16:26 大阪湾 淡路島近海

次にエリーが壊滅を目論むのは大阪湾沿いの大阪市、堺市、神戸市の3都市であるが、エリーは大阪市内には足を踏み入れず、代わりに高槻市や豊中市、尼崎市などを踏み潰して横断し、そのまま大阪湾に入ると淡路島へ向けて進んで行った。

「エリー様が島の方に来てる!」
「エリー様は大都市を狙ってるんじゃないの!?」
「山の方に逃げたほうがいいのかな!」
「わ、わかんないよ!でもそうかもしれないし、とにかく逃げよう!」

東日本のいくつもの都市を壊滅させ京都市も余さず蹂躙したエリー。次に破壊されるのは大阪一帯の大都市圏であろうと多くの人々が予想していたが、大阪府の都市部は素通りし踏み潰すだけ、と言っても甚大な被害がもたらされたものの、ほとんどの地域は無傷のまま残して大阪湾を通り抜けるという予想外の行動に、その先にある淡路島に住む人々が出来る限り狙われにくそうな場所を探して、急いで市街地から逃げ出そうとし始める。

「大阪市と堺市も結構大きいし、もう一気に壊滅させよう。」

淡路島洲本市沿岸から淡路島全体を見渡したエリーは、東京一帯を壊滅させた際に太平洋沖へ移動させた宇宙船を呼び寄せ淡路島の中央上空に待機させる。
そしてエリーが携帯端末を操作をすると、宇宙船への出入りに使用する謎の円形光線が淡路島へ向けて照射された。すると、次の瞬間淡路島全体が光線に引っ張られるように地上から引き剥がされてしまった。
本州との連絡路である明石海峡大橋と、四国と淡路島を結ぶ大鳴門橋の2大吊橋は淡路島から切り離され、その衝撃で崩落してしまい、都市部からの避難を試みていた渋滞車列は全て海峡に飲み込まれていってしまう。

「上見て!あの超大きいの、エリー様の宇宙船でしょ!」
「どういうこと!?もう帰るってこと?」
「なら助かるのかな…何か光って!きゃああ!!」

淡路島に住む十数万人の人々ごと、上空2,000メートル付近にまで持ち上げられた淡路島。しかし、まるで淡路島自体が浮かび上がったかのように、人々は地面から浮き上がることはなく、揺れによって物が落下したりはするものの、建物などもほぼ損壊せず元の姿のままであった。

「何が起こって…」
「何か急に寒くない?え、何で海が見えなくなってるの!?」
「これってもしかして、空?島ごと浮いてるの!?」

その様子を確認したエリーは上空に持ち上げられた淡路島中央部の真下に移動すると光線を切り、なんと淡路島そのものを自らの両腕で大きく頭上に掲げてしまった。この様子を目撃した近畿・四国地方の人々は、いかに自分達の1,000倍の巨躯を誇るエリーとは言え、50キロ以上の幅を持つ淡路島を両腕で持ち上げると言うエリーの身体能力に唖然としてしまう。

「…!いくらエリー様が異星人であんなに大きくても、人間でしょ!淡路島と比べたらエリー様だって小さく見えるのに、それを持ち上げるなんて…」
「もう、みんな死ぬのかな…」

エリーと地球人の間には大きさや寿命、持てる技術以外にも、同じサイズで考えた場合の身体能力までも比べ物にならない差があった。

「じゃあ大阪の中心部はあの辺りだから…」

そう呟いたエリーは淡路島を持ち上げたまま、大阪市の梅田地区の超高層ビル群の辺りを目標に捉える。
先程からのエリーの動きに、途轍もない恐怖を感じながらも目が離せなくなっている周辺市と大阪市の1,000万人以上の市民達は、ほとんどの者が次にエリーが行うであろう行動を嫌でも想像できてしまったが、どうか間違いであってくれと懇願することしか出来なかった。

「つまりエリー様はこの島を大阪に投げ付けようとしてるってことでしょ…」
「もうだめなんだね。どこに逃げてもどうにもならないよ。何かもう死ぬの決まったら逆に冷めてきちゃった…」
「ねえ、どうしてエリー様はこんなことをしてるんだろうね?」
「確かに前にどっかの国が手抜きをしてエリー様の罰を受けたのと、前の首相がエリー様を誤魔化そうとして名古屋市が滅ぼされたことがあったけど、これってもう日本滅ぼす感じでしょ。誰かが何かしたってこと?」
「じゃあどっかの誰かのせいで、私達も、みんなも死んじゃうんだね…」

地上の人々はまだエリーがどこへ向けて攻撃するかで生死が分かれる可能性の分、期待に縋りようもあったが、エリーに丸ごと持ち上げられている淡路島に住む人々は、最早助かる術などないことを悟らざるを得ず、ただただ最期の時を待つしかなかった。

「もうみんなさっさと潰れて死んで。」

エリーは大多数の市民達が予想した通り、掲げた淡路島そのものを大阪市の中心部に向けて投げ付けてしまう。
上空2,000メートル付近から大阪市そのものへ向けて50キロ以上の幅の淡路島が落下すると言う天地創造級のカタストロフィに、淡路島の影が迫ってくるのを眺めることしか出来ない市民達は泣きながら最期の時を待つしかなかった。
淡路島が大阪一帯に激突することで周囲一帯を破滅的な衝撃と激震が襲い、その規模はエリーが大都市でビル群に向けて飛び込み破壊を行った時とは比べ物にならなかった。大阪平野そのものを淡路島全土がそのまま上塗りして圧し潰し、即座に広がった衝撃は近畿地方の各都市も山林も、一切の区別なく消し飛ばしていってしまう。
結局周辺地方も含めて広大な範囲が犠牲となり、近畿地方そのものがほぼ全滅したと言っていい状況であった。

「ちょっとだけやり過ぎだったかな。でも、国ごと滅亡するわけじゃないんだからこれくらいは必要な犠牲よね。」

大阪は前回のエリーの都市破壊の際に未完成であるということでほとんど破壊されなかったが、その代わりさらに破壊のし甲斐がある都市を作り上げる様にエリーにきつく言い付けられていた。罰としての名古屋市壊滅を見せ付けられたこともあり、ある程度都市が出来上がってはいたものの、さらに100棟近い超高層ビルの追加建設計画が大急ぎで開始され、それらの建設が着々と進められていた。しかしそんな努力も、この国の壊滅しか考えていないエリーのこれまでにない凄まじい攻撃によって、全て一瞬でそこに大都市が存在したこともわからないほど、近畿地方そのものごと何もかもが圧し潰され、消滅してしまった。
また、エリーによって大阪が破壊される日がさらに5年先となったことから、完成済みの施設をそれまでは活用することとなり、元々都市建設に従事していた人々の利用に加え、すぐ使える状態に仕上げられていたオフィスビルへの入居も進んでいた。
他にも破壊指定都市となったことで強制移住せざるを得なかった人々が期限付きながら戻って来て、再建された大阪の街並みでの暮らしを取り戻していた。
だが、この日のエリーの突然の攻撃により、なまじ人口が増加していた大阪府に居た1,000万人ほどの人々、さらに周辺府県に居住するもう1,000万人ほどの人々も全て犠牲となってしまった。

「神戸市も残さず吹き飛んで消滅したし、岡山市がまだ残っているようならそこから再開しよう。」

近畿地方が地図から消えるほどの巨大な衝撃によって神戸市も消し飛んでいたが、政令指定都市は完全に壊滅させると決めたエリーは、残る壊滅対象を目指してさらに西へと進んでいった。