轟く地響き。朦々と立ち上る砂塵の向こうに、塔のような影が霞む。何の前触れも無くゆらりと顕れたそれは、殆ど人の形をしていた。殆どというのは、その影には人にあらざるべき翼や尻尾が見て取れる。およそ人間であるが、しかし人間とは根本的に異なる存在。
「ふふっ……あははは、こんなに大きな建物を作っちゃって……私に踏み潰されたいのかな?」
 視界を遮る砂嵐の遥か上から、それは嘲るように言った。よく通るメゾ・ソプラノの美声で。
 その言葉を紡ぐ唇は瑞々しく鮮やかで、誰しもが接吻をしたくなるほどに美しかった。対する肌は大理石のように白く皇か。すっと通る鼻筋や、宝石のような蒼い瞳を湛える目。まだ少し幼さの残る可愛らしく、そして美しい少女の顔。
 それを下に辿れば、その幼い顔には不釣合いなほどたわわに実った巨大な乳房が、純白の胸当てに重たそうに支えられて谷間を寄せる。真っ白な雪原のようなお腹を辿れば、白のパレオを結んだ腰も同じく隆起し女性らしい魅力を醸し出している。その出で立ちはまるで水着姿の美女。腰まで伸ばした艶やかな銀髪を風になびかせ、パレオが捲れ上がるのも構わずに、その美しい肢体を逃げ惑う人間達に惜しげもなく魅せつけていた。
 まさしく塔のように太く大きな、しかしながら健康的でしなやかな脚を交互に踏み出し、その怪物は。
「ごめんね、本当にごめん。でも……もっと気持ちよくなりたいの」
 白龍の少女、クレアは。笑顔でそう言い放った。


「はああああぁ!? 足の裏が性感帯になる呪いいぃ!?」
 大砲のような怒号が空を駆け抜ける。
 神聖バハムート帝国女帝、バハムートはあまりにも余りな報告に驚き、そして呆れ、さらにこれからの対策にぐったりとうなだれた。白龍少女出現の報を受け、そういえば今日は朝からクレアを見てないなと思いその都市に偵察部隊を向かわせた結果、よりにもよって。
「最悪だ……。クレアちゃんがやられた……」
 町の外に広がる森をその巨大な身体の下にバキバキと敷き潰して、バハムートはくてんと寝そべった。ただでさえクレアの足裏は敏感だというのに、そこに呪いとあってはもはや手の施しようがない。なにせ、かの白龍はバハムートなんかよりもずっとずっと龍の本能に正直なのだから。
 破壊と、生殖。脅威となるものを滅ぼし、利となるものを愛し繁栄させる龍の本能。その恐ろしさはほかでもないバハムート自信がその身をもってよくよく知っている。だからこそ、その欲求の双方に強烈に働きかけるこの呪いはクレアを暴走させるに十分すぎるものであると嫌でもわかってしまうのである。
「寝てる場合じゃないよ。このままじゃ大陸全土が……私たちまであの子に踏み潰されかねない」
  そんなバハムートの鼻先で彼女を叱咤するのは白魔道士の少女、キアラ。白と黒、二匹の龍の保護者で、それがために暴走時のクレアの危険性も嫌というほど熟知している。
「そうよ、なんとか呪いを解かないと……」
 漆黒の袖なしドレスからばらばらと木々の枝葉を振りまいて、黒龍の少女はむくりと起き上がった。





 白龍の少女は脚を高らかに持ち上げ、白亜のオーバーニーブーツに覆われたその脚を踏み下ろした。音速を超えて跳ね上がる瓦礫、そしてやや遅れてクレアの耳に届く心地のよい破壊音。足の裏から伝わる、崩壊の感触、地震。まさしく動くビルといえるほどの巨人の一歩は、都市そのものを震撼させ恐怖のどん底に叩き落した。
「ふあぁ……ブーツの上からなのに……とっても気持ちいいよぉ」
 頬に手を当てて、うっとりと快楽に浸るクレア。既に息も荒く、純白の下着に影を落としてじわりと愛液が滲んでいる。左腕で、両の手でも余る巨大な胸をぎゅーっと抱きしめて、右手は下着の上からぐいぐいと割れ目を押し込み。そしてそんなはしたないポーズのまま、彼女は下着が露になるのも構わずに高々と脚を持ち上げる。
 風を切って思い切り踏み下ろされた彼女のブーツは、踝程度の高さのアパートを二棟もまとめて踏み潰した。サクッという脆く儚い抵抗。それが、強烈な電撃のようにクレアの全身を駆け巡る。
「ひあぁっ、いい、凄くいいよっ……!!」
 その足をぐりぐりと踏みにじれば、まるで性器の中をかき回されているかのような強烈な快感がクレアを貫く。その過程で、逃げ惑う人間を磨り潰してしまった事も、今の足裏ならばブーツ越しでさえ感じられた。建物もいいが、その繊細な感触をもう少し味わってみたいとすら思えるほどに。
「あはは、人間さん、潰しちゃったぁ……。ごめん、ごめんね……でも、だめ、止まらないの……!」
 足を踏み下ろした衝撃で大地を転げまわる人間達をとろけるような瞳で、しかし冷ややかに見下ろして彼女は冷たく微笑んだ。まるで人間を、快楽のための玩具としてしか見ていないような、そんな笑みで。
 対する人間達は、そんな目で見下されてもなお、必死で生きようと逃げ回っていた。人間としての、否、生き物としての尊厳すら否定されてでも、死にたくないその一心で、ぐちゃぐちゃに壊れた町を。
 あんなに頑丈でびくともしないように思えた電柱が、巨龍の少女のつま先の身悶え一つで恐れをなしたかのように地に倒れ伏す。中途半端に強度にすぐれた電線に引っ張られて、次々に。一抱えほどもある変圧器や電線が千切れ飛び、わらわらと逃げ惑う人間達に襲い掛かった。
 重たい変圧器は人間を簡単に真っ赤な飛沫に変えてしまう。張力の限界を超えて引きちぎられた電線は空間を裂く鞭となって軌道上の人間を切り裂く。つま先を動かしただけでこんな事態を引き起こした白龍の少女は、そうして逃げ惑う人間達を見下ろして面白そうにクスクスと笑う、嗤う。
 そして、電柱の洗礼を生き延びた人間達の上に、持ち上げたつま先を移動させて……何の迷いも無く踏み潰した。建物ではなく、明確に、人間を狙って踏み潰したのだ。
「あんっ! 私の靴底で人間さんが潰れちゃったぁ……あんなに一生懸命逃げてたのにね。いい、すごく、凄く気持ちいいよぉ……!」
 足の下に消えた彼らが、血とコンクリートの粉末が入り混じった硝泥となり果てるまで、クレアはぐりぐりと足を踏みにじる。性器をこすり付けるかのように、甘く残酷な快楽に身をやつして。
 助かろうとするその心を踏み潰し踏みにじった。そのあまりに背徳的で、残酷な行為がかえって快感を生む。
「だ、だめぇっ……大きくなっちゃうっ!!」
 ぐぐっ……ぐぐぐ……。クレアの身体が、瓦礫を押しのけて巨大化する。その巨大化の際の破壊すら、クレアの足裏にとっては刺激が強すぎるほど。
 けれど、せっかくこんな楽しい身体になったんだから、もっともっと楽しまなくっちゃ損。一気に巨大化してしまったら、山をいくつ踏み潰しても足りなくなってしまうだろう。ぐっとこらえて、クレアの身長は250メートル程度で留まった。まるで絶頂の寸前で潮を我慢するような感覚に、クレアはぶるっと身震いをする。
 さっきより大きくなった身体は、さっきよりも多くのものを一度に破壊する事ができる。それはとてもとても、気持ちがいいに違いない。
 ためしに、そっと足を踏み出してみる。ブーツの底が、こつんとマンションの屋上を捉え、そしてその衝撃で突き崩してしまった。ただ、たったそれだけでクレアはびくんと身をすくめる。
「どうしよう、気持ちがよくて……気持ちよすぎてどうにかなっちゃいそう!」
 もう十分どうにかなってしまった後ではあるのだけれど。
 ブーツの上からでもこんなに気持ちがいいのだから、もしブーツを脱いで町を踏み潰したら……そう考えるだけで、クレアの股間はヒクヒクと疼き、えっちなヨダレがむちむちの太股をツゥと伝う。
 建物を潰すだけでもこんなに気持ちいい……じゃぁ、今度はそこにいる人間達を踏み潰したらどうなってしまうんだろう。クレアの心の中で残酷な好奇心が膨れ上がる。また、彼らの希望を踏みにじって気持ちよくなりたい。けれど、今度はただ踏み潰すだけじゃなくて……。
「ふふっ、逃げてる逃げてる。本当に、人間さんは可愛いなぁ……」
 歪んだ愛情に胸を焦がすクレア。そんな彼女がその氷の瞳で彼らを一瞥すると、逃げ惑っていた人間達の足元が喩えでもなんでもなく凍りついた。一歩たりとも逃げられぬほどに、硬く冷たく。
「えへへ、つかまえた~。これでもう皆逃げられないんだから」
 動けなくなった人間達の上に翳されるあまりにも巨大なブーツ。ところどころにこびりついた血痕は、自分達も間違いなくあのシミになるのだという未来を、恐怖を、絶望を与える。確実なのだ。逃げようが無いのだ。
 そしてそうとわかっているからこそ、あの白龍の少女はわざとゆっくりゆっくりと、足を下ろしていく。死を、死そのものを実感させて、足よりも先に絶望で押し潰す快楽を味わっているのだ。
「どうぉ? 怖い……? すっごく怖いよね。ごめんね、本当にごめんなさい。でも、なんだか……その怖い、って思ってるあなた達がとても可愛く思えちゃってダメなの。すっごくゾクゾクしちゃって……」
 裏返った愛情が全身を駆け抜け、クレアは身震いする。道の周囲の町並みが、雷のような大音響を上げて崩れ去るその様を見せつけるように、じっくりゆっくりと足を下ろす。木々がしなり、そしてその限界を超え悲鳴を上げて砕けるように折れる。家の屋根が歪み、窓ガラスが飛び散る。壁が割れる、柱が倒れる。まるでこの世の終わりのような光景の中、低く、さらに低く、全てを押し潰して迫り来る血塗られた靴底。必死で逃げようともがけどもがけど、凍りついた足は一切動かず、そして絶望と恐怖の渦の中、彼らは自分が潰える音を聞くのだ。
「ひゃうっ! あぁ、あんなに沢山の人たちが、私に踏み潰されちゃったんだね……いいよ、すごく気持ちいい……っ!」
 プチプチとはじけていく人の感触に指を噛み身を捩るクレア。数百人分のあの恐ろしい体験が、たった一人の少女の快感となって消え果る。その無常さが、その無力さが、クレアの性欲をさらに駆り立てた。
 もっと、もっとたくさん踏み潰して、もっともっと気持ちよくなりたい!
「うーん、もうだめ、我慢できないっ!!」
 クレアはマンションやらが吹き飛ぶのもお構い無しに足を振りぬき、汗と愛液にぴったりと吸い付いてしまっているオーバーニーブーツを脱ぎ捨てた。クレアの脚を離れたブーツはその勢いで1kmほど飛び、その自重だけで町を蹴散らして滑り何本もの雑居ビルを蹴倒してようやく静止した。朦々と立ち上る煙と破壊の轍が整った都市区画に痛々しく刻み込まれる。足で感じずに壊してしまうのも少しもったいない気がするけれど、これが一番足裏に触らないで脱ぐ方法でもあったのだからしかたがない。
 とはいえ、最初の一歩はかなり勇気が要った。なにせブーツ越しでもあんなに気持ちがよかったのだ。そーっと、そーっと。膨らむ、期待と不安。その様子はまるで処女が初めてに怯えているかのように見えた。
 そしてファーストコンタクト。周辺で一番高いマンションに足の裏が触れる。それだけ、たったそれだけなのに、まだ壊れるほどの圧をかけてもいないのにクレアはびっくぅーんと肩をすくめ跳ね上がった。けれどそれが余計にいけなかった。跳ね上がったからにはその戻りが当然来るわけで、その際に思いっきり町の中に足を踏み下ろしてしまったのだ。
「っ――――!!!!!」
 声にすらならない叫び。サファイアの瞳を大きく見開いて、呼吸すら止めて。あまりの快感に彼女は膝を折り、そして後ろ向きに尻餅をついて座り込んでしまった。けれどもそれだけに飽き足らず、ジタバタともがいて周囲の雑居ビルを握り潰さんばかりの勢いで抜き取り、口に咥えて噛み潰す。雑居ビルが、彼女の口に含めてしまうほどの大きさ。今の一瞬で、クレアの身長は500メートルを優に超えてしまった。いつもの大きさの3~4倍程度と言ったところだ。
 ヒクヒクと痙攣する彼女の股間からは愛液が溢れ出し、どうやら今の衝撃で絶頂を迎えてしまったらしい。溢れる寸前まで来ていたダムが決壊するのには十分すぎたのだ。
 けれど彼女はまだまだ満足しない。
「あはは……やっちゃったぁ。けど、私もっと沢山できるもん」
 クレアは町を押し潰して投げ出された自分の脚の間に興味をそそられた。割かし広い、クレアが足を下ろしても大丈夫そうな空き地があって、そこに人間達が集まっているのだ。それが学校というもので、有事の際に避難所として活用されるなどということはクレアにとってはどうでもよくて。
「いいものみーっけ! えへへ……ねぇ、みんな。踏み潰されたくなかったら私を気持ちよくしてよ」
 大事なのは、自分を気持ちよくしてくれる人間さんたちが一杯いるということ。
 クレアはその巨大な、けれど繊細な足を哀れな人間達の上に翳してゆっくりと下ろしていく。勿論、簡単に踏み潰してしまってはあまりにもつまらないし、そんなのは建物で十分なのだ。ここは一つ、人間にしかできない事をやってもらおうと。
「ねぇ、私の足の裏……舐めて」
 ぎりぎり、人間達の身体を感じたところでクレアは足を止めた。人間の少女であればこんな体勢、こんな微妙な力加減を維持する事など不可能だろうが、しかし彼女は強靭な肉体を持った龍。この程度の事はお茶の子さいさい、快楽を得るためとあってはなおのことである。
 しかし彼女の期待とは裏腹に、人間達はなかなか動かなかった。恐怖に萎縮しきってしまい、動く事すらできないのだ。
「なぁに? できないのかな? もしできなかったら……こう、だからね」
 クレアは親指をぐいと地面に押しつけた。当然その裏で身動きが取れなくなっていた人間達は壮絶な断末魔を残して弾け飛ぶことになる。
「ひぁぅっ……!! はぁ、はぁ……だから、こうなりたくなかったらちゃんと舐めてよ」
 自分自身も、暖かな人間を押し潰した快感に貫かれながらも、ここで力加減をミスして全部押し潰してしまってはせっかくの人間の群れが水泡と帰すこととなる。家を潰した時よりもずっと気持ちがいいのだが、そこはどうにか自分の指に歯型ができるほど間でこらえた。
 しかし程なくして、クレアの足裏を人間達の小さな舌がちろちろと舐め始めるとそうもいかなくなってくる。
「ひっ……あっ、あぁっ……はぁ、はぁ、っく! なにこれぇ……気持ちよすぎて……だめっ、まだ大きくなったら……ダメだもん!!」
 指を噛み千切ってしまいそうなほど歯を食いしばって、それでもなお押さえきれない快感。あまりの快楽に涙、涎、汗、愛液……あらゆるところから体液を流して悶え乱れるクレア。一人エッチでもなく、二人エッチでもなく、今足の裏にいる全員が自分とエッチしている、そんな感覚。
 こんなに気持ちがいいのに、それでも身体は更なる快感を求め、クレアの手は下着をずらして飛空挺すら飲み込めてしまいそうな割れ目をまさぐりはじめた。快感は足し算どころか、乗算となってクレアの全身を暴れ狂い。
「もっと……もっと! あっ、あぁ、もう、だめええぇっ!!」
 いよいよ限界を超えて絶頂を向かえた。指を秘所に突っ込んだままのせいで、その愛液は思ったよりも飛び、クレアの股の間の住宅地を無差別に爆撃する。
「……っはぁ、はぁ……ふふっ、皆ありがとう。大好きだよ」
 そうは言ったものの、当然クレアの足の下に生存者などいるはずがない。絶頂の際に、さらに身体が巨大化してしまい、その際に押し潰されてしまったのだろう。クレアの足はもはや空き地に収まりきらず、周囲の区画に侵入して運の無い建造物を押し潰してしまっていた。
 ねっとりと、暖かい感触を足の裏に感じ、そしてクレアは愛おしそうに足の甲を撫でる。さっきまで足の裏で、彼らとつながっていたという実感が、その暖かい感情が、踏み潰してしまった喪失感と共にゾクゾクと身体を駆ける。
「よっこら……しょっ!」
 尻尾と腕、そして羽ばたきを使って、足をほとんど使わずに直立姿勢に戻るクレア。彼女のお尻からばらばらと瓦礫が降り注ぐ。
「あ~、結構大きくなっちゃったかな?」
 見下ろす世界は、先ほどよりもずっとずっと小さくなっていた。クレアの身長、実に1700メートル。普段の10倍、人間の千倍もの大きさにまで巨大化してしまっている。
 先ほどまでの人間とのえっちで、大分この感覚にも慣れてきたのか、ブーツ越し程度では膝は崩れなくなったクレアであったが、それでもこうして立っているだけで常に秘所に何かを突っ込まれて微妙に動かされているような感覚がある。
「……この大きさで歩いたらどんなに気持ちがいいんだろう」
 期待に満ちた目をきらきらと輝かせ、クレアはおっかなびっくりブーツをまだ履いているほうの脚から踏み出してみる。
 町を押しのけ大地を穿っていた巨大な塔が、メリメリと地鳴りを立て大地を割って持ち上がる。ブーツの底の凹凸に引っかかっていた巨岩が重力に負けて名残惜しそうにばらばらと落下していく。勿論そこには天然の岩のみならず、鉄板にされてしまった車や魔導列車も混ざっていたのだが、もはや1000倍の巨体となってしまったクレアの前では何れも砂利のようなものであった。
 足はビルよりも遥か高く上空300メートルに持ち上がり、そしていよいよ上昇が下降に転ずる。轟と吹き荒れるダウンバースト。爆風をどうにか耐え凌いだ低層ビル郡に畳み掛けるように、クレアのブーツが襲い掛かった。
 まず一番最初に犠牲になるのは当然の事ながら最も高く立派なもの。20階建てのオフィスビル、その屋上の給水タンクがブーツの底と接触して爆発するようにその中身をぶちまける。それを支える鉄の櫓もまるで飴細工みたいにぐにゃりと歪み、まるで全く抵抗らしいものを見せない。
 そしていよいよ屋上階がその重みを受け止めて、屋根が階層ごと砕けるようにして抜け落ちる。その様子はまるで木枠の中に泥で固めた板があったんじゃないかと思うほどに脆く、抜け崩れて下階にその重みを預けた。やがてそれに遅れて鉄骨があり得ない方向に歪み、ビルは内側からから爆ぜるように窓ガラスや様々なものをばら撒きながら地面に吸い込まれていく。
 ほんの僅か1秒未満の出来事。しかしながらあまりにも壮大で、そして壮絶な1秒。クレアのブーツは、そこにあったビル全てに対してこれを行い、中を逃げ惑う人間ごとぐしゃりと押し潰してしまった。
 そしてクレアはその壮絶な破壊劇の全てを、足の裏に感じていた。崩れ行くビルの爆ぜる感触を、そして既に崩れたビルをさらに細かく踏み砕いて自分の足が柔らかい地面にめり込む感触を。ブーツ越しにでさえ。全ての階層が砕けるその微細な力の伝播ですら、今の彼女にはバイブとなって鮮烈な快楽を生み出すのだ。
「あぁ、やっぱりさっきの大きさで踏むよりもずっと気持ちいいよぉ……」
 クレアは満足そうに、ふにゃふにゃと紡ぐ。
 じゃぁ、だったら。
 もし素足の右足で踏み潰したら、どんなに気持ちがいいことだろう? 高鳴る胸。膨らむ期待。ぞくぞくと体中をめぐる破壊と快楽の衝動に自分をぎゅっと抱きしめて、クレアは右足を持ち上げる。
 興奮に渇いた喉から、自覚するほどの荒い息遣い。覚悟と期待を込めて、クレアは一歩を踏み出した。
「ひぇぁうっ!?」
 そのあまりの快感に、クレアは叫ばずにはいられなかった。崩れ去るビルの階層構造が、その一階一階の崩壊ごとに性感帯たる足の裏に強烈な快感を与えるのだ。それが、足の覆い尽くす限り幾棟も。
 そのまま右足に重心を預けきってしまうのが怖いほどの快感。それに遅れて、クレアは太股を下る生暖かい液体を感じた。直接性器に触れずして2度目の絶頂を迎えてしまったのだ。もしかすると一瞬意識が飛んでいたのかも知れない。
「ふふっ、またやっちゃった。もうパンツもいらないね」
 クレアは既にびっしょりと濡れてしまった下着の紐を解いて脱ぎ捨て、その可愛らしい女性器を露出させた。一応程度にスカート代わりのパレオもあるが、なにせクレアがあの大きさでは町のどこにいてもそれが見えてしまう。
 それでも、当然ながらクレアは気にしない。たとえ見られたとしても、後でこの国全部を玩具にして遊ぶつもりなのだから。
 今度はブーツに覆われた左足で踏み出し、再び町を区画ごとその足の下に消し去るクレア。足の裏から伝わる電撃のような快楽に、上の口からも下の口からもだらしなく涎をたらして、けれどとても幸せそうに彼女は歩く。一歩、また一歩と踏み出す度に天に轟く喘ぎ声を上げて、可愛らしい女性器をビクンと痙攣させ、漏れ出した愛液は強烈な威力を持った質量爆弾としてまだ無傷の地域に降り注ぎ人間や車をばらばらに吹き飛ばしてしまう。秘所を丸出しにして、歩む度にお漏らしする自分を皆が見上げているという恥ずかしさですら快感の一部に感じられるほどに、クレアはこの町を踏み潰して歩くことの快感に魅入られてしまっていた。
 けれど、でも。まだまだ、きっともっと気持ちがいいやりかたがあるんじゃないかな。クレアはふと立ち止まって周囲を見渡してみる。もはやこの街にはクレアより大きなものなど何一つ無いため視界は地平線まで。よって、次の目標は簡単に見つかった。
 この街でも特に大きな高層ビル群だ。普段のクレアよりも大きいものさえあるような。
 一歩ごとに喘ぎながらもそれに近寄ると、クレアは左足を覆っていたオーバーニーブーツを脱ぎ始めた。普通に潰してしまうのではつまらない、と思ったのである。
 快感につられて、クレアの中の龍の魔性がうずくのだ。もっともっと苛め倒して、それから踏み潰したらきっと気持ちがいいよ、と。
「えへへ、こんにちは。私、クレア。今日はみんなと遊びたくってこんなところまで来ちゃったんだ」
 クレアはその中から一本を選んで、握り潰さないようにそっと持ち上げた。瓦礫となって基部が崩れ落ちていくが、龍の魔力でどうにか崩壊だけは免れている様子である。その落ちていく中に人間の姿を認めると、クレアの嗜虐心はさらに刺激された。
「どうぉ? 怖い?」
 クレアは小瓶にも満たない小さなビルに向かってにっこりと笑いかけた。わざわざ口の中に生えている鋭い八重歯を見せつけて。ビルの中に人々が震え上がっているのがわかる。食べられてしまうのかと、誰しもがそう思っただろう。
「あ~ん、なんてね」
 クレアも彼らの考えがわかってか、ビルを口元まで持っていってぐわっと大きく口を開けた。ただそれだけでビルの中は大混乱。それが面白くって滑稽でたまらない。どんなに逃げても逃げても、彼らはクレアの手の中から出られはしないのだから。
「今日は食べるよりも、こっちのほうで遊んで欲しい気分なんだ」
 クレアはそう言って彼らに微笑みかけると、ビル郡の横でくたりとなっているブーツを手に取った。今の今まで興奮したクレアが履いていたため中からはホカホカの蒸気が立ち上っている。
 ビルの中の人間は皆、まさかと思ったことだろう。だが、そのまさかなのである。迫り来る暗黒の筒口はまるで巨大魚の口のよう。あるいは一度入れば消して光を拝む事のできないブラックホールのようにさえ思えたし、きっとそれはあながち間違いでもないのだろう。ビルはクレアの魔力に強引に保護されてブーツの底にたどり着いた。
 クレアのブーツは所謂ニーハイブーツであり、とてもではないが人間が登る事などで来たものではない。彼女の、800以上もある美脚の太股までを覆いつくすほど。ビルどころか、なんとかタワーだろうがなんとかツリーだろうがおおよそのものはすっぽりなのだ。
 そんな脱出不可能な牢獄の中に、次々とビルが放りこまれては魔力に受け止められて軟着陸する。いっそのこと砕け散ってしまったほうが楽な未来が待っていることは明らかなのに。丸く切り取られた絶望色の空から、次々に哀れな犠牲者が放り込まれてくる。
「ふっふ~ん、結構溜まったかな~?」
 暫くすると、ブーツは筒の中ほどまでビルで満たされる事となった。本来ならとっくの昔に崩壊していてもおかしくないのだが、クレアの魔力で強引に固定されているため自重で潰れてしまうような事は無いらしい。
「どうぉ? みんな、女の子のブーツの中にいるんだよ? ふふっ、悔しくないの? ブーツの中なんかに入れられちゃって……逃げたかったら逃げてもいいんだよ?」
 クレアはブーツの中を覗きこみ、花の咲くような笑顔で人々を煽った。勿論答えるものなど無いし、皆言われずとも既に逃げ出そうとはしているのだ。
「あ~、でもむりかなぁ? みんな私よりもずーっと小さいんだもんね。普段の私だって、今の私のブーツの中に入れられたら泣いちゃうかも」
 クスクス、と噛み締めるような笑い。非力な彼らを煽ると共に、今の自分はそんな彼らが手も足も出ない100倍サイズの巨人ですらブーツの中に入れて踏み潰せてしまうほどの巨人なんだと認識する事でさらに興奮が高まる。
「それじゃ、みんな……私を気持ちよくして」
 クレアはブーツの筒口にその巨大なつま先を差し込んだ。その過程で足裏がブーツにすれるたびに、色っぽいあえぎ声がブーツの中の閉ざされた空間に幾重にもこだまする。
 逃げ場の無い中、迫り来るクレアの足。可愛らしく、皇かで、そして繊細で……しかしありとあらゆるもの全てを踏み潰してしまう恐ろしいプレス機が、わざわざ恐怖を煽るかのようにゆっくりゆっくりおりてくる。それは形容するならばまさしく、空が落ちてくるといった様。あるいは、世界が閉じると感じるほどの圧迫感。
「ねぇ、靴の中のみんなはどんな景色を見てるのかなぁ? 怖い? 怖いよね……ふふっ、いいよ、とっても。もっともっと、怖がって。なんだかね、とってもゾクゾクしちゃうの」
 クレアは左足の脹脛をゆっくりと色っぽく撫でて、ブーツの筒に足を通していく。今か今かと、接触の瞬間を楽しみに楽しみに待ちわびて。
 そしてその時はやってきた。
「ひぅっ……あはっ、いい、凄くいいよ、これ……!!」
 魔力で強化しているため丈夫な、しかし繊細で細かい構造を持ったビルが足の裏で一層ずつぱちぱちと爆ぜる感触。そしてその中で潰れる、人、ひと、ヒト……。それら全てがクレアの性感帯を激しく刺激し、心をとろけさせ本日何度目かすらもわからぬ絶頂へといざなう。けれどまだ、まだだ。
 つま先が、靴底に達する。けれどまだ踵側には押し潰されていないビルが沢山ある。今ブーツの壁とクレアの足裏の壁に挟まれたこの空間にいる人間達はいったいどれほどの恐怖を味わっているのだろうか。想像するだけで裏返った快感がゾクゾクと体中を駆け巡るのだ。
 そしてそれもゆっくりゆっくりと、味わうように押し潰していく。まるでアルミ缶を潰すみたいに簡単に、けれどももったいぶって。剥がれ落ちる外装、そして靴底を必死で逃げ惑う人間。けれど踵と反対側に逃げたところでそこにはクレアの巨大なつま先が既に下ろされており、回り込むにも時間がない。結局のところ逃げ場の無いままクレアの踵は降りてきて、彼らは漏れなくそこで押し潰されてクレアに激しい快感を与える。 雷鳴のような喘ぎ声が轟き、そして身悶えする足。それによって、運よく土踏まずに逃れた者も磨り潰され、つま先に逃れたものも持ち上がったブーツのつま先からクレアの足指に叩きつけられて絶命した。運よく足指の間に挟まったものもいたが、それは決して幸運などではなかった。
「ふあぁっ!? 足の指の間に人が……!? だめ、暴れないでぇっ、そんなところで暴れられたら……だ、だめ、あぁ、んっ、んっ、ふああぁ、もう無理、いく、いくううううっ!!」
 ぷっしゃああぁぁ。クレアの秘所から流れ落ちる愛液の滝が、オフィスビルに流れ落ち位置エネルギーのままにオフィスビルを叩き潰してしまう。気がついてみれば指の間に既に人の気配は無く、どうやら絶頂時にぎゅっとして握り潰してしまったようであった。
「ふふっ、どんなに逃げても無駄だってわかってるのに、やっぱり逃げずにはいられないんだね」
 クレアはうっとりと呟くと、立ち上がって辺りを見廻す。どうやら今の絶頂で完全に拘束が解けてしまったらしい。クレアの本来の大きさ、8700メートル、実に人間の5000倍の超巨人に戻ってしまっていた。
「さて、次は何しようかな~?」
 クレアはブーツから左足を抜いて、前よりもさらに小さくなった街の上に踏み下ろした。足の下から伝わる破壊の感触、地響き、地震の衝撃、それら全てが快楽の電位となって駆け巡り、思わずクレアは膝を突きそうになる。
「あぁ、やっぱり気持ちいいよぉ……もっと、もっと歩きたい!」
 両足素足となったクレアは、一歩4キロメートルにも及ぶ歩幅で、大地を踏みしめ巨大な地震を巻き起こしながら歩き始めた。さっきまでブーツに覆われていた脛や脹脛が風を切る感触がとても心地いい。その一歩を踏み出す度に、丘も川も関係なく足の下で真っ平らな平面図と成り果てて、クレアにその分の快楽を与える。巨龍の少女の、立った一瞬の”気持ちいい”のためだけに幾千幾万もの命がその足の下に消えていく。
「そういえば、こんなのはどうだろ?」
 クレアはふと足を止めて、いつだったか股間を擦り付けて国を一つ磨り潰してしまった時の事を思い出した。もしかすると、あんな感じで足の裏もずりずりやったら気持ちいいかもしれない。いや、気持ちいいに違いない。
 クレアは住宅が密集している場所を選ぶと、そこにぴとりと足を下ろした。まさしく山のような足が、家々を数十区画まとめて押し潰し置き換わる。けれど本当に恐ろしいのはここからだった。
 その巨大な白い霊峰が、街を巻き込んで動き始めたのだ。それは決してブルドーザーなんて安いたとえに納まるようなものではなかった。ありとあらゆる物を地盤ごと引き剥がし、そして巻き込み引きずり込み、最終的に足の下で粉々に磨り潰される。山だった場所だろうとなんだろうと、全てがクレアの足の通ったとおりのその形に削られた大峡谷となるのだ。
「ぁあ……すごくいい! ちっちゃな家がいっぱい足の指の間に入って潰れて……」
 ゆっくり、ゆっくりと動かしているうちはまだ自分が保てそうだけれど、クレアのその足の動きは当然段々と激しさを増していき、喘ぎ声も次第に早く激しくなっていく。とてもじゃないけれど自分で自分を制御なんて今更できるはずも無く、クレアは足元がぐちゃぐちゃになるまで足を地面にこすりつけ続け、ついには潮を伴う絶頂を向かえた。今日のクレアはほぼ濡れっぱなしである。
 ふらり、と身体が傾く感覚に手を突いてみれば、クレアのその手はひんやり冷たい山脈を握り潰してしまった。どうやらまた大きくなってしまったらしい。その大きさ、実に5万倍。先ほどまでの5000倍サイズの自分ですら小人に見えるほど、クレアにとっての現状の最大サイズである。
「ふふっ……この大きさなら世界のどんな山も踏み潰せちゃうね」
 世界中の山を踏み潰して回ったら、いったいどのくらい気持ちよくなれるんだろう? この星よりも大きくなれたりするかなぁ、なんてことを考えているクレアに、不意に声がかけられた。
「クレアちゃん! クレアちゃんってば!!」
「……あれ? バハムートちゃん?」
 クレアはとろんとした目つきで周囲を見廻す。
「ここよここ! 文字通りの目と鼻の先!!」
 言われてみて焦点がようやく合った。今のクレアからすれば、身長149メートルのバハムートですら3ミリ程度のアリのような存在なのだ。目を凝らしてようやく見えるといったところ。
「バハムートちゃん? ふふっ、バハムートちゃんも遊びたいの……?」
 完全に龍の破壊本能が暴走しきったクレアはバハムートを見ても悪びれることなくそうたずねた。
「え? あー、そうね……」
 バハムートは考えた。ここで大っぴらにクレアの暴走を止める! とか宣言してしまってはおそらくクレアにふーっと息を吹きかけられるだけでヤムチャ確定である。ならば。
「ねぇ、私もクレアちゃんと同じ大きさにしてよ。もっと気持ちよくしてあげるからさ」
 こうすることにした。
 優秀な白魔道士たるキアラの解析によれば、この手の呪いを断ち切るには被術者の意識を奪った上で、暫くの間じっとしていてもらう必要があるらしい。だから、彼女の意識を奪える程度には大きくならなければいけないのだ。といって、バハムートは別に自分で巨大化できるわけではない。クレアから魔力を強制注入されることによってのみ普段の自分の大きさ以上に巨大化できるのである。
「うん、いいよ~」
 そんなバハムートの思惑など知らずに、クレアはそれを了承した。クレアがスゥ、と息を吸い込むと、空を飛んでいたバハムートは簡単に吸い寄せられ、そしてその唇に激突する。サイズが違いすぎるが、一応これでも魔力の注入はできるのだろう。バハムートの身体は次第に大きくなっていき、暫くの後にクレアと同じ人間の5万倍にまで達した。しかし、それでもクレアのほうが力は強いし、戦闘勘も遥かに上。力ずくでは厳しいだろう。故に彼女はこうすることにした。
「クレアちゃん、足、舐めてあげるよ。好きでしょう?」
 バハムートは不敵な笑みを浮かべてクレアに問いかけた。もちろん気持ちがよくなりたい彼女がそれを拒むわけもなく。
「いいの? バハムートちゃんにそんなことさせるなんて……けどやってくれるならひぁうっ!?」
 クレアの返事を聞く前に、バハムートはそれを実行に移していた。なにせ拒否されてはこの作戦は成り立たないのだから。山脈の向こうの町に手を伸ばして、それをごっそり削り取り口に含んだバハムート。それをクレアの足の裏に押し付けて磨り潰し、指の股に舌を侵入させて押し潰す。
「っ……!! ん――――……!! ――――――!!!!」
 もはや声すら出す事もできず、逃げ出そうにも全身既に骨抜きとなったクレアにそんな力も残されておらず。ただただバハムートの成すがまま、やりたい放題ペロペロされるがまま。小人なんかの舌よりも遥かに大きく、暖かい。街を丸ごと乗せてしまえるほどの巨大な舌による、街を磨り潰しながらの愛撫は足裏が性器と化したクレアにとってあまりにも余る。
 既に絶頂を向かえ、最初に暴れ始めたあの街を愛液の湖に沈めてもなおバハムートの愛撫は止まらない。的確に、クレアの足の気持ちがいいところを押さえてそこにビルを押し付け舌先で磨り潰す。程なくして、一切の抵抗をすることもできず、クレアの視界は真っ白になって――。



「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!!」
 目覚めて我に返ってからというもの、クレアはずっとこんな感じであった。もう丸二日間ずっと泣きっぱなしで。
「いや、だから……呪いはどうしようもないから。もういいからさ。バハムートがちゃんと全部元通りにして、記憶消去までしてきたから」
 そんなクレアを宥めるキアラも二日掛かりの大仕事であった。
「違うよ……私がやったんだもん。気持ちいいからって……それで……!!」
「しかたがないわよ。それが龍の本性なんだから」
 バハムートがクレアの背中をそっと撫でる。
「クレア、あなたの場合は特にね」
「バハムート、それってどういうこと?」
 キアラが何か引っかかったように尋ねた。
「あ、えーっと。このくらいで済んだのが奇跡ってことかしらね。まぁ……解る時が着たら解るし、来なければ知る必要なんて無いわ」
 バハムートがうずくまるクレアの後ろからそっと抱いて答えた。今はこうしていられるだけで幸せだからそれでいいじゃない、とでも言いたげな表情であったし、キアラも今はそれに水を刺す気にはあまりなれなかった。
「にしても、龍に効く呪いがあったなんてね……」
 バハムートは話題を変えたかったのか、それとも本心からかそう呟いた。
「本来あるわけ無いんだけどね……クレアの防壁を破るほどの呪いなんて。足の裏を性感帯にするだけどはいえ、普通は人間の魔力では足りないはず。けど呪いを使うには人間特有の負の感情が必要……」
 キアラもその謎に関してはどうやら同じく疑問だったようで、バハムートの言葉に頷く。
「要するに、犯人は化け物じみた人間、ってことかしら?」
 バハムートの言葉に、キアラは眉を寄せて考え込むような様子を見せた。暫しの沈黙の後、キアラはやや重たげに口を開く。
「……それができそうな人、一人知ってるわ。けどまさか……そんなことするような人じゃないんだけど」

つづけ!