだろ
うと判断したか、彼女は駅前広場全体をお尻の下に敷き潰して座り込み無造作に足を投げ出した。
その足は高架を砕き、そしてその向こうにあった商店街の建物をバキバキと破壊し押し進む。
「ん……んん」
入口に電車をぴとりと当て、そしてすりつけるように縦に動かす。久々だったが故に、天子は必要以
上にその感触を敏感にとらえ身をよじった。ついた左手がアスファルトの路面に巨大な手形を残す。
既に頬は火照り、これから期待される快感にあらくなる息遣い。ゆっくり、ゆっくりと電車の車体が天
子の秘所に沈み込んでいく。
「あっ……あん……角ばって……でこぼこしてて気持ちイイよぉ……」
ずぶずぶ……電車がほとんどその中に沈みきったところで、今度はそれを引き抜く。そしてまた入れ
る。その度に彼女が足を動かして快感に悶えるため、その周囲は惨憺たる状況に見舞われた。綺麗
で形の良い足が、3階建て程度の建物を次々に粉砕し、ふくらはぎはそれらを粉々にすり潰し。そん
な事態にも関わらず、当の本人はまるで気にせず自慰にふけっている。
「ん……ん……んぁ……あぁ……」
一帯に轟くような声で喘ぎ声をあげる天子。その様子はとても色っぽく魅力的だったが、それに魅せ
られて近付こうものならば快感に身をよじる彼女に押しつぶされてしまうだろう。
「ふぇ?」
ぼーっと薄眼をあけて、手を止める彼女。彼女自身が、その体に起こっている異変に気付いたのはこ 
の時であった。なんだかさっきよりも街が一回り小さくなっている。なにより、膣内に入れている電車   
が小さくなってしまって、快感が思うように得られなくなったために気付いたのだが。
「うそ……快感で能力が制御できなくなってるのかな」
天子は半分ほどの大きさになってしまった電車を見て考えた。十分在り得ることである。たとえば
幽々子と一緒に紫が巨大化した時なんかはそうだったっけ、と。
「うぅ……こんなんじゃ不完全燃焼じゃない」
列車を膣内に突っ込み、そしてぎゅっと締めつける。膣の中で、列車はあまりにも簡単にくしゃっと潰
れてしまった。だがその感触が何とも言えず、最初は座らないと壊せなかった電車が膣で締めただけ
で潰せるようになったんだなぁと思うとなんだか興奮した。すると、天子の体が再び巨大化した。周囲
の家々をブルドーザーのようにして破壊しながら彼女の体が死の空間を押し広げる。
「……いいもん。もっとおっきいもの探すし」
天子は立ち上がった。すべすべしたお尻や太腿にくっついたアスファルトや鉄の残骸がばらばらと零
れ落ち、地面に突き刺さる。彼女の尻があった場所は、まるで巨大なクレーターのように陥没してい
た。
 身長500メートル、と言ったところだろうか。メガサイズとギガサイズの境界線の少女は、地響きを立
て煙や火災を巻き起こしながら都心へと向かった。



 都心。摩天楼の林立するこの場所へ、規則的な地震が迫っていた。やがてそれは地響きを伴うよう
になり、霞んだ空気の層を幾つも通り抜けて段々と現実味を帯びてきた。
「ふふ……良さそうなのがいっぱいあるじゃない」
天子はビル群を見降ろして笑った。高い物でも自分の腰にさえ届かない。けれど、その高さが丁度良
かったので彼女はビル群の端っこの方に腰かけてみた。脱いだパンツはサイズが合わなくなってし
まったので、当然生尻である。
 1秒と持たないのはよく知っていた。だがあえて、それを試してみたかった。自分のお尻の下で、巨
大な建造物が潰れていく、そんな様子を想像しただけで興奮するのだった。
 ずしっ……天子の尻がビルに圧し掛かる。まだまだ全然体重をかけていない状態だったが、ビルは
既にみしみしと悲鳴をあげていた。強力な圧力で窓ガラスが甲高い悲鳴をあげて割れ落ちていく。
「よっこらしょっと……」
わざと声を入れて、その中にいる人間達の恐怖心を煽る。すると、さっきから聞こえていた悲鳴が一
段と大きくなり、天子をより一層興奮させた。そして一瞬遅れて体重をかける。ビルは最初上部が一
部的に破損し、そして基部が本格的に崩壊をはじめる。天子の尻とビルの上部は自由落下にも似た
速度での崩壊によって一時的に重力から解き放たれた。しかしそれも束の間。重力加速度9.8が作り
出す崩壊は思いの外スピードが速く、数瞬後にはビルの上部も天子の尻と地面の間に挟まれて
粉々に砕かれることとなった。
「あぁ……イィよ……ゾクゾクする。もっと悲鳴をあげて、私を悦ばせてよ」
恍惚、そして嘲りの入り混じった笑みを浮かべ、見下すような目で自分から離れようとする小人たち
を一瞥する天子。普段がドMの分、スイッチが入るとこうなるようだ。ビルをアソコで飲み込むにはこ
の体は少々小さすぎると思った彼女は、ビル街に向き直りわざとゆっくり体を大きくしていく。
「私、大きいでしょう? けど、これからもっともっとおっきくなってあなたたち全員私のナカに挿れて
ア・ゲ・ル・ネ……ふふっ」
ずずずずず……地鳴りを伴って巨大化する天子。ゆっくりとは言えど、その速度は到底人間の足で
逃げ切れるものではなく、また巨大化する足がビルの基部にめり込み、そしてバランスを崩して崩壊
させるものだから逃げ道もない。不運にも天子の足の近くにいた人々は崩れゆくビルの瓦礫に巻き
込まれるか、天子の足に押しつぶされるかの二択しか与えられていなかった。
「さて、これぐらいかしらね」
天子は丁度人間の1,000倍の大きさで巨大化を止め、手頃なビルを1本引き抜いた。M字に開脚し
て、ビルを股間に持って行く。
「ん……うぅん……電車の方が気持ち良かったかもしれない」
ずぷぷ……。まだ沢山人間の詰まっている120メートル程度のビルが、少女の秘所に沈み込んでい
く。ここまで規模が大きくなると、ただそれだけの行為にも揺れが伴い周囲の大気は激しく震撼する。
彼女も不満は述べたものの、それでもやはり快感は感じるようで体は小さな雑居ビルを押しつぶしな
がら巨大化を始めていた。
「ん……いっ……あぁ」
天子の喘ぎ声が窓ガラスを叩き割り、逃げようとする人々を容赦なくノックアウトする。その吐息は空
に新しい雲を作り、気流をかき乱して渦を巻いた。やがて自慰に使っているビルが小さくなってしまう
と、天子はまた膣を締めてそれを押しつぶした。今度は電車の時よりもずっと気持がよかった。細か
く砕けるというのもあっただろうが、なによりその中に生命の気配があるのとないのとでは大分違う。
今、自分の膣の中では幾百もの命が散ったのだ。皮肉にも、命が生まれおちる場所で。
「あはは! 潰れちゃった。それじゃぁ、さっき言った通り街全部私のナカに挿れてあげる」
ぐいっ。伸びをする。さっきまでとは比べ物にならないほどの巨大化速度。たちまちビル群は天子の
脚の間に収められ、そしてそれでもまだ止まらない巨大化。巨大化しつつ、彼女は街の上に四つん
這いになる。そしてその大きさや実に一万倍と言ったところか。さっきビルを股間に挿入していた自身
を挿入できるほどの大きさ。
「じゃぁ、いくよ~?」
天子は慎重に位置を合わせ、人差し指と薬指で陰唇を広げて腰を落としていく。微かな出っ張りが地
面から沢山生えているのが、膣の内側で感じ取れた。
「ひゃうん!」
天子はその繊細な感覚に思わず悲鳴を洩らし、一気に力を抜いてしまった。ズドオォォォォン! 音と
も認識できないほどの衝撃波と壊滅的な大揺れを伴って天子の体が地面にぶつかり、そしてそのエ
ネルギーは地表をまるで小麦粉か何かのように舞いあがらせた。
「あ……」
その一瞬で、天子は自分の膣の中にあったものが跡型もなく粉砕されてしまったことに気がついた。
「うぅ……脆いよぉ。脆すぎるよぉ」
せっかく気持ちがいいものを見つけたのに。もちろんビル群が脆すぎるのではなく天子が巨大すぎる
のだが。
 天子は周囲を見回し、なにか自分に快感を与えてくれるものは無いかを探した。すると目に入った
のは山脈。身長16kmの少女は立ち上がり、そして山脈へ歩み寄った。たったの2歩だった。その間
にあった街は超大質量の天子の脚が超音速で通過したことによる衝撃波でもれなく壊滅し、彼女の
移動に引っ張られた大気は竜巻となって大地を引っ搔く。もはや天災の化身と言うより、天災を起こ
してなおそれすら何とも思っていない。
「あなたなら私を気持ちよくできるわよね?」
天子は山脈を跨いで膝立ちになり、そして這いつくばって腰を降ろしていく。山脈は天子の陰部に当
たると、意外と簡単に形を変えてしまった。だが、ビルと違うのはしっかり中身が詰まっているという
事。少なくともそれらよりは崩れにくい。天子はそのまま山脈の一部を陰部に納め、そして体を前後
に動かし始めた。
「んっ……あっ……これイイ」
ずにっ……ずずっ……。天子の膣が嫌らしい音を立てて愛液を滴らせ山脈を擦る。すると山脈は崩
れることこそなかったが段々と削れていった。天子が満足するのと、山脈が摩耗して無くなってしまう
のと、どちらが早いかなんて分かりきったようなものだった。さらに天子は快感に溺れて能力の制御が
出来ず、どんどん巨大化していく。
「う……また大きくなっちゃった」
山脈を完全に感じられなくなった時、彼女の身長は実に300kmにも及んでいた。彼女の膣は既に最
初の山脈を全て削りつくし、巨大化につれて他の山脈を飲み込み消費していたのだ。
 仕方が無く手をついて立ち上がろうとすると、地殻がブチ抜けてしまいその下から溶岩が沸き上
がってくる。
「しまった……大きくなりすぎるとこうなるのか」
慌てて溶岩から手を引っこ抜いたが別段熱さは感じなかった。それもそのはず、その程度で熱さを感
じるようでは移動の際の空気との摩擦で既にぼろぼろの筈である。とにかく反作用をかける場所が
無いため、どうしたものかと天子は考えた。




 宇宙空間。有害な宇宙線が嵐のように吹き荒れ、絶対零度と究極の無があらゆる生命を拒む場
所。そこに比那名居天子はいた。本来ならば生命の存在できない空間ながら、彼女はその巨大さが
故の恒常性によって生命活動を維持していた。彼女の股間のあたりを漂っている蒼い球体は地球。
天子の巨大化倍率から考えるに数日以上は息をせずとも暮らしていけるだろう。
 天子の秘所は今やこの星を丸ごと飲み込めてしまうほどの大きさだったし、もとより彼女はそのつ
もりであった。何もしなくても、天子自身の膨大な質量によって発生する重力に地球は引き寄せられ
ていく。触れればそれだけで壊れてしまう脆く美しい球体は、2本の超巨大な指によって開かれた天
子の秘所に吸い込まれるように入って行く。彼女の重力の中心、すなわち質量の重心に向かってそ
のまま膣の中を進んでいく。
「ん……」
天子は中に入ってくるものの存在感の大きさに思わず声を漏らした。声は彼女にとっては少量の、し
かし人間にとってはあまりに多量の排気を伴い、その息は星間ガスとして彼女の口元を漂った。
 そっと、その星を締めつける。地球は天子の膣内で押さえつけられて停止したが、海や重力方向の
近くは一足先に剥がれおちて天子の胎内へと落ちて行った。
 そして、天子は自分の膣の中に自分の指を入れた。すこしもったいないような気がしたが、指で地
球を突き崩し、そして地球の残骸を自分の膣の中でくちゅくちゅと弄んだ。真空中が故にその音が聞
こえるのは天子だけな訳だが、天子以外に客体がいないためそれで良かった。
 あまり大きくない、しかし地球よりも遥かに大きい胸を揉みしだき、股間を激しくまさぐる天子。これ
では部屋で一人エッチしているのとあまり変わらない。形ばかりは。違うのは、命の星たる地球が自
分の中に入ってしまっていること。
「っ……あぁぁぁ!」
どばぁ! 宇宙空間に、球状になった愛液が吐き出され、そして天子自身の重力によって彼女の体
にまとわりつく。その中には当然、かつて地球だった岩石がいくつも混じっていた。
「ふぅ……これでよし」
天子は乱れたスカートをただし、目の前に開かれたスキマの中に身を委ねた。彼女の体をスキマが
飲み込み、そして閉じた後。全てが無かったことになり、漆黒の宇宙に青く美しい星がぽつりと一つ
漂っていた。