必死の思いでさらわれた彼を救い出し、その罰として日本を滅ぼすことを決定したエリー。彼が監禁されていた地域周辺を全滅させ終わり日本全土を破壊する方法について思案を始めるが、エリーが本気で国民が絶滅してしまうほど徹底的に国を滅ぼそうとしていると感じ取った彼は、なんとか思い直してもらえないかとエリーの説得を試みる。

「…わかった。あなたがそこまで言うなら完全に滅ぼすのは止める。でも、今回のことの罰は下さないといけないし、二度とこんなことが無い様に見せしめは必要だから。」

彼の説得に一定の理解を示しつつも生半可な罰で今回のことを終えるつもりにはなれないエリーは、罰の下し方についてしばし逡巡し、彼にその方法を告げる。

「じゃあ滅ぼさない代わりに、この国の主要な都市は全部壊滅させる。そうすればもうこんなことを起こすに気にはならないと思うから。」

何とか国の終焉こそは回避できた様であるが、それでも膨大な犠牲者が生まれることは避けられそうもない。だがエリーの思い詰めたような表情に変わりはなく、これ以上は話を聞いてもらえそうにもなかった。

「そうしたら壊滅させる都市だけど、この国の制度だとある程度以上の都市を行政上決めているみたいだから、それは全部対象にする。順番に壊滅させていくから、まずはこの札幌市に行くね。ここからだとちょっと距離もあるし、私の船で移動するから。」

携帯端末で確認した情報から、壊滅対象とする都市を出来る限り効率的に処分していくことを考えているエリーは、彼と共に日本最北の政令指定都市である札幌市を目指していく。エリーの宇宙船が去った後には動く物の無い、一面の死の世界が残されるのみであった。


15:07 札幌市

札幌市に限らず全地球規模で猛威を振るっていた新型ウイルスの影響により、ひと昔前までは都市の中心にある繁華街も人がまばらな状況が続いていたが、エリーが提供したワクチンの接種が進んだこともあり、大通公園を中心とした札幌市内の繁華街は休日を楽しむ大勢の人で溢れかえっていた。しかし、そんな平和な喧噪を突如として轟音が切り裂いてしまう。

「な、何だ!」
「あれって、エリー様だよね!」
「本物初めて見た!」

大通り公園端のさっぽろテレビ塔のすぐ近くに降り立った超巨大な支配者エリーの姿に誰もが釘付けになり、すぐに街中が大騒ぎになってしまう。

「え、何でエリー様が札幌にいるの!?だって日本の破壊指定都市は東京と大阪でしょ!」
「そもそもエリー様が次に来る日はまだ先じゃないか!」
「エリー様の足元のとこ、踏み潰されてるよね…」
「なんかヤバくねえ?」

これまで幾度となく地球の大都市の破壊を見せ付けてきたエリーが突如現れたこと、またその表情が非常に重々しいことから人々の間に言いようも無い不安感が流れる。そして次の瞬間、エリーが幅広3キロを誇る柄付きローラーを地面に叩きつけ、目の前のさっぽろテレビ塔はもちろんのこと、札幌駅前のJRタワーも含めた広大な範囲が一気に圧し潰されたことで生じた轟音と振動により、市内は一気に大パニックに陥ってしまう。

「逃げろ!」
「あああ、助けて!!」

エリーの周囲にいた人々が恐慌状態で逃げ惑うが、淡々と歩を進めるエリーが持つ巨大ローラーによって、大通り公園周辺の高層ビル街とそこに居た大勢の人々は、あっと言う間にめちゃくちゃに破壊されたガレキと人間の原型を留めない血肉へと変えられてしまった。
そうしてエリーのちょうど正面に位置していた人々は、ほとんど逃げる間もなく皆殺しにされてしまったが、エリーが市街を念入りに潰していくことで、遅かれ早かれ市内の人間は残さず処分されてしまうことに変わりはなかった。
札幌市内の主だった市街地を機械的に潰し尽くしたエリーは、携帯端末で次に壊滅させる都市を確認する。

「次は仙台市か。ここもちょっと距離があるし、途中に海峡もあるからまた船で移動しよう。」


15:18 仙台市

東北地方一の大都市である仙台市は、東京と大阪が破壊指定都市となって以降、企業の生産拠点として、また東京と大阪再建のための経済活動の拠点として発展を遂げており、大勢の人で賑わっていた。だが、エリーによって壊滅を決定付けられた以上、終焉を迎えてしまうのは時間の問題であった。
また札幌市が壊滅させられるにあたり、破壊を免れた地域の人々から寄せられた情報や、死ぬ間際の人々が行ったいくつかの投稿によって札幌市の惨状がSNS上に広がりつつあり、エリーによる有人都市への攻撃が騒がれるようになっていた。

<札幌市にエリー様が現れたらしい!>
<札幌市の南区からの撮影です。エリー様によって市街が破壊されています!>

ネット上は騒ぎが始まっていたが、エリーは宇宙船に乗って札幌を去った。との情報も多数投稿されていたことから、さらに周辺へ被害が拡大していくと思う人はほとんどいなかった。
しかし、仙台市中心部へエリーが降り立ったことで、市内自体が一気に大混乱になってしまう。

「札幌が襲われたってマジなの!?」
「う、嘘!破壊指定都市以外は安全なんでしょ!」
「ヤバイって!逃げろ!」

札幌がエリーによって壊滅したとの情報が広がりつつあったことから、仙台市民はより危機感を感じ取り、エリーの姿を確認次第逃げようとする者も多くいたが、殲滅を目的とするエリーはすぐに都市破壊に取り掛かり、市民達に避難する時間など全く与えられなかった。エリーが攻撃を開始した数分後には、ここ数年の発展が嘘の様に全てが破壊し尽くされた市街と、市民達の成れの果てが延々と広がるだけとなっていた。

「次。新潟市ね。ここからはそう遠くないし、歩いて行こう。」

15:27 新潟市

仙台市から新潟市までの途上に立ちはだかる奥羽山脈の木々を容易く踏み潰しながら西へ移動を続けるエリー。山脈を超えた先の盆地には山形市の市街が広がっていたが、エリーは進路上に立ちはだかる市街に対し何ら配慮することなく直線的に歩を進めていった。ローラーを用いての殲滅こそはされなかったものの、通り道となった山形市内には250メートル以上の巨大な足跡がいくつも刻み付けられ、エリーの進路上にいた市民の生と死は、エリーの足幅との位置関係がどうであったか?のみで淡々と決定付けられていった。

日本海沿いに広がる新潟の中心市街地であるが、そのことからエリーに容易に確認されたことで、すぐに壊滅すべき一帯を捉えたエリーの蹂躙が開始されてしまう。

「さっきの2つの都市よりも規模が小さいし、さっさと潰そう。」

新潟の市街区域を目前に捉えたエリーは、進路上に見える阿賀野川手前の住宅密集地からローラーでの圧し潰しを開始する。住民が逃げる間もないほんの一瞬で、住宅地域を元の屋根の色が分かるだけの潰れたガレキに塗り替え、阿賀野川を越えた先に位置する新潟空港を巻き込んで殲滅を続けるエリー。ローラーの前進に従って、何万、何十万の命が失われてゆくが、それを引き起こしているエリーは何の感慨も受けていないような表情を崩すことはなかった。
結局新潟の中心市街地はまず海沿いの幅3キロの範囲が潰し尽くされ、目立った市街が途切れたところで往復したエリーが内陸沿いのさらに3キロの幅を続けて潰していったことで、実にあっさりと壊滅してしまった。

「こんなの1分あれば十分ね。早く次に行こう。」


15:35 さいたま市

次にエリーが目指すのは関東地方の大都市群となり、現在地から最も近いのはさいたま市になる。
直線的に進むならまたも山脈を突っ切ることになるが、少し迂回すれば比較的平坦な地形を歩けることを確認したエリーは迂回路を通ることにした。それはさいたま市までの進路上に存在する数多くの都市が通りすがりに踏み潰されていくことを意味していたが、主要都市を全て壊滅させるにあたり、他の都市へは被害が及ばないように配慮する必要など全く感じないエリーは、当然の様に次々と都市を踏み潰しながら移動していった。

「次のさいたま市までの間にも結構発展してる都市がいくつもあるけれど、全部踏み潰して行けばいいや。」

新潟市から南下し、三条市や長岡市を踏み潰して通り過ぎたエリーは、歩きやすい…つまり都市が広がっている地域を辿ってさいたま市へ歩を進めていく。エリーの進路はちょうど関越自動車道に沿う形となり、途上の魚沼市や南魚沼市も市の中心部を踏み潰されてしまい、エリーがただ通り過ぎただけでも甚大な被害が出てしまう。

歩きにくい山脈を迂回したエリーであるが、南魚沼を超えた所で谷川連峰が進路上に立ちはだかる。
しかし、エリーにとっては山岳地帯超えも大した距離ではなく連なる山々の山頂部を踏み潰し、標高を100メートル単位で変えながら突き進んでいく。
山岳地帯を超え終わると水上温泉郷の一帯があり、新型ウイルスの影響で長らく閑散状態が続いていた観光地も、休日の今日は大勢の観光客が訪れていた。
この頃にはエリーによっていくつかの都市が壊滅させられているという情報がさらに広がっており、観光客も動揺を隠せないでいた。

「エリー様が日本の都市をいくつも破壊しているらしいよ!」
「でも、こんな地方の温泉街ならわざわざ破壊しに来ないよね…」

エリーは大きな都市を狙って破壊しているのではとの見方が強く、地方の観光地である水上温泉郷一帯は安全であるのではないかとの思いを持っている者が大多数であった。
しかし、そんな期待も一路さいたま市を目指すエリーの出現によって打ち砕かれてしまう。

「…何か揺れてない?変な響いてくる音もするし…」
「…!あ、あれ…エリー様だ!」
「え、え!に、逃げなきゃ!!」
「どっちに逃げればいいの!?」

エリーの姿を直接目視した観光客も地元住民達も大パニックになったが、エリーのあまりの移動速度と巨大さに、どう逃げればよいかもわからずただ逆方向に走ったりと必死で助かろうとするが、エリーはそのような地上の様子を感じ取ることもなく、ただただ温泉街を踏み潰していく。
温泉街が川沿いに縦長に形成されていたこと、エリーが歩きやすい谷の中心を進んで行ったことが災いし、温泉街の端から端まで、エリーは足を踏み降ろし続けていった。
たくさんの人々が休日の旅行を楽しんでいた温泉街はエリーが通り過ぎた結果、結局踏み潰され、衝撃で吹き飛ばされで多くの犠牲者が出てしまう。踏み潰された箇所から離れていた生存者達は、つい先ほどまでたくさんの人々で賑わっていた温泉地が、めちゃくちゃに破壊されたホテルや旅館と、直接踏み潰され原型も残らなかった者や、吹き飛ばされて絶命したり重傷を負った者で溢れかえる惨状を見せ付けられてしまった。

そしてついに関東平野に辿り着いてからは、一面灰色の都市群が見える様になり、前橋市や伊勢崎市などの人口の多い都市も次々と犠牲になっていった。

「さいたま市からは周りにもたくさん色々な都市が広がっているみたいだけど、栄えているところを中心に一帯を破壊し尽くせばいいや。」

一大都市圏となっている首都圏に入ってからは厳密に狙った場所だけを破壊するのは困難であるが、エリーは携帯端末の情報を確認しつつ、破壊すると決めた都市は徹底的に壊滅させる考えを固めたままさいたま市へと近づいていく。
埼玉県に入ったことで通り過ぎるだけの都市の発展具合もさらに増してきていたが、エリーは自分が通り過ぎることでズタズタに破壊されていく街も、足元を逃げ惑い踏み潰されて死んでいく市民達のことも何ら気に掛けることはなかった。
深谷市、熊谷市、鴻巣市、上尾市とさいたま市へ向かう途上の主要な市をズタズタに引き裂き、ついに次の目標としたさいたま市を眼下に収めたエリーはこれから滅ぼす一帯を一瞥して手にしていたローラーを地面に叩きつけた。

「田畑みたいな所はいいから、人が多く住んでそうな所を全部潰そう。」

一つの市と言っても、外れの方はほとんど人もいないような地域もある。罰として都市を壊滅させるのが目的のエリーは潰してもほとんど意味がないような地域は省き、逆に市街化地域は漏れなく圧し潰し破壊を続けていく。一度さいたま市の南端まで辿り着いたエリーはローラーの位置をずらし、北に向けて往復をして灰色の都市を同色の敷き詰められたガレキに変えていく。浦和一帯があっと言う間に壊滅し、そのままさいたま新都心のビル街を目線の先に捉えたエリーはある物を見つけ一度歩みを止めた。

「大きめのイベント会場みたいなのがある…もしかしてこの中で…」

エリーはいつぞや自分のための破壊都市建設が満足にできていない状況で、地球人達がイベント事に興じていたことを思いだす。なんとなく気になったエリーはさいたまスーパーアリーナが良く見えるように四つん這いの体勢でギリギリまで体を近づけてみた。その際邪魔になったさいたま新都心に並び立つ超高層ビル群はエリーの右腕で軽く薙ぎ払われることで、まとめて倒壊してしまった。


「お前らーーー!!こんなもんじゃないだろーー!!まだまだ声出せるかーーー!!」
「オオオオオオオーーーーー!!!!!」

この日さいたまスーパーアリーナの会場内では日本でも最大級のライブイベントが開催されていた。
新型ウイルスの影響でこういったイベントも開催延期、開催されても入場数制限などが長く続いていたが、エリーの提供したワクチンで事態が鎮静化したことで超満員となり35,000人以上が集まった会場は、長らく続いた制限期間が終わって会場の誰もが思い切り楽しむ興奮状態となっていた。また、ライブイベント中ということもあり、参加者もスタッフもSNSを見たりする者は誰もおらず、エリーが日本の都市破壊をしているという情報は伝わっていなかった。
だが、エリーが会場の様子を確認しようと体を近づけた際に邪魔となった超高層ビル群を破壊したことで、とてつもない振動と轟音が一帯に響き渡り、大音量のライブイベント会場であっても流石に異常事態であるということで演奏が中断され、観客達がざわつきだした。
次の瞬間、会場中心の屋根が突然大きく崩落し、その下にいた大勢の観客達が落下してきた何かに一瞬で圧し潰されてしまった。

「やっぱりだ、こいつらもこんなイベントなんかして楽しんでたんだ…」

さいたまスーパーアリーナの中心部に握りこぶしを叩きつけて破壊したエリーは、破壊した箇所から中を覗き込み、大勢の地球人がぎっしりと集まっており、真っ赤なサイリウムの光が見えたことで状況を察知し、顔を歪ませる。

「彼をあんな目に合わせたこの国の地球人が、こんなのうのうと遊んでるなんて…そんなの許すわけない!」

突然の大惨事に会場は外に逃げ出そうとする観客達が出口に殺到したことで、押し合いへし合いがあちこちで発生し、将棋倒しや倒れた人の踏みつけなど大混乱に陥ってしまう。ある者は何が起こっているかもわからずとにかくこの異常事態から逃げ出そうと、またある者は破壊された箇所から見えるはずの空をエリーの顔が覆い尽くしているのを見て、自分達は超巨大な支配者に殺されかけているのだと認識して、出口へ辿り着こうと必死で動き出す。
だが、エリーが今度は平手で会場をさらに圧し潰し、かき混ぜる様に手を動かしたことで、誰一人逃げる間もなく会場全体がぐちゃぐちゃのガレキと35,000人以上の亡骸へと変わり果ててしまった。

「まだ残ってる地域をさっさと潰さないと…」

どれだけ都市を破壊しても、地球人を殺しても、気が晴れることのないエリーは、さいたま市のまだ無事な街の姿が残っている地域を淡々とローラーで圧し潰し尽くし、次の目標へ移動した。


15:45 東京湾

「この辺りにある壊滅対象都市は、千葉市、川崎市、横浜市、相模原市、それと東京…」

東京都及びその周辺は人口の多い都市が集中しており、エリーが壊滅させると決めた政令指定都市は、さきほど壊滅させたさいたま市を除いてまだ4つもあった。そして前回のエリーのお楽しみから数年が経過した破壊指定都市の東京は、エリーの言い付け通り破壊のし甲斐がある都市として用意されるために、かなり再建が進んでいた。

「再建中の東京も地球人達が大勢いるはずだし、東京も含めて全部破壊しよう…」

本来であれば前回の破壊から5年を待って、地球でも有数の破壊のし甲斐がある大都市として存分に破壊を楽しむはずであった東京であるが、この国の地球人に罰を下すと決めたエリーにとっては壊滅させる対象としか見ることはできなかった。

「これだけあると圧し潰して回るのも時間がかかりそう…もっと手早く壊滅させられる道具を使おう。」

そう言うとエリーは宇宙船を自分の近くにまで呼び寄せ、船内から何やら四角い機械を持って戻ってくる。その機械からは長いホースのようなものが伸びていた。
機械を持ったエリーは再建中の東京を突っ切って東京湾に出る。東京再建に従事していた人々が、完成済みの建物も建設中の建物も関係なく街ごと踏み潰されていく。

「じゃあここの海を使って…?って全然浅すぎてこれじゃ駄目ね。仕方ないから船をもっと沖の方に移動させて…」

エリーは宇宙船を太平洋のはるか沖合に移動させると、靴をわずかに濡らすほどしかない水深の東京湾を横断して、まず千葉市沿岸から目の前のビル街を眺める。そして手にしたホースを千葉中央のビル街に向けると躊躇いなくレバーを引いた。
エリーの足元にあるホース付きの機械はポンプの役割を果たしているらしく、エリーの持つ直径50メートルにも及ぶホースから信じられないような勢いで大量の水が勢いよく飛び出し、千葉中央に林立するビル街とそこに居た人々を無慈悲に洗い流していった。
あまりの水流の勢いに、放水が直撃した超高層ビルなどは折れて内陸の方まで吹き飛んでいってしまい、直撃を受けなくともあっと言う間に街ごと凄まじい荒れ狂った濁流に飲み込まれ、建物は全て破壊され人々もほとんど即死していった。

「沖の方に移動させた船から転送させた海水の給水でちゃんと動いているみたいだし、全部洗い流していこう。」

千葉中央を一瞬で洗い流したエリーは、ホースの向きを変えて千葉市の各地域を次々と濁流に飲み込ませていく。
オフィスビル街もマンション群も何もかも関係なく、エリーが生み出した濁流に全てが飲み込まれ、建物はバラバラになり、何十万もの人々が溺れ死ぬ暇すら与えられず、命を奪われていった。
内陸部も含めて市街化されている地域は全て水没するようにホースを操り水流を市街地に向けていくエリー。
最後に千葉市北部に位置する幕張新都心の超高層ビル群を水圧で吹き飛ばしたところで一旦放水を止める。

「あなた達なんて罰として滅ぼされていくんだから、こんな死に方で十分でしょ?」


千葉市を壊滅させ終わったエリーは再び東京湾を横断し、有明の東京ビッグサイトのすぐ傍の海上に立ち東京23区を見渡した。
次のエリーによる破壊に向けて再建が進む東京は、エリーが気に入った巨大建造物であるスカイツリーも、東京駅周辺や新宿副都心等の超高層ビル群も順調に再建が進められ、完成済みと思われるビルもかなりの数があった。
それはつまり、それらの再建を支えるための数の人間がこの地にいることを示している。

「みんな死んでもらうね。」

そう呟いたエリーはホースのレバーを引き、東京の殲滅を開始する。
まず目の前の江東区と墨田区に向けて無差別に凄まじい水流を叩きつけ、何もかもを押し流しそこにいる人々を殺戮していく。
この辺りは東京を再建させるにあたり、比較的低層の住宅街が早期に建設され、東京再建に従事する人々の住宅として機能している一帯であったが、その日在宅していた再建に従事する人々も、その家族もほんのわずかな間で濁流の犠牲となってしまう。
手前の住宅地を東京湾と一体化させ海の藻屑にしてしまったエリーは、水没した地域を踏み越えその奥の方も洗い流して行き、進路上にあるスカイツリーの存在を認めたが、構わず放水を続けていく。
エリーの言い付け通り前回を上回る規模と言うことで、完成前にも関わらず既に800メートルを超える高さに成長していたスカイツリーであったが、根本付近に直接50m級の水流をぶつけられることで成す術なく横倒しとなりそのまま周辺の建物と共に遠くへ押し流されていった。

スカイツリーをも一瞬で破壊したエリーは、東側の江戸川区や葛飾区の方向に向き直り、余すことなくそれらも殲滅してしまう。
続いて反対の都心側の方向に目を向けると、東京駅周辺の超高層ビル群が目に飛び込んできた。その中にはまるでトーチを思わせるような、400メートルに迫ろうかという超巨大ビルも含まれていた。
地球人とは隔絶した1,680mの巨体のエリーがこのビルを持ったなら、まさにトーチのように見えたであろうが、東京一帯の殲滅を急ぐエリーは躊躇いなくこの超巨大ビルを含めた超高層ビル群も、その周辺も押し流し壊滅させてしまう。

「スカイツリーがなくなった!」
「どうして!エリー様のためにここまで東京を再建させたのに!ああっ!」
「トーチタワーも、周りのビルも一瞬…あんな水流、エリー様がこっちの方を向いたら終わりじゃない…」

まだ再建中ではあるが、エリーがいつもの都市破壊の時のように、ビル群への飛び込みや、超高層ビル密集地区のふとももでの挟み潰しなどの、超高層ビル群を相手にした楽しみ方も出来るくらいの状態にほぼ近づいていた東京駅周辺のオフィス街は、エリーを楽しませる目的を果たすことなく消え去ってしまった。

「あなた達はもう要らないんだから、みんな死んで。」

23区内ではビル建設に勤しむ者、建設されたビルの内装仕上げや各種什器の搬入を行い、実際にオフィスビルとして機能するようにする者、都市再建に必要な膨大な物資を運び込む者、それら再建に関わる人々を支える小売店や飲食店などの各種サービスを行う者など、エリーによる大都市破壊の楽しみを叶えるために1,000万人以上もの人々が働いていた。だが、エリーによって都市ごと処分を決定付けられた彼らは自分達が今日まで再建させた東京が、見る見る凄まじい水流で壊滅させられていくのを思い知らされながら死んでいった。

「この都市は地下施設もかなり発展してるはずだけど、全部沈めてやるんだから。」

23区を襲い続ける、地球ではこれまで起こったことのない規模の人為的な大水害は、地下へも容赦なく流れ込み、東京中に張り巡らされた地下街も地下鉄も水で埋め尽くしていく。この時点で機能していた地下鉄も、押し寄せる濁流によってすぐにトンネル全てが完全に水没し、走行中の車両は全て押し流され、駅のホームに居た人々も全員が水死体と化してしまった。

「後は奥の方を壊滅させれば東京は全滅ね。」

東京湾沿いの地域を全て水没させたエリーは、新宿や渋谷、さらにその奥の23区の西部地区も余すことなく地上から数メートルは水に浸からせ、23区内にいた地球人の処分を終える。

「次は川崎市、横浜市、相模原市。隣接してるしこのまま消していこう。」

まず湾沿いの川崎市が狙われ、東京23区と同様に地球人のスケールでは考えられないような鉄砲水で、人々が街ごとどんどん押し流されていってしまう。工業地帯も住宅街も主要駅周辺の立派なビル街も、一切の区別なく市の端から順に消し飛ばされて行った。

「川崎市の次は横浜市。ここも結構広いけど逃がすつもりなんてないから。」

川崎市に続いて切れ目ない放水が横浜市にも向けられ、これまで水没して来た地域と同様の末路を辿っていく。
殲滅を続けるエリーの目にみなとみらい地区の超高層ビル群が入り、日本でも有数の300メートル近い高さを誇る横浜ランドマークタワーとその横に連なって並び立つクイーンズタワーA、B、C棟を見つけることもできた。
直線状に並ぶこれらの超高層ビルは、ニューヨークでエリーが行った足裏ドーザーで破壊したならば、エリーの足裏の1回の快感と引き換えに4,000億円ほどの建設費をかけて作られた超高層ビル群を無価値なガレキの山に変貌させたであろうが、そのような弄びすらされることなく周辺地域に居た人々諸共蹂躙されていった。

「湾沿いの超高層ビル群を破壊したら、後は内陸の方の住宅街って感じだけど、みんな処分してあげる。」

壊滅させると決めた都市に対して一切の容赦を考えないエリーは、内陸の雑多な住宅街も含めて横浜市も余す所なく壊滅させてしまう。続いて隣接する相模原市にも目を向けると、同じく全て水の底に沈めていった。
相模原市の壊滅を確認したエリーはやっとレバーを戻し、1,500万とも2,000万とも分からない地球人達を洗い流した凄まじく暴力的な水流を止めるが、膨大な水量は放水で壊滅させた都市に隣接する地域にも二次被害を及ぼし今もなお犠牲者数を増やし続けていた。

「周りの都市も大分犠牲者が出てるみたいだけど、壊滅させないだけの情けはかけてあげる。」

こうして東京湾周辺の立派な都市群を水流で薙ぎ払い水没させたエリーは次の目標に向けて西の方角へ歩みを進めていった。


16:09 静岡市

続いて静岡市を目指すエリーは神奈川県の水浸しになった地区を踏み越え、歩きやすく途中にも都市が続く東名高速道路沿いを進んでいく。御殿場市や沼津市、富士市などが通り過ぎていくエリーの犠牲となったが、エリーの進路上に位置した区画が踏み潰されるだけで殲滅されなかったのはまだ幸運だったのかもしれない。そして静岡市に辿り付いたエリーはまたもや幅3キロにもなるローラーを使っての都市の処分を開始する。

「さっきまでと比べれば都市の規模も小さいし、大阪まではコレで十分ね。」

エリーは手早く静岡市を処分し終わると、さらに西進を続けていった。


16:13 浜松市

浜松駅近くには、200メートルを超える超高層ビルである浜松アクトタワーが存在したが、日本の壊滅を実行中のエリーは大して興味を持つこともなく、そのまま超巨大ローラーで駅周辺ごとまとめて破壊してしまう。浜松アクトタワーは下層階だけが破壊され、横倒しになって崩れてしまったが、誰一人助かっていないであろうと認識したエリーは追い撃ちをかけて踏み潰すこともせず、そのまま浜松市内も蹂躙し尽くしていく。

「超高層ビルだろうと所詮地球人のビル、一気に壊滅させていくのに何の問題もないわね。」


16:18 名古屋市

以前大阪を破壊しに訪れた際に再建具合が不十分であった罰として代わりに壊滅させられた名古屋市。あれから幾分かの時間は経ったものの、破壊指定都市の東京と大阪を再建させながら名古屋も復興させることは不可能と判断され、何より名古屋市民もそのほとんどが死亡したことから、名古屋市一帯はどこもガレキが放置されたままの状態となっていた。
今の名古屋市は、東京、大阪を再建させる経済活動を続けるため、唯一自動車道と鉄道の輸送インフラだけは再建され、道路周辺にのみ通行する車両へのサービス提供のための飲食店などが細々と軒を連ねている程度であった。

「名古屋市は以前見せしめで破壊済みだし、この次は京都市ね。」


16:20 京都市

<東京は全滅したって!>
<東京の人が投稿した動画ヤバいって>
<投稿した人もう皆死んでるよね…>

エリーによって政令指定都市への攻撃が開始されてから1時間が経過し、この頃には日本の誰もがエリーによって次々と都市が壊滅させられている情報を必死でかき集めており、自分の住む都市はどうなるのか?逃げるべきなのか?逃げるならどこへなのか?その答えを求めてネット、テレビの様々な項目を次から次へと終わりなく見続けていた。

<今、西日本の方に向かってるって!>
<じゃあ大阪とか危ないってこと?>
<でも、大阪は破壊指定都市でしょ?5年に1回エリー様が破壊するための…>
<東京壊滅してんだよ!もう関係ないって!>

憶測が飛び交い、パニックがパニックを呼び、じっとしている不安に駆られる多くの人々が車で逃げ、公共交通機関に殺到する事態が全国各地で発生していた。


壊滅したままとなっている名古屋市を素通りし、以前大阪から名古屋市を破壊するために移動した経路を今度は逆に移動するエリー。進路上の都市はかつて名古屋へ駆け抜けて行ったエリーによって雑に踏み潰されて少なくない被害を被っていたが、ようやく復興の目途が立っており、エリーに大勢の人々が踏み潰され犠牲となった出来事の悲しみも乗り越えつつあった。
しかしそんな滋賀県琵琶湖沿いの都市を、今度は京都を目指すエリーがまたも無慈悲に踏み潰していき、前回は無事だった建物も、再建された建物も区別なくエリーの歩幅に合わせて破壊され、またも大勢の人々がその犠牲となってしまった。

そうして京都市に辿り着いたエリーは、碁盤の目上に整備された京都の街を端から順に巨大ローラーで圧し潰し壊滅させていく。

「なんで…なんでこんなに殺されて、京都まで壊されるの!作り直しなんて出来ないのに!」
「もうだめだ…あんなの全部壊されて、全員殺される…」

前回は通り過ぎる際に踏み潰されただけで済んだので、京都市の文化財の破壊もそこまで酷いことにはならなかった。しかし今度は全てを壊滅させていくエリーによって、古都京都の文化財が150万人近い市民と一緒に残すことなくゴミに変えられていった。

「さっき見た端末の情報によるとこの都市はこの国にとって歴史的に価値があるみたいだけど、この国は今日で壊滅するんだからそんなのもう要らないでしょ。」


16:26 神戸市 六甲連山付近

次にエリーが壊滅を目論むのは大阪湾沿いの大阪市、堺市、神戸市の3都市であるが、エリーは大阪市内には足を踏み入れず、代わりに高槻市や豊中市、西宮市などを踏み潰して横断し、神戸市の六甲連山付近に到達していた。

「大阪市と堺市も結構大きいし、もう一気に壊滅させよう。」

高いところでは自分の太もも辺りの高さくらいはある六甲連山をしばし眺めたエリーは、東京一帯を壊滅させた際に太平洋沖へ移動させた宇宙船を呼び寄せ六甲連山上空に待機させる。
そしてエリーが携帯端末を操作をすると、宇宙船への出入りに使用する謎の円形光線が六甲連山へ向けて照射された。すると、次の瞬間六甲連山全体が光線に引っ張られるように地上から引き剥がされてしまった。
その様子を確認したエリーは上空に持ち上げられた六甲連山の真下に移動すると光線を切り、なんと六甲連山そのものを自らの両腕で大きく頭上に掲げてしまった。この様子を目撃した周辺都市の人々は、いかに自分達の1,000倍の巨躯を誇るエリーとは言え、10キロを軽く超える幅を持つ六甲連山を両腕で持ち上げると言うエリーの身体能力に唖然としてしまう。

「…!いくらエリー様が異星人であんなに大きくても、人間でしょ!エリー様より山脈の方がずっと大きいのに…」
「もう、みんな死ぬのかな…」

エリーと地球人の間には大きさや寿命、持てる技術以外にも、同じサイズで考えた場合の身体能力までも比べ物にならない差があった。

「じゃあ大阪の中心部はあの辺りだから…」

そう呟いたエリーは六甲連山を持ち上げたまま尼崎市を横断すると大阪市の梅田地区の超高層ビル群の辺りを目標に捉える。
先程からのエリーの動きに、途轍もない恐怖を感じながらも目が離せなくなっている周辺市と大阪市の1,000万人以上の市民達は、ほとんどの者が次にエリーが行うであろう行動を嫌でも想像できてしまったが、どうか間違いであってくれと懇願することしか出来なかった。

「もうみんなさっさと潰れて死んで。」

エリーは大多数の市民達が予想した通り、掲げた六甲連山の山体そのものを大阪市の中心部にむけて投げ付けてしまう。
上空2,000メートル付近から大阪市そのものへ向けて10キロ以上の幅の山体が落下すると言う天地創造級のカタストロフィに、山体の影が迫ってくるのを眺めることしか出来ない市民達は泣きながら最期の時を待つしかなかった。
山体が大阪一帯に激突することで周囲一帯を破滅的な衝撃と激震が襲い、その規模はエリーが大都市でビル群に向けて飛び込み破壊を行った時とは比べ物にならなかった。直接狙われた大阪市と堺市は市内の大部分が直接圧し潰され、そうでなかった地域も即座に広がった衝撃で建物の影も残らず完全に壊滅していってしまう。
結局周辺都市も含めて相当な範囲が犠牲となり、大阪府そのものがほぼ全滅したと言っていい状況であった。

「予定より大分広範囲に破壊しちゃったけど、国ごと滅亡するわけじゃないんだからこれくらいは必要な犠牲よね。」

大阪は前回のエリーの都市破壊の際に未完成であるということでほとんど破壊されなかったが、その代わりさらに破壊のし甲斐がある都市を作り上げる様にエリーにきつく言い付けられていた。罰としての名古屋市壊滅を見せ付けられたこともあり、ある程度都市が出来上がってはいたものの、さらに100棟近い超高層ビルの追加建設計画が大急ぎで開始され、それらの建設が着々と進められていた。しかしそんな努力も、この国の壊滅しか考えていないエリーのこれまでにない凄まじい攻撃によって、全て一瞬でそこに大都市が存在したこともわからないほど大阪平野そのものごとめちゃくちゃにされてしまった。
また、エリーによって大阪が破壊される日がさらに5年先となったことから、完成済みの施設をそれまでは活用することとなり、元々都市建設に従事していた人々の利用に加え、すぐ使える状態に仕上げられていたオフィスビルへの入居も進んでいた。
他にも破壊指定都市となったことで強制移住せざるを得なかった人々が期限付きながら戻って来て、再建された大阪の街並みでの暮らしを取り戻していた。
だが、この日のエリーの突然の攻撃により、なまじ人口が増加していた大阪府に居た1,000万人ほどの人々は全て犠牲となってしまった。

「じゃあ仕上げに神戸市をしっかり潰し尽くして次に行こう。」

大阪府自体が地図から消える程の巨大な衝撃によって神戸市も甚大な被害を被っていたが、政令指定都市は完全に壊滅させると決めたエリーは何とか生き残っていた人々にも全く容赦せず神戸市も破壊し尽くすと、残る壊滅対象を目指してさらに西へと進んでいった。


16:32 岡山市

明石市や加古川市を踏み潰して通り過ぎたエリーは、鉄道に沿うように姫路市も中心部を突っ切る形で進み、市街地を蹂躙してしまう。
姫路駅の辺りに差し掛かったエリーが振り下ろした右足が、姫路城のお堀の辺りを踏み潰した際に生じた激しい振動と衝撃で、姫路城の天守最上階が崩落し、白鷺城の愛称を持つ美しい天守が見るも無残な姿をさらけ出してしまう。
さらに、前進を続けるエリーの右足が前に向けて持ち上げられたことで、まだなんとか原型を留めていた石垣も最上階下の天守も、エリーのつま先で蹴り上げられ一瞬でバラバラになってしまった。
400年以上の長きに渡りこの地に優美な姿を示し続け、世界遺産として親しまれていた姫路城も、エリーがただ通り抜けただけで何の価値もないガレキと成り果ててしまった。

数々の通り過ぎて来た都市を、ビル群も、人々も、文化遺産も、一切の区別なくめちゃめちゃにし続けながら進むエリーが、次の目標となる岡山市を捉えるが、先ほどの大阪一帯との発展度合いの落差に半ば呆れてしまう。

「超高層ビルの1つも無いようなつまんない都市ね。まあ人口はそれなりみたいだからしっかり滅ぼしてあげるけど。」

岡山市にも100メートル程度のビルはあるにはあったが、世界中の巨大都市の破壊を楽しんできたエリーにとって100メートル程度のビルなど超高層ビルと認める気にもならず、それらが数える程度しかない都市など無価値もいいところであった。
先程のエリーの台詞を聞かされた岡山市民達は、最早避けられない死を目前に震えながらも、自分達が生まれ育った街をそこまでぞんざいに扱って壊滅させていくエリーに、命を奪われることに加えて更なる憤りも感じたが、何の抵抗も出来るはずがなく、ただただ街と運命を共にするしかなかった。

「…はい、おしまい。さっきの大阪を処分した時に周りも大分壊滅させたし、もう田畑しかないような所はいいや。ここも1分も要らなかったわね。」

16:35 広島市

倉敷市、福山市、尾道市、東広島市などを横断して広島市に辿り着いたエリー。岡山市と比べればエリーが超高層ビルと認めて良い立派なビルもいくつか確認でき、市街地も広範囲に渡ることからエリーもそれなりの都市であるとの感想を持つ。

「まあまあの地方都市ってところね。ここなら100万人は処分できるだろうし、きっちり壊滅させてあげる。」

広島市の瀬戸内海沿いの地区から山間の地区まで、巨大ローラーで街も人々も等しく潰れたガレキと血肉に変えていくエリー。早くも市の東半分を壊滅させ終わり、三角州地帯の発展した都市部への攻撃を開始する。高層ビルやマンションが立ち並ぶ三角州の中央部分は、エリーの巨大ローラーの幅にちょうど収まるくらいの広さであったため、市の発展した地域がまとめてどんどん潰されて行った。結局8キロは続く市街化区域がわずか5秒足らずで壊滅させられてしまった。

「この国の地球人が集まっている地域をまとめて潰せたし、この調子で続けよう。」

今のエリーにとって発展した市街地域など、処分対象の地球人を効率良く大量に処分できる処刑場でしかなかった。


16:43 北九州市

日本壊滅の総仕上げとなる九州を目指し瀬戸内海沿いを進むエリー。山口県の各都市がエリーがこれまで辿って来た経路に存在した都市と同じように踏みにじられ、犠牲者の数は依然として増え続けている。
本州最西部の下関市まで辿り着いたエリーは、自分の歩幅を少し超える程度の長さしかない関門海峡を、関門橋を踏み潰しながら渡りついに九州への上陸を果たす。関門橋上は本州の東から都市を次々に壊滅させながら迫ってくるエリーに追い立てられるような恰好で避難しようとする車で溢れていた。

「後ろっ!エリー様が!」
「は、橋が踏み潰されて!うわぁ!!」

海峡であっても歩を緩めないエリーによって、吊橋そのものが踏み潰されて崩落してしまったことから、橋上の車は残らず潰されるか海峡に滑り落ちて行き、車での避難を試みていた市民全員が犠牲となっていった。
また、エリーは関門橋を踏み潰した際に、同時に海底にある関門トンネルの構造体にも深刻なダメージを与えており、エリーが踏みつけた海底付近を通っていたトンネルが崩落を始めてしまう。

「えっ!く、崩れて来る!」
「水が来る!!」

関門トンネルには関門橋と同様に、九州へ逃げようとする人々が車でも徒歩でも押し寄せており、この国で繰り返し起こった震災で鉄道が全て運休してしまった時の様に、人道トンネルは人々の行列が形成されていた。
そこに人道トンネルの上に位置する車道トンネルを洗い流した海水が続けて押し寄せ、避難する人々を残らず溺死させてしまった。

「私の進路に向かって逃げたって無駄なのに…どうせ死んでもらうんだからいいんだけど。」

九州で最初の壊滅対象となる北九州市を見渡したエリーは、海峡沿いで操業を続ける製鉄所やその原料となる広大な鉄鉱石置き場の存在に気付き、この都市が工業都市として発展して来たであろうことを認識する。

「ここはきっと東京や大阪の再建のために、必要な資材を生産している都市ね。でも、もうこの国にはそれも要らないの。」

日本有数の工業都市である北九州市では、エリーによって5年に1度全てを破壊し尽くされる東京と大阪の2大都市の再建のためにも、各工場は休みなくフル稼働を続けていた。エリーの都市破壊欲を満たすためだけに向こう100年以上もこの状況に終わりはないかと思われていたが、その支配者によって突然の解放を迎えることになった。

「要らない物は全部処分するんだから…」

まず海峡沿いの工業地帯がローラーで潰されてめちゃめちゃにされてしまう。破壊された石油タンクや化学工場が爆発し黒煙が吹き上がったが、エリーは気にも留めず市街地もゴミを片付けるように淡々と破壊して、ここでも100万人近い人々を物の数分で処分してしまった。


16:49 福岡市

日本経済の中心都市としては最西端に位置する福岡市。東京と大阪が破壊指定都市となったことを受け、日本政府は福岡を福岡都に変更し、国の主要行政機関を全て福岡市に移転していた。
福岡市内にある首相官邸には、一部の報道記者が詰めかけており、前首相が名古屋市壊滅の責を取り内閣総辞職したことで、新しく政権を担っている現首相による会見が開かれていた。

「エリー様によって今この瞬間も日本の都市が壊滅させられており、ここ福岡が破壊されるのも時間の問題かと思います。恐らく私達も助からないと覚悟していますが、なぜ突然エリー様が日本の各都市を破壊しているのか、エリー様との連絡は取れないのですか!?」
「エリー様は取り決め違反がなければ無用な殺戮はされないはずです!なぜ日本がこのような目に合っているのか分からないのでしょうか!?」

記者達がせめて死ぬ前に生じた人生最大の疑問を解き明かそうと首相へ口々に質問を投げかける。それらを一通り聞き終わった首相は沈痛な面持ちで言葉を絞り出した。

「全ては私の責任です…本当に取り返しの付かないことをしてしまった!我が国はこれまで何度も繰り返し大災害も、戦禍も経験して来ましたが、そのたびに私達は力強く復興を続けて来ました。しかしこれはもうどうしようもない!私は国民の皆様にお詫びのしようもありません!」
「どういうことですか総理!あなたは何を知っているのですか!」
「答えて下さい!」

首相の発言に記者達が騒ぎ出すが、突然首相官邸が大揺れに襲われたことで一瞬で静まり返ってしまった。

「ねえ、この中に首相がいるんでしょ。出て来てよ。」

外から聞き慣れた支配者の大きな声が聞こえてくる。
首相はただ記者達のいる正面に頭を深く下げると、官邸の外へと歩いていった。

「あなたが今回の責任者なんでしょ。」

官邸の中から出てきた首相を遥か高みから侮蔑の表情で見下ろしているエリー。
首相は観念し切った顔でエリーの顔を見上げ震えながら何とか声を絞り出すのがやっとだった。

「はい…仰る通り…私が今回の一件の総責任者です…」
「この国がどうなったか、もう十分情報は伝わっているだろうけど、これがこの国への罰だから。」
「…申し訳ございま…」
「じゃあもういいから。」

エリーは首相が謝罪の言葉を述べようとするのを相手にもせず、官邸周辺の官庁街ごと巨大ローラーで全てを圧し潰してしまう。
その後もまだ破壊していなかった福岡市内の各地区を残さず壊滅させていくのだった。


16:58 熊本市

彼を危険な目に合わせたその総責任者を含め、この国の政治・行政の中心となっていた福岡も壊滅させたエリーであるが、決めた罰の遂行を途中で止めることはせず、福岡から南下して熊本の地にも辿り着く。

「この都市で一応罰としての処分は最後だけど、手を抜いたりはしないから。この国の一般の国民は何が起こっているかよく分かっていないようだけど、私が罰を下すって決めたから、この都市の住民も残さず死ぬことになっただけなの。」

熊本市民の中には先ほどの首相の会見放送を見ていた者もいたが、政府とエリーとの間で何かがあったらしいがその内容が分からず、なぜ自分達が罰を下されて死ななければならないのか理解できなかった。だが、そのような事情などエリーには何の関係もなかった。

「じゃあみんな死んで。」

熊本の市街もただただ冷酷に圧し潰し、この国での最後の大殺戮を遂行するエリー。
熊本市も他の政令指定都市と同様に完全に壊滅させた所で、エリーによる日本の都市破壊はようやく終わりを告げた。


その頃熊本市街から離れた熊本空港には、熊本市もエリーの攻撃を受けると予想した市民が殺到しており、空港内に入りきれない人も大勢いるような状況であった。

「金なら出すから乗せろ!」
「搭乗できるのはチケットをお持ちの方だけです!」
「この状況で何言ってんだ!まだ乗れるだろ!」
「この子だけでも乗せてください!!」
「出発出来ませんから離れてください!!」
「搭乗口付近の客を遠ざけろ!!」

熊本市街から離れていた事が幸いしたのか、熊本市がエリーに壊滅させられた時点でも、熊本空港は被害を免れていた。
だが、エリーがこれ以上熊本周辺を破壊しないなどと誰も思うことはできず、空港に辿り着いた誰もが唯一の生存手段と思われる上空への逃避にすがり、命をかけた席の奪い合いが収まる気配はなく空港は最早その機能を失っていた。
そのような空港の状況など知る由もないエリーは、母星へ戻るために宇宙船を阿蘇山とめちゃめちゃになった熊本市街の中間辺りの上空に呼び寄せた。
上空で静止した宇宙船の真下に移動し、謎の円形光線で船の中へ戻っていくエリー。その移動の際、ちょうどエリーが足を降ろした場所に熊本空港のターミナルが位置してしまい、機内に大勢が乗り込みながらも乱闘で入口ドアを閉めることができず、滑走路へと移動できない旅客機も、ターミナル内でひしめき争い合う者達も、全てをエリーの250メートルにも及ぶ右足が蹂躙し破壊し尽くしたことで、空港一帯は一瞬にして嘘の様な静寂を取り戻したのであった。


「何千万人処分したかわからなかったけど、さっき話した通りこの国の地球人を絶滅はさせないからね。…それで、聞いて欲しいことがあるの…」


壊滅させられた都市の人口と、エリーの移動によって踏み潰されていった都市の被害状況を合わせると、犠牲者数は5,000万人以上になるとの集計結果になり、最早国としての機能を喪失した日本は復興できるのだろうか。生き残った国民は誰もがそう思い、辛い日々を過ごすこととなった。だが、仮にかつてのように復興を成し遂げたとして、それはこの国が再び支配者の楽しみのためだけに機能する状態に戻るだけであった。