あれだけ積もっていた雪も今はもう見る影もなく、地面からは様々な植物たちが芽吹き始める。

 庭先に植えられたサクラもようやく小さな蕾をつけ始めている。


 誰もが訪れる春を感じ、長い冬から解放される喜びを覚えるこの季節。

 そんな中、ここ倉本家の居間で、ひとりの青年がその喜びを感じられずにいた。



 「・・・迂闊だった。」


 彼の名前は"倉本 圭(クラモト ケイ)"。倉本家の長男坊である。

 趣味は畑仕事に料理と、今時の高校生にしては珍しい趣味を持っているが、それ以外はいたって普通の男子高校生。

 しかし普通であったのも、つい先ほどまで。

 彼は今、身長1cmまで縮むという断じて普通ではない状況に身を置いていた。



 「多分、こいつが原因なんだろうなぁ・・・」


 そう呟く彼の目の前には、自身の体の何倍かはあるであろう巨大なクッキーが鎮座している。

 学校から帰宅したところの彼は、無造作に皿に盛られていたこのクッキーを何気なく一口食べてしまった。

 もちろん口に入れるまでは、ごくごく一般的なサイズのクッキーだった。

 口に含んでから先のことは何も覚えていない。気が付けばこの状況だったのだ。


 「この前、真琴と千夏が魔法の練習とか言って、作ってたクッキーだなこれは・・・」


 現実とは思えないこの状況に、彼はおそろしく冷静であった。

 というのも、先ほど彼の口から出た"真琴"という人物。

 本名"木幡 真琴(コワタ マコト)"は、彼の又いとこであり、れっきとした本物の魔女だからだ。

 彼女はつい数週間前から、修行のひとつだのなんだのでこの倉本家に居候している。

 そもそも魔法、魔女なんてものが実在するのか?という問いについては・・・まあ今の状況からお分かりいただけるだろう。

 特に近頃は、圭の妹である"倉本 千夏(クラモト チナツ)"と、色々な魔法の練習をしているようで、今回のようなことも日常茶飯事なのである。



 「前のは1時間くらいで効果が切れたし、ノンビリ待つとするかー。」


 焦ったところでどうしようもない。

 意外と楽観的な彼は、魔法の効果が切れるのを待つ間、その小さな体のままノンビリとくつろぎ始めた。

 しかしこの軽率な判断が、のちに彼の運命を左右することになろうなど、今の彼には知る由もなかった・・・。



 *



 「ただいまー・・・今日も無事に帰れましたー。」


 玄関の方から、少し間の抜けた声が圭の耳に届く。

 学校からの帰り道、少し用事があると言い途中で道を別れた彼女――真琴がようやく帰ってきたようだ。

 ノンビリと魔法が解けるのを待っていた彼だったが、事の元凶が帰ってきたのであれば話は早い。

 たった今帰宅した彼女に『体が大きくなる魔法』をかけてもらえば良いのだから。

 そうと決まれば、と彼が体を起こしたところでスゥっとふすまが開かれる。

 開かれたふすまの先には、いつもと変わらぬ制服姿の真琴が佇んでいた。



 「・・・あれー?ケイくんは先に帰ってるって言ってたのに、まだ帰ってきてないんでしょうか?」


 真琴は居間の中を見渡すと、首を傾げ不思議そうな顔でそう呟いた。

 どうやら先日試した魔法が、今目の前で成功しているなどとは微塵も思っていないようだ。

 そんな様子を目の当たりにした圭は、彼女に気づいてもらうため大声で叫ぶ。


 「おーい!マコトー!ここだここー!!」

 「・・・うーん。ケイくんもどこかで寄り道しているんですかねー。」


 全力で声を張り上げた彼だったが、あまりにも小さくなりすぎた彼の声は、無情にも彼女の耳に届くことは無かった。

 それどころか数m先にいる小人に気づかない彼女は、辺りを見渡しながらズンズンと部屋の中へと踏み込んでくる。

 一歩足を踏み出すと、ミシリと床の軋む音が圭の耳へと届く。その音は彼女が歩を進める度に大きくなり、瞬く間に巨大な地響きへと変貌を遂げる。

 圧倒的な質量を動かす彼女の一挙手一投足に、彼は言葉を失い、目の前に巨大な足が踏み下ろされるまでその身を動かすことができなかった。

 時間にしてわずか数秒。

 脳からはようやく危険信号が発せられ、小人の彼はその場から逃げ出そうと全身の筋肉をフル稼働させる。

 しかし、彼の身体が動くよりも先に周囲からは光が奪われ、その数瞬後、哀れな小人は分厚い肉の天井に押し潰されていた。



 「ケイくーん!いないんですかー?」


 真琴は圭が先ほどまでいた場所で立ち止まり、キョロキョロと周囲を見渡す。

 そんな彼女のスレンダーな脚の先で、小人の彼は腰から下、下半身すべてを巨大な足裏と床板の間に挟み込まれていた。

 ちょうど土踏まずのあたりで圧し潰された彼は、不運にも巨大な彼女の死角に位置していた。


 「ぐあぁぁぁ・・・・」


 とてつもない重量をその身で受け止め、人知れずうめき声を上げる。下敷きになった下半身からはミシミシと骨の軋む音がする。

 不幸中の幸いとでも言えるだろうか。圧し潰される痛みは感じるもののペシャンコのミンチに、ということは無かった。

 小さくなった分、人体としての密度が上がって異常な頑丈さを保っているのだろうか。

 魔法のチカラをその身で感じながら、一方で科学的な思考をする自分が可笑しく感じられ、失笑する。

 その身にかかる圧迫感は、かなりの苦しさを感じるものの、耐えられないほどのものではない。

 しかし彼の頭の中には、その圧迫感以外のところで警鐘が鳴り響いていた。


 それは巨大な足裏から発せられる、「熱」と「臭い」である。


 目の前の彼女が通学の際、常に履いているローファー。

 通気性の悪いその中でたっぷりと蒸らされた足、そしてストッキングは、密閉空間から解放された今、暴力的な熱気と臭気を発していた。

 多量の水分――汗を含んだその空気は、圭の視界をかげろうのようにぼやけさせる。

 一目見ただけで吸い込んではいけないと察するほどの澱んだ空気。

 最悪なことに圭は身体を押し潰された際、ひと呼吸だけその空気を吸ってしまっていた。

 危険を察知し即座に呼吸を止めたものの、そのたったひと呼吸だけでこれまでに味わったことのない何かを感じ取っていた。


 (これ以上息を吸うのはマズイ・・・!)


 そう考えるも、人が息を止めていられる時間などたかが知れている。

 呼吸の限界が来るまでに何とかこの足裏の牢獄から逃れようと、彼は目の前に広がる黒い壁を全力で叩いた。

 しかし彼の悲痛な叫びは分厚い肉の壁まで届くことなく、ペチペチと空しい音を立ててストッキングの生地へと吸い込まれていった。
 
 さらに追い打ちを掛けるように、ストッキングからはヌルリとした液体が染み出し、拳を叩きつける度飛び散り、彼の身へと降りかかる。

 生温い液体を全身に浴びた圭は、振り上げた拳をピタリと止めた。


 (ま、まさかこのストッキング・・・)


 遡ること数日前、いつも同じ服装の真琴に「替えのストッキングとか持ってんのか?」と冗談交じりに聞いていた。。

 その時は「そ、それくらい持ってますよー!」と返されたが、毎日履き替えているストッキングからこんなネバつく液体が出るはずがない。

 それはつまり・・・。


 (やっぱり持ってなかったんか・・・!)


 事実、真琴が今履いているストッキングは履き続けて3日目を迎える、もはや凶器と化した一品であった。

 知りたくもなかった現実を突き付けられたところで、一刻も早くここから脱出しなければならないことに違いはない。

 僅かな希望にすがり、再び拳を振り下ろす圭にも、とうとう呼吸の限界が訪れる。

 搾れるほど衣服に染みこんだ彼女の汗に躊躇するものの、背に腹は代えられない。

 まだ口で呼吸すれば、被害は少なくて済むだろうと高を括って彼は息を吸い込んだ。



 「・・・―――ガハッ!?」


 ―――甘かった。ひと呼吸した直後、彼は後悔した。

 蒸発した汗は彼の味覚すべてを一瞬で支配し、喉の奥から胃の中、鼻さえも内側からその空気が流れ込む。

 ビリビリと全身が痺れ、"臭い"と感じる嗅覚はあるものの、呼吸を制御することができなくなってしまう。

 口で呼吸すれば、その高温多湿で強烈な酸味を放つ空気とストッキングから染み出すエキスが喉が灼けつかせる。

 鼻で呼吸をしようものなら、突き刺すような腐敗臭が嗅覚のすべてを蝕んだ。

 自由な上半身を狂ったように動かすものの、ジットリと纏わりつくような空気は振り払うことができず、容赦なく彼の体内を侵していった。

 そんな悪臭放つ空気を無理やり体内へと流し込まれ、じわじわと意識を犯される中、彼の身体は意志に反して興奮し始めていた。


 彼は臭いに対しての性的嗜好など持ち合わせていない。

 しかし、彼女の足裏から発せられる臭いに含まれるフェロモンが、彼の身体を無意識のうちに興奮させていた。

 頭はその臭いに苦痛を感じているのに、身体はその臭いに興奮している。

 二律背反なその感覚に彼の意識は混乱を極めた。

 次第に捻り潰すように加えられる重圧、彼女の足裏から伝わる熱い体温さえ、彼にとって快感と化していった。



 「んー・・・やっぱりケイくんも寄り道してるんでしょうか・・・」


 圭を見つけることができず諦めた彼女が、居間から出ようとその身を翻す。

 ふと、圭の身体にのしかかる重みがゼロになる。



 「た・・・助かっ―――――」



 助かった。そう思うと同時に、真琴の巨大な爪先が彼の身体目掛け、無慈悲にも振り下ろされた。

 彼女の体重のすべて、そして足裏で最も濃く凝縮された臭いが、油断していた圭へと降りかかる。



 「――――っ!?」



 真琴が一歩を踏み出す、ほんの1秒足らず。

 そのたった数瞬で、先ほどまでの何倍、何十倍もの重圧と臭いが襲い掛かり、圭の精神を快感の色に染め上げる。

 とどめとばかりの一撃に満身創痍の彼は耐えきれるはずもなく、惨めにも全身を圧し潰されたまま大量の精を放った。


 真琴が部屋に入ってから、数分後。そこには身も心もボロボロになった小人がひとり、意識を失ったまま取り残されていた。



 *



 真琴が去ってからしばらくして、圭は目を覚ました。

 その小さな身体には怪我こそ無いが、全身がギシギシと軋み、思うように動かすことができない。

 また、衣服に染み込んだ真琴の汗がずっしりとした重みとなり、彼の身体を押さえ付けていた。



 「げほっ!げほっ!・・・それにしてもひどい臭いだな。」


 起き上がることすらままならない彼の身体には、彼女の足の臭いがベットリと染みついていた。

 一度射精し、冷静さを取り戻したところで、改めて吐き気を催すほどの臭いが鼻へと突き刺さる。

 自身の体から発せられるそれは、いくら振り払おうとも逃れることができない。


 「くんくん・・・こりゃあ、しばらくみんなから避けられそうだな・・・」


 そんなことを考える彼は、ふと周囲の薄暗さが晴れていないことに気が付いた。

 自分を圧し潰していた真琴はどこかへ行ってしまったはずである。じゃあこれは一体?

 本能的に危機感を覚えた彼は、その身を翻し空を見上げた。

 彼が見上げた先には、ひとりの女性がニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見下ろしていた。



 「いやぁ~何やら面白そうなことになってるねぇ~♪」



 彼女の名は"木幡 茜(コワタ アカネ)"。先ほどまで彼を足蹴にしていた真琴の姉である。

 彼女も真琴と同じ魔女だが、なんでも実力は魔女の世界でもトップレベルで、その名を知らない魔女は居ないほどだそうだ。

 そんな彼女であればこの小さな身体を元の大きさに戻してくれるのでは?

 誰もがそう考えると思うが、そんな常識という枠の外に彼女はいる。

 天真爛漫、自由奔放。そんな言葉を体現する彼女は、自分が楽しむことを一番としていて、その行動は完全に予測不能なのである。



 「あ、茜姉ぇ!助けてくれ!」

 「これだけ小さくなってたら、あの魔法が試せそうだねぇ・・・。」


 ダメ元で助けを求めるも、案の定彼女の耳には届かない。

 しかも新しい魔法の実験台にするような言葉が聞こえてきた。

 嫌な予感しかしないが、為す術の無い彼は降りかかる運命を受け入れるしかなかった。

 そんな彼を、茜はその手で軽々と摘まみあげる。


 「さーて、ケイ~♪アンタにはアタシの実験にも付き合ってもらおうかねぇ~♪」

 「じ・・・実験ってなんだよ・・・」

 「この前、生き物以外に変身する魔法を覚えたんだけど、自分じゃ試せなかったから・・・ね?」

 「ね?・・・じゃねーよ!」


 必死で逃げ出そうとする圭の身体を、茜はその巨大な手で押さえ付ける。

 押さえ付ける手に少しだけ力を入れると、圭はグエッと小さなうめき声を上げておとなしくなった。


 「だいじょーぶだいじょーぶ!死にゃあしないからさ!」

 「死っ・・・!?」


 "死"という不穏な言葉に圭は青ざめる。

 そんな彼を意に介さず、稀代の天才魔女、木幡茜はブツブツと呪文を唱え始めた。



 *



 「千夏ちゃーん!いいもんあげるからちょっとおいでー!」


 体長1cmの小人になった圭。そんな彼の妹―――"倉本千夏"を茜は呼び出した。

 千夏は茜のいる居間へと、トテトテと足音を立てながら飛び込んでくる。


 「なになにー!いいものってー?」

 「ふっふっふっ。いいものとは・・・これだー!」


 バッと突き出された彼女の手のひらには、直径1cmほどの小さな透明の球体が乗せられていた。

 蛍光灯の光できらめくそれに、千夏は訝しげな視線を投げ掛ける。


 「・・・なにこれ?キャンディ?」

 「そ。見た目は普通のキャンディなんだけど、実は魔力が込められていて、いつまでも溶けない魔法のキャンディなのだー!」


 おお~!と千夏はその目をキラキラと輝かせながら拍手している。

 圭はそんな妹の視線を、全身で受け止めていた。



 ―――そう。小人になった彼は、茜の魔法によって"キャンディ"へと姿を変えていた。



 小人になった身体から、"五感"だけを残して、その他全てをキャンディそのものに変えられてしまった圭。

 ボロボロになっていた身体も、今では自分の意志で動かすことすら叶わない。

 しかもキャンディと化した身体は、まるで全身の神経を剥き出しにしたかのような状態である。

 その身に触れる彼女の手、周囲の空気、妹の視線さえもが、彼の脳へ弱い電流のようなピリピリとした刺激を絶えず送り続けていた。

 微弱な刺激はやがて快感へと変わるも、身動きひとつ取れず劣情を発散することができない彼は、その生き地獄に悶え苦しむ。

 魔法をかけた茜自身は彼がそんな状態にあるなど露知らず、鼻高々といった様子で魔法のキャンディの説明を続けた。


 「しかもこれを舐めると魔力が高められる、つまり魔女に一歩近づけるんだよー!」

 「へぇー!すごーい!」

 「と、いうわけで魔女見習いの千夏ちゃんにこれをプレゼントしまーす!」

 「えー!やったー!!ありがとー!!」



 ―――舐める。確かに彼の耳にはそう聞こえた。

 キャンディに出来ることなど限られている。そんなことは分かりきっていた。

 分かりきっているものの、ただ手のひらに置かれているだけでこれだけ快感に悶えているこの状況。

 はたして唾液溢れる口内へ放り込まれれば、一体どうなってしまうのか。

 誰にも気づかれないまま、彼はこの後訪れるであろう過酷な運命にその身を震え上がらせた。



 「はーいじゃあお口開けてー。あーん・・・・」

 「あーん・・・はむ!」


 圭の目の前にぬらぬらと真っ赤に濡れ光る巨大な洞穴が広がったかと思うと、次の瞬間にはその洞穴の中に放り込まれていた。

 中ではぐちょりぐちょりと卑猥な水音が反響し、自身の身体もその音を奏で始める。

 洞穴唯一の入り口は、侵入者を逃がさぬよう固く閉じられ、圭から見える景色は闇に包まれた。

 一方、千夏の舌は放り込まれたキャンディを優しく包み込み、唾液という天然のローションで何重にもコーティングする。



 ( ―――――――――――っっっ!!!)



 そんな一連の動作によって、その身を蹂躙された圭は想像を絶する快感を叩きこまれた。

 『神経を直接舐められる』という人体の構造上、絶対に味わうことのない感覚。

 先ほどまでとは比べ物にならないほど強烈な刺激が脳に直接突き刺さり、瞬く間に精神を焼き尽くしていく。

 あまりの快感に意識が吹き飛びそうになるが、津波のように押し寄せる快感に無理やり現実へと引き戻される。

 舐められ、包み込まれ、押さえ付けられ、搾り取られる。

 縦横無尽に蠢く妹の舌というモンスターに全身を嬲られる。

 茜が言っていたとおり、その身体が溶けてしまうということは無かったが、いっそ溶けてしまった方が彼は救われたのかもしれない。


 「魔法のキャンディ、甘くておいしー!・・・でもこれって何味なんだろう?」


 今まで味わったことのない何とも言えない味。

 少女は兄の身体から染み出るその味を確かめるように、キャンディを口内でコロコロと転がししゃぶり尽くす。

 その行為が自分の兄の身体、そして精神を犯し尽くす行為だとも知らずに。



 ( ―――――う”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!)



 ジャブリと唾液の海にその身を沈められ絶叫を上げるも、発声器官を持たない今の身体では、誰にもその叫びは届かない。

 真っ暗な世界に『視覚』を犯され、全身を浸す甘い唾液に『味覚』を、蠢く巨大な舌に『触覚』を犯される。

 それらが口内で交じり合い響く音に『聴覚』を、そしてむせ返るほど充満するにおいに『嗅覚』を犯される。 

 五感のすべてを犯され、それを神経が剥き出しになった全身で受け止める。

 舌が動くたびに襲い掛かる大きな快感が、彼の脳を上書きしていった。

 気が狂うほどの快感にも射精することは叶わず、ただただ耐え続けるしかない。


 どれだけ舐め続けても味が尽きることのないキャンディに、顔を綻ばせる千夏。

 そんな彼女の口内で、尽きることのない快感を味わい続ける圭。

 終わりの見えない快楽地獄に、彼の精神は徐々に削り取られていった・・・。



 *



 ようやく圭が元の身体に戻れたのは、もう日も変わろうかという頃だった。

 魔法のキャンディはあの後しばらくしてから吐き出され、茜がひとりになった時に元の人型に戻された。

 妹の口内で散々舐め回された彼の身体は、キャンディから戻った後もしばらく痺れるような快感が収まることは無かった。

 変身魔法を解いた際、廃人寸前となっていた圭の様子を見て、事の重大さに気づいた茜は何度も何度も謝罪していた。

 ただ最終的には元の大きさにも戻してくれたので、これ以上問責する必要もないだろう。


 そして、その地獄とも天国とも言える一夜が明けた数日後・・・。



 「・・・・あんだけの快感を覚えたら、普通じゃ立たなくなっちまうよなぁ・・・」


 数日ぶりの学校から帰宅途中の圭は、ひとりそう呟いた。

 彼はここ数日間、39度を超える高熱を出して寝込んでいた。

 周囲にはタチの悪い風邪をひいたと伝えているが、あの夜、同い年の女子の足裏、そして妹の口から受けた快感。

 およそ普通の人生では浴びることのない快感が、きっと彼の脳をパンクさせたのだろう。

 ようやく動けるほどに回復した今も、あの刺激的な夜のことで悶々と悩んでいた。



 「あ、ケイくーん!」

 「おにいちゃーん!」


 そんな悩みについて考えていた圭の後ろから、彼を呼ぶ声が聞こえる。

 振り返った先には、こちらに向かって手を振る真琴と千夏。ふたりにあの夜のことは今も隠している。

 ただ、どうしてもこのふたりの顔を見ると・・・。


 「・・・?どうしましたケイくん?なんだか顔が赤いですけど・・・。」

 「ほんとだー!おにいちゃん、まだ風邪治ってないのー?」

 「・・・あー。そうかもしれんなー。」


 心配そうな顔で覗き込むふたりから、彼は耳まで真っ赤にした顔を背ける。

 そんな彼のカバンの中には、どこか見覚えのあるクッキーが大切に仕舞い込まれていた。