20XX年、しばらく前に再建した東京を徹底的に破壊し尽くされた日本に、月に1度やってくる巨大宇宙船が姿を現した。場所はこの星を支配している超巨大な絶対者の宇宙人であるエリーが、東京と同じく指定した破壊用大都市の大阪である。地上に降り立ったエリーはいつもの様にさっそく携帯端末でこの国の首相に連絡を取る。

「ハーイ首相さん。久しぶりだね。前回この国が用意してくれた東京破壊はとっても楽しかったよ!今日の大阪もそれは立派な大都市にしてくれてるんだよね?」
「え、ええ。できる限りのご用意はしております…」

いつものように1国のトップとの会話を行い、エリーは大都市の破壊を始めようとするがどうも首相の様子がおかしい。受け答えの歯切れが悪い様に感じるのだ。

「あれ?首相さん何だか元気がないのかな?まあいいや、それじゃあ今日もめちゃめちゃにしちゃうからよろしく~。」

言いながらエリーはこれから破壊する大阪の街を見渡すが、違和感を覚える。

「あれ…?何か超高層ビルが前回の時よりも少ないように見えるんだけど…って言うか作りかけっぽいビルが何か多いよね。…首相さん、これどういうことかな?」

都市の規模がいつもの言いつけ通り前回の破壊時と少なくとも同等以上になっていない様であることに気づいたエリーは怒気のこもった声で首相を問い詰める。

「いえ、それが少々事情がありまして!我々も対応はしているのですが!」
「言い訳は聞きたくないよ。とにかく私の言いつけ通りできなかったのは間違いないよね。これはもう立派な約束違反だね。こんな作りかけのつまんない都市ダメだよ。しょうがないから近くの大都市を代わりに破壊するからね!」

そう言い放ったエリーは一方的に電話を切り、代わりに破壊する都市をどこにするか携帯端末で情報確認をする。

「この近くだとここ、名古屋かな?月1回のお楽しみを台無しにするなんて絶対に許さない。避難する暇なんてあげないんだから!今すぐ破壊しよ!」

大阪から名古屋までは150キロ近い距離があるが、エリーにとっては150メートルしか離れていない感覚である。はやる気持ちを抑えられないエリーは名古屋の方向に向かって駆け出して行った。

「今回は不愉快な目に合わされたし、名古屋までの途中の都市も遠慮しないんだから!」

駆け出したエリーは大阪から外れて人が住まう都市に突入しても、全く遠慮なく勢いよく市街地を踏み潰して行く。まず京都市がエリーに足を踏み入れられ、そこに住まう人々も歴史ある文化財の数々も、ただ通り過ぎていくだけの道にあったと言う理由だけで、情け容赦なく踏み躙られていく。そのままエリーは鬱憤をぶつける様に開けた人口密集地帯を踏み潰しながら走り抜け、進路上の都市を雑に破壊しながら名古屋へと近づいていった。その進路はちょうど東海道新幹線の路線と沿うような形になっており、途中何編成かの新幹線の車列も踏み潰されたり蹴散らされたりして犠牲になっていた。

「さーて着いた着いた、大阪には見劣りするけど、栄えている所から順にどんどん破壊してやるんだから!まず面白そうなのはっと…」

エリーはより破壊のし甲斐がある場所を求めて辺りを見渡し、ある建物に目を付けた。

「お、大きなドームがあるね。うーん屋根付きで中の様子がわからないね。もしかしたら人がいっぱいいるかもしれないし確認してみよう。」

エリーは早足で街を踏み潰しながらドームに近づき慎重に屋根を引き剝がして中を確認する。

「あっ!地球人がいっぱいいる!一体何してるのかな?うーん、これはアイドルのコンサートかな、何かキラキラ光ってるし。何か満席じゃないっぽいけど人気のないアイドルなのかな?待って、ってことはこいつらは私のための都市建設も満足にできていないのに、こんなことにうつつを抜かしてたってこと?何それ!絶対許せないんだけど!」

これまでの地球人側との何回かの会合で、地球の資源も労働力も全て自分優先で使われるようにキツく言い付けたはずなのに、それが守られておらずお楽しみを台無しにされたということにエリーの怒りは頂点に達してしまう。

「はい、もう一切遠慮なく代わりの都市大破壊決定ね。特にあなた達みたいに私のために働きもせずに遊んでいるような地球人はいらないの。まず見せしめで今すぐみんな殺すから。」

そう冷たく言い放ったエリーは足をドームの上に持ち上げ、即勢いをつけて思い切り踏み潰した。エリーの足幅よりも大きなドームは一踏みで全てが圧し潰されることはなかったが、エリーに入念に何度も力を込めて踏み潰されることで、あっと言う間に中にいた万単位の観客もアイドル達も全てが原型も残らないぐちゃぐちゃの血肉と化した。

「さーてと、じゃあ超高層ビル群のある場所は…、あ!見つけた!その途中にも結構いい感じのビル街があるし、まずあそこをめちゃめちゃにしちゃおう!」

名古屋駅周辺の超高層ビル群と、栄地区のビル群を目標にしたエリーはその方向を目掛けて一気に駆け出していく。栄地区のビル群は名古屋駅へ向けて走り出したエリーによって10棟単位で踏み潰され、衝撃で吹き飛ばされていった。

「それー!」

名古屋駅周辺の超高層ビル群目掛けて東京でやったように思い切り飛び込んでいくエリー。
栄地区および名古屋駅周辺ではエリーが名古屋市内を破壊し始めているという情報を受けた市民達がパニックに陥り逃げ出し始めていたが、市民の避難など全く考えないエリーの行動の速さの前に避難はまともに進んでおらず、大勢の市民達が走り抜けるエリーの大破壊の犠牲になっていた。また、超高層ビル群の中にいた人達は自分達のいるビル群が狙われており、地球人の1000倍の巨躯で駆け抜けるエリーを前に逃げることなど全く叶わないことが嫌でも理解できてしまい、最早ただ絶望して自分達のいるビル群めがけて飛び込んでくるエリーを眺めながら最期を迎えることしかできなかった。

ズガガガガガガガガガガガ!!!!
ドドドドドドオオオオオオオ!!!!

超高層ビル群に飛び込んだエリーによって、名古屋駅周辺の超高層ビル群が全てまとめて破壊され、とてつもない破壊音と振動が周囲一帯を襲う。ビルの中にいた人達も路上に出て逃げ惑っていた人達も、圧し潰され衝撃で吹き飛びバラバラになり、周囲一帯にいた人々が10万単位で巻き込まれ命を落として行った。

「アハハハハ!やっぱり超高層ビル群を一気にたくさんすり潰すのはたのしーーい!やっぱり地球に来たらこれをやらないとね!」

大好きな超高層ビル群の大量破壊を実現できたエリーは幾分か機嫌を直したものの、お楽しみの都市破壊を続けるにあたり人命に配慮することは一切なく、ビル群の中心目掛けて大ジャンプで着地して周囲のビル群を一気に吹き飛ばしたり、住宅街を足で薙ぎ払って一挙に住民ごと壊滅させたりと豪快に名古屋市を使い潰して行く。

「ふふふ、いつもは作らせた都市で住民の犠牲はなしにしてあげているけど、住民が住んで使っている都市をそのまま破壊しちゃうのは、また格別感があるんだよね~。まあ労働力が減っちゃうから約束してそれはしてないけど、今日はもう約束違反されたんだし、しょうがないよね~。」

約束違反をされ、予定していた大都市の破壊ができなかったものの、大都市を地球人ごと破壊殺戮してしまうと言う別種の快感を味わうことができたエリーは、名古屋市を完全に壊滅させたところで首相に連絡を取った。

「首相さん、わかってくれたと思うけど、約束は守らないとダメだよ。この都市はまあまあ大きかったから、今日はこれで勘弁してあげるけど、今後もこういうことが続いたらどうなるかわかるよね?来月以降破壊する都市の国の人達にもちゃんと言っておいてよね。」
「も、申し訳ございません。で、ですが…」
「何?どうしたの?そう言えば最初に電話した時にも何か言い訳してたけど、何か言いたいことがあるの?」

まさかこの期に及んでこの首相は反抗的な態度を取ろうというのか。名古屋市を徹底的に住民ごと壊滅させ、途中来るまでの都市にも被害を与えたことで、既に300万人近い犠牲者が出ていたが、出方次第ではさらに追加の都市破壊をしてやろうかとエリーが考え始めた所で首相が言葉を紡ぐ。

「じ、実はいくらか前より全地球規模で新種の強力なウイルスが蔓延してしまい、経済活動が計画通りに進まなくなっているのです。私共も今回ご用意する大阪の再建に全力を尽くそうとしましたが、ウイルス拡散抑制のためには海外から労働力を融通してもらうことも思うように出来ず、このような結果となってしまったのです。ワクチン開発なども行っているのですがまだまだ蔓延を食い止めるには遠い状況でして…ですので、何卒都市破壊延期のご慈悲を頂けないでしょうか。」
「ふーん、何だそういうことだったんだ。ってか地球ってまだウイルスなんかに苦しんでいるんだね。わかった、それは何とかしてあげるからそのウイルスの検体を私に頂戴。あなた達が用意できる量でいいから。」
「は、はい!至急研究機関に命じてお届け致します!」

エリーの命令を受けて、大至急最寄りの研究機関からヘリで検体が届けられエリーへ渡された。受け取ったエリーはそれを持って宇宙船の中に戻っていく。しばらくした後に破壊し尽くされた名古屋の更地にエリーが再び戻って来た。エリーの手のひらには何やら消しゴムよりも小さな四角い箱があったが、地球人達から見れば25メートルプール並みの巨大な箱である。

「はい、これ。物質転送で私の星にさっきの検体を送ってワクチンを作ってきてあげたから。これを接種すれば予防効果はもちろん、ウイルスにかかっている人も回復するから全地球人に接種させて。安全性は私が保証するわ。もし足りなくなってもあなた達の技術で培養できるようになってるから。」
「あ、ありがとうございます!なんとお礼を申し上げればよいか…」
「別にいいけど、接種させるのはあなた達の力でやるんだよ。あとこれでもう都市建設が遅れる問題は解決したでしょ?ここまでしてあげたのにまた遅れたり、中途半端な都市を用意したらどうなるかは…わかってるよね?」
「は、はい!全力を尽くします!」
「よろしくね。あと今回コンサートなんかをしてるのを見つけたけど、これは余力があるのに都市建設に労働力を集中してないってことじゃないの?」

途中自分優先で労働力が使われていないような光景を目にしたエリーはそのことを思い出し、またもや首相に詰め寄った。

「も、申し訳ございません!先ほど申し上げたようにウイルス蔓延で世の中が暗くなってしまい、感染対策を取った上で国民が盛り上がるイベントもある程度許容させて頂いておりまして…」
「別にそういうことするなって言う訳じゃないけど、都市建設ができてないのにやってるのはおかしいよね?あなた達政府高官はちゃんと私の言いつけ通りに都市建設ができるように地球人を指揮する義務があるの。まあ任せるけど、遊んでサボっているような真似は許さないよ。あと今回破壊するはずだった大阪だけど、あれじゃつまんないからほとんど手を付けなかったでしょ。ってことはさらに5年間都市を立派にする時間があるんだから、次に大阪を破壊する時はそれはもうすごーーーく立派な都市になってるよね?」