実在の都市名が出てきますが、フィクションです。


20XX年、東京上空に全長15キロにも及ぶ宇宙船が現れた。
人類の宇宙進出はいまだ宇宙ステーションの運用と、月面の実験的な開発に留まっており、地球人類の物ではないことは明らかだった。
しかし、それを遠くから見上げる人々は特別驚きを見せることはなく、ただただ「また来てしまった」という表情をしていた。

「うーん、到着ー。やっぱり地球は何度来てもいいわねー。」
上空に停止している宇宙船から、SF映画でよくある謎の円形の光線に包まれながら異星人エリーが地上に降り立った。足元に聳え立っていたビル郡を踏み潰しながら。
なにせエリーの身長は1680メートルあり、両足のサイズもそれに比例した大きさがあるのだから、着地しただけでも相当な破壊を引き起こすのは当然である。
そして、エリーは周りを見渡すと懐から何やら携帯端末のような物を取り出してどこかへ連絡を取った。
「ハーイ、日本の首相さん。ご機嫌いかが?今日破壊する地域はここ東京で間違いなかったよね?」
「はい…仰る通りでございます。」
まだ10代後半にしか見えないエリーの問いかけに、一国のトップがただただ平伏した様子で回答する。
「この街を前に破壊したのは5年前になるけれど、破壊のしがいがあるいい街だったよ。言いつけ通り、前回を上回る立派な都市にしてくれたみたいだね。」
「はい…ご命令通り、超高層ビルも世界有数の規模を持つタワーも出来る限りご用意致しました。」
「うんうん。いいね。じゃあ早速だけど、めちゃめちゃにさせてもらうからね。何せ1ヶ月ぶりのお楽しみなんだから、もう我慢なんてできないの。」
「はい、どうぞ存分にお楽しみ下さい。」
首相との会話を終えたエリーは眼下に広がる都市を見つめ、胸の高鳴りを押さえられないでいた。
「あの辺りのビルは200~300メートルはありそうだね。あっちの電波塔はひょっとして800メートルはあるんじゃないの?うーん、前回壊した時よりも楽しめそう~。」
そう言いながら、エリーは右足で足元の国立科学博物館と国立西洋美術館を、左足で上野駅の駅舎とホーム、そこに止められていた合計数十車両の様々な電車をためらう事なく押し潰し軽い前傾姿勢をとった。
「それじゃあ早速だけど。行っくよ~!」
そう掛け声をあげた直後、エリーは線路を目印に南下する形で強く足を踏み出した!
一歩目がそれぞれが10~15階はありそうな細身のビルを20棟程まとめて踏み潰したかと思った次の瞬間には、二歩目が御徒町駅周辺に振り下ろされ、周囲を容赦無く蹂躙した。
しかしエリーは歩を緩めるどころかさらに大きく、より力強く三歩目を踏み下ろし、秋葉原のUDXビルと付近の2つの高層建築物を一瞬で最上階から1階まで踏み固めてしまった。
さらに勢いを付けた四歩目を突き刺すように神田駅周辺に踏み入れることで、直接踏み潰した範囲だけでなく、辺り一体を吹き飛ばすように壊滅させたエリーはそのままの勢いで、東京駅周辺の超高層ビル郡めがけて、ベッドに飛び込むかのごとくダイビングした!

ズガガガガガガガガガガガ!!!!
ドドドドドドオオオオオオオ!!!!

周辺に凄まじい破壊音、ビルの倒壊する轟音が鳴り響く。粉砕されたビルのガレキの粉塵が舞い散り周辺の視界が悪くなったが、しばらくすると辺り一面の倒壊したビルとそのガレキの中で、とても楽しそうな表情を浮かべ、うつぶせになっているエリーの姿がはっきりと見えるようになった。
「っっっーーん!!たのしーーーい!!ちっちゃいけれど立派な都市を、私の力でめちゃめちゃにできるこの星で遊ぶのは、何回やってもぜーんぜん飽きない!」
ほんの少し前まで、超高層ビルが何本も立ち並んでいた東京駅周辺は、エリーの巨体によってまとめてすり潰されてしまっていた。
ボディプレスの直撃を受けた東京駅も、在来線、新幹線の区別なく止められていた電車ごと全てが完全に押し潰されていた。
被害はそれだけにとどまらず、エリーが全身を使って飛び込んだ衝撃により、周辺のビルは軒並み吹き飛ぶか倒壊してしまっており、少し離れた場所にある、新橋周辺の超高層ビルまでもがあまりの衝撃で内側から崩れるように倒壊していた。
破壊を始めてからまだ1分やそこらしか経っていないが、早くも東京の主要な街並みが広範囲に渡って破壊されてしまっていた。
この様子をテレビ中継を通じて目撃した全世界の多くの人達は、複雑な、しかしほとんどの人は無力感に包まれた表情でただ見つめるしかなかった。
が、それを引き起こした本人は無邪気な表情で、ただただ「楽しいコト」をしている風でしかなかった。


一体なぜこんな事になっているのか、話は5年程前に遡る。
それは本当に突然の出来事だった、今日と同じように全長15キロの宇宙船が、ニューヨーク上空に現れたのだ。
中から現れた異星人の少女、エリーは眼下の大都市に降り立つと、当然のようにニューヨークの摩天楼を蹂躙し始めあっという間に壊滅させてしまったのだ。
一つの都市をそこに住む多くの人々共々殲滅したエリーは満足したのか、宇宙船に乗り込むと自分の星に帰っていった。
地球の人々は史上類を見ない突然の宇宙から災厄に恐怖し、戦慄を覚え、また2度と同じことが無いようにと願った。
だがそんな人々の願いを全く無視するかのように、エリーは1ヶ月後にまた現れ、同じように別の大都市であるロンドンを破壊していったのだ。
この人類史上最大の敵に対して各国は共同で対処することを決議し、史上最大の連合軍が結成され、来襲したエリーとの戦闘が行われた。
しかし、戦闘機も戦車も軍艦も、質、量共に地上最強であるはずにもかかわらず、エリーに対してはほとんど打撃らしい打撃も与えられず、一方的にやられるがままだった。
そんなことが3回ほど繰り返されたある時、なんとエリーの方から地球人類に向けて対話をしたいとの要請が持ちかけられたのだ。
これまでただただ蹂躙されるがままだった地球人であるが、少しでもこの状況を打開できる可能性があればと国連が窓口となってエリーとの対話が行われることになった。そこでエリーから持ちかけられた話はこんな内容だった。

「ねぇ、私とあなた達でどれぐらい力の差があるかはじゅ~~~ぶんに分かってもらえているよね。でね、これまであなた達の星の都市を5つほどめちゃめちゃにさせてもらったじゃない。それはそれですっごく楽しかったから、これからも破壊させてもらいたいんだけど、ある問題があることがわかったの。」
「…問題とは?」
地球人がこれまでに行った抵抗がほとんどと言うか、全く実を結んでいないのをいいことに、平然と一方的なことを言い放つエリー。
地球人側代表は怨嗟の言葉の一つも吐いて言い返してやりたい気持ちでいっぱいであったが、異星の大巨人の機嫌を損ねても破滅的な結果しか見えないのは火を見るより明らかであり、ぐっと言葉を飲み込んで話を続けた。
「私の見立てでは、この星で破壊のしがいがある大都市は、これまでのものも含めて60くらいなの。ってことはこのままのペースだと、あと5年以内にまともな大都市がこの星からなくなっちゃうでしょ。私はね、これから先もず~~~~っとこの星でのお楽しみを続けたいの。でね、提案なんだけど、これまでに壊した都市、ぜ~んぶ元通り、ううん、もっと立派にして作り直してくれないかなぁ。」
「…」
この巨人は地球上の主要な都市を全て破壊し尽くすつもりなのか?地球代表はもう何と反論すべきかもわからなくなり、ただ黙ってエリーの言葉に耳を傾けた。
「もちろんタダでとは言わないよ。これはあなた達にとってもメリットのある話。私の言う通りにしてくれるなら、来月からは都市を破壊する順番は、事前に私が指定した通りにするよ。で、一巡した後は最初の都市を作り直せているはずだから、またそれを順番に壊していくの。これまでは破壊した都市ごとあなた達もいくらか巻き込んじゃってたけど、それだと都市を再建してくれる労働力が減っちゃうでしょ?だから、事前に破壊する都市を決めておけば、あなた達は巻き込まれなく済むでしょ。どうかな?」
「…それは本気で言っていることなのか?」
「そうよ、そうじゃなきゃわざわざこうしてあなた達に話しかけたりすると思う?」
「いや、しかしそんなことを言われても…」
「何?嫌なの?双方にとってとってもメリットのある話だと思ったんだけど。嫌ならこれまで通り好きにさせてもらうまでだけどねー。それともまだ逆らう気があるとでも言うの?あなた達の軍隊なんて、私には全然敵わなかったじゃないの。もう兵器なんて残ってないでしょ。」
「ま、待ってくれ!わかった。君の条件を飲もう。だから、これ以上の無差別攻撃はやめてくれ。」
「よろしい。じゃあ来月はココ、あなた達の言うところのシアトルって街を破壊しに来てあげるからよろしくね。」

その後、国連側にエリーの指定した残り50数都市の破壊順が通告された。
東京、サンフランシスコ、北京、シドニー、モスクワ、ベルリン、大阪、リオデジャネイロ、ムンバイ…etc
エリーと地球人側との交渉の結果、世界の主要都市は「エリーを楽しませる」ためだけに存在するものとなった。

大変なのはそれからである。まずエリーに指定された都市は、エリーの来襲前に全住民を別の都市へ移住させなければならない。
さらに破壊された都市を次のエリーの来襲。つまり破壊されてから5年後までに再建、いやエリーの言葉によればより立派な都市として再生させなければならない。
だがエリーに襲われた都市はどこも徹底的に破壊し尽くされており、まず膨大なガレキの撤去が必要である。さらに5年間という時間制限もあり、更地のあちこちで同時進行的に建設を進めなければ到底間に合わない。
しかもエリーは人が住める都市を蹂躙することを楽しんでおり、ただビルが並んでいるだけではだめで住居やオフィスはもちろんのこと、公共交通機関や商店、インフラまでしっかり作り直すように求めていた。
こうなると、ただ漫然と事を進めていても間に合うはずが無く、国家的な事業として進めなければならない。さらに、この規模の都市建築プロジェクトが世界中で最大60も同時並行で行われるのだ。
最早人類の経済活動は、とにかくエリーの破壊する都市を期限内に作りあげることを優先して行わざるを得なくなる。
この難題に対して各国政府は協議を重ねた結果、地球全体の政府を統一し、地球連邦政府とすることに合意した。(と言うかそうせざるを得なかった。)
地球連邦の最大の目的は、エリーの指定した主要都市を滞り無く再建し続けることである。
そのための資源分配に始まり、各国の企業、建築はもちろん各種材料、輸送、資源、インフラ、金融…etcありとあらゆる業種への半ば強制的な命令と労働者の管理が徹底されることになった。
もちろんこうした一連の流れに反発する人々も大勢現れた。地球連邦当局との小競り合いも各地で頻発した。
しかし、エリーと地球代表との間で計画的な都市破壊の合意がなされてから3年、世界の指定都市の内まだ破壊されていない都市が20都市となった頃、地球連邦政府とエリーの間である会合が開かれたことでその流れは変化することとなった。

「二巡目の破壊を待って欲しいって?」
「はい。申し訳ありませんが、いくらかの時間を頂けないでしょうか。」
エリーとの合意通り、一度破壊された都市の再建に努めた地球連邦政府であったが、強引な手法への人々の反発や、半ば無理やりまとまったために、地球連邦政府内でも意思の統一が不十分であったことなどもあり、都市再建プロジェクトは計画よりも遅れてしまっていた。
「もちろん、相応の代価は用意させて頂きます。エリー様のリストにはあがっておりませんでしたが、それなりの規模を持った都市をこちらでリストアップ致しました。都市の再建が完了するまで、こちらを破壊して頂くという事で如何でしょうか。」
そう言って、地球連邦政府高官達は、都市の一覧をエリーに示した。それに目を通したエリーはこう即答した。
「ダメだよ。言ったでしょ、壊しがいのある都市は私が示したリストのものだけなの。それと同じかそれ以上のものでないと受け入れないよ。大体あなた達、真面目に都市を作り直してるの?この星の資源も労働力も、全部まず私のために使われないとダメだってわかってるのかな?」
「それはもう…」
「だったら、既に最大限の努力をしているって言い切れるのかな?本当に全ての生産力を都市の再建に注ぎ込んでいるのかな?人だってまだまだ動員できるんじゃないかな?とにかく二巡目の遅れは認めないよ。もし間に合わなかったら、それは約束違反だから、取り決めを破棄させてもらうね。どこを破壊するかは毎回この星に来てから私が決めるからそのつもりでね。」
「わ、わかりました。都市の建設に全力を尽くします!」
「わかればいいよ。じゃあ滞り無く進めてね。くれぐれも私の楽しみを奪わないでよ。」

この会合以降、地球上の生産活動はいよいよエリーの破壊用の都市建設に集中されるようになった。再建されている各都市では、3交代制で昼夜を問わない作業が継続された。
そこに投入される人々は、都市建設とは直接関係の無い仕事に就いていた人々を強制的に転職させる形で確保された。
反対する人々への締め付けは強まり、今ではデモなどしようものなら、即逮捕されて強制的に都市の建設のための労働に投入されるようになっている。
プロパガンダ等も盛んに行われ、TVではエリーが毎月各都市を破壊する様子が流されたのはもちろん、地球人とエリーとの間で計画的に都市を破壊するという合意が行われる前、つまりエリーが住民ごと都市を殲滅していた時の映像や様子も繰り返し伝えられ、エリーとの合意を破ってはいけないという考えが人々の間に植え付けられていった。
その後、人々の必死の努力の甲斐もあり、二巡目の都市破壊が始まったが、都市の再生はなんとか計画通りに間に合った。
だが、やはり問題が全く無かった訳ではなかった。ある都市で二巡目の破壊が行われたときの事である。

グシャアアアアア!
再建された都市に降り立ったエリーは早速超高層ビルを踏み潰し、その感触を楽しんだ。だがどうも違和感がある。エリーは別の超高層ビルを根元から引っこ抜くと顔の高さまで持ち上げ、まじまじと中を見つめあることに気が付いた。
「あーー!やっぱりだ!このビル中身がガラガラじゃない!それに窓もガラスがはまって無いし、手抜きじゃないの! 鉄骨とかも減らしているんじゃないの?どうりで踏み応えがないわけよ!」
地球連邦政府に移行したとは言え、都市の再生の細かい点については、元々の各国政府に任されており、その国では都市再生にあたってどうせ壊されるということもあり、最低限見た目が同じであれば良いという判断で再建が進められていた。
しかしこれがエリーの逆鱗に触れてしまうこととなる。
「私元通りかそれより立派にって言わなかったっけ~?こんな手抜きビルのどこが元通りなのかな~。」
少しおどけつつも、その言い方には明らかに怒気が込められており、エリーが非常に立腹していることは明らかであった。
「これはもう許せないね。月1回のお楽しみでやって来たのに、こんなインチキでごまかそうとされるなんて超ムカツク。見せしめが必要だね。」
そう言うとエリーはその都市から100キロほど離れた、そこそこの規模を持つ都市に向かって早足で歩を進めた。当然その街は破壊の対象外ということで、多くの人々が住んでいたのだが、見せしめにはむしろ好都合である。
「ハーイ、この街のみんな。今日は向こうの大都市を壊してあげるつもりだったんだけど、とんでもないインチキが発覚したの。しょうがないからこの街で我慢することにしてあげるから付き合ってね~。」
人々は慌てて避難しようとするが、エリーは少しも待つことなく住民ごと都市の殲滅を始める。いつもは建物の破壊を楽しんでいるエリーだったが、今日はだまされた様な気分になっていたこともあり、地球人の虐殺も楽しむことにした。
「楽しみにしてたことが台無しにされるってショックだよね~。あなた達はそんな気分を私に味合わせてくれちゃったんだよ?これはもう死んで償ってもらうしかないね!えい!死ね!死んじゃえ!」
エリーは人々がまだ中にたくさん残っているビルを情け容赦なく踏み潰し、大通りに溢れかえっている住民も足を滑らせるようにして、次々処分していった。
「あ~あ、たくさん死んじゃったね。約束を破ったりするから、こうなるんだよ。さて、これでこの街は大体破壊したけど、元々の予定に比べれば全然足りないね。しょうがないから、もう2~3都市破壊しちゃおっか。」
そう言うと、エリーはまた別の都市に向かって早足で接近し、同じように大破壊を開始する。もちろんその都市の住民ごとである。
結局この日、この国では4つの中規模の都市が完全に破壊され、その過程で100万人以上の人々が殺されることになった。
「今日はこの位にしておくけど、次やったら承知しないんだからね!ちゃんと壊し甲斐のある都市を作っておいてよ!」
まだ少し怒りながらも、見せしめに大量の人々を殺戮したことで大分気の済んだエリーはこの日はそういい残して帰っていった。

この件があって以来、都市の建設にあたっては人が住んでいる都市と同様に、建物は全て内装や外装の仕上げが行われているかまでチェックされ、オフィスビルならばOA機器やデスク、マンションならば家具や家電といった物までしっかりと配置されるようになった。
エリー曰く、人がちゃんと住んで生活できる街をめちゃめちゃにすることに快感があるのであって、そこに手抜きがあることは許せないのだそうで、ただ破壊されるためだけの都市であっても、人が住める状態として作られるようになった。


時間を現在に戻してエリーによる蹂躙真っ最中の都市、東京。東京駅周辺を破壊し尽くしたエリーは、この街一番の目立つ建築物、東京スカイツリーの前まで移動していた。もちろんその間に広まっていた町並みなどは何のためらいも無く踏み潰してだ。
「最初に目にしたけどこのタワーは大きいね~。前のは私の膝より上ぐらいまでだったけど、今回のは腰の辺りまであるじゃない。」
エリーのより破壊のし甲斐のある都市をと言うリクエストに応えるため、東京一の高さを誇るスカイツリーは、再建にあたっては更に高さを増して800メートルを越える高さになっていた。
エリーは自分の命令通り都市が再建されるにとどまらず、より自分を楽しませるために、ただでさえ地球人にとってはとてつもない大きさであったこのタワーが更に大きくなっていたことに言い表せないくらいの満足感を覚えていた。
エリーは最初地球に来た頃は、地球人の都市を自分の方が圧倒的に大きいというだけで、めちゃくちゃにすることに対しての快感を味わっていた。
だが地球人に自分のために都市を作らせるようになってから、支配する喜びも感じるようになっていた。
だからこのタワーのように、自分のためだけに地球人の膨大な労力が注ぎ込まれた象徴を眺めると、大変な快感をエリーは覚えるのであった。
そしてその地球人の努力の結晶を、ほんの一瞬の楽しみであっさりと消費してしまえる絶対的な力の差もまた快感の源であった。
「じゃあ早速だけど、これを使って遊んじゃおう。」
そういうとエリーはスカイツリーを足の裏で蹴り付け、隣接するイーストタワーを巻き込むようにして倒壊させた。さらに横倒しになったスカイツリーを足で転がすことで、ローラーのように足元の町を潰していった。
「ごろごろごろ~ってね。あはははは。」
元々世界でも1、2を争う高層建築物であったうえに、エリーの指示でさらに大きくなって再建された新スカイツリー。当然建設のために投入された人も資源も時間も半端ではないのだが、そんなスカイツリーを笑いながら足で転がし、付近の町を蹂躙する。
自分達が生活を犠牲にしてまで心血を注いで作り上げた大都市。それをこの異星の大巨人は、1日のほんのわずかな時間で全て破壊し尽してしまうのだ。何年間もの努力の結晶があっという間に崩れ去っていく現実。
しかもまた5年後には同じように破壊されるとわかっていて、再び膨大な労力を注ぎ込む。一体自分達は何のために生きているのか、当初はほとんどの者がそう思った。
だが、月に1度改めてこの大破壊を見せ付けられることで、人々は段々とこれが当たり前だと思えるようになってしまった。諦めと言うべきか、ある種の悟りの境地というべきか、とにかくこの絶対者のする事を自分達はただただ受け入れるしかない。
エリーに転がされた新スカイツリーは3キロ程の範囲にあった町を押し潰したが、エリーの途方もない力で蹴られているということもあり、途中でぼっきりと折れて使い物にならなくなってしまった。
「あら残念。でもやっぱりこの大きさのタワーだと遊びがいがあって面白いの。また作ってね。」
足元に転がる新スカイツリーの残骸を踏みにじって片付けながら、エリーは人々に向かって呼びかけた。

その後、お台場や渋谷、新宿など、東京の主要部はもちろん、それ以外の地域も徹底的に破壊し尽くしたエリーはそろそろ自分の星へ帰ろうと思い、その前に必要な連絡をと、携帯端末でこの国の首相に電話をした。

「首相さん?今日はと~~~~~っても楽しかった!ありがとうね。私が言ったとおり、立派な都市を作ってくれたんだよね。あのタワーなんかあなた達から見たら物凄い大きさなんじゃないの?」
「…気に入って頂けて何よりです。」
「じゃあ来月は上海を破壊しに来るから、総書記さんに宜しく伝えておいてね~。」
「かしこまりました。」
楽しそうに話しかけるエリーとは対称的に、事務的に会話を終えようとする首相。何せ彼にはまた5年間で破壊し尽くされた東京をエリーが満足できる状態に再建する責任がのし掛かっているのだ。
いや、それ以前に再建中の大阪をきちんと間に合わせなければ。
というかまた5年後ということは、エリーが地球に来るようになってから10年経つことになる。
10年?待てよ、そう言えばエリーが初めて地球に来た時10代後半の見た目だった気がするが、5年経った今もほとんど姿に変わりが無い。異星人だからか?いやそれにしても?
「そう言えば首相さんとは5年前にもお話してるよね。あれ、5年しか経ってないのに大分老けた感じがするね。」
「そっ、それが何か?」
自分がエリーの見た目と年齢のことを考えており、見抜かれたかと思った首相は返事に少し焦りを見せてしまう。こんな事で機嫌を悪くされて「やっぱりもう一暴れしちゃおう。」などと言い出されては大変である。
「別に大した意味はないけど、たった5年なのにな~と思って。」
「私のような中年でも、人間5年も経てば変わるとは思いますが。」
「え~。でもたったの5年だよ~?変わるかな~。」
おかしい、会話が噛み合わない。と言うかエリーが変わらない方がどう考えてもおかしい。首相は少し探りを入れてみることにした。
「人間寿命が大体80年ですから、5年経てばそこそこは変わりますよ。」
「え!地球人の寿命って80年なの?」
「え、ええ。国などにもよりますが、我が国では大体それぐらいですが。」
「嘘!私の星ではみんな1000年は生きるよ!」
「……」
首相は自分の先ほどの疑問の謎が解けると同時に言葉を失った。首相は最初、エリーの毎月の来訪は、自分の任期が続いている間ぐらいは続くと覚悟した。
だがエリーが地球の都市の破壊に飽きる様子は全く無い。このままでは下手をすると自分が死んでも続くのか。子孫の代までこれが続くのだろうか。
だが大きさは違えど見たところ10代後半の少女だ。さすがにもう少し年を取ればこんなことはやめるだろう。最悪でも寿命が来ればどうしようもない。だが、悲しいかな、エリーと地球人との比べ物にならない差は大きさだけではなく、寿命についても当てはまるのだった。
「そっか~。だからたったの5年でも老けた感じがしたんだ~。私の星だったら5年じゃあ赤ちゃんでもない限り、ほとんど変わらないもの。あ、そうそう私はまだ若いから、後150年はこの星に来るつもりだよ。あなた達だと孫の孫ぐらいの世代になるってことかな?とりあえずこれからもず~~~~~~っとよろしくね!」