「ほら、この大都市も私の玩具にしてあげる。結構広いし、玩具をいっぱい作ってくれたご褒美に上級魔法も使ってあげるから、生き延びたかったら頑張ってみよっか?」

巨大化魔法を使った状態で異世界に降り立った少女ティモ・ルブルムは、既にいくつかの街を滅ぼし、再巨大化により人間達の1000倍の大きさとなった状態で、先ほど辿り着いたとある国の首都と思しき大都市へ向けて当然の如く破壊宣言を行っていた。

「あは!まだ軍隊が無駄死にしに来るんだ!こ~んな小さな戦闘機で立ち向かって敵うと思ってるの~?」

これまでに壊滅させた都市でも軍隊の抵抗はあったが、人間達の100倍の大きさの時ですら人類の攻撃はティモに対してほとんど効果をあげておらず、まして1000倍の大きさになってからはティモによる一方的な蹂躙ショーのちょっとした引き立て役となるのが精々であった。
それでも首都が破壊されようとしている今、市民達が逃げる時間稼ぎだけでもしなくてはとの思いで、各地の空軍基地から増援の戦闘機隊が送り込まれていた。

「ほら、頑張って街を守らないとみんな死んじゃうよ?」

戦闘機隊の姿を認めつつもそれらへの攻撃すらせず、むしろ彼らへ見せ付けるように足元の街をズカズカと踏み潰してみせるティモ。こうして喋っている間にも早足で高層ビル群を踏み潰し続けており、一言喋ったわずかな時間の間にも5万人以上の市民達がビル群ごと犠牲になっていた。

「はーい、たった数秒で何万人も死亡~っと♪。お、撃ってきた。やればできるじゃない。あーイタタタタ~♪」

高層ビル地帯の端から端まで踏み潰し終わったティモは、後方に置き去りにしていた戦闘機隊の方を振り向くと、ぐちゃぐちゃになった高層ビル群の成れの果てを見せ付けつつ片手を腰に当てた状態でドヤ顔を決めてやった。ティモの態度に負けるわけにはいかない戦闘機隊のパイロット達は、ティモの顔面めがけて機銃掃射をしかけたが、わざとらしいリアクションを引き出す結果にしかならなかった。

「それじゃあ私も反撃しちゃおっかなー。えい、ファイアボール。」

ティモは機銃掃射後にそのまま一度距離を取ろうとする戦闘機隊目掛け、空中にファイアボールを放ってやった。直径100メートルくらいの火の玉がティモの手のひらから直線状に飛行し戦闘機の近くで弾け飛ぶことで、直撃はしていないにもかかわらず凄まじい衝撃波で機体に大きなダメージを負った戦闘機はそのまま撃墜されてしまった。

「あははっ!初級魔法1発でやられちゃうの?よっわ(笑)」

初級魔法1発であっさり撃墜されるザコ戦闘機など構っていてもあまり面白くなさそうなので、このまま全部撃墜してやろうと次々とファイアボールを放つティモ。パイロット達は限界までエンジンを吹かせ回避を試みるが、1000倍になったティモのファイアボールの衝撃波が及ぶ範囲から逃れることができず次々と撃墜されていた。

「はいおしまいっと。じゃあ蹂躙再開しよっかな。この都市のみんなへお知らせでーす。軍隊のおじさん達が弱すぎたので、これからみんな死んじゃいまーす。きゃ!」

ほんの一時の戦闘機隊との戯れを終え都市の破壊を再開しようとした矢先、ティモの目のすぐ下で爆発が起こり、思わず驚いて声を上げてしまう。爆炎が晴れて周囲を確認するとまだ1機の戦闘機が残っており、これが放ったミサイルが命中したようであった。

(虫けらのくせに何いっちょ前に攻撃してんの!・・・あ、そーだ♪)

一方的に玩具にされるべき存在に一矢報いられたことで不愉快な思いをしたティモであったが、すぐにこの状況を利用したお遊びを思い付き、実行することにした。

「へ~、虫けらの割にはまともに戦える気概のあるパイロットも中にはいたのね。じゃあもう少しだけ真面目に遊んであげよっかなー。そうそう、この都市のみんなは一生懸命このパイロットを応援してあげてね。このおじさんがやられたら、いよいよみんな死んじゃうんだから。」

既に僚機達は全滅していたが、自分が墜とされればこの少女は首都をあっと言う間に破壊し尽くしてしまうだろう。先程放ったミサイルは不意打ちの恰好で顔面の急所近くに命中したはずであるが、少女がダメージを受けた様子はほとんど見受けらなかった。ならばできる限り注意を引き付けることが今の自分が果たせる最大の役割であるとの覚悟で、パイロットはティモへ戦いを挑み続けていた。

「えい、ファイアボール。」

ティモから距離を取る恰好になっていたパイロットへ向けてティモの攻撃が行われたが、ファイアボールが炸裂するまでのわずかな時間で急降下を行い、衝撃波の影響範囲からなんとか距離を取るパイロット。衝撃波で機体が大きく揺さぶられはしたが機体へのダメージは少なく、そのままティモの注意を引く様に飛行を続けていた。

「おー、やるねー。それじゃあファイアボール連発!」

超一流魔法使いのティモにとって初級魔法であるファイアボール程度、連続して放つのは造作もないことであり今度は3発ほど続けて放ってやった。先程よりもパイロットの機体が大きく揺さぶられるがこれも炸裂の瞬間には一定の距離があったため、致命傷には至らなかった。

「これは思ったよりやっかいな相手かも?それなら、よわよわビーム!」

ファイアボールが炸裂するまでの間に距離を開けられてしまうのであればと、ティモは速度の速いビームでの攻撃に切り替えた。パイロットへ向けて放たれたビームはティモの足元に広がる街並みを薙ぎ払いながら襲い掛かった。だが、狙いがズレてしまったのか、機体の僅かに後方をかすめるも撃墜には至らなかった。

「むー、これはイージーモードじゃないってわけね。よわよわビーム!よわよわビーム!よわよわビーム!!」

ファイアボールの時と同様にビームでも連続攻撃を行うが全て命中せず、ビームが突き抜けた街並みが吹き飛ばされただけの結果に終わってしまう。

「なにこいつ強すぎー!だったらしかたなーい。そーれ、つよつよビーム!」

連続ビーム攻撃でも倒せない相手を前に、ついに上級魔法まで投入しだすティモ。足元のビル群達が幅1キロに渡ってめくり剝がされるように広範囲が吹き飛ばされていく。だが、おぞましい破壊の閃光が通り抜けたあとでも、上空にはまだ無事なパイロットの機体の姿があった。

「つよつよビーム!つよつよビーム!つよつよビーム!!」

パイロットの後を追いかけるようにディストラクションビームを放ち続けるティモ。密集したビル街で行われるそれは、1発ごとに広大な範囲のビル群を容赦なく消し飛ばし、20万人単位の犠牲者を容易に幾度も生んでいたのだが、それでもパイロットの命だけはいまだに消し去れないでいた。

「あっはは!このパイロットつよーい!みんなー!さっきから巻き添えで街どんどん消し飛ばしちゃっててごめんねー。」

おかしい。この少女の力であれば自分1機など容易く葬れるはずだ。それに今繰り出している凄まじい広範囲攻撃で、自分を捉えられないはずがないのだ。現に僚機達は今行われてる攻撃に比べればちっぽけな範囲にしか及ばないはずの衝撃波で、的確に撃墜されていくのを見せ付けられたばかりなのだ。もしやと思ったパイロットが、辿り着きたくない結論を導き出しつつあるのに合わせるかのように、ティモが今にも吹き出しそうな顔でこちらを見つめていた。

「あ、わかっちゃった?さっきからあなたが頑張れば頑張るほど、街のみんながたっくさん死んじゃってたんだよー(笑)」

なんということか。少女を倒すことは最早不可能であり、せめて街の人々を少しでも逃がすためと命がけで戦っていたつもりであったが、その真逆のことをさせられていたのだ。ティモの言葉にパイロットは精神が激しく動揺したが、少女の意図がはっきりした以上このまま戦いを続けるわけにはいかない。パイロットは反転し全速で少女から距離を取るため、エンジンのスロットルを全開にした。

「あらら、こっからは追撃戦かな?待て待てー。」

幸い機体への大きなダメージは免れているため、パイロットは最大速度で離脱をはかるが、身長1570メートルのティモから見れば、あくびが出る程の遅さである。付かず離れずゆっくりと歩いて追いかけるティモの眼前に、先ほどディストラクションビームでめちゃくちゃに吹き飛ばしてしまったビル群に代わる、新しい玩具達が見えてきた。

「まだ壊してなかったこの辺の街のみんなも巻き込んじゃうけどごめんねー。こいつ強すぎてさー。と言うわけでー、フレア!」

ついに上級魔法の中でもかなりの威力を誇るフレアまで用いて攻撃をしかけるティモ。だが、やはりと言うべきか、フレアの稲光は最早まるで見当違いの場所を直撃し、そこにあった街と30万人以上の市民を消し飛ばしておきながらパイロットの機体へのダメージは皆無と言ってよい状態であった。

「フッレッア♪フッレッア♪フーーレアーー!」

鼻歌でも歌っているようなリズムで上級魔法を繰り出し、パイロットの進行方向に広がる街を先回りするかのように消し飛ばしてみせるティモ。このままでは基地に辿り着くまでの間に存在する都市が全て消し飛ばされると思い知らされたパイロットは、ついにティモの方向へ180度反転しティモの顔面めがけて体当たりを敢行した。機体がティモに激突し爆散する寸前、パイロットは自分の所属する基地に赴任するため首都に残してきた妻と娘のことが頭をよぎったが、この惨状では恐らくもう生存は絶望的であろうと悟り、家族さえ守れなかったくやしさがこの世で最後に抱いた感情であった。
そしてティモに激突したパイロットの機体が巻き起こした爆炎が晴れると、そこには当然のように傷一つ付かず堂々と立っているティモの姿があった。だが明らかにダメージを受けていない表情のティモが全く予想外の行動に出る。

「うわ~、決死の自爆攻撃で凄い威力だ~。」

ティモはあからさまな棒読みでそう言うと、フレアの被害をまだ受けておらず街並みが残っている地域の方角を向き、思いっきりニヤけ顔を見せてからジャンプして無傷の街並みへ尻もちを叩き付けてやった。ティモの渾身のヒップドロップはその下にあった街を圧し潰したのは当然のことながら、周囲の街並みも同心円状に吹き飛ばし、またしても15万人ほどの人々を犠牲にしてしまった。

「いやー、凄く強い虫けらだったねー。最後の最後まで街のみんなを巻き込んじゃったー。みんな恨むなら私じゃなくて、私がここまで本気で遊ばないといけないくらい強かった、あの虫けら君を恨んでねー。」

(なーんてね。もしかしてあの虫けら、途中まで私と勝負ができてるなんて思ってたのかな?そんなわけないのに、ばっかみたい!)