20XX年、自分の1/1,000の大きさしかない地球人の星を支配しているエリーは、自分の星の自室でくつろぎながら携帯端末を眺めていた。見ているのは地球のネットワークを飛び交うSNS等に掲載されている、自分の破壊記録である。

「ふふ、一昨日モスクワを破壊した時の記録映像がもうこんなにアップされてる…この街の超高層ビル群も中々いい感じだったんだよね~。10棟くらい一気にふとももで挟み潰しちゃうの気持ち良かった~。」

映像には女の子座りをしたエリーのふとももが、300m級の超高層ビルが身を寄せ合うモスクワ国際ビジネスセンターのビル群を挟み込み、左右から閉じていくことで低層部を破壊された超高層ビル達が互いに更に密着し、完全に閉じられたエリーの両ふとももの上で中~上層部が横倒しになって力無くゴロゴロと転がっている様子が収められていた。自分のふとももの上で下半身を失った哀れな姿をさらけ出すビル達を楽し気にニヤニヤと眺めるエリーは、ふとももをスリスリと擦り合わせることでそれらを処分してしまう。柔らかくプニプニとしたエリーのふとももが、コンクリートで作られたビル達を粉砕機にかけられた枝葉のように粉々に砕いていく様は、この星においてエリーがいかに強大な力を有しているかを物語っていた。

自分が引き起こした大都市破壊の記録を見て、一昨日の快感を思い出しながら来月の都市破壊への思いを馳せるエリー、さらに過去の破壊記録も見返そうと地球最大の動画投稿ネットワークサービスで、自分の都市破壊動画を検索する。

「うまく撮れてるのはどれかな~、ん、なんだろうこれ。」

自分の都市破壊の撮影は、都市の各所に仕掛けられたライブカメラによって行われているが、当然ながらカメラが仕掛けられたビルが破壊されればそこで映像は途切れてしまう。
連続した映像を記録するための有人撮影も行われているが、それらは望遠カメラか、はるか上空のヘリコプターか飛行機からの空撮によるものである。まあそれも撮影する地球人が自らの安全性を考慮すれば無理もない。しかし、その中でかなり自分に近づいて、地表から人の手で撮影したと思われる映像がありエリーの目を引いた。

「なになに、東京湾海上からのエリー様の東京破壊観覧ツアーにて撮影?アハハ、こんなことしてる地球人もいるんだ!」

説明によると破壊対象都市が海沿いの場合などで、自分の都市破壊を最大限に迫力のある視点で眺めるため、巻き込まれないギリギリの距離に近づいての海上観覧ツアー(ただし、安全性については自己責任)を行っている国もあるらしい。どうやら自分が破壊する都市の政府が、都市破壊によって苦しい財政を少しでも良くしようと、独占的に超高額なチケットを売り出してツアーを組んでいるようだ。

「じゃあこの映像を撮った地球人はわざわざ高いお金を払って、私の都市破壊に巻き込まれる危険も承知の上でこんなことしてたんだ。自分達が作った都市が私に破壊されていくってのに、物好きもいるんだね。」

エリーは笑って説明文を読んでいたが、再生される映像にはお台場へ向かう際に蹴散らしたレインボーブリッジが崩落し、そこに通りかかった無人運転のゆりかもめが寸断された箇所から東京湾へ飛び込んでいく様や、お台場の特徴的な巨大建造物達がぺしゃんこのガレキに変えられていく場面などが的確に記録されていた。映像は東京湾に面する大規模施設である羽田空港の破壊シーンへと続いていき、エリーは地球の数ある破壊指定都市の中でも、特に満足度が高かった東京破壊をした日のことを思い出していた。

「そうそう、この都市の空港には飛行機もい〜っぱい用意してくれてたんだった!」

羽田空港に大量に用意された1度に乗客300人は輸送可能な70mの全長を誇る旅客機達であるが、エリーの足幅にも及ばないそれらは踏み潰されるのにはむしろ丁度良いサイズである。映像には駐機場にズラッと並べられた旅客機達を、一度にまとめて3~4機は気持ちの良いリズムで踏み潰していく笑顔満面のエリーの姿が捉えられていた。1機300億円は下らない旅客機であるがエリーは地球人に大量に用意させたのをいいことに、次々と、実にあっさりと破壊してしまっていた。
駐機場に居並ぶ50機近い旅客機をさっさと使い尽くしたエリーは、空港ターミナルビルに横付けされた旅客機群に目を付ける。今度はいきなり踏み潰していくことはせず、1機、また1機と優しく拾い上げ広大な滑走路の一画に旅客機同士が積み重なるようにぎゅっと寄せ集めていった。15機目を積み上げた所で十分用意ができたと判断したエリーは、今から自分が行うことを思うとニヤニヤを止めることが出来なかったが、それを隠す必要も特になく自分の思うがままに飛行機の山に向けて高く掲げた右足を振り下ろしてしまう。積み重なった機体の凄まじい破壊音と、一瞬遅れて発生した大爆発の轟音が画面から再生されるのを眺めていたエリーに、この日の興奮が蘇ってくる。

「アッハハ!地球人の作ったオモチャで遊ぶのって楽しいんだよね~。どれもこれも使い捨てだけど、またいっぱい作らせておけばいいし、来月の都市にある空港でも同じようにして遊ぼっと!」

そうして気付けばこの映像を再生し続けていたが、自分が東京湾から離れた地域の破壊に赴いた場面では、別のカメラの映像に切り替わって映像が続いており、自分の都市破壊をとても良く伝える1本の作品として仕上がっていることに気づく。

「これって、自分が撮影した映像以外にも色々な映像を組み合わせて作ってるのね。何だかとってもいい感じに編集できてる…東京以外の都市破壊の映像も何本もアップしてるし、これを作ったのはどんな地球人なんだろ…」

興味をひかれたエリーが投稿者のプロフィールを確認した所、その投稿者は熱心な自分のファンのようだった。その男の他のSNSには、毎月の自分の都市破壊を褒めちぎる感想や、できる限り現地での破壊観覧に駆けつけており、特に自国が対象となった東京破壊は大のお気に入りであることに加え、来月も観覧予定であること。また、彼も自分のための都市建設に従事していたのだが、自分に破壊されるための建物を作っているにも関わらず、それすら彼の楽しみなのだという。

「自分の星の都市を破壊されてるってのに、変なやつ…」

エリーはその男のことがどこか気になりつつも、携帯端末をベッド脇に置いてその日は眠ることにした。


約1か月後、エリーは毎月のお楽しみである地球の都市破壊に赴き、今回破壊順に指定していたフィリピンのマニラにやって来ていた。その左腕にはなぜかフロントリボンの着いた可愛らしいハンドバッグが提げられていた。
エリーは雑多な街並みを踏み潰し、マニラが誇る一大空港であるニノイ・アキノ国際空港に辿り着くと、空港内に散らばる旅客機を1機ずつ拾い上げては丁寧にハンドバッグの中へ入れていった。地球人の目から見れば十分に巨大な乗り物である旅客機であるが、その幅が300mを超えるエリーのハンドバッグは旅客機を次々と飲み込んでいってしまう。
40機ほどをバッグに詰め込んだところで、エリーは空港の北の方角に向き直ると、事前に目を付けていたマカティ市の超高層ビル街へ近づいて行った。エリーから見てたったの3mしか離れていなかったマカティには、エリーの言いつけ通り超高層ビルがしっかりと再建されており、50棟は下らない数の超高層ビルが林立していた。
エリーはそれらを蹴り壊さないようにしつつ、マカティの中心街を真上から見下ろせる位置に仁王立ちすると、不敵な笑みを浮かべながらそれらを観察する。そしてこれから自分のするお遊びの犠牲になる哀れなビル達を一通り眺め終わると、手にしていたハンドバッグを前方に突き出し逆さにして、ぎっしり詰め込んだ旅客機達を超高層ビル群目掛けて振りかけていった。40機以上の旅客機が重力に引かれるままに地上へと落下していき、次から次へと超高層ビル群へ真上から激突し、ビル街のあちこちでビルの倒壊と大爆発が引き起こされていく。全ての旅客機が地上へ降り注いだ後、街は航空燃料で激しく燃え盛る灼熱地獄と化していた。

「アッハハハ!あーおかしい!オモチャをバラ撒いただけでビル街が全滅しちゃってる!」

エリーの来訪に間に合うように地球人が必死で作り上げた何十もの超高層ビルと旅客機を、エリーは思い付きのお遊びで一気に使い潰してしまったが、この星でそれを咎められる者は誰一人としておらず、用意させた大都市をどう消費してしまおうが、全てエリーの思いのままであった。
その後十分にマニラを破壊し尽くしたエリーは、オモチャを使ったお遊びで依然激しく燃え盛っているマカティの街をほったらかしにして、目の前のマニラ湾を見渡した。すると、やはりこの国でも政府管理の元、自分の都市破壊を観覧する海上ツアーが行われているようで、それらしき船を何隻か見つけることができた。それを確認したエリーは携帯端末を取り出し何やら操作をして、画面を見ながらツアー船に近づいていく。エリーの予想外の行動に、自己責任とは言え命の危機を感じたツアー客達が恐怖に震えるが、エリーはツアー船に被害が及ばないように細心の注意を払いながら接近して、できる限り屈みこみ船との距離を近づけるとこう呼びかけた。

「ねえ、この船のツアー客に私の都市破壊動画を編集して何本も熱心にアップしている地球人がいるでしょ?ちょっと出て来てよ。」

エリーの呼びかけにツアー客達は顔を見合わせて、一体呼ばれているのは誰なのか、何かされる前に早く名乗り出てくれないかとざわめきだすが、そんな騒ぎをよそに一人の男が目立つように船首で手を大きく振っていた。

「あなたでしょ?熱心に私のことを追いかけている地球人は。あまりにも必死だからちょっと気になっちゃったの。ちょっと後で連絡させて、あなたの携帯端末に私の連絡先情報を送るから。」

男はとても驚いた表情を見せるが、大きく首を縦に振り返事をするとエリーの連絡先が即座に男の携帯端末に追加されていた。


その後エリーは自分の星に戻ると男に向けてメッセージを送った。その内容は来月以降の都市破壊の際に、自分の撮影をして欲しいというものだった。そのためにエリーは彼に地球製のカメラではなく、エリーの星で作られた記録装置を与えると言うのである。男が当然の様に快諾する旨エリーに返信すると、男の元へ地球人が扱えるサイズのゴーグル上の装置が物質転送されてきた。それと同時に男の携帯端末の着信音が鳴り響く。

「ハーイ、私の熱心なファンの地球人さん。今あなたの所に記録装置が届いたでしょ?それはあなた達に分かりやすく説明するなら、VRドローンとでも言えば良いかしら?そのゴーグルを身に付けて操作すると、好きな場所の映像を好きな視点で撮影ができるの。つまりあなた達が持っているような撮影用ドローンを、ヴァーチャルな視点で自由自在に動かせるって訳。オートモードもあるんだけど、私の星の技術で地球人が私のことを撮影したらどんな映像に仕上がるか興味が湧いちゃったの。あなたは私のことを熱心に撮影しているようだし、ちょっと任せてみるからね。」


さらに1か月後、エリーはその月の破壊都市として指定した400棟を超える超高層ビルと、無数の高層ビルを擁する香港を一面のガレキが積み重なる荒野に変えてから帰還し、その感触を思い出しながら母星の自宅でシャワーを浴びて自室へ戻ってくると、携帯端末入っていたメッセージを確認する。どうやら男が記録映像を編集し終わったことを連絡して来たようだ。

「へぇ~、仕事が早いじゃない。熱心なファンなだけあるね。どれどれ…」

映像を再生したところ、世界一超高層ビルが密集している香港島北部地区に上陸した自分の脚が、いくつもの超高層ビルを薙ぎ払いながら近づいてくるシーンが地表ギリギリで撮影されていたかと思えば、次の瞬間には一気にカメラを引いて超高層ビルが何十棟も崩れ去っていく様と、その横に悠然と立ち並ぶ自分の美しい姿が綺麗な対比で収められていた。それは街が崩壊していく様が大迫力で感じられるのと同時に、地球人から見て10代後半の可愛らしい女の子である自分が、確かにそれを引き起こしたということがひしひしと感じられる作りとなっていた。
他にもぎっしりと固まっているビル群を一気に蹴り上げ、離れた無事な地域にビル群の雨を降らせてやったシーンでは、自分の足がビル群に突き刺さり持ち上げ吹き飛ばしていく様を、まるで蹴り上げられたビルの中にいたかのような視点で見ることができた。そしてまたもここぞというタイミングで、これから破壊される威容を誇るビル群達と、既にぐちゃぐちゃに破壊された街並み、その境界にそびえ立つ巨大な自分の左脚が、400mオーバーの国際金融中心・第二期との共演を果たす構図が差し込まれる。映像からは地球の尺度で言えばとてつもなく巨大で他を圧倒する超巨大ビル群達が、自分の強大さの前には一溜まりもなくひれ伏し、蹂躙されていく様子が力強く伝わって来た。一連の映像はこれまでの地球人の撮影では絶対に見られなかった、破壊の迫力と自らの美しさを十二分に引き立てる様に仕上がっていた。

「…噓でしょ…いくら私の星の技術を使わせたからって、地球人がここまでの映像を撮影できるなんて…それにこの映像、私が見たがっている絵を全部わかっているみたい…」

エリーとしてはちょっとした余興で地球人に撮影させ、これまでの地球の撮影機材での映像とは一味違ったものを楽しめればそれでいいくらいに思っていたが、予想をはるかに上回る映像が出てきたことには驚きを隠せなかった。結局この日エリーは自分の映像ではあるが、ドキドキしながら何度も繰り返しその映像を眺めてしまうのであった。


翌日エリーは男に映像の出来が期待以上であったことを褒めるメッセージを送り、その際何気なしに自分の都市破壊でどういったシーンが良いのか聞いてみることにした。すると男からはかつて東京で行った超高層ビル群への飛び込み破壊や、モスクワでのふとももを使った超高層ビル群大量破壊などが好みであると返事が来た。

「この地球人…私が特に気に入っている超高層ビル群の大量破壊とその方法を的確に言ってくる…あの撮影と言い、本当に何なんだろう…」

まるで自分の理解者であるかのような男の言動に、エリーは心のざわつきが徐々に大きくなっているのを感じていた。

「そうだ、次の都市ではどんな破壊方法が見たいか試しに聞いてみよう…」


次の月、今回の破壊都市であるニューヨークで、マンハッタン島中心部の超高層ビル群を思い思いの方法で蹂躙したエリーは、次にマンハッタン島南部の超高層ビル群を眼下に見つめしばし逡巡する。

(こんなことやったことなかったけどあいつはオススメだって言うし、物は試しで1回位なら…)

考え終わったエリーはその場で靴と靴下を脱ぎ捨て裸足の状態で高層ビル群のガレキを踏みしめる。そして、ペタンとその場に座り込み数多くの高層ビルを敷き潰したが、エリーの頭はそのことを気にする余裕はなかった。ちょうど体育座りのような格好になったエリーは自らの足裏を、ワールドトレードセンター・コンプレックスやウォール街の超高層ビル群に向け、それらをじっくりと観察する。そして意を決したかのように、足裏を前方の世界有数のビル街に向かって思い切り押し出した。

ズドドドドドオオオオオオ!!!

エリーの足裏に蹴り飛ばされた超高層ビルが次々とへし折れ、押し流され、500mを超える高さの1 ワールドトレードセンターなどはその奥にあった自らの高さの半分にも満たない、と言っても250m級のガラス張りタワーマンションにのしかかり、超高層タワーマンションが世界有数の超高層ビルに圧し潰されるという大破壊が繰り広げられる。世界でも類を見ない摩天楼の再建のために人々が費やした膨大な労力と資材の結晶は、エリーの足裏を前方に伸ばすというたったの1動作によって、ただの無価値なガレキの山へと変貌してしまった。

「ひゃっ!…え、何今の!き、気持ちいい…」

エリーはこれまで幾度となく地球での都市破壊を行ってきたが、裸足での破壊という方法は実はまだしたことがなかった。彼にオススメの方法と言われた時も半信半疑であったが、実際にやってみると凄まじい快感がエリーを襲い、あっという間にその虜にしてしまった。

「い、今のもっと、もっと!もっと!!」

エリーは取り憑かれたように破壊しきれなかったビル街に向けて2度3度と足裏を押し付てしまう。その度に密集して建ち並ぶ超高層ビル達がまとめて押し流されていき、エリーのために用意された200〜300m級の超高層ビル数十棟が建ち並ぶ大都市の1区画が、あっと言う間に更地へと変わってしまった。

「あいつの言う通りだった…こんなに気持ちのいい方法があったなんて…」


その後、エリーは毎月の都市破壊の方法や自分の見たい映像のリクエストなどのやり取りを彼と頻繁に行うようになり、毎月の都市破壊だけでなく、それまでのやり取りもまたエリーの楽しみになっていった。そしてついには彼が望むまだ実現していなかった破壊方法をしてあげるとまで言い出してしまう。

「ねぇ、今度どこの都市でもいいからさ、私の身長と同じくらいのビルを建てて頂戴。地球のビルの抱き潰しをやりたいの。」

エリーに呼び出された政府高官達は、まさか都市建設の叱責ではないかとビクビクしながら話を聞いて、そうではなかったもののエリーの要求の高さに狼狽えてしまう。

「も、申し訳ございませんが我々の星ではまだ1,000メートルに達するビルは建設されたことがなく、いきなりエリー様の身長並のビルと言うのは難しいと申し上げざるを得ません。確かに構想や研究こそされておりますが、まずはもう少しご容赦を頂けないでしょうか。」
「分かんないかなぁ、難しいかどうかなんて聞いてないんだけど。それとも分からせてあげよっか?」
「し、失礼致しました!至急計画を始動させます!」

エリー自身もこの星で自分が立って抱き潰せるようなビルの建造はまだ高望みかと思っていたが、彼がそれを望むとなれば脅してでも作らせて叶えてあげたい。この頃にはそう思うようになっていた。


「さてと、来月の都市破壊に向けてまたあいつと話そうっと。」

エリーが最早恒例となった彼とのやり取りのため、自室で携帯端末をいじりだす。この頃には撮影した映像についての話や都市破壊の方法だけにとどまらず、お互いの星での普段の生活のことなど他愛のない会話まで行うようになっていた。エリーが彼の身近であった笑い話を聞いて返信をしようとしたところ、突然なんの脈絡もない単語が画面に飛び出して来る。

<たすけて>

エリーは最初何かの冗談かと思ったが、すぐにとてつもなく嫌な想像が頭を駆け巡り、地球のネットワーク情報を確認したことでそれは確信へと変わる。慌てて宇宙船に乗り込み急ぎ地球へと駆け付けたエリーは携帯端末からの最新情報を基に、日本のとある地点まで全力で走り抜けていった。途中の街並みの住民達は、月に1度の来訪日でもなく破壊対象都市でもないと言うのに自分達の街に突如現れた超巨大な支配者の姿に愕然とし慌てふためくが、エリーは足元の事など全く気にかけず駆け抜けて行き、進路上に存在した建物は住宅からオフィスビル、タワーマンションに至るまで住民ごと踏み潰され蹴散らされて行った。そこに至るまでの街並みを一直線に破壊しながらエリーが辿り着いた場所は拘置所であった。

「聞け!!今すぐさっきさらって来た彼を外に出すの!出して来るまで周りの街を破壊するから!!」

エリーはそう叫ぶと、即座に周囲の街を足で大きく薙ぎ払ったのを皮切りに、周辺住民を巻き込んだ大殺戮を開始する。周辺に広がっていた住宅街が凄まじい勢いで次々と薙ぎ払われて行き、拘置所の周辺は一面の更地と、エリーの足に押しのけられた住宅と人々がグチャグチャに混ざりあった体積物とに変えられていく。エリーが本気であることなど全く疑いようがなく即座に彼は開放されるが、エリーがそれに気づいて街の破壊を中止したのは既に何万人もの犠牲者が出た後であった。エリーはひとまず安堵した顔を見せるが、すぐに携帯端末で色々な情報を確認し、頭の整理が付いた頃には目は虚ろになり何とも形容し難い形相となっていた。

「あのさ、私の星の技術ならあんた達の星のネットワーク上の情報なんて全部自由に調べられるの。もうこれ以上言う必要ないよね?この人が私にお願いした破壊方法の実現のために、私の要求が上がっているって?だから私がいない隙に事故に見せかけて殺そうとした?そのために私に気づかれないように、彼の不意を突いて大人数で襲撃してさらう計画を立てた?もう30分もあれば見せかけ事故が実行できてた?」

その場にいた全員が凍り付き身動きが取れなくなるが、とにかく何か弁明をしなければと襲撃チームのリーダーが口を開こうとするが、その前にエリーは開放された彼に円形の光線を当てて、自分の手元へと移動させる。その後地球人用の保護容器に彼を優しく収納すると冷たい目で言い放つ。

「もうこの国は1回滅ばないとだめだね。」

この国の終末を決定したエリーは、どこからともなく幅広が3キロもある柄のついたローラー状の道具を取り出した。

「ゴミのあんた達にはお似合いの最期でしょ?」

ローラーを地面に叩きつけたエリーは冷酷な表情でじっくりと確実に、周囲の街並みを残さず押し潰して行く。いつもの楽しむための破壊ではなく、徹底的な殲滅の開始だった。一面に広がる美しい街並みが、そこに住み暮らす大勢の人々が、ただただ滅ぼされることだけを目的に、まるで地球の農家が取れ過ぎたキャベツを潰してしまうかのように処分されていく。最早エリーはこの国の都市をいかに効率良く処分していくかしか考えていなかった。

「本当なら兵器か何かで殲滅したいくらいだけど、私から直々に罰を下されて滅んでいくってのを最後に理解してもらうためには、こういう直接的な殲滅方法がいいでしょ?」

そうしてまずは周囲の街並みを全滅させたが、如何に地球人の1,000倍の巨躯を誇るエリーと言えども、物理的方法で日本そのものを滅ぼそうとするには相当に骨が折れることになる。また彼からも国民を絶滅させるのはやり過ぎだから思い留まってくれないかと言われたこともあり、日本の政令指定都市を全て破壊し尽くすことで今回の罰を終えることとした。北は札幌から南は熊本まで、人口の集中する各都市で阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられた日本は滅亡こそは免れたものの、全国の主要都市は全て破壊し尽くされ、5,000万人以上の人口を失ってしまった。

「ねえ、この国はもうズタズタにしちゃったし、また私がいない間にあんな目に合うかもわからないし、私の星に来ない?一緒に暮らそうよ。」

エリーは自分の胸の内を彼に明かし、彼もまた異星の想い人と一緒になれることを望んだ。この日、日本全土が壊滅的被害を受けたことと引き換えに、1つの愛が実を結んだのであった。