踏み出されたブーツの下で、魔道機関車がぐにゃりとひしゃげる。先頭車を踏み潰された客車たちが次々と折り重なるようにして脱線し、沿線の道路をかき乱して転がった。
「逃がさないよ、一人も」
 転倒した車両からどうにか這い出ようと必死にもがく人々。そんな人々を、クレアのブーツはなんの躊躇も無く、鉄の箱ごと踏み付ける。
 まるで死体が電撃に跳ね上がるかのように、反動で持ち上がる列車の車両。最初の一撃で車両は見るも無残なスクラップへと成り果てたが、それだけに飽き足らず、持ち上がった彼女の足は再び同じ車両に踏み下ろされた。
 立っている事すら困難な揺れを引き起こして、ズシンズシンと彼女の脚が何度も何度も踏み下ろされる。平たい棺桶と成り果てた列車を執拗なほどに。
 5両編成の全車両を地面にうずめ、或いは靴の裏にへばりついた鉄板と果てさせると、彼女は花の咲くような笑顔で。
「貴方たち全員、皆殺しにしてあげる!」
 楽しそうに、言い放った。



 事の起こりは3日ほど遡る事となる。
 白龍の少女、クレア。彼女が何よりの宝としている町で異変が起きた。
 町長が亡くなったのである。それだけならば、ただの不幸で話は終わるのだが、その死に方が普通ではなかった。
 ある日突然、足の辺りに黒い痣が浮かんだのだという。最初は何のことも無い、ただどこかにぶつけたのだろうと思っていたらしい。だがその翌日には痣は大きく成長し、まるで黒い蛇が全身を締め付けているかのように変じた。
 町一番の白魔道士のキアラの手をもってしても、もはや手遅れ。巻き戻せる限り時を巻き戻したのだが、その痣が消えることは無く、結局村長はその日のうちに息を引き取った。
 正確にはまだ死んでいない……いや、蘇生された傍から死に続け、生と死の境を文字通り行ったり来たりしているという聞くに堪えない状態。
 もちろん、異変はこれだけでは終わらなかった。
 町の他の人間たちにも同じような痣が出たのだ。それは白魔道士たるキアラも例外でなく。
 僅か3日にして、村は地獄と化した。皆が死んでは巻き戻され、そして巻き戻された端から再び苦しみ死に至る。
 キアラ自身が謎の痣に蝕まれてしまったため、その巻き戻しを行うのは最近この町に着たばかりの黒龍、バハムート。人間とは比べ物にならない桁外れの魔力を持ち、その魔力を自在に使いこなす器用な龍。
 しかし、そんな彼女の力をもってしても、事態は一向に好転しない。対処療法のみで根本的な対策がないのだ。

「おねがい、どうにか助からないの……!?」
 白龍のクレアが、蒼い瞳に一杯の涙を湛えてバハムートのか細い腕に縋った。三日間ずっと泣き通しているのに、涙も悲しみも、尽くことを知らない。
「だめね……時を操る魔法があるんだから、それを破る魔法もまたあるのよ。時を巻き戻しても巻き戻しても、その因果を無視してくる」
 応えるバハムートも、キアラが倒れてからずっとこうして死者蘇生を行っているため酷く憔悴していて限界はそう遠くないように思えた。
「せめてこの呪いの術者がわかれば……そいつを叩けば全部終わるのに……」
「そいつをどうにかすれば助かるの!? それはどこにいるの!?」
「今偵察機を飛ばしてる……けど正確な位置が掴めないのよ。大方の中りはついているんだけど……。こんなふざけたレベルの呪詛を扱えるのは、東の国の奴らしかいな……」
 言い終える前に、バハムートの横で盛大に大気が動いた。ちらりと横目で見やると、既にそこにクレアの姿は無く。彼女の残した羽が数枚はらはらと舞っているのみであった。
 遅れて放たれる衝撃波が町を凪ぎ、バハムートはため息混じりにそれを再生する。
「言うんじゃなかったかしら。大丈夫かなぁ、あの子……」




 どこの誰が犯人だか分からない。けど、この国にいるっぽい。
 なら、皆殺しにしてしまえばいい。そんなわけで、今に至る。
 クレアはまずは国外脱出の手段を奪うことにしたのだった。その中でも特に輸送能力の高い(とクレアは思った)鉄道から。
「あはは、簡単につぶれちゃうんだね。この前踏み潰したやつはもっと大きくて硬かったんだけど」
 クレアの25メートルもある足が、複線レールを小枝のように折り曲げて歩む。その足の先には、最大速力で逃げる列車。確かに130km毎時の速度で逃げているはずなのに、クレアとの距離は縮まるばかり。
 列車の最後尾にいる乗客たちはそれこそ気が気ではなかった。
 なにせ、ビルのような……いや、そこらへんにあるビルなんかよりもはるかに大きなオーバーニーブーツが朦々と砂煙を蹴立て、その一歩ごとにありとあらゆるものを破砕しながら追ってくるのだから。
 線路を跨ぐ高架に、白亜のブーツが引っかかった。これで少しは差が開くかと思いきや、そのブーツは高架橋を難なく引きちぎり天高く吹き飛ばしてしまう。
 線路の脇を走る沿線道路を踏みしめる左足は、バスを蹴飛ばして横転させ、或いは運の無い車を一瞬にしてスクラップに変え。まるで嵐のようだった。
 衝撃に巻き上がるバラストが火山弾のように降り注ぎ、列車の屋根をコツコツと叩く音が、この視界が夢や幻でないという現実感を、そしていよいよ追いつかれたのだという死の恐怖を与える。
 やがてくる数瞬の無音。きっと彼女が鬼ごっこに飽きたのだろう。列車を踏み潰すと決めて高く足を掲げたのだ。
 タキサイア。永遠に感じられる一瞬が過ぎ。
「つっかまーえた!」
 ずっしいいぃぃん!! 
 クレアのブーツが、最後尾を捉えた。彼女の25メートルもある巨大なブーツはその車両を丸ごと踏み潰し、さらにその一両先まで捕らえて跳ね上がらせる。
 遅れて走り抜ける地震波に舞い上がるバラスト。その飛沫に、目を細めつつも楽しそうに笑うクレア。それはまるで、水溜りの泥水を跳ね上げて遊びまわる少女のよう……いや、まさにそれそのものだった。
 クレアは本来の大きさになれば、国家の一つや二つ数分もしないうちに踏み潰せるのだ。たった百倍サイズの小さな体で暴れまわるなんて、お遊びに他ならない。
「あははは、おっそーい! 東の国は私の町よりもずっと魔法が進んでるって聞いてるのに、全然だめだね」
 力なく横たわる残りの3両を2歩で平たい鉄板に変えて、彼女は満足そうにフンと鼻を鳴らした。
 けれど、このお遊びもまったくの無意味ではないのだ。
 今回の件では、クレアの町の住人たちは2日間、苦しみっぱなしなのである。クレアにしてみれば、どうあってもこの国が許せないのだ。だからこそ、たったの数歩で踏み潰してしまってはもったいない。
 精一杯恐怖と辱めを与えて殺してやらなければ気がすまないのだ。
 クレアの優しい気質とは真逆の龍の本能が、大切な人々を傷つけられたことで目一杯まで覚醒してしまっているのである。
「さて……交通網って言うんだっけ? それはきっと壊したよね……」
 クレアが後ろを振り向くと、途切れ途切れのレールたちの中に自分の足跡が点々と残されている。たとえ壊しきれていなくても、どうせ後でここの一帯を全て押し潰してしまうつもりだし、麻痺させる程度で十分だろう。
 クレアは改めて周囲を見回してみる。自分が列車を追いかけて歩いてきた場所は、低い家が並び立つ所謂住宅街という奴らしい。小さくて気がつかなかったけれど、沿線に立っている家がいくつか足跡の中に見受けられる。
 ――せっかくだし、まずはここで遊んでみようかな……。
 クレアは線路を降りて、住宅街へと足を翳した。もちろん、道路なんて関係ない。家々がひしめくその中に、容赦なく踏み込む。
 サクッ……。
 クレアからしてみれば、そんな感触であった。足の裏を伝わる、細かな感触。硬いブーツの裏が、たくさんの小さな箱を踏み砕くなんとも言えない感触。
 そして、何より家を踏み潰すという行為はクレアにとっても特別なものだった。家を潰してしまった事は沢山ある。けれどそれは事故であって、そのあとは沢山たくさん”ごめんなさいさせられる”のである。
 凄く悪いことをしている。いつもなら絶対にやっちゃいけないことを。
 そんな背徳感が、龍の本能とぶつかり合って裏返った悦びに変わるのだ。
「ふふっ……なんだかすごく気持ちいい……」
 頬に手を当て、とろんとした目つきでクレアはうっとりと紡いだ。
 もう一歩。
 先ほどまではるか遠くにあったかのように見えた左脚が地響きを伴って持ち上がる。瓦屋根に切り取られた地平線から生えてくるような錯覚すら覚えるほどの巨大な左足が。
 瓦屋根の向こうにその脚が完全に姿を現す。陽光を捉えて銀の弓を描くのは、白亜のブーツに覆われた彼女の美しい脹脛。その曲線美を上へと辿ると、可愛らしく折り返されたブーツの筒口から溢れ出るむっちりとした太股が眩しく輝いている。彼女が腰に巻いたパレオが太股に押し上げられ、地上の民に惜しげもなく披露される真っ白な下着。
 愛らしい少女の、美しい脚。それはこれほど危機的な状況にあっても、見る者の多くを釘付けにした。
 けれども、最も近い特等席からそれを見上げられる人間達には時間は多くは与えられていない。すらりと美しい足裏を模る靴底が見えたら、いよいよ終わりは近い。
 反転する昼夜。彼女の靴底にへばりついた、かつて家だったものの残骸が雨のように降り注ぎ、一足先に住宅街を爆撃する。勿論、瓦礫の散弾の被害を免れたものとて運命は変わらないのだが。一帯に等しく圧し掛かるブーツに押し潰され、新しく彼女の靴底の溝に挟まった瓦礫になるだけの話だ。
 二歩、三歩、歩を進める度にブーツの下でサクサクと弾ける家の感触に、溢れ出る笑み。彼女の足の直撃を免れた人間達が小さな足を必至で動かしてちょこちょこと逃げていく。
「それで逃げてるつもりなのかなぁ?」
 そんな彼らを、クレアの足は悠々と跨ぎ越してその先にあった長屋を踏み砕いた。すると彼らは慌てて、その足とは反対側に……つまりクレアの真下に向かって走り出す。
 恐怖に煽られた人間達は驚くほど単純で、とても面白いなぁ、なんて思いつつ。クレアは高々と膝を持ち上げ。
「逃がすわけ無いでしょう? 私の大切な人たちに手を出したんだもの……」
 氷の瞳で彼らを一瞥し、そして一足の元に全員踏み潰した。さらに追い打つようにぐりぐりと足を踏みにじれば、道端の街灯が彼女のブーツに薙ぎ倒されて倒れ掛かる。自分の足元で巻き起こる大破壊に、クレアは満足そうに残酷な笑みを浮かべた。
 けれど、数歩歩いてみて振り返ると、町の中に穿たれた自分の足跡は大分間隔が空いている。これでは、とうていこの国全てを踏み潰しつくすなんて不可能だ。
「ちょっとだけ、大きくなろうかな?」
 迅速に確実に、けれど一撃で終わらせない程度に、クレアが十分嗜虐心を満たせるくらいに。
 大きくなる、というのはクレアにとっては枷を外すようなものだった。本来の彼女は、身長8.7kmにも及ぶ大巨龍なのである。それを、50分の1の175メートルまで縮小して暮らしているのだから、窮屈とまでは行かずとも余計な力が必要なのだ。
 すぅ……。
 クレアが息を大きく吸い込み伸びをすると、まるで遠近が狂ったかのように彼女の体が大きく膨張する。枷の外れる開放感に、彼女の桜色の唇から色っぽい喘ぎ声が漏れ、上気して薄っすらと紅色に染まる頬。
 白亜のブーツは周囲のものをメキメキと破壊しながら押しのけ、ぐぃと伸ばした真っ白な腕は雲をかき乱し。およそ1700メートル、というところで彼女の巨大化はおさまった。
「う~ん、やっぱり大きくなるって気持ちいい!」
 高鳴る鼓動。足を一歩踏み出せば、先ほどとは比べ物にならない重低音が轟き周囲の家々を吹き飛ばす。振り返ってみれば、さっきまでの小さな自分がつけた小さな足跡が今の自分の巨大さを教えてくれる。高鳴る鼓動。クレアの中の龍としての本能が、理性の抑制を外れて破壊と殺戮の衝動を際限なく高めていく。
 けれど、さっきまでのサクサクいう感触がなくなってしまったのが少しばかり残念だった。この頑丈なブーツ越しでは、人間達が作った家など小さすぎてまるで伝わってこない。
 そこで、オーバーニーブーツの筒口に指をかけた。
 ブーツ越しで分からないなら、素足になってしまえばいい。
 けれど、彼女のオーバーニーブーツはそもそも履いたり脱いだりを考えた形にはなっていない。普通なら側面にジッパーやらボタンやらがついていて、脱ぎ履きの際の利便性を増しているのだが、クレアのそれは人間がつけているものを見よう見真似で模したに過ぎないし、そもそもがあまり脱がないのでそんなものはついていないのだ。
 かくして、彼女はその超巨大な体をしてブーツとの格闘を始めることとなったのである。それはもう、大惨事であった。
 彼女がどうにかフンフン唸りながらも、左足の踵を抜く。そうすると、足に大分余裕が生まれるわけだが……そこで彼女は足をぶらぶらやって靴を抜こうとした。
 普通のブーツならそれですぽーんと抜けたやもしれないが、しかし彼女のブーツは腿まであるようなオーバーニー。汗でじっとりと湿った筒が彼女の足をがっちり捕まえてなかなか離さない。
「うーんっ、抜けない抜けない……!」
 振りぬかれる彼女の足。当然、半分脱げかけたブーツがそれに追従し足元の町は彼女の足ではなくその抜け殻たるブーツに蹴散らされる事となった。
 ようやっと彼女がブーツから左足を抜く頃には、町は箒で掃かれた砂場のような様相を呈していた。そこにさらに追い討ちをかけるように、先ほどまでクレアの太股までを覆っていたほかほかと暖かなブーツが投げ捨てられる。
 その惨めな有様とは対照的に、眩しく聳えるのはブーツから抜かれたクレアの脚。ブーツの白さに負けないほど白く美しく、瑞々しい果実のよう。蒸れていたのか僅かに浮かぶ汗がきらきらと輝いている。
 甲殻を脱ぎ捨てた柔らかな足を、ゆっくりと踏み下ろすクレア。なんだか、とても興奮する。
 彼女の丸みを帯びた柔らかそうな足の指が、辛うじて原形をとどめていたあばら屋たちの上に圧し掛かり、僅かに形を変えてそれらを抱きしめる。だがそれもほんの一瞬。次の瞬間には重みに耐え切れなくなった家々が爆ぜるようにして押し潰される。
「ひゃぅ!?」
 その異質な快感に、クレアは思わず足をひっこめた。
 柔らかな指の肉に抱きしめられた瓦礫たちが、重力に負けて口惜しそうにクレアの足指を離れて落下して行く。
「なにこれ……足の裏でちっちゃい家がつぶれて……凄く気持ちいい」
 思わず、両頬に手を当て、肘で自分の余りある豊満な胸を抱きしめるクレア。足の先から頭のてっぺんまで駆け抜ける電撃のような快感に、翼はぎゅうぅっと縮こまり、尻尾はピーンと跳ね上がってパレオを引っ張って彼女の下着を露出させる。体の反応はまるで未知に遭遇した猫のようであったが、しかしその表情は恍惚にすっかり緩んでいた。
 既に息は荒く、頬紅いらずの白い頬が桜色にぱぁぁっと染め上がる。
 もう一回。
 そーっと、そーっと。おびえるように、けれどもとても期待するように。彼女の足は優しく住宅街に圧し掛かり……そしてその重量で爆ぜるように圧壊させる。
「ひゃぁっ! やっぱり気持ちいいよぉ……クセになりそう……」
 家々を押し潰してもなお、形を変えて圧搾されていく瓦礫たちが足の裏を刺激し続け、くすぐったいやら気持ちがいいやら。駆け抜けるこそばゆい快感に身を捩り、彼女は悶える。
 早く両足でこの感触を楽しみたい!!
 クレアは後で結びなおすのが面倒になるのもお構い無しに、ブーツの紐を引っ張って解き、右足を引き抜いた。蒸れた脹脛を優しく撫でる風が心地いい。
 そして、ゆっくりと地面につける右足。くすぐったい快感が足の裏から脳天までを貫き、つられて踏み出す左足。
 ひゃう! ひゃん! 立て続けに襲い掛かる電撃のような快楽に思わず漏れ出す声。クレアの足は逃げ場を求めて次々に町を襲い、起伏に富んだ彼女の柔らかな足裏を写し取った足跡にしてしまう。そのたびに、何百もの人間が足の下で潰えていると言う事実がまた、クレアの興奮を煽った。クレアの町に手を出した不届き者達を踏み潰して得る快感は、特別なのだ。
 踏み出す足は爆煙を立ち上らせて、球場も顔負けの巨大な足跡を穿ち、送れて伝わる地震波がさらに周囲を消し飛ばす。押し潰された地面は不整合を生じ、彼女の足跡の周りには峡谷と見紛うほどの地割れが幾重にも裂き走った。
 雲を貫く彼女の巨大な脚はその一歩ごとに、むっちりとした太股や脹脛を震わせて色めかしく踊り、幼げな彼女の表情と肉感的な美しさのコントラストを作り上げる。そんな美しい脚が踏み出されれば、この国の建築技術の集まった集合住宅ですら一足の元に無残な平面図へと成り果てた。
 もはや逃げ惑う人間の事など眼中に無いクレア。人間達は彼女の足の裏の快感に弄ばれて、崩落する建物に呑まれ消えて行く。
 程なくして、クレアはあっという間に骨抜きとなってしまった。足の裏が耐えられず、思わず町の中にへなへなと座り込んでしまう。その表情は快楽にとろけ、幼さの中に巨龍のメスとしての姿がちらちらと見え隠れするほどになっていた。
 けれど、座り込んでもその快楽からは逃れられない。ぺたんと座り込むその脹脛や太股、お尻や尻尾でぱちぱちと爆ぜる家々の感触が彼女を襲い続けるのだ。悶えれば悶えるほどに破壊の範囲は広がり、まるで底なし沼のよう。
 あまりの快感に、彼女は自身の指を噛んで喘いだ。歯を、そして指を伝って落ちる暖かい唾液が家々を爆撃する。
 そういえば、前にもこのくらい気持ちがよくておかしくなってしまいそうな事があったな、とクレアは思い出し……思い出す頃には彼女のあそこは既にそれを求めてひくひくと疼いていた。
「んっ……なんか……挿れるものがほしいよぅ……」
 クレアは周囲を見回し、それに適うものを探した。あの時はバハムート、つまりは身長150メートルの巨大な少女がその役割を担ってくれたのだが、それに代わるものとなるとそれなりの大きさが必要だ。
 が、それは案外簡単に見つかった。この国はクレアの町に比べて技術的な水準ははるかに高い。故あって、高度に発展した文明はみな空を目指すものなのだ。
 飛空挺の発着艦のために高く伸びたステーションビルが、あちらこちらに立ち並んでいる。100倍サイズで暴れまわっていた時には遠くに見えたものだが、今のクレアは手を伸ばすだけでそれを引っこ抜く事ができた。
 ビルの形状は、鉛筆のようであった。もちろん、クレアからしても鉛筆よりはかなり太いが……。けれど、これならばいけそうだ。
 湖のような巨大な蒼い瞳で中を覗きこむと、人間達が右往左往慌てふためいて走り回っている。
「ふふっ、みんな……私のことを気持ちよくして」
 クレアは手に持ったビルに、ちゅっと口付けをした。龍の接吻。唇を伝って膨大な量の魔力がビルへと流れ込み、タイヤチューブのような原理で(或いはアレと同じ原理とも)ビルを硬く強く変貌させる。
 そしてパレオをめくり上げ、下着を下ろして可愛らしい秘所を惜しげもなく露出させた。彼女は性に対して無知であるがため、そして今は龍の本能に理性を喰われているがためにまるで恥ずかしがる素振りを見せない。
 あとは、ヒクヒクとうずく大陰唇をビルが掻き分けてじゅぷじゅぷと呑まれていくだけだ。
「ひあっ……んっ……ちょっと痛い……かも……?」
 クレアは女の子座りのまま、ゆっくり、ゆっくりと慎重にビルを押し込んで行く。膣口を、そしてその先にある粘膜を押し広げて。けれどビルはその形状から一度入ってしまえば、後は同じ太さなので奥まで簡単に入っていく。クレアの巨大な膣からして、ビル程度のものではそう簡単に処女幕は裂けないのだろう、別段出血らしきものも見られなかった。
 挿れ始め痛みが過ぎればあとは快楽が勝り、痛みの事なんてすっかり忘れてクレアはビルを動かし自らの膣内をぐいぐいと刺激を始めた。
「んっ……んぁっ……あぁっ……!!」
 全身を駆け巡る甘い電撃に思わず漏れ出る声。くすぐられれば笑ってしまうのと同じように、こればかりはどうにも抑えられない。
 熱い吐息が蒸気の雲を空に描く。
 ビルの内部に取り残された人々は無論気が気ではなかった。超巨大な少女が突然このビルを掴んだかと思えば、何の恥ずかしげもなく下着を下ろして秘所を見せつけ、あまつさえその中に突っ込むだなんて。常識では考えられないながら、自らがその常識では考えられない言わば超常に巻き込まれた当事者となっては、信じざるを得ないのだが。
 じゅぷぅ……といやらしい音を立てて沈み込むビル、圧に歪むフレームから内側に飛び出す窓ガラス。魔力で押し広げるようにして強化された外装が、超巨大少女の膣圧に押し潰されてところどころに無理をきたす。どこか一箇所でもひびが入ればあっという間にクシャリとされてしまうだろう。
 ビルを使って膣内をまさぐるクレアの手の動きが早くなってくると、ビルの内部の人間達の多くは床と天井に交互に打ち付けられ、魔法を操れる者以外は次々と絶命していった。
 その命の火が消え去っていくのを、クレアは感じた。死ぬ瞬間に放たれる強烈な断末魔の思念がピリピリと伝わってくるのだ。憎むべき敵が自分の膣の中で絶命していくその感触が、逆鱗に触れられ狂った龍の本能を激しく刺激し彼女の体を快感となって駆け巡る。
「あははっ、私のナカでたくさんの人が死んじゃってるんだね……。んっ、んあぁっ……だめぇ、気持よすぎて壊れちゃいそうだよぅ……!」
 嗜虐的な刺激に満たされる龍の本能。そして肉体的な快楽にとろけきった心。けれど、こんなものでは足りない。
 もっともっと大きくなって、たくさん壊して、気持ちよくなりたい……!!
 彼女を縛る枷が快楽に千切れようとする。けれど、そこまで来て彼女はあることに思い当たった。
 ブーツを履いていない。このまま大きくなったら、後々大きさを調整しなおすのがとても面倒なのだ。こと、靴というのはほんの少しのずれでも違和感や靴擦れを生じさせるのだから。
 じゅぷっ……。全長170メートルもある高層ビルを丸ごと全部押し込んで飲み込み、彼女は立ち上がった。純白の下着をもとの位置まで持ち上げて履きなおし、そして歩き出す。
「ひやぅっ……うぅ、やっぱり入れたままだと凄い……けど、気持ちいいのはいいことだよね……」
 一歩ごとに足の裏から伝わる歩行の衝撃。それに揺られる膣内のビルが、膣壁にこすり付けられて快感をほとばしらせる。それと同時に、足の裏からも強烈な入力。絶頂手前での寸止めであったが、しかし彼女が快楽の海から醒める余地などどこにも無かった。もはや、この巨大なカラダ全体が性感帯みたいなものなのだ。
 一歩ごとに大気を震撼させる喘ぎ声を漏らしながら、彼女はふらふらと脱ぎ捨てられたブーツの元に歩み寄る。
 そして彼女はそのむっちりとしたお尻で住宅街を押し潰して座り込み、ブーツを履こうとそれを手に取ったところである事に気がついた。
 中に人間が入っている。直接目では見えないけれど、小さな者たちの存在を認識するのはクレアにとっては慣れたもの。ざっと数えても百人近い人間達がクレアのオーバーニーブーツの洞窟を探検しているようであった。
 その何れも、この国の主力産業たる呪術代行会社の社員達。クレアが脱ぎ捨てた靴の中敷に針地獄の陣を張っておこうという魂胆であったらしい。彼女が靴を履いた瞬間に陣が発動、剣山よろしくオリハルコンの棘がいくつも突き出しクレア自身の重さで足を櫛差しにするという恐ろしい呪いなのだが……もちろんこの規模での呪いとなると数百人規模の人員とそれなりの時間を割かねばならない。そもそもが、まずはクレアのブーツの中に入り込むので一苦労。そしてそのブーツが織り成す山あり谷ありの洞窟を進むことでまた一苦労で、まったくブーツの底まで入り込めていないのが現状であった。
「女の子の靴の中に勝手に入り込むなんて……もしかして貴方達、私に踏み潰されたいのかなぁ?」
 もはや囚われの身となった彼らの運命をクスクスと嘲笑いながら、クレアはまずは右足からブーツに足を通す。
 ブーツの中の人々は、入り口から入り込んでくるそのあまりにも巨大な足の裏に追い立てられるようにしてブーツの奥へ奥へと逃げ込んだ。隙間から僅かに漏れ入る外の明かりが、白亜のブーツの筒に反射して彼女の足の裏を薄っすらと照らしだせば、そこにはかつて町だったものの残骸がへばりついている。まさしく、自分たちの未来像であった。どう足掻いても逃げようが無い。何せここはブーツの中。この先は行き止まりなのだ。
 そしてなにより、行き止まりまで逃げ切れる気がしなかった。クレアにしてみれば、ブーツの皺にしか思えない起伏ですら、人間にとっては小高い丘のようなもの。体力の無いものから順番に脱落して、クレアの踵に磨り潰されていく。
「ほらほら、早く逃げないと潰されちゃうよ~?」
 息も荒く、弾んだ語気で楽しげに。人を押し潰す残酷な快楽が龍としてのクレアの興奮を掻き立て、ブーツを抑えていない左手を自然と股間へと向かわせた。白絹の下着を下ろすのもおぼつかづ、ずらすようにして秘所を露出させ飲み込んでいたビルをずるずると引き出し押し込み。必至で逃げる人間達をブーツ大洞窟の奥へ奥へと追い立てて、彼女の自慰はさらに激しさを増して行く。
 洞窟の果てに人間達を追い詰めても戸惑うことなく、むしろブーツをぐいぐいと引っ張り精一杯まで足を伸ばして彼らを一人残らず真っ赤なシミに変えてしまう。その一人ひとりが弾ける感触に、巨大な喘ぎ声を漏らして悶えるクレア。右足が終われば、今度は左足に先ほどと同じ刺激を求めて、むっちりとした太股まで一思いにブーツを通し、そして足をぐいぐいと押し込んだ。もはや言葉すら紡げないほど、彼女の体は快楽に貫かれていて、絶頂もそう遠くないようにすら思える。
 ブーツの中の人間達を全部踏み潰してしまったクレアはブーツから手を離し、疲れきったようにブーツに覆われた踵を町の中に落とした。その踵はいくつものビルを砕いて押し潰し、あるいは衝撃に倒壊させる。そのビルの何れもが、クレアの踵からつま先までどころか、その半分までも到達していない。クレアの身体はいよいよ、理性も何もかも全てを振りほどいて、本能と欲求の赴くままに巨大化をはじめたのだ。なんの抑制もされない、本来の大きさへと。
 振りほどかれる、魔力の鎖。服を全て脱ぎ捨ててしまうような開放感に駆け巡る快感。思わず漏れる声に、開かれた口から零れ落ちた彼女の唾液が家を丸ごと吹き飛ばして巨大な泉を代わりに穿った。
「あっ、ああっ、ああぁんっ……もっと、もっとおぉっ!!」
 身を捩って寝返りを打ちうつ伏せに転がれば、その超巨大な山のような乳房がそこにあったビル郡を丸ごと一つ押し潰してゴリゴリと磨り潰し。そうして得られる感触はクレアにとってまったく新しい快感を与えた。クレアはまるで魅入られたかのようなとろんとした目つきで、胸を支える甲殻を取り外して放り投げた。
 その柔らかく真っ白な乳房を惜しげもなく露出させると、この国に5つほど存在するビル群に順に襲い掛かった。この調子では、数分たりとも持ちそうにない。なにせ彼女の身体はもはやこの都市国家を丸ごとその下に収めるほどなのだ。少し離れたビル郡を両の胸で片方ずつ相手する事すら可能である。
 柔らかな、桃の果実のような瑞々しいクレアの胸が、ぶぅんぶぅんと大気を引きずって揺れ、そして狙いを定めたビル郡の上にゆさゆさと覆いかぶさる。そして下ろされる超巨大な乳房連山。その先端、ピンク色の可愛らしい乳首がビルを容赦なく砕き、クレアの喘ぎ声を誘った。程なくして、それに遅れて柔らかな乳肉がビルを抱きしめるようにして圧し掛かり、そこから発艦しようとしていた飛空挺もろとも真っ平らな平面図にプレスしてしまう。押し潰されて胸板からむにむにと零れ出る乳房はさらに破壊の範囲を拡大させ、周辺に広がる低層建築すらも貪欲に飲み込んで磨り潰してしまった。
 快楽に支配され、その赴くがままに破壊の限りを尽くす怪獣と成り果てたクレア。彼女は更なる快楽を求め、本来の自分の大きさ以上に身体を巨大化させていく。先ほど膣内に挿れたビルなどとっくの昔に、巨大化したクレアの膣圧に押し潰されて既に残骸。新たな獲物を求める彼女の下の怪獣が、下着を下ろされて露になった。
 クレアが女の子座りに戻ると、横たわる彼女の脹脛はまさに山脈。さっきまでの5000倍サイズの自分が小人に見えるほど……5万倍、身長87キロにまで巨大化した彼女の太股の間、露になった女性器の真下に、あの国はあった。
 もちろん、この淫乱ドラゴンが何をするつもりかは誰がどう見ても明白。柔軟な足をぺたんと地面につけ、そして国を丸ごと飲み込めてしまうほどの巨大な秘所をくぱぁと開き押し当てたのだ。
「んあぁっ! すごい……私のあそこで……たくさんの人が……!!」
 立ち並んだビル郡が彼女の陰唇を刺激し、その細かな崩落の感触が、そしてそこで押し潰される敵たちの絶望がクレアを貫く。
 いよいよ、限界だった。
 おしっこがしたくなるあの感覚。けれど、ここは敵の本拠地。今回は我慢なんてしなくていい……!!
「あっ、あっ……もぅ、だめぇ……っ!!」
 一瞬、頭の中が真っ白になるような感覚にふらりと揺らぐクレア。無意識に尽いた手が、山岳地帯を丸々突き崩して押し潰し、手形の平野を作り出した。
 そして噴き出す、クレアの潮。轟くような音を伴って、彼女の割れ目から滝のように溢れ出して来る。その流量は世界のどんな瀑布よりも多く、そして落差は大きく。かつて国があったはずの、クレアの局部の真下を穿って巨大で深い愛液の湖を形成した。おそらく今後数年は雨が降らずとも干上がらないであろうほどの。



 かくして、クレアの村の呪いは術者の死亡によって解かれ、この事件は一応終結を見た。国を丸ごと一つ押し潰して絶頂を迎えるクレアの姿は地平線に隠れない限り、そして大気に遮られない限りこの大陸のありとあらゆる場所から観測され、たった一匹の巨龍の少女の自慰で一国が滅んだ事は瞬く間に知れ渡った。
 眠れる龍を起すべからず。人間が生き残る上で決して忘れてはならない鉄則を知らしめた等の本人は、後始末をバハムートとキアラに任せ切って、今はぐっすりとお休み中だ。
 そんなわけで、クレアの穿った巨大な愛液の湖の前で佇む一人と一匹。
「まぁ、見せしめにはなったのかもしれないけど……これはちょっとやりすぎじゃないかな」
「間違いなくやりすぎね……この国は他の国家と遠いからまだよかったけれど、毎回毎回えっちするたびにこんな大きくなられたんじゃ、いつか無関係な被害が出ると思うわ」
 バハムートが振り返る。クレアがつけた太股の痕が大地を抉り取り、そのなかに点々とつけられている自分の足跡がとてもとても小さく見えた。本来ならその足跡一つ一つですら災害に匹敵するのに、である。
 彼女が指をぱっちんと鳴らすと、その太股の跡もゆっくりと巻き戻っていくのだが……しかし本当にゆっくりで、これではバハムートの魔力とクレアの腿の跡どちらが先に費えるやら分かったものではない。
「とりあえず……この国、戻す?」
 太股の跡を消し去ろうと努力するのは無駄だな、と見切りをつけたバハムートが、足元のキアラに尋ねた。
 もはや人間の出る幕ではないな、と思いつつもキアラは頷く。
「ただ、この国は前々から周辺国に危険視されてたみたいで……むしろ今回の件は私たち感謝されてる。なにせあんな陰険な呪いを使う奴等だから。余裕ぶっこいて戻したりしたら、また呪い殺されかねないね」
「じゃぁ、戻さないほうがいいかしら……」
「いや……私に考えがある」




 東の国。高度な魔法技術と、呪詛代行によって栄えた闇のメトロポリス。高層ビルが林立し、寄り添うように出来上がった都市の中を縫うように列車が走り住宅街から仕事へ出かける人々を運ぶ。
 が、一見平穏に見えるその日常はまったく持って平穏などではなかった。
 突然、列車の先頭車両が何かに圧し掛かられ、大きな音を立ててひしゃげる。連なる後続車たちが慣性を殺しきれずに脱線し、沿線に立てられた住宅街の中に突き刺さった。
 列車を押してなお微動だにしないそれは、信じられないほど大きな革靴。
「あ、また踏んづけちゃった……ま、こればっかりは仕方ないよね」
 その靴の持ち主、金髪碧眼の巨大な少女……白魔道士のキアラは道路も住宅も気にすることなくバキバキと踏み砕いて、ビル街へと歩み寄る。
「はい、皆さ~ん。今日のご飯ですよ~」
 彼女は抱えたバスケットの中から、香ばしい湯気を立てる焼きたてのパンを取り出し予め停泊していた飛空挺にそれを預けた。飛空挺は情けない事にパンの重みで空中をしばらくふらふらと飛び、どうにか体勢を立て直す。
 ここはクレアの町の裏手に広がる沼地。その沼地のなかにぽっかりと浮かぶこの小島こそが、クレアの莫大な魔力を借りてバハムートが再構築した東の国であった。
 魔力の強さはそれを生み出す身体の大きさに比例するもの。クレアのように小さくなっていてもその力を失わない例外もいるが、少なくとも人間にそんな力は無い。故に、このようにして縮小してしまえば全くの無害となるのだ。
 その上で、結界で何重にも取り巻いており、この国にはキアラとバハムート、それにクレア以外は出る事も入る事もできないようになっている。
 キアラは飛空挺が落ちないようにそっと手でさせてやり、その鋼の機体に別れのキスをして次のビル郡を目指した。等倍だとあんなに恐ろしい飛空挺が、100分の1サイズになった途端にとても可愛らしいペットのように思えてくる。
 この縮小された国に来る度に、クレアの見ている世界が体験できて面白かった。あながち、町を踏み潰すというのも気持ちがいいのかもしれない。わざと住宅を踏み散らしながら、次の目的地に向かうキアラはそう思うのであった。


おわり。


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//割とどうでもいい話↓
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前回書き忘れた彼女らの年齢設定とか。作中でそのうち書いていこうかとか思ってる設定とか。


クレア 17歳
当時8歳であったキアラに拾われ、以降ずっと一緒に暮らしてきた。
卵から孵った時にキアラを見つけたため、刷り込みの原理でキアラを親と認識したらしい。
今は刷り込みとか関係なく、お互いに大切な友人。

バハムート 15歳
実はクレアよりも年下だが、苦労が多く精神的にはバハムートのほうがいくつも上。人間に育てられたが、10歳の時にその最愛の人間を失っている。
彼女が寂しさの余り自分の帝国を築き始めたのは13歳の頃で、僅か2年で大陸西部の覇権を殆ど握ってしまった。
今はキアラと一緒に暮らしているが、女帝を引退したわけでもないらしい。肥大化した帝国を纏め上げる力の象徴として、人間達にとっても必要な存在となっているようだ。



キアラ 25歳
実はもう少女とは呼べない年だけどそんな事を言うと手に持ったロッドでめっちゃ殴られる。
毎日寝る前に得意の魔法で少しずつ時を巻き戻しているらしく、年齢にしては子供っぽい見た目をしているのはそういうことらしい。永遠の17歳。
そんなわけで、たぶん20年後も40年後も同じ見た目をしていると思われる。