唐突に強大な力を持たされた少女がその力を暴発させ、周りに被害をもたらす。
これはままあることではあった。
落ち込む少女をなだめすかしてグリーゼに連れて買えるのはこれまでもよくあったことだと聞く。
だからその用意はしてきていた。
けれども意図的にその力を自分の住んでいた街を意図的に破壊するというケースはおそらく初めてだ。
これまでの十数年の短い人生で周りの環境に恨みをためてきて、その復讐を・・・ということなのだろうか。
ロロは怯えを隠しながら目の前の少女のことを見据えた。


理不尽にさらされることには慣れている。
世の中自分の思い通りにならないのは当たり前。
私のじゃないのに私が悪かったことにされるのも当たり前。
それに少しでも反論しようものなら、怒鳴られるのも叩かれるのも当たり前。
どうしてそんなことをするのか良くわからなかったけど、いまならわかる。
「だってこんなに楽しいんだもの」
もう誰も私に逆らえない。だって私はこんなにも強いんだもの。
理不尽に人の物や家を壊しても、魔法で人を焼いても、誰も私のことを怒ったりしない。
恐怖に染まった瞳で私を見つめることしかできない。
体の奥底から、ゾクゾクするような快感が湧き上がってくる。
人を屈服させるのがこんなにも楽しいことだとは知らなかった。
土手の向こう側は激しく炎が燃え上がり、ときおり建物が崩壊する音や人々の叫び声があたりに響く。
魔法少女の優れた聴覚が、こちらの方向へ向かってくるサイレンの音を捉えた。
「新しいおもちゃだ」
魔法で音の発生源、緊急走行でこちらへ向かってくるパトカーのもとへ一瞬で駆けつけるノノカ。
車内に座る警察官の驚愕の表情を、魔法少女の視力はしっかりと捉えていた。
「えいっ」
年相応の可愛らしい声とともに放たれたキックは、金属のひしゃける嫌な音とともにパトカーをまるでサッカーボールのように空中へ蹴り飛ばした。
そしてまたもとの河原へ舞い戻る。
「命中したよ!やったねロロ!」
目標としていた、少し離れたところにある中規模病院に命中したことを確認して、ノノカは満面の笑みを浮かべた。
もとから整った顔立ちをしていたノノカの笑顔は、可憐な衣装とともなって、魔法少女らしく非現実的な可愛さと美しさを見事に併せ持つ。
ロロはそんなノノカとその後ろ、パトカーが突き刺さり火の手が上がり始めた病院の建物という直視したくない現実から文字通り目をそらした。
目の前の少女の気に障るようなことをしてはいけない。
「早速だけど、ノノカをグリーゼに案内したいロロ」
チキュウに対してこんなに罪悪感を覚えたのは初めてだった。
数年に一回、それも一人の少女を連れ去るだけなら、大半の住民には迷惑をかけることはないはずだった。
そんな内面を表情に出さないよう気をつけながら、ロロは言葉を続けた。
「転移魔法で移動するロロが、結構魔力を使うことになるロロ。残り魔力と体力は大丈夫ロロか?」
「魔力も体力も余裕だよ。」
普通の魔法少女なら、初めて魔力操作を習得するときの練習の段階でかなり体力を使う。これまでにない全くの新しい力を使うのは本来なら結構大変なはずだった。
そして、並の魔法少女でなら、こんなに魔力を連続して使うことはできない。
ロロは改めて魔法少女としてのノノカの才能の計り知れなさを感じる。
「ロロに続けて魔法の呪文をとなえてほしいロロ。エルルア・マジカル・トランスファー・ターゲット・ナチロ ロロ」
「エルルア・マジカル・トランスファー・ターゲット・ナチロ」
視界がぐにゃりと歪み、1人の魔法少女と1匹の使い魔がチキュウから姿を消した。


2人はエルルア王国とナチロ連邦の間、国境の森に二人は降り立った。
転移の魔法は使用者が強くイメージした場所に出現する。
そしてロロの世界において世界を跨いだ転移はエルルア王国へ、またエルルア王国からしか基本的にはできない。
今回はノノカがこの世界について具体的なイメージを持っていないこと、そしてロロが必死にこの場所をイメージすることによりここへ出現することになった。
そんなことはつゆ知らず、ノノカはつまらなさそうにあたりを見回した。
森の中にはエルルア王国とナチロ連邦をつなぐ道が通してある。
ノノカの目の前にある、そのエルルア王国側の道は自動車がすれ違うだけの道幅はあるもののただ土を固めただけの原始的なシロモノ
「どっちに行くの?」
「向こうの方、ナチロ連邦の国境の町に向かうロロ。ただその前にやりたいことがあるんだロロ」
ナチロ連邦側の国境の町へノノカの意識を向けさせながらロロは話を続ける。
そこは中規模な都市でノノカの地元よりかなり発展した街であり、エルルあとは違い高度な技術力を持つナチロの街なので、ノノカの世界と同等程度の技術水準で作られている。
そして、ナチロ軍の大規模な基地が設けられている街で、ロロの創造主の占いでは今日このあとにエルルアに向かって軍が差し向けられるとでていた。
ロロの直近の課題は、ノノカにこの軍を撃退してもらうことだった。
もしここでナチロ軍を止められなかった場合、中世から時間が止まっているようなエルルアに対抗するすべはない。
万が一にもそれは防ぎたい。
ロロはその一心で嫌な予感に蓋をしながら、ノノカが彼女のあふれる魔法の才能が彼女自身にもたらした奇跡の力の使い方を教えることにした。
「ノノカの固有魔法を教えるロロ」
「固有魔法?」
あどけない顔をコクリと傾けるノノカ。
見た目だけはまるで素直で純粋な心を持つ理想の魔法少女そのもの。
その内面には魔法少女とは思えない残虐性が秘められているが。
「たとえば前に教えたカノンみたいな魔法少女なら誰でも使える魔法と違って、ノノカだけが使える特別な魔法ロロ」
「強いの?」
「もちろんロロ。ノノカの固有魔法はリサイズ・・・自分自身を含めてすべてのものの大きさを自在に変えられる魔法ロロ」
一瞬考え込むよう目線を遠くに向けるノノカ
彼女の脳裏では、高層ビルのように巨大化した自分が足元の自動車を踏み潰しながらノノカノン・・・それも巨大化分威力も増大した・・・でコンクリートの街並みをドロドロに焼き払う姿が浮かんでいた。
ゾクリと背徳感が体を駆け巡る。
「とってもおもしろそうな魔法だね。どうやって使うの?」
狂喜が滲んだ笑みがロロの瞳を射抜く。
「何をどのくらいの大きさにしたいのか思い浮かべながら「リサイズ」と唱えるロロ」
「リサイズ」
ガラス張りの高速エレベーターのようにノノカの視点が上がっていく。
「なっ・・・何をしたロロっ?」
「見えなくなっちゃうと困るからロロのことも一緒に大きくしようと思ったんだけど」
元の大きさのおよそ50倍ほどの大きさになったノノカ。
周りの木と同じくらいの背高さ、ノノカより一回り年上の10代後半くらいの少女をすくい上げる。
全裸の彼女には動物のような頭とお尻に耳と尻尾がついていた。
「ロロって本当は女の子だったの?」
「昔の封印前の姿ロロ・・・ロロの封印とノノカの魔法が干渉してこうなったんだと思うロロ・・・」
大事な部分を手で覆い隠すことも叶わず、小学生の少女に身体を弄ばれていることにロロは屈服感を覚えた。
小動物から少女へ変化しながらノノカの手のひらサイズにまで巨大化したロロを、幼児がおもちゃの人形にするように四肢をいじるノノカ。
無理やり力を込めてばんざいのポーズを取らせ、自分と違って丸みもった身体を人差し指でなぞる。
自分にはない女性的な身体を持つロロへの嫉妬心、けれどそれが自分の手の中にある優越感
なにこれ面白い
白い肌を下半身からゆっくりと撫でていく
足を大きく開いてみる
股の間を人指し指でこする
胸元を撫で回してみる
ロロの美人な顔に浮かぶ羞恥の表情とだんだん荒くなっていく息が、ノノカの支配欲を刺激していく
「やめてっ・・・やめるロロっ」
怒りを含んだ叫び声に、手触りと反応を楽しんでいたノノカの手が止まる。
ロロはホッとしながらギュッと瞑っていた目を開けた。
そこには氷のように冷たいノノカの顔があった。
私に逆らうの?
そこにはそう書かれているように読めた。
身体をを掴んでいた手の力が緩み、手のひらを重力にひかれてズルリと滑る。
先程まで自分の体の自由を奪っていた巨大な手のひら。
今更ながらそれが自分を、自分の身長の数倍の高さの位置へ自分を固定していたことに気づく。
「違うんだロロ・・・その・・・あの・・・ロロっ・・」
墜落死への、そしてノノカという少女への恐怖にガタガタと震えながら言葉を続けた。
恐怖から涙が頬を伝う。
「まあいいけど」
平坦な声が聞こえるとともに、自分の体が落下しないようしっかりと支えられるのを感じる。
その包容力にロロは安堵のため息をついた。
無意識のうちに心も身体も完全に年下の女の子にロロが完全に支配された瞬間だった。
もっとも彼女自身はその事にまだ気づいていなかったが。
「そういえばさっきから聞こえるこの音はなに?」
「音?」
「向こうの方から車みたいな音が近づいてくるの」
ナチロとエルルアの国境の森、その中に通された曲がりくねった街道を戦車を中心とした軍の陸上部隊がこちらに向かって進んで来ていた。
魔法少女の優れた聴覚は先程からそのエンジン音を捉え、生い茂った森に隠され見えないはずのその位置を正確に捉えていた。
「ナチロ軍の戦車だと思うロロ」
「戦車?」
「これからロロ達の国、エルルアを攻撃にいく戦車隊ロロ。ノノカ、あの戦車をその・・・あの・・・」
止めてほしい
ノノカに、自分のシハイシャにタノミゴトをする。
直前の出来事が脳裏をよぎりロロの言葉がつかえる。
そんなロロを満足気に見下ろすとノノカは代わりに言葉を続けた。
「やっつけてほしいの?ロロの国を助けるって約束したしね、いいよやってあげる」
「ありがとうロロ。助かるロロ。本当にありがとうロロ」
全く異なる思いを秘めた2人の嬉しそうな声が森に響いた。
「ここにいてね」
胸元にブローチのようにロロを差し込む。
戦車隊に向かって一直線に、森の木々をまるでそのへんに生えている雑草のように踏み潰し、蹴り飛ばしながら駆ける。
ロロは文字通り必死にノノカの服に捕まりながら、ナチロ軍の未来を想像し暗い笑みを浮かべた。
森の中の道を、一列に並びエルルアを目指す9台の戦車からなるナチロ軍の戦車隊は、ノノカの巨体が走ることによって引き起こした突然の地震に襲われる。
全車停止を隊列の真ん中にいた隊長車が指示したその瞬間、ノノカのピンク色のストラップシューズが隊長車の真上に出現する。
10代前半の可愛らしい、しかし巨大な少女が、アニメの登場人物のような可愛らしいコスチュームを着て戦車の隊列の真ん中に現れた。
しかもその少女の色白の足を守る白いニーソックスとピンク色のストラップシューズ。
隊長車をめがけてジャンプしてきたのであろう。2つの揃えられたそのシューズのしたで、1台の戦車がぺちゃんこになっていた。
突然に意味不明な出来事に混乱状態に陥った彼らに、ノノカはステッキを出現させるとピンク色の光を放つ。
ノノカの前方、エルルア側にいた戦車は跡形もなく消失し、ナチロ側の舗装された道に普通の戦車でも踏破不能なほどの大穴が穿たれ、光線がかすめた木々が燃え始める。
陸上で最も強い兵器であるといわれる戦車。
しかも配備されたばかりのナチロ製の最新式、この世界で最も高い技術を持つ国であるナチロがその技術力を惜しみなく投入したこの世界で最強と言われる型式、その部隊の半数を一瞬で文字通り消し炭にしたノノカ。
「これじゃつまんないじゃん」
彼女はあっさりとおもちゃが壊れてしまったことに不満げにつぶやきながらくるりと身体を180度回転させた。
そこには隊長と仲間の半数を失った4台の戦車がいた。
目の前にいた1台をストラップシューズで蹴り飛ばす。
最新の装甲でも吸収しきれなかったノノカの蹴りは、戦車と衝突した瞬間に5名の乗員全員をただの肉塊に変えた。
ノノカの小さな足よりふたまわりほど大きいソレは、空のダンボール程度の感触をノノカに与えて空を舞い、いくつかの破片に別れて森へ墜落した。
それをみてニッコリと可憐な笑みを浮かべるノノカ。
上機嫌で未だ傷一つないストラップシューズでしっかりと地面を踏みしめ、次の獲物へ向かう。
次の1台は片手で持ち上げると、アルミホイルを丸めるように両手でギュッと握りつぶした。
「やっぱり魔法より自分の手足でやったほうが壊した感触があって楽しいよ」
そのときになって残る2台はようやく行動を起こし始める。
ノノカに砲撃を行いながらナチロ側に向かって後退を始めた。
獲物を追い詰めるようにノノカはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
最新鋭の戦車は危なげなく曲がりくねった道を高速で走行しながら、ノノカに向かって砲撃を行った。
魔法少女になってから初めて攻撃らしい攻撃を受けたノノカは砲撃が起こした爆炎のを物ともせずに、逃げた戦車をゆっくりと歩いて追いかける。
「思ったよりもさらに威力がないね。学芸会で作ったハリセンのほうがまだ感触あったよ」
「魔法少女の力・・・というよりノノカの才能だと思うロロ。歴代の魔法少女だと今のはそれなりにダメージを受けているはずロロ」
ノノカの衣装にもほつれどころか汚れ一つついていなかった。
戦車の進むペースに合わせて、ノノカも街道を舗装された路面を砕きながらついていく。
しばらくすると砲弾が尽きたのか砲撃が止む。
そしてノノカの側に近い方を走っていた1台が唐突に停車すると同時にノノカの方に向かって特攻してきた。
「そんなことじゃ私は止められないよ」
ストラップシューズに激突する寸前、ひょいとノノカはソレをつまみあげる。
そして砲塔をまるでペットボトルの蓋を開けるようにとりはずした。
中から蒼白な顔の5名の搭乗員がでてくる。
足を止めじっくりと車内を観察するノノカ。
ロロと同じ位の年に見える彼らは互いに身を寄せ合いながら震えていた。
自分の手の中で自分より年上で力もあったはずの男性が5人も何もできずに震えている。
その事実がノノカの支配欲をくすぐった。
「そうだ、男の人っておっぱいが好きなんでしょ?」
胸元からロロを取り出すとロロに魔力を通し身体強化を施す。
ロロの体が作り出す影が彼らを覆う。
「やっやめて」
車内から悲鳴があがる。
ロロは余計なことを言わないよう唇を噛み締めながら自身の胸が人間を押しつぶす、地獄のような時間が終わるのを待った。
内部の危機が潰れる乾いた音、そして人体が潰れる湿った音があたりに響く。
自分より強いはずだけど弱いちっちゃな大人の女性のロロが、ロロより強いはずだけど弱い男性兵士たちを、そのおっぱいで押しつぶしている。
この場にいる全員が私に理不尽に蹂躙されているけれど、私の力が強大すぎて誰も逆らえない。
その事実がノノカをひどく興奮させていた。
「大人の女の人はおっぱいを男の人に触ってもらうと気持ちよくなるんでしょ?ロロは気持ちよかった?」
車内がぐちゃぐちゃのミンチ状態になったことを確認して、ロロを取り外し、戦車はぽいっと投げ捨てる。
手の中でロロはぐったりとしていた。
「そっか、これはやり方が違うのかな?」
乱暴に手を振りロロの意識を覚醒させる。
そして魔法でロロの身体をきれいにしてから自分の胸元に戻すと、残りの1台の追跡を再開した。
といっても魔法少女の優れた聴覚はその位置を捉え続けているのだが。
戦車に向かって道は無視し、再びまっすぐと森をつっきることにした。
最後の1台でどうやって遊ぶか、そう考えているうちに1台と2人は森を抜け、広い平原にでる。
そこには戦車隊からの連絡をうけて展開していたナチロのエルルア方面軍が地上と空に展開していた。
足を止めたノノカから追いかけていた戦車は、最後の力を振り絞って展開していた部隊の最後列に向かって更に速度を上げて逃げていった。
対峙するナチロ軍と、エルルアの魔法少女とそのマスコット。
両者に、いやナチロ軍と魔法少女のマスコットに緊迫した空気が流れる中、ノノカの目は展開した陸上部隊と空に浮かぶ航空機の後ろ、ナチロ側の国境の街に釘付けになっていた。
「ねぇロロ、これ全部わたしが壊していいんだよね?」
エルルア方面軍の壊滅。それはロロにとっても望むところであった。
ナチロでは徴兵制が敷かれていて、若者は数年間軍に入る義務があると聞く。
好んで戦争をしたいナチロ政府の上層部とは違い、生まれた国の義務で銃をとる彼ら。
罪のうすいその命までも奪ってしまうことに軽い罪悪感を覚えながらも、ノノカの問いに答える。
「もちろんロロ。これでエルルアは直近の危機から救われるロロ」
ノノカの言った全部の中に軍だけでなく街も含まれていることにロロが気づくのはこの直後のことだった。
ピンク色の光線が二筋、地上と空を舐める。
遊び飽きたおもちゃを一瞬で片付けたノノカが満面の笑みを浮かべながら目の前の街に向かっていくのに気づいたロロは、これから起こる惨劇を想像して背筋を凍らせた。
そしてようやくノノカの本性を、彼女の行動原理が弱い存在を弄びたいだけだということを激しい絶望感とともに理解した。