・・・いったい何が起こったんだ?


 薄暗い部屋の中、その男は目を覚ました。

 特にこれと言った取り柄も無く、どこにでもいる平凡な若手サラリーマン。

 そんな彼がいつものように仕事を終え、いつものように帰路についたところである。

 最寄の駅から一人暮らす自宅までの道中、男の目にはスーツ姿の見知らぬ女性が映った。

 チカチカと不規則に点滅を繰り返す街灯の下、その女性は誰かを待っているかのようだった。

 夜遅く人通りもほとんど無い道に、一人佇む女性を不審に感じながらも、その横を通り過ぎ、それから・・・


 ・・・駄目だ。何も思い出せない。


 帰り道で一人の女性とすれ違ったという記憶は確かにあるのだが、そこから今に至るまでの記憶がスッポリと抜け落ちているのだ。

 ズキズキと痛む頭に、これ以上記憶を辿ることはできないと悟った男は、改めて周囲の状況を確認した。


 ざっと六畳一間といったところだろうか。明らかに自室ではない。

 それどころかグルリと見回してみても、窓や出入り口のようなものがなく、若干の息苦しささえ感じられる。

 またそれに加えて特に異質なのが壁と天井である。

 厚手の布地が境目なく壁と天井を構成しており、照明の無いこの部屋に、ぼんやりと外から光を取り込んでいる。

 まるでテントの中みたいだな・・・。男はそう思った。


 そして重要なことがもうひとつ。

 横になった身体を起こそうとした男の手足から、ギシリと軋むような音が鳴る。

 なんと男は産まれたままの姿で、両手首と両足首、それに腰、計5か所が金属製の拘束具によってガッチリと床に固定されているのだ。

 頭部は固定されていないため室内の状況をある程度確認することはできるが、仰向けの状態から身体を動かすことはできそうもない。


 拉致? 誘拐? 人身売買?


 そんな単語が男の脳裏に浮かび、次第に不安と焦りの色が濃くなる。

 いくら考えたところで、わけが分からないこの状況。

 恐怖からじわりと男の額に脂汗が滲み始めた、その直後である。

 ガチャリと遠くでドアが開く音がしたかと思うと、この異常な空間に似つかわしくない、可愛らしい少女の声が響き渡った。



 *


 
 「あー!部長ー!とうとうウチもこれ買ったんですねー!」


 ここはとある女子高のとある運動部の部室。

 ロッカーと長椅子が並び、各々部員の荷物が雑多に置かれた室内に、少女の高く澄んだ声が響いた。

 円らな瞳に薄く茶色がかった髪。まだ初々しさ残るその容姿から見るに、高校一年生といったところだろう。

 目をキラキラと光らせるその少女の後ろから、なんだなんだと別の少女が顔を出す。


 「お!これこの前バレー部の連中が自慢してたやつじゃん!」


 二人目の少女は、褐色の肌に健康的な引き締まった体が特徴的。

 その言葉遣いからも少しボーイッシュな少女であることが伺える。


 「そうなのよ~。ウチの部にもそろそろ欲しいな~って、前から思ってて。」


 最後尾の少女が、先に"それ"を見つけた二人に向かってそう言う。

 部長と呼ばれた彼女はスラリと長い黒髪をなびかせ、他のふたりとは違う大人びた雰囲気を漂わせていた。

 まさに三者三様。

 花の女子高生であるそんな彼女たちの前には、『消臭袋』と書かれた薄紫色の小さな袋が置かれていた。


 「これ、すっごい効果あるって噂の『消臭袋』ですよね!」

 「そうよ~。ただ結構いいお値段しちゃうから、ようやくってところなのよね~。」

 「へぇー。しっかし、こんなどこにでもあるような袋にそこまで効果あるのかねぇ・・・?」


 興味津々といった2人の少女を横目に、部長と呼ばれた少女は消臭袋が梱包されていた箱の中から、取扱説明書を取り出した。


 「えーっと、なになに・・・・

  『① この袋は特殊な素材で作られており、一定圧力以上の力が加わると、該当箇所が内部へと挿入されます』

  『② 該当箇所を数分間袋内に入れていることで、あらゆる"におい"に対して消臭効果を得られます』

  『③ 袋内へ挿入中、まれに液体が付着することがありますが、消臭成分を含む液体であり害はございません。』

  ですって。」


 思春期の乙女にとって『におい』とは、いくらお金を払ってでも解消したい悩みである。

 いくら制汗スプレーや香水などでカモフラージュしようとも、ベットリと衣服や体に染みついたにおいは、そう易々と離れてはくれない。

 しかし、そんな気になるにおいの悩みを解消するために開発された画期的な消臭グッズ、それこそが――――


 「それがこの『消臭袋』ってわけなんですよね~♪」


 長椅子に腰掛けた少女は、床の上に置かれた『消臭袋』を、シューズのつま先でツンツンとつつきながらその説明を聞いていた。

 少女のつま先の動きに合わせ、『消臭袋』もその風船のように膨れ上がった体をゆらゆらと揺れ動かせる。


 「ねぇ部長~・・・早速コレ、使ってみたいんですけどぉ・・・」

 「そうねぇ・・・それじゃあ記念すべき初使用をお願いしちゃおうかしら♪」

 「ホントですか!?やったぁ♪」


 部長から早速の使用許可を受けた少女は、待ってましたと言わんばかりの反応を返し、興奮した様子で靴ひもをほどき始めた。

 少女が履くシューズは室内履きのため、そこまで目立つ汚れは無いものの、そのくたびれた様子からかなり使い込まれているように見受けられる。

 ハイソックスに包まれた足先が、そんなシューズから解放され、外気に触れると同時にモワッと音がしそうな高湿度な悪臭が周囲に広がる。

 ようやく梅雨も明け、これから夏本番といった今の季節。

 熱気がこもる体育館での部活動中、少女から発せられた大量の汗はシューズの中も例外なくジットリと湿らせ、そのにおいも鼻を摘まむ程のものと化していた。


 「うわぁ・・・すっげぇにおいだなぁ・・・。これだけ離れててもにおいが・・・うっ・・・。」

 「だ、だからこれから消臭するんでしょー! それにこれは部活を頑張ってる証なんだから!」

 「いやでもこのにおいは流石に・・・。お前、そのシューズちゃんと洗ったりとかしてるのか?」


 ギクッと少女は言葉を詰まらせ、自身のズボラさと体臭を指摘された恥ずかしさから頬を真っ赤に染めた。

 事実、悪臭放つ足先が引き抜かれたシューズの中敷は、少女の足の形に薄黒く染まっており、においにも相当年季が入っていることを証明している。


 「もう!いいもん!この消臭袋さんにきれいさっぱり消臭してもらうんだからー!」


 少女は涙目になりながら話を遮ると、その悪臭放つ両足を目の前の袋の中へと押し込んだ。



 *



 外から取り込まれる光が、巨大な影によって不気味に遮られる。

 また、時折何者かが外から直接部屋全体を揺らしているかのようにゆらゆらと、壁そして天井が揺れ動く。

 そんな中、少女たちのやり取りを拡声器を通したような大音量で男は聞いていた。


 少女たちの会話と合わせてゆらゆら動く巨大な影と不自然な形をしたこの部屋。

 男の頭に浮かんだバラバラのピースがひとつに繋がり始める。


 ・・・ま、まさか、この部屋は――――――


 自分でも信じがたい答えに辿り着こうというところで、男の思考は遮られた。


 『ぴんぽーん!ご想像どおり、大正解!アナタは今、巷で噂の消臭袋の中にいまーす♪』


 不意に少女たちの声とは異なる女性の声が男の耳に、ではなく脳内へと直接響いた。


 『アハハ♪ ビックリしました?

  こちらの声を女の子たちに聞かれたら困るので、頭の中に直接話しかけさせてもらいますね~♪

  あ、ちなみに私はアナタを拉致した張本人でーっす♪』


 男の思考と平行して、脳内にガンガンと響き渡る声。

 混乱する男を意に介さず、その声の主は淡々と説明を続ける。


 『えーっと、あんまり時間もないんでちゃちゃっと説明しちゃいますねー。

  さっきも言いましたが、あなたは今、親指くらいの大きさになって、消臭袋の中に閉じ込められています♪

  そしてこれから先、この袋を使う彼女たちの"におい"を、死・ぬ・ま・で・吸い込み続けてもらいまーっす♪

  いや~羨ましいですねぇ。思春期真っ盛りのJKの、あんなところやそんなところの恥ずかしいにおいを、イヤというほど嗅げるんですから・・・♪』


 クスクスと女の笑う声が聞こえる。

 そんな楽しそうな声色とは対照的に、監禁された男は真っ青な顔でその小さな脳をフル回転させていた。

 においを死ぬまで吸い続けろだって?

 薄暗い部屋にひとり閉じ込められた状態で、その真偽を確かめる術などありもしないが、自分をここに閉じ込めたという張本人からの宣言。

 それはつまり自分が至った答えが正解であり、同時にここから生きて帰すつもりは無いと宣言されたも同然であった。


 『あ、もう始まっちゃう? もうちょい説明することあったんだけど・・・まぁまた後でいっか♪

  それじゃあとりあえず一発目、頑張ってきてくださーい♪』


 ・・・!ま、待ってく――――――――


 理解が追いついていない男が、ようやく声をあげようとしたその時。

 グニャリと一際大きく歪んだ柔らかな天井を突き破り、二つの巨大な壁が突如現れる。

 灰色に染められたその巨大な壁は、袋の中の男に長い長い地獄の始まりを告げた・・・。



 *



 「おー!ほんとに入ってったー!」

 白いハイソックスを履いた少女の足先は、男が閉じ込められている消臭袋にすっぽりと包みこまれていた。

 袋の中の男が見た二つの灰色の壁は、ハイソックスに包まれた少女の黒ずんだ足裏だった。

 自分の身長よりも遥かに巨大な足裏。

 そんなものが、少女から出る汗と汚れが幾重にも上塗りされたハイソックスに包まれ、この密閉空間の中に飛び込んできたのだ。

 少女の感嘆の声が目の前の足裏を通して聞こえてきたが、袋の中はまるで地獄のような状態になっていた。


 彼女たちが話していたとおり、通常サイズの人間であっても感じるほどの汗臭さ。

 親指ほどの小人サイズに縮められ、超至近距離に置かれた男には、その臭いが何十倍にもなって感じられる。

 呼吸をするたび、肺の中が少女の足から発生する汚れた空気に侵食される。

 鼻で呼吸をすると突き刺すようなにおいに涙が止まらない。

 口で呼吸をすると、強烈な酸味が口に広がりゲホゲホと咳が止まらない。

 少女がグニグニと足指を動かすと、袋の中の空気が混ぜられ、常に足のにおいで汚れた空気が供給されていく・・・。

 また、足裏から発せられる熱気も男の体をジワジワと蝕んでいた。

 少女の体温と足汗のみで構成される天然のサウナ。それは容赦なく男の身体から水分を奪っていった。


 死と隣り合わせとも言えるこの状況。

 徐々に朦朧とし始める意識とは反し、男の股間はなぜか大きくなり始めた。

 死に直面した生き物は、本能が己の子孫を残そうとするという。

 ジワジワと体力、そして精神を削られる男の身体は、まさにそのような状態にまで追い込まれていた。

 そして男の脳がいよいよその意識を手放そうとした時、少女達の声が袋内へと響き渡った。


 「そうそう、袋の中には特殊な消臭剤が入ってるみたいね。」

 「特殊な消臭剤?」

 「そ。なんでも程よい硬さで、マッサージ効果もあるらしいわよ?」

 「へぇ~!じゃあちょっと探してみますね~♪」


 男の目の前に鎮座し、絶えず異臭を放ち続ける少女の足裏。

 少女の身体の一部とは思えないその肉壁が。

 空中に留まり男に熱気と湿気、そして悪臭を提供し続けるその足裏が。

 ストッパーが外れたかのような勢いで男の身体へと覆いかぶさる・・・!


 「お?これっぽいですね~♪」


 消臭剤――小人をその足先に捉えた少女は、踏み心地を確かめるように両足に少し体重を加える。

 ぎゅむぎゅむと足踏みをするような動きに、男の意識は無理やり覚醒させられ、再びこの地獄へと押し戻された。

 まさか消臭剤の正体が小人だとは思いもしない少女の足裏が、その踏み心地を確かめるように男の全身を押し潰す。


 「あはっ・・・♪このぐにぐにした感触、ちょっと癖になるかも・・・♪」


 ほど良く足ツボを刺激されるその感触を気に入ったのか、ぎゅっぎゅっと足踏みを繰り返す。

 一方、男は少女のそんな何気ない行為を、誰よりも濃厚に感じられる場所にいた。

 分厚いゴムのような弾性を持ち、何時間を汗で煮詰められたような薄黒い布地に包まれた巨大な肉布団。

 そんなものを全身に被せられることで、熱気、湿気、臭気が、先程までと比にならない勢いで男の身体を蝕む。


 そんな中、奇跡的に男の顔だけは直接その肉壁に押し潰されなかったため、窒息死だけは免れていた。

 だが、窒息してしまった方が救われたと感じるほど、男は最悪な状況に陥っていた。

 なんと男の顔は、少女の右足の親指の人差し指の間、ちょうど指の股の部分に位置していたのだ。

 ベットリと湿ったハイソックスの布地は、丸太のように巨大な二本の足指によってピンと張り、まるで生きているかのように小さな男の顔へとへばりつく。

 もちろん少女が意図的にそうしたわけではない。無意識のうちに収まりの良いポイントを探った。ただそれだけのことである。

 長時間シューズとソックスに包まれ続け、少女の足のにおいが最も色濃く熟成された指の股という場所。

 何も知らない少女の足裏が、そんな到底人が吸うべきではない汚染された空気のみでの呼吸を、袋の中にいる男に強制するのだ。

 突如として全身を圧迫され、その顔を覆うハイソックスによって混乱を極めた男だったが、本能的に目の前の布地の向こうにある澱んだ空気の危険性を察知し、呼吸を浅くするよう努めていた。


 しかし、巨大な少女にとってそんな小さな抵抗など無意味なものであった。


 「あっ・・・♪」


 ふと、足裏の主から声が聞こえたかと思うと、小さな身体にかかる圧力が一気に増した。

 少女にとってはコリコリとした感触が、ちょうど心地良いポイントに引っかかり、ほんの少し押し付ける力を込めただけである。

 ほんの少しだけ増した圧力は、その下敷きになっている小人にとって信じられない程大きな力として襲い掛かった。

 浅い呼吸で何とかこの足責めに耐えていた男だったが、不意に加えられた強大な力に思わず大きく空気を吸ってしまったのだ。


 ―――瞬間、男の全身にビリビリと走る突き刺さるような激臭と激痛。

 涙、鼻水、汗、嘔吐。男の身体から体液という体液が溢れ出し、その激臭を取り込むことを拒絶する。

 身体は呼吸という行為を拒み続けるが、外では少女が楽しそうに笑いながら、体重をかけてきたり緩めたり。

 男の身体からは、体重を掛けられるたびに苦痛の声と一緒に空気が漏れる。

 漏れた空気の補充先は、何もかもが汚染された空気。

 袋の中の男は、その身体に澱んだ空気を循環させるだけの人間ポンプと化していた。


 そんな常人が耐え切れるはずのない拷問に、男の脳は自己防衛のため、少しずつ"苦痛"を"快楽"に変換し始めていた。

 生死の狭間に置かれ、ノンストップで精子を生産する男の精巣。

 その上、全身を踏み潰されるという、これまで味わったことの無い苦痛――快感に、男はビクンビクンと身体を震わせながら射精を繰り返した。
 

 吸って、吐いて、射精。 吸って、吐いて、射精。 吸って、吐いて、射精。


 生物に不可欠な呼吸という行為、また子孫を残すための射精という行為にすら男に自由は無く、ひとりの女子高生の足裏に支配されている。

 一方その足裏の主も、小人という消臭剤を押しつぶす度に感じられるコリコリとした感触に、少なからず快感を覚えていた。

 まるで天国と地獄、たったひと組の足裏を挟んで二つの世界が生み出されていた。

 加えて断続的に掛けられる圧力と快楽の波に、男は気絶することさえ許されず、少女が満足するまでこの地獄から抜け出すことができなかった。



 少女が消臭袋に足先を入れてから約五分。

 ふいに男の身体に掛かっていた圧力が無くなったかと思うと、天井から挿し込まれていた少女の足裏は急上昇し、袋の外へと出て行った。

 男の祈りが通じたのか、何時間にも感じられたその時間がようやく終わりを告げたのだ。


 「ふんふーん♪そろそろかな~?」

 「ホントにそれだけで臭いが落ちるのか?」

 「クンクン・・・おぉ!キレイさっぱり臭いがなくなってる~!」

 「噂どおり、効果テキメンのようね♪」


 少女たちは話に聞いていたとおりの消臭袋の効果に嬉々としている。

 蒸れた足裏による臭い責めから開放されたものの、依然袋の中に閉じ込められた男は満身創痍といった様子だ。


 そんな男の脳内にふたたび、悪魔の声が響き渡る・・・。


 『・・・あーあー。聞こえてますかー?まずは女の子のくっさいくっさい足の臭い取り、お疲れ様です♪

  女子高生が何時間も掛け、シューズの中でたっぷり蒸らし熟成させた足の臭い・・・♪

  アナタがいくら吸い込み続けたとはいえ、普通は臭いが取れるはず無いんですが、消臭袋として働いていただくために

  ちょーっとアナタの身体を弄らせてもらいました♪

  ちいさなちいさな身体ですが、その消臭力と耐久性は一級品!

  その副作用で、今までの何倍もにおいに敏感な身体になっちゃってますけども・・・。

  まぁ、大した問題じゃないですよね♪』


 声の主は説明を続けるものの、もはや男にはその説明を聞く気力が残されてはいなかった。

 ほんの数分間の出来事に、男は身体も脳も少女の足の臭いで染め上げられてしまっていたのだ。

 また、男は気付いていなかったが、消臭剤として機能する上で最も重要な器官である"鼻"は、あれほど突き刺さるような

 激臭を嗅ぎ続けたにもかかわらず、一切その機能を麻痺させておらず、袋の中の少女の残り香を絶え間なく体内に取り込み続けていた。


 『あら?もうへこたれちゃいましたか?

  まだ始まったばっかりだというのに、そんなことでは先が思いやられますよー?

  さっきは足の臭いだけでしたけど、女の子は色んなところのにおいを気にしているんですから・・・♪

  おや? どうして自分がこんな目にって顔をしてますね?

  そんなの決まってるじゃないですか! たまたまですよ、た・ま・た・ま♪

  たまたま私の目に付いただけ、たったそれだけのことです♪

  まぁ交通事故にでもあったと思って、早めに諦めちゃってくださいねー♪

  ・・・と、言ってる間に次の女の子の準備ができたみたいですね♪』


 次の準備ができたという言葉に、男は再び柔らかな壁の向こうへと意識を向ける。

 こうなればこの壁の向こうにいるであろう、巨大な少女たちに大声で助けを求めるしかない。

 ユラリと辺りが薄暗くなったところで、男は大きく息を吸い込んだ。

 
 『・・・ああ、それと気づいているかもしれませんが、消臭袋さんには"声"なんて機能いらないですからねー。

  ついでに声帯も弄って"声"を出せなくしちゃってますので♪』


 男が尽きかけた気力を振り絞って出そうとした、少女たちへと助けを求める声。

 それは無情にも"声"に変換されることはなく、再び消臭袋の中へと吐き出されてしまった。


 『ウフフ・・・残・念でした♪』


 プツンというマイクが切れるような音に合わせて、女の声は途切れる。

 ―――ここから助かる術などない。

 頭の中を見透かされ、わずかな希望すら叩き潰された男には、そう告げられたように感じた。


 「さーて、じゃあ次はアタシが使わせてもらいますよっと!」


 絶望に打ちひしがれる男の前に、また別の少女の声が響き渡る。

 ああ、またあの地獄が始まるのか。

 少女の声に併せ、左右真っ二つに割れ始めた天井を、男はただただ見上げることしかできなかった。