快晴の空に花火が開き、盛大なファンファーレがビルの峡谷に鳴り渡る。片側5車線の大通りを威風堂々と行進するのは鈍く輝く巨大な戦車。見た目に違わぬ地鳴りと地響き、見るものを圧倒する浪漫の塊だ。道端に並んだ観客たちの中にはその振動に足を取られ、列からはみ出るものもあった。
 ところが。
「あ、リヴァイアちゃん、元気〜?」
 ずっしいぃぃん! 突如上から降ってきたブーツの下に、軍事的浪漫は消えてしまった。道端の観客たちは足を取られるどころか数十センチも跳ね上がり、地面に転がる羽目となった。そのブーツの持ち主は、水着か下着のような薄衣を纏った巨大な少女。背中には天使のような羽、腰に巻かれたパレオからは太くたくましい尻尾。白龍のクレアだ。
 クレアはたった一歩で帝国通貨で1億は降らない被害を出しておきながら、何かを踏みつぶしたとさえ気付かずに、2歩3歩と次々に戦車を踏み潰して自分のお目当てに歩み寄る。
「クレアさん、足元が大変なことになっていますよ?」
 その先には、腰まで伸びた蒼髪をポニーテールに纏めた巨龍の少女、リヴァイアサンがいた。身長170メートル、体重5万5千トン。背中には龍の証たる立派な翼があり、その翼膜はステンドグラスのような虹色に透き通っていた。海にいる間は人魚のような下半身だが、その気になれば足を出すこともできるらしく、魚の尾ひれはクレアと同じく尻尾の位置に収まっていた。
 そんな彼女が慣れない足でなるべく被害を出さないようにしずしずと歩いていたのに、その気遣いは全くの無駄となってしまったようだ。
「あ、ごめんなさい……」
 クレアが足を持ち上げると、その下で鉄板と成り果てた戦車が乾いた音を立てて剥がれ落ちる。
「やれやれ、クレアちゃんは興味を持ったらそれ以外見えなくなるんだから……」
 そんな彼女の背後から地響きを立ててやってくるのはこの国の主たるバハムート。2匹に比べるととても華奢で小さい。夜の闇を織ったような漆黒のミニスカドレスにハイヒール。黒絹の長髪をふぁさりと払って身なりを質すその姿は上品で、けれどどこかませた雰囲気を感じさせる。
「リヴァイアちゃん、それなぁに?」
 バハムートが得意の再生魔法で足元の惨事を収めると、クレアの興味はすぐ他に移った。サファイアのような瞳をパチクリとやって首をかしげ、腰まである白銀の髪がそれを追ってサラリと開く。
「あぁ、これですか? お土産ですよ〜」
 リヴァイアサンは小脇に抱えた水瓶を、よっこらしょと持ち直した。10階建てのビルに相当するような巨大なそれは、人間の100倍という体躯をしても少々重たそうだ。リヴァイアサンが瓶の蓋に爪を立てると、クレアの目はもう釘付けといった様。あんな大きな壺に何が入っているんだろう、食べ物かな、飲み物かな? なんて心の声がだだ漏れだ。
瓶の中身は、そんなクレアの期待を裏切らないものだった。
「これ……お酒?」
 ふわりと立ち上るアルコールに、バハムートは少々驚いたようであった。
「お嫌いでした……?」
「ん、嫌いではないわ……というよりも、ちゃんと味がわかるほど飲んだことがないの」
 バハムートが飲むお酒といえば、宮廷で開かれる晩餐会に供されるワイン。領内の貴族や衛星国の要人に振る舞われるそれは、とても高価で貴重なものらしい。バハムートが飲めるほどの量が用意できないのだ。だからと言って女帝バハムートのワインのランクを落とすわけにもいかず、そんなわけで乾杯の際に樽を1つ干すのみとなる。ワイン1樽というのはバハムートの唇を濡らす程度でしかなく、舌の上で唾液と混ざってしまえば味も香りも霧散してしまうわけだ。
「なるほど。お気に召すと宜しいのですが」
 興味津々、といった様子で水瓶の口に頭を寄せてくんくんと匂いを嗅ぐ2匹。未知との遭遇に色めき立つ彼女らを見下ろして、リヴァイアサンが微笑んだ。
 

「ぷっはー! これおいしー!!」
 花の咲くような満面の笑みで、氷のグラスを差し出すクレア。高さだけで10メートル以上もあるグラスに、蜜のように濃厚なお酒が並々と注がれる。
「お口に合ったようで何よりです。まだまだ沢山出せますから、遠慮なさらず飲んでくださいね」
 リヴァイアサンは蒼い髪をさらりとかきあげて、ちょっっぴり自慢げに言った。
「そういえば、これだけ飲めばさすがに減りそうなものだけど……何か魔法を使ってる?」
 そんなリヴァイアサンの言に疑問を感じたらしいのは、この3匹からみれば、豆粒のように小さい人間。白魔道士の少女、キアラがバハムートの鎖骨に腰掛けてお酒を煽っていた。
「ご明察です。この水瓶には私の魔法がかかっているんですよ。海水を召喚して、その中の有機物を分解してアルコールや糖にしているんです。私の都にはお酒が湧き出る噴水もあるんですよ〜!」
ちょっぴり自慢げに説明するリヴァイアサン。
「げほごほっ!! そ、そうなのね……。スゴーイ……」
 そして、自分が飲んでいるものの正体を知って咳き込むバハムート。海中の有機物というと、ちょっと見た目がアレなプランクトンやオキアミが思い浮かぶ。まぁ、原型がなくなっているならいいか、と再びグラスに口をつけ。
「ちょ、ちょっと! バハムート!!」
 そのグラスの中から声をかけられてハッとする。先ほどまで鎖骨に乗っかっていたキアラがいない。どうやら咳き込んだ時に落っこちてしまったらしい。それも……並々とお酒の注がれたグラスの中へ。
「わっ、キアラちゃん! ごめん……」
 慌てて摘み上げるも、キアラのローブはぐしょぐしょに濡れ、蜂蜜色のセミロングは糖分でべったり。そこそこ美人のはずが、まるでホラー映画に出てくる幽霊のようになってしまっていた。
「はー、そのまま飲み込まれちゃうかと思ったよ……ひっく!」
 全身からお酒を滴らせ、バハムートの手のひらにべしゃりと倒れこむキアラ。バハムートのグラスの中は、人間からしたら荒れ狂う海のようなもので、大量のお酒を飲んでしまったらしい。
「ほんとゴメン! あの、私が言うのもなんだけど……大丈夫?」
「ひっく! うん、大丈夫、大丈夫。私こう見えて、結構飲めるほうだから……ひっく!」
 バハムートの手のひらにできたお酒の水溜りから起き上がり、重たくなったローブを引きずってフラフラと立ち上がるキアラ。普段は雪のように白い肌がゆでダコのようになっているのがバハムートの目からもはっきりとわかった。
「これは……大丈夫じゃないですね。お酒に酔った人はみんなそう言うんです。時を巻き戻して差し上げたほうが……」
 ふらり、と倒れ込みそうになるキアラにリヴァイアサンがそっと小指を差し出し眉をハの字に寄せる。
「へーきへーき! むしろ浴びるほど飲んでみたいって思ってたんだー! だからいいの! ほら、続きしよ! 続き! 酒持ってこーい!」
 バハムートの掌にごろんと寝っころがり、ふにゃふにゃ、にへらーと楽しそうに叫ぶキアラ。これはだめだ……とバハムートとリヴァイアサンが目を合わせたその時。
「ひっく!」
 バハムートとリヴァイアサンの背後。キアラのものよりずっと大きなしゃっくりが帝都に轟いた。恐る恐る振り返ってみれば、やはりそこには2匹が思い描いた通りのクレアがいた。
「えへへ〜、なんだかぽわぽわしてあったか〜い!」
 これはまずいと思う間も無く、クレアがリヴァイアサンの首に手を回してぎゅっと抱きよせる。
「リヴァイアちゃんひんやりして気持ちいい〜!」
 その過程で、2匹の間にあった60メートル程度のビルがクレアとリヴァイアサンの太ももに挟まれてみちみちと悲鳴をあげていたが、抱きつかれたリヴァイアサンはそんなことを気にする余裕はなさそうだった。
「ちょ、クレアさん……! あの、顔……近っ……」
「リヴァイアちゃん、私と一緒に、楽しいこと……しよ?」
 水色のポニーテールをばたばたと振り乱して首を横に振るリヴァイアサンの頭をがっしと両手で固定し、その唇を奪うクレア。じたばたと抵抗していたリヴァイアサンの力がふにゃりと抜けて肩が落ち、そして我に返ったかのようにクレアの方をドンと押して突き放した。衝撃が地面に伝わって二人の間にあったビルが力なく崩れ、押されたクレアはフラフラと2、3歩後ずさって道路沿いの並木をなぎ倒し押し葉にしてしまう。結構本気の一撃だった。
「めっ! めっ、ですよ! わ、私がおっけーなのは抱っこまでですっ!! 龍同士でこんなこと……」
 琥珀色の瞳に涙を浮かべ、ハァハァと息も荒く。茹で上がった頬を、たった今奪われた唇を、両の手で覆うリヴァイアサン。実年齢は2000歳をゆうに超えながら、その所為は10歳そこそこの乙女のようだった。
 だが、リヴァイアサンは次の瞬間、自分の行いを後悔することとなった。
「すん……すん……」
 ぺたんと座り込んだ白竜の少女がサファイアの瞳にうるうると涙を湛え、今にも泣き出しそうになっていたから。いつもなら空を覆いつくしてしまう天使のような翼はしおしおと萎縮し、がっくりと肩を落として、まるで捨てられた子犬のような瞳でリヴァイアサンを見つめている。
「ぐすん……リヴァイアちゃん、嫌だった? わた……わたしのこと……き、嫌い?」
 ひく、ひっくと嗚咽を漏らしながらリヴァイアさんを問い詰めるクレア。
「そんな、大好きですよ! ほら、いらっしゃい!」
 その問いはずるい、卑怯だと思いつつもクレアの手を引いて立ち上がらせるリヴァイアサン。その広げられた腕の中にぎゅっと抱きしめられ、クレアは腰をかがめて(クレアのほうが5メートルほど背が高いので)リヴァイアサンの大きな胸に顔を埋めた。その白銀の髪を撫でながら、リヴァイアサンが助けを求めるようにバハムートを振り向く。
「あはは……クレアちゃんをどうにかしようっていうのは私たちには無理だよ。それができるキアラちゃんがこのザマだしねぇ」
「このザマってなによ〜! わらしはぁ〜! まだじぇんじぇんらいじょーぶだもんっ」
 バハムートは苦笑し、手のひらの上で伸びている白魔道士の少女の醜態をリヴァイアサンに見せつける。
「この子の面倒は私が見ておくから、あなたはクレアと遊んでてちょうだい。後始末は全部するからさ。それじゃっ!」
 轟! と風が走り抜け、高層ビル群に爆心地を作り出して舞い上がるバハムート。リヴァイアサンが「ちょっと!」と声をかけようにも、流星となって地平線の彼方だった。
 逃げられた、と思うも時既に遅し。後に残されたのは快楽のこととなればただでさえ手がつけられない白龍と、その哀れな獲物たるリヴァイアサンならびに帝都の人間たちだった。
「ふふ、リヴァイアちゃん。二人だけになっちゃったね」
 クレアはゆっくりと甘えるように言い、とろ〜んとした上目遣いでリヴァイアサンを見つめる。まるで、何かを期待しているように。
「そう、ですね……」
 リヴァイアサンの琥珀色の瞳が宙を泳ぐ。何を求められているのかは判っているらしい。けれどまだ踏ん切りが付かないのだろう、眉をハの字に寄せてただ当惑するだけであった。
「ねぇ、リヴァイアちゃん」
 クレアは一旦リヴァイアサンの腕の中から抜け出し、足元で転倒していた魔導機関車の客車を持ち上げた。クレアがそれを傾けると、中から色とりどりの服を着た人間たちがまるでチョコレート菓子のように転げ出てくる。クレアはそれを何の躊躇もなく口に含み、そして「ん」と一言、リヴァイアサンにおねだりした。
「っ……!」
 リヴァイアサンの真珠のような肌が、ゆでダコよろしく真っ赤に染まり上がる。漫画ならば目はぐるぐるで、今にも頭から蒸気でもだしそうな絵になるだろう。けれども、また拒絶して泣かれでもしたらと思うと無下にはできない。
 リヴァイアサンが固まっていると、しびれを切らしたクレアが再び唇を寄せてくる。けれど、無理やりそれを押し当てるようなことはしなかった。リヴァイアサンの唇の3メートルほど前……彼女らの感覚でいえばわずか3センチほどの距離で、目を閉じて待っている。
「くっ……えぇい、儘よ! いきますよ!!」
 覚悟を決めたらしいリヴァイアサンがいよいよクレアの唇に勢いよく吸いついた。互いの鼻筋がコツンとぶつかり、クレアが若干顔をしかめる。次いで、クレア自身も驚くような吸引でクレアの舌を引き込んでしまった。当然お約束通り、クレアの舌の上にいた人間たちも。
 少し驚いたけれど、クレアは初めて味わうリヴァイアサンの口内を舌で弄った。大理石のようにツルツルで心地いい、綺麗に並んだ歯。柔らかで暖かい舌。そんなリヴァイアサンの口内に人間たちを押し付けすり潰し、2匹で一緒に味わう人間の味。
「ぷっはぁ……どうぉ? おいしい?」
「…………はい」
 リヴァイアサンは細い声で答え、そしてクレアに倒れかかるようにして抱きついた。何も言わずに、2匹は2度目の口づけを交わす。一度やってしまったら理性のタガが外れたのか、それとも唇から流れ込むクレアの魔力に中てられたか。ちゅぷ、ちゅう、と淫らな音を帝都に轟かせて長々と、クレアとリヴァイアサンは互いの味を味わい尽くす。2匹の唇が離れその間をツゥと唾液の糸が引く頃には、クレアの魔力によって2匹ともに体長3000メートルを超えるほどにまで巨大化してしまっていた。
「気持ちいいこと、しよ?」
 クレアの誘いに、うっとりと頷くリヴァイアサン。全身をクレアの魔力に侵されて、酔っているはずのクレアよりもずっと酔って見える。
 クレアが彼女のシースルーのスカートをめくり上げて太ももに手をかけると、リヴァイアサンはびっくぅんと過剰なまでの反応を返した。魚のヒレみたいな耳が、びちびちと暴れる。
「そっかぁ、リヴァイアちゃん、足なんて普段ないもんね。それじゃきっと、とっても気持ちいいよ?」
 クレアは太ももからふくらはぎまでゆっくりと手を滑らせ、そして彼女の履いている編み上げサンダルのストラップに手をかけた。やや厚めの、底だけでその辺のビルなんかよりも高いサンダルが不器用に脱がされ、リヴァイアサンの左足を守るものは一切なくなる。
「く、クレアさん……っ! だ、だめです! こんなので歩いたらっ……おかしくなっちゃうっ……!」
 どうにか足をつかないように片足でバランスをとるリヴァイアサン。上げた足の高さは200メートル付近。吹き抜ける風に足裏を撫でられ、ただそれだけでこそばゆい快感がリヴァイアサンを侵すのだ。けれど、慣れない足、それも片足でのバランス維持なんてそう長続きするはずなどなく。
「っ……!?」
 帝都を震撼させて、リヴァイアサンの足が大地を踏みしめてしまった。普段は切れ長の目が、まんまるに見開かれ、瞳孔がきゅうっと収縮する。身体中を電撃が駆け巡り、白く染まる視界。平衡感覚すら定かでなく、ふらりと倒れこむ。そんなリヴァイアサンを、温かく柔らかなクレアの体が包み込むように受け止めた。
「はぁ……はぁ……。クレアさん……」
 リヴァイアサンはクレアの首に手を回し、もたれかかるようにして抱きついた。もうこれ以上は歩けない、とばかりに。だが、リヴァイアサンは知らなかった。バハムートもキアラも、こうしてクレアに体を預けたが最後。
「えへへ〜、リヴァイアちゃんかわいい……! すごくいいよ、とってもいい!」
 果てるまで引っ張り回されるのだということを。
 たとえリヴァイアサンがもはや動けなくとも、クレアの力は強い。リヴァイアサンを抱きしめたまま、その白亜のブーツで次々と町を踏みつぶしながらあとずさる。もはや歩くことすら叶わなくなったリヴァイアサンは股を大きく開いたままずりずりと引きずられることになるのだが、とても普段の彼女からは想像だにできない痴態を帝都中に見せつけることとなった。だらしなく開かれた股の間から大量の愛液を滝と滴らせ、荒々しい喘ぎ声を轟かせて。真っ白な足の甲が、その前に立ちふさがる100メートル級の高層ビルを次々と粉砕していく。その感覚だけでもどうにかなりそうなのに、そうして砕かれたビルの破片が足指の間に入り込んでくるのだ。普段は下半身が人魚のリヴァイアサンにとって、足を出して歩くというのは性器を直接攻められるようなものなのに、足指の間にビルの残骸や車を流し込まれて耐えられる道理などない。
「…………」
 クレアがようやくリヴァイアサンを解放して帝都郊外にうつ伏せに寝かせた頃には、リヴァイアサンは既に言葉を発する余力すらないらしかった。正にまな板の上の鯉、陸揚げされた魚のよう。いつものクレアならば、相手が本当に嫌がればすぐにやめるし、そうでなくてもここまではしない。しかし今日のクレアは酔っているのだ。
「あはは〜、あはは! リヴァイアちゃん、お魚みたーい! いいよ、その表情……すごく素敵……」
 クレアは頬に手を当ててうっとりとリヴァイアサンの顔を覗き込む。心なしか、先ほどよりも酔いが回ってきているようだ。あれからお酒は飲んでいないにもかかわらず。
「く、クレアさん……らめぇ、もう、気持ちよすぎてどうにかなっちゃいます……今も……体の下でちっちゃいビルがいっぱい潰れて……」
「いいなぁ〜! ねぇ、リヴァイアちゃん。私も気持ちよくなりたいなぁ」
「はぁ……はぁ……いい、ですよ……。お返し……してあげますっ!」
「ほんと〜!? やったぁ〜」
 クレアはオーバーニーの編み上げロングブーツに指をかけて、それを脱ぎ捨てた。乳白色のブーツの下から現れるのは、汗がきらめく瑞々しい太もも、そしてふくらはぎ。リヴァイアサンのものよりも少し太く、むっちりとした魅力に溢れた脚。そんな脚を、町を十数区画も押しつぶして投げ出し、その足先をリヴァイアサンの前に差し出した。
 どうにか持ち直したリヴァイアサンは快感を堪えつつ、ビル群を掴み取ってクレアの足裏に擦り込むように押し付けた。
「ひやぅ!! いい、とってもいいよ!」
 何千何万もの人間たちを足裏で消費したクレアの喘ぎ声が漏れる。けれど、リヴァイアサンの攻め手はこんなものでは終わらない。
「水よ……我に、従えっ!」
 リヴァイアサンが命じると、帝都の街並みから黒い竜巻が巻き起こった。それはまるで1つの生き物のようにうねり、脈動し、黒い球体となってリヴァイアサンの眼前に浮かぶ。それが、リヴァイアサンの魔力に操られた人間であると理解できるまで、クレアは数秒を要した。リヴァイアサンの力、水を操る能力を持ってすれば体の5〜7割が水分でできている人間を自在に操ることなど容易い。人間の2000倍程度の2匹から見ればわずか1ミリにも満たない砂つぶのような人間。それがどれほど集まったらあんな球体になるだろう。1万? 10万……? クレアは今まで見たことすらなかった人間玉を前にきらきらと目を輝かせた。
「ふふ……どうなっても知りませんよ?」
 リヴァイアサンが手を動かすとそれに付き従う人間玉がいよいよクレアの足裏に接触した。
「ひぎゃうっ!? っ!! だめ、やめ……や、やっ……っあああ!」
 びくんと跳ね上がるクレアの脚。その動きに跳ね飛ばされ、人間玉は形を崩す。当然クレアの足指の直撃を受けた人間は一瞬で砕け散ったが、それがクレアを追い討つことになったのは想像に難くない。
「っぁ……ぁ……」
 絞り出すような細い声で絶頂に至るクレア。先ほどまでリヴァイアサンを攻めていたのが嘘のよう、今の一撃でクレアはすっかり骨抜きになってしまった。しかし逃げようにもリヴァイアサンに操られた人間の群れはしつこくまとわりつき、かえって自体を悪化させてしまう。このサイズのクレアの身じろぎは時速数十キロにも及び、建物では入り込むことのできない指の谷間の奥深くまで入り込んだ人間がクレアが最も感じるところで弾けてしまうのだ。でも、それでもクレアは快感に脚の指を悶えさせずにはいられなかった。ぎゅっと足指を握り込めば、それぞれの指の谷間で1000人ずつほどの人間が爆ぜてクレアに潮を吹かせる。
「あらあら、指の間が人間さんの血で汚れてしまいましたね……それじゃぁ、こうしてあげましょう」
 リヴァイアサンはにんまりと微笑むと、わざとらしくクレアから見えるようにべーっと舌を出した。上空1キロの寒空にあってその舌はほかほかと暖かな湯気をあげる。もはやクレアは返事すらままならない様子であった。
 リヴァイアサンの舌が、親指と人差し指の間に入り込む。勢い余って蹴り上げられてはリヴァイアサンとて怪我をするので、一応クレアの脛をがっちりと押さえてだが、もはやびくんびくんと痙攣するクレアにそんな力は残されていないようだった。暖かな舌が、幾千もの人間と共に指の股をゆっくりねっとりと舐め繰りまわす。クレアにしてみれば、性器を直接舐め回されているようなもので、とても耐えられるような刺激ではない。しかも、その舌が人間の残骸を舐めとるだけでなく、人間を脚の指に押し付けて押しつぶしてしまうのだから。
「んー! んんーっ! あっ、めっ、だめぇっ!」
 もうすでに幾度目かわからない絶頂を迎えるクレア。下着は吹き出した愛液ですでにぐっしょぐっしょで、彼女の股間に近い街はすでに押し流され、後にはクレアの愛液湖が残るのみとなっている。いよいよ彼女が快感に負け、むくむくと体が大きくなっていく。クレアの体はあっという間に本来のサイズである8000メートルに達し、それでも治らずにまだまだ大きくなっていく。おそらく最大サイズの87kmまで大きくなるつもりだろう。これはしめたもの、とリヴァイアサンはどうにか立ち上がってクレアの親指に抱きついた。これで足裏から全身を貫くような快感に苛まれなくて済む。その上で、さらにクレアを攻められる!
 先ほどまで自分の舌が入り込んでいた指の股に自分自身が入り込み、体長3000メートルの巨体をフルに生かしてクレアの指を愛撫する。まさしく山のような巨大な胸を指に擦り付ければ、その度にクレアが悶えて激しく天地が揺れ動く。もはや人間がどうこうできる次元の話ではなくなっていた。こうして指の間に挟まれているリヴァイアサンですら、そこらの山脈なんかよりも大きいのだ。
「リヴァイアちゃん、だめ、こ、こんな大きさでイったら、みんな溺れちゃうよぉっ!!」
 クレアの悲鳴にリヴァイアサンはハッとする。だが。
「っ、でちゃだめ、だめっ……だめえええっ!!」
 もう遅かったらしい。ギリギリで持ちこたえていたらしいクレアは、結局決壊してしまった。すでに股の間に治ってしまった帝都に、山脈すらも押し流して愛液が迫り、そして帝都のはるか先、海岸に至るまで全てを押し流してしまった。



翌日。


「随分と派手にやらかしたね……まぁ、真っ先に逃げた私が言えることじゃないか……」
 まっさらになった帝都の跡地をあきれるように眺めてバハムートはため息をついた。
「クレア、魔力貸しなさい」
 クレアの抜け殻を着て巨龍娘となったキアラがクレアをこつんと小突く。
「ふえぇ、ごめんなさ〜い!! でもなんだかとっても気持ちよくって……がまんできなくて……」
 クレアが謝りながら、バハムートとキアラの手を握る。
 今は人間の百倍サイズとなったキアラから見ても見果てぬ荒野。キアラはこんなものを一回イっただけで作り出してしまえる龍の力に恐れおののくと同時に、なんとも言えない興奮を覚えた。自分もその龍の端くれになってしまったんだなと感じる。
「それにしても、龍にお酒が効くなんて聞いたことないけどなぁ」
 もはやこのレベルでの破壊と再生が日常茶飯事となってしまったバハムートは再生魔法の片手間にキアラに聞いた。
「うーん、それなんだけどね……クレアは酔ってなかったんじゃないかって思うんだ。龍に毒は効かない。アルコールを含む毒は龍の体内では一切作用しないはずなんだよね。私もこの服を着て龍になると酔いが覚めるから」
「だとしたらなおのことタチが悪いわ……さすがクレアちゃんってとこかした」
 バハムートが呆れ半分、皮肉と賞賛の入り混じった視線をクレアに向ける。
「ち……ちがうもん! なんだかぽわぽわして……すっごく気持ちよかったんだよー!」
 クレアが慌てて弁明する。弁明になっているかどうかは怪しいが、少なくとも嘘はついていないのだと主張したいらしい。
「うん、わかってる。だから、もしかして、って想像の域ではあるんだけどさ。私はクレアの抜け殻を使って龍になった……その時にクレアと繋がっちゃったんじゃないかなぁ? いわば、クレアの現し身というか、分霊というか……そういう存在になったんじゃないかって。で、その私が酔っぱらった」
「だからその酔いが本体であるクレアに伝播して、本来龍に効かないはずのお酒が効いた……と。なるほど、ありえない話ではないわね」
 バハムートが感心したように頷き、そして。
「じゃあキアラちゃんは今日から禁酒ね」
「しまっ……た……。余計なこと言うんじゃなかったー!!」
 キアラの悲鳴が、再構築されていく帝都に轟き渡った。





同刻。リヴァイアサンの都、レムリア。



「私に何用でしょうか、お客人」
 深海にある神殿、その謁見の間にて1人の人間と1匹の龍が対峙していた。1人は、少女。足首のあたりまで伸びた金色の超長髪が暗闇の中、青白い炎を受けてちらちらと輝いている。歯車の文様が入った白いローブに、天文時計を思わせる巨大な歯車のついたロッドを手にしたその姿からして、白魔道士であろうことが窺い知れた。
 1匹は言わずもがな、この神殿の主であるリヴァイアサンであった。いつもは温厚そうな切れ長の目は、尾ひれの麓にいるたった一人の人間を射貫く厳しい視線を投げかけている。
「そんな怖い顔しないで下さい。相手はただの人間ですよ? あなたがその気であれば指先ひとつ、まさに活殺自在でしょう」
 薄明かりの中、紫色に輝く少女の瞳が静かな笑みを湛えた。そう言いながらも、少女の声色や立ち居振る舞いは一切危機感を感じさせない。龍と人の力量差を知りながら一体どういうつもりかと、怪訝に思ったリヴァイアサンは心眼を用いて心中を覗き見ようと試みた。だが、心眼を全力で駆使するもまるで霧がかかったかのように何も見えない。ほんの少し、少女の口角がつり上がったのをリヴァイアサンは感じ取った。
「どうしました?」
 逆に、リヴァイアサンの心を読んだかのように少女が嗤う。
「あなたのようなモノを、私の国では人間とは呼びません」
 リヴァイアサンはそう言い放ち、そしてそこで改めて自分が今相対しているものの異様さを感じる。少なくとも人間ではない。けれど、龍でもない。
「あら、失礼。でもそう、あなたの目は間違ってない。私はきっと、人間ではないでしょう。少なくとも今は既に外道の道へと堕ちた身です。でも、私自身はいつでも、人間のためにありたいと、そう考えていますよ」
「…………。要件を伺いましょう」
 リヴァイアサンは無意識に握りしめた手のひらに嫌な汗が浮かぶのを感じた。この2000年生きてきて、こんな感覚に陥らされるモノと相対したのは初めてだ。
「では簡潔に申し上げます」
 ふぁさり、とローブを脱ぎ去った少女。謁見の間を急激に膨張した影が覆う。天使のような翼をばさりと翻すその姿に、リヴァイアサンは見覚えがあった。




「……あなたの力、私にください」





======== 以下いつもの。そろそろ書くこともなくなってきたからリヴァイアサンで考えた小ネタ =======

リヴァイアサン「私、人魚形態が本来の姿なんですけどね」
バハムート「そうでしょうね、海龍だし」
リヴァイアサン「で、この通り魔法で足を出せるんですけど……実はこの足、歩くたびに焼けた刃物の上を歩くような苦しみを味わう代償がつくのです」
クレア「嘘!? そんなぁ……」
リヴァイアサン「嘘です」
クレア「そんなぁ!!」
バハムート「人魚姫かいな」