ほとんどの人にとっていつもと変わらない退屈なある日、大都市上空に突然超巨大宇宙船が前触れなく現れた。人類のあらゆるレーダーに感知されることなく大都市上空に侵入した全長10㎞超えの超巨大宇宙船。大都市にいた誰もがそれを見上げていたところ、中から誰もが羨むプロポーションをした、しかし人類の1,000倍、身長1,700mの超巨大美女が建ち並ぶ高層ビル群を雑草のように踏み潰し、着地の衝撃で周囲をズタズタに破壊しながら降臨した。

「虫ケラにもわかるようにそちらの言葉で喋ってあげる。この星は今から私、イントゥルーダーが遊びで使ってあげるから、泣いたり、抵抗したり、私が遊んでるだけで勝手に大量に死んでったりして楽しませてね♡」

そのままルーダーがただ歩いたり、足をズザザー!と滑らせたりするだけで、大都市がどんどんグチャグチャになっていったが、ここがこの国の首都だったこともあり、最寄りの各基地から戦闘機、戦車、トラックに乗った歩兵など出動できる限りの軍隊が駆け付け、ルーダーへの攻撃と人々の避難誘導が行われた。
この突然の事態に対応すべく出動した軍隊の総指揮を担うのは、天才的な成績で軍学校を首席卒業し、若くして軍の最高司令官になったリシェナであった。


「馬鹿にして……侵略なんてさせないわ!」

リシェナは人類史上一と言われている持ち前の頭脳で指示を出し始める。
パニックに陥った人々もリシェナが指示をすると、途端に列をなして指示通りに避難を始めた。それほどまでにリシェナの頭脳は信頼と実績があるのだ。

「いくら大きいと言っても所詮は人でしょう? 弱点を付けばどうということないわ」

その巨体に人々は恐れをなすが、リシェナだけは別。的確に指示を出して、ルーダーの心臓や顔に銃弾やミサイルを集中させる。


しばらく一方的に都市を破壊し、居合わせて巻き込まれた人々を大量虐殺していたルーダー。だが、リシェナの指示で目などいかに巨大なルーダーと言えど、ミサイルの爆風が煩わしく感じさせる攻撃が行われ、ほんの僅かではあるものの都市からの避難が進み始めていた。

「この星の軍隊の抵抗って訳?ウザったく感じさせる位の攻撃はできるみたいだけど、それと勝負になるかどうかは別ってわからせてあげよっか?」

ルーダーが腰のホルスターから拳銃を抜き引き金を引くと、ミサイル攻撃を行う戦闘機に向けて幾筋もの光線が放たれ、あっと言う間に周囲に展開していた戦闘機を全て爆散させてしまった。そのまま地上の戦車やロケット砲システムなども目ざとく見つけると、わざわざルーダー自ら近づいて蹴散らし、踏み潰して回っていった。

「ほらっ、もう大分減っちゃったみたいだけど、まだ抵抗できるのかなぁー?」


「そ、そんな……!」

ルーダーが腰から引き抜いた未知の兵器によって、一撃で戦闘機部隊が壊滅してしまう。
さらには地上部隊も次々と踏み荒らされていく。
避難もまだまだ完了していないというのに……。ただ歩くだけで次々と何万のも人類を虐殺するルーダーにリシェナは怒りを覚える。
ルーダーはリシェナの予想を遥かに超えて頑丈で、素早かった。

「でも嫌がってたし、攻撃は効いている……? さっきの兵器を使われないように密着して!」

第一隊は早くも全滅してしまったが、リシェナは巨体を相手にまとめて撃破されないように戦力を分けている。
今度の戦闘機部隊は先ほどの反省を活かし、ルーダーの至近距離で飛び回って爆撃を繰り返していた。
リシェナは油断している今がチャンスだと思っているようだが……。


「んー、まだまだ追加の部隊は出せるってことね。それに、思い切って接近してきたり、意外と考えて動けるのね。」

と、ルーダーは敵に感心したそぶりをみせつつも、今度は1機1機的確に狙いを付けて拳銃の光線を発射し、またも戦闘機の数を減らしていった。

「それでも、一気に全滅しなかっただけの違いしかないけどねー。」

こうして増援の戦闘機部隊も全滅させたルーダーであったが、予想以上に健闘する軍隊に少し興味が湧いてきた。そこで軍の統制システムにハッキングを仕掛け、司令官を務めているのが天才的な頭脳を持つとの評価が高いリシェナであることを突き止めると、リシェナの乗る指揮車両の元へ一直線に都市のビル群や逃げ惑う人々を踏み躙りながら詰め寄り、車両ごと潰さないように摘み上げた。

「天才司令官のリシェナちゃーん♪怖がらないで顔を見せて〜。私とちょっとお話しましょう?交渉ごとも司令官のお仕事でしょ〜?」


「ま、また全滅……」

ルーダーからすれば人類にしては善戦している、という評価。
しかしリシェナからすれば手も足も出ず蹂躙されている気分だ。全く歯が立たない。
天才的な頭脳もあって何度も何度も攻撃を当てているのだが……、本来なら敵軍は壊滅しているはずだが……素肌に何度も爆撃を受けているルーダーに人類の兵器は何一つ効いていなかった。

「まずい、退却!」

ルーダーがこちらを視認したことに気づき、急いで退却の指示を出すリシェナ。その指示は間違っていない。その判断の速さは褒められるべきだ。
しかし、ルーダーは『ただ歩く』だけで追いつくことができる。彼女は何も特別なことをする必要もなく、ただ歩いて指揮車両を拾い上げるだけでいいのだ。

頭上から降り注ぐ声に震えながら、車両からルーダーの手に乗り移るリシェナ。
内心恐怖に潰されそうになりながらも、軍の代表として気高い姿勢を作り直す。

「こ、交渉だと? 何が望みだ侵略者!」


「あー、そんなに身構えないでよ♪私はこの星を遊びに使う。あなたは虫ケラ共をできるだけ守るのが使命。そんな私達2人がお互いに得するWIN-WINなお話よ。この大都市をグッチャグチャに破壊して、ついでに虫ケラ共もいっぱい巻き込んであげたけど、もっと面白い遊び方をしてみたくなったの♪どんな遊び方だと思う?」

自分の手の上に乗り、生殺与奪も完全に握られた状態でありながらも決しておびえたりはせずキッと自分に目線を向け続けるリシェナはもったいぶらず早く言え!と口に出さずとも言っているようであった。

「見ての通り、私が自分で遊んじゃうと都市はあっという間にめちゃくちゃで、虫ケラも勝手にどんどん減っちゃうでしょ?そこでー、天才のリシェナちゃんが虫退治するとこを私が観察するってのはどお?私は見てて楽しーし、リシェナちゃんは私の代わりに虫退治って言っても、私と同じペースでは無理なんだから、私がやるよりは結果的に虫さん達が大助かり!ね!みんな得しかしない超お得チャンスでしょ!」


「得……?」

有効打を与えられないリシェナは耳を貸したが、それは聞くに堪えないもの。
(人類同士殺し合えだと?ふざけてる!)

激情するリシェナ。生死与奪を文字通り握られている状況だが、そんなことが頭から抜け落ちるほど。

「馬鹿にしないで!イントゥルーダー、そんなことしなくても直に貴女は倒されるんだから!」


「ふーん。天才って言われてる割に、算数もできないんだー。」

ルーダーは手のひらをほんの少しだけ傾けリシェナが必死でうずくまって耐えているのを見ながら傾けた先に広がるまだ無傷な大都市の立派な超高層ビル群を思い切り踏み潰して見せた。大勢の人々が巻き込まれて命を落としたであろうことがリシェナにも嫌と言う程伝わったが、そのまま間髪入れずに脚を思い切り横滑りさせ、建ち並ぶ高層ビル群をダース単位で薙ぎ払って見せた。

「私が遊ぶとー、こうやってー、秒で1万匹の虫が死んでくんだけどー、この方がリシェナちゃんがやるより虫ケラさんいっぱい助けられるってことー?」

ルーダーは文節ごとに、隣の区画の高層ビル群に無遠慮に突っ込んだ脚での薙ぎ払いを仕掛け、リシェナの計算がいかに的外れかをわからせてあげるのだった。


「きゃっ!」

何か馬鹿にされた瞬間大地が傾いた。これでも加減されたものだったが、リシェナにとっては天変地異の如く蹲って耐えることしかできない。

「……え、あ、やめっ」

視界に写ったのは長くキレイな脚がビル群を一瞬で、次々と薙ぎ払っていく光景。
今までのルーダーがいかに攻撃していなかったのかがよくわかる。ルーダーの言うことが正しいのは一目瞭然だった。

「待って!攻撃するから!……全軍、避難民を攻撃して」

その指示により、人類を守るはずだった兵器が民間人を爆散させていく……。


「おー、兵隊虫さんの虫ケラ退治だー。ついさっきまで助けに来てくれたはずの兵隊さん達に銃向けられて、撃たれて、あっ、こんな表情するんだー。おもしろーい♪」

ルーダーはしゃがみ込んで手のひらを少し傾けたままにして、リシェナにも指揮下の部隊が引き起こす地上の爆炎や虐殺の様子が良く見えるようにしながらケラケラと笑いながら語りかける。

「ねーリシェナちゃん。さっき撃墜しちゃったけど、近くの基地に戦闘機とか戦闘ヘリとかまだ余ってるんでしょー?どーせならそういうのも見せてよー。あと、戦車や装甲車で虫さんどのくらいぺっちゃんこにできるかとかさー。私と比べてどうなのかってやって見せてよー。」


「……わかった」

バレているなら仕方ない、と再度軍隊に指示を出す。最終的にルーダーを倒す必要があるので全てではないが……。

「……ごめんなさいっ、まずは戦闘機」

戦闘機が市街地に絨毯爆撃を行い、軽く数百人の犠牲者を生み出した。ルーダーからすれば数センチほどのエリアが順に光るだけのちっぽけな破壊だったが。

「次は戦車」

戦車に列をなして避難民の密集地帯に突っこませる。
おびただしい人を轢き殺しながら、一台で百人ほど轢き潰すとキャタピラがゴミで動かなくなった。

「……これで満足!? ほら、やったんだから約束は守ってよ!」

リシェナは涙を浮かべながらルーダーに訴えかける。


「うわー、リシェナちゃんの兵隊さん結構頑張るねー。私が手でぺーん!って1回やる分くらいは街が吹き飛んだし、戦車の通った跡、ホラホラ見てよ、虫さんのぐちゃぐちゃ肉がズベーッ!って模様になっててウケるよねー。」

ルーダーは戦車隊が避難民の群れを轢き潰して通り過ぎた大通りの地表スレスレまで手を近づけてあげた。リシェナの目にはかろうじて必死で逃げようとした親子連れらしきモノが映り、鼻には人が潰された直後の独特の刺激臭が突き刺さった。

「約束…?うん、だから私はさっきから自分では都市壊してないよ?今踏んづけたとこだって、さっきリシェナちゃんの兵隊さんがお掃除してくれたばっかりのとこだよ♪リシェナちゃんせっかく面白いとこなのに、なんでこれでおしまいみたいな空気出してるの?」


「うっ」

目の前のグロテスクな光景と臭いに胃酸が込み上げてくるが、ここで吐いた時のことを想像し何とか堪える。
一刻も早く離してほしいがルーダーは全く気がついていないようで……。

「でも、どれだけやれとは言われてないし……ひっ、ご、ごめんなさい……」

ルーダーの不機嫌を隠さない問いかけにリシェナは心底震え上がる。

「ほら、もう一度繰り返して!」

再び軍隊に民間人を攻撃させるリシェナ。

何度か繰り返し、犠牲者を数倍に増やして……

「どう?貴女の言うとおりやったわよ! これだけやれば文句ないでしょ!」


「ペース的にはやっぱりのろのろ〜だけど、兵隊虫さんの虫ケラ駆除面白いねー。うーん、確かに同じ兵隊虫さんの観察ばっかりだと飽きちゃうかも?あ、そーだ!リシェナちゃん直々に虫けら退治して見せてよー。特別にコレ貸してあげるね。」

ルーダーがそう言うと、先程戦闘機隊を撃墜した拳銃そっくりな銃が、ルーダーの手のひらの上に乗ったリシェナの足元にコロンと人間用サイズで転がっていた。

「退治したい虫の大体の方向に向けて引き金引けば、勝手にマルチロックオンして黒コゲにしてくれるよ♪」


「わ、わかった」

初めて見る形状の銃を拾って構える。目の前の軍隊を撃つわけにはいかない。必然的に逆サイドの避難民に向かう。

「済まないとは思っているが、避難が遅かった自分たちを恨め」

一発だけならと引き金を引いたリシェナだったが、その銃は人類にはあまりにも高性能で、放たれた光線が数千に分割して人々を燃やしていく。
車で逃げていようと、建物に隠れていようと、地下に隠れていようと、皆身体を貫かれてリシェナに黒こげのゴミにされてしまったのだった。


「リシェナちゃん上手いねー!ひょっとして虫退治いつもやってるんじゃないのー?」

一発だけと意を決して引き金を引いたものの想像以上の威力と性能で、本来守るべき大勢の人々を燃え残りのゴミに変えてしまったリシェナの手から拳銃が転げ落ちたが、ホログラム状に「4,289」と大きく空中投影された数字が嫌でも彼女の目に入ってくるのであった。

「おー!秒で4,289匹退治とか、私の半分くらいはできちゃったねー。流石天才さんだー♪」


「そ、そんなつもりじゃ、だって、貴女がやれって言うから……うっ、うっぷ……」

濃厚な死の臭いと度重なるルーダーからのストレスで、思わず胃の中のものを出してしまったリシェナ。勿論、そこがルーダーの手の上なのは語るまでもない。
吐いてスッキリしたのか、リシェナは逆ギレ気味に叫びだして銃を構える。

「はあ、はあ、そうよ!元はと言え貴女のせい!遊びで渡した武器で殺されちゃえ、マヌケ!」

先程大量虐殺を尽くした銃を、今度はルーダーに打ち込む。
先ほどと同じようにその動作には何の問題もなかったが……。


「リシェナちゃん算数できない子だったけど、理科もわかんない子なんだねー。リシェナちゃんは敵の虫ケラと戦う時に虫除けスプレー…ってか香水ってとこかな。それを吹きかけてやっつけましょー!って兵隊虫さん達に教育でもしてんの?それで私が死ぬわけないじゃん…」

銃からは人々を黒コゲにした時と同じ熱量を感じる光線がルーダーへ向けて間違いなく放たれたが、どれだけ打ち込んでもコゲ目の一つも付いている様子がない。リシェナの反逆にルーダーが見せた反応は怒りではなく、やれやれ…と言わんばかりの冷めたあきれであった。


「くっ……」

小学生の頃に世界一の大学を首席で卒業したリシェナにとって、こんなことで馬鹿にされるのは屈辱的だった。
だが、呆れられたことで若干興味が薄まった気がした。リシェナはここから逃げ出そうと、ヘリコプターに手の上まで来てもらおうと連絡するが……


「あれ?何勝手にどこか行こうとしてんの?」

リシェナの命令に応じてルーダーの手のひらの上までやって来たヘリであったが、さっともう片方の手で払いのける動作で実にあっけなく爆散してしまった。

「軍の天才司令官さんがこーんなおバカさんじゃ、いざって時に兵隊虫も虫ケラ達もたーくさん無駄に犠牲になっちゃうよねー。かわいそーだから私が特別に補習授業してあげるねー。おバカさんには実験で実際に何度も経験してもらうのが一番いいので、その銃のエネルギーが虫ケラにとってどのくらいの物か、何回でも実験して覚えてみようね♡」

するとルーダーは途中に広がる高層ビル群を踏み潰して、わざわざ避難民が殺到しているターミナル駅に近づくと、避難民でぎゅうぎゅうな電車への理想的な射撃位置にリシェナを乗せた手のひらをピタっと固定し。

「はい、足りなかったら他の虫ケラがうじゃうじゃしてる場所にいくらでも連れてってあげるから、じゃんじゃんやってみよ?あと、学習意欲が無いようだったら流石に手に負えないから、その時は…司令官さんの首をすげ替えるしかないよね?」

その台詞をリシェナは自分の背後に迫るルーダーの人差し指の圧を感じながら聞くのであった。


「くそ、あとちょっとだったのに……」

目の前であっさりと片づけられてしまう避難用のヘリ。あと少しで逃げられたのに……。

自らの天才的な頭脳を大きいというだけで馬鹿にし、射撃位置へ移動するだけで途方も無い犠牲を出すルーダーにリシェナは我慢ができない。
軍隊に向かって再びルーダーへの攻撃指示を出す。

「脅したって無駄よ!そんなにこれを試してほしいなら貴女で沢山試してあげる! 殺虫剤だって沢山喰らえば毒でしょ!」

リシェナは振り返ってルーダーに向かって連射しようと……


「ふーん、じゃあ順番変更して、そのエネルギーが私にとってはどうなのかをいっぱい実験していーよ。ホラ、サービスでお腹に手のひらくっつけてあげるから、そこで思う存分撃ってみたらー?」

そう言うとルーダーはわざわざ上着をめくり、リシェナを乗せた手のひらをその中に入れてあげたのであった。

「てか、いっそ乳首でも狙ってみたら?これで弱点隠すなー!とか言わないよねー?」

リシェナが妙に奮起しているようなので、下着をもズラして乳首を露出させるとそこに手のひらを密着させ、ルーダーは反応を待つのであった。


「はあっ!?ふざ……」

思わず罵倒しそうになったが、千載一遇のチャンスにぐっと堪える。
手に持っているこれが一発で数千人を消し飛ばす恐ろしい兵器だということはリシェナがよく知っている。それを受け続けられるわけないだろう、とリシェナは考えていた。

「ふーん、そんなに言うなら私が止める前に耐えられず動いちゃう、なーんて事ないよね?」

途中で止められたりしないように念を押して。リシェナは銃を構える。

「死ね!」

そして嫉妬するほど大きな胸の先端に向かって何度も何度も引き金を引いた。


「あ、もうやってた?上着被せて見えなくしたら、いつ撃ち始めたのかわかんなくてさー。」

リシェナが何度引き金を引いたか、もうわからなくなった頃、突如手のひら全体を覆うように被せられていた上着が捲くられ、上から覗き込むルーダーが本当に何も感じられなかった様子で聞いてきた。

「その様子だともう軽く10回以上撃ってるよね。じゃあ次はそれと同じだけのエネルギーを虫ケラ共に照射してみよー♪」

ルーダーは再度リシェナを避難民でいっぱいの、何本もの路線が乗り入れるターミナル駅の電車が見やすい位置に連れていき、にこにこ笑顔で促すのであった。


「え、嘘……」

10回などでは収まらないほど乳首を撃ち、眩い光で目が眩むほどだったというのに効いていない……?

「だ、誰が同じ人類に向かって撃つものですか!」

頭上を埋め尽くすほど巨大な笑顔に見下されても、リシェナは決して動く気はない。


「あ、コレはお気に召しませんと。ならWIN-WINの関係はおしまい。仕方ないので私がこの虫ケラうじゃうじゃ駅は速やかに叩き潰してあげまーす♪」

言うやいなや、もう片方の手でターミナル駅を叩き潰し、そのまま何本もの電車を握りつぶし、車両と人間だったモノがグジュグジュに合わさった赤黒いモノがルーダーの指の間から溢れ出て来るのをリシェナにこれでもかと見せ付け、何万人もの人々を挽き潰し。

「じゃ、他の虫ケラいっぱいいるとこにどんどんご案内しますねー。気に入らなかったら何回でも私が処分してチェンジしますので、遠慮なく言ってくださいねー。」

言いながらまた街のビル群を踏み潰して移動し、軍に誘導され人命優先で大量の避難民が乗り込み、離岸しつつあるすし詰め状態の豪華客船のすぐそばに手のひらを差し出し、リシェナへ発砲を促すのであった。


え? などと呟く暇もなく、横から伸ばされた綺麗な手が一瞬で更地と肉の山にしてしまう。
ぶつかるんじゃないかと思うほど近づけられたその懺状に

「うっ────」

全く耐えられずに再び胃の中のものを吐瀉してしまう。

「う、撃つ、私が撃つ……!」

先のことを思い出し、ルーダーにさせてはいけないと銃を構える。
少しでも生き残ってくれるようにロックを甘めにしたのがバレないといいが……


「お、こちらはお気に召しましたか♪」

大虐殺の引き金を引かせたにもかかわらず、まるで親切丁寧なサービスを提供したかのように振る舞うルーダー。リシェナは少しでも犠牲が減ることを願い、狙いを曖昧にして引き金を引いたが、無自覚の内に震える手で構えた照準が豪華客船全体を一度なぞっており、放たれた無数の光線がただの1人も逃さず貫き、黒コゲ死体へと変貌させ、豪華客船そのものも火だるまに変えてしまったのだった。

「わー、凄い!一発で23,752匹退治♪船もメラメラ燃えてて、リシェナちゃんはこーいう派手なのがお好みってことー?こーいうの後10回以上かー、虫ケラでいっぱいの空港とか、満員のスタジアムとか?頑張って探すけど、気に入らなかったら私がすぐ処分してあげるからねー♪」


「あ、あ……」

目の前で燃え尽きていく豪華客船。仮に引き金を引かなかったとしてもどうせルーダーが皆殺しにしていたのだと、自分に言い聞かせるしかなかった。

「も、もうやめて、確かに私は沢山撃ったけど、でも、効かなかったじゃん! だから、もう終わりで……」
「この銃がとても強いことも、でも貴女の乳首には全然通用しない武器だってことも分かったから……」


「リシェナちゃん頭大丈夫?虫ケラに撃った時と私に向けて撃った時を比較して実験になるんだから、私に10回以上先に撃つことにしたのリシェナちゃんでしょ?もう撃っちゃったんだから、それだけのエネルギー量を虫ケラが受けたらどうなるかちゃんと見届けるまで補習は終わらないよ?いい加減な勉強方法で知った気になってるのが一番いけないんだよ?それとももう学び直せないくらいおバカになったって認めて、首すげ替えがいいの?」


「そ、そうだね、私が間違ってたみたい。撃つよ、撃つから!」

天才であったリシェナの煮え返るような怒りを、背後から感じる死の恐怖が上回った。
先程までとは信じられないほど縮こまって銃を構えるリシェナ。


「リシェナちゃんやる気になったみたいで嬉しいー。リシェナちゃんはやればできる子だもんねー。じゃー、せっかくだから天才司令官の名誉挽回チャーンス!この星って群雄割拠状態なんでしょー?勉強ついでに敵対勢力の虫ケラ掃除させてあげよー。リシェナちゃんがぶっ潰した方がいいと思ってる国に連れてってあげるから、私に撃った分だけ撃っていいよー。」


「え……」

思ってもいなかったチャンス。
もはや地に落ちた名誉も、他国を一掃できれば何とかなるか……?
勿論遥かに賢いルーダーの口車に乗せられただけなのだが。

「じゃ、じゃあA国でお願いします。あの国軍事力が高くて……」

少し迷ったあと、世界有数の大国を指名するリシェナ。


「なら私の船にも乗せてあげるねー。A国で攻撃されたらダメージ大きそうなとこ遊覧飛行するから、天才司令官のリシェナちゃんがここぶっ潰そ!って思ったとこで撃ってみて!」

こうして急遽大国のA国攻撃をすることになったリシェナ。主要軍事基地や重要な産業地帯などを出来る限りのマルチロックオン発射で焼き払い、そこにいたA国の人々を大量虐殺したのだった。


「は、はいっ」

重要施設を狙って引き金を引くと、何もかもがあまりにも呆気なく焼払われていく。
長年のライバル国家がただ引き金を引いただけで壊滅してしまったのだ。

「あの、私馬鹿なのでこれだけ撃ってもわかりませんでした。だからイントゥルーダー様直々に人類と偉大なるイントゥルーダー様の差を教えていただけないでしょうか?」

次の敵国であるB国を指さしながら頭を下げてお願いするリシェナ。


「いーけど内政干渉はしないから、リシェナちゃんのB国攻撃を私が請け負って攻撃って形でいーい?」

ここに来て妙な条件提示を受けるが、こんな凄まじい力を利用しない手は無い。民間軍事会社に委託するようなものだろうくらいのつもりで二つ返事の依頼をするリシェナ。

「じゃー、B国で遊んじゃうねー。リシェナちゃんはここで見てていーよ。」

その後、B国の首都である大都市にルーダーが降り立ち、つい先程リシェナの祖国がそうされたように凄まじい蹂躙が行われ、立派なビル群は次々にズタズタになり、逃げ惑うB国民達は容赦なく虐殺され、立ち向かったB国軍もルーダーに返り討ちにあうのを眺めていたリシェナ。A国に続いてB国も甚大な被害を被り、自国の優位は間違いないと思っていたのも束の間。

「んー、虫ケラで遊ぶのも今日はもういいかなー。今日B国と、あとA国が攻撃されたのは全部リシェナ司令官の企てで、私はそれを受託してやっただけだから、虫ケラ同士の外交はリシェナ司令官宛でよろー。」


「え、あの、イントゥルーダー様?そんな……!」

呼び止めることもできずに自国に放り出されるリシェナ。

「なんとかしないと……」

外交で解決を試みるもすぐに戦争になってしまい、ルーダーにずたずたにされた軍事力で戦うことになってしまったリシェナ。
それでも持ち前の頭脳を活かして互角の戦いを繰り広げ、戦いは数年に及んでいた。

「あいつさえ居なければ……イントゥルーダーさえいなければ今頃私がこの星の支配者になってたのに……」
「協力してくれたと思ったのに、どうして途中で居なくなったんだ役立たず!」

その全世界から敵視されているリシェナの国は世界から孤立していた。
その時空に見覚えのある巨大宇宙船が現れたのですかさず近づくリシェナ。

「イントゥルーダー様っ、お久し振りです、リシェナです!もう一度イントゥルーダー様のお力をお借りしたいのですが……」


「リシェナちゃん久しぶりー。やっぱり虫ケラ同士の争いになってるねー。今日はそれ見に来たからさー、ほら頑張れ頑張れ♪」

リシェナの願いなど、どこ吹く風な様子で巨大宇宙船からただリシェナ達人間の軍隊が戦争しているのを眺めているルーダー。


「あ、あの、イントゥルーダー様……」

返事を返してくれない彼女に対して、徐々にイライラが募ってきて

「も、元はと言えば貴女のせいで!」
「……あ、さては怖いのかな? この数年で進化した私達の科学力にかかれば貴女なんてイチコロだもんね!ちょっと前の軍隊を圧倒したからって、今の私達の『戦争』に巻き込まれたらあっという間に死んじゃうもんね?ふふ、悔しかったら敵国を滅ぼして証明してくださーい!」


「リシェナちゃんって本当に頭悪いんだねー。そんなおバカさんと敵国の泥仕合なんて面白くないもの見るのは遊びじゃないよねー。という訳で絶滅しちゃってよー。」

そう言ったルーダーが腰のホルスターから拳銃を抜き、上空から地上に向けて照準を一通り振りかざしてから引き金を引くと、かつて自分が撃って人間を黒コゲにしたあの光線が千倍の太さで、最早数え切れないほど地上に向けて降り注いだのだった。