「風夏姉。さっきのお城良かったね。中も凄く綺麗だったし。」
「ふふ、一日早く来た甲斐があったわね。こうして冬乃と一日観光を楽しめたものね。」

仲良し姉妹の風夏と冬乃は大ファンの女性アイドルのツアー参加がてら、一日前乗りして今回の会場がある名古屋観光を楽んでいた。

「風夏姉と一緒に楽しい一日が過ごせたし、明日はいよいよ麗香ちゃんのライブ本番!こんなに楽しい週末もないよね!」
「そうよね。明日の会場はとても広いし、演出もとても凄いんじゃないかしら。」

冬乃は明日のライブ本番のことを考えて、既にはしゃいでしまっていた。そしてそれにより周囲への注意が少し疎かになっており、自らに迫っていた危険に気付くのが遅れてしまった。

「冬乃危ない!」

一歩先を歩き、姉の方を見ながら横断歩道を渡っていた冬乃の直前を、対向車線からの右折車がかなりのスピードで掠めようとしたのを見た風夏は、慌てて妹の手を強く引き自らの方へ手繰り寄せた。

「きゃ!」

何が起こっているのかわからなかった冬乃は一瞬茫然とするが、姉が暴走車から自分を助けてくれたことを理解し、安堵の表情を見せる。

「怖かった…風夏姉ありがとう。私もう少しで大ケガしてたかも…」
「…あの車許せない…冬乃、お姉ちゃん巨大化するから離れてて。」

風夏の様子を見た冬乃は、姉が本気で怒っていることを即座に感じ取った。こうなった以上これから起こる出来事は容易に想像が付く。姉から距離を取った冬乃は、思わず口角が上がってしまうのを隠せないでいた。

「風夏姉、大丈夫だよ!」

冬乃が声をかけたのも束の間、風夏は即座に巨大化し人間の100倍の巨躯へと変貌した。冬乃はいつもの様に風夏に優しく拾い上げてもらい、お決まりの胸ポケットに入り込む。

「まずはあの車!」

風夏はポケットの中の妹を気遣いながらも、可能な限りの早足で先ほどの暴走車が去っていった方向へ足を進める。幸い対象の車が真っ赤なスポーツカーと目立つこともあり見失うこともなく、信号で捕まっている所へすぐに追いつくことができた。
風夏は周囲にいた他の邪魔な車を気にも留めず踏み潰しながら、暴走車を掴み上げる。

「あなた、もう少しで私の大事な妹にケガをさせるところでしたよ。それが許されないことぐらいはわかりますよね。」

風夏は丁寧な口調ながらも、凄みの聞いた声で暴走車のドライバーに語りかける。

「絶対に許さない!死ね!」

最早怒りを隠さなくなった風夏は握ったスポーツカーを地面に向かって思い切り叩きつけ、メチャクチャに破壊された車の成れの果てを何度も何度も力を込めて踏みつけた。妹に危害を加えかけた許されざる輩を処分した風夏は肩で息をして地面と同化した車をじっと見つめる。

「はぁ…はぁ…逃げられる前にちゃんと殺せて良かった。それにしても一体何なのあんな危ない運転は。」
「いわゆる名古屋走りってやつじゃないかなぁ。来る前にネットで色々調べてたら出てきたんだけど、この辺は危ない運転をする人が多いらしいよ。」

冬乃はスマホの履歴を見ながら、ネットに書いてあった記事を元に説明した。

「つまり、この街にはあんな人が他にもいっぱいいるってことよね。冬乃を傷付けるような危ない振る舞いをしてる人も、それを止めさせない人達もみんな許せない。それを分からせてあげないと…」
(あ、これはもう止まらないかも…)

姉が思い詰めたような顔をしながら呟くのを見た冬乃は、自分の期待する光景が見られると確信し、危ない目にあった恐怖感など忘れ去って、期待を込めた目で姉を見つめる。

「冬乃、できるだけ多くこの街の人達に分からせてあげるにはどこに行けばいいかしら。」
「そうだね、やっぱり人が多いところじゃないかな。って言うと名古屋駅辺りかな。」
「名古屋駅ね、わかったわ。あそこの高いビルがある辺りよね。」

妹の助言を聞いた風夏は、胸ポケットの冬乃のことを気遣いながらも、できるだけの早足で超高層ビルが林立する名古屋駅前へ一直線に向かって行く。先を急ぐ風夏の進路上にあった雑多な建物群は、風夏に特に意識もされず踏み潰され、蹴散らされていった。そうして名古屋駅前の巨大ビル群の間に立った風夏は大きな声で駅周辺の市民に対して呼びかける。

「この街のみなさんにお知らせがあります。つい先ほど、この街の車の危険な運転で、私の可愛い妹が危うく大ケガをする所でした。そんなことを平気でしているみなさんには、突然身の危険が迫るということがどういうことか分かって頂きます。」

高らかに宣言した風夏は、突然巨大な女性が表れ何やら物騒なことを叫んだことで、不安に駆られて逃げ出そうとする大勢の市民達を冷たい目で見ながら実力行使に移る。

「そうね、まずはできるだけ多くの人に、冬乃が味わった恐怖を何百倍にもして教えてあげる。」

風夏はすぐ傍にそびえ立つ、巨大化した自らをも遥かに凌ぐ2本の超高層タワーの方に向き直り、思い切り振り上げた腕をタワー中層部に向けて叩きつける。怒りを込めた風夏の破壊の意思は、一切の加減なくタワー中層部を爆砕した。破壊に巻き込まれて即死しなかったビル内の人々も、100%訪れる自らの死を悟り恐怖で身動きが取れなくなるが、続け様に風夏が両腕で中層部を引き裂く様にビルを破壊したことでビル全体が崩落し、残らず命を落としていった。

「風夏姉凄いよ!風夏姉よりもずっと大きなビルだったのに跡形もなくなっちゃった!」
「ふふ、そうね。でも、まだまだね。もっと分からせてあげないと!」

250メートルにも迫る超高層ビルを渾身の力で破壊した風夏は、続いてもう1本のタワーを思い切り蹴り付ける。先ほどの腕での破壊よりも更に破壊力が増す蹴りのパワーは凄まじく、中層部が一気にへし折れ先ほどよりも少し小さな、しかし200メートルを超えるタワーはあっと言う間に崩れ去ってしまった。

「風夏姉、横にも後ろにもまだまだおっきなビルがあるよ、どんどんやっちゃお!」
「ええ、例え許してって言われても、まだ全然許せないものね。」

駅を構成する超高層ビルがあっけなく破壊されたことで周囲の市民は恐怖で逃げ惑うが、10階建て程度のビルだろうが超高層ビルだろうがお構いなしに繰り広げられる大破壊に次々巻き込まれてしまう。その中には冬乃を危険な目に合わせたような荒っぽい運転を日頃行っていた者もいたが、大多数は違反の一つもしたことがない善良な者達であった。

「うわー、もう駅前一面ガレキしか残ってないね。久しぶりに見ちゃったね、風夏姉の大都市での大暴れ!」
「これで少しは分かってもらえたかしらね。ただ、ここだけじゃ足りない気もするの。他にもいい場所はないかしら。」

駅前一帯をガレキと死体の山に変えた風夏だったが、妹が危ない目に合わされて昂った感情はまだ収まらないでいた。

「ちょっと待ってね調べてみる。…あっ!今日ドーム球場で試合やってるんだって!きっと地元のファンでいっぱいだよ!」
「調度よさそうね、それじゃあ早速そこに行きましょう。」
「えっと、方向はあっちだね。さっきのお城があった方のちょっと右かな。」

妹の案内を受け、風夏はドーム球場の方角へ真っ直ぐに進んでいく。進路上にはオフィス街が広がり、100メートル近い高層ビルもいくつか点在したが、全く避ける素ぶりも見せない風夏は邪魔なビルを次々と蹴り崩し、一直線に破壊の痕跡を残しながらドーム球場に接近する。

「着いたね風夏姉。でも、屋根が邪魔で中が全然見えないね。」
「この中に居る人達には全員冬乃がどんなに怖い目に遭ったかわかってもらわないといけないし、まずはこの屋根は片付けておきましょう。」

風夏は早速中にいる人々が良く見えるように、屋根に手をかけて引き裂き剝がしていく。ただし、屋根の崩落で大量に殺してしまっては恐怖を味合わす目的があまり達成できなくなってしまうので、なるべく屋根が中に崩れ落ちないように、剥がした屋根は周囲に放り投げて視界を良くしていった。

「うわー、満席じゃん!凄くいっぱいいるね!」
「この人達にもたっぷりと分からせてあげるわ。」

球場の中に居た人々は突如ドームの屋根が巨大な人間の手で次々破壊され、開けた天井から自分達を巨大な女性が見つめているという非現実的な光景に驚き急いで逃げようとするが、出口に人が殺到したことで避難はほとんど進まなかった。

「あ、みんな逃げようとしてる!風夏姉、早くやっちゃおうよ!」
「あなた達を逃がすわけないでしょう。みんなここで死ぬのよ。」

風夏は人々が押し合いへし合いになっている客席に容赦無く足を踏み入れて踏み潰し、また足を地面に付けたまま左右に動かして一気にすり潰していった。

「凄い!こんなに人がいっぱいいるのに、どんどんグチャグチャになってる!この中に居る人達、きっと怖いんだろうなー。」
「ふふ、そうね。自分の死が避けられないってどんな恐怖にも勝るはずだものね。でも冬乃があんなにひどい目にあったことと比べたら、ここにいる全員殺してやっと釣り合うくらいよね。」

風夏による虐殺は、目に映る範囲から動くものがいなくなりようやく終わりを告げる。

「やったね風夏姉。これでこの街の人達も危ないことをして人を怖がらせたりしたらいけないってわかってくれたよね!」
「ええ、そうね。じゃあ冬乃、これぐらいでいい?」
「うん、もう大丈夫。じゃあホテルに帰って明日の麗香ちゃんのライブに備えて…って、ああ!明日のライブ会場ってここじゃん!」
「えっ!?あ、そう言えばそうだったわ!ど、どうしましょう。」
「うーん、やっちゃったものはしょうがないよ風夏姉。明日のライブは見られなくなっちゃったけど、麗香ちゃんのライブツアーは来週もあるし、それより風夏姉が私のために怒ってくれたことの方が嬉しいな。」
「ありがとう。明日のライブ楽しみにしてたでしょう。それなのにそう言ってくれる優しい冬乃のこと、お姉ちゃん大好きよ。」
「私もー!」


中止になったライブを惜しみつつも帰宅してTVを付けてみると、やはりTVはどの局も特別報道番組で壊滅した名古屋の様子を伝えていた。

「…お伝えしております通り、本日午後に突如として現れた巨大な女性によって名古屋市内は壊滅的な被害を被っております。現場では崩壊したビル内に生き埋めになっていると思われる人々の救出作業が行われておりますが、市内が大規模に破壊されており、救助は難航を…」

TVからは風夏が壊滅させた名古屋市内の惨状を伝える映像とリポーターの声が繰り返し流される。

「…今回現れた巨大な女性は以前にも新横浜など、別の都市を破壊した女性と同一人物と見られております。一連の破壊により大勢の方が犠牲になられておりますが、今回は過去に例を見ないほどの被害となっている模様で、犠牲者の数は数十万人に上る恐れがあり…」

「風夏姉、今回は本当に凄かったね。風夏姉が暴れたところ全部メチャクチャじゃん!」
「だって、冬乃が危ない目に合わされたんだもん。気持ちが抑えられなくって…」
「私のことをそこまで思ってくれる風夏姉大好きー!」
「私も冬乃のためなら、なんでもしてあげられるわ。」

TVから伝えられる悲惨な情報とは正反対に、仲睦まじい二人の間には幸せな空気が流れていたのであった。