20XX年、東京。今日はこの星の支配者である巨大な異星人のエリー様が、月に一度行う大都市破壊のためここ東京にやって来る。自分は破壊指定都市となった東京で、東京駅前に建設された超高層ビルの主任設計を任されており240メートルのガラス張りのビルは約4年かけて建設された自信作だ。上層階は高級ホテルとして使われており、外見だけでなく内部も含めラグジュアリーな完成度を誇っている。
エリー様はいつからか『足裏ドーザー』と呼ばれる、超高層ビルに250メートルの足を真横から押し付けての破壊方法を好まれている。そこで今回自分が手掛けた八重洲に聳え立つ超高層ビルは、どうせエリー様に破壊されるならこの東京駅前に相応しいだけでなく、満足して破壊して貰える様な設計にしたつもりだ。
まずあの250メートルの足を横から押し付けられても容易には倒壊しないように、各階には強力な制振ダンパーが取り付けられているし、最上階の特別性のおもしは計算上だが震度8のエネルギーも想定した衝撃吸収設計になっている。
そして主任設計者としてエリー様にビルが破壊される様子を間近で直接記録したいとエリー様の質問箱に直訴したところ、特別にエリー様の都市破壊にも耐える保護容器を貸与して頂き今日東京駅八重洲口で待機することが可能になった。

「うーん、到着ー!ハーイ、地球のみんな。今日は日本の東京をめちゃめちゃにする日だったね。早速だけど今回は熱心な地球人から足裏ドーザーでの破壊向きの超高層ビルを作ったと聞いてるの。この近くらしいんだけど…あっ!きっとこれだね〜。」

エリー様は月島近くの隅田川の辺りに降臨されたようでここから1キロは離れていたはずだが、あっという間に途中の高層ビル街を踏み潰して迫る1680メートルの全身を見るには首を思い切り反らさなければならなかった。

「ガラス張りで地球人の超高層ビルにしては結構どっしりと構えてていい感じのビルだね。せっかくだしいきなり足裏ドーザーで楽しませて貰うからね。」

エリー様がパンプスと靴下を脱ぎ捨て、まだ踏み潰されていない周囲の高層ビル群がそれらに潰されていく様は、何度も映像では見てきたが間近で体験するとそれだけでも恐ろしい轟音と振動が襲って来た。

「それじゃあいくよ〜。」

エリー様は私のいる240メートルのビル正面口の反対側の高層ビル群をお尻で敷き潰しながら座ると、素足を壁面にゆっくり近づけていった。ビルの全長をわずかに上回るエリー様の足は5本の指がわきわきと動きながらビルに迫っており、私の設計したビルはほぼ同サイズでありながらもただ捕食されるのを待つばかりの哀れな獲物のようにも見えた。
そしていよいよエリー様の足裏がビル壁面に衝突した瞬間、腹の底に響くような衝撃を感じたかと思うと、手元のノートパソコンに表示していたビルの制振ダンパー等の各種数値は、実験場でも見たことがないような信じられない数値ばかりとなっていた。

「んっ!ひやっとした感触と、しっかり耐えてくれる感じがしてなかなかいいね。それなら。」

エリー様の足裏は5本の指が屋上をがっちりと捉えると、地上近くのかかとが1階から10階辺りまでのフロアを突き破り、私のいるビル正面口方向から割れたガラスやビル内のオフィス家具の残骸と構造物が一気に吹き出してきた!私が呆気に取られながらビル本体は崩壊せずに耐えていることを確認していると、なんとビルそのものが前進しだしたのである!

「あ、ああ!ビルが歩いている!?」

当然歩く超高層ビルなど地球人が建てられるはずがなく、実際はエリー様の足裏が地上付近のフロアを一気に突き破った後、ビルをがっちりホールドした状態で脚が徐々に伸ばされたことで、ビルが無理矢理前方へ押し出されてしまっていたのが真相であった。

「ん〜、いい感じのビルが私の足裏で押し退けられちゃってる!このままそれ〜!」

止められていた自動車やバスを轢き潰し8車線の大通りを軽く乗り越えたビルは、各フロアのガラスが割れたりしながらもその形を概ね保ったままエリー様の足裏に押し出され、東京駅のホームへ突入していった。駅構内はめちゃくちゃに破壊され、停車していた新幹線の直接潰されなかった車列が反動で垂直に跳ね上がり、ロータリーへ転がって来たので私は慌てて貸与された透明の保護容器へ入り事なきを得た。

「アッハハ!巻き込まれた地球人の乗り物がめちゃめちゃだ!超高層ビルを足裏で掴んだまま都市をめちゃめちゃにしてくのも面白いね〜。」

東京駅に停められていた新幹線、在来線がどれほど巻き込まれぐちゃぐちゃにされていってもエリー様が脚を伸ばして都市を蹂躙する速度を落とすことはなかった。
ホームをズタズタに破壊して突っ切った足裏と超高層ビルは、その先にあった別の超高層ビルにそのまま激突し、2棟の超高層ビルは轟音と共に崩壊し後にはビルの瓦礫で少し汚れたエリー様の250メートルの足裏が、丸の内の周囲のまだ無事な超高層ビル群を威圧するように聳え立っていた。

「っーーん!別の超高層ビルと一緒にぐちゃぐちゃになってく感触が気持ちいいー!アハハ!流石に押し流して別の超高層ビルにぶつけたら壊れちゃったね!でも、言うだけのことはあっていい感じに足裏ドーザーを楽しめた超高層ビルだったよ。それじゃあ引き続き東京破壊を楽しませてもらうけど、また5年後にはもっといい感じの超高層ビルをたっくさん用意しておいてよね。」