『可愛いメイドさん派遣して自分の専属お世話させること!』
メイド趣味の者が考えたような欲望に満ちた何気ない一言も、軽々と地球を支配した上位存在様である咲良(さくら)が言えば、それは人類の最大目標となる。
国家規模の予算をかけて世界中から美少女を招集し、メイドとしてご奉仕できるように念入りに教育を施して咲良様へ献上する。

巨額の税金を投資し建築された馬鹿みたいに巨大な咲良の豪邸の中。
咲良が待つ部屋の前で音を立てないように佇んでいる和葉(かずは)は、そうして招集されてしまったメイドの一人だ。
彼女にこれから待ち受けるのは平均寿命は一週間にも満たず、短ければ数時間、長くても二週間と言われるほど厳しく命がけの大仕事。

目前に迫った死に怯える表情を見せる彼女だが、今日に限っては少なからず安心できる要素がある。
今日の和葉は"もしも"のための予備なのだ。
先ほど震えながら部屋に入っていった先任者は、世間を賑やかしていた元トップアイドルであった美少女。
学校一番の美少女程度である和葉よりも数段素晴らしい容姿を持った彼女であれば、不興をこうむってすぐに自分の出番が回ってくることもないだろう。
そう楽観的な妄想を浮かべて、和葉はほっと一息つくのだった。


「今回のメイドさんは…ふーん、アイドルやってたんだね。じゃあ自己紹介代わりに一曲披露してくれないかな?折角だしホールでやってよ。場所分かるでしょ。」

部屋の中で元アイドルを出迎えた咲良は手元の資料を一瞥すると、豪邸内に備え付けられた数百人は収容できるホールへ移動し、観客席から緊張した面持ちの元アイドルがライブで定番の楽曲をメイド服姿で咲良のためだけに披露するのを眺めていた。

「さっすが元トップアイドルだね。これまでのメイドさんに余興でこういうことやってもらった時と大違いだったよ。自分でもよくできたと思うんじゃない?」
「あ、ありがとうございます!咲良様のために最高のパフォーマンスができたと思います。」
「うんうん、そうだよねー。ダンスとかこんな感じ?でいい動きだったよねー。」

咲良は観客席から自分の身長以上の段差があるステージへひょいと軽く飛び移ると、先ほど元アイドルが披露したダンスをキレッキレの動きで完璧にやってみせた。

「あと歌もいい声だよねー。こんな感じでしょ?♪~」

完璧なダンスに咲良の聞きほれてしまう歌声が重なり、元アイドルは思わず自分の楽曲に恍惚感すら覚えてしまう程であった。

「でさぁ、こんな咲良ちゃんでも初見で上位互換できちゃうようなのが最高のパフォーマンスだったんだ?なんかさっきやってやった!どうよ!みたいな顔してたもんね♪」
「え!あ、あの決してそういうつもりではないです!」
「この程度のことを自慢気にするようなメイドさんとは気が合わないし、咲良ちゃんうまくやってける自信ないなぁー。と、いう訳でチェンジで♪」

咲良がパチン!と指を弾くと、元アイドルの足元がパカッ!と開き、元アイドルは奈落へと落ちていった。

「次の子はアタリだといいなー♪」

動きの激しいダンスを行った後も汗一つかいていない咲良は、元の部屋へ戻っていくのであった。


「……へ?」

もう自分の出番が来てしまったことが信じられない和葉。
先のアイドルの活躍を知っているだけに、そんな逸材が僅か数十分で消費されてしまったことは驚きを隠せない。

「し、失礼します」

なんとか平常心を保って扉を開くと……そこには目が眩むような飛び切りの美少女がいた。
思わず見惚れてしまいそうになるのを堪え、両膝をついて跪くように挨拶を述べる。

「初めまして咲良様。本日より咲良様にご奉仕させていただく栄誉を称えることになりました、和葉と申します。よろしくお願いします」


「よろしくね和葉ちゃん!早速で悪いんだけど頼みたい仕事があるんだよね。話聞いてると思うけど前のメイドさんがハズレでさ、そのお片付けしてくれる?初日だし一緒に行ってあげるからさ。」

問答無用で和葉を連れて先ほどのホールへ向かうと、ステージ袖に下へ降りる階段が見えてきた。

「前のメイドさんがこの下で転がってるから、回収してキレイに片付けといてくれる?」

和葉が覗き込むと、何階層分あるのかもよく見えない程長い螺旋階段が視界に入って来るのだった。


「え……、っ、承知しました!お任せください!」 

疑問を呟くと、有無を言わせない視線が突き刺さる。
相手が誰であるかを思い出した和葉は、初めてのお仕事に覚えた困惑を飲み込み、螺旋階段を駆け足で降りていく。

「はぁはぁ……うっ……」

あまり運動を好むわけではない和葉が最下層につく頃には、肩で息をするように呼吸が乱れていた。
右半身の潰れたアイドルから漂う血の匂いに顔を顰めながら、両手で抱きかかえる。そのまま階段を上がっていく和葉だったが、人一人抱えた状態では数階登るのがやっと。休憩を挟みながらではないと到底登りきれないのであった。


「あ、やっと来た。大分かかったねー。」

全く動かない死体を抱えて長い螺旋階段を登りきる頃には、肉体的にも精神的にも和葉が人生で経験したことがない程の疲労が蓄積されていたが、それを待っていた主はホールの大スクリーンで上映されている映像を観客席から眺めていた。

「いやー、メイドさんいなくなっちゃって暇だったから昔の映像見てたんだけど、映画一本分くらい見てたかな。あ、それ早く片付けてジュースでも持って来てくれない?」

和葉がふとスクリーンを眺めると、咲良の前に立ちはだかる軍隊の装甲車の群れが蹴散らされ、大都市が根こそぎ消し飛ばされる映像が流れており、スピーカーからはビルの破壊音や人々の割れんばかりの悲鳴がけたたましく鳴り響いていた。

「あ、これ?地球支配した時に咲良ちゃんが見せしめでやったやつだよ♪なんなら一緒に見よっか♪だから早くー!」


「は、はいっ、分かりました!ただいまお持ちいたしますね」

多くの時間をかけてしまい抱えたアイドルと同じ結末を想像していた和葉だが、ご機嫌な咲良から何のお咎めも無かったことに一安心。
汗だくで気分を害したというのにお気楽な主人に理不尽を覚えるが、そんなことをしては未来がないので従順に次の仕事に取り掛かった。

死体の処理なんてただの女子高生には分からないが、豪邸の前で構えている政府関係者に渡したので上手くやってくれるだろう。

「お待たせしました咲良様。こちら、和歌山から取り寄せました最高級果実ジュースとなります」

こんなこともあろうかと用意されていた飲み物を運び、咲良の足元に跪いて共に鑑賞する。
悲鳴が止まず目を背けたくなるような悲惨な映像ではあったが、不思議と和葉はその映像から目を離せなくなってしまう。


「んー、おいしっ。自分達が住んでる街ぶっ壊されて、泣き叫んでる人達の悲鳴聞きながら飲むジュースはおいしーな♪あれ、和葉ちゃんさっきから私の都市破壊映像すごいじっと見てるけど、もしかしてこういうの好きな人?もっと見たい?」

呼びかけられて跪いたまま振り返る和葉の顔をじっと見ながら咲良が問いかける。


「い、いえっ、そう言うわけでは……その、決して咲良様を見たく無いわけではないのですが、あっ、申し訳、ありませんっ」

急に呼びかけられて正気に戻った和葉。
映像の中で無双していた咲良が目の前にいるということを思い出して、気を抜いていたことを後悔しながら自分でもよく分からずに非礼を詫びた。

少しながら見たい気持ちもあったが、それによりさらなる犠牲が生まれたり、自分が被害者にされることは避けなければならないことだ。


「咲良ちゃん自身よりも、みんなが通ってた学校や住んでるお家が、咲良ちゃんの前ではゴミの様にただどんどんぶっ壊されてく映像に注目しちゃうってことー?咲良ちゃんこれでも結構見た目には自信あるつもりなのにショックかなー。」

咲良が慌ててお詫びをする和葉から目をそらさず話している間にも、映像では咲良が放つ衝撃波によって人でいっぱいの電車がビルに高速で叩き付けられ、ビルの壁面が血で真っ赤に塗り潰されたりと、咲良の美貌とは対照的に都市がぐちゃぐちゃに破壊される様子が流れ続けていた。

「ま、でもこうやって都市を薙ぎ払うようにぶっ壊せちゃうのも咲良ちゃんの自慢の一つではあるし、みんな見た目のことは言ってくれても、都市破壊のこと褒めてくれる人全然いないから、ある意味嬉しいかもね♪」


「ち、違います!咲良様は私みたいなブスとは比べ物にならない程美しく、とても可愛いです!それに都市を相手にしても軽々と蹂躙してしまう咲良様は、とても素晴らしいと思いますっ。流石は咲良様です!どちらも素晴らしいと思います!咲良様によるゴミ都市破壊見せていただいてありがとうございます!!」

少し脅して見せれば無様に跪きながら賛辞を並べる和葉の姿は、咲良の加虐心を満たしてくれる。

「すみません、先程の失言は謝りますし何でもしますからから命だけは……」


「和葉ちゃんも言うほどブスじゃないから大丈夫だよ♪咲良ちゃんとは比べ物にならないってのはあってるけど♪。ほんと?じゃあ単に家やビルがぶっ壊れてくとこじゃなくて、咲良ちゃんが都市を蹂躙してるから見たいってことかー。なら、生でも見せてあげよっかな。今日ちょうど前のメイドさんがハズレで、街でもぶっ壊してすっきりしたい気分だし。でも、新人メイドさんにタダで見せてあげるほど咲良ちゃんの都市蹂躙は安売りしてないしなー。あと失言の挽回チャンスもあげないといけないし。」

怯えた目で見上げてくる和葉を横目に、咲良は腕組みをしてうーんと悩む素振りを見せた。

「あ、そーだ。さっきのアイドルのライブの口直しに和葉ちゃんがそこのステージでライブして見せてよ、どうするかはそれ次第で♪」


「あの、そんなこと一言も、蹂躙だけはやめっ……い、いえ、ありがとうございます!咲良様の生都市蹂躙を見させていただくために一曲披露いたします!」

人類にとって常識である咲良様の蹂躙。それがどれだけ悲惨な出来事かは連日報道され知っている和葉は止めようとするが、咲良の視線に不快な感情が混じったのを感じて慌ててステージに上がる。

「〜♪」
ステージの上で精一杯ライブを披露した和葉だが、見様見真似で初めてのダンスをこの疲労困憊の状態でこなせるわけもなく、見るに堪えないライブを咲良に披露してしまう。

「はぁ、はぁ……如何でした……か?」


「うわー、元トップアイドルの後で見ると、素人の下手っぷりが際立つねー。よく咲良ちゃんに見せられたね♪どういう神経してんの?」

元々ステージでのライブ経験など無い普通のJKがこの状況で上手いパフォーマンスなどできる訳がなかったが、それを踏まえても咲良からの評価はボロクソであった。

「まあでも都市蹂躙はしたい気分だったし、必死さだけはヤバかったから特別に合格にしてあげよう。都市破壊生で見たいってさっきあんだけ言ってたから、張り切っちゃおうかなー。じゃ付いてきて。」

文字通り必死のライブを終え肩で息をしている状況の和葉を引き連れ、咲良が向かった先は敷地内のヘリポートだった。

「〇〇県××市の上空まで飛んで。あ、この子は今日補欠で入った専属メイドさんね。」

待機していたパイロットに命じしばらく飛行すると、目的の都市が見えてきた。

「じゃー行ってくるから、この子乗せてこの辺テキトーに飛んでて。和葉ちゃんはよく見て勉強してね♡」

咲良はそう告げると飛行中のヘリから飛び降り1000倍サイズに巨大化し、着地の衝撃で都市の中心部に並び立つビル群を盛大に抉り飛ばして宣言した。

「人類のみんなー!いつも咲良ちゃんのために必死で税金払って貢ぎ物や可愛いメイドさん派遣してくれてありがとー!今日はお礼に咲良ちゃんの巨大化ゲリラライブ披露するねー!」


「クソ下手素人ライブでお目汚ししてしまい申し訳ありませんでした!こんなことを自慢気に披露してしまう無神経なメイドですみません!咲良様に披露することを考えて練習しておくべきでした!」

和葉は突然の無茶振りに答えたのにボロクソ言われ、悔しくなるがそれよりも咲良様が不快にならないように謝罪を叫ぶ。
都市蹂躙を見たさと見たくなさが両立しながらヘリで運ばれていると、なんと咲良様が飛び降りて驚くほどに巨大化してしまった。
ゲリラライブ、というからにはこれから行われることは想像に難しくない。

「そんな……これまで咲良様のために人類で尽くしてきたのに……!ごめんなさい、私のせいで……ごめんなさいっ!」

と言いながらも、和葉は地上から目を放すことが出来ないのだった。


「では聞いて下さい!曲は元トップアイドルのあの曲です!」

咲良の突然の上空からの巨大化降臨により、都市全体が既に深刻な大打撃を被っていたが、足元の大惨状になど目もくれず咲良の都市をステージ代わりにしたライブが開始された。広いステージを大胆なステップで使い潰すそのパフォーマンスは、先ほど和葉が片付け今は死体処理場へと運ばれているトップアイドルが咲良に披露したそれと、華麗なダンス、澄み切った歌声、そして巨大化したことでよりアピール度を増した咲良自身の完璧な可愛さ、いずれも比較にならない程であった。
そんな咲良のステージパフォーマンスとは対照的に、つい先ほどまでガラス張りのビル群が並び立っていた綺麗なオフィス街は、崩れ去ったビルのガレキが折り重なる廃墟に変わり、人々の幸せな家庭生活が営まれていた住宅街も咲良のステップが逃げ惑う人達の凄まじい悲鳴ごとグチャグチャに踏み潰し尽くしていた。

「まだ一曲だけですがこの都市がゴミ過ぎてもう壊滅してしまいました!ぜんっぜん歌い足りませんが、今日は咲良ちゃんの巨大化ゲリラライブに付き合ってくれてほんとーにありがとうございました!」

アイドルのライブっぽく締めの挨拶を行うと咲良は巨大化を解き、壊滅し切った都市上空を飛んでいたヘリの座席へいつの間にか戻っていた。

「和葉ちゃんどうだった、勉強になった?あ、ちなみにこの都市なんだけど、さっき片付けてもらった元トップアイドルの出身地なんだって♪あーすっきりしたなー♪」


咲良様の巨大化ライブ。
それが如何に悲惨であったかなんては茶に染まった大地を見れば分かるが、気付けば和葉はSNSを追っていた。

「……っ」

大量に拡散された人々が虫ケラのように殺される直前の画像や映像を見て息を呑む。
自分だけがこうして安全な上空で眺めていて、他の人や街が消滅していく様を見学出来るという圧倒的な優越感は彼女を興奮させる。

死の直前に咲良のパンツを盗撮していた画像を見ながら発情していた和葉は、いつの間にか咲良が戻ってきたことで慌てて隠すようにスマホをしまった。

「はっ、はい!大変勉強になりました!都市丸々一つ使ってお手本を見せていただきありがとうございます!」

そう言って頭を下げるが、その視線は街を踏み潰し尽くした咲良の足に集中してしまう。


「そう?勉強になった?じゃあ帰ったらまた和葉ちゃんのソロライブでも見せてもらおっかなー。って何、人の足ジロジロ見てんの?あーひょっとしてー、ここが見たいんでしょ?」

和葉の視線に気づいた咲良はスカートの中のパンツが思いっきり見えてしまうのも気にせず和葉の顔面の高さまで足を掲げ、靴底を見せ付けた。

「どう?今日履いてる靴、結構デコボコしてるから何か見えるんじゃない?駅とかデパートとか病院とか結構踏み潰したよ♪学校なんか17校は踏み潰したし♪」


「はい、見えます、あ、あっ……これ、学校……こっちは病院……酷い……」

和葉が目を凝らせばミニチュアのように靴の凸凹に嵌まった残骸が。たった今街をグシャグシャに踏み潰してしまった証拠でもある。少し目を動かせば、SNSで見たのと同じパンツも見えていた。

「咲良様の蹂躙後靴裏見せて頂きありがとうございますっ!お陰で人類が如何に矮小な存在かわかりました!よーく分かりましたので、これ以上の都市蹂躙は控えて頂けないでしょうか……?」


「あれ?さっきは都市蹂躙見せてください!って言ってたのに?あ、そうか、見たいけどさっきのクソ下手ライブしておいてアンコールは欲張り過ぎって自覚あるんだよね♪じゃあさっき勉強したの踏まえて帰ったら1週間特訓ね!1週間後の再ライブでクソ下手じゃなくなってたら、私もまた都市破壊してあげるね♪」

その後豪邸に戻った咲良と和葉。和葉は専属メイドの業務を失礼の無いよう毎日必死でこなしつつ、業務後はライブの練習をする日々が続いた。そして迎えた1週間後の日、咲良邸のホールにはステージ上に立つメイド服姿の和葉と観客席の咲良の姿があった。

「専属メイドさんが、都市破壊見せて欲しさでどれだけクソ上手ライブしてくれるか楽しみだなー♪」


「はっ、はい、もう一度チャンスを頂きありがとうございます咲良様!」

どうせ一週間練習したところでそれほど上手くはならないので都市破壊は免れるだろうな~、とそちらには楽観的だったが、下手すぎて殺されないために和葉は寝る間を惜しんで猛練習に励んだ。

「~♪」

一週間に及ぶ和葉の特訓によって、酷すぎる演技は文化祭の出し物レベルには見れるものとなった。
咲良どころかアイドルとも比べられるようなレベルではないが、これで満足してもらえるよう信じることしかできない。

「……ぜぇ、はぁ。き、今日のために咲良様のライブを参考に練習したのですが、どうでしたか……?」


「うわ、ふっつー。大して上手じゃないし、かと言って下手過ぎて逆に笑える訳でもない。見ていて一番退屈なやつー。」

渾身のライブを終えて息を切らしている和葉に対して咲良の評価は、ド素人のそれよりも更に悪いようであった。

「でもさー、見てて気づいたけど、ステップのとことか、踏みしめのとことか、何か力入ってる動きが所々あったよね。自分で気付いてる?あれも咲良ちゃんのライブを参考に練習した結果ってことなのかな?ねーどうしてそんな動きなの?」


「ひっ」

咲良から冷たいコメントが飛べば、和葉は踊り終えた疲労感も吹き飛び慌てて姿勢を正す。

「ご、ごめんなさい、全く気が付きませんでした。咲良様のライブを何度も見直して必死に練習したのに普通過ぎてごめんなさいっ……、これでも必死に練習してきたんです、無能メイドのクソ下手ライブでしたがどうか命だけは許してください……」

命乞いをするように咲良の足元に駆け寄って跪く和葉。
折角練習したのに……と悔しさを堪えながら何度も縋り付くのだった。


「必死で練習したとか聞いてないし、和葉ちゃんって質問にちゃんと答えられないようなバカだったの?一応一週間は私の専属メイドやれてたのに、あーあ見込み違いだったのかなー。もう一度質問するからステージの上に戻って。意味わかるよね?」

和葉が震えながらステージの中央に立ったところで咲良が再度問いかけた。

「さっき自分で気付いてなかったって言ったけど、私のライブを何度も見直したんでしょ?ステップのとこで、踏みしめのとこで、あの日何が起きてたんだっけ?和葉ちゃんの動きは元のゴミアイドルじゃなくて、私の動きを意識してるようにしか見えないんだけど?」


「はっ、はい!」

和葉は脅されて跳ねるようにステージに戻っていく。

「えっと、こうやって、咲良様が学校やビルを踏み躙っていたから……であってますか?」

音楽を掛けずにゆっくりと踊り、ギュッギュと足を踏みしめてあの日の咲良の真似をしながら訊ねた。


「そうだよ♪そこのパートではちょうど××市で一番の進学校をギュ!って踏み躙ったから和葉ちゃんと同年代の学生を582人踏み潰して靴底に張り付けちゃったんだよ♪和葉ちゃんもヘリの中で見たでしょ?あれだよ♪」

あの日帰ったあと和葉が念入りに掃除したので、今はもうすっかり綺麗になった靴底を再度パンツが見えるのも構わず見せ付けながら咲良が話し続ける。

「なんでそこを意識しちゃうの?和葉ちゃん都市蹂躙見せてくださいって言う時も、控えてくださいって言う時も、どっちも嘘っぽくないんだよね。これまで専属メイドさんに私が都市破壊するの好き?って聞いたらみーんな嫌いじゃないですみたいなことしか言わないんだけど、和葉ちゃんの本音はどっち?」


「582人も……」

実際の人数を言われることで、和葉が通っている学校が全員踏み躙られてしまったのが容易に想像できてしまう。

「じ、実は好きです。咲良様が都市破壊してるのが好きです……でも、そんなこと絶対させちゃいけなくて……」

和葉はバレてしまいそうな嘘も付けずに、本当のことを話すことにした。


「え?なんでさせちゃいけないの?和葉ちゃん今は咲良ちゃんの専属メイドさんなんだよ?よく考えてよ、好きなの我慢して誰が得してるの?」

上位存在様相手に本音で語り始めた和葉へ咲良が近寄りながら話し続ける。

「あーでもわかるかも。だって和葉ちゃんは専属メイドさんになる前は普通のJKだもんね。普通のJKが咲良ちゃんが本当に都市破壊してるとこ好きってのはダメだよなーって気持ち。ダメだけど好きってのと、ダメなのわかってなくて好きなのは違うもん。さっきのだって通ってる学校の子がたったの一踏みで全員死んじゃったのと同じことなんだってわかっててなお好きってなるのは、多分和葉ちゃんくらいじゃないかな?そのことを理解しないで好き好き言うバカならいそうだけど。」


「だ、だって……」

それが絶対にいけないことなのは考えるまでもなく小学生でも分かることだが、咲良の巧みな話術で段々と心を溶かされていく。
そして独り言のようにつぶやき始めた。

「そ、そうですよね。私は咲良様の専属メイドですから人類がどうなっても関係ないし、咲良様が楽しければそれで良いですもんね……。それに、別に私が直接やるわけじゃないんだから、好きだっていいよね……」


「そうだよ都市破壊も人類蹂躙も好きでいいじゃん♪あー、でも専属メイドさん相手に簡単に都市破壊見せてあげるのは安売り過ぎてよくないしなー。」

うつむいてつぶやいていた和葉が気付くと咲良がすぐ目の前に立っていた。

「そうだ、専属メイドさんシステムも最近飽きて来てたから、和葉ちゃん専属メイド止めて普通のJKに戻りなよ♪咲良ちゃんの専属メイドじゃなくて友達ってことなら、メイドさんのお願い聞いてあげるなんて変な関係じゃなくなるでしょ♪」

その時咲良がパチン!と指を弾き、和葉の足元の床がパカッ!と開いたが、咲良に強く抱きしめられた和葉は奈落へは落ちずに済んだのだった。