「あれ……? こんなブーツ持ってたっけ?」
 白魔道士の少女――キアラは、物置の奥から現れた覚えの無いブーツに眉をひそめた。一年の汚れを払い新年を迎えるための大掃除の最中。要るもの要らないものを分けて捨てるために色んな所を漁っていると、随分古いものなんかも出てきたりする。大抵のものはぼんやりながら入手経路を覚えているものなのだが、物置の最奥、大き目の木箱に詰め込まれたこの真っ白なブーツについては買った覚えも貰った覚えも無かった。
 箱の中から引っ張り出してみると、それはオーバーニーの編み上げブーツであった。履いた覚えが無いのに、大分くたびれているように見える。
 しかしこのブーツ、履いた覚えこそ無いものの見覚えならあった。彼女が世話をしている巨龍の少女、クレアがいつも履いているあのブーツにそっくりだ。身長175メートルもの巨躯が歩く度に踏み出され、森だろうがビルだろうが何でも踏み潰し踏み砕くブーツ。それをそのまま縮小したような感じ。
「クレアの……?」
 キアラはブーツをひっくり返して底を確認した。もしあの子のものならば、人を踏み潰した時のシミの一つや二つでもついているんじゃないかと思ったのだ。
「……って、さすがにそれはないか」
 幸いそんな事はなく、靴底は綺麗。でも、見れば見るほどそれはクレアのブーツにそっくり。
「ん、この箱……2重底だ」
 一度ブーツを木箱に戻そうとして、キアラはその底板に指をかける穴があることに気がついた。何が入っているんだろう、とその板に指をかけて引っ張る。この時点で、なんとなく嫌な予感がキアラの脳裏を掠めたのだが、好奇心が勝って彼女は底板を取り除いた。
「!! クレアの……下着? いやあれは下着じゃないか」
 箱の底に折りたたまれて入っていたのは、クレアが普段身に纏っている、最低限隠さなければならないところだけ隠すのみの薄絹だ。胸当てから、パレオ、それにパンツまで、いつも見上げるあの姿そのもの。作り物にしては、あまりにも良くできていて、不気味にすら思える。
「いったいこんなもの、誰が……いやでもうちの物置は結界で私しか入れないはずだし……私しかいないよね」
 暫し凍りつき、いろいろと思考を巡らせるキアラ。一応納得できる結論として彼女が出したのが――お酒に酔った勢いで、最愛の龍の衣装を仕立て屋に作らせた挙句後から恥ずかしくなって封印したのではないか? というものだった。
 とりあえず自分を強引に納得させることが出来たところで、次に沸いてくるのは。
「これ、着れるかなぁ?」
 という、危険な好奇心だった。
「クレアと、お揃いかぁ……」
 キアラは衣装をにらんでごくりと唾を飲む。はっきり言ってかなり際どい衣装だ。これで外を出歩けば、いわゆる痴女というやつになるだろう。それに、外見年齢こそ15歳のままだが、実年齢25歳の自分がこれを……。
 でも着たい。着てみたい。
「……外に出なければ大丈夫、だよね」



 
 遠く高い青空。決して届くことの無いその高みを目指して、いくつもの摩天楼が高く並び立つ。そのすぐ真横に、ビルと見紛うほどの巨大なブーツが突き立った。
「……えっと、その。みなさん、こんにちは~!」
 そのブーツの主は、金髪碧眼の美少女、キアラ。彼女は頬を赤らめ、蜂蜜色のセミロングを揺らして恥ずかしそうに手を振った。
 いつもはどことなく清楚な出で立ちの彼女が、こんな下着一枚みたいな姿で現れたことに、縮小都市の人々は驚いた。さらに、その衣装がかつてこの国を滅ぼした白龍の少女のものと同じであることにもう一度驚き。そして、今日のキアラはそういう気分なんだな、と悟った。
 キアラは基本的に優しく善良な管理者で、縮小都市の人々からの人気も高いのだが……たまにこうして、巨大娘ごっこと称して大暴れをするのである。
「わぁ、慌ててる慌ててる……本当に、可愛い子達」
 キアラは頬に手を当てて恍惚とした表情を浮かべた。この衣装を着ているだけで、なんだかいつもと違うプレイが楽しめそう、と期待に胸を膨らます。
「ふふっ、今日の私は、怪獣ですよ!」
 キアラは早速足を持ち上げて、細い道路が入り組む住宅地へと足を踏み下ろした。ブーツの下で、サクッと家の潰れる感触。路面がひび割れ、逃げ惑う縮小人間たちを貪欲に飲み込んだ。
 こうして1歩踏み出してみると、先ほどまでの気恥ずかしさはどこへやら。自分の一歩が巻き起こした大惨事のおかげで、怪獣としてのロールにすっかり浸りきってしまえる。どうせここは張り巡らせた結界のおかげでキアラとあの2匹しか入れないのだから、誰かに見られることも無い。
 足を持ち上げるたびに、腰に巻かれたパレオが持ち上がって、純白の下着がちらりと覗く。普段のスカートともまた違った露出感に、キアラはなんとも言えない快楽を感じた。痴女だな、と自分でも思いつつ、それでもこの縮小都市の人々に対しては随分と今更のこと。電車やバスを出したり入れたりが日常茶飯事なのだから、今更気にすることなど無い。
 キアラは暫く街を歩き回って、その色っぽい肢体を余すことなく魅せつけた。一歩、また一歩と踏み出すたびに興奮が高まり、ほどなくしてキアラの股はじっとりと湿る。
「ん……そろそろ……いいかな?」
 キアラは足元に魔力機関車の駅を観とめると、高々と足を持ち上げ駅舎の屋根ごと踏み潰した。足を持ち上げてみれば、ブーツの底には鉄板となった列車の車体が2両も張り付いている。たった24cmの少女の足ですら、彼らにとっては24メートル。た駅に並んで停車している全ての列車を機能停止に追い込むには、たった一撃でも十分すぎた。
 壊滅した駅を股の間に収めて、背後のビルを押し潰し座り込むキアラ。力なく転がった客車を持ち上げ、愛おしそうに中を覗きこんだ。そしてまだまだ沢山の乗客が乗っていることを確かめた上で、キアラはそれを下の口へ。
「この程度なら、脱がなくても入っちゃうね」
 つぷ、くぷぷ……空気の逃げる微かな音とともに、列車はずらした下着の隙間からキアラのトンネルの中に押し込まれていく。
「んっ……私の中にっ……小人さん達が沢山入っちゃったぁ……」
 列車を完全に飲み込んで、局部を愛おしそうにさすって身もだえするキアラ。衣装が違うだけで、いつもよりもずーっと興奮が高まっているような気さえする。いつもはしっかりとブラウスを着ているから脱ぐのも大変だけれど、クレアの服ならすぐに全部脱げる。そういうのもやってみたいかも……などといけない想像をめぐらせ、キアラの吐息は熱く、早くなっていく。
 けれど、ある程度したところでキアラは違和感を覚えた。きゅっと締め付けてみると、中に入れたはずのものが大分小さくなっているのだ。感じられないほどに。
「あれ……?」
 キアラは目をぱちくりやって、辺りを見回した。明らかに、地面が遠い。いや、それだけじゃない。さっきまでは駅の反対側のビルを突き崩していただけのブーツが、今となってはその数区画先の大通りまで届いている。当然ながら、そこに至るまでの経路はキアラの踵でごっそりと抉り取られて灰色の粘土質の土壌を露出させていた。
「嘘、私……大きくなってる?」
 慌てて立ち上がると、キアラの足は耳慣れない地響きを起こした。ただそれだけで周囲のビルが崩れ落ちて行く。ついさっきまでは、キアラでさえ見上げなければならないほどの2m超のビルが沢山あったのに、今ではそれも膝丈に遠く及ばない。縮小都市を使った巨大娘ごっこのはずが、いつの間にか本当に身体が大きくなっていただなんて。
「この服、もしかして……よく出来た複製なんかじゃなくって、本物なんじゃ……っ!?」
 キアラの身体を、激しい快感が駆け抜けた。まるで電気ショックを受けたかのようで、キアラは成すすべもなく地面に崩れた。どっしぃぃん! と、人間サイズでは出せるはずの無い轟音をたててキアラのお尻が街を粉々に粉砕する。
(やっぱり、私大きくなっちゃってるんだ……!)
 快楽の渦の中、不安と期待が入り混じる。ごっこ遊びまでして焦がれた巨大な身体。けれど、人の身で巨人となったらどんなことになってしまうのか……。
 一閃、強烈な快楽がキアラの身を貫いて、暗転する意識。ほんの一瞬なのか、暫く気を失っていたのかは分からないが、気づいたときにはキアラはM字に足を開き塩を吹いて果てていた。
 そんなキアラのあられもない姿を遮るものは何一つ無い。力なく放り出された脚は自宅裏の沼地からはみ出し、並び立つ木々をへし折って根ごと掘り返された無残な切り株をいくつも作っていた。
 股の間に、辛うじて巨大化に巻き込まれなかった街がキアラの愛液の中に浮かんでいた。そのサイズからして、今のキアラの大きさは実に人間の100倍。100分の一サイズの彼らから見れば実に1万倍もの女神のよう。
「キアラ……ちゃん?」
 そんな彼女に、戸惑うようにかけられる声。快楽にやられてぼーっとする頭をどうにか動かしてみれば、そこには彼女の愛する2匹、白と黒の龍が唖然とした表情で座り込んでいた。
 白いほうが、クレア。艶やかでしなやかな白銀の髪は、膝のあたりまである超ロング。17歳とは思えないほどむっちりと発達した身体を持ちながら、顔はどことなく垢抜けない可愛らしさ。最低限隠さなければならないところだけ隠したその衣装は、巨大な身体を見上げる人の目のやり場を困らせる。天使を思わせるような大きな翼、そしてパレオをめくりあげる逞しい尻尾が、人の姿を取りながらも本来は強大なドラゴンなのだということを言葉なくして語っている。美しくも愛らしく、そして力強い印象を受ける。
 黒いほうは、バハムート。クレアに劣らず、膝の辺りまである黒絹の髪は夜そのもののような美しさと気高さ。クレアと比べると大変華奢で、ほっそりとした手足を、闇色の長手袋とオーバーニーソックスが覆う。その割りにドレスはミニスカでノースリーブと、こちらもとても扇情的な出で立ち。15歳という年齢にしては若干控えめな胸が、申し訳程度にドレスを持ち上げている。翼は夜の使者たる蝙蝠のよう。
 いつもならば、首が痛くなるほど見上げなくてはならない相手。それが今、キアラの目の前に、キアラと同じ大きさでぺたんと座り込んでいる。互いの距離は400mはあるはずなのに、とても近い。
「キアラちゃん……だよね?」
 震える声でクレアがつぶやいた。
「えっと……うん。なんだか大きくなっちゃったみたい……」
「本当に、本当にキアラちゃん?」
 今度はバハムートが、信じられないといった様子で身を乗り出し、キアラをまじまじと見つめる。
「え? うん。あの……、やっぱり、変かな。これ」
 キアラはクレアのものと全く同じ衣装の、パレオを摘んでもごもごと聞いた。年甲斐もなくこんな露出度の高い服なんて、無理するんじゃなかっただろうか。外見年齢は15歳のままだけれど。
「いや、そういうんじゃなくって……キアラちゃん、それ……」
 バハムートが地響きを立ててよろよろと歩み寄って、震える手をキアラに伸ばした。その手はキアラの肩を通り過ぎて……背中から生えた何かに当たった。
「っ!?」
 キアラはその感触にびくりと身をすくめる。ばさり、背後の空気が動く音。間違いない。人間にはあるはずのないものが生えている。
「うそ……」
 信じられない、といった様子で唖然とするキアラと2匹の龍。恐る恐る沼の水面を覗き込んでみれば、そこに映ったのはクレアのものと同じ立派な翼を持ったキアラであった。いや、翼だけではない。視界の隅で不安げに揺れ動いているのは尻尾に違いない。
「私、ドラゴンになっちゃったの……?」




 大地が不規則に揺れ、そのたびに木々が砕ける音が一帯に響き渡る。それを巻き起こしているのは3匹分6本の脚。うち2本はややおぼつかない様子だった。
「キアラちゃん、大丈夫? 無理しなくって良いわよ?」
 バハムートとクレアの手を握り、おっかなびっくり歩みを進めるキアラ。身体のサイズが変ったせいで、歩くにも脚を踏み出すタイミングが狂ってしまうのだ。
「大丈夫、やっと慣れてきたよ……」
「そう。じゃあちょと手、離して一人で歩いてみる?」
「ん……、このままがいい」
 キアラはバハムートとクレアの手をぎゅっと握りなおした。あれほど巨大だったあの手を、こうして握り締めることが出来る。どんなに愛しくても、体格差が故に握ってもらうことしかできなかったあの手を握り返せる。キアラにとってこれほどまでに焦がれたことはなかった。
「んはー、はぁー。我慢……我慢……!!」
 そんな一方で、クレアはもう既に息も荒く辛抱たまらん状態。クレアの下着は既にじっとりで、吸収し切れなかったものが滝のように太股を伝って流れ落ちている。
 3人は、バハムートの管理する街に向かっている途中であった。バハムートやクレアがしたくなっちゃった時に、それを処理するためだけに使う街である。ようするに、クレアもバハムートもキアラも、今すぐにいろんなことをしたくてたまらないのだった。
 目的の街にたどり着いたのは、キアラがようやっと普通に歩けるようになってからのことだった。
 レンガ造りの倉庫や、気取った洋風建築の立ち並ぶレトロな街。街灯ひとつとっても芸術品のようで、そこに走る車や路面電車、それどころか街を行く少女達にでさえ気品が感じられる。いかにもバハムートの趣味らしい街だった。
 そして、そんな美しい街をこれからめちゃくちゃに壊しながらいろんなことを……と思うとキアラの秘所もむずむずと疼きだす。
「ほら、キアラちゃん。自己紹介!」
 バハムートに促されて、キアラははっと我に返る。
「え、えと……私はキアラ。白魔道士の……いや、今は違うのかな……? 多分、白龍のキアラです」
 3匹の襲来に、慌てふためく少女達。あの一人ひとりが、さっきまでの自分と同じ大きさの人間なんだと思うと、よく分からない倒錯的な快感がゾクゾクと身体を駆け抜ける。
「自己紹介終わった? いいよね、いいんだよね?」
「えぇ、いいわよ」
 バハムートが言い終わる前に、クレアはキアラに飛びついた。キアラの耳元で風が唸り、ものすごい勢いで押し倒される。
 その背中は触れたものを全て爆砕し、そして地面を10メートル以上陥没させて激しい地震を巻き起こした。どうにか体勢を立て直そうとついた手が、自動車を数台まとめてスクラップにし、反対側では10階建ての銀行をぶち抜いて真っ二つに切り裂いてしまった。しかし、これだけ派手にやったのにまるで痛くない。
 キアラはクレアに圧し掛かられるまま、その背中に手を回してぎゅっと彼女を抱きしめた。7万トンものクレアの体重。それを全身で感じることの出来る幸せ。今までならば、ちょっとついた手にですら押し潰されてしまうのに、今はこうして体全部を受け止めてあげることが出来る。あんなに巨大だった彼女を抱きしめることが出来る……!!
「キアラちゃん……!」
 クレアは感極まったかのようにうっとりと呟き、無造作に手を伸ばしてノロノロと走っていた路面電車を捕まえた。そして長く伸びた爪を突き立てて屋根を剥がし、中に乗っていた人々を口の中に放り込む。
「クレア……!」
 キアラが求めるまでもなく、クレアはキアラに唇を寄せてキスを交わす。人間が間に挟まれたら、潰されるを通り越して堆積岩にされてしまいそうなほど高圧のキス。それだけに留まらず、クレアの舌がキアラの唇を分けてキアラの口内に侵入した。それも、先ほど口の中に放り込んだ少女達とともに。
 自分の口の中に、あの巨大な、そして最愛のクレアの舌が入り込んでいる。その事実に興奮したキアラは、思わずその舌を甘噛みしてしまった。舌と歯の間に挟まれた不運な少女がそこにいたのにも関わらず。
 口の中で、じわりと血の味が広がる。普段だったら、嫌な味だと思ってしまうところだったはずが、キアラの味覚は既に人のそれとはかけ離れてしまっていた。甘い。血の、鉄の味が……とても甘い。
「んー……」
 舌を優しく噛まれたままのクレアが、抗議の声を漏らした。キアラがクレアの舌を解放すると、彼女の舌はすぐに暴れだし、口内を必死でもがきまわる少女達をキアラの舌や口蓋に押し付けてプチプチと弾けさせた。
 さっきまでの自分と同じ、人間の少女達を口の中で潰してしまう。本来忌むべきはずの行動に、キアラは激しい興奮を覚えた。キアラの中のキアラではない何か。邪悪で凶悪な龍の本能が首をもたげる。破壊と、性欲……龍の本質がキアラを支配して行く。
「ぷっ……はぁ……」
 クレアが口を離す頃には、キアラの翡翠色の瞳はすっかり龍の眼差しへと変わり果てていた。
「キアラちゃん、私も」
 今度は、バハムートが座り込んでキアラにキスをおねだりする。勿論キアラはそれを拒むことなく、顔を横に向けてバハムートのキスを受け入れた。その際に、目の前でひしゃげたガス灯や、バハムートの髪がそれを薙いでへし折ってしまうのを見てキアラの破壊衝動はさらに高まる。
 互いを確かめ合うような、深く長いキスの後。キアラは上半身を起こして。
「ねぇ、私……もっと壊したい」
 とろんとした目つきで、うっとりと呟いた。
「ふふ、いいよ?」
 クレアはキアラの上をどいて、彼女の手を引いて立ち上がらせた。砕けたレンガや石礫が豪雨の如く地面に叩きつけ、土色の嵐を巻き起こす。
「じゃぁ、ドラゴンのせんぱいとして気持ち良いこと、たくさん教えてあげるね。靴……脱いでごらん」
 クレアは優しく、まるでお姉さんのようにキアラを撫でた。こうして同じ倍率で並び立つと、クレアのほうが15メートルほど大きいため、本当に彼女のほうが姉みたいに映る。
「うん、そうする」
 キアラはブーツの紐を解こうとして、その紐が上手く解けないことに気づいた。これはおそらくクレアのブーツと全く同じもの。とすれば、彼女が見よう見真似で甲殻を変じさせたブーツがちゃんとその手の機能を再現できていなくてもおかしくはない。
「うーん、脱げない……」
 汗と腿を伝って流れ込んだ愛液で湿ってくっ付き、筒の長さもあいまってそう簡単に脱げそうにない。
「手伝ってあげる!」
 クレアが、キアラのむっちりとした太股とブーツの筒口の間に指を差し込んで、両手の力でぐいと無理やり筒を押し下げた。あまりの摩擦力にブーツとキアラの肌の間で眩いほどの火花が散ったが、まるで熱くもないしキアラの肌にもブーツにも傷一つ出来ない。
「あとは脚をね、ぶんぶんやれば抜けるよ」
 クレアはなんだか自慢げに、自分のブーツを脚を振りぬいてスポーンと脱ぎ捨てた。普通この手のブーツには脱ぎやすくするためのジッパーがついている物なんだけれど……とキアラは思ったが、ふんふん言いながら頑張ってブーツから脚を抜こうとするクレアが可愛らしかったのでやめにした。
 クレアに習って、キアラもブーツを遠くに飛ばす。脚が入っていたその抜け殻だけで、はるか彼方まで町を蹴散らしてしまえるこの感覚は、確かになんとも言えない快感だった。このサイズで”明日天気になぁれ!”とかやってみたいなぁ、などとキアラは思う。
 そして、ようやくブーツを脱ぎ終わったその脚を倉庫街の上に踏み下ろしたその瞬間。キアラの全身を電撃のような快感が襲った。
「っ……なにこれっ……だめぇ!!」
 不慣れ、それもここに至るまでに大分興奮していたキアラが絶頂に至るにはその刺激は十分すぎた。どうやら龍の足というのは人間のものよりもはるかに感じやすいらしい。整った眉を八の字に寄せて、キアラは快感に身をよじる。
 そんなキアラの反応に、凄くそそられたのはバハムートであった。なんだか、もっとキアラを歩かせて反応を楽しみたいと思ってしまったのである。
「クレアちゃん、もう片方も脱がせてあげて」
「はぁい!」
「っ! めっ、これ以上……これ以上やったら気持ちよすぎておかしくなっちゃう……っ!!」
 キアラが言うが、クレアは聞く耳を持たない。言いつつも、実はまんざらでもないことを分かってのことだろう。キアラのブーツをずりずりと引き下ろして、白い脚を露出させた。
 汗でしっとりと湿った柔らかな足が、陽光を捉えてきらきらと輝く。まるで新設のゲレンデのような滑らかさ。大理石の巨塔のような脚が、恐る恐る踏み下ろされる。まずは、足指が立ち並ぶ低層ビルの給水塔をぐにゃりと歪めてひしゃげさせ、圧力のかかった水が豪勢に弾け飛ぶ。その時点で既にキアラは限界を感じていたが、けれどいつまでも片足で立っているわけにも行かなかった。立っているだけで、足の裏が気持ち良く、今にも膝から崩れてしまうそうなのだ。
 続いていよいよ脚の重みが建物本体に圧し掛かる。積載量をはるかに超える重さに構造が歪み、綺麗に張られた窓ガラスが歪みに耐えかね滝のように割れ落ちて行く。そしてそこからは一思いに。潰れるとか崩れるといった表現を超越し、まさに建物が爆ぜるようにしてキアラの足の下に消える。
「っ……!」
 よろけるようにして、キアラは自分よりも一回り小さなバハムートにその身を預けた。けれど、それは大きな判断ミスだったことをキアラは悟る。
 バハムートはキアラのパレオをめくりあげ、下着をずらして既にぐしょぐしょのキアラの股間に指を突っ込んだのだ。
「ひぅっ!!」
 一瞬走る鋭い痛み。けれど、それもすぐに快感へと変わる。
「ずっと、やってみたかったのよね、これ」
 バハムートはうっとりと紡いだ。
「キアラちゃんのここを、いっぱいシアワセにしてあげたいって。けど、私のじゃぁ指だってあなたの胴体よりも太いんだから入るわけなかった……」
 バハムートにぐいと押され、キアラは倒れそうになって脚を後ろに踏み出す。バハムートに秘所をまさぐられての快感と、足の下で沢山の家や車、そして人間を踏み潰すことで生まれる狂った快感。その両方が一度にキアラを襲い、まだ使い慣れてない翼や尻尾をびくびくと痙攣させる。
「キアラちゃん、大好き!」
 言いながらも、バハムートの攻め手は止まらない。龍のメスが最も感じるところを的確に突き、そして快楽の渦でまともに力がはいらないキアラをぐいぐいと押して無理やり歩かせる。そのたびに、キアラの足元では家が爆ぜ、地盤の沈下に巻き込まれた木々が傾き、路面電車の架線は張力に耐えかねて空を裂く凶器となる。そんな大惨事とは裏腹に、キアラの快感はいよいよ頂へと至り。
「もう、だめぇ……っ!!」
 自身の掠れた声を遠く聞き、キアラの視界は光に包まれた。





 ――数日後。
「キアラちゃーん!」
 大音量の呼び声に、キアラの家の窓がびりびりと震える。
「また大きくなって遊びに行こう!」
「クレアちゃん、あの子は今忙しいから……」
 どうやら、あの愛しの龍たちがキアラを遊びに誘いに来たらしい。
 キアラは例の一式を持って家の外に出る。
「大丈夫、昨日の夜には大体調べ終わったよ。着替えるから待ってて~!」
 精一杯声を張り上げて、高層ビルのような2匹の巨龍を見上げるキアラ。あの後何度か巨大化してみて、この体は小さくて不便だなぁ、なんて思うようになってしまった。けれど、屋根のある場所で寝れるのは他の龍にはない特権だろうか。
「終わったのね。身体は大丈夫?」
「人間に戻ったときも翼や尻尾の幻肢がある。けどそれ以外は好調かな」
「そっか。それで、結果は?」
「うん、これはクレアの抜け殻を縮小して加工したもので間違いないね。私が龍になっちゃったのも、クレアの莫大な魔力があの中に封じられてるから」
 キアラはローブとブラウスを脱ぎ捨てて淡々と着替える。外で。今は2匹以外には誰もいないのもあるのだけれど、一度巨大化すると見られることに無頓着になってしまうらしい。
 クレアの、抜け殻。龍という生き物は成長の際に脱皮をするもので、人間に化けた状態で脱皮を行うと、甲殻が変じたものである衣装を脱ぎ捨てて新しい衣装を形成する。その際に捨てられる古い衣装は毎年キアラが解体して、村の運営資金として売り飛ばされるのだが……。
「今年の夏も去年の夏も、脱皮しなかったよね? もう成長止まったのかと思ってたんだけど……」
「うーん、私も脱皮してないと思ってたんだけど……」
 クレアが不思議そうに首を傾げる。
「とすれば、クレアが寝てる間に誰かが脱がせて持ち去ったってことになるかな」
 クレアの足元で、小さな点みたいに見えていたキアラがぐんぐんと大きくなり、2匹に肩を並べた。ばさり、と羽を散らして翼が広がり、尻尾が空を裂いて唸る。
「そんな事が出来るのって、私たちと同じ龍くらいじゃない?」
「いや……だいたい中りはついてるんだけどね。まぁ、その人じゃないといいなーって思ってる」
「先生……かな?」
 クレアがやや戸惑うように、キアラの様子を伺いながら呟いた。
「うん、こんなことが出来るのは先生……私の魔法の師匠しかいない」
「え? キアラちゃんの先生……? 先生なんていたんだ?」
 バハムートが心底驚いたようにキアラにたずねる。
「当たり前でしょう? 独学で魔法を学ぶなんて私には無理。ま、10年前にでてったっきり何の連絡もよこさないんだけど……あの人ならクレアが寝てる間に強制脱皮させるくらいは」
「そんなに凄い人なんだ……」
「どういうつもりか知らないけどね。ま、悪い人じゃないから……」
「そうそう。ちょと何考えてるか分からないところがあるだけだよ。そんなことより、ほら! せっかくキアラちゃんが大きくなったんあから、もっと沢山楽しい事しよ!」
 クレアが、花の咲くような笑顔で2匹の手をぐいと引っ張る。
「そっか、そうだね!」
 キアラもそれに乗っかり、クレアと一緒に大地を揺るがして走り出した。
「うーん、何事もなければいいんだけど」
 バハムートはそんな2匹の背中を追いかけつつ、心に一抹の不安を抱くのであった。


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キアラ(ドラゴン状態)
身長 165メートル
体重 51000トン
超絶空気をついに脱却したい。できたらいいな。一応この子今までも主人公だったらしいです。
実際は翼と尻尾の重さがあるためもっと重いと思われますが、このサイズの少女の体重を性格に計測する機器などあるはずもないため龍たちの詳細な体重は永遠の謎。基本的に今まで出てきているのは全て人間サイズだったらこの程度、というと子おから逆算された体重なので翼や尻尾は計算に入っていないのです。