幻想郷。湖畔。霧に覆われた湖はここが他よりもずっと気温が低いらしいことを窺がわせる。それ
は水の持つ自然の気質か、はたまた何らかの力によるものなのか。白に覆われた空間は、波の音を
静かに孕んで揺れていた。
「あたいったらサイキョーね!」
霧の中に、うっすらと人の影が現れる。その影は等身から察するにまだ子供。
「あはは、チルノちゃんったら! 弱い者いじめはダメよ、ほら、水に返してあげよう」
もう一つの影が、うっすらと、霧の中に浮かび上がる。ぴょこぴょこと、サイドテールにまとめた髪が揺
れる様がぼやけながらも確かに見えた。
「や~だ! もっと遊ぶ!」
ぱっ! 霧を切って、一人の少女がそのあいまいな境界を飛びだしてきた。髪の色は透き通るような
水色。まるで、その一本ずつが氷でできているかのような繊細さと、艶を持っていた。服はやはり蒼。
袖を切り落とした質素なワンピースで、その下からは白のブラウスが覗く。手の中には、氷漬けに
なったカエルが1匹、収まっていた。
「そう、貴方のそういうところ。無邪気で純情で、そして残酷。そこをもっと見せてほしいの」
なんの気配も感じなかった。ほんの一瞬前まで。霧の境界に佇む青髪の少女は戸惑うように辺りを
見回す。
 霧が、凝固した。そしてその中から、無数の目がぎょろりとこちらを見据える。それは、スキマの中
に具現化された世間の目。そして、一歩踏み出す足は見覚えのあるドレス。
「なんだぁ、紫かぁ。また何かわけのわからないことを言いに来たの?」
普通の人間であらば、背筋が凍りついて動けなくなっていたかもわからない。しかし彼女は違った。
妖怪の賢者とて、転生を繰り返す妖精にとっては別にどうという事はない。殺されたところで1回休み
になるだけである。
「よく覚えていたわね。けれどそう、別に今日はそんなことをしに来たわけではない」
大妖怪、八雲紫は霧に向かって扇を一打ちした。すると、そこに立ちこめていた霧は晴れ、陽光を受
けてきらめく湖面が現れる。そこにいた、少女も。
「貴方達、一緒にいらっしゃい。もうお仲間は向こうについているわよ」





「えっと、リグルにまず一つ、私から言わせてちょうだい」
腰のあたりまである蒼い髪。桃の乗ったバーミヤンな帽子。毎度おなじみ比名那居天子が、緑色の
ショートヘアの少女に言う。
「は、はい……」
リグル・ナイトバグ。虫を操る程度の能力を持った、ごk……ホタルの妖怪。蟲の女王である。
「蟲を呼びだして遊ぼうとかはしないでね。多分、巨大化してから呼ぶとアレがくるから」
ラスボスである天子に詰め寄られて、1面ボスであるリグルは委縮する。圧倒的なカリスマ差。
「あれってなんなのさ?」
それを聞いていた赤みがかった茶髪のセミロングが首を傾げる。その容姿は可憐な少女であった
が、容姿以上に特筆すべきは彼女の良く通るソプラノの声。茶色のワンピース、茶色の帽子と地味な
姿をしてはいるものの、その声だけはまがいもない歌姫のもの。背中から羽根が生えているのは、幻
想郷ではよくあること。彼女の名、ミスティア・ローレライ。夜雀という妖怪なんだそうだ。
「そりゃもう……どこぞの有名監督の作ったアニメ作品のあれよ。あれ。でっかい芋虫!」
天子はあえてその名を言及するのは避けたのだが。
「あぁ、風の谷の……」
「しーっ! いい? 分かった? とにかく昆虫はアウトなの。私的にも、版権的にも、それから読者の
皆さん的にも、蟲なんて求めてないわ」
その昆虫の女王が私なんですが、とリグルは苦笑した。
「そーなのかー」
そう言って相槌なのか何なのかを打つ少女がさらに隣にもう一人。金髪のセミロングに、赤いリボン
が良く映える。黒のワンピース、白のブラウス。顔はまだ幼さの残る少女のものだが、彼女はこう見
えて人食い妖怪なんだとか。その割に人間狩はそんなに得意ではないのだとか。名前はルーミア。
暗闇を操る程度の能力を持っていて、彼女の周りは常に球形の暗黒空間が覆っているのだが今日
はそれでは困るのでその能力はお預け。
「……あんたはそれしか言えないのかしら?」
天子はその紅玉のような赤い瞳で、金髪の妖怪少女のガーネットのような紅の瞳を覗き込む。
「そーでもないよ?」
ルーミアは首を傾げて答える。その、あまりの威厳のなさに天子はルーミア以上に首を傾げたくな
る。本来闇を操る能力と言うのは、使用者本人に強力な意思がなければ闇に呑まれてしまう。特に
その存在が闇に帰属する妖怪は、むやみにこの能力に手を出せば闇に還って消滅してしまう。どう
にも、今目の前に佇む14歳前後にしか見えない小娘がそんな強力な自我を持っているとは思えない
のである。
「あ~あ! もう。バカってのは何考えてるか分からないから怖いのよね」
天子はそう言って残りの二人を見やった。害のなさそうな顔で談笑する彼女ら。はたして巨大化した
時どんな人格になるのやら。天子はこの間の輝夜の件で若干、意図的に狙われることに関して危機
感を覚えていた。それが故に、突然彼女らがドSに目覚めたりしたらと思うのである。
「ふふ……そうね。けれどなんとかとハサミは使いようよ。ね、てんこちゃん」
背後で空間が裂け、そこから八雲紫と、2人の少女が現れる。一人は青髪のあの少女。そしてもう一
人は、緑色の髪をサイドポニーで結った、少し弱気そうな少女だった。青髪の方は氷の羽根を、そし
て緑のほうは金色の淵を持った白い羽をそれぞれ背中に有している。
「失礼な。私はこれでも天人よ。地上の人間よりは知識はあるわ。天人の中では……まぁお察し下さ
い」
天子は不満を垂れ、そしてその2人の少女を見た。まぁ、輝夜ほどキツいのはいなさそうだ。なにせ前
回の輝夜は元が怪力だったし。
「さて、それでは早速全員巨大化させるわよ~!」
「ちょ、ま!」
天子が慌ててその場から離れると、巨大化に伴う破壊音が早々に聞こえてくる。振り返れば、あっと
いう間に家よりも大きくなった少女達の足がバキバキと住宅を押しのけて巨大化していくところであっ
た。
「って……おい! 服は巨大化しないんかーい!」
天子は思わず彼女らを見て突っ込んだ。それも、巨大化しないのは服と認識される部分……つまり
は下着はバッチリ巨大化している点に紫の作為を感じる。っていうかチルノはドロワではなかったの
かと。今日はバッチリ白いパンツであるが。
「あぁ、それはね……こっちの方が可愛い! って煽てて履かせたのよ」
紫が天子の隣にふっと現れて答えた。服が巨大化しなかったことに関してはどうやらノータッチらし
い。
「はぁ……ドロワには夢が詰まってる~って、そっちが好きな人から怒られるわよ」
天子はそう言って飛翔する。今日はにとりも魔理沙もお休みのようで、撮影者は彼女と紫だけだっ
た。しかし相手は5人……馬鹿とはいえどあの大きさではなかなかに苦労させられそうである。
「あ~、もうあそこに見えるビルが膝にも届かない……って、5人をあの大きさに!?」
天子は10階建てのマンションの屋上に降り立ち、その目を疑う。むしろ紫の心性を疑う。彼女らの大
きさ、実に1.5キロ。それが5人。もう、視界は全部バカルテッド。下着姿のバカルテッド。見る人が
見れば幸せかもしれないが、しかし多くの人はそれどころではないはずである。何せ彼女らが踏みし
めている土地だけで、何千人もの人間がミンチになっているわけで。
「え!? ええぇぇ!? ちょっと! 聞いてないですよぅ!」
先ず一番最初に口を開いたのは緑色の髪をサイドポニーに束ねた少女。彼女に名前と言う概念は
なく、人間達からはただ大妖精、あるいは大ちゃんと呼ばれている。
「え? どうしたの大ちゃん。紫さんから説明聞いたでしょ?」
蟲の女王、リグルナイトバグが不思議そうに大妖精に聞き返す。
「いやぁ……私たちは何にも……ね、チルノちゃん!」
大妖精は救いを求めるかのようにチルノを見やったが。
「え? 聞いてなくてもいいじゃない。大きくなれたってことは、サイキョーになれたってことよ!」
「常日頃からサイキョーじゃなかったっけ……」
みすちーことミスティアローレライが突っ込む。おそらくこのメンツの中では割と常識ある鳥頭。
「むしろ……私は下着一枚にされるってのを聞いてなかったけど」
と、彼女は付け加える。その声は元の大きさの時と変わらぬ澄みきったソプラノ。しかしその破壊力
は、空震として窓ガラスを叩き割るほどのものとなっていた。彼女が歌えば、その歌声のみで死に至
る者がいくら出るか解ったものではない。物理的に。
「ほら、私たちって1ボス2ボスの集まりじゃない……。大ちゃんに至っては中ボスだし。そんな私たち
が、強くなった気分を味わえるんだよ。踏んでも壊しても紫さんが戻してくれるから暴れてもいいって」
リグルが彼女の手を引っ張った。それでも大妖精は、住宅街を踏みつぶしまいとその場に留まろうと
し……。
「うわ……っとっとっと……きゃー!」
結果バランスを崩して、一歩踏み出すのなんかより遥かに大きな被害をもたらすこととなった。倒れ
まいと羽ばたかせた羽根は莫大な風圧を巻き起こし家々の屋根を吹き飛ばす。そして彼女の影に覆
われた街に、先ずは白い下着に覆われた柔らかそうな胸が激突する。そして次に手、顔、お腹……。
白く透き通るような少女の肌が、堅牢な筈の近代建築を次々と粉砕する。押し潰す、などという領域
ではない。まさに粉砕。粉々になって吹き飛ぶのだ。
「あ~。B~Cカップってところかしら?」
天子はその様子を見て、一言だけぽつりと感想を漏らした。そして自分の胸に両手をあてて考え込
む。一応Cはあるんだけど、なんだか親近感が湧くな~と。
「ふ、ふええぇぇん!」
転んで顔を打ち付けた痛み、そして沢山の人間を潰してしまったこと。それに耐えかねた大妖精の目
から大粒の涙が零れ落ちた。そう、本当に大粒の、直径2メートル近い涙。表面張力仕事しすぎ。
 その涙が上空遥か100メートルから落下するのだから、その運動エネルギーは計算するまでもな
く、彼女の顔の真下にあった家を直撃し倒壊させる。
「い……いまので……えぐっ……沢山コビトさん潰しちゃったじゃないのよっ!」
大妖精はリグルをキッと見据えて言った。残る4人の間に立ちこめる微妙な空気。寺子屋なら先生を
呼んでくるところであるが、あいにくここに頼れるけーね先生はいない。
「あ……その……皆は他で遊んでて! 大ちゃんは私が……ね」
リグルはとりあえずその空気をどうにかしようと他の3人に言った。3人は互いに目を合わせ、数回ぱ
ちくりやってから頷いて、思い思いの方向に住宅街を踏みしめて歩きだした。
「あ……」
天子は油断をしていた。ここのところ100倍娘を相手取ることが多かったため、一瞬でここまで到達
するとは思っていなかったのだ。しかしそう、実際は彼女のいるマンションはみすちーの足の裏が作
り出す影に覆われ、天子がそれに気がついて声を発した時には既に手遅れだったのだ。たった一歩
の出来事。
 迫りくる足裏。もう十分近いと思う。けれどまだ大きくなる。もっと近くなる。そして視界がそれで全て
覆われてもまだ。 
 ずしいぃぃん! 230メートルに渡って、街が踏みつぶされる。1ブロック、2ブロック……街の区画が
それごと、夜雀少女の足の下に消え去った。
「うぎぎ……は~、やっぱり1000倍娘は踏まれ心地が違うわぁ……って、違う! 言っとくけど、私は
Mじゃないわよ!? 多分……」


「ねぇ、みすちー」
口を開いたのは黒い下着を身に纏った少女。ルーミアだ。普段は太陽の光に全く当たらない彼女の
肌は透けるように白く、快晴の東京に聳える。堂々と、しかし色っぽく。
「なぁに? 毎回言っているけど私は食べてもおいしくないわよ?」
ミスチーが答える。そんな彼女は足の下に高層マンションを踏みつぶしていたが、さして気に留める
ほどのものにも感じられなかった。
「そーじゃなくて。この地面から生えてるのさ、ニンゲンの巣でしょう? ってことはこの中には沢山ヒト
が詰まってるわけだよね」
ルーミアは唇に人差し指をあてて思案した。
「つまり、中身を食べるためにはとりださなくてはいけない……」
ルーミアはその巨大な手で、100メートル近い高層ビルを引っこ抜いた……つもりだったが、それは
あっけなく彼女の手の中で潰れてしまった。
「うわ……脆いんだね」
手の中で瓦礫となり果てて崩れ去るビルを眺める少女。残念そうな、けれど愉しそうな顔でもあった。
こんなにも強い力を、自分が持っている。
「そんなに脆いのかしら……?」
みすちーも試しに、1本地面から抜き取ってみる。そっと、なるべく力を入れないで。外壁や何やらが
ぼろぼろと崩れ落ちて行くも、それはどうにか彼女の手の中に収まった。
「うわ……本当だ。ちょっとでも力を入れたら崩れちゃいそう」
高さ30メートルほどの小さなビル。何を思ったのか、彼女はそれをそのまま口の中に放り込んだ。
「ん……むぐむぐ。意外とそのまま食べられるよ」
みすちーはそれを舌の上で転がすようにして味わう。普段、幻想郷では滅多にありつけない人間の
味が、歯の間で弾ける。舌を口蓋に押しつけると、もっとたくさん、プチプチと弾ける。
「そーなのかー! なら私も……うーん、でも力加減は苦手なのかー……。そうだ!」
ルーミアはずずんと膝をついて座り込み、そしてビル街に向かって顔を近づける。
「あーん……」
口を大きく開けて、そしてその中に数本のビルを納める。途中で、おでこやら頬やらにビルが当たっ
て崩れる。そのため、彼女が口に含んだ以上にその周囲はひどい被害に見舞われた。
「あ~! ルーミアそんなに沢山ずる~い! 私にもちょうだい!」
みすちーがそう言ってルーミアのほっぺをつかんでむにむにとやる。するとルーミアは突然ミスチー
の背中に手を廻す。
「え? あ、何!? ちょ……」
ミスチーは予想してはいたものの、まさか本当に来るとは思っていなかったため不意を打たれる形と
なり、そのままルーミアに抱き締められた。そして有無を言わさず花の唇同士が触れ合い、みすちー
のなかに沢山の瓦礫と、人間が入ってくる。
「ぷっ……はぁ」
呆気にとられるみすちーと、それを見てニコニコしているルーミア。白磁の肌に浮かぶ桜色の唇が、
愉しそうに笑っている。
「い……いきなり何よ」
みすちーはとりあえずそれを飲み込んでから、ビル街の上にぺたんと座りこむ少女に問う。
「え? スズメってこうやって餌をもらうんじゃないの……?」
けらけらといたずらそうに笑う少女。彼女が何気なくついた手が10階建てのビルを下に敷き倒壊させ
る。
「そ……それは子供の頃の話よ!」
みすちーは真っ赤になって、ぷいとそっぽを向いてしまった。そんな彼女を見て、ルーミアは逆に、何
か感じるものがあったのだろう。
「みすちー可愛い!」
がばっ! ミスティアに飛びつくルーミア。それを受け止めきれなかった歌姫はそのまま背中からビ
ル群に倒れ込む。白く柔らかそうな少女の背中がビル群に接触すると、それらは何の抵抗もなく崩れ
去ってしまう。
 ずっしいぃぃん!
 地震と衝撃波を巻き起こして、2人は東京の街に倒れ込んだ。
「な……何をするの、ちょ……ちょっと!」
みすちーは手足をばたつかせて抵抗するが、同じぐらいの力のものが上下に重なり合えば常に優位
なのは上にいる方。彼女のほっそりとした白い手は、辺りにあるビルを粉々に粉砕して吹き飛ばした
が、逆に言えばそれだけに終わった。
「あなたをね……食べたいの。あれ的な意味で」
にっこりと笑うルーミアの笑顔に、彼女は観念するのであった。




「あたいったらサイキョーね!」
横浜、みなとみらい。海を埋め立てて開発された計画都市の空に、少女の声がこだまする。見上げる
空には、白いパンツと、あってもなくても同じなブラをした幼女の姿。
「ぜんぶ、あたいの足元にも及ばないじゃない! この、一番高いのでも……膝には全然届かないも
んね!」
ランドマークタワー。日本で4番目に高い構造物で、ビルとしては日本一の高さを誇るあれである。そ
れが、幼げな妖精少女の脛程度。
「うーん、でもこれは普通に踏みつぶしちゃうのはもったいない……。普通じゃもったいないからとりあ
えず後に残しておこう!」
チルノの単純な脳みそは最近、問題を後回しにすることを覚えたらしい。故に彼女は、まずその近く
にある高層マンションに足を踏み下ろした。それも、ただ単に踏みつぶすわけではなく。
「この中にいる人間は今どんな気持ちかなぁ……クスッ」
チルノはそのマンションの上空ぎりぎりで足をぴたりと止めたのだ。
「ねぇ、怖い? 怖い? このサイキョーのあたい、怖いでしょーふふふ……」
彼女は優越感からか、それとも素なのかそんなセリフをマンションの中の人々に浴びせかける。逃げ
惑う人間達を想像して彼女は段々と興奮してくるのを感じた。
「たとえばあたいが……足を降ろしたらここにいる皆は死んじゃうんだよね……のしいかみたいに
ぺっちゃんこになて! あ~あ、なんだかそう思うと、早く踏みつぶしちゃいたく……」
ぐぐぐ……巨大な妖精の足が、マンションに近づく。その距離実に10メートル。チルノにしてみれば本
当にわずかな距離。ふらついたらぶつかってしまうぐらいの。
「な~んてね! うっそぴょーん! 本気にした? ばっかじゃないの? もっと楽しんでからにするに
きまってるじゃない。そうね……あと10秒だけ待ってあげるわ!」
少女が言うのと同時に、半ばあきらめかけていたマンションの中の住人達は慌てて逃げ出した。50
階以上ある階段を駆け降りるもの、エレベーターのボタンを気違ったかのように連打するもの。それ
も秒間16連打など超越していそうな速度で。
 たとえマンションから出れたとしても、この巨大な妖精の巨大な足から逃れることなど出来はしない
と言うのに。
「いーち、にー、さーん、しー……えっと……⑨! じゅう!」
ずずん! もしあのマンションの中に東方厨がいたなら、予想しえた結末だったかもしれない。マン
ションは何の抵抗も許さず少女の足の下に消えた。そして少女が足をどけた時、そこには凍りついた
地面が、彼女の足の形にくぼんでいるだけであった。
「さすが! あたいったらサイキョーね!」
腰に手をあてて高らかに笑う少女。顔はいいのに、言動は小学生。
「つぎは……私の足の指だけで壊せそうなのが沢山あるね」
チルノはそう言って、右足の指を思いっきり開いて横浜駅付近の雑居ビル街に踏み下ろす。みなとみ
らいからは徒歩で20分ほどかかる横浜駅だが、彼女にとっては1歩の距離。
「ふふ……指だけで潰れちゃった」
そう言って彼女はそっと指を閉じる。すると、その間にあった小さなビルが彼女の足の指の間に挟
まって持ち上がった。
「ぷちっ……クスクス。小さい、ちいさいよ……。でも、ちょっとくすぐったくて気持ちいいね」
彼女がさらに力を込めると、ビルは何のことなく潰れてしまった。その感触が気に言ったのか、チルノ
は何回もそれを行い、横浜方面のビル街に巨大な足跡を数個残す。しかし何せ、指で捕まえるのよ
りも踏みつぶす量の方が多いのであっという間にそれも尽きてしまったのだった。
「……つまんない」
チルノはお眼鏡にかなうビルがなくなったところで、みなとみらいを振り返る。視界に飛び込むのは、
やはりあのひときわ高いランドマークタワー。
「そうだ! あれを潰そう……」
ずっしん。たったの一歩でそこまで戻って、そして考え込む。
「う~ん、どんな潰し方がいいだろう」
彼女は彼女なりに、頭を使って趣向を凝らした潰し方をしようと思った。胸は……全くない。大ちゃん
ぐらいならどうにかなったろうが、だめだ。足は……飽きた。おしり……は、多分痛いよね、尻もちつ
いたら。
「うーん、手でもないし……そうだ!」
チルノは何を思いついたのか、ランドマークタワーを跨いで仁王立ちになった。屋上から見上げるも
のがあれば、彼女の白いパンツを真下から眺めることが出来ただろう。
「ここなんてどうだろう。男の人はここが結構好きらしいし……そんなところで潰されるのってあれで
しょー、くつじょく? だっけ? そうでしょ?」
チルノはそう言って膝立ちに、そして女の子座りにとなった。ちょうと太腿のあたりにタワーが来る形
で。その際に近くにあった某携帯電話会社のビルは容赦なく踏み砕かれたのだが。
「太腿で挟み潰し~! どう? 嬉しい? 訳ないよね~!! あっはっは!」
チルノはそのビルの中で沢山の人間が逃げ惑っているのを想像して一人で盛り上がった。そして
ゆっくりと、両足を閉じて行く。
「あ~やっぱり1000倍娘の太腿となるとこのタワーもすっぽり入っちゃいそうだね……」
その頂上に佇む少女。八雲紫は両側から迫る白い巨大な太腿を見て呟いた。何とかぎりぎり、タ
ワーの最上部は太腿に挟まれないようだ。
 見下ろす地表は巨大な足に抉られて、人工地盤、そしてその下の海が露わになっている。が、海は
彼女の太腿を濡らす程度の深さしかない。
「ふふ……ほらほら、どうぉ? 女の子の太腿に間に挟まれる気分。私の太腿、やわらかくて気持ち
いい? んなわけないか!」
チルノは間に挟んだビルを太腿ですりすりと弄ぶ。すると、それは外壁をぼろぼろと剥がして傾いて
しまった。力のかかり方が既に計算外なのだから、案外簡単に傾いてしまうものだ。
「あ、なに? もう潰れちゃうの……? つまんないなぁ……」
ぐしゃっ。彼女の太腿の間で、ランドマークタワーは瓦礫となった。その瓦礫が、彼女の大切な部分
に当たる。
「あれ……なんか変な気分。まぁ……いっか」
チルノは立ち上がり、そしてさっき泣いていた大妖精の事を思い出した。
「ふふ……そうね。貴方にはちょっと早すぎる刺激だったかしら?」
傘を片手に、宙に浮かぶ金髪の少女。黒幕こと八雲紫は彼女の幼さの残る顔を見上げてクスッと
笑った。もう、人間の何十倍も生きている妖精なのにね、と。





「りぐる……ごめんね、そうだよね。楽しいはずなのに、こんなにしちゃってごめん」
大妖精はリグルの胸に顔をうずめて言った。
「うぅん、いいよ。私も、無理やりだったしね」
ようやっと泣きやんだ大妖精を抱きとめて、リグルは一息ついた。
「そ、それじゃ……コビトさんをつかってあそぼ!」
大妖精は責任を感じていた。リグルも、本当だったら他の皆と一緒に楽しく遊べていたはずなのだ、
と。だからその分、私が楽しくしてあげなくては。彼女はそう思うが故に、切り出した。
「え……、あ、うん!」
リグルは彼女のスタンスが突然がらりと変わったことに驚きつつも、とりあえず事態の打開は済んだ
ということで頷いた。
「こうして……えいっ!」
大妖精が手を握り、そして手を開く。すると、そこには数百人の人間が乗っかっていた。大妖精の持
つ、空間転移能力を使ったのだ。
「わぁ……こんなに小さいけれど、本当に人間なんだね」
リグルは彼女の掌の上で戸惑っている人々を見て感嘆を漏らした。
「ねぇ人間さん。貴方達が普段何の気なしに叩き潰してる蟲の気持ちって、わかる?」
リグルは大妖精の掌の上の人間達に問いかけた。もちろん返事はない。あるのは、恐怖にとりつか
れた叫び声のみ。しかしどう逃げてもそこは巨人の掌の上、逃げられるはずもなかった。
「ぎゅっ……」
大妖精はその手を、そのまま握ったのである。
「え……だい……ちゃん……?」
リグルは、彼女の顔を見た。笑っている。
「こういうのも意外と……気持ちいいかも」
開かれた彼女の手は、真っ赤だった。当然、人間の血で。
「ねぇ、リグルちゃん。妖怪は人間を食べるんだよね?」
大妖精はその手を、リグルの前に差し出した。かつて人間だったものが沢山こびりついている手を。
「あ……うん。そうだね」
リグルはその手をとって考えた。これは……舐めろと言う事か。
「いいよ?」
大妖精はそう言ってにっこり笑った。花の咲くような笑顔で。リグルは複雑な心境で彼女の手につい
た人間をなめとった。
「ん……美味しい」
短く感想を漏らす。実際、彼女は人間を口にすることがあまりない低級妖怪なのでその味は格別なも
のだったのだが。
「さて……お次の方。ご案内~」
大妖精はまた手を握って開く。するとそこにはさっきよりも沢山の人間が。
「リグルちゃん、なんかルーミアちゃんとみすちーちゃんはあんなことやこんなことしてるみたいだし
……私たちも、しよ」
「え……あんなこと……っ!?」
リグルが答える前に、大妖精の手の上にひしめいていた人間が消えた。どこに言ったのかは、それ
を自身で感じたリグルには明白だった。
「ちょ……ちょっと……! な、なにを……あん!」
リグルはその身を貫く快感にへなへなと崩れ落ちる。
「ああっ……だ……だめぇ……っ!」
大妖精に何か言おうとしても、快感に溺れて言葉を紡ぐことすらままならない。
「気持ちいいでしょう……? しめて潰しちゃっても次を入れてあげるから安心してね」
フッ。今度はリグルの胸を覆っていたブラが消え、そして高さ50メートルほどの丘の上に出現した。
大妖精の空間転移能力は見た目に単純であるが、しかし使いようによっては色々出来る強力なもの
である。
「じゃぁ、今度はおっぱい」
大妖精はその手を返してリグルの胸に押し付けた。
「あっ……や、やぁっ! そんなぁ……はしたないよぉ」
リグルは自分の胸に、ちょろちょろと動くものがあたるのを感じた。もちろん、人間である。それも数百
人もの。
「だって、無かったことになるならいいじゃない。気持ちよく、なろ?」
大妖精はその巨大な手で、巨大な女の子の巨大な胸を揉みしだいた。むにむにと形を変えるリグル
の胸と、大妖精の手の間に挟まれていた人々はその圧力に耐えかねてプチプチと弾ける。
「あっ……あぁっ……大ちゃん……」
リグルは快感に身をよじり、そして片手でパンツの上からあそこを弄り、もう片方の手で住宅を区画ご
と握りつぶした。




「るーみゃ……だめ、あん、そんなにされたら……」
こちらも、似たようなことになっていた。ただしこちらはもっと大胆に、2人とも下着を脱ぎ捨ててビルを
股間に挿入してのプレイであった。
「されちゃうと……何かしら?」
ルーミアは彼女の耳元で色っぽくつぶやく。その間も、ビルをみすちーのなかに入れたり出したりを
繰り返す。
「あんっ! るみゃ……普段とキャラ違くない?」
みすちーは片目を半目に開き、ふにゃふにゃと言った。
「あのね……巨大化するときにお札、破れちゃったんだ」
ルーミアは自分の髪の毛を撫でた。普段ならそこにあるはずのリボンが無い。
「封印解けたの……あっ、ね……道理で!」
ミスチーはそう言いつつも、もはやどうでもよくなっていた。溢れ出る快感に溺れて。
「そーなの。一時的だけど……ね」
ぐい。ルーミアがビルを突き上げるように差し込む。彼女の力によって満たされたビルはそう簡単に
は崩れず、みすちーの中に快感を走らせる。
「ああぁぁっ! ダメ、そこは……だめえぇ!」
みすちーは快感見身をよじらせる。すると、その動きに、近くにあったビルが巻き込まれて倒壊してし
まう。まるで砂でできていたかのように、ぼろぼろと。
「ふふ……そー……なのかー」
ぐいぐいとルーミアはその場所を重点的に攻める。喘ぐみすちー。その喘ぎ声は大気を揺るがし、ビ
ルの窓ガラスを次々に叩き割る。既に地に落ちたガラスは衝撃に舞い上がり、逃げる人々は音圧に
耐えかねて倒れた。
「あ……崩れちゃった」
ルーミアの力の内圧と、ミスティアが締めつける膣圧が上手く釣り合っていたためにそのビルは崩れ
なかったのだが、ミスティアの締め付けが激しくなったためそれに対応が遅れた。彼女にしてみれば
ほんの些細な力の不釣り合いであったが。
「みすちーはそんなにこれが気持ちいいの……? ふふ」
ルーミアはそう言ってもう一本、ビル群からビルを引っこ抜いてみすちーの秘所にずぷずぷと挿し込
む。
「あ……ああぁっ、いぃ、イイよ!」
頬を赤らめ、甘い吐息を漏らして喘ぐ夜雀の少女。そんな彼女を地上から見上げる者。比名那居天
子であった。倒壊していくビルの谷間、死屍累々の街道に立つ蒼髪の少女。
「ったく……子供が発情しちゃって」
溢れ出る愛液が流れ、靴を濡らす。もし彼女がイッたらここはビルさえも押し流すような激流に襲わ
れることになるだろう。
「あら、貴方も同じような体型じゃない」
ふっと、紫が天子の隣に現れる。
「残念、私は胸以外はパーフェクトよ」
天子はそう言って紫を小突いた。そう言っている間にも、周囲のビルが地震にバランスを失ったり、
太腿になぎ倒されたりして次々と壊されていく。
「そうね。ミスティアちゃんはまだもうちょっと足が伸びるかしら。数十年後には素敵なお姉さんになっ
ていることでしょう」
紫が答える間に、傾いたビルが2人に向かって倒れこんでくる。天子はそこから飛び退き、そして反
対側のビルの壁面を蹴って更に高く飛んだ。着地した場所は……白く柔らかな少女の肌の上。そう、
ミスティアの太腿の上だ。顔の方を見れば、小高い胸の丘に遮られつつも彼女の紅潮した顔を望む
ことが出来た。そして上には、黒い下着に覆われた巨大なルーミアの乳。今彼女は右胸の真下ぐら
いに位置している。
「あぁ……ああぁぁつ! いく、いくよおぉ!」
夜雀の声、その振動が太腿から直に伝わってくる。それは、声と言うよりも衝撃波であったが、天人
である彼女の鼓膜はそれをしっかりと受け止め音として聞き取った。
「ふ~、あそこから退いたのは正解だったかしらね」
みすちーの股間がビルをぐしゃりと押しつぶし、そしてその中から溢れ出るのは瓦礫の混じった愛液
の濁流。その量はともかく、勢いは凄まじい物で、彼女の股間の近くにあったビルはことごとくその流
れに押し倒された。
「る……みゃ……」
ミスティアはハァハァと荒い呼吸をなんとかなだめて彼女の名を呼んだ。
「ふふ……可愛い、可愛いよみすちー」
ぎゅ……。ルーミアは彼女の太腿に手を廻して、そして優しく抱いた。そこに天子がいることを知って
か知らずか。
「あわわ……こりゃだめだ」
黒い下着に覆われた彼女の巨大な胸が下りてくる。柔らかそうな、しかしとんでもない質量を持った
それが。
 むぎゅ。天子は柔らかな二つの壁の間に挟まれ、動けなくなった。そして2人も、そのまましばらく動
かなかった。





 一方こちらは緑髪の2人。
「大ちゃん……あっ、だめだよ……私……パンツ履いてるのに……なんか、なんか出るぅ……」
リグルの胸は真っ赤だった。大妖精が人間を手に呼び集めては彼女の胸で揉み潰すものだから。そ
のまま、ぎゅっとされることもあったし、胸の谷間に入れられて揉まれたりもした。
「出していいよ? だってここはコビトさんの街だし、誰も困らないよ?」
大妖精は次の人間達を手の上に集め、そしてまたリグルの胸に当てがって揉み潰す。それらがプチ
プチと潰れる感覚がリグルを刺激し、そしてその快感が彼女を追い詰めた。
「あっ……ダメ……ダメっ」
リグルはぼーっとする頭を左右に振って何とかそれを堪えた。
「あ~あ、汚れちゃったね。じゃぁ、今度は私が綺麗にしてあげる」
大妖精はそう言ってリグルの背中に手を廻し、胸の前に顔を持ってくる。
「え……ああぁっ、そんな、恥ずかしいよぉ」
大妖精はリグルの胸に着いた赤いモノを巨大な舌で丁寧に舐めとった。その上に家が何件も立つよ
うな広さの舌で、そこらへんの山と同じくらいあるリグルのおっぱいを舐める少女。
「ふふ……じゃぁこんなのはどう? 恥ずかしさなんて忘れるよ?」
大妖精は口をもごもごやった。彼女の口内に、沢山のコビトを集めたのだ。そしてそのコビトを舌の上
に上手くのっけて、リグルの乳首に押し付ける。
「ああぁっ、だめ、やめ……」
さらに、大妖精はその乳首をそっと甘噛みをした。ただでさえ敏感になっていた彼女の乳首は、暖か
さとほど良い刺激を受けて全身に快楽の衝撃波を走らせる。
「さっきリグルちゃんも言ってたじゃない。せっかくおっきくなったんだから楽しまないと、ね」
大妖精はそう言ってリグルを押し倒す。体の柔らかい彼女は、逆座のまま、そして何の抵抗もなく地
面に倒れ込む。
「たとえば……えい!」
リグルの山のような乳の上に、街並みが現れた。何軒もの家が、少女の両胸の上に乗っているのは
妙な光景であった。
「そして私も……はずして、っと」
大妖精はブラを投げ捨ててリグルに覆いかぶさる。
「えい!」
巨大な少女の、巨大なおっぱい同士がぶつかった。もちろんその間に街を挟んで。
 バキバキ! ごりごり……家々が潰れる断末魔の悲鳴が、2人の耳に届く。
「ほらぁ……いま私たちのおっぱいでさ、街が潰れてるんだよ? すごくない?」
大妖精は顔を赤らめて言った。暖かい息が、リグルの頬に掛る。どうやら彼女自身もすごく興奮して
いるらしい。そんな彼女の顔を見ると、堪えていたあれが、一気にあふれだしそうになってリグルは慌
ててぎゅっと膣をしめた。けれど、それがいけなかった。
「あっ……あああぁぁん!」
彼女の中で、蠢いていた人間達が潰れたのだ。そのプチプチと言う感覚に耐えかねて、ついに彼女
はイッてしまった。パンツを濡らして、そして覆いかぶさっていた大妖精の真っ白な太腿を濡らして、
街を愛液の奔流が襲う。家なんかよりもずっと高い波が。
「はぁ……はぁ……大ちゃん……」
リグルは沸騰しそうな顔で彼女の名を呼んだ。
「大丈夫、恥ずかしくなんかないわよ。女の子はね、たまにこれをしないと」
大妖精はそう言って彼女の頬に手を当てて、優しく言った。その様は、チルノやリグルと比べればいく
らばかりかお姉さん。けれどまだまだ子供な中学生。思春期。
「あれ? 2人とも何やってるの~?」
そこにやってきたチルノに、大妖精とリグルは顔を赤らめて説明に困るのであった。




「皆、お疲れ様」
紫が、元の大きさに戻った5人に、それぞれ思い思いのものを買い与えてやる。今回は彼女らを送還
する前に事実の書き換えを行ったのであった。
「本当に疲れましたよ……まさかルーミアの封印が溶けるとあんな百合百合でエロエロな女の子にな
るなんて」
みすちーは紫から買ってもらったラムネをぷはーっとやってそう愚痴た。
「そーだったのかー?」
ルーミアはメンチカツ。唐揚げが欲しいと言いだしたときは、主にみすちーが凍りついたのだが、結局量的な問題でそこに落ち着いた。
「そーだったのよ。あ~、でもまぁ封印された大妖怪の方のルーミアにイかされたなら別に恥じゃない
わよね? ね?」
ミスチーは紫と天子に助けを求めるように尋ねる。
「まぁ……彼女が封印解けた状態で私と戦ったら正直どっちが勝つかね……そんぐらいの相手だか
ら、恥じることはないんじゃないかしら」
天子は横目に闇を操る妖怪を見ながら答える。
「ねぇ、そこの天人! 私は!? サイキョーの私と戦ったら!?」
チルノがスイカバーを頬張って言う。別にこれは大剣になったりはしない。
「非想天則でいつでも戦えるから掛って来なさい。返り討ちの覚悟も忘れずに」
天子は妖精の頭をポンと軽く叩いて言った。一応挑戦は受ける辺り、天人の余裕を感じると言ったと
ころ。
「やめておきなよ……チルノちゃんの射撃は天子さんのC射撃貫通出来ないし」
大妖精がそれをなだめる。もうすっかり、いつもの優しい大妖精に戻っていた。いや、さっきのあれも
リグルを気持ちよくさせようとする彼女なりの優しさなのだろうけれど。
「はぁ……」
リグルは大妖精と半分に分けたチューペットをかじってただ一つ溜息を洩らした。泣かせちゃったり、
慰めたり、逆に攻められたりでひどく疲れきっているようだ。我慢をしていたのもあったかもしれない。
「さぁ、帰りましょう」
紫が幻想郷への扉を開く。飛び込みたい。是非とも行きたい幻想郷。けれど普通の人間はその存在
自体に気がつくことが出来ない扉。
「うん、そうだね。紫さん、なんだかんだで今日は愉しかったよ」
彼女らを代表してみすちーが、その澄んだ声で礼を述べ、そして皆連れだってスキマに姿を消す。
「は~、太腿とおっぱいの天地開闢プレスは喰らうと肩がこるわ……」
天子はそうつぶやき、彼女らを追ってスキマの中に踏み込む。ルーミアが天子に気づいていたかどう
かは、再封印された今ではもはや確認をとりようがない。
「さて……。今回は長くなったわね。次回は……また守矢組ね。でも今度は可愛いロリ神様……ロリ
と言えば、そろそろ条例か何かで非実在性少年が幻想入りしてくるのかしら。そしたら幻想郷中があ
の神様みたいなので溢れ返るのね……。それはそれで勘弁だわぁ……」
紫はそう言って、どこへともなくふっと姿を消した。残されたのは、夏の夕暮れが包むいつもと変わら
ない町並みだった。もうずぐ夏も終わるだろうか、虫たちの声が残暑の日没を歌っていた。