本作は以下のイラストから着想を得ております。
https://www.pixiv.net/artworks/83261971
https://www.pixiv.net/artworks/83261922
https://www.pixiv.net/artworks/83261884



「…んっ、あれ…あたしどうしてたんだっけ?」

頭からはネコミミを生やし、お尻からは毛並みの整ったシッポを生やした獣人族の少女、キャルは横たわっていた体を起こしながら眠気を覚まそうと目をこする。

「私の服…水着?ああそうだ、確かぺコリーヌとコロ助とビーチにバカンスに来てて…えーっと突然謎の光で眩しくなって、それから…うーん思い出せない。あたし今まで気を失っちゃってたのかしら。」

キャルはぼーっとした思考を纏めながら周辺を見回す。

「それにしてもここは一体どこなの?さっきまでのビーチとは全然違う場所みたいだけど。」

状況が掴み切れないキャルは何か手掛かりになる物がないか周囲を観察してみた。

「なんかずっと先まで平地が続いているみたいだし、灰色の地面が辺り一帯続いているし、ランドソルとは全然違う場所に来ちゃったみたいね…一体この地面の灰色は何かしら?」

キャルは確かめるようにそっと地面を撫でてみた。

「なんか、ザラザラするわね。わっ!手に灰色がこびり付いてる。何なのかしらこれ、汚い物じゃなければいいけど。」

自分が触った灰色の物が何なのか、キャルは地面に顔を思い切り近づけて目を凝らす。

「何か、小さい四角い物が並んでいるみたいだけど…うーん…、あれ?よーく見てみると何だか建物みたいに見えるわね。でも1cmもないような箱だし、そんな小さな建物があるはずないわよね。あら、箱の間を何か動いている?」

キャルはさらにギリギリまで地面に目を近づけて観察を続けた所、何やら極小の点の塊が動いているのに気が付いた。

「何か気持ち悪いけど、本当に何なのこれ。でも、小さい箱は建物みたいだし、もしこれが建物だとしたら…えっ?ひょっとしてこれって人間!?だとしたらもの凄く小さいってことに…え?待って、もしかしてあたしが大きくなっているの!?」

次々と頭に入ってくる非現実的な情報に頭の整理が中々追い付かないが、目の前の事実がキャルに今置かれた状況を認識させる。

「あたしが大きくなっているとして、建物や人間がこのサイズってことは、あたし途方もない大巨人になっているってこと!?そんなこと現実にある訳…そう言えば辺りの風景もランドソルとは全然違うし、これって夢じゃない?」

おおよそ情報の整理が付いたが、そこからキャルが導き出した結論は現実の否定であった。

「…そう、これは夢。そして今のあたしは大巨人。この地面の灰色はとても小さな街並みね。だったら、思いっきり暴れてのストレス解消に持ってこいじゃない。」

キャルに与えられたペコリーヌ殺害の命令と、美食殿での日々の生活の葛藤は彼女にとって想像を絶するストレスとなっていた。そして今、それを解き放つ格好の口実を彼女は得たのだ。

「ふふ、そうと決まれば早速この街全部踏み潰してメチャクチャにしてあげる!」

言うや否やキャルは次々と足元に広がる灰色の街並みを踏み潰していった。

「アハハ!あたしの一歩一歩で街がどんどんメチャクチャになってる!きっと逃げ惑っている極小人間も何万人も潰れてるんだわ!何よこれ、今まで味わったことのない気持ち良さじゃない!」

キャルの容赦ない蹂躙で、一面の灰色の街並みはどんどん赤茶けた荒地へと変貌していった。

「あたしが大巨人になっちゃうなんて何だかよくわからない夢だけど、こんなに大暴れができてスカッとするなら最高の夢だわ。」

裸足での踏み潰しは一歩を踏み出すごとに、膨大な数の建物と人命を引き換えにキャルに極上の快感を与えていた。そしてそれはキャルが街の踏み潰しをし続ける原動力となっていた。

「ああ、足裏の感触がとっても気持ちいい…けどそろそろ踏み潰しばかりにも飽きてきちゃったかな。それに灰色の街並みも同じようなのが続いて変化に乏しいし…」

キャルは快感の変化を求めて何か新しい刺激がないか辺りを見渡してみた。

「あれ、向こうの方にちょっと大きめの建物が密集しているみたいね。あれをすり潰したらもっと気持ち良くなれそう…」

新しい快感の源を見つけたキャルは、早速足早に標的と定めたこの世界の巨大建物群へと向かって歩を進める。

「うわー凄い。さっきまで踏み潰してた小さな箱よりもずっと立派な建物が、びっしりと並んでいるじゃない!」

この建物群をメチャクチャにしたら一体どれほどの快感が味わえるのか、キャルは胸の高鳴りを隠せないでいた。

「せっかくだし、踏み潰し以外の方法で破壊した方が気持ち良さそうね。そうだ、こうして足を向けてっと。」

極上の獲物の料理方法を決めたキャルは、手とお尻を建物群を破壊しないように注意深く地面に下ろし、片方の足裏を建物群に向けて狙いを付けた。

「ふふ、今からあんた達はあたしの足裏で蹂躙してあげるわ!覚悟なさい!」

次の瞬間キャルは片方の足裏を建物群に沿って一気に滑らせていった。川沿いに立ち並んでいた立派な摩天楼はキャルの足裏に快感を与えるのと引き換えに、全てが一瞬で更地へと変貌した。

「はあ~、とっても気持ちいい~。ふふ、今のできっと極小人間も何十万人もすり潰れちゃったのかしら。」

世界有数の摩天楼とそこに居た数十万の人間達は、キャルの足裏に快感を与える役目を立派に果たし、残らず無に帰した。

「さてと、まだ街並みは残っているみたいだけど、また別の方法でスカッとしたいわね。そうだ!今の大きさのあたしが破壊魔法を放ったらどのくらいの威力があるのかしら。」

キャルはいつぞや山中で魔物相手に全力で魔力を解き放ち、辺一体が跡形もなく吹き飛んでしまったことを思い出していた。

「あいつの強化はないけれど、今のあたしなら自分の力だけで十分よ!魔力開放!消え去れ!アビスバースト!」

キャルは渾身の力で目の前に広がる街並みに向けて破壊魔法を撃ち込んだ。その破壊の暴風は目の前の大都市を一切の痕跡なく吹き飛ばすだけに到底留まらず、キャルが現れた大陸のおよそ半分を消し飛ばし、億を超える人々をこの世に痕跡すら残さず吹き飛ばした。

「うわっ…見渡す限り全部吹き飛んじゃった…ちょっとやり過ぎちゃったかしら?でも、手加減、苦手なのよね。さて、この後どうしよう。街も何にも無くなっちゃったし、これ以上暴れようがなくなっちゃった。」

先ほどまでの楽しみが無くなってしまい、逡巡していたキャルを突然謎の光が包み込む。

「ちょっと!何これ、眩しい!ひゃああ!?」

しばらくして、横たわっていたキャルは、沖合から聞こえてくる波の音を目覚ましに起き上がる。

「あれ、ここってバカンスに来てたビーチよね。ああ、やっぱりさっきのは夢だったのね。」

夢から覚めたキャルの元へ見慣れた二人が駆け寄ってくる。

「キャルちゃん、目は覚めましたか?随分気持ち良さそうに眠っていたので、そっとしておいたんですけど。」
「ペコリーヌ。コロ助。あれ、二人共もう水着じゃないのね。」
「キャル様。もうそろそろランドソルに帰らなくては日が暮れてしまいます。僭越ながら先にお着替えをすまさせて頂きました。」

コッコロにそう声をかけられ、辺りを見渡すと確かにビーチが夕日に照らされ始めていた。

「ん、そうね。じゃああたしも着替えるから、ちょっと待ってなさい。そう言えば二人はあたしが寝てた間海で泳いでいたの?」
「ん~、それがですね。実はわたしもさっきまで寝てしまっていたんです。」
「わたくしもペコリーヌ様と同じく、気が付いたら寝てしまっておりました。」
「何よ、じゃあ全員寝てたんじゃないの。確かに気持ちのいい砂浜だったけど、これじゃあ美食殿が昼寝をするギルドみたいじゃないの。」
「いや~、わたしもお昼寝をするつもりではなかったのですが、何か暖かい光に包まれて気づいたら寝てしまってました。しかも不思議な夢を見ていたのですが、それが中々に気持ち良くてですね。」
「何だかあたしの状況に似てるんだけど、ちなみにどういう夢だったのよ。」
「ん~、覚えているのは朧げになんですけれど、これが妙な夢で、ランドソルじゃない世界でなんとわたしが巨大化していたんです。そこで私は小さな建物を足指の間に挟んだりして弄んじゃってたんです。アハハ、変な夢でやばいですね☆」
「ペコリーヌ様、実はわたくしも似たような夢を見ておりました。小さな建物が足の踏み場もないほどびっしりと並んだ世界で、その、わたくしもその小さな建物を踏み潰してしまうのですが、なぜだかそれが気持ち良くて…」
「へ、へぇ。あんた達揃って変な夢見てるのね。つ、疲れてるんじゃないの?」
「でも、とっても気持ちが良い夢で、起きた時には気分がとても爽快でしたよ。ところで、そう言うキャルちゃんはどんな夢を見てたんですか?」
「あ、あたし?あたしはあんた達みたいな変な夢は見ないわよ。そ、その、夢だし忘れちゃったわよ!」
「そうなんですね。でも本当に気持ち良さそうに眠っていたので、きっといい夢だったに違いありませんよ!」
「ペコリーヌ様、キャル様、そろそろ帰らなくては本当に日が暮れてしまいます。続きは帰り道でお話致しましょう。」
「それもそうですね。わたしお腹空いちゃいましたし、早く帰ってご飯にしましょう!」
「はぁ~、ペコリーヌ。あんたは本当そればっかりね。」

こうして美食殿の3人はバカンスを終え帰路についたが、ランドソルとは別のある世界では、ある大陸の大部分が突如として大爆発で吹き飛んでしまい、その大陸にある世界で一番栄えていた国の半分が消し飛び、また別の大陸の大都市が2つ壊滅してしまっていたのだが、3人がそれを知る由もなかった。