天高く昇る夜半の月が煌々と照らす満月の夜。樹海の中にある小さな町の、そのまた外れにある簡素なログハウス。その扉が開いて、一人の少女が歩み出た。その足取りは少しおぼつかなく、頬はうっすらと紅潮していて、どうやら酔っているらしいことがうかがい知れた。
「ん〜、涼しい……」
 夜風に蜂蜜色のセミロングを靡かせる彼女は、かの白龍の飼い主。白魔道士のキアラであった。諸事情によりお酒はあの白龍が眠りについた後にしか嗜めないため、こんな時間にまだ起きていることになっている。
 程よく酔いが回り、酒に火照った体を冷ましていると、遠くから風の唸りのような音が聞こえて来る。例の白龍、クレアの寝息だ。洞穴のような口から出入りする嵐のような吐息が奏でる、低く低く腹の底に響く唸り。クレアのことをよく知らぬ者が聞けば恐ろしさに逃げ出すかもしれないが、17年間彼女に連れ添ったキアラにとっては耳慣れた愛おしい寝息である。
 その吐息の主はというと、キアラの家からおよそ100メートルは離れた場所に、こちらに足を向けて寝転がっている。にもかかわらず、彼女の巨大なブーツの底はキアラからでも森の木々越しによく見えた。こうして見ると、呆れるほど大きい。
 キアラは魔力を纏って空へと飛び上がった。地面に落ちる自分の影が小さくなり、夜の木々が作り出す黒い波の上に飛び出す。
 愛しの龍は、いつものように森の木々をなぎ倒して右向きに寝そべっていた。黒い森の中に、彼女の肢体が月明かりに照らされて白く輝いている。腰まで伸びた銀髪を無造作に投げ出して眠るその姿は、光の湖のよう。
 安らかに、気持ちよさそうにスヤスヤと眠る彼女の寝顔に、思わず笑みがこぼれる。普段のキアラから見ればおよそ100倍にもなる巨体。歩めば天地を揺るがし山を崩し川の流れすらも変えてしまうような天災少女だが、愛しくて愛しくて仕方がない。
 人形のように整った顔。まだ幼さの残るその顔立ちながら、胸当てから溢れんばかりの大きな胸。滑らかで、柔らかそうで、それでいてしっかりとくびれたお腹。そして申し訳程度に下着を隠すパレオから伸びるむっちりとしたふともも。そんなふとももを飲み込むオーバーニーブーツ……。彼女の巨体を、上から下へ、舐めるように眺めるキアラ。そんなキアラに魔が差したのはクレアの体を一通り辿り終わったその終端、つま先を見た時であった。
「クレアの足……」
 キアラは高度を落として、横倒しになったクレアの足、そのつま先部分に着地した。それを感じたのかどうか定かではないが、クレアの足指がブーツ越しにもぞもぞと身悶えし、その上に乗ったキアラは危うく転びそうになる。
「この中に、あの子の足指が……」
 その気になれば人間どころか自動車ですら挟んでスクラップにできてしまうようなあの足指。クレアのもっとも感じる場所で、キアラでは抱きしめることさえできないほど大きな足指だ。
「できるんだ……今なら」
 でもそう、今のキアラはクレアと同じサイズにまで巨大化することができる。あの、クレアの抜け殻を身に纏えば……。
「クレアの足指を、いじくりまわせるんだ」
 酔った勢いもあってか、彼女の思考には歯止めが効かない。
「やるしか……ないじゃない!」
 キアラは家に戻ると、例の抜け殻に着替えた。最近は外に出てから着替えるのが億劫で、こうして家の中で着替えて。
 めりめり……ずどーん!! 容赦無く家を吹き飛ばして巨大化するのがお気に入りである。どうせ後で魔法を使って元に戻せばいいのだから。
 件の抜け殻とは、クレアが普段身にまとっているあのエッチな鎧そのままである。鎧というよりはほぼ水着のようなもので、これで巨大化した肢体を皆の前に晒すのには最初のうちは抵抗があった。なにせこの大きさだからパンツは丸出しも同然なのだし。けれど、何回か巨大化を繰り返すうちに人間があまりにも小さく、また自分に対して見上げることしかできないのだとよく実感したキアラは、もはやその辺りを気にすることもなく、最近は平然と人々の頭上をまたいで歩くようになっている。
 家の基礎を5メートルも陥没させて地面にめり込んでいたキアラの足が、今度は森の木をへし折り粉々に砕いて踏み下ろされる。ずしいぃん、と轟く重々しい地響き、地震。村の人々はおそらくこの一歩目で起きてしまっただろう。けれどキアラは気にすることなく、むしろ優越感に浸る。この最初の一歩がたまらなく気持ちいいのだ。さっきまで見上げていた木を踏み潰す。自分が大きくなったと、よく実感できるのだ。
「……龍になると酔いが覚めちゃうんだよねぇ」
 キアラは若干の冷静さを取り戻すも、もう既に遅い。こうして巨大化してしまった以上、そしておそらく地響きで皆を叩き起こしてしまったであろう以上は何もしないで戻るなんて損だ。
 それに、この状態になったキアラは、酒に酔った時とはまた違う理性の失い方をする。背中に生えた天使のような翼に、パレオをめくり上げて揺れている尻尾。破壊と厄災の化身、龍としての本能が理性を侵食していくのだ。
「えぇい、やっちゃえ!」
 キアラはほんの2歩でクレアまでの100メートルを詰めた。先ほど人間状態で眺めた時には巨大な湖のようにすら見えたあの体が、今は抱きしめられるほどの大きさになって目の前に横たわっている。
「えへへ……クレア……私のクレア〜」
 キアラはクレアのパレオをめくり上げてその股間を指でなぞった。完全に夜這いである。それも、人間状態でこっそりならともかく、巨人(巨龍?)による夜這いとは大胆不敵この上ない。
「ん……っ」
 クレアは眠っていながらも感覚はあるらしい。眠りが浅いのか、今ちょうど夢を見ているところなのだろうか。甘い吐息と共に喘ぎ声が漏れ出した。
「可愛い……」
 キアラは眉をハの字にして喘ぐクレアの顔をウットリと眺めながら、大木のような指でくちくちとクレアの股間をまさぐる。クレアに対する夜這いは、長年キアラがやろうと思っても、決して叶わなかった願望であった。おそらく人間サイズでは膣内に入り込んで暴れてもこんなに感じては貰えないだろうし、まず下着を持ち上げて忍び込むこと自体が困難だし、相手は寝ているのだから力加減が効かず膣内で捻り潰されてしまうかもしれない。それが彼女と同じ大きさになれば、こんなにもたくさん感じてもらえる。
「あぁ、大きくなるってやっぱり素敵……」
 下着をずらして中を弄りながら、キアラは恍惚とした表情で呟いた。けれど、彼女をもっとも感じさせることができる場所はそこではないことは、キアラもよくよく知っていた。
 股ならば、起きてる時でも触らせてくれる。そこではない。起きている間は「気持ちよすぎてどうにかなっちゃう」とのことでほとんど触らせて貰えない場所……足指。
「けど……寝てる……今、なら……」
 はぁ、はぁ。荒く、早くなる呼吸。キアラ自身には聞こえないけれど、人間から見ればきっとさっきのクレアの寝息以上に恐ろしい唸り声を上げているに違いない。キアラの尻尾が荒ぶり、背後の森を凪いであっという間に更地にしてしまう。
 キアラはクレアのふともも、オーバーニーブーツの筒口に指をかけた。ビルすらのみ込めてしまうあのオーバーニーブーツ。それをクレアが起きないようにゆっくり、そーっと下ろしていく。
 まるで果実の皮を剥くかのよう。その下から現れるふくらはぎはまさに極上の果肉。月明かりに照らされて白く輝くそれは、ブーツに包まれていたためしっとりと瑞々しく湿り、本当にかぶりついてしまいたくなるほど。
 そしていよいよ、普段ブーツの甲殻で堅牢に守られている足が、その姿を月の下に表す。ぷっくりと可愛らしく、柔らかいクレアの足。素足でブーツを履いているため、その足からは凝結した水蒸気が霧となって立ち上るほどに蒸れている。けれどキアラの鼻をつく匂いは不快ではなく、不思議と甘い香りであった。人間とは代謝物が違うのだろうが、まるで獲物を誘惑するためかのようにすら思える。
 そして、キアラはまさにその香りに誘惑された獲物であった。気がつけば顔を近づけ、口を開いてそのふっくらとした足指に噛み付こうとしていたのである。
「……っ!?」
 けれど同時にキアラは冷静でもあった。危ないところで一旦思いとどまり、口元を押さえて考えを巡らせる。クレアが足指を弄られて起きないはずがない。とすれば、クレアが起きても抵抗できないほど強烈な刺激を与えてあげる必要が……。
 あくまで彼女を攻め落とすための算段を考えているあたり、決して理性的ではないのだが。
「やっぱり、アレかなぁ」
 キアラは一旦クレアの側を離れて、先ほど自分で破壊した自宅の、その裏手に広がる沼地に足を踏み入れた。(人間なら腰まで浸かる沼地ながら、今のキアラなら靴底も沈み切らない)
 その沼地の中に、キアラのペットたちである縮小都市がある。よくキアラに巨大娘ごっことして踏みつぶされたりしているのだが、キアラが本物の巨大娘になれるようになってからはその頻度もだいぶ減っていた。そんな彼らに、久々にお仕事をお願いしようというわけだ。
「へへ……ごめんねみんな。あとでちゃんと直してあげるから、私の遊びに付き合ってよ」
 キアラはしゃがみこんで、その縮小都市の下にズブズブと指を差し込んでいく。人間から見て100分の1サイズ、つまりはキアラやクレアから見れば1万分の1サイズの極小都市がキアラの手で切り取られ、その手の平に乗せられた。自分の遊びに何万人もの人々を強制的に付き合わせることができるようになったあたり、キアラも巨大娘としてはもう一人前だろう。
「さぁて……クレアはどんな顔をしてくれるのかなぁ?」
 キアラはクレアの右足小指をつまんで、そーっとその指の股を開いた。あえて親指ではなくこちらを選んだのは、おそらくこちらの方が刺激に弱いであろうからだ。親指は比較的自由に動かせ、人差し指との間で何かをはさみ潰すことも多かろう。けれど小指は、人間にしろ龍にしろほとんど動かせない。なればこそ、小指と薬指の間こそが最大の弱点になるに違いない。
 魔法で重力を操り、縮小都市のビル群を小指の谷間に落としていく。もちろん、ぎりぎり触れないように。高層ビルを、何本も何本も。その周囲に鉄道のレールを幾重にも巻きつけ、道路を繋ぎ……信じられないほど精密な作業を、ただクレアを攻め落としたいがためだけに物凄い精度でこなすキアラ。愛のなせる技だろうか、クレアの小指と薬指の間にはあっという間に立体都市が出来上がっていた。もちろんそこにいる人間は縮小されてはいるものの本物である。その出来に満足したキアラは。
「ふふ……クレア、覚悟!」
 ついに、その小指にかぶりついた。もちろん、そこにあった縮小都市も一緒にだ。
「ひう!?」
 びっくぅん!! と跳ね上がるクレア。けれどこうなるのを予想して、キアラは両腕でしっかりと体重をかけてクレアの脚を押さえつけていた。用意周到、計画犯罪である。
「ひゃぁ、なんで!? なに!? っひああぁ!!」
 あまりに突然のことに理解が及ばないクレア。誰だって寝起きにこんなことをされれば混乱するには違いない。けれどクレアはその身を起こすことすら叶わなかった。なにせ、ただでさえ敏感な足指を、暖かなキアラの口内に突っ込まれ、柔らかな舌でなめ繰り回されているのだから。
 キアラの巨大な、縮小都市の人々から見れば1キロにも及ぶ舌が街を横ざまに掻っ攫い、そして天まで続くような白い柱、クレアの足の小指に塗りつける。立体都市状に形成されていた街が、あっという間に崩れ去って、そして指の谷間に流れる唾液の濁流に混じっていく。どうにか無事唾液に着水しても、今度はあの怪物のような舌が指の股をかき回しに来る。人々に逃げ場はない。当然である。どう逃げたってここはキアラの口内で、あの白龍の指の谷間なのだ。落下の際に偶然指の股から外れた人々は、キアラの前歯の裏側に落ちたものもそこそこあった。そんな彼らの目の前で、さっきまで高層ビルであったものが巨大な舌先でまるで空き缶のように押しつぶされていく。なんとも凄まじい光景であった。キアラの巨大娘ごっこに付き合ったことは幾度かあるが、口の中で行われる行為がこんなに激しいのは今回が初めてである。
 けれど彼らがそんな光景を見ていられるのも僅かであった。キアラがクレアの小指を甘噛みした際に、彼らは歯の裏からふるい落とされ、そして噛み潰されてしまったのである。
「〜〜〜っ! ぁ……ぁ……!!」
 もはや声にならない掠れた声をあげるクレア。もう既に下着にはじんわりと愛液がしみている。これは絶頂に至るのも時間の問題であろう。
 ちゅぱちゅぱ、ちゅうぅ、と口に含んだクレアの小指をしゃぶるキアラ。その柔らかな唇が、ビル街の残骸をさらに細かな石礫に変えていく。ビルを完全にすりつぶして消費し尽くしてしまっても、キアラはビルを補充することはしなかった。舌先に魔力を集中して街の残骸をなぞると、ただそれだけで時を巻き戻し、たった今消費したはずのビル街が口の中に復活する。強大な魔力を持ち、そしてそれを巧みに操るキアラには、一切手を止めることなくクレアを攻め続けることができるのだ。
 キアラはもう一度、クレアの足指を味わうように舐め回す。舌で感じる極小のビル。それを、クレアの足指に押し付けて指紋で摩り下ろす。その丸い指の腹は、甘噛みするとプニプニと心地のいい弾力。爪の方に舌を廻せば、そちらにはささくれ一つない。大理石のようにツルツルと滑らかなクレアの爪。鉱物性のその爪はこの世界のどんなものよりも硬く強く、美しい。鋭く尖った瓦礫はどれもクレアの爪に傷をつけることさえ敵わず粉微塵に砕けていく。
(ふふ……これでトドメだ!)
 キアラはクレアの足指と爪の間に、小人たちを舌先で集めて押し込んだ。
「っ〜〜〜〜〜!?」
 クレアはびくんと脚を跳ね上げ用としたが、キアラは足首のあたりを体重をかけてがっしりと押さえ込んでおりそれも叶わずにただ快感に身をよじることしかできなかった。
 キアラの舌が爪の間をほじくるように攻め立てる。怪獣のような舌に圧迫された小人たちが苦しさに暴れ、あるいは圧に耐えかねて次々に弾け飛んでいく。普段決して感じることのできないような快楽。それに飲まれて、クレアのダムはついに決壊した。
「ん〜〜!! ダメ、だめええぇっ!!」
 下着越しに染み出す愛液が、森の中に小川を産み、池を形作る。龍の愛液。万病を療す生命の水ではあるが、いざそれが生み出されるところを見るとあまりありがたいものには見えない。なにせ量が量であるし。
 クレアは暫し放心したように、その山のような胸を膨らまて大きく息を付いていた。やがて呼吸が落ち着くと、やや不服そうにその身を起こす。
「キアラちゃん……今のはずるいよ」
 ばさりと羽を伸ばして髪の毛を流し、服についた愛液を自身の魔力で凍らせてパンパンと払い落とすクレア。月の光を受けてキラキラと夜空に舞うその破片は宝石のようだ。
「ごめん、あんまり寝顔が可愛いから……つい……」
 森を敷き潰してペタン座りになったキアラに、クレアがズシンと詰め寄った。175メートルという身長は、同倍率のキアラからしてもやはり体格的に大きい。
「ふふ……それじゃあ、お返ししちゃおうかな」
 クレアはキアラの目の前にストンと腰を落として(もちろん莫大な地震波を放ちながら)向かい合った。
「それも100倍返しね」
「えっ? それって」
 キアラが聞き終わる前にクレアは唇を奪い、そしてキアラはその時点でクレアが何をするつもりなのかを悟った。本当に文字通り、100倍になってお返しなのだ。
 クレアの唇から、キアラに向かって莫大な量の魔力が流れ込んでくる。体内を駆け巡り、犯し尽くす反則的な快感。龍の中でもおそらく特に魔力の多いクレアにしかできない芸当、相手に魔力を注ぎ込んでの強制巨大化だ。
(待って……私の持ってきた縮小都市じゃ小さすぎて使えないよね……)
 巨大化の快感に全身を犯されながらも、キアラはぼんやりと疑問に思う。けれど、その疑問に回答が出たのはその身が人間の1万倍に巨大化し終えてからだった。
 ふらり、とめまいを感じて地面についた手が、轟音と共に山脈をつき崩す。手を退けると、隕石の衝突にも勝るその衝撃で、削り取られた山肌は赤熱する溶岩となっていた。
「ねぇ、クレア……まさか」
「うん、そのまさかだよ……キアラちゃんにとって、多分とっても恥ずかしいこと……しちゃう。キアラちゃん、記憶巻き戻せるでしょ?」
 月を背負ってニヤリと嗤うクレア。逆光の銀色に縁取られ、魔力を帯びた青い目が怪しく光り輝くその表情は、同じ龍となったキアラにすら有無を言わせない力を秘めていた。
「あ、あ……」
 クレアの言うそれは、つまり対象の記憶の巻き戻しを行わなければキアラにとって深刻なダメージが残るほどのこと……キアラとクレアの生まれ育った町をおもちゃにしようということ。
「大丈夫だよ、私にとっても大事な町だもの。みんなを傷つけたりはしないから、ね?」
 クレアは既にその手の中に町を握っていた。ほとんど村と呼んでも差し支えないほどの、キアラやクレアから見て1センチ四方にも満たない小さな町だ。それを、彼女の魔力でできた頑丈な氷が覆っている。
「けど、キアラちゃんが顔を真っ赤にして恥ずかしがるところが見たくなっちゃったんだ……えへへ」
 クレアはキアラを押し倒し、そしてそのブーツに指をかけた。クレアの魔性の瞳に見つめられると、身体中を流れる血液が氷水に置き換わったかのような寒さが駆け抜けて、かじかんだかのように力が抜けてしまう。一応は龍であるはずのキアラですら、抵抗ができないほどに。
「やぁ……だめぇ、そんな……」
 町のみんなが、キアラのパンツを見上げるのは別にどうだっていい。けれども、その町のみんなを使って自分が気持ちよくなるっていうのは違う。相手の記憶を巻き戻せるからと言って、キアラの中に生まれる背徳感は消せはしない。
「ふふ、いい顔……真っ赤だよ、キアラちゃん」
 けれどクレアは容赦ない。完全にスイッチが入ってしまっている。それに、キアラが本気で嫌がっているわけではないのはクレアにもわかった。背徳感を感じながらも、どこかでそれを期待しているのだ。
 クレアはキアラの右足小指に噛み付いた。もちろん、町を口の中に入れて、飴玉のように玩びながら。
「っ……!!」
 夜の空気に冷え切った足先を、クレアの暖かな舌が包み込む。そして、その暖かさの海の中にひんやりと冷たい氷に包まれた町の感触。温度差があるため、嫌が応にもそれがどこにあるのかはっきりとわかる。
「ひあ……クレア、やめ……っ!!」
 けれども、拒絶の言葉を吐けるのもこの辺りまで。クレアの舌が、町をキアラの足指の股に押し付けて、コロコロと転がし始めると、もうだめだった。今のキアラはもはや人間ではなく、破壊の化身たる龍である。踏み潰すことを至上の目的としたその足は、性器そのもの。いや、性器以上に感じる場所になってしまっていた。
 暖かさと冷たさ、この感覚の落差はとても大きい。あの暖かな舌に包み込まれた時の快楽が、何度も襲ってくるのだ。
「ごめんね……町長さん、鍛冶屋のお兄さん、パン屋のおばさん……みんな、ごめん……」
 キアラはごめんごめんと言いながらも、ついに我慢できなくなって自分自身で足指の間に入り込んだ町をぎゅうぎゅうと締め付け、片手で顔を覆いながら、もう片手で股間を弄る。地平線以外にその姿を遮るものがない状態で。
「っぁ……もう無理……っ!!」
 絶頂へと至るその瞬間に、キアラは足をピーンと伸ばし、そして思わずその足指をキュッと握ってしまった。クレアの魔力で作られた氷とはいえ、山すら握り潰すような巨人の足指にぎゅっとやられてはひとたまりもなく。
「あ……」
 キアラはそれがくしゃりと潰れたのを感じてしまった。


「まさかクレアじゃなくって私が町を壊しちゃう日が来るなんて……」
 キアラは人間の100倍サイズの巨龍状態で、町の時間を巻き戻して修復する。これまでもクレアの寝返りで町ごと潰されたりしたものを復旧したことは数知れずだが、自分が生まれ育った町を自分で、それも足指に挟んで潰してしまう日が来ようとは思いもしなかった。
 なによりそれによって絶頂を迎えてしまったことに、未だに背徳感とそれが裏返った快感が残っている。普段は記憶まで巻き戻すことはしない。けれど今日についてはその辺りの記憶もしっかり巻き戻すことに後ろめたさを感じながら、キアラは町の復旧作業を終えた。
「あはは、キアラちゃんもすっかりこっち側だね」
 クレアはキアラの最大限の恥じらいが見られて満足なのか、にへら〜と笑いながら言う。
「あのさ、クレア。わかってると思うけど……今日のことは内緒ね?」
「大丈夫だよ。でもまたやりたいな〜」
 クレアはちょっとイタズラっぽくニッコリと笑うと、キアラはつい先ほど果てたばかりの秘部が疼くのを感じた。あの感覚を、また……。
「い、いやダメ! あれはダメだよ! ああいうことに味をしめたらダメ!」
 元はと言えばキアラがクレアに夜這いをかけたのが原因とはいえ、さすがにそれは憚られる。なにせ町の住人を日常的に性のおもちゃにして、そして本人たちからはその記憶を奪うなんてことになってしまう。
「……でもまぁ、たまーにならいいのかな……?」
 結局のところ、味をしめてしまったキアラであった。