スニーカーに自動車が数台追突する。足を横に動かし、潰れた自動車を薄っぺらな金属板へ変える。小人が吸う人巻き込まれてただの肉塊と化し、その他多数の小人たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。
「ソラちゃんが来ないなら、こんなものなんていらないよね」
 映画館の屋上へ拳を叩きつけ、中層部へ膝蹴りを入れる。
 私の体重移動に耐えかねてかアスファルトに亀裂が入り、映画館は瓦礫の山と化す。破壊と殺戮。これこそ、巨大化の醍醐味だ。
 瓦礫の山も踏みにじり、映画館を完全に土に返す。これで、あの映画の主人公たちも土の中で永遠に一緒にいられるから、きっと幸せだよね。
 私のいまの大きさはおおよそ50倍、今の身長が153cmだから、80m弱ってところかな。この辺りにあるビルはどれも、私の胸くらいの高さしかない。
 私が通りを塞いでいるせいか、小人さんたちには大通りを南側に逃げる集団と、駅のある北側へ逃げる集団とのふた手にわかれたみたいだ。
 駅側へ逃げていった小人さんたちと遊んであげることに決め、南へ行った小人さんたちはひとまず見逃してあげることにした。駅側のほうが大きい建物も多くて、壊しがいもあるしね。
「さて」
 北の方、駅の側を向き、手始めに両脇にあるビルを大通りへ引き倒す。数秒前までビルであったガラスや鉄骨、コンクリート片が道を埋め、小人さんたちには踏破不可能な壁ができた。
 これで、小人さんたちは駅の方へ逃げるしか完全に選択肢はなくなった。
 瓦礫の上に立ち、ピースサインを左目の前へ持っていき、ビーム、ではなくエネルギー弾を6発ほど放つ。淡いピンク色に輝く球体は放物線を描きながら小人の頭上を越え、私の狙い通りの場所へ着弾した。
 逃げ惑う小人たちは、それらが彼らに当たらず、そして私が追加で撃つつもりがないことに安堵しているみたい。
「短絡的だなぁ。」
 強くて大きい私と違って、弱くて小さい彼らには目の前のことしか考える余裕がないのだろう。

 小人が逃げ惑う大通りへ進撃を始める。歩道から車道に小人が溢れたり、その逆に暴走した自動車が車道に突っ込んだりと、すでに広がっていた混乱に拍車がかかる。
「スカートじゃなくてごめんね。かわいい服来ても、ソラちゃんにはぜんぜんかなわないんだよね。」
 今日の服装はベージュのホットパンツにマリンキャップと、ブラウスとニーソックス。「ボーイッシュな格好も似合うと思うわよ」という母親のチョイス。かわいい娘とデートっていったらこれを用意してくれた。
 有名アパレルメーカーの看板が出ている全面ガラス張りのビルを覗き込むと、中にまだ小人がたくさんいるのが見えた。その反対側に立つ重厚な銀行のビルは、かがんだ拍子にホットパンツに包まれたおしりが当たり、まるで積み木で出来ていたかのようにあっさりと崩れてしまった。
 ニッコリと微笑みかけているのに、中の小人さんたちはビルの中を右往左往している。失礼だなぁ、もう。
 手を差し込みビル内部をかき混ぜると、上部から崩れていった。
「あははははは」
 細身のカラオケ店は腕を回して抱きしめてみたり、真新しい図書館や役所の出張所が入るビルをヒップアタックで押し倒したりと、手や足だけでなく全身を使って街を壊していく。
 回し蹴りを放つと、三棟まとめて中層階が消し飛び、上部の自由落下によりビルそのものも潰れていった。
 大通りはすでに血の海だ。アスファルトは剥がれ、赤く染まり、車やバス、トラックなどの自動車は原型をとどめていればまだいい方で、燃料に引火して炎上しているかただの鉄塊になっているのがほとんどだ。
 1階部分にに足を蹴りこみ、蹴りあげることで雑居ビルを破壊すると、青いマークが付いた地下へと続く階段が目についた。
 集団から思い出したように何人かの小人さんははなれ、その階段を下って行っていた。

「そういえば地下鉄の駅があったんだっけ」
 四つん這いになって階段へ手を差し込み、地面を掘り返していく。駅構内には結構たくさんの小人さんがいたけれど、天井部分がなくなったせいか、周囲の土が崩れて土砂にうもれてしまった。
 券売機、改札とどんどん掘り返していき、ついにプラットホームの一部が顔を出す。プラットホームは小人で溢れ、1編成地下鉄が止まっているものの、小人たちを捌ききれず発車できずにいるようだった。
「み~つけた」
 思わず嗜虐的な笑みを浮かべてしまう。ホームに小人の悲鳴が響いた。
 プラットホームを露わにしようともう少し地下鉄のトンネルを掘り返そうとしたところ、力加減を誤ったのかトンネルが崩落し、小人と地下鉄の車両を押しつぶしてしまった。
「む~」
 仕方がないので、念入りにこの一帯を踏みつけておいた。ここまでくれば、駅はもう目と鼻の先だ。もっともこの大きさの私にとって映画館からここまでの距離は全然大したことないのだけれど。
 休憩とばかりに駅前ロータリーに面した、街頭ビジョンを持つビルに腰掛ける。もちろん小人のビルなんかが私を支えることなどできず、文字通りそのビルは私の尻に敷かれることとなった。
 女の子ずわりに姿勢を変え、あたりを見回す。ロータリーへ通じる3つの道路のうち2つは大穴が穿たれ、小人が通行不可能な断崖絶壁となっている。残る一つは私が破壊し尽くした大通りにつながっている。
 あそこにいた小人さんたちが生き残る道は、大通りから脇道にそれて逃げ出すしかなかったんだけれど、それが出来た小人さんはほとんどいなかった。まぁ、私が引き起こす振動と頭上から降ってくる瓦礫を避けながら細い道を行くのは至難の業だけど。
 まだその威容を誇る、この辺りで有数の規模を持つ駅とそれに併設されているデパート。そして小人でごった返している駅前ロータリー。線路と別の出入り口にもエネルギー弾を打ち込んでいるから、ここの小人たちに逃げ場はない。
 どうやって楽しもうか。思わず垂れてきたよだれを拭う。
「もうちょっと大きくなろう」
 自分のさらに巨大化した姿を思い描き、頭の中でその実現を強く意識する。
 周囲のざわめきが大きくなるにつれて、私の視界はまた段々と高くなっていく。