「風夏姉!今日のライブもすっごい良かったね!」
「ええ、そうね。遠征して来た甲斐があったわね。」

興奮冷めやらぬ様子で姉の風夏に話しかける冬乃。仲良し姉妹の二人は今日、大人気女性アイドルのライブを観戦するため、地元から遠征して横浜アリーナまでやって来ていた。

「ああー、麗香ちゃん最高!今日も輝いてたー。」
「ふふ、次のライブも一緒に行きましょうね。」
「もっちろん!次のツアーがもう今から楽しみだよ!」

大好きな女性アイドルのパフォーマンスをベタ褒めする冬乃。ライブの感想を語り合いながら駅へ向かう二人の様子は、とても微笑ましいものだった。

「ねぇ、次のライブはツアーでしょ?だったら前乗りして、きゃ!」

楽しそうに話しかけていた冬乃が急に驚いた声をあげる。家路を急ぐ男性ファンが冬乃にぶつかって来たのだ。

「いたた、ちょっと、気を付けてくれませんか?」
「なんだよ、トロトロ歩いてるのが悪いんだろ。急いでんだよ。」

ぶつかってきた男性ファンは謝りもせず足早にその場を立ち去って行った。

「ひどい・・・ねぇ風夏姉。アレ、やっちゃってよ。」
「えぇ?そんなに痛かった?」
「別に痛くはないけどさ、ぶつかっといてあんな態度許せないじゃん!それとも風夏姉はあんなのの肩を持つの?」
「別にそういう訳じゃ…そうね、やりましょうか。」
「やったー!久しぶりだしバーンとやっちゃおうよ!」
「じゃあちょっと離れててね。」

冬乃は風夏から30メートル程離れた場所へ駆けていき、姉に大きく手を振って問題がないことを伝える。
冬乃のその様子を見た風夏は、目を閉じて全身に力を込めた。すると風夏の体が見る見る大きくなっていき、巨大化した足は風夏のすぐ近くにいたライブ帰りのファンを巻き込んで圧し潰し、さらに歩道からはみ出た足は、道路を走っていた路線バスを横転させてしまった。

「はい、巨大化完了ね。冬乃ー、こっちにおいでー。」
「今行くね風夏姉ー。」

突如として身長165メートルに巨大化した風夏の周辺に居たファン達は慌てて駅の方に逃げ出そうとするが、パニックのあまり転倒者や将棋倒しがあちこちで発生してしまい、避難は中々進まないでいた。
そんな周囲の様子は気にも留めず風夏のすぐ傍までやってきた冬乃は、しゃがみこんだ姉が地面にぴったり付けた手のひらに乗り、それを確認した風夏はゆっくり慎重に手を持ち上げ、胸のポケットに手を近づける。
風夏の胸のポケットには、コインポケットのような小さなポケットが付けられており、冬乃はその中にちょこんと入り込み、ポケットの縁に手をかけて外を覗きこむ体制を取る。

「風夏姉、準備できたよー。じゃあさっそく足元のキモイ男共を踏み潰しちゃおうよ!」
「そうね、冬乃にひどい態度取ったような人達だもんね。」

そう言うと風夏は自分から遠ざかろうとして逃げ出す男性ファン集団にあっと言う間に追いつき、その真上に足を振りかざす。

「あなた達のお仲間は可愛い妹にぶつかっておきながら、謝りもせずそれどころか悪態を付いて妹を傷つけました。そんな人達がどうなるか、もう分かりますよね。」

風夏に今にも踏み潰されそうになった男性ファン集団は、恐怖で腰が抜け逃げることもできず、そもそもぶつかった云々と言われても何のことだかわからなかったが、ひたすら謝罪と助命の言葉を並び立てる。

「今更謝っても遅いです。」

風夏は彼らの命乞いに全く耳を貸さず、容赦なくパンプスを踏み下ろす。
歩道には男性ファン達の成れの果てが汚くこびり付いたが、風夏は顔色一つ変えず別のファン集団を同じように歩道上の汚物に変えていった。

「あっ!風夏姉!あっちの集団がホテルの中に逃げ込んじゃった!逃がさないで!」

路上にいると危険だと判断した一部のファンは、たまらず付近にあった円柱の形が特徴的な超高層ホテルに駆け込んだ。

「え、でもあの中には冬乃を傷つけた人達とは関係ない人達が大勢…」
「だってさっきぶつかったの、あの中に逃げたかもしれないんだよ!風夏姉は私にひどいことしたようなのが、のうのうと生きててもいいって言うの?」
「そうね。わかったわ。」

冬乃の説得をあっさりと聞き入れた風夏は、自分よりも少しだけ背の小さい超高層ホテルに近づくと、どうやって中に逃げた人達を処分しようか考える。

(冬乃はああ言ったけど、逃げた人達だけ処分すればいいから…そうだ)

考えがまとまった風夏は、パンプスを1階の入り口の中に思いっきり蹴り入れて、1階~3階の辺りをかき回し蹂躙する。

(これでさっき逃げ込んだ人達は助からないはず…)

上の階の一般客は生かしてやりつつ、妹を傷つけた許し難い連中を処分することができた。しかし風夏がそう思ったのも束の間、最下層の基礎と柱がメチャクチャに破壊されたホテルはその自重を支えることができず、爆破解体された様に崩れ去ってしまった。

「おお~、風夏姉やるね~。さっき関係ない人達が~なんて言ってた割には皆殺しにしちゃったじゃん!」
「え、そんなつもりはなかったんだけど、こんなに簡単にビルが崩壊しちゃうと思わなくて…関係ない人達に悪いことしちゃった…」
「そんなの別にいいじゃん!それより早くしないと私にひどいことした連中が逃げちゃうよ!」
「そ、そうね。逃げた人達を追いかけましょうか。」

冬乃に急かされた風夏は逃げる男性ファン達を最後尾から踏み潰しつつ、駅前の広場に足を踏み入れる。

「まだこの辺にいっぱいいるよ!どんどん踏み潰しちゃお!」
「そうね。さっきのひどい人を早く潰さないとね。」

駅前は風夏から逃げてきた人達で溢れかえっていたが、風夏はこれ幸いと固まっている人達を狙って次々と足を踏み降ろす。
駅前広場は悲鳴と怒号が響き渡る狂乱状態に陥ったが、風夏が逃げ惑う人達を残らず踏み潰したことで、血と肉片が一面に広がる静寂に包まれた墓場と化した。

「風夏姉あっち見て!駅前のバスターミナルから逃げちゃうよ!あそこ踏み潰して!」

風夏が妹が指を指す方向を見つめると、駅前の巨大バスターミナルの方に逃げた人々が我先にと停車していたバスに駆け込んでいた。
遥か高みからよく見ると、バスの入り口で僅かなスペースの権利を巡り殴り合いを始める者はいるわ、乗車しようと逃げてきた人を置き去りに急発進するバスはあるわで、収集の付かない混沌状態であることが見て取れた。

「うわ、醜~い。ここにいる奴らみんなさっき私にぶつかって来たのと一緒じゃない。風夏姉、こんな連中逃がしちゃダメだよ!」

誰も彼も自分のことしか考えず、自分のために平気で人を傷つけている。そんな光景を目の当たりにした風夏は妹の言うことが尤もだと思い、バスターミナルの蹂躙を開始する。まずターミナルの出口に差し掛かっていたバス数台を上から思い切り踏み潰して平たい鉄板に変え、その後逃げ場を失ったターミナル内のバスも1台も残さず踏み潰し、蹴り飛ばして全滅させてしまった。

「やった!悪い奴らはみんな死んじゃったね!あ!新幹線が来てる!風夏姉、次は駅だよ、早くしないと逃げられちゃう!」

冬乃の言葉通り、新横浜駅には丁度新幹線が上下線共にホームに滑り込んで来ており、いち早く逃げ出したファン達がこの地獄から脱出しようとして、我先にと人を押しのけ駆け込んでいる様子が見て取れた。

「あなた達、逃げられると思っているのですか?冬乃を傷つけた様に、下衆な振る舞いをするあなた達も同罪ですよ。」

風夏は列車が逃げられないように、上下線共にまず1両を駅の高架毎踏み潰す。踏み潰された1両だけを切り離すことなどできない列車は、完全に身動きが取れず風夏の前にその無防備な姿をさらけ出すこととなった。
風夏は残りの車両をどう処分するか一瞬迷ったが、こうしている間にもほかの場所へ逃げ出している連中がいるはずである。そこで風夏は新幹線の車両をできるだけ手早く処分することにした。

「急いでいるんです。さっさと終わらせてもらいますね。」

風夏は1両1両踏み潰していたのでは時間がかかると判断し、車両に向かって思い切り足を振りかぶると、勢いよく蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた車両は凄まじい衝撃で車列全体毎まとめて空高く吹き飛んでしまい、いくらかの距離を飛んだのちに地面に叩きつけられる。着地の衝撃でどの車両も激しくひしゃげてしまい、助かった者は皆無であることは明らかであった。

「次はこちらですね。こちらも手短に済ませます。」

新幹線のホームと車両をめちゃくちゃに破壊した風夏は、在来線の駅に狙いを付ける。こちらにも同様に列車が止まっていることを確認した風夏は、逃がすまいと両手で車両を掴み上げる。

「あなた達もすぐに処分してあげます。」

言うや否や掴み上げた連結で繋がったままの車列を、鞭の様に振って駅のホームに思い切り叩きつける。
全ての車両が衝撃でぐちゃぐちゃに潰れてしまい、中に居た乗客達は衝撃で無残な屍と成り果てる。

「ふう、冬乃。これで逃げた人達は大体片付いたかしら。」
「風夏姉、何言ってるの。駅ビルがあるじゃん!電車に乗る前の連中が中にいっぱいいるって!これもやっつけないと!」
「確かにそうね。でも、駅ビルもやっぱり関係ない人達が大勢…」
「え~、風夏姉今更何言ってんの。さっきの電車だって関係ない人いっぱいいたに決まってんじゃん。それなのに駅ビルの中にいるのは逃がすなんておかしいじゃん!」
「そうね、ここも処分しないとだめね。」

風夏はコンサート会場から逃げてきた人達をうまく処分する方法を考えるが、巨大な駅ビルの中の狙った場所だけを破壊することなど不可能であることは明らかであった。

「関係ない人達には悪いけど冬乃のためなの、この駅ビルも処分しますね!」

そう言った風夏は駅ビルの側面を思い切り蹴りつけ、中に入った脚を豪快にかき回す。ビル内の商店や飲食街があっと言う間にグチャグチャになり、内部構造の大部分を失った駅ビルは轟音を立てて崩落してしまった。

「はい、これでお終いね。冬乃を傷つけたような連中はみんな処分できたわ。」
「風夏姉まだ残ってるよ!新横浜駅には地下鉄があるんだよ!そこに逃げたのもいるよ!」
「え、地下鉄!?いけない、取り逃がすところだったわね。でも地下鉄だなんてどうすれば…」
「簡単だよ風夏姉。ジャンプだよジャンプ!思いっきりジャンプしてやれば地下なんか崩落して埋まっちゃうよ!」
「なるほど、その手があったわね。じゃあ今から飛び跳ねるから、冬乃はポケットの中に入ってしっかり掴まっててね。」

妹の知恵を借りた風夏は取りこぼしがないよう、地面をグッと蹴って大きくジャンプし、駅前の道路に両足で全体重をかけて着地する。

ドオオオオオオオオオン!!

風夏の大ジャンプを受け駅前道路は陥没し、地下構造は全て圧し潰れ、さらに周辺のビル群も衝撃に耐えられずいくつも崩壊してしまった。

「やった!これできっと全滅したよ!風夏姉ありがとね!」
「そう、よかった。だって、冬乃のためだもの。これからもお姉ちゃんが守ってあげるからね。」
「ありがとう風夏姉。大好きだよ!」
「ふふ、私もよ冬乃。」